6.基本的人権の限界  『公共の福祉』による人権の制約  特別の権力関係における人権の制約  私人間における人権の制約 6−1 公共の福祉       (1)公共の福祉     12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。      又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に【公共の福祉】のためにこれを利用する責任を負う。     13条 全て国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、【公共の福祉】      に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。     22条 何人も、【公共の福祉】に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。     29条 財産権は、これを侵してはならない。      財産権の内容は、【公共の福祉】に適合するように、法律でこれを定める。      私有財産は、正当な保障の下に、これを公共のために用いることができる。   19条の思想・良心の自由、36条の拷問の禁止以外の全ての人権は公共の福祉による制約を受けることに注意。   *公共の福祉の意味をいかに解すべきか。    →イ)一元的外在的制約説:12・13条の公共の福祉が人権制約の一般的原理であって、22・29条の公共の福         祉は特別の意味を持たない。c.法律による人権制限が容易に肯定される恐れがある。 ロ)内在・外在二元的制約説:外在的制約は経済的自由権と社会権に限られ、12・13条は訓示的規定に留まる。   但し、全ての人権は内在的制約に服する。   c.自由権と社会権の区別は相対化している。13条を倫理的規定と解するのは   、  それを包括的な人権条項と解釈する立場からすると妥当でない。 ハ)一元的内在的制約説:公共の福祉は人権の保障そのものの本質から論理必然的に派生する原理であり、憲法の      明文にその根拠を有するものではない。   →通説)基本的にこの説に立ちつつ13条の「公共の福祉」が人権の一般的な制約根拠であると考える。   但し正当化事由は各人権の性質に応じて具体的に考える。 ニ)浦部説:13条の「公共の福祉」は内在的制約、22・29条の「公共の福祉」は政策的制約を基礎づける。    12・13条の「公共の福祉」  22・29条の「公共の福祉」 イ説 人権制約の一般原理       特別の意味なし ロ説 訓示的・倫理的規定      人権の外在的制約の根拠規定 ハ説 注意的な意味を持つにすぎない  注意的な意味を持つにすぎない 通説 人権制約の一般根拠       注意的な意味を持つにすぎない ニ説 内在的制約    政策的制約   (2)具体的調整方法       利益衡量論(比較衡量論)      …「それを制限することによってもたらされる利益」と「それを制限しない場合に維持される利益」とを衡量して、       前者の価値が高いと判断される場合には、それによって人権を制限できるという考え方。     二重の基準論(double standard)   精神的自由の制限の場合→厳しい違憲審査基準      経済的自由の制限の場合→緩やかな違憲審査基準}で判断。      →具体的な違憲審査基準は各人権ごとに。   (3)その他の制約−パターナリズム     …国が親代わりになって、その本人を保護してあげようという考え方。 他者の権利を害する故の制約ではない。     →通説)限定されたパターナリスティックな制約のみ認められる。 6−2 特別の法律関係     1.特別権力関係理論  *特別権力関係論を採用しうるか。A   →肯定説(かつての通説)    :特別権力関係においては 公権力は包括的な支配権(命令権・懲戒権)を有し、法律の根拠なくして私人を包括的    に支配でき(法治主義の排除)公権力は、私人の人権を、法律の根拠なくして制限することができ(人権の制限) 公権力の行為は原則として司法審査に服さない(司法審査の排除) c. 憲法は法の支配の原理を採用しており、基本的人権の尊重は基本原理である。    憲法は国会を唯一の立法機関と定めている。    否定説(通説):それぞれの法律関係においていかなる人権がなぜ制約されるのか、どの程度制約されるのかを個別     具体的に明らかにすることを重視する。 2.公務員の人権   (1)政治活動の自由      国家公務員法102条  職員は、正当又は政治目的のために、寄付金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何             らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人          事院規則で定める政治的行為をしてはならない。    *公務員の政治活動の自由を制約する憲法上の根拠は何か。A     →「全体の奉仕者」説:15条2項の「全体の奉仕者」という観念に求められる。   憲法秩序の構成要素説(芦部):公務員の人権制限の根拠は、憲法が公務員関係の存在と自律性を憲法秩序の構成      要素として認めていることに求められる。    *政治活動の自由の制約の程度。 A     →表現の自由に対する公務の中立性という観点からの制約であり、制約の目的が正当であり、目的達成の手段として      必要最小限度の制約であることが必要である(LRAの基準)。   (2)労働基本権    →警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁、監獄に勤務する職員は、団結権・団体交渉権・争議権が制限されてい     る。非現業の一般公務員は、団体交渉権・争議権が、現業( 郵便局)の公務員は、争議権が制限されている。    *労働基本権に対する制約の程度。A     →必要最小限度の制約であるかをLRAの基準で判断する。 3.在監者の人権  *在監者の人権制限の根拠は何か。   →憲法秩序の構成要件説:憲法が在監関係の存在とその自律性を、憲法秩序の構成要素として認めていることに求める。  *在監者の人権制限の程度。     被疑者・被告人→有罪判決を受けるまでは無罪の推定を受けるため、原則として一般市民と同じ扱いをする。    但し、拘禁と介護という目的からの人権制約のみが許される。    既決の受刑者→拘禁と介護に加えて矯正教化という目的があり、人権制約の程度は強まる。    死刑囚→逃亡防止などの目的に必要最小限度の人権制限に限るべきである。 6−3 私人間効力      (1)私人間効力   *人権規定は私人間にも適用されるか。A    →無効力説:憲法の人権規定は、私人間には適用されない。  r.憲法の人権規定は公権力との関係で国民の権利・自由を保護するものである。  c.資本主義の高度化にともない、企業のような「社会的権力」による人権侵害からも国民の人権を保     護する必要性が出てきている。人権は個人の尊厳原理を軸に自然権思想を背景として実体化された    もので、その価値は全法秩序に妥当する客観的価値基準であるから、憲法の人権規定は私人による     人権侵害に対しても何らかの形で適用されなければならない。 直接適用説:憲法の人権規定が私法関係においても直接適用される。    c.私的自治の原則・契約自由の原則を否定することになる。直接的用を肯定すると国家権力に対抗す     る人権の本質を変更ないし希薄化する恐れがある。 間接適用説(通判):民法90条の公序良俗規定のような私法の一般条項を媒介にして、憲法の人権規定を間接的        に適用する。→ 利益衡量の基準を用いる。  (2)純然たる事実行為による人権侵害    →法律行為と異なって事実行為による人権侵害(不法行為)の場合は憲法問題としての救済を与えることが難しい。    →国家行為(state action)の理論:公権力が私人の私的行為に極めて重要な程度まで関り合いになった場合、又は私人          が国の行為に準ずるような高度な公的機能を行使しているような場合に、当該私的      行為を国家行為と同視して憲法を直接適用するという理論。  (3)私人間効力と公共の福祉    公共の福祉←私人間にすでに公権力(法律を含む)が介在して具体的に人権の調整を行なっている場合   {私人間効力←具体的には行政や立法権が介入して人権と人権の衝突の調整を行なっていない場合