作成開始 05.03.29
最新修正 09.11.02



隠ぺいの森

   1.白華その後
   2.15年点検巡回サービス
   3.白華に対する旭化成の「見解」
   4.「コンクリートの耐久性向上に関する研究」
   5.イヒ報告書
   6.隠ぺいの森
   7.沈黙と先延ばしの歴史

   8.姉歯ショック
  2005年
   11月29日(参考人質疑直前)
   12月03日(参考人質疑)
   12月07日(第2回参考人質疑)
   12月11日(隠ぺい疑惑)
   12月17日(証人喚問)
   12月19日(NHKスペシャル)
   12月31日(朝日トップ記事)

  2006年
   01月17日(品質不良)
   02月13日(国の責任)
   03月07日(静香ショック)
   03月14日(新計算法)
   04月02日(アウトロー作家)
   04月13日(建築基準法の穴)
   04月21日(強制捜査直前?)
   04月23日(プロ集団JSCA)
   04月29日(小川コンセプトと民主党案)
   05月11日(ゆゆしき事)
   06月07日(隠ぺいの森に茂る木々)
   06月30日(真っ赤なウソ)

   12月31日(国交省重大発表)

  2007年
   01月31日(既存不適格物件と耐震診断)
   02月18日(アパ問題)
   03月10日(国交省の悪意の証明)
   03月26日(「もちろん建築学会式です!」)
   04月21日(国交省重大発表の続報)
   05月23日(藤田東吾氏「月に響く笛」)
   06月25日(藤田東吾氏VS.八方美人の市民派権威)
   9.国家的隠蔽と旭化成の詐欺隠蔽
  10.「福田総理,200年住宅って,何ですか?
  11.隠蔽の行き着くところ −「国交省不況」−
  12.真夏の夜の夢 ― 官僚内閣制の終焉






1.白華その後

『寿命すりかえ事件』の第11章,12章で述べたように,白華(エフロレッセンス)がわが家の基礎に発生しています.第12章で次のように書きました.
旭化成は10年点検時点でわが家の基礎に白華現象が起こっていることを知っていました.そして(04年)4月18日に掲載した第11章の写真によって,基礎表面の一部が剥離していることを知りました.

5月21日金曜日の昼頃,突然旭化成ホームズ(リフォームではない)から,明日土曜日に外回りの点検を行いたい旨の電話がありました.(無論定期点検ではありません.)Yというものが伺うということでしたので私は承諾しました.ところが翌22日,見事にすっぽかされました.行けないという電話すらありませんでした.

いたずら電話ではないと思います(Yという人は実在するはずです).点検を承諾したということは,第11章の写真に信憑性があるということです.それだけ知れば十分だったのでしょう.
この解釈は誤りであることが,以下の経過でわかりました.

旭化成ホームズからの電話(女性)は次のようなものでした.

 「旭化成ホームズです.点検を行いたいのですが」
 「何年点検ですか?」
 「定期点検ではありませんが,外回りの点検を行いたいのです.」
 「わかりました.お願いします」
 「Yというものを伺わせます.行く前に電話させます.」

しかしYという人は来ず,その後旭化成ホームズからなんの連絡もありませんでした.

電話が,もしサイトで報告されている白華を調査したいというものであったならば,一も二もなく,すぐお願いしますとなったでしょう.しかし白華のことは,一言も口にせず,ただ単に点検したいと言ってきたから,私は「何年点検ですか」と聞いたのです.この一言が旭化成を考え込ませたようです.なぜか.


『知らぬが仏』は立ち上げてから6年になろうとしています.全体を振り返ってみた時,『知らぬが仏』というのは,ある企業に対して下記事項に関し「責任ある見解」を要求した,ところが当該企業は見解を出さなかった,そこでその事が何を意味するのか考察した,という風に要約できます.ここである企業というのが,街の悪質業者ではなく,信用ある企業として世間で通用している企業であることが重要です.悪質業者に「責任ある見解」を要求しても無駄であることは自明です.『知らぬが仏』のどこを切っても,仮面をかぶった高級詐欺師の暗い顔が,金太郎飴のように切り口に現われます.

「見解を示せ」という要求はここ『知らぬが仏』サイトで表明しています.サイトの存在とアドレスは早い段階で当時旭化成社長であった山本一元氏に書面で通知済みです.

<旭化成に対する『知らぬが仏』の要求>

1.塗料すりかえ詐欺に関する見解を示すべし
(工事店社員による契約書改ざんおよび旭化成による契約書偽造に関する見解要求.『塗料すりかえ事件』参照.)

2.詐欺的全面広告に関する見解を示すべし
(98年9月4日付「熊野コンセプト」全面広告および01年8月17日付「もう30年?って感じです」全面広告に関する見解要求.『それから』および『寿命すりかえ事件』参照.)

3.表面剥離にまで至った基礎白華現象に関する見解を示すべし(『寿命すりかえ事件』参照.)


水枕問題は塗料詐欺の派生問題ではありますが,本質的には別件です.私は私の方から「電話で」旭化成リフォームに対処を要求し,旭化成リフォームはきちんと対処したと認識しています(『それから』参照.)

しかし白華は「寿命すりかえ事件」と根底で繋がっています.水枕問題のように他と切り離し,電話で対処を要求する気はありませんでした.1と2と3は三位一体です.

1の塗料すりかえ詐欺は一子会社が起こした事件ですが,旭化成経営会議で事件隠蔽を決め,旭化成社長に対する見解要求に対して住宅総務部長が口頭釈明で切り抜けようとした段階で,旭化成本体の問題に転化しています.2の全面広告は言うまでもなく,子会社の広告ではなく旭化成の全面広告です.そして白華まみれの我が家を建てたのは,旭化成工業株式会社住宅事業部です.ホームズにあらず.私が旭化成工業と契約したことは,新築契約書に明らかです.


旭化成が,1と2に関して沈黙を守り,3だけなにかアクションをとったとしたら,おかしなことになります.1と2は,一言もありません,おっしゃるとおりです,3だけ一言言わせてください,ということになってしまうのです.

もし5月21日の電話で,私が白華に対処してくださいと旭化成にお願いしていれば,旭化成はその時点から『知らぬが仏』と無関係に動くことができます.ところが客は旭化成と同様に白華の事は一言も口にせず,ただ「何年点検ですか」と聞いてきたのです.旭化成はチョンボした事に気づきました.こうして5月21日の約束は守られませんでした.

ではどうしてこんな早まった電話をしてしまったのでしょうか.1や2と違って3は対処可能だと考えたからに違いありません.白華の対処は水枕の対処よりむしろずっと簡単です.10年点検の時のように,何か塗ってしまえば,臭いものに蓋が簡単にできるのです.

旭化成の苦心は,白華問題を忌まわしい『知らぬが仏』と切り離して単独に「対処」する点にあったのです.


2.15年定期巡回サービス

電話から半年後の04年12月初旬,旭化成ホームズから「15年定期巡回サービスのご案内」と題する葉書が舞い込みました.

「1月頃」に「弊社点検員」K(もちろん葉書では実名です,以下同じ)が,「建物外回りの点検」「住まい方やメンテナンスについての様々なご相談の受付,アドバイス」の実施に伺うのでよろしくという文面です.発信は豊中市の旭化成ホームズ/北営業所/ホームサービス課となっています.責任者名なし.

05年1月27日上記K氏来訪.期待に反して型どおりの点検でした.期待に反してというのは,名著『コンクリートが危ない』の読者である私はコアの抜き取り調査くらい提案してくると思っていたからです.しかし期待に全く反しました.ここから(1)で述べたような旭化成の形式主義に気づきはじめたのです.


少なくとも5年前の10年点検時には,次回点検は20年点検となっていました.(第11章の写真参照)

「旭化成はいつから15年点検を始めたのですか」とK氏に尋ねました.
「よく知りませんが,定期点検の実施主体が旭化成リフォームから旭化成ホームズに移管した時ではないでしょうか.
リフォーム会社が点検作業していたのでは,世間の理解が得られませんから.」
「点検商法と同じになりますからね.で,いつ移管したのですか.」
「よく知りません.」


K氏に頂いた名刺は,氏名の上部が,AsahiKaseiの住まい/北大阪営業部ホームサービス課/点検サービス技士,氏名の下は,旭化成ホームズ株式会社/旭化成ホームズ住所/電話Fax番号となっています.顔写真なし.K氏が工事店社員であることは,名刺から完全に消えています(どこの工事店かまでは聞きませんでしたが,K氏は工事店社員です).

10年点検時の工事店社員の名刺は,氏名の上が関西旭化成リフォーム株式会社/指定販売工事店/点検サービス技士,氏名の下が,工事店名/工事店住所/電話Fax番号という形式でした.顔写真あり.

工事店社員であることをなぜ隠すようにしたのでしょうか.せめて名刺の裏に工事店名,工事店住所を入れるべきです.「表」と「裏」があるという実態を客に示すべし.第一こんな「隠蔽名刺」では,「点検サービス技士」が新築施工・外壁塗装に関係した工事店の社員であってもわからないではありませんか.


K氏が点検作業中,私は室内外でちょっと困っている3点をK氏に言いました.K氏はうち1点をその場で対処.他2点は後日対処となりました.

点検後K氏は点検結果を下に示す「定期点検サービスカード」(以下点検カード)をもとに簡単に説明しました.説明した証として点検カードに客はサインを要求されます.


(↑click 全体図が表示されます )

どんな説明があったでしょうか.カードの右側の自由記入欄に書かれていることは,すべて私の要望です.K氏の説明ではありません.カードの左側の点検項目(チェック項目)は単にそこを点検したということを示すだけのものであり説明を要するものではありません.ただ防水シート屋上,防水シートベランダ,外壁塗装の3項目に関しては「経年状況」という欄が設けられ,4段階評価されています(A:問題なし,B:3〜4年を目処にメンテナンスお勧め,C:1から2年を目処にメンテナンスお勧め,D:早めのメンテナンス必要).A以外の評価であれば,それは説明を要するでしょう.(しかしなんですねぇ,このBからDの評価の細かさをご覧下さい.素人相手だからこんな評価が通用するのでしょう.)

我が家の場合外壁塗装がBになっています.もうBですかとK氏に言うと,彼は苦笑したので,経緯を知っているなと思ってそれ以上の追求はしませんでした.防水シートは屋根もベランダもAです.ベランダは新築時のままですから,ヘンなことがなければ,20年はもつのです.『それから』での推測は間違いなかったようです.なお防水シートの「経年状況」欄は10年点検カードにはありませんでした.

基礎に関しては「経年状況」欄はありません.基礎は経年劣化とは無縁なのです.本来はそういうものなのです.


白華についてK氏はなにも説明せず,私の方から言い出した要求すなわち「南面基礎白華現象について旭化成の見解を聞きたい」を「後日対処させて頂く項目」の欄に上記2点に続いてそのまま記入しました.これで晴れて私の要求は,『知らぬが仏』という「わけのわからないもの」の媒介なしに,公式に旭化成に伝えられたことになりました!


さて15年点検カードについて指摘しておくべき重大な点があります.10年点検カードには,「現場状況」と「手直し工事」という自由記入欄がありました.これは現状と対処が記入できる理にかなった様式です.基礎に白華発生という状況は「現場状況」欄に書かれていたのです.ところが15年点検のカードでは,「本日対応させて頂いた項目」と「後日対応させて頂く項目」に変わっています.どちらも対処を記述する項目であり,現場状況を書く欄がきれいさっぱりなくなっているのです.

10年点検時には和室前の基礎に白華が発生していました.それに対し15年点検時にはリビング前基礎に剥離を伴うひどい白華が発生しています.それがなにも書かれていません,書く欄がないのです!こうして「定期点検サービスカード(15年)」は,客がクレームをあげていることだけわかるドキュメントになりました.旭化成の所見は一切ありません.物事を斜めにとる人がこのドキュメントを見たら,私をクレーマーだと思うかもしれません.


現状をきちんと評価し,それに応じて対処があるのです.現状評価があって対処があるのです.

塗料すりかえ事件において,契約書が塗料A,施工塗料がBであることが発覚しました.旭化成はなぜそうなったか説明することなく,塗料Bで塗りなおすことを提案してきました.旭化成には現状説明がなく,対処だけあるのです.15年点検カードはまさにその精神で貫かれているのです.

旭化成が何も説明しなかったので,私はなぜ塗料がすりかわったか,その詳細を調べました.工事店社員が「契約書」を改ざんし,旭化成がその事実を隠蔽するために「契約書」を偽造したことがわかりました.なぜ偽造までして改ざんを隠そうとしたか.旭化成は事件発覚のその日まで改ざんが日常的に行なわれていたことに気づいておらず,事は我が家だけの問題ではなかったからです.こうして現状が正しく評価されれば,対処が我が家の塗り替えなどで済む話でないことが明らかです.経営会議の主宰者である旭化成山口会長の進退問題だと私は考えます.



「定期点検サービスカード(15年)」の書式は,詐欺事件で旭化成が何を学んだか雄弁に物語っています.

詐欺事件を隠蔽するにあたり,旭化成がもっとも苦しんだのは「契約書」原紙の自由記入欄への工事店社員の書き込みでした.これさえなければ,すなわち,工事店−旭化成間の契約変更の報告が口頭報告または別紙報告であったなら,「契約書」原紙を見せろと要求されても痛痒を感じなかったでしょう.あわてて偽造する必要などなかったでしょう.

10年点検時に工事店社員は「現場状況」という自由記入欄に基礎南面に白華発生と記しました.10年点検時に旭化成が白華と認識していたという重要情報が顧客手元のドキュメントに残りました.

旭化成は業務の中枢を流れ客にも回る業務ドキュメントに,工事店社員が自由記入できる範囲を制限したと思われます.自由記入できるのは,連絡事項に類する瑣末事だけです.重要事項の報告は,口頭または別資料(客に出さない資料)で行なわれているのです.K氏は我が家の白華状況を口頭または別資料で旭化成に報告したに違いありません.Webの写真より実際はああだったとかこうだったとか・・・.

点検業務のこのような「改悪」から推定して,リフォーム業務も「改悪」されているに違いありません.客に無断で契約内容を変更することなしに,4割ピンはねのリフォーム業が成立するハズがないと私は思います..


名刺を変えたり,組織を変えたり(関西旭化成リフォームは消滅しました),点検主体を旭化成リフォームから旭化成ホームズに変更したり,ドキュメントの様式を変更したり,色々したようですが,やっている中身は前と同じです.ただ,ぼろは出しにくくなっています.なぜこんなことになったのでしょうか.

詐欺事件当時の住宅事業責任者が,詐欺事件の責任をとることなく,旭化成ホームズの会長,社長を務めているからです.良くなるハズは絶対にないと思われます.


こうして1月27日,15年点検は無事終わりました.


3.白華に対する旭化成の「見解」

2月8日旭化成ホームズH氏および工事店社員2人(名刺なし)来訪.工事店社員は「後日対応」の2箇所に対応する要員です.しかし旭化成ホームズ/北大阪営業所ホームサービス課/エリア責任者,H氏の役割は違います.旭化成を代表して白華に関する見解を述べるためです.

リビング前基礎の白華を見ながら,H氏曰く「これは白華です.」
リビング前の白い粉が白華であることをようやく認めて頂きました!

「白華とは・・・・・・コンクリートには小さな穴があいていて・・・・・・自然現象・・・・・・
対処法として・・・・・・エポキシ樹脂・・・・・・を塗らせて頂きます.」

見解発表は終わりましたので私は尋ねました.
「和室前はそれを塗らなくてもいいのですか」

和室前は10年点検時になにか塗って対処したところです.リビング前のようにど派手な白華こそ起こしていませんが,白いしみがにじみ出ています.H氏は工事店社員の一人に判定させました.
工事店社員曰く「こちらも塗った方がいいです.」

私は言いました.
「わかりました.今まで説明されたことを書面で下さい.」
「えっ,書面でですか.それは上に相談しないと・・・・・・」
「私は白華が正常なのか異常なのか旭化成の見解が聞きたいのです.もし書面では出せないということであれば,出せないという見解で結構ですから書面で下さい.」


結局,とどのつまり,書面見解を出すにはデータが必要で,日を改めて測定するという事になりました.測定とは1,シュミットハンマー法による強度測定,2.中性化深さの測定,だそうです.

旭化成にとって「見解」のデフォルトはいまだに口頭見解であることがよくわかります.書面見解を要求してはじめて簡易測定を実施すると言い出したことにご注意ください.

私は,中性化深さのような通常の経年劣化を調べる測定では意味がないと思いましたが,まぁやりたいというのだからやってもらおうという気持ちでした.(なお白華以外の2点の不具合は工事店社員が対応しました.ご苦労さまでした.)


測定は1ヶ月近く後に行なわれました.私はぷうたろうですから時間の都合はいかようにもつきます.遅れたのは旭化成都合です.

3月3日旭化成ホームズH氏および測定者I氏来たる(I氏も工事店社員,名刺は例の「隠蔽名刺」).H氏に断った上で測定の様子を数枚写真に取りました.

シュミットハンマー法(以下SH法)による強度の測定です.規則的に穴があいた黄色のシートは打撃点を指定するためのテンプレートです.

測定時,H氏が安東邸と入った数字の埋まった表を手に持っていることに気づきました.10年点検時のSH法のデータであることがわかりました.そんなデータが取られていたとは夢にも知りませんでした.

H氏は先日の15年点検時にデータを取らなかった点を釈明しました.10年のあとは20年時点でデータをとる予定で,今回は特別です,とのことです.10年点検時に白華が発生していたから「特別に」データを取ったのではないかと,私は疑っています.

測定が終わったとき,I氏は一言「問題ありませんねぇ」と言いました.旭化成H氏無言.私はI氏の態度に少し不信感を持ちました.H氏は,測定結果の棒グラフに,どういうわけか,私のサインを要求しました.数値の説明一切なし.(ちなみに,H氏はSH法の原理を説明できませんでした.)

旭化成がどういう結論を出すか不明ですが,この簡便な測定を第三者(公的)機関で実施してもらうのは簡単だと思われます.まぁ,いずれにせよ,旭化成がデータを公表してからの話です.当然,設計値・10年時の値・15年時の値の3点セットです.




中性化深さの測定です.SH法と違いこちらの測定原理は極めて簡単です.ドリルで穴をあけると,コンクリート屑がでてきます.屑は容器下に溜まっているフェノールフタレイン液におちます.液が赤色に変化した時点の穴の深さが中性化深さです.

容器は3列からなり,各列にドリル位置を指定する穴があいています.つまりこの容器は「テンプレート」を兼ねています.

左の上の写真がI氏が最初に実施した時のものです.「テンプレート」の上端を基礎の上端に合わせるのが旭化成の標準のようです.ごらんのようにここは白華が全く発生していない個所です.

私はもっと下を測ってくださいと要求しました.その結果が下の写真です.ごらんのように,この「テンプレート」を使う限りこれ以上下は測れません.

上と下で3箇所ずつ,合計6箇所の測定を行いました.結果は以下のとおり.(単位ミリ)


場所 穴1 穴2 穴3 平均
基礎上部(白華なし) 18.5 9.0 24.0 17.2
基礎下部(白華近傍) 21.5 23.0 24.5 23.0


すでに述べたように,私はこの簡易測定にほとんど期待していませんでした.しかし得られた数値は十分すぎるほど,おかしな値であるということが,その夜ちょっと調べてわかりました.そこで測定日の翌々日あたりに,私はH氏に電話して,数値をもう一度確認し,リファレンスとして和室前や北側基礎も測る必要があるのではないかと提案しました.(どうせたいした結果はでないという予見のもとに写真の2箇所しか測定を要求しなかったのです.一方SH法の方は私の要求を聞くことなく旭化成が基礎全面で実施しています.)H氏は反対しませんでした.


H氏の現在の立場は,6年前の塗料すりかえ事件において,関西旭化成リフォームのS氏が『S氏回答』という書面見解を提出する直前にあたると思われます.あの時も今と同じく担当者まかせの対応でした(ただしそれは表面だけの話です.裏では上が動いていました).それまでに口頭での見解表明は終わっていました.工事店社員を伴って我が家を訪れたS氏は口頭でなにごとか述べ「ちょっと一筆いただきたい」と言い出しました.頭にきた私は一喝し書面見解を要求しました.旭化成という企業を相手にする場合,書面見解なしに事を済ませてはならないという教訓を得たのはこの時です.こうして担当者名しかない『S氏回答』が出てきたのです.

私は我が家の白華現象に対する旭化成の公式見解を要求しています.旭化成が要求したデータはすでに得られています.データを評価するのは,「エリア責任者」でも,工事店社員でもありません.旭化成の技術責任者です.塗料すりかえ事件の時と全く異なる点は,今回の見解には,ヘーベルハウスの基礎に関する「品質基準」を明示する必要がある事です.旭化成の品質基準に照らした上で「想定の範囲内」だと考えるのであるならば,正直にそう書面見解に書けばいいのです.「30年目点検異常なし」「普通の家は30年しかもたない,ヘーベルハウスは60年耐用住宅だ」という,旭化成がこれまでたたいてきた大口と矛盾しない,立派な見解であることを祈るばかりです.


一言お断りしておきます.上に記した私の要求は,(1)で述べた三位一体1,2,3の3にあたります.旭化成が「立派な見解」を出した途端,それ見たことか,1と2に関しては旭化成はやっぱり一言もないのだ,などと主張するつもりは毛頭ございません.旭化成をヒッカケルなどというトリッキイなことをする必要は,『知らぬが仏』の場合,全くないのです.

旭化成は『知らぬが仏』と無関係に書面に残った「公式要求」すなわち「南面基礎白華現象について旭化成の見解を聞きたい」に対して虚心に正直にウソ偽りなく答えればいいのです.



つい先日,大阪都心で開かれた建築に関する無料相談会にでかけました.ラジオのお知らせをたまたま聞いて知ったのです.予約不要というのが気に入りました.場所はそれまで行ったことがない観光名所のビルで,気分転換を兼ねちょっぴりおのぼりさんの心境で出かけました.主たる目的は築15年,中性化深さ23ミリに対する建築士の反応を知ることにありました.

相談員の方は私より一つ歳下の方でした.私は旭化成の名前もホームページの存在も話さず,ただ大手プレハブで苦労している一消費者として話しました.話は弾み気がつけば予定になかった塗料すりかえ事件までしゃべっていました.4割ピンハネと言うとまぁそんなものでしょう,だそうです.中性化深さとSH法のデータの相関も教えてもらいました.無料相談会は継続的に開かれ,検査機関や弁護士の斡旋もしていることを知りました.

意外に思われるかもしれませんが,事件発覚以後,建築士と会話したのはこれが始めてなのです.白華といえばそれが何を意味するのか説明する必要のない人と初めてしゃべったのです.話が弾むのは当然です.現状評価がまずあってそれから対処があるという点に関して中年二人の意見は完璧に一致しました.



3月29日午後2時現在,H氏より連絡なし.



私の予想

4月8日(金)お昼,旭化成H氏より電話がありました.2週間後の4月21日(木)午後に,H氏とI氏(すなわち3月3日測定実施時の顔ぶれ)で,白華に対する旭化成の公式見解書面を携えて,拙宅に来ていただけるとのことです.まだ2週間も待たせるのかと私は思いました.

どういう趣旨の見解かは教えてもらえませんでしたが,シュミットハンマーの値はわかりました.もともと測定結果の棒グラフを私は見ておりサインまでしているのです.もし私がSHのことを少しでも知っていたら,あるいはH氏に教える気があったなら,中性化深さの値がその場でわかったように(これはI氏が測定結果を口頭でH氏に伝え彼がノートにメモするのを,横で見ていてわかったのです),その場でわかった筈のものです.H氏に拒む理由はないと思われます.

H氏は言いました.「40近くでています」.ついでに私は10年点検の時の値も聞きました.

私のメモに39.01,40.48と言う二つの数字が並んでいます.どちらが10年点検の値か定かではないのは,ボケが始まったからでしょうか.私は「単位は何ですか」とまた,ぼけた質問をして,H氏を困らせました.私は強度だと思って単位を聞いたのですが,反発度でした(その後の勉強の結果によると,反発度39.01は,15年の材令係数0.63を使用して,約204kgf/平方cmになると思われます.)

シュミットハンマーで検索していたら,新築間もないヘーベリアンのブログ日記の中に次のような記述がありました.

(シュミットハンマーは)けっこう高価なものだそうです。基礎コンクリの強度240キロ以上あるか、確認のため硬化が完成する28日後にコンクリートの堅さをコレで計測するそうです。

基礎コンクリートは、通常は強度240キロを保証するため270キロのものを使用するらしいのですが、我が家は冬場の基礎工事であったため330キロのコンクリを使用されたとのことでした。シュミットハンマーで測定したところ300キロの強度が出てました。
現在の旭化成は,この様子からみて,240kgf/平方cmはヘーベルハウスの最低限守るべき基準であるという風に,客に説明しているように思われます.


旭化成が使用したSHのテンプレートは1箇所につき4×5で20ポイントの圧縮度を計測するようになっています.旭化成は東西南北すべて測りましたから,少なくとも80個の数値が存在します.39.01というのは何の数値でしょうか.忘れてならないことは,今回の測定目的が我が家の基礎の全般的強度を調べるためではなく,<白華現象>が異常なのか正常なのか書面見解をだすために実施されたということです.


旭化成がこれまでとってきた行動を,確たる証拠である「点検カード」を中心にまとめると次のようになります.

(1)「10年点検カード」には現場状況欄に白華発生と書かれています.そして総合所見欄は異常なしです.客が白い粉がでていると指摘したことにより,旭化成は白華が目立っていた和室前だけなにかを塗りました.

(2)「15年点検カード」には,白華に関する所見はありません.ただ白華に関する見解を客が要求したことだけ書かれています.外壁に対しては3〜4年を目処にメンテお勧めのチェックが入っていますが,基礎に対して「早急な対処が必要」などとは一切書かれていません.


もし白華は劣化のシンボルであるという小林一輔氏の指摘が真実だとすれば,旭化成が「お客さまの資産価値を守るため」と大々的に喧伝している長期点検は,(悪徳業者の)点検商法となんら変わらないことを示していることになります.一円の金にもならない基礎には目をつぶり,外壁など金になるところだけ客に告知していることになるからです.

このことは白華が旭化成責か顧客責かを問いません.この場合にも客に責を押し付けることは不可能ではありません.お宅の炭酸ガス濃度は異常に高いとか,お宅の土地は異常に水分を含んでいるとか,その他その他.『それから』で述べた水俣病事件の「腐った魚原因説」を思い起こしてください.

一番大切なことは,白華の原因が何でありその責任がいずれにあろうとも,客にまずその重要性を告知すべきであるということです.旭化成は10年点検時にも15年点検時にも,白華が劣化のシンボルであり対処が必要などとは一言も述べていないのです.そのことは点検カードに明らかです.塗料すりかえ事件の時は,「打合せ記録書」に塗料変更を記載してまずいことになりましたが,今度は「点検カード」になにも記載されていないことが厳しく追及されるのです.

こうしてもし小林氏の指摘が真実だとすると,旭化成がこれまでとってきた行動に釈明の余地はないと考えられます.残された道は,白華が重要であることを知らなかったなどとマヌケなことを言うか,白華はとるに足らない些細な現象だと証明するか,二つに一つです.

前者の釈明は素人には許されますが,プロに許されようはずもありません.

残るは後者です.白華がとるに足らない些細な現象であることを証明してはじめて,旭化成がとった行動はすべて正当化されます.なにも知らない素人がうるさいことを言っているという,旭化成完全勝利で話はおわります.

中性化深さの測定結果は旭化成にとってまずい値のように思われます.強度に関して言えば,「耐力」が目にみえて劣るという結果がでるのは,最終局面の話だと思われます(旭化成が見解を出したあと,ある論文を引いて説明する予定です).


旭化成の書面見解は,以上述べたことに加え,回答まで時間がかかりすぎていること,説明が現場担当者に任せられたことをあわせて考えれば,期待しても無駄な内容だと私は予想しています.

(05年4月12日記)


追記:私は旭化成が頭を悩ませているであろうこととは別のところでちょっと悩んでいました.小林氏はマンションの物理的耐用年数は35年であると主張しました.マンションが35年なら,家が30年であって一向におかしくありません.品質劣悪なコンクリートで施工された基礎のことを考慮すれば,「日本の家は27年しかもたない」という熊野コンセプトは,結果として,成立するのではないかという意見に対するきちんとした反論です.これがないと『寿命すりかえ事件』のエピローグとは言えないのです.





05年4月21日付け旭化成ホームズ書面見解


4月21日(木),旭化成ホームズ社員H氏,工事店社員I氏両名が定刻の1時半ちょうど我が家来訪.話し合い3時まで.

1月27日の15年点検時に私は白華に関する見解を旭化成ホームズに要求しました.そして旭化成ホームズの希望どおり,シュミットハンマー法による圧縮強度の測定と中性化深さの測定を3月3日に行いました.4月21日は,旭化成ホームズの回答予定日です.つまり私が見解を要求した日からほぼ3ヶ月かかったことになります.

私が求めた「白華に関する見解」への回答書面はこれです.担当といえども,社を代表して見解を述べていますので,実名を隠すことはやめにしました.


結論部の1行目に,「強度に関しては特に問題ありません」とあります.どのような根拠でこの結論が得られたのでしょうか.無論シュミットハンマーの測定値(反発度:以下R値)からそう判断したのです.

R値が生のまま提示され圧縮強度に変換されていません.上にあげた某ヘーベリアンに対しては旭化成ホームズは圧縮強度に変換した値で説明していることにご注意ください.そしてそれが当たり前です.

「圧縮強度はいくらなのですか.」
「非破壊検査に電話で相談したところ,230kgでていて問題ないという話です.」
「この表を送ってそういう答えだったのですか.」
「いや,平均値だけ伝えました.むこうは全部の値が知りたいと言っていましたが.」

耳を疑うような話です.いやしくも住宅メーカーである旭化成ホームズがたかがR値の換算に外部機関に相談しているのです.そして230という値の責任を外部機関に転嫁しているのです.

「ヘーベルハウスの設計値はいくらですか.」
「当時のヘーベルハウスは210kgです.」

圧縮強度の設計値は210で,実測R値を換算した圧縮強度が,もし本当に230でているのなら,そう書面で書いてくれれば,なるほど「特に問題ない」とわかったでしょう.なぜ書面に書かずに,口頭で述べたのでしょうか.それはもちろん書面に230というウソの数字を残したくないからです.

「旭化成ではお客さんに強度ではなくR値で説明しているのですか.強度なら,設計値とくらべて問題ないかどうか客にもわかるけれども,R値ではなにもわからないではありませんか.」
「旭化成はいつもそれでやっています.」

・・・のだそうです.

「いくら以上反発度がでていればOKとしているのですか.」
「30以上ならOKだとしています.」
H氏はちょっと自信がなかったのか,I氏に同意を求めました.「そうです,30以上です.」

30ではすごく低い圧縮強度になります.ちょっとひどすぎる話なので私はあきれてものが言えなくなりました.しかし夜これを書いていてちょっと別のことに気づきました.

私は設計値のように異常かどうか判断の基準となるようなR値はあるのかというつもりで尋ねたのです.しかしH氏は異常値として捨て去る測定データの基準を答えたのです.つまり30でていない測定値は捨てているのです.回答書面には159個のR値が出ていますが,30の値が二つそして30未満のものはない,1件データが欠けているのは29以下だったからだ・・・と思ってよくよく見たら,北面データに28というのがありました.30以上OKというのは,H氏の思い違いで28以上OKではないでしょうか.

「上は誰ですか.」
「上というと上司のことですか.」
若いのにすでにとぼける術を心得ています.
「そうです.あなたの上司は誰ですかと聞いているのです.」
「・・・・・・アラキ課長です.」

159個のR値は,白華が発生している問題の南面が一番高い値を示していること,北面がもっとも低くヘーベル設計値はおろかほとんどJIS値しかでていないこと,5年前に比べ平均で4%,北面では6%R値が低下していることなど,なかなか「興味深い」ものです(鉄筋が錆びるまでは中性化の進行自体に問題ない,圧縮強度はむしろ上がると唱える人あり).

旭化成の結論をみておきましょう.まず<データに基づき>「基礎強度に関しては特に問題ありません」と言い切りました.「但し」,白華の件がございますので,「基礎に問題がないとはいえないと考えます」,そして「中性化進行は少し早いと思われます」・・・だそうです.最後は,「再度基礎調査させて頂き,総合的に判断させて頂きたいと思います」,つまりより具体的には,今回の測定にご不満なら「安心して頂くために」,弊社負担で「非破壊検査」で同じことをもう一度行なわさせて頂き,その上で「総合的に判断」するという結構な提案で締めくくられています.

なまのR値だけならば,測定日の翌日にでもFaxしてくれれば済む話でした.その他の点に関しては見事なまでに中味カラッポの見解でした.中味カラッポの旭化成殿にこれ以上「総合的に判断」して頂く気など毛頭ございません.本当にご苦労さまなことでした.


できたら来週の前半にも私の「総合的判断」を示したいと思います.これは上の「私の予想」の追記で書いたように,『寿命すりかえ事件』のエピローグにふさわしい内容にする予定です(ただし予定はあくまで予定です).つまりR値がどうしたこうしたという低次元の話で終わらせるつもりはないということです.以上とりあえず,昨4月21日のご報告まで.



・・と大見得切ってしまいましたが,低次元の話を少し追加します.

圧縮強度を日本材料学会式圧縮強度推定式(F=13R−184)で求めました.(『コンクリート便覧』(96年刊,技法堂出版)によると,この式または旧東京都建築材料検査所による式がよく使用されているとのことです.)得られた強度と「材料試験」第7巻第59号にある材令補正係数0.63(材令3000日の値)で補正した値を次に示します.強度の単位はkgf/平方cmです.10年時の強度に対する15年時の強度の比率も示しておきました.

<10年点検>
-R値圧縮強度補正後
南面43.3378.9238.7
東面39.95335.4 211.3
北面38.5316.5199.4
西面40.2338.6213.3
平均40.48342.2215.6
<15年点検>
-R値圧縮強度補正後15年/10年
南面41.57356.4224.50.94
東面39.25326.3205.5 0.97
北面36.15286.0 180.1 0.90
西面39.1324.3204.30.96
平均39.01323.1203.60.94


これでようやくヘーベルハウスの基礎設計基準強度210kgf/平方cmと比較できます.ご覧のように,南面を除き設計基準を下回っています.白華現象の見られる南面だけが,設計基準を満たしているという理解し難い結果となっています.

そして10年時に唯一設計規準に満たなかった北面が,5年で1割という高い率で弱くなっているという,これまで気づかなかった問題点が新たに出ています.

旭化成では「設計基準」がもともと絵に描いた餅ということなら致し方ありませんが,もしそうでないなら,3面で設計規準を下回っているのですから,「基礎強度に関しては特に問題ありません」ではなく,少なくとも「基礎強度に関しても問題がないとはいえないと考えます」ぐらいは言ってもバチは当らないでしょう.

このような純技術的な事柄に対してすらこういう隠蔽スタンスでは,他は推して知るべし!



4.『コンクリートの耐久性向上に関する研究』

『コンクリートが危ない』(小林一輔著,岩波新書,99年刊:以下『コン危』と略記)において,著者は
東京オリンピックが開催された1964年を境にして,それ以降に建設された橋梁,建築物のいずれも寿命(物理的耐用年数)は短くなっている(同41頁)
と述べその原因として「コンクリートポンプのコンクリートの品質に与えた影響ははかり知れないものがある」と指摘しています(同147頁).この指摘は国の調査によって「実証」されていることを知りました.

財団法人国土技術研究センター(JICE)の主任研究員三井健司氏の『コンクリートの耐久性向上に関する研究』と題する論文があります(「JICE REPORT」 2002年創刊号).以下三井論文と略記します.三井論文はJICEサイトのサイトマップ>調査研究>JICE REPORTに登録されています.

三井論文は,「調査概要」と「コンクリート構造物の耐久性向上に関する提言とそれに基づく対応」に分かれていますが,私の関心は「調査概要」にあります.

ここでいう調査とは建設省,運輸省,農林水産省の3省合同調査として実施された既設コンクリート構造物実態調査のことです.対象構造物は,全国の橋梁上部工,橋梁下部工,高架橋,擁壁,カルバート,河川構造物,トンネルとなっています.調査は写真や図面から目視中心で行なった<基本調査>と,コア抜きして調査した<詳細調査>に分かれています.


基本調査は2645件のコンクリート構造物に対して行なわれ,目視,ハンマー叩きなどにより劣化程度および劣化要因を判定しています.劣化程度は次の5段階に分類されています.(三井論文表-1より).

劣化度判定基準(トンネル以外の構造物)
劣化度 一般的状況
劣化の兆候なし,健全
劣化の兆候あり.軽微なひび割れや錆汁等.条件によっては劣化の進行が予想される
劣化あり,追跡調査必要.現時点では耐力,使用性に影響ないが,将来的には劣化の進行が予想される
劣化が著しく,詳細調査を行い補修するかどうか検討の要あり.耐力や使用性に悪影響がでているおそれあり.放置すると劣化の進行が予想される.
劣化が著しく,補修,補強が必要.耐力や使用性低下が明白.


一方劣化要因は,コンクリート低品質,配筋不良,アルカリ骨材反応,塩害,凍害,不明に分類されています.コンクリート低品質と配筋不良が多く,この二つで不明を除いた劣化要因の約9割を占めています(三井論文図-4).この二つについて三井論文は次のように述べています.
「コン低品質」と判断されたものには,豆板やコールドジョイントのように施工に起因することが明らかなものと,エフロレッセンスの析出やコンクリート表面の変状など原因が必ずしも明確でないものがあったが,前者が比較的目だった.また,配筋不良と判断されたものは,そのほとんどがかぶり不足に起因した鋼材露出および錆汁の流出であった.
この基準に従って判定された結果が竣工年別に示されています(三井論文図-3).論文の棒グラフを表になおすと次のようになります(数値にはすべて約がついていると思って下さい.また(-)とはグラフでは読み取れないほど小さいという意味です.)

竣工年劣化度1劣化度2劣化度3劣化度4劣化度5
〜64年60%28%10%2%-
65年〜74年65%28%7%--
75年〜84年78%20%2%--
85年〜90%10%---


ごらんのように,国が管理するコンクリート構造物には,「詳細調査を行い補修するかどうか検討の要あり」(劣化度4)はわずかに存在しますが,「補修,補強が必要」(劣化度5)なものはほとんど皆無であるという結果です.

上述の劣化判断基準の「一般的状況」を,症状・所見・対処にわけて整理すると,次のようになります.これは内容を変更したものではなく,一般的状況という名のごった煮を,整理しただけであることにご注意ください.

「三井規準」
劣化度症状所見対処
 1劣化の兆候なし健全不要
 2劣化の兆候あり条件によっては劣化の進行が予想される
 3劣化あり現時点では耐力,使用性に影響ないが,
将来的には劣化の進行が予想される.
追跡調査必要
 4劣化が著しい耐力や使用性に悪影響がでているおそれあり.
放置すると劣化の進行が予想される.
詳細調査を行い補修するかどうか
検討の要あり.
 5劣化が著しい耐力や使用性低下が明白補修,補強が必要.


対処(医療でいえば治療です)をみれば三井基準の特徴は明らかです.補修,補強というアクションを明記してあるのは,実に劣化度5だけです.「劣化が著しい」と認定されている劣化度4ですら,「詳細調査を行い補修するかどうか検討の要あり」なのです.

明日にでも大地震が起こり,「補修,補強が必要」と認定されていた橋が壊れ,多くの人命が失われたとしましょう.国の管理責任が当然追求されます.だから「著しく劣化している」ものでも「詳細調査を行い補修するかどうか検討の要あり」となるのです.「責任の所在を曖昧にする」という「官僚的思考」の特徴が如実にでています.

三井基準はせめて次のようにでも改めなければ,役人の,役人による,役人のための規準に終わるでしょう.

劣化度症状所見対処
 1劣化の兆候なし健全不要
 2劣化の兆候あり条件によっては劣化の進行が予想される簡易調査要.
 3劣化あり現時点では耐力,使用性への影響は不明.
放置すると劣化の進行が予想される.
詳細調査要.補修要.
 4著しい劣化あり耐力や使用性に悪影響がでている.放置できない.
補強,補修要.
 5甚だしい劣化あり倒壊の危険あり.
早急に取り壊すべし.


さてここで応用問題です.次の写真のような状態になった場合,劣化度はいくらでしょうか.

これは『コン危』の24頁にある写真です.私はこれを見て愕然としたのです(第11章参照).小林氏は次のように説明しています.

和歌山県下の高速道路では,高架橋橋脚の根元の部分が深くえぐりとられたように崩落していた.人間がまったく手を加えていない状態で崩落したのである.この部分だけ崩落した理由は明らかである.地中部の基礎からたえず供給される水分がもっとも活発に上昇するためである.同じような劣化は,大阪府下の高速道路の高架橋橋脚でもおこっている.橋脚の場合,根元がしだいに削られていくので,放置することはできない.
白華を放置するとこのような状態になります(崩落部の中および周辺に白華の跡が見られます).小林氏は「放置できない」と認定しました.役人なら「追跡調査必要」といったところでしょうか.





以上が3省合同調査の<基本調査>に関するものです.次にコア抜きして調べた<詳細調査>に移りますが,こちらは少し予備知識が必要です.和泉意登志,喜多達夫,前田照信著『中性化』(技報堂出版,86年刊),福島敏夫著『鉄筋コンクリート造建築物の寿命』(技報堂出版,90年刊)などを参照して,必要な知識をまとめておきました.

中性化速度係数と物理的耐用年数


コンクリート中の水酸化カルシウムは空気中の炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムと水に分解します.
水酸化カルシウム+炭酸ガス→炭酸カルシウム+水
この反応によってコンクリートが本来持っている強アルカリ性(pH12〜13)は失われます.この現象は中性化と呼ばれコンクリートの経年劣化と関連して建築分野では古くから研究対象になっていました.近年,コンクリートの強度や耐久性の源泉であるケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)と炭酸ガスの反応の重要性が認識され,中性化より広い意味で炭酸化と呼ばれることがあります.その場合も現象としては(より急速な)中性化の進行として現われます.

中性化深さは,コンクリート表面からどこまで深くアルカリ性が失われているかを表わします.中性化深さは経過年の平方根に比例するとされ,その比例係数は中性化速度係数と呼ばれています.すなわち,
中性化深さ(mm)=中性化速度係数×√経過年   (1)
となります.この式は中性化の速度が二酸化炭素のコンクリート中での拡散過程によって決まると仮定すれば理論的にも得られます.この式は数多くの実験結果や実態調査によって成立することが認められています.

中性化速度係数は,「もの」の特性値ではなく,「もの」+「環境」で決まる量です.同じ「もの」であっても,「環境」によって次のように変わります(「もの」から見れば仕上げ材は広義の意味で環境です).

炭酸ガス濃度の高い環境なら中性化速度係数は大きくなります.モルタル,エポキシ等で厚く塗られていたなら,裸のものより係数は小さくなります.基礎の土中部分は,空気にさらされている立ち上がり部に比べ係数は小さくなります.


さて(1)式が特に重要なのは,1927年(昭和2年)に浜田稔が「鉄筋にさびの発生した部分はそれに接するコンクリートはアルカリ性がほぼ消失しており,一方鉄筋にさびのない部分はアルカリ性であること」を発見したからです.

浜田は「鉄筋のかぶり厚さとコンクリートの水セメント比から鉄筋のさび始める時間を推定する式を誘導」し,「鉄筋コンクリート造の寿命を長くするには中性化のおそいコンクリート(水セメント比の少ないもの)を用い,密実に施工することが必要であると結論」しました.(岸谷孝一著『鉄筋コンクリートの耐久性』,鹿島建設技術研究所出版部63年刊より.これは岸谷の学位論文です.)

浜田は「施工が中程度以下の場合に適用する次の関係式」を導入しました.

  t=(0.3(1.15+3W)/(W-0.25)^2)*(x^2)    (^2は2乗の意)

ここでt:鉄筋がさび始める期間(年),W:水セメント比,x:かぶり厚さ(cm)です.(1)式の形に変形すると中性化速度係数は(W-0.25)/√(0.3(1.15+3W))となります(単位cm/√年).
浜田式は,中性化深さが時間の平方根に比例して進行すること,中性化深さがかぶり厚に達すると鉄筋がさび始めること,そして中性化速度係数は水コンクリート比をパラメータにこれこれで表わされること,以上3点を主張しています.岸谷は浜田の研究によって,「鉄筋コンクリート造の耐久性解明の最も大きな部分が明らかにされた」と述べています(上掲書).私も実にその通りだと思います.

さて今日でも浜田の考えに従って,中性化深さがかぶり厚30mmに達する年数を物理的耐用年数(の目安)とするのが一般的です.物理的耐用年数は(1)より次のようになります.
(中性化による)物理的耐用年数=(30/中性化速度係数)^2
中性化速度係数が3の時,物理的耐用年数は100年になります.係数が6の時,耐用年数は25年になります.係数が2倍になれば,耐用年数は4分の1になるという関係です.ちなみに,水セメント比が0.6とすると浜田式による係数は3.7となり,耐用年数は65年となります.

中性化のようなケミカルな過程はどうでもよく,鉄筋が錆び始めてからはじめて物理的耐力の劣化が始まると主張する「工学的立場」からすれば,中性化による寿命は安全側に過ぎる,つまり短く出過ぎるということになります.しかし後に示すように多くの(まともな)コンクリート構造物は十分長い「中性化寿命」を示しています.またコンクリートの強度の源泉であるC-S-Hが化学反応すれば,鉄筋が発錆する前であっても物理的耐力に大きな影響を与えると思われます.そして最後に,安全側に出ることがなぜ問題なのか,という根本的な疑問が残ります.

中性化速度係数に関しては次のような研究があります.

 1.浜田式(28年,69年)
 2.岸谷式(63年)
 3.白山式(76年)
 4.依田式(82年)

浜田式については上述しました.その他の式はしかるべき成書をご覧下さい.二つコメントしておきます.

4つの式のすべてに,水セメント比がパラメータとして入っています.重要なことは水セメント比で中性化速度係数が次のように変化し,それに応じて物理的耐用年数が大きく変化することです(かっこ内は物理的耐用年数).

W/C比0.50.550.60.7
浜田式2.8(114年)3.3(084年)3.7(65年)4.6(43年)
岸谷式2.0(222年)2.9(109年)3.7(65年)4.6(43年)
白山式1.7(313年)2.4(156年)3.1(93年)4.5(44年)

赤字で示した水セメント比0.6の値(耐用年数65年)が,コンクリート建造物の法定耐用年数を決める際のベースになった値だと思われます.水セメント比を0.55に下げれば,現在よく使われているという岸谷式によれば,耐用年数は100年を越えることがわかります.

浜田,岸谷式は,水セメント比は別にして,材料(骨材種別,セメント種別等)がきまれば中性化速度係数がきまる形になっています.一方白山,依田式は,仕上げ材という「環境」を考慮しているほか,施工品質を反映する形になっています.

白山式では「施工程度による係数」が導入されています.施工程度が優と劣では,中性化速度係数に2.8倍の違いがでます.また依田式の「品質係数」では,「施工が優れている場合」と「施工が普通(下)」で中性化速度係数に2倍の違いがでます.(仕上げ材に関しては,いずれの式もタイル張りと裸では中性化速度係数に3倍近い違いがでます.)

施工品質は,水セメント比だけでは説明できない,高度成長期の劣悪コンクリートの異常な中性化速度を説明するために導入されたと考えられます.


我が家に残っている新築時のヘーベルハウスFシリーズパンフレットには,「土台の鉄筋コンクリート連続布基礎は,70年以上もの耐久性を備えています」とありますから,ヘーベルハウスの想定中性化速度係数は3.6以下ということになります.

わが白華ヘーベルハウスはどうなっているでしょうか?

旭化成が計測した我が家の白華近傍の3点の平均値23mm,経過年15年を代入すると,中性化速度係数は5.9となります.物理的耐用年数は(30/5.9)の2乗すなわち,約26年になります.あらあら,まるで絵にかいたような数値になりました.これに対する旭化成の公式見解は,「中性化進行は少し早いと思われます」・・・・・・です.



準備終わり.



三井論文にもどります.3省合同調査の<詳細調査>は,基本調査した構造物の中から,「健全であると考えられる構造物と比較的状態が悪いと考えられる構造物をそれぞれ同数選定することとし,3省合同で合計193件の構造物を選定」して行なわれています.基本調査2645件の約7%強にあたる193件がこのようにして選定され詳細調査されました.全数では健全なものの割合がずっと多いため,以下の結果は,劣化ありサンプルの割合が実態以上に多い集合に対して得られたものであるということになります.

詳細調査では,コアを採取(1件あたり3箇所)し,圧縮強度,ヤング係数,塩化物イオン濃度,そして中性化深さが測定されています.

竣工年別の中性化速度係数の分布が,64年以前竣工のものと65年以後竣工のものに分けて図示されています(三井論文図1-6).このように分けた理由は「コンクリート打設におけるポンプ圧送工法は1965年以降に普及したと考えられる.この影響を見るため」とあります.

三井論文の図1−6は次のようなものです.右に中性化速度係数の参考値を載せておきました.



<参考値>
  例中性化
速度係数
900年耐用1.0
100年耐用3.0
浜田岸谷(W/C:0.6)3.7
60年耐用3.9
30年耐用5.5
「白華ヘーベル邸」5.9
25年耐用6.0
「白華公団住宅」6.8
東名高速道路1.1
山陽新幹線4.7
「白華公団住宅」は『コン危』106頁(14号棟),東名高速道路と山陽新幹線は同38頁の値から算出.


この分布に対する三井論文の評価は以下のとおりです.
1965年以降は64年以前に比べて,中性化速度係数の小さいものと大きいものの両端で頻度が低くなり,中性化速度係数が1〜6mm/√年の範囲でそれが高くなっていることが認められる.この傾向と劣化の関係については不明であるが,この傾向はポンプ圧送工法の普及によりコンクリートの品質が一定化したことによるものと推測される.
「ポンプ圧送工法の普及によりコンクリートの品質が一定化した」 ??? 

中性化速度係数が1以下ということは,100年経っても中性化深さは10mm以下という高品質であり,これを1級品,係数1〜2のものを2級品,以下同様に3級品から6級品と呼ぶことにしましょう(我が家はかろうじて6級品).係数6以上(すなわち耐用年数25年以下)はどうしようもない欠陥品質です.

64年以前には欠陥品がたしかに4%程度存在します.しかし64年以前は以後に比べてものが乏しかった時期であり,またポンプ工法より手間のかかる工法だったことも忘れてなりません.この4%は全体の品質を評価する上では異常例と考えるべきものです.悪質業者の建てたひどい欠陥住宅は,それが数%にとどまっている限り,全体品質を評価する上では参考にならないのと同じです.

三井論文のいうとおり「1〜6mm/√年の範囲」すなわち2級品から6級品は,64年以前に比べて多くなっています.しかしそれは品質が一定化したことを示すものでは毛頭なく,1級品が減り,減った分が2級品にとどまらず6級品にまで,品質の悪い方に悪い方に分散したことを示しているのです.

品質は一定化したのではなく悪い方にばらついたのです.全体としてみれば品質低下は明々白々です.

ポンプ工法なくして,高度成長期の大量需要という時代の要請に応えることは不可能だったでしょう.しかしそれはそれとして,効率化追求の負の側面として品質が大きく低下したという事実もはっきり認識すべきです.「品質が一定化した」などと評価することは事実をねじまげようとしていると言われて仕方のないものです.


さて問題は低下した品質の程度です.

係数が1以下の1級品は,計算上は900年以上もつという品質であり半永久的という表現がぴったりです.1級品は64年以前には約62%を占めていたのに対し,65年以降は約35%に激減しています.しかし,それでも約35%は半永久的品質なのです.

規準を少し緩め100年耐用(3級品以上)を基準にすると,64年以前は約90%,65年以降でも約70%が該当します.65年以降でも,100年もつコンクリート構造物が圧倒的多数です.

高品質の実現に,特殊な技術が必要だったり,コストが法外にかかる等の事情がもしあったとするならば,このような結果にはけっしてなりません.「コンクリート標準示方書」を遵守して普通に施工すれば,100年耐用の品質が得られるのです.


「施工が中程度以下の場合」を想定した昭和初年の浜田式で,水セメント比が60%の時の中性化速度係数は3.7です.3省合同調査の調査結果は,65年以降でも85%弱は浜田規準以上であることを示しています.15%強の少数例は他ではみられない変なことが起こっているのです.原因が究明され責任が問われてしかるべきです.


この実態調査は,現存する土木分野のコンクリート構造物に対して行なわれたものです.マンションや一般住宅基礎のコンクリートはどうでしょうか.阪神高速高架橋の劇的倒壊以前,すなわち世界に冠たる日本の土木技術という「神話」がまだ生きていた時代ならいざ知らず,現在においては,土木も建築も品質に大差なしと決めつけても文句は多分でないでしょう(?).建築分野でも浜田規準に達していないのは,少し悪目にみて約2割というところではないか,ということを私は言いたいのです.

小林一輔氏は『コン危』において,現存する日本の橋梁の物理的耐用年数は40年,マンションのそれは35年だと,警鐘を鳴らしました.合同調査の結果を信じれば,幸いなことに多数はこれに該当せず,かといってごく一部だけが該当するのでもないのです.2割という数字は,決して小さい数字ではありません.


『マンション』(岩波新書,00年刊,小林一輔・藤木良明著)という本の藤木氏執筆分に次のような文があります(同書225頁).
つまるところ,鉄筋コンクリート造りの建物は定期的な修繕をほどこせば,構造耐力を保つうえで致命的な問題を生じないとすることができるのである.定期的な修繕をくりかえし,本書で説明した設備関係の更新,更正をおこない,陳腐になった付帯物を交換していけば,100年でも十分に耐用することが期待できるのである.
これは一定の基準,たとえば浜田規準を満たしているマンションにだけあてはまることです.「定期的修繕」は万能ではありません.小林氏自身は『コン危』において次のように述べています(同208頁).
調査では,コンクリートの強度が設計規準強度に満たないような建物基礎が多く存在していることが確かめられた.建物の外壁や屋根などは補修が可能であるが,基礎の補修・補強は困難である.もし実施するとすれば,莫大な費用が必要であり,分譲マンションの管理組合の手に負えるものではない.
物理的耐用年数35年のスクラップマンションにいくら「定期的修繕」をほどこしても,100年もたせるのは無理です.わが白華ヘーベルハウスの基礎にいくらエポキシを塗っても,旭化成の公称値70年もたせるのは土台無理です.それが水準に達していない,できそこないのコンクリート構造物の宿命です.



さて三井論文では,中性化速度係数と圧縮強度の関係が考察されています(三井論文図-7).

(↑ click)
三井論文は図について次のように説明しています.

両者の間に明確な因果関係は認められないが,強度が大きくなるにつれ中性化速度のばらつきが小さく,かつ遅くなっていることから,コンクリートの強度を大きくすると,中性化による劣化に対して信頼性を向上させることができ逆に強度が小さい場合には,中性化が遅い事例と速い事例が混在しているが平均的には早くなるため,信頼性が低下する傾向にある
すっきりしない文です.係数と強度の相関図の説明に「信頼性」を持ち出し「因果関係」を論じようとしています.

浜田式をはじめ中性化速度係数の理論式には最重要パラメータとして水セメント比が入っています.水セメント比はコンクリートがどの程度スカスカのコンクリートであるかを表わすものです.一方圧縮強度というのも,もろにスカスカ程度で決まる量です(『マンション』7頁の空隙率の図参照).したがって両者の間になんらかの関係があるだろうことは容易に想像できます.

上掲の福島書によれば,両者の関係に関して,Smolczykおよび馬場は次の式を提案しています.
中性化速度係数=A/√圧縮強度−B (A,B>0)
これを今回の相関図にプロットするとおおむね次のようになります(福島書図−5.4から目の子で変換).

「両者の間に明確な因果関係は認められない」とは,たとえばこの馬場式に沿ってきれいな分布が得られなかったという意味だと思われます.

中性化速度係数は,時間の関数ではありませんが,「環境」たとえば仕上げ材には大きく依存します.一方,圧縮強度は仕上げ材には依存せず,時間に依存すると考えるのが常識的です.

馬場式は一定材令で「裸」の数種のコンクリートに対して得られたものです.現実の構造物は一定材令でも裸でもありません.したがって現実の相関図が,一本のきれいな曲線に沿って分布しないのは当然だと思われます.

しかし馬場式(あるいは和泉式)に類する関係が根底で成立しているとすれば,この相関図の唯一の特徴といっていい,右上の「空白の三角地帯」は説明できます.

この相関図も64年以前と以後が区別できるようにプロットされていれば,あるいはもう少しなんらかの知見が得られるかもしれませんが・・・

定性的な議論をすると次のような話になります.

図を強度側から見て,

(1)十分大きな強度をもつものは,係数が十分小さい

ということが言えます(左図参照).しかし
そうでない強度のものに関しては,なんともいえません.


三井論文の考察は端的にいうと以上で尽きています.
今度は図を係数側から見て,

(2)十分大きな係数をもつものは,強度が十分小さい

ということが言えます(左図参照).しかし
そうでない係数のものに関しては,なんともいえません.

(1)と(2)は「対偶」のように見えますが実は独立した命題です.十分小さいの「否定」は普通または十分大きいだからです.

高規格超高層マンションの住人にとっては(1)が重要で,「白華住宅」の住人には(2)が引導です.

もう一つ図から明らかに成立する命題があります.

(3) (1)も(2)も「逆」は成立しない.

エポキシで塗り固められたブロックは,強度も係数も十分小さいのです.


圧縮強度との相関図はこれくらいで切り上げ中性化速度係数の分布の図に戻ります.三井論文は分布を東京オリンピック(64年)以前と以後に分けて考察しました.分けた理由は,「コンクリート打設におけるポンプ圧送工法は1965年以降に普及したと考えられる.この影響を見るため」・・・でした.

この「論理」は,東京オリンピック以前と以後で劇的に変化したのが施工面だけであった場合は成立するかもしれません(ただし,ポンプ施工の影響を本当に見る気なら,車両搭載型が開発された70年頃で分けるべきです).ところが,コンクリートの品質に関わることがらで,劇的に変わったのは,なにも施工面だけではないのです.

良質な河川骨材が枯渇し,東京オリンピックを境に骨材品質は大きく低下しています.そして効率的大量施工に対応してセメント製造方法も劇的に効率化されています.63年のSPキルン導入以降の10数年で8割のキルンが湿式から乾式に変更され,3倍に急増した需要に対応しました.しかし同時に品質面で種々の深刻な問題を生んだのです.

高度成長期のコンクリート構造物の品質低下には,施工面の問題だけでなく,材料面とりわけセメントの品質が長期にわたり深く関与しています.関与どころかこちらがホンボシではないかと私は思います.なぜか.ポンプ圧送工法の影響すなわち生コン業者,ポンプ圧送業者,下請建設業者など零細業者の施工品質だけに焦点を当てようとした三井論文のいかにも不自然な姿勢に,「主犯」を隠そうとする意図を感じるからです.



調査について


JR西は尼崎脱線事故直後のきわめて早い段階で粉砕痕を持ち出して,各方面からその隠蔽姿勢を厳しく批判されました.調査というものは,調査の目的によって結果が大きく異なります.真実を見つけようとする為の調査なのか,真実を隠す為の調査なのかが問題なのです.『コン危』にある埼玉の「白華公団住宅」に対する調査は,その意味で非常に教訓的です.

「白華公団住宅」は公団の5階建て分譲住宅です.全31棟,1000戸の大規模集合住宅で,施工した会社は4社です.工期は73年から74年,入居開始は75年4月です.入居後10年時点で,3分の2の20棟に,外壁などのPC板にひび割れ,5階住居に雨漏り,浴室天井,ベランダなどに鉄筋腐食とそれによるコンクリート剥離という劣化現象を起こしていました.

住民からのクレームに対して公団側は,「コンクリートの建物は10年も経てばこんな状態になるのが普通で,あなたの団地が特別ひどいわけではない,あなた方の管理が悪いのではないか」という対応をしていましたが,問題が大きくなり国会にまで持ち込まれた結果,国の調査委員会が設けられました.

調査委員会は,1.圧縮強度は202〜553kgf/平方cmで設計規準を満たす,2.中性化深さは,屋根大庇下面,ベランダ先端部以外は,5〜10mmで通常のコンクリートと同程度である,3.アルカリ骨材反応はみられない,という結論を出しました(『コン危』12頁).要は通常の経年劣化であり異常ではないと結論したのです.これに対し住民側の要請を受けて調査した東大小林グループは,この結論を真っ向から否定しました.

焦点となったアルカリ骨材反応に関しては,両者とも同じ土俵すなわち異常膨張が生じるかどうかで判断しています.『コンクリート構造物の早期劣化と耐久性診断』(小林一輔著,森北出版,91年刊:以下『早期劣化』と略記)には,アル骨なしの根拠となった実験結果が示されています.そしてその実験がコア抜き方向を誤るというチョンボの為,アル骨の判定には無意味な実験であったことが,素人にもよくわかるように説明されています.

本物の専門家を相手にしてしまったのですから,公団側としては相手が悪かったというところです.では,専門的知識を要する「潜在膨張性」の実験よりずっとポピュラーな圧縮強度や中性化深さの測定でなぜ結論が異なるのでしょうか.それは結局どこを測るかです.そしてどこを測るかは,異常を見つけようとするのか,異常を隠そうとするのかによって,まるで違ってくるのです.

次の表は『早期劣化』の210頁の表を簡略化したものです(『コン危』106頁の「変色深さ」の表に対応しています).表中の14号棟の基礎は「白華が活発に発生」したところです.国の調査委員会は,こういう所は測らなかったか,あるいは測っていても隠したかのいずれかです.


コア採取位置
中性化深さ(mm)圧縮強度
(kgf/平方cm)
外側内側
12号棟
ベランダ下
地上部分3121164
地中部分00254
14号棟
北側土台
地上部分287147
地中部分00198

この表は多くのことを教えてくれます.同じ基礎であっても,地上と地中でいかに中性化の進行が異なるか,中性化の進行とともにいかに圧縮強度が低下しているか,そして中性化が基礎の裏側からいかに進行しているか・・・


小林氏は調査委員会について次のようにストレートに述べています(『早期劣化』214頁)
一般に官公庁がこの種の調査を行う場合には,どのような結論が得られることが好ましいかという方針が先行して決められているのである.この場合,調査委員会はこれをオーソライズするために用意されると考えればよい.調査委員会の委員長は表面的には第三者である大学教授が任命されるが,“表面的には”と断った理由は依頼者と十分に意志の疎通が可能な人,たとえば住宅・都市整備公団の場合には身内の建設省建築研究所出身の大学教授ということになる.調査委員会の委員は依頼者である公団が上記の委員長と相談して決めることになる.

さて調査そのものはどのように進められるのであろうか?委員長はじめ委員の先生方はいずれも多忙な人々であることから自分達が直接試料を分析したり,現地に何回も出掛けて調査に当たるということはしない.実際の調査は委員会の立案した調査を民間の試験コンサルタントに外注するのである.出てきた調査結果は委員会の検討にまわす前に内容がチェックされる.すなわち,あらかじめ決められている結論に合わないデータはその時点で調整されるのである.

委員会の先生方はこのように調整されたデータに基づいて審議を行い,急いで結論を出してこれを報告書にまとまることになる.
このようにして作成された報告書に対して,住民側が「団地の建物にはいろいろな変状がおこっている.報告書はその原因について何一つ明らかにしていない」と感じたのは,まことにもって当然至極な話だったのです.


私は白華近傍の3点の平均値23mm(中性化速度係数5.9)だけで議論してきました.サンプルが少ないと思われた人がいるかもしれません.しかし測定対象となるコンクリート面積との比率で考えると,これは「白華公団住宅」あるいは山陽新幹線,東名高速道路(『コン危』38頁),あるいはまた三井論文での中性化深さの測定などより,実はずっとサンプル採取密度が高いのです.

目視で異常が認められない劣化度1の場合であれば,適当な所を測定するしか手はありません.しかし変色していたり,ひび割れしていたり,白華が生じていたならば,その近傍を測るのが理にかなっています.無論,隠そうとする立場ではそういうリスキーな場所は避け,たとえば旭化成が最初したように白華発生ゾーンから20cm上を測定する方が合理的であることは言うまでもありません.

我が家の白華近傍の中性化深さ,21.5mm,23.0mm,24.5mmの三つ組みは,各値が接近していること,そして大きな値がでては困る(であろう)旭化成が測定した結果であることから,珍重するに値すると私は考えます.




三井論文は「今後の課題」のところで次のように述べています.
塩害とアルカリ骨材反応に対しては,1986年にコンクリート中に含まれる塩化物量の総量規制やアルカリ骨材反応の暫定対策が出され,それ以後に製造されたコンクリート構造物では,塩害やアルカリ骨材反応の兆候は見られず,規制による効果が出ているものと考えられる.
83年にNHK斎藤記者が報道した山陽新幹線工事での未除塩海砂使用や大阪工大二村誠二氏が発表したアル骨反応事例などを契機として,コンクリート劣化問題は社会問題化しました.小林氏は次のように述べています(『早期劣化』23頁).
コンクリート構造物の早期劣化問題について,国内の各界をあげて取り組む契機を与えたのは,土木学会でもなければ建設省でもなく,NHKを初めとするマスコミの力であった
この点は米国やドイツなどと大きく異なる点であり,わが国の早期劣化問題を考える場合に「きわめて重要な意味をもっている」と小林氏は強調しています.建設省はマスコミに叩かれてあわてて規制しただけであり,自慢げに規制の効果を喧伝できるような筋合いのものではないのです.

小林氏もアル骨反応は「1970年代から80年代前半につくられた建物に限定される」と述べています(『マンション』36頁).塩害とアル骨反応に限定すれば,86年以降の規制は一定の効果があったと思われます.しかしそれは不十分なものでした.不十分だったからこそ,90年築のわがヘーベルハウスは30年耐用の「白華ヘーベルハウス」になってしまったのです.


三井論文にある86年の暫定対策は,89年7月に建設省より正式にアル骨反応抑制対策として通知されました.これを<旧対策>と呼ぶことにします(旧対策は13年後の02年に改正されます.こちらが<新対策>です).

旧対策はアル骨反応を抑制するために,次の3つのうちどれかを選びなさいという内容です(実際は4つ選択肢がありますが,簡単のため一般的でない混合セメント使用は以下の話から除いてあります).

1.安全と認められる骨材を使用する.安全性はアルカリシリカ反応性試験(化学法またはモルタルバー法)で確認.

アルカリシリカ反応(ASR)とは,骨材中の反応性をもつシリカ(二酸化けい素)と,コンクリート中に含まれるアルカリ(Naイオン,Kイオンなど)が反応することによって生じた生成物が吸水して膨張し,コンクリートにひび割れなどを生じさせる現象(JISA1145の説明)
2.低アルカリ形セメント(セメント中の酸化ナトリウム換算のアルカリ量が重量比で0.6%以下)を使用する.

欧米諸国ではアル骨反応対策として,反応性骨材のチェックと並行してセメント中のアルカリ量を規制しています.アメリカでははやくも41年に重要工事にはアルカリ量0.6%以下の低アルカリセメント使用を決めています.2はこの「国際基準」に対応するものです.
3.コンクリート中のアルカリ総量を3kg(コンクリート1立方mあたり)以下に抑制する.
骨材として海砂を使用していたイギリスは83年に総量規制を開始しています(中性の塩化ナトリウムは,その中の塩素がフリーデル氏塩として固定されるため,アルカリとして機能します).3はこのイギリス方式に対応します.(旧対策ではアルカリ総量の中味は表にでていませんが,新対策では(セメント中のアルカリ+骨材中のNaCl起源のアルカリ+混和剤中のアルカリ)と明確になっています.)

多くの業者は先頭に書かれている1で規制をクリアしたと考えられます.低アルカリセメントはほとんど生産されておらず,総量規制は当時のセメントのアルカリ水準ではクリアできないものが多かったからです.

1は骨材種別を規制するものです.一方2と3はアルカリ量を規制するものです.骨材規制で打撃を蒙るのは零細骨材業者です.一方アルカリ規制で困るのは大手セメント会社です.建設省は,規制しやすい方つまり弱い零細業者の方に矛先を向けたのです.「工業製品の中味にまで立ち入るのはいかがなものか」という,例の「弱きをくじき強きを助ける」精神です.2と3は公正を装うためのお飾りでした.

さて02年の新対策は,国交省がたたき台を公開し,それに対し広くパブリックコメントを求めてそれを反映するという方法で決められました.
旧対策→国交省案(たたき台)→寄せられた意見と国交省の見解→新対策
の4つを比較する(WEBで閲覧できます)だけで,種々の問題点が浮かびあがってきます.

国交省は改正理由を説明せずに改正案を提示しました.これに対して,なぜ改正するのか,「その背景や理由を開示し,十分に説明されてから実施すべき」という極めて当然な意見が6件寄せられました.これに対し国交省は次のように重い口を開いています.改正の主な理由は二つだというのです.
国土交通省としては,現在の4つの対策が根本的に問題があるとは考えておりません.そのため,ひとつひとつの対策を改訂するつもりはございません.ただし,低アルカリセメントが事実上生産されていないこと,骨材の反応性試験結果が十分に信頼できる状況にないこと,等の状況変化に対応するため,改訂を提案しました.
低アルカリセメントという選択肢は国交省案の段階で姿を消しています.残すべきであるという意見(6件)に対して国交省は次のように答えています.
セメント会社の大手4社における,過去10年間の低アルカリセメントの生産量を調査した結果,1995年に11000t生産されている他は全く製造されておりません.また,現在製造されていう普通ポルトランドセメントのアルカリ量も低くなってきています.したがって今回の改定案では「低アルカリセメント」の条文を削除することにいたしました.
この削除理由は注目に値します.低アルカリセメント使用は,セメント中のアルカリ量だけでアル骨反応を抑制しようとするものです.国交省が削除した理由は,それでは不十分であるという「根本的な理由」によるものではない,ことがわかります.もっと低次元のセメント業界都合で削除したのです.

さらに国交省は現在のセメントのアルカリ量は低い,と異なことを述べています.低いからどうだというのでしょうか.低アルカリセメント並に低い場合にだけ,低アルカリセメント削除は正当化されます(同時にアル骨反応抑制対策そのものも,役目を終え消滅します).現実がそうなっていないことは明らかです.

アルカリ量は昔に比べて低くなっている,0.6%クリアは無理でも総量規制ならクリアできるだろう,総量規制に従いなさい,低アルカリセメントは要らないはずだ,というロジックです.しかしこれが矛盾を孕んでいることは後で出てきます.


改正理由の二つ目に反応性試験(化学法またはモルタルバー法)の信頼性に問題があったことがあがっています.なかでもモルタルバー法が大いに問題だった(らしい)ことは,たたき台となった国交省案からモルタルバー法がきれいさっぱり消えていることから窺われます.

ところが,モルタルバー法廃止には大反対があり(最多の97件),新対策では,わずかにモルタルバー法に迅速法で無害確認するという条件をつけ足しただけで,モルタルバー法は復活しました.02年に至っても,総量規制<すら>満足できない,高アルカリセメントが少なからず市場に出回っているのです.


新対策は結局次のようなものになりました.

以下の2つから選ぶ.

1.コンクリート中のアルカリ総量を1立方mあたり3kg以下に抑制する.アルカリ量は試験成績表に示されたセメントの全アルカリ量の最大値のうち直近6ヶ月の最大の値を使用する.

2.安全と認められる骨材を使用する.安全性はアルカリシリカ反応性試験(化学法またはモルタルバー法)で確認する.モルタルバー法適用の場合は,それに合格するだけでなく,信頼できる試験機関で「迅速法」で骨材が無害であることを確認しなければならない.

総量規制が先頭になっています(旧対策と比べて下さい).そして土木構造物については1が優先と明記されています.2で合格した土木構造物は,1で不合格のいわば補欠合格品,2級品であることを意味します.

ところが建築に関しては,1と2で優先度の違いを設けず,「必要とする場合は2を優先」という奥歯にものの挟まった「なお書き」がついています.これに関連してある方はWeb上のエッセイで次のように述べておられます.
アルカリ総量の問題は、高強度コンクリートではセメント量が450kg/m3使用されることも少なくなく、セメントから持込まれるアルカリ量は低アルカリセメント並みのアルカリ量0.6%としても2.7kg/m3に達し、その他混和剤、水から来るアルカリを考えると3.0kg以内に抑えること困難である。
なるほどセメント量が多い(富調合)コンクリートは富調合であればあるほど,アルカリの絶対量を規制する総量規制が守りにくくなるのは道理です.しかしそれなら0.6%規制に従えばすむ話です.こちらなら超富調合コンクリートであってもなんの問題もありません.ところが国交省は低アルカリセメントを削除してしまいました.すると高強度コンクリートの場合,2の道しか残されていないことになります.

たたき台となった国交省案が,実は,まさにそうなっているのです.設計規準強度が30N/平方mm以上の高強度コンクリートの場合,アルカリ量ははじめから不問に付し,無条件に骨材を化学法で試験すべしとなっているのです(不合格なら混合セメント).

ところがその場合でも総量規制を守ることは可能であるという意見が10件も寄せられ,国交省は圧縮強度による分類案を撤回しました.国交省案に論理的正当性はなかったと思われます.しかしそれでもコンクリート委員会の建築側メンバーは,総量規制になじまない正当なケースがあると主張したと思われます.その結果,建築構造物に対して「必要とする場合は2を優先」という極めて曖昧な文言が残りました.


02年の改正劇において,国交省は

・アル骨抑制の基本方針を骨材規制からアルカリ量規制に転換する.
・低アルカリセメントという「ブランド品」の製造に消極的なセメント業界の意向を尊重する.

という矛盾する二つの方針を「調和」させました.その結果,(モルタルバー法+迅速法)の手間さえ惜しまなければ,従前どおり,大手をふって高アルカリセメントが使える道が残ったのです.


最近のセメントのアルカリ量は低くなっているそうです.では昔はどれくらい高かったのでしょうか.我が家は90年築で昔のアルカリ量に関心があります.

コンクリートの早期劣化が社会問題化した83年の9月21日,NHKはニュースワイドで関西地区でのアルカリ骨材反応による劣化問題を報道しました.これに対し,同年10月25日セメント協会は「アルカリ骨材反応についての見解」を出して番組内容に反論しました(『早期劣化』26頁に見解の全文が掲載されています).

セメント協会が反論した理由は,アル骨反応の原因は「これまで使用されなかった砕石が使われ出したことと,セメント中のアルカリ量が増えたことによるため」という報道内容だったからです.セメント協会は見解の中で次のように述べています.
近年セメント中のアルカリ量が増えたとする見方がありますが,セメント協会の資料によれば,わが国における昭和30年以降のセメントのアルカリ量は下表のとおり推移しているのが実状であります.

これによれば,セメントの製造方式の変遷によって必ずしもセメント中のアルカリ量が増加しているとはいいがたく,むしろ最近数年間のアルカリ量は微減の傾向にさえあることを,ご認識いただきたく思います.

なお,わが国におけるアルカリ骨材反応によるコンクリートの劣化は最近報道されたものを除いてほとんど見あたらず,反応性骨材の使用を避ければ問題はないと考えます.
20年前にも,最近はアルカリ量が減っていると言っています! アルカリ量はこの見解以前には一切公表されていませんでした.(セメント試験成績表にアルカリ量が表示されるようになったのは,見解の3年後の86年10月からです.したがって我が家で使われたセメントのアルカリ量がいくらであったか,旭化成は当然知っています.)

左は見解にある表をグラフ化したものです.国際基準の0.6%をベースにしました.参考のため驚異的に増加した生産量の推移も追加しておきました(70年以前の値は概数).

見解には最小値はありませんが,協会が83年度に45工場に対して調査した結果によると,約2割にあたる8工場が0.6%以下(最小は0.3〜0.4%の1工場)です.逆に高い方では0.9%以上が全体2割にあたる9工場(最大は1.0〜1.1%の3工場)で,平均は0.73%です(『コン危』85頁).

セメント製造方式の転換は,東京オリンピック(64年)頃から始まっています.「セメントの製造方式の変遷によって必ずしもセメント中のアルカリ量が増加しているとはいいがたい」というのは本当でしょうか.

生産量が少なくちょっと怪しげな先頭の55年(昭和30年)データに惑わされなければ,増加傾向を明瞭に見て取れます.0.1%の増加はアルカリ量でみれば1割以上の増加であることにもご注意下さい.

このいわば「犯人側」提出資料によっても,高度成長期に高アルカリセメントが大量に市場に出回ったことは明々白々です.


アルカリ量に関してなんの規制もなかった83年でも,約2割の工場が国際基準を満たす低アルカリセメントを製造していたことにご注意下さい.セメント協会の「歴史的見解」は次のように結ばれています.
(略)わが国でアルカリ量の少ないセメントを製造するには低アルカリ粘土の選択使用やキルン排ガスのバイパス方式によるダストの処理などが必要となります.

前者の場合このような粘土の入手は極めて困難であり,後者の場合は熱消費量の増大や膨大なダスト量の廃棄という問題をかかえ,現実には工業生産上・流通上大変な困難を伴い,高価なセメントとなります.

したがって,ごく一部の反応性骨材のために,アルカリ量を規制することは,国家的に大きな損失を招くことになり慎重な対応が必要です.
アルカリ量の規制は国家的損失とまで極言しています.水俣病事件におけるチッソの姿勢とそっくり瓜二つです.

セメント業界のこのような姿勢が,社会インフラばかりか,きわめて広い範囲の個人資産まで,毀損したのです.これこそ,真の意味で,まさに国家的損失です.




エフロと白華


岩波新書『マンション』を読んで知りましたが,小林一輔氏はエフロレッセンス(以下エフロ)と白華を区別して使っていました.氏によればエフロとはひびわれに水が浸透して溶出してくる白色物質で,ものは炭酸カルシウムです.その形状は堅くこびりついた付着物です.一方『コン危』にでてくる白華は,簡単に除去できる雪状の結晶で,ものは炭酸ナトリウムです.それは水に簡単に溶けます.

小林氏はなぜこの二つを区別したのでしょうか.それはもちろん,この二つが全く違うものだからです.


地元の図書館にあった建築関係の辞典でエフロを調べてみました.

(1)建築大辞典(第一版,76年,彰国社)
石材・コンクリートおよび煉瓦などの表面に侵出して結晶化した白い物質.石材中のアルカリがセメントおよび空気中の硫酸分と化合して出来た硫酸ソーダで,石材を著しく損傷し,石材の風化を促進する.軟石類に多い.コンクリートの場合はセメント中の水酸化石灰が加水分解した水酸化カルシウムの晶出による.「擬花」「白華」「鼻垂れ」などという.
(2)建築大辞典(第二版,93年,彰国社) 内容は後述.

(3)建築用語辞典(第二版,95年,技報堂出版)
石材やコンクリートの表面にできる白い結晶のこと.石材の場合は,石材中の少量のアルカリ金属がセメント中のせっこうや空気中の亜硫酸ガスと反応して硫酸ソーダとなるもので,コンクリートの場合は,主にセメントの加水分解によって生じる水酸化石灰のためである.擬花,白華,鼻垂れなどといわれる.エフロともよぶ.
エフロとは石材またはコンクリートに発生する白い物質のことです.白い物質の正体は,石材の場合とコンクリートの場合で違うことがわかります.違うものに対して同じエフロという名前(=擬花=白華=鼻垂れ)が与えられているわけで,混乱はここから始まります.白華という日本語が喚起するイメージと鼻垂れのそれはまるで違います.もともと名づけた人は別のものを指していたに違いありません.


コンクリートに話を限ります.建築大辞典の第一版は,コンクリートの劣化といえば,中性化による経年劣化(水酸化カルシウム→炭酸カルシウム)を意味していた古き良き時代に書かれたものです.この大辞典第一版も,その定義を踏襲している(3)の用語辞典も,エフロを水酸化カルシウムに関連付けています.

WEB上でみた建築関係の(豆)用語辞典,たとえばヤフー不動産の用語集も,次のようにエフロを炭酸カルシウムだとしています.
エフロレッセンス 【えふろれっせんす】 (略)原因は、セメントの水和生成物としての水酸化カルシウムや硫酸塩などが、ひび割れを通ってくる水に溶け出して外気にさらされ炭酸カルシウムに変化して析出するため。コンクリート劣化の指標のひとつ。
同じくWEB上で北海道農材工業の笠井という方はレンガに発生したエフロをどう処置すればいいのかという質問に対して次のように回答されています.
 レンガおよび目地部分の白い結晶は「エフロレッセンス」と呼ばれ、セメントの硬化で生成した水酸化石灰と大気中の炭酸ガスが化合した炭酸カルシウムが結晶化したものです。その原因はモルタルの乾燥収縮等によりひび割れが発生し、その部分に水が浸入したためだと考えられます。

 対処方法としては、撥水剤塗布表面の処理・清掃をしてから、塩酸除去・高圧洗浄などをして除去することができます。また、ご指摘のように結晶を除去した後に目地に防水モルタルを塗ることにより、補修することができますが、モルタルを塗布する際には、下地モルタルおよびブロックの表面に水浸しをした後に行わないと、乾燥収縮後に再びエフロレッセンスが発生する可能性があります。

 また、何も対処しなかった場合、目地モルタル中の水酸化石灰がなくなれば、それ以上ひどくなりませんが、意匠的にはあまり見栄えがしないので、早急に除去した方が良いでしょう。  
懇切丁寧な説明です.エフロの除去には塩酸処理が必要なのです.また放置しても水酸化カルシウムがなくなればそれ以上ひどくならないが,「意匠的には見栄えがしない」と述べておられるのも,そのとおりだと思います.

コンクリートの場合も,なんらかの理由でひび割れが発生しそこに水が回ると,同様のメカニズムでエフロが発生します.この場合「鼻垂れ」という呼称にふさわしい形状を示すでしょう.


小林氏が定義したエフロは,以上見てきたエフロの定義と同じです.水酸化カルシウムはセメントの水和反応で大量に生成する物質であり,それを起源とするエフロは,おそらく明治時代からよく知られていたと思われます.

エフロ自身は異常現象ではなく,ひびわれがあり,そこに水が回れば出てきて当たり前です.なぜひび割れが発生しているのか,なぜ水が回っているのか,の方が重要です.


一方,小林氏の定義による白華は,コンクリート中に少量含まれているアルカリ金属が関係しています.その意味では,建築大辞典第一版で石材の方に書かれている石材を著しく損傷させるエフロ(ものは硫酸ソーダ)に類似しているといえます.

コンクリート分野の研究者の関心が,早期劣化が社会問題化して以降,水酸化カルシウム起源のありふれた<善玉エフロ>ではなく,アルカリ金属起源の<悪玉エフロ>に移ったのは必然だと思われます.そしてそれは建築大辞典第二版のエフロの定義に,まともとは言い難い形で,反映されました.

93年に出た建築大辞典の第二版では,エフロは次のように説明されています.
石材,コンクリートおよび煉瓦目地などの表面に晶出し結晶化した白い物質.セメントや煉瓦中に硫酸アルカリ,特に硫酸ソーダを多く含む場合に出やすい.軟石類は著しい損傷を受ける.透水しやすいコンクリートにも発生しやすい.エフロレッセンスは冬季の工事で目立つ傾向がある.「擬花」「白華」「鼻垂れ」などともいう.
石材とコンクリートを区別せずに無理やり統一的に扱おうとしています.その結果,第一版の石材劣化に関する明快な説明は失われました.また第一版にあった水酸化カルシウムは姿を消し,明治以来多くの人の眼に触れてきたであろう善玉エフロは,なんの断りもなく,排除されたと思われます.にもかかわらず,「擬花」「白華」「鼻垂れ」に関しては古い版の記述をそっくりそのまま踏襲しています.

驚くべきことに,第二版のこの定義では白い物質の正体に一言も言及していません.謎の白い物質なのです.ここには,謎の白い物質がどのような条件の時発生しやすいか,だけが書かれているのです.

93年の第二版は,76年の第一版以降,大幅に増えたに違いないコンクリートの知見を反映し,エフロの定義を整理する好機だったと思われます.ところが舌足らずでまことに中途半端で曖昧な記述に終わっています.落ちたのはコンクリートの品質だけでなく,建築学者の質も落ちたのでしょうか.


建築大辞典第二版のあいまいな定義は,さまざまな混乱を生んだと思われます.これも地元図書館にあった02年刊の永井達也著『コンクリートがわかる本』(日本実業出版社,02年刊)には次のように書かれています.

風雨にさらされたビルの外壁などには,コンクリートの深いひび割れから浸み出した,見栄えの悪い白色の結晶が見られます.これをエフロレッセンスといいます.これは,ひび割れからしみこんだ水にコンクリート中の硫化カルシウム,硫化マグネシウムなどが溶け出して浸み出し,空気中の炭酸ガスと化合して生じた塩類です.(155頁)
「ひび割れから浸み出した,見栄えの悪い白色の結晶」,硫化カルシウム,硫化マグネシウム・・・? さて同じ本のわずか5頁うしろには次のようにあります.
また,コンクリート中の水分の蒸発とともに,セメント中に含まれる硫酸ナトリウム,硫酸カルシウムなどが表面に出てきて白い羽毛状に結晶することがあります(エフロレッセンス).これと似たものに,セメント中の水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素と化合して炭酸カルシウムになり,白色の析出物が生じることがあります.これを,白汚といいます.(160頁)
おわかりのように,前の定義と後ろの定義では,結晶の形状も関与する物質も,まるで違っています.注目すべきは,後ろの定義において,善玉エフロに白汚という別の名前を与えてエフロから追い出していることです.前の定義は建築大辞典第一版が,後の定義は第二版が,下敷きらしいことがわかります.

後ろの定義は,小林氏がいう白華と似て非なるものです.硫酸ナトリウムが表面に出てきて云々というのでは,溶けていたものが結晶化するだけであり劣化とは無関係なつまらん話です.劣化メカニズムには多くの場合<化学反応>が関与しています.この定義には肝心の炭酸化がすっぽり抜け落ちているのです(白汚の方には明記されている!).

巻末の「さくいん」は,二つの「矛盾する」エフロの定義を,きちんとインデックスしています.これらは別の人が書いたとみるのが自然です.原稿の見直しを怠って本にしたか,それとも読者を混乱させる事が目的なのか,いずれでしょうか.著者は40年近く大成建設に勤められた方です.


さて建築大辞典第二版にもどります.

第二版のエフロの記述が言葉足らずでどうしようもないものであることは疑いようがありません.しかしそれだけにかえって,寡黙な一言一言に,ありがたみがあるのです! 第二版は次のように述べています.
セメントや煉瓦中に硫酸アルカリ,特に硫酸ソーダを多く含む場合に出やすい.
セメント中のアルカリは,原料の粘土に由来するアルカリ金属と,燃料に由来する硫黄分が結合して硫酸アルカリ(硫酸ナトリウムあるいは硫酸カリウム)の形をとっています.つまり建築大辞典第二版は,エフロ(小林氏が言う白華)は高アルカリセメントが使用された場合に出やすいと明記しているのです.

小林氏は「白華公団住宅」で多量の白華が発生した原因について,「この原因については明快であってアルカリ量の多いセメント使用以外には考えられない」と述べています(『早期劣化』213頁)

同書の別の個所では「白華現象は使用したセメント中のアルカリ量が酸化ナトリウム量換算で約1%を越えると顕著に顕れるといわれている」と述べています(『早期劣化』167頁).

アルカリ量とアル骨反応の関係については,小林氏は次のように述べています.
わが国でアルカリ骨材反応を引きおこしたセメントは,いったいどのていどのアルカリを含んでいたのか? 私は0.9〜1.1%と推定している.(『コン危』78頁)
「白華公団住宅」では,アル骨反応も白華も起こった.
「白華ヘーベルハウス」では,骨材規制のおかげでアル骨反応は免れた(?),しかし白華は起こった.

「白華公団住宅」と「白華ヘーベルハウス」で共通することは,アルカリ量の多いセメントが使われたことです.「白華公団住宅」を施工した会社は,その事実を知らなかった(アルカリ量は公表されていなかった)と思われますが,「白華ヘーベルハウス」を施工した旭化成は知っていた筈です.もし知らなかったとすれば,建設省のアル骨反応対策は旭化成には馬の耳に念仏だったことになります.


白華は羽毛状,綿状,雪状などと表現される結晶形態にふさわしいきれいな言葉です.鼻垂れは,たしかにその姿をよく表わしているので裏でそう呼ぶ分には問題ありませんが,正式にはやはり上品にエフロと呼んでおくことにしましょう.

白華という美しい名をもち,水を撒けば淡雪のように溶けてしまうものの本性が実は魔性で,俗称鼻垂れで処理に手がかかるエフロが,実は根は善良なのです.




さてコンクリート構造物において,10年や20年で外観に異常が現われるような早期劣化の原因は,1.塩害,2.アルカリ骨材反応,3.炭酸化の3つとされています.これらは複合する場合があります.「白華公団住宅」では2と3が,山陽新幹線では1から3のすべてが起こっています.

我が家は90年築です.この時期は,塩害,アル骨に関しては,ひとまず規制が打たれたあとにあたります.したがって我が家の早期劣化は炭酸化によると考えられます.炭酸化は中性化を拡張した概念です.

水酸化カルシウム+二酸化炭素 → 炭酸カルシウム+水  (1)

ケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)+二酸化炭素 → 炭酸カルシウム+二酸化ケイ素+水  (2)
(1)が進行すると,水酸化カルシウムがなくなり,水酸化カルシウム起源の水酸基イオンによって保たれていたコンクリートの毛管空隙中の水分のアルカリ性は失われます.これが中性化です. 水酸化カルシウムだけでなく,(2)のケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)や,エトリンガイト,フリーデル氏塩等と二酸化炭素の反応まで含んだものが炭酸化です.


(1)と(2)は同時並行的に進むのではなく,「悪玉」二酸化炭素の「侵略」に対して,まず大量に存在する「最前線」の水酸化カルシウムが身を挺して「防戦」し,善戦むなしく水酸化カルシウムが「玉砕」して空孔液がアルカリ性を失った段階から,(2)が起こる・・・とされているようです.

二酸化炭素の影響が(1)の段階でとどまっている限り,コンクリートの圧縮強度はむしろ増加します.しかし(2)によってC-S-Hが分解し始めると,圧縮強度は低下します.C-S-Hの堅固な結晶構造は,水酸化カルシウムとは違って,コンクリートの強度の源泉だからです.

昭和初年の浜田式に始まる古典的な経年劣化の考え方では,(1)が進行し中性化が鉄筋位置に達した段階から,鉄筋腐食に起因する物理的劣化が始まるとされていました.ところが炭酸化の考え方では,鉄筋腐食が始まる以前に,「コンクリート腐食」による物理的劣化が進行していることになります.「白華公団住宅」基礎の急激な圧縮強度の低下はこのメカニズムで説明されました.


炭酸化はどのような条件で進行するのでしょうか.『コン危』に簡潔に述べられています(65頁).
炭酸化の速度を支配する要因は何か?コンクリートの多孔性とアルカリ性である.

前者は物理的要因で,セメントに対して水分の割合の多いコンクリートほど炭酸化しやすい.後者は化学的要因で,アルカリ量の多いセメントや,塩分を含む海砂の使用が,コンクリートの炭酸化を加速する.
炭酸化を加速する要因としてアルカリが登場しています.

左は『コン危』にある図です(同書66頁).

炭酸化は現象として中性化を伴います.一定材令の炭酸化深さの比較は,以前の用語でいうと中性化速度定数を比較するのと同じです.したがって図は中性化速度定数とアルカリ量の関係とみることができます.

中性化速度定数が,水セメント比,セメント種別,施工品質などによって変化することは,浜田式のところで述べました.この図は,同種のセメントであっても,含まれるアルカリ量によって中性化速度定数が変化することを示しています.

アルカリ量が0.3%多いと水セメント比が10%増えたのと同じくらい炭酸化を加速する,と図から読めます.

図の縦軸の単位は小さすぎます.『早期劣化』に記載の図では縦軸もグラフの形も少し違っています.この点に曖昧さが残りますが,過剰のアルカリ分が耐久性に悪影響を与えるという結論は動かないと思われます.


過剰のアルカリ分は,「強度の低下を招いたり,凝結時間の調整を困難にしたり,乾燥収縮を増大させたり,硬化後に異常膨張を起こすなどの好ましくない結果」(後述する小林論文より)を生じます.それにとどまらず,長期的にはコンクリート構造物の経年劣化を加速するのです.東京オリンピック以降のコンクリート構造物の中性化速度定数が以前に比べて大きいのは,一つにはアルカリ分の多いセメントが使われたからなのです.



83年のアル骨反応騒ぎに対して,セメント協会が,骨材規制で十分である,アルカリ量の規制は国家的損失を招くと,居丈高に反撥したことは,同年10月の「歴史的」セメント協会声明でみて頂いたとおりです.これに対し小林一輔氏は85年はじめに『コンクリート構造物の早期劣化とセメントの品質』(土木学会論文集,85年2月号)と題する「技術展望」論文でセメント協会の姿勢に異議を唱えました(以下この論文を小林論文と略記).

小林論文は協会声明とは異なる意味で歴史的です.それまで疑われることのなかったセメントの品質を真正面から問題にした論文だったからです.

小林論文は同年4月5日のNHK「ニュースセンター9時」で取り上げられ波紋が広がり,セメント協会は『セメント・コンクリート誌』5月号に協会名で反論論文を掲載します(以下この論文を協会論文と略記).協会論文は小林一輔という名を一度も出さず(つまり某氏あつかいです),「わが国セメント工業の製造技術および品質管理技術の現在の水準を(略)20年以上も前の技術水準で説明している」と斬り捨てました.まさに門外漢が何を言うかという調子です.小林氏の主張が
「セメントの品質は工場によってかなりの相違があり,また,同一の工場で生産されるセメントの品質も,原料や燃料の関係で大幅に変動する可能性をもっている」(小林論文より)
というものであったのに対し,セメント協会は
「日本中の 全工場製品をひとつの銘柄とみなせるほど均質化が進んできている」
「どの工場のセメントかを知る必要はない」
(協会論文より)
と主張しているのですから,これは正面衝突です.


小林論文は品質変動の原因として,セメント製造方式すなわちSPキルン方式の問題点をロータリキルン内に形成される奥リングと呼ばれるものに焦点を合わせて論じました.これに対し協会論文は次のように短く反論しています.
(略)奥リングが付くのはきわめてまれなケースではあるが,万が一奥リングが形成され,それが落ちた場合の対処について以下に述べる.

奥リングが形成されたかどうかはキルンシェル温度等で判断しており,これが落ちた場合にはキルン駆動用のモータ電流または電力値,焼点温度等の異常で速やかに察知することができるようになっている.異常が生じた場合は,(略)などの操作により,焼成不十分なクリンカをキルンから出さない運転方法が確立されている.従って,論者のいわれるような「欠陥セメント」が製造・出荷されることはないのである.
すでに万事解決済みの問題であるという紋切り型の反論です.これに関して『コン危』に後日談が載っています.セメント協会研究所の技術部長と次長が東大小林研究室を訪れたというのです(同書172頁).小林氏は次のように述べています.
私が明らかにしたロータリーキルンにおける奥リングの話になった.最初,「奥リングなどはできないんですよ」と切り込んできた.私の論説は聞きかじりでまとめたのではないかと探りを入れてきたのである.これに対して,「じつは国内のあるセメント工場で奥リングを見ましたよ」と応じた途端,それまで居丈高だった相手の態度が急変した.「それは関東の工場ですか?」と聞いてきたのである.
続く部分で小林氏はSPキルン方式の問題点を次の二つに要約しています.

ひとつ,系内の部分的な乱れが系全体におよぶ可能性が大きい.系全体が乱れてキルンの運転がコントロール不能に陥る結果,欠陥セメントが生じる.ふたつ,原料の選定に注意を払わないと,高アルカリセメントができる.

そして,この2点は「いずれもセメントメーカーが公表していなかった問題」であると小林氏は述べています.ヤバイことは表に出していないのだから,門外漢が知っている筈がないという思い込みが「居丈高な態度」につながったと思われます.




上左のグラフは小林論文にある83年度のアルカリ量の工場ごとの分布を示したものです(全国45工場).0.6%以下の低アルカリセメントを製造しているのは,8工場にすぎません.(赤線は現在のJIS規定値0.75%)

分布データは協会発表のものですが,グラフ自体はどこが作成したのか私は知りません.このグラフは『早期劣化』にも『コン危』にも引用されています.1年ほど前『コン危』で初めてこのグラフを見たとき,ちょっとヘンな感じがしました.横軸が普通とは逆に右方向に小さくなっているのです.この描き方ではアルカリ量1.2%以上は世の中に存在しないような錯覚を起こさせます.

上の右の図は左右を反転させたものです.こちらのアルカリ量は普通に右にいけばいくほど増えていきます.0.6%を越える分は思い切り強調しておきました.

第三者機関が測定すれば分布はもっと右に広がるのでは? 削ぎ落としたような「絶壁」は,無理やり左に圧縮した結果じゃない?・・・・・・こう疑われても仕方がないことを以下に示しますが,その前にこの分布図が真実であるとしても,「どの工場のセメントかを知る必要はない」という協会の主張が「著しく説得力を欠く」ことは明らかであることを付言しておきます.


小林論文にはセメントの圧縮強度,粉末度,比重,凝結時間に関して,<工場間で最大どの程度ばらついているか>が83年まで20年分グラフ化されています.たとえば圧縮強度は(最大値,最小値,平均値)の年別推移が示されています.

これらのグラフは,セメント協会が毎年実施している定期試験の結果をもとにしています.定期試験とは,「わが国のセメント工業全体の品質水準の傾向を把握するため」(協会論文より),毎年1回全国のセメント工場の製品について行われている化学分析・物理分析のことです.

セメント協会は定期試験結果のうち平均値だけ公表していました.小林論文に「平均値の年間変動が比較的小さいことを示して,たとえば“最近11年間のセメントの品質は安定した状態にある”と結論することは著しく説得力を欠くものである」とあるのは,公刊されているセメント年鑑などにおいてセメント協会はそう主張しているものと思われます.

定期試験によると品質はどの程度ばらついているのでしょうか.83年の圧縮強度でいえば,全国45工場で,(最大値−最小値)は約100(材令28日圧縮強度,単位はkgf/平方cm,以下の圧縮強度も同じ)となっています.ちなみに平均値は400強です.

“セメントは同じ普通ポルトランドセメントであれば,いずれの銘柄・工場のものでも品質が大きく異なることはない”ということが,現在の土木学会の「コンクリートおよび鉄筋コンクリート標準示方書」の大前提になっている
のに,工場間でこんな差があるのは問題ではないかと小林氏は指摘しました.

これに対し協会論文は,標準偏差を持ち出して反論しています.83年度の圧縮強度の標準偏差は約20である,一方55年当時のそれは約30である,また57年当時の「もっとも変動の少ない銘柄のセメントでも標準偏差は20」である,だから
現在のセメントは当時の1銘柄に匹敵し得る品質変動となり,一層均質化され,品質変動の少ないセメントになっていることを物語っている.
(最大値−最小値)100が問題ではなく,標準偏差20に着目すべきである,100というのは±3σの範囲内で「統計的」には異常ではないのだ,どうだわかったか・・・・・・とまで思ったかどうかは知りません.


さて定期試験は,いったいどこの試験所で行われているのでしょうか? というのは試験所によって結果が大きく変わるらしい(!)のです.

セメント協会は<共同試験>と称して「試験精度の向上に役立てるため,毎年1回わが国のセメントを取扱う各試験所に同一試料を送付して,化学分析・水和熱試験・物理試験(JIS,ASTM,BSの各試験方法)を一斉に行い,その結果をとりまとめて」います(協会論文より).

共同試験は上で述べた定期試験とまったく違うものです.定期試験は国内全工場のセメントを特定の試験所(おそらく工場付属の試験所)で試験するものであるのに対し,共同試験は「試験精度の向上」を目的として「同一セメント試料」を全国の試験所で試験するものです.

協会論文に,共同試験で得られた圧縮強度の結果が,74年から10年分,セメント協会会員の試験所と会員外の試験所にわけて示されています(会員試験所の多くはセメント工場付属の試験所であり,公的機関,大学研究所などはもちろん会員外試験所だと考えられます).下図はその表をもとに年別の(最大値−最小値)と標準偏差をグラフ化したものです.

圧縮強度に関する共同試験結果
左図から標準偏差だけ取り出したもの


83年度でいうと,会員試験所では(最大値−最小値)が62で,標準偏差は13.8です.これは定期試験の結果(それぞれ約100,約20)と矛盾しません.ところが会員外試験所では「同一試料」に対して(最大値−最小値)が137で,標準偏差は30.2なのです.もし,会員外試験所で定期試験を実施するといったいどんな(オソロシイ)結果が得られるでしょうか?

10年間通しでみると,会員試験所の最大値は492で最小値は375です.10年間,のべ659個所の会員試験所の実測値がすべてこの(492−375)の範囲内に納まっています.ところが一方,のべ845個所の会員外試験所では,その範囲は(488−234)であり,強度が出ていない方向に大きくばらついています.会員試験所では10年間の最小値が375であったのに対し,会員外試験所では,最小値が200台(つまりJIS規定値300に満たない)年が10年のうち5年もあります.

会員試験所と会員外試験所で,「同一試料」を使って,どうしてこんなに結果が違うのでしょうか.理由らしきものを協会論文は2つ挙げています.

ひとつ,「セメントの試験方法に内在するばらつき」が問題であり,「ばらつきの小さな試験方法は世界各国いずれにもない」と協会は述べています.試験精度が本質的に低いとすれば,会員であっても会員外であっても同じようにばらついていい筈です.ところが両者を比較するとばらつきの様子が全く違い,その傾向は10年間変わっていないのです.つまり,試験精度は会員と会員外で結果が大きく違うことの説明になっていません.

ふたつ,「試験方法に習熟しているセメント協会会員の試験所」と書いてあるところを見ると,会員外試験所のスキルが低いと協会は言いたいようです.圧縮強度のような基本数値で,スキルのせいでこれだけ差が出るのはたいへん問題ですから,講習会を開くなりして技術伝達につとめ,「試験精度の向上」に勤めるのがセメント協会の責務です.共同試験はその為に実施されているのです.ところが10年実施して,会員外試験所の標準偏差がまったく減少せず相変わらず会員試験所の2倍以上というのは,おかしいではありませんか.

材令28日の圧縮強度の測定というのは,そもそもそんなにスキルを要するものなのでしょうか.いやしくも試験所と銘打った機関で400以上あるハズのものを,スキル不足でJISぎりぎりと判定するようなレベルの低いところが実在するのでしょうか.標準偏差の大きさからみて,「レベルの低い」試験所は1箇所や2箇所ではありえません.そんな「おかしな」試験所が存続し続けていることをセメント協会はなぜ問題にしないのでしょうか.


「試験方法に習熟していない」試験所など実在しないと私は思います.ごく素直に,利害関係のない第三者機関の測定値が真実を伝えていると考えるべきです.セメント協会が「同一試料」としているものの品質に実際は大きなばらつきがあるのです.

会員試験所は都合の悪いデータを捨てているのです.なぜ都合が悪いか.セメント品質は「どの工場のセメントかを知る必要はない」ほど均質化しているというセメント協会の建前に反するからです.


小林論文に次のようにあります.
“(セメント協会発表の数値は)どちらかといえば控えめの結果であって極端な値はオミットされている.実態はこの程度のものではなく,これらを上回る変動がある”と指摘する人が多い.セメントの品質試験成績表なるものがセメントメーカーから出されているが,これをどのように評価すればよいのか,改めて考えてみる必要があろう.
共同試験に参画している人ならそう指摘して当然です.JISに満たない200台の強度が「極端な値」であることは言うまでもありません.セメント協会会員の試験所が「極端な値」を報告することは<絶対ない>のです.

小林氏が抱いた危惧は,セメント協会のいうように「無用の不安の念を抱かせる」ものではなく,まったくもって正当であることを,セメント協会が共同試験結果を持ち出すことにより,自ら証明したのです.

協会が共同試験結果を持ち出した目的は,小林氏のJIS改正私案に反論することにありました.同一試料でこれだけばらついているのだから,強度のより精密な規定を提案した小林私案は無意味であると反論したのです.反論に熱くなりすぎてヤブヘビになったのです.


小林氏は強度の精密規定の必要性を次のように説きました.強度が350のものと450の2種類のセメントがあるとして(JIS規格は単に300以上),コンクリート強度を所定の設計強度270にするために日本建築学会のJASS5の式で計算すると,水セメント比は,それぞれ約55%,約65%になり,後者は(中性化速度係数が大きくなり)経年劣化しやすくなる,だからセメントの強度規定に上限がないのは問題である(イギリスでは現に問題になっている),JISを改正すべきである・・・と小林氏は論じました.

小林氏は試験成績表が正しいことを前提に論じています.ところがそもそも「品質試験成績表なるもの」の評価を「改めて考えてみる必要」があるとするならば,小林氏と同じ論法で,もっと悪い状況を容易に想定することができます.

成績表で450あっても実際は350しかない,450だと思って配合設計すると,設計強度にも達せず,耐久性も乏しい(まるで我がヘーベルハウスの基礎のような)コンクリート構造物が,施工になんの問題がなくても,いとも簡単にできあがるのです.

品質試験成績表というのはこれほど大切なものです.建築学会の××式も,土木学会のコンクリート標準示方書も,すべて「セメントは同じポルトランドセメントであれば,いずれの銘柄・工場のものでも品質が大きく異なることはない」,そしてその品質は工場が発行する試験成績表に記載されているとおりであるという事が,つまりセメント協会の言うことが本当であることが,大前提になっています.ところがそれが怪しいとなると,建設関係者にとってまさに青天の霹靂の一大事です.

『コン危』に小林論文に対する同業者の反応が次のように述べられています.
私と同業であるコンクリート工学分野の学者は,ほとんどが土木工学科や建築学科出身であるが,「いったい何がおこったのか?」「セメントに問題があるなど考えてもいなかったが?」という受けとめ方が一般的であった.
小林氏の指摘を真正面から受け止めた人も中にはいたでしょうが,大部分の関係者はいつまで経っても「いったい何がおこったのか?」「セメントに問題があるなど考えてもいなかったが?」を繰り返すだけだったのではないでしょうか.みなそれぞれに立場というものがあるからです.ところが
セメントやセラミックス分野の学者の反応は違っていた.私が提起したセメント製造と原料問題はまさにこの分野の問題であった.門外漢である私の指摘した問題に対して,多くの学者が理解をしめした.日頃から心配していたことを代弁してくれたという思いがあったのであろう.ことあるごとに私をサポートしてくれた.まったく予想もしていなかったことであった.
本物の専門家たちは門外漢の指摘に耳を傾け理解をしめし門外漢を支援したのです.とてもいい話です.


小林論文が書かれた85年時点では,ポルトランドセメントの品質規定(JIS R5210)にアルカリ量の規定はありませんでした.アルカリは野放しだったのです.小林論文のJIS改正私案では,「アルカリ分の規定値を導入することはもはや動かしがたい時代の趨勢」として,アルカリ量0.6%以下が提案されています.

その後JISは86年2月に改正され,低アルカリ形セメント(アルカリ量0.6%以下)が導入されました.これは小林私案と似てまったく非なるものです.

セメント協会は,アル骨反応対策として,「反応性骨材を使用せざるをえない場合に,全アルカリ量0.6%以下を保証した低アルカリ形セメントを供給」するとすでに公表していました(協会論文より).86年のJIS改正はこの<お約束セメント>を別枠として組み込んだものです.ところが83年10月の協会声明において協会は低アルカリ形セメントは高価になって国家的損失を招くがそれでいいのかと恫喝しているのです.低アルカリ形セメントに法外価格が設定されたことは間違いありません.

低アルカリ形セメントは86年以降の建設省のアル骨反応抑制策の選択肢の一つでした.しかしそれがほとんど生産されなかったことは,02年の国交省のコメントで見たとおりです.協会のメンツを守るための法外価格では需要がある筈がありません.誰も見向きもしないまま,02年の新抑制策では低アルカリ形セメントという選択肢は消滅しました.低アルカリ形セメントというのは,結局,なんの役にも立たない形だけの,いわば協会のアリバイ用セメントだったのです.

普通のセメントは相変わらずアルカリ量不問のまま製造され続けました.86年10月からセメント試験成績書にアルカリ量が表示されるようになりました.それまでは表示すらされていなかったことを思えば,改善といえば改善ですが,気休めの改善です.速度違反を規制するのに,それまでなかった速度計をつけるようにしたというだけです.法定速度はなく,200kmでぶっ飛ばしてもおとがめはないのです.


アルカリ量がJISで規制されるようになったのは,92年7月のJIS改正からです.0.75%以下と規定されたのです.アル骨反応が顕在化してから9年,小林私案から7年経過していました.(規定値は現在も同じです.)

86年2月21日の衆議院商工委員会で,故渡辺美智雄通産大臣は次のように答弁しています(『早期劣化』より).
せっかくセメントで家をつくっても,ぼろ家になるようなことは困るわけですから,それは原料の段階でそういうことが最初からわかっているようなセメントをつくらせてもいけませんし,極めて技術的なことでありますから,きちっと研究をいたさせます.
たしかに極めて技術的なことでしたが,JISに「きちっと」反映させるのに,6年かかりました.もちろんセメント業界が抵抗したからです.

JISというのは,目標とすべき品質水準ではなく,最低限守るべき品質水準です.住友大阪セメントのサイトでは同社の普通ポルトランドセメントの品質とJISが比較されています.アルカリ量は低アルカリ形セメントの規格を満たす0.58%となっています.メーカーにとってJISは守って当たり前で,守っているというだけでは宣伝にならない品質水準です.

0.75%は上記のアルカリ量分布図で丁度真中です.高度成長期に大量に生産されたセメントの少なくとも半分は,ことアルカリ量に関しては,JIS水準以下の低品質セメントだったということです.高度成長期のコンクリート構造物は,材料品質と施工品質の両面で問題があったのであり,施工品質だけに焦点をあてた三井論文は,セメント業界および監督官庁の責任の所在をあいまいにするという役割を担っているのです.

92年にJIS規制が始まったのは,なにも当時アルカリ量が急増したからではありません.逆です.減ってきたから,規制したのです.減ってくるのを待って後追いで規制したのです.なぜか.無論,通産省,建設省が業界意向を最優先したからです.おかげで本来なら淘汰されるべきセメント会社は延命できました.しかしその間も製造され続けた低品質セメントの「つけ」は,35年耐用マンション,30年耐用住宅という形で,国民にまわってきたのです.




はっきりわかったことが一つあります.

アルカリ量がJISではじめて規制された時,少しでも問題意識のあるハウスメーカーなら,自分達が過去に作ってきた家の中にミッチーがいった「ぼろ家」が含まれている筈であることを認識したでしょう.少しでも良心のあるメーカーなら,やましさから,過去の話は避けようとしたでしょう.

下は03年秋の『へーべリアン』裏表紙に掲載された,98年9月4日旭化成全面広告(熊野コンセプト広告)についての解説です.



旭化成の住宅広告が他メーカーとはっきり違う点があります.築20年,30年のヘーベルハウスを前面に押し立てた実績宣伝広告であるという点です.上記全面広告でも築25年のヘーベルハウスの大きな写真が載っています.そして後には,試験棟まで持ち出して『30年目点検異常なし』とやったのです.

コンクリート工学を専門とする学者ですら,「いったい何がおこったのか?」「セメントに問題があるなど考えてもいなかったが?」というありさまだった低品質セメントの罠に,どういう理由で旭化成だけが,はまらなかったのでしょうか?


旭化成の住宅戦略は詐欺的なのです.わがヘーベルハウスの『10年目点検異常あり』がその証明です.





5.イヒ報告書

「15年基礎特別点検調査報告書」−たいそうな名前ですが,これはすでに見て頂いた05年4月21日付け旭化成見解に付けられている題名です.長すぎますので,以下この報告書をイヒ報告書と略記します.イヒが旭化成を象徴する旭化成公認のシンボルであることはすでにご存知のとおりです.

イヒ報告書は写真でご覧のとおりペラペラの一枚ものですが,その他にシュミットハンマー(SH)計測グラフのコピーが添付されていました.グラフには私のサイン(取られた経緯は既述)が読み取れますが,肝心の棒グラフは濃さがうすくてほとんど読み取れないほどです.棒グラフは全部で4群に分かれていて,それぞれ基礎の東西南北各面に対応しているとのことです.イヒ報告書の執筆者H氏は,どれがどの面に対応しているか口頭で説明しました.私はイヒ報告書に記載のR値自体は信用しますが,この口頭説明は?だと思っています(後述).

イヒ報告書は白華に関する書面見解を要求した結果でてきました.書面見解を出すには中性化深さと圧縮強度のデータが必要ということで,H氏とI氏が3月3日に実測し,その1月半後の4月21日に提出されたものです.実測の翌週に提出されたものではないことを強調しておきます.

左は5月7日に撮った写真です.1と2は中性化深さを測る際にドリルで開けた穴を旭化成がモルタルで埋め戻した跡です(1が旭化成の測定場所,2が私の指示した白華近傍場所でこれだけ違っています).1箇所で横並びに3つ開いた穴を丁寧に埋め戻したため,その跡はご覧のような形になっています.

私はこのモルタルの色を見て,10年点検時に和室下に旭化成が塗ったのはモルタルだとわかりました.旭化成はモルタルを薄く塗って白華に対処したのです.これは考えられるもっとも安直な対応です.

3はSHで打撃を加えた痕跡です.5行4列で計20ポイントですが,一番上の4点を矢印で示しました.少なくとも一番下の4点には白華の影響がでている筈だと私は思いましたが,イヒ報告書によるとこの南面基礎がもっとも強いということになっています.


イヒ報告書のテーマは3つあります.中性化深さ,圧縮強度,そして肝心の白華に対する見解です.


<中性化深さについて>

<15年点検時の中性化深さ(mm)>
  場所 穴1 穴2 穴3 平均
基礎上部(上記1の場所) 18.5 9.0 24.0 17.2
基礎下部(上記2の場所) 21.5 23.0 24.5 23.0
<参考図>
赤線部が白華発生個所のつもりです.


90年当時のヘーベルハウスFシリーズパンフレットには,「土台の鉄筋コンクリート連続布基礎は,70年以上もの耐久性を備えています」とあります.一方00年9月2日の2面通し(!)の金のかかった全面広告では「基礎の耐久性は60年以上」となっています.10年短くしたのは,旭化成にちょっぴり良心があったことを示しています.

耐用年数の根拠は中性化による経年劣化理論(浜田式)です.同じ理論によってわがヘーベルハウスの基礎の耐用年数は26年です.中性化深さ23mm/15年が意味するのはそういうことです.「中性化進行は少し早いと思われます」などと,なにを寝ぼけたことを言っているのでしょうか.


<圧縮強度について>

イヒ報告書には,圧縮強度の数値は一切記載されていないことにご注意下さい.「シュミットハンマー試験の数値上基礎強度に関しては特に問題ありません」とあるだけです.当然のことながら私はH氏に質問しました(再掲).

「圧縮強度はいくらなのですか.」
「非破壊検査に電話で相談したところ,230kgでていて問題ないという話です.」
「この表を送ってそういう答えだったのですか.」
「いや,平均値だけ伝えました.むこうは全部の値が知りたいと言っていましたが.」

「ヘーベルハウスの設計値はいくらですか.」
「当時のヘーベルハウスは210kgです.」

「旭化成ではお客さんに強度ではなくR値で説明しているのですか.強度なら,設計値とくらべて問題ないかどうか客にもわかるけれども,R値ではなにもわからないではありませんか.」
「旭化成はいつもそれでやっています.」
「いくら以上反発度がでていればOKとしているのですか.」
「30以上ならOKだとしています.」
H氏はちょっと自信がなかったのか,I氏に同意を求めました.「そうです,30以上です.」

以上,既述部分から再録しました.最後に出てくる30以上ということに関して,前と違う推理を述べます.こちらの方があたっていると思います.

R値を圧縮強度に変換する式がいくつかある中に,いかにも権威ありげな名前のついた某式があります.某式を使って圧縮強度を求めると,我がヘーベルハウスの基礎は229〜262という非のうちどころのない素晴らしい値になります.そして某式ではRが30の時圧縮強度は200になります.これが「30以上ならOK」というH氏の言葉が意味しているところだと考えられます.

某式を使って圧縮強度を求めた結果これこれのすばらしい値になりますと,「客に安心して頂く」ことをモットーとする旭化成は,なぜ胸を張ってイヒ報告書に記載しなかったのでしょうか?

旭化成は某式に問題が多いことを知っているのです.だから某式で得られた数値を,文書に一切残していないのです.某式を使って顧客対応している証拠を,旭化成は文書に残したくないのです.


某式信奉者(現に一人いました)に一言,某式は旭化成からみれば,名前すら出せないうさんくさい式なのです.


下表は旭化成の実測R値を用いて,圧縮強度を日本材料学会式圧縮強度推定式で求め,「材料試験」第7巻第59号にある材令補正係数0.63(材令3000日の値)で補正した値です.『コンクリート便覧』(96年刊,技法堂出版)には,材料学会式または旧東京都建築材料検査所による式がよく使用されているとあります.(蛇足ながら上記某式はこのいずれでもありません.)

<圧縮強度(kgf/平方cm)>
-10年点検15年点検5年減小率30年推定値60年推定値
南面238.7224.50.94186.9129.5
東面211.3 205.5 0.97189.3160.5
北面199.4180.1 0.90 132.972.3
西面213.3204.30.96179.5138.6
平均215.6203.60.94171.3121.4


10年点検時から15年点検時まで,5年間でどれだけ圧縮強度が低下しているかを第3列に示し,同じ減小率を仮定すると,築30年時,築60年時にどうなるかを示しておきました.

ご覧のように,白華で荒れた南面がもっとも堅固で,これまでまったく目立たず日陰の存在だった北面がもっとも脆弱である,ということになっています.「白華公団住宅」の測定結果で示したように,白華が発生していない基礎でも大幅な強度低下の例がありますから,北面に問題があっても驚きはしませんが,白華まみれの南面がもっとも堅固だというのはどう考えてもおかしく,南北がすりかわっている可能性が高いと私はふんでいます.(検証は容易ですが,あわててやる必要などありません.いずれわかることです.)


さて築10年では設計規準以下が北面だけであったのが,築15年では3面がすでに設計規準を下回っています.そして築30年ではすべての面が設計規準以下になり,築60年ではJIS規準さえ大幅に下回ると推定されます.

ヘーベルハウスの基礎が60年耐用だとすれば,築10年から築15年で圧縮強度がこれだけ低下するのは異常です.しかし30年耐用だとすれば別に異常ではありません(北面はそれでも異常ですが).

旭化成はこれまで我が家が異常であるとは一言も言っていませんので,ヘーベルハウスというのはもともと30年耐用住宅なのです.60年耐用住宅というのはなんの保証の裏付けもない単なるセールストークであり,それを信じるのはマヌケであると,旭化成は態度で示しているのです.



<白華について>

白華についての見解にあたる部分は,「エフロレッセンスとの関係で基礎に問題がないとはいえないと考えます」だけです.10年点検報告書には白華発生と明記され,15年点検報告書には白華に関する見解が聞きたいと顧客要望が記載されているにもかかわらず,イヒ報告書ではどういうわけかエフロレッセンスが使われています.

上で北海道農材工業の笠井氏が,きわめて明快にエフロとは何かを説明している例を挙げました.ここではそれと対極の例を,大手企業のQ/Aからあげてみます.長谷工の大規模修繕マンションリフォームなんでもQ&A に次のようにあります.
Q16. エフロレッセンスはなぜ、発生するのですか?

「白華現象」ともいいます。この現象は石材やコンクリートなどの表面に浸みだして結晶化した白い物質が垂れ下がる現象で、コンクリートの場合はセメント中の水酸化石灰が加水分解して水酸化カルシウムを発生させて、コンクリートの劣化を促進させる現象です。
水酸化カルシウムが発生?? プロとは思えないひどい説明ですが,長谷工はエフロ=白華=炭酸カルシウムという立場のようです.エフロ=炭酸カルシウムとしている点は,笠井氏と同意見です.

見逃してならないのは,長谷工はエフロを「コンクリートの劣化を促進させる現象」としている点です.一方の笠井氏は,エフロというのは基本的には美観の問題であるとしていたことにご注意ください.

長谷工は,近年劣化因子としての重要性が明らかされ,92年以降JIS規制されるようになったアルカリを排除しています.「コンクリートの劣化を促進させる現象」を,明治以来おなじみの「はな垂れ」に限定しているのです.

長谷工の,エフロ=白華=カルシウム炭酸塩=「コンクリートの劣化を促進させる現象」という見解は,エフロ=白華をてこにして,『コン危』著者小林氏の白華=アルカリ炭酸塩=「コンクリートの劣化を促進させる現象」を完全に排除・否定していることにご注意ください.

善玉カルシウムに罪をかぶせて,アルカリを隠ぺいするという手法は,コンクリートの早期劣化問題に利害関係を持つ企業のごまかしかたの一つの典型だろうと思われます.

エフロあるいは白華に関する見解は,コンクリートの早期劣化に対してどういうスタンスの企業であるか,建築士であるか,あるいは学者であるか(「はな垂れ」を重大視して「コンクリートに問題があることを暗示している」とした学者の例を第12章御用学者のところで紹介しました),を示すリトマス試験紙の役目を果たしています.


旭化成がエフロ=白華と考えていることはわかりました.さて旭化成はエフロとは何かを説明しているでしょうか.ここでばったり口をつぐむのです.

H氏は庭先で白華とは何かを私に説明しました.私は同じ説明でいいから書面でくれと要求したのです.ところがご覧のとおりイヒ報告書には一言も説明がありません.旭化成の口頭説明というのは,この場合においてもいつものとおり,その場限りの「客に安心して頂く」ための説明だったのです.

私以外の白華ヘーベルハウスの住人(H氏に2度にわたって白華発生事例を尋ねましたが,彼は2度ともそれが存在することは否定しませんでした)に対して,旭化成がこれまでどんな口頭説明してきたかを想像すれば,イヒ報告書において,旭化成が一言もエフロの説明ができないのは,きわめて当然です.


「基礎に問題がないとはいえないと考えます」という旭化成の一言をもって,旭化成が譲歩しているとみなすべきだとアドバイスした建築士がいました.基礎に問題があることなど,はじめからわかっています.表面がぼろぼろと崩れて白い粉を噴出しているのですからどんな素人にも異常だとわかります.

左と下の写真はちょうど一年前の昨年7月4日午前9時頃撮ったものです.この2,3日前は雨でしたが,この日は快晴でした.左の写真で矢印の,玄関横の雨どいの後ろあたりが下の写真です.大きな影は雨どいの影です.

拡大画像をよく見ると小さな穴にぎっしり白い粉がつまっているのがわかります(特に右隅あたり).内部で起こった化学反応の生成物が噴出しているのです.毛管空隙の孔径は2nmから1μmだそうですが,写真の穴は目にみえるほど大きくなっています.初めはこのような形で表面に白い華が咲くだけですが,進行すると画面中央のようにセメント硬化体が崩れ骨材が露出してきます.

白華の正体は水に難溶の炭酸カルシウムではありません.強アルカリの炭酸塩です.反応性骨材がもしあれば,アル骨反応を起こしていたであろう過剰のアルカリ分の炭酸塩です.白華はアルカリ分の多い低品質セメントが使われた動かぬ証拠です.


(↑click)


中性化深さが23mm(15年)に達しており,表面が「腐食」しはじめているにもかかわらず,圧縮強度が225kgf/平方cmあるという我が家の南面基礎は,ひょっとして世間では類を見ない珍種コンクリートかもしれません?? 学問的に貴重な「お宝」の可能性がありますので,隠ぺいに手を貸さず,このまま現状保存に努め,奇特な学者の究明を待つことにしましょう.



さてこれまで度々引き合いに出させて頂いた「白華公団住宅」に,最後にもう一度登場してもらうことにします.

昨年『コン危』ではじめて「白華公団住宅」のことを知った時,その欠陥があまりにも酷いものなので,公団側もなにか手を打ったのだろうと思いました.しかし『コン危』には「白華公団住宅」のその後は書かれていませんでした.今年に入って3月3日の実測後に勉強した92年刊の『早期劣化』にその後の経緯が簡単に記載されていました.そして00年刊の『マンション』には,さらにその後の話が書かれていました.


「白華公団住宅」を我が家と対比すると次のようになります.

「白華公団住宅」我が家
施工年70年代前半90年
現象雨漏り,ひび割れ,基礎に白華基礎に白華
調査1.公団側調査委員会(85年06月完)
2.小林グループ調査(85年12月完)
「イヒ報告書」(05年4月)

85年に行われた調査結果を振り返っておきますと,公団側の調査委員会の結論は
 1.圧縮強度は202〜553kgf/平方cmである.
 2.中性化深さは,屋根大庇下面,ベランダ先端部以外は,5〜10mmで通常のコンクリートと同程度である.
というものでした.むろん基礎にもまったく問題ないというのが公団側見解です.一方小林氏が全体31棟から2棟を選んで基礎を調べた結果は次のようなものでした(再掲).基礎にも大問題あり,です.


コア採取位置
中性化深さ(mm)圧縮強度
(kgf/平方cm)
外側内側
12号棟
ベランダ下基礎
地上部分3121164
地中部分00254
14号棟
北側基礎(白華発生)
地上部分287147
地中部分00198




85年11月18日付け朝日新聞
左は小林氏側の調査結果が出る少し前の時点の住民側と公団側の交渉の様子を伝えた朝日の記事です(『早期劣化』より).同記事によると対立点は次のようにきわめて鮮明です.

公団側は「原因はコンクリート板製造上の部分的な施工不良.コンクリートの品質に起因するものではない.できるだけ早く補修していきたい」と主張.

住民側は「素人目で見ても,単純な施工ミスとは思えない.原因解明を遠ざけて,やみくもに補修しても住民は安心できない」と主張.



その後の経緯は『早期劣化』の年表によると次のようになっています.

86年11月,団地管理組合臨時総会,日本住宅・都市整備公団に対する損害賠償請求訴訟を起こす議案を圧倒的多数(賛成816,反対31)で可決.

87年5月,団地管理組合,日本住宅・都市整備公団と和解.公団の補修費分担による大規模補修工事に着工.


「大規模補修工事」が実現して一件落着か? ところがそうではなかったのです!


00年刊の『マンション』で小林氏は「白華公団住宅」について次のように述べています(同書8頁).

このような(基礎の)強度低下は建設後,わずか15年でおこっていた.不安を感じた管理組合は,分譲した旧住宅・都市整備公団(現都市基盤整備公団)にたいしてくりかえし善処を要望していたが,具体的な対応策はとられなかった.

1995年,阪神淡路大震災によって多くのマンションが倒壊した.この約1週間後,旧住宅・都市整備公団から管理組合に対して,「強度低下のいちじるしい9棟の建物基礎の補強工事を実施したい」と申し入れてきた.
「大規模補修工事」の中に,<基礎の補強>は含まれていなかったのです! 

調査の9年後に公団が「強度低下のいちじるしい9棟の建物基礎の補強工事を実施したい」と申し入れたことは,アル骨反応の有無だけではなく,基礎の耐久性劣化に関しても,小林氏側の調査が正しかったことを証明しています.しかしなぜ公団は最後まで基礎補強を認めなかったのでしょうか. たしかに基礎の補強は,桁違いの金がかかりそうです.
建物の外壁や屋根などは補修が可能であるが,基礎の補修・補強は困難である.もし実施するとすれば,莫大な費用が必要であり,分譲マンションの管理組合の手に負えるものではない.(『コン危』208頁)
しかし,はたして金の問題だけで,公団は最後まで基礎補強に反対したのでしょうか.

基礎に問題あることだけは絶対認めるなと,公団の後ろ盾である建設省が公団に釘をさしていたからだと思われます.


「白華公団住宅」の早期劣化の本質は,公団側主張のような施工の不備にあるのではなく,コンクリート品質にあります.施工の問題であれば,たまたま(悪い)業者がたまたま手抜き施工しただけであり,われわれには関係ない話である,となって一般庶民に与える影響は限定的です.しかしコンクリート品質に起因する劣化となると,そうはいきません.

「白華公団住宅」の劣化問題は,朝日の記事でおわかりのように,社会的に注目を浴びていた事件です.低品質コンクリートが原因で基礎が危ないと公団が認めたら,それは高度成長期以降に家を建てたすべての人に対して,あなたの家の基礎も,もしかすると危ないかもしれませんよ,という<知らぬが仏を目覚ませるメッセージ>になってしまうのです.

国民に「無用の不安の念を抱かせる」ことのないようにという欺瞞論理のもと,建設省は公団理事に基礎に問題あることだけは認めるなと厳命していたのです.


小林氏は次のように述べています(『マンション』8頁).
このマンションのように建物基礎のコンクリートの強度が設計規準強度に達していない例は1970年代以降に建設された建物に多く見られる.
基礎に問題を抱えた知らぬが仏の家が日本中にごろごろしているのです.すでに3面で設計規準強度を下回っている90年築の我が家はその一例にすぎません.まがりなりにもアル骨,塩害対策が打たれていた90年築の家ですら,このありさまですから,70年代,80年代に建てられた家は推して知るべしです.
もしあなたの家の基礎が,変色していたり,ひび割れしていたら,たぶんアウトです.
もしあなたの家の基礎が白華まみれなら,たぶんアウトです.
もしあなたの家の基礎の圧縮強度が,某式使用でJISぎりぎりなら,確実にアウトです.
もしあなたの家の基礎の中性化進行が,旭化成が言うちょっと早い程度なら,たぶんアウトです.
もしあなたの家の基礎にいつのまにかモルタルが塗られていたら,たぶんアウトです.

阪神淡路大震災の強烈なショックが,建設省の守るべき最後の一線を打ち砕きました.ぐしゃりと倒れてなんらおかしくない数値になっていることを熟知しているのは他ならぬ建設省であり,9年前から危ないと指摘されていたことが現実になってしまってはさすがに言い逃れの余地はありませんから,やむなく基礎補強を認めたのです.

しかし彼らにとって幸いにも,事件はすでになかば風化しており,公団の申し入れは震災直後の連日の震災報道に埋もれました.どさくさまにまぎれて,事の重大性が悟られることはなかったのです.逆にさすが公団だ,震災の教訓を生かして迅速に対処している,などと言いふらすサクラがいたかもしれません.


建設省は結果として絶妙のタイミングで「白華公団住宅問題」にケリをつけることに成功したのです.しかしそれは単に急場を凌ぐことに成功しただけであり,基礎に問題を抱えた家が日本中にごろごろしているという状況になんの変化もありません.そこで頭のいい建設官僚はどういう「次の一手」をひねり出したか.

公団理事(当然建設省出身です)が「白華公団住宅問題」で最初にとった態度がヒントです.住民側から雨漏り,ひび割れ等の苦情があがってきたとき,公団理事はどう対応したか.
・・・・・・皆さん素人はコンクリートというのは頑丈なものだと誤解されているようですが,コンクリートなんてもともとそんなものなんですよ・・・・・・(詳しくは『早期劣化』参照.)
その心は「依らしむべし知らしむべからず」です.私も同じ言葉をイヒに対して前に使いました.


震災の翌96年(平成8年),建設白書に突然,日本の家の平均寿命なるものが登場しました.日本の家は諸外国に比べてもともと脆弱で「平均寿命26年」なんですよ,と建設省が言い始めたのです.その根拠とされたのが解体時の築年数の統計データです.

「平均寿命26年」の理由の中に,基礎の脆弱性は含まれていません.国民の目をそこからそらすことが目的なのですから,基礎コンクリートの品質に関わる話は徹底的に排除されています.建て替え年数を物理的耐用年数にすりかえて,日本の家なんてちゃちな構造で,もともと26年しかもたないんですよ・・・と,国民を欺く欺瞞論理を展開したのです.



03年12月に書き始めたこの『寿命すりかえ事件』は,建設白書の「平均寿命26年」を起源とする一連のインチキを分析してきましたが,建設省がなぜそんなインチキを言い出したのか,その本当の動機が,今ようやくあきらかになりました.

築15年の我が家の中性化深さは23mmにもなっている,これでは耐用年数26年ではないかと,住宅業者にねじこんだ人に対して,業者は静かに答えるでしょう.
「おっしゃるとおりです.建設白書にあるとおり,それが日本の住宅の平均です.我々に法的責任はむろんのこと,なんの道義的責任もありません.」
最前線の住宅業者がこうして責任を免れれば,それより遡って生コン業者,セメント業者そして建設省に責任が及ぶことは絶対にありえないのです.


98年9月4日の朝日新聞に掲載された熊野コンセプトは,「平均寿命26年」を広く世間に知らしめる役割をはたしました.(第4章参照.ロングライフ住宅研究所長熊野氏はたぶん建設省から天下りした人).白書の内容を率先して広報する見返りとしてヘーベルハウスは別だというお墨付きを旭化成は手にしました.



「日本の住宅が26年しかもたないって本当ですか?」
「建設白書にあるとおり本当です.しかしヘーベルハウスは違います.60年もちます.」

真実は次のとおり.

「日本の住宅が26年しかもたないって本当ですか?」
「不運にも低品質コンクリートにあたった家では本当です.ヘーベルハウスも無論例外ではありません.」


他のどのメーカーも触れなかった<過去の実績>を,山口信夫・土屋友二体制のもと旭化成は,沈黙どころか逆手にとって大声で宣伝し始めたのです.それがロングライフ住宅路線です.わがヘーベルハウスは創業以来25年にわたって,60年耐用住宅を作り続けてきたのだ,わがヘーベルハウスは築30年でも資産価値×××万円なのだ,他の家を見ろ,30年耐用住宅で,築15年で資産価値ゼロなのだ,ヘーベルハウスは高いように見えて結局お得なのだ・・・イヒ,イヒ,イヒ!

旭化成がもし,1940年アメリカで大問題になったアルカリ骨材反応をとことん研究した材料学者を社内に擁し,その指導のもと,直営セメント工場で低アルカリセメントを製造し,それを使ったヘーベルハウスを建設・販売してきた企業なら,72年の創業当初から60年耐用住宅を作り続けてきたと宣伝するのは,まことに当然の話です.そう宣伝することは,他のどのメーカーにも許されず,旭化成だけに許されます.他メーカーの家を30年耐用住宅だと貶すのもご自由です.しかし,旭化成って,本当にそんな立派な企業なの?

そうでないことを知りながら,そんなことをいって商売するのは,詐欺師のすることではありませんか.





6. 隠ぺいの森

<だまされたら1度目は相手が悪い,2度目は自分が悪い>という英語の諺があるそうです.99年の塗料すりかえ事件でだまされたことがわかって以後,私は旭化成の全面広告を注意して見るようになりました.寿命26年説に出会ったのは,01年8月17日の全面広告においてでした.当時私はこの広告の<ヘーベルハウスが変である>ことに気づき文面を細かく調べていました.変だというのは,旭化成の住宅事業が72年創業であるにもかかわらず,広告に登場している「30年目点検異常なし」のヘーベルハウスは71年に建設されたものだったからです.

同広告の「日本の家の平均寿命は約26年と言われています」という文も<変だ>と思いました.「30年目点検異常なし」の文脈で使われていることにうさんくささを感じたのです.この広告を問題にした『30年目問題』の中の「もう30年?って感じです」に書いたように,積水ハウスの全面広告によって寿命26年説の出所が建設白書平成8年版であり,寿命とは,思ったとおり建て替え年数であることを知りました(ちなみに旭化成以外で建設白書に言及している広告は,私の知る限り積水ハウスのこの広告だけです).建て替え年数を耐用年数にすりかえるのはいかにも乱暴な話です.

その後陸屋根の防水シートに「水枕」ができたりした為(『それから』参照),寿命の話はそれきりになっていましたが,03年秋に旭化成が季刊ヘーベリアンに過去の自社広告の自画自賛シリーズを連載しはじめ(連載はいまも続いています),その第1回の「エポックメーキング広告」(98年9月4日付全面広告)に建設白書が登場していることを知りました.つまり旭化成は最初から建設白書を引き合いに出して宣伝していたのです.これを知ったことが『塗料すりかえ事件』を書く気にさせた最大の理由です.

寿命26年説は「エポックメーキング広告」と同日の朝日新聞に掲載された旭化成ロングライフ住宅研究所の熊野勲所長による「熊野コンセプト」解説記事で具体的に述べられています.

同日付朝日新聞「熊野コンセプト」




熊野コンセプトは「日本の住宅が26年しかもたないって本当ですか?」と消費者に問い掛け,「建設白書にあるとおりそれは本当です.ところがヘーベルハウスは60年もつのです」と,答えを示しました.

建て替え年数が26年であることを「26年しかもたない」と表現し,さらにそれと対比する形で「ヘーベルハウスは60年もつ」と言ったことにより,旭化成が建て替え年数を物理的耐用年数の意味で使おうとしていることは明らかです.

建設白書に26年しかもたないと書いてあると旭化成から聞かされた一般庶民は,今まで見てきたあれやこれやのぼろ家を思い浮かべ,我が家は違うが,日本の家の平均はそんなものかもしれんなぁ,日本の家はぼろいからなぁと思った・・・・・・と思われます.

寿命26年説を真に受けて「江戸時代の庶民住宅そのままの間に合わせ住宅」などと言い出したバカな学者もいたくらいですから,「信用ある」旭化成が「権威ある」建設白書をひきあいに出して説明した寿命26年説に一般庶民がだまされたのもやむをえません.だまされた方が悪いわけでは無論なく,だました方が悪いのです.しかし私は2度目ですから,だまされるわけにはいきません.


 旭化成の罪−その1

建設白書にある平均寿命の説明は,それ単独では世の中に対する影響力など皆無の単なる「作文」です.旭化成が熊野コンセプトで大きくとりあげ,その後「30年目点検異常なし」シリーズで繰り返し喧伝したからこそ,寿命26年説は脚光を浴びたのです.日本の家はぼろいというデマを世の中に広めたのは他ならぬ旭化成です.そして欧米の家の寿命が,建設白書の数字より大幅に誇張されて流布したのも,大本がデマだったのですからほぼ必然です.

 旭化成の罪−その2

寿命26年説だけでは旭化成の宣伝になりません.だから
 「日本の普通の家は26年しかもたない.ところがヘーベルハウスは60年もつ」
となったのです.第一文が真っ赤なウソであるのに対し,第二文は本当です.ヘーベルハウスに限らず普通の家なら60年もってなんの不思議もありません.

先日話題になったNHKプロジェクトXの
 「大阪のY高は暴走族で荒れた音楽的土壌ゼロの学校だった.某先生は同校合唱部をはじめて日本一にした.」
においても第一文は真っ赤なうそ(ブラスバンド部が有名で日本一になっている)で,第二文は本当です.

旭化成の宣伝もプロジェクトXも,第二文だけなら,全面広告として何度もうつほどの,あるいは60分のドキュメンタリ番組に値するほどの,中味はないのです.どちらも,真っ赤なウソと対比することによってはじめて「エポックメーキング広告」,あるいは「感動ドキュメンタリ」として成立しているのです.


ヘーベルハウスが60年もつというのは本当です.しかし低品質セメントにあたったヘーベルハウスが30年もたないというのも本当です.旭化成は後者が決して少なくないことを知っていました.にもかかわらず・・・

わが社は創業の昔から60年もつ家を作り続けてきた,その証拠はこれだとばかり,A氏邸,B氏邸と次々に築20年超のヘーベルハウスを,時には顧客の写真入りで,全面広告に登場させて大宣伝しました.一方他社は,過去の話には口をつぐみ,新製品の特徴はこれこれで,60年〜100年もちますと宣伝しました.

知らぬが仏は考えます. ・・・他社は過去に何かあったのだろう,それに比べて旭化成は,堂々と昔から60年もつ家を作り続けてきたと宣伝している,他社が100年などと言っているのに比べ,旭化成が控えめに60年と宣伝しているのも気にいった,他社はうさんくさいが旭化成は信用できる・・・!? これが実績宣伝広告の効果です.過去の実績を訴えたのは旭化成だけだったことにより,その効果は倍増し,知らぬが仏に対する信用は高まりました.


旭化成の罪は,ウソを大々的に広めた,それを悪用して金儲けを図ったという二重の意味で重く,とりわけ前者の罪が格段に重いのです.なぜなら寿命26年説は悪質業者にとっても大手業者にとっても非常に値打ちのあるウソだからです.

悪質リフォーム業者は点検のフリをして瓦を壊して写真を撮るなど,客をだますためそれなりの「企業努力」が必要ですが,悪質建て替え業者の場合そんな努力はまったく不要なのです.「お客さん,そろそろ危ないですよ,26年しかもたないと,旭化成のエライ研究所長サンもおっしゃっているではないですか」と,白昼堂々と,建て替えを勧誘できるのです!

これはどこも悪くない家に対し悪質業者が「不要」な建て替えを煽る例です.次は大手業者が「必要」な建て替えを勧める例です.

大成建設は99年5月14日のパルコン全面広告において言いました.「マイホームを建てた多くの方が,築25年程で建て替えを検討するというのは,安心のために当然といえば当然です.」 

A社が建てた築25年で欠陥基礎の家があるとします(住人は欠陥基礎であることを知りません).A社セールスマンは「築25年程で建て替えを検討するというのは,安心のために当然といえば当然です」と(欠陥)基礎には触れずにあくまで寿命26年説で客を説得し,とうとう客に建て替えさせてしまいました.

欠陥基礎の動かぬ証拠は自動的に消滅しました.建て替えられた家が品確法準拠過剰スペックの坪80万円代住宅なら,A社にとって二重に最高です!


21年で解体されたヘーベルハウス ― 第2章で紹介した03年10月24日全面広告のN氏邸 ― について,もう一度考えてみましょう.この事例は熊野コンセプトと合わせて考えると,なかなか奥の深いものであることがわかります.

前と違って今度はコンクリート品質が視野に入っています.下右は今回追加した基礎が写っている写真です.基礎はすでに原形をとどめぬくらい壊されているように見えます.基礎の鉄筋の錆びは大丈夫だったのでしょうか.



建て替えの種類を,<耐久性不足に起因する建て替え>と(耐久性不足以外の)<諸事情による建て替え>の二つにわけます(この二分法は熊野氏も採用しています).私の主張は後者が一般的だというもので,それは身近で見た建て替えは,物理的にはまだまだ住めそうな家ばかりだったという経験に拠っています.

これに対し熊野コンセプトでは,耐久性不足に起因する建て替えが一般的であると考えます.すると建て替え年数=物理的耐用年数が成立することは明らかです.

第2章を書いている時は,N氏邸事例は諸事情による建て替えだと思っていました.広告中にある「諸事情による解体」という言葉にだまされた面もありますが,根本的にはヘーベルハウスがわずか21年で耐久性不足になる筈がないと頭から思い込んでいたからです.しかし今はこの思い込みが誤りであることがわかっています.21年で耐久性不足に陥ったヘーベルハウスや積水ハウスやミサワが存在していて何の不思議もありません.

熊野コンセプトは普通の家は26年しかもたないと主張しています.その論拠は建て替え年数が26年ということ<だけ>でした.だとするとN氏邸を「21年しかもたなかった」と表現しても,熊野コンセプトと同じ「論法」ですから,旭化成から文句の出るはずがありません.60年もつと公言しているのに21年しかもたないというのは欠陥ではないか?・・・・・・ そうなんです.これはまさに欠陥ヘーベルハウスの事例なのです.

なぜそんな問題事例を「公開」したのかという疑問が残ります.公開は公開でも極めて制限された「公開」である点が疑問を解く鍵です.


旭化成は耐久性調査を実施しています.(諸事情による建て替えの場合は耐久性不足とは別の理由で壊すのですから,耐久性調査など普通はしません.)どこに問題があったのでしょうか.

鉄骨・ボルト等の耐久性能を調査・分析したとあります.いかにも「くさい」書き方です.まるで問題なさそうな工業製品の鉄骨・ボルトだけ例としてあげている点がくさいのです.「等」と書いて隠した中に耐久性不足に陥ったホシがいると思われます.

ヘーベルパネルの耐久性に問題があったとします.すると,それはとりもなおさずヘーベルハウスの真髄が欠陥である事例であり,そんなヤバイ事例を旭化成が公開するとは思えません.このように考えると,ホシは旭化成が旭化成責ではないと内心考えている個所に潜んでいるに違いないと推理できます.

N氏邸は80年代前半に建てられた家です.コンクリートの早期劣化が顕在化する前の,コンクリートに関する規制がきわめて甘かった時代に建てられた家です・・・・・.

旭化成は「諸事情による解体」と表現しました.耐久性不足の建て替えでは,構造躯体のどこかが耐久性不足に陥り,住むのが危険になったという理由があるだけであり,「諸事情」などという解体理由は存在しません.旭化成は欠陥部位を隠しました.しかし事例自体は公開しました.なぜでしょうか.旭化成がきちっと責任をとった事例だからです.

全面広告であれだけ大口叩いておきながら,21年しかもたなかった欠陥住宅に対しておかしな対応をすれば,それはまさに信用問題です.N氏邸事例は,ある意味では被害者である旭化成(低品質コンクリート問題にはどのハウスメーカーも被害者の側面があります)が,全面的に責任をとって円満解決した事例だと考えられます.だとすると部分的にせよ,公開したのもうなずける話です.


さすが旭化成ではないか,しかし,ではなぜ堂々と全面公開しないのか・・・・・・そうできない深いわけがあるのです.

そもそも熊野コンセプトこそ,日本中に広く存在している欠陥基礎の存在を隠ぺいするために,官と業が談合して誕生したものなのです.<欠陥基礎だった>とは,旭化成は口が裂けても言えないのです.

そしてこの事例は本来ならば「リコール」すべき欠陥に対して「ヤミ改修」ですませた例なのです.知らぬが仏に対しては,その場しのぎの「安心して頂くための」対応を,旭化成は繰り返しているのです.白華とは自然現象ムニャムニャですと書面に残せない説明をし,某式を使った圧縮強度で問題ありません・・・・・・などなどと.



ミサワのデザイン面のキーマンである川元氏の『「綺麗な家」に住もう』(PHP研究所,01年刊)の中に次のような一文があります(同書176頁).
基礎工事や住宅の構造体が「こんなに他社よりも大きく丈夫だ」という台詞は,「だから値段が高い」というメッセージである.それでも安いと感じるなら 
相見積もりを取ったダイワハウスに比べ,ヘーベルハウスは値段がおなじ位で外壁・床がALCパネルである分,安いと感じました.もし上の文が,「品質を疑ったほうがよい」あるいは「基礎の品質を疑ったほうがよい」と続いていれば,私はナルホドと納得したかもしれません.しかし現実には上の文は次のように続いているのです.
基礎以外の品質は疑ったほうがよい.
なぜか品質からわざわざ基礎の品質が除かれています. 読んだときはよくわかりませんでしたが,今やその意味は明らかです.

セメントの品質問題はハウスメーカーを問わない問題です.ミサワが他社の基礎の品質を貶したなら,それは即ミサワにも跳ね返ってきます.川元氏のこの一文は,消費者の目が基礎の品質に向くような言動は互いに慎もうという不文律がメーカー各社の間にあったことを,はからずも暴露してしまっているように思われます.


堀孝廣という方の「私のコンクリート補修物語」というエッセイによると,70年代後半に東大の岸谷氏が座長で,建研,日大,清水建設,竹中工務店,小野田セメントなどから「当時の建築学会の大御所」が委員として参加した「中性化委員会」が開催されたそうです.

「なにやら、コンクリートの中性化が予想を上回るスピードで進んでいるという。」
「これでは、30代でやっと手に入れたマンションが、定年を迎える頃には寿命がきていたということになり兼ねない。 そこで、中性化に対する何らかの対策を講じなければいけないということで、住宅公団の中に中性化委員会なるものが設置されたのである。」
「予想を上回る」の「予想」とはなにか.浜田・岸谷式による中性化速度定数3.7(65年で中性化深さ30mm)がそれです.コンクリートの寿命(=物理的耐用年数)は60年以上というのが日本の常識でした.ところが70年代後半には予想外に短寿命の事例が出始め,「建築学会の大御所」たちが対策を講ずべき大問題であると認識していたことがわかります.

「中性化委員会」ではポンプ打ち工法の問題点等いくつか議論されましたが,結局 「とにかく早く効率的にコンクリートを打とうとすると、中性化は早くなるようであった」とエッセイは結ばれています.つまり主に施工品質に短寿命化の原因が求められ,セメント品質,骨材品質など材料品質は問題にされていません.「中性化委員会」は主犯を見逃したのです.小林氏がセメント品質を問題にしたのは85年のことです.

低品質セメントの災いはヘーベルハウスにも積水ハウスにもハイムにもミサワにもダイワハウスにも訪れました.東京オリンピックの頃からJISのアルカリ規制が浸透する頃までの約30年の間に,どのプレハブメーカーも例外なく低品質セメントの洗礼を受けているのです.欠陥基礎は安直な補修でケリがつくような代物ではありません.莫大な補償費用を思い浮かべて各メーカーは言葉を失いました.

アルカリ量がJISで規制された頃には,マンションから普通の家の基礎まで広い範囲に「予想を上回る中性化の進行」が見られることを,関係官僚,関係業界は認識していました.これが96年に寿命26年説が生まれた直接の背景です.中性化深さ23mm(15年)を「標準」にしてしまおうと彼らはたくらんだのです.


隠ぺいの森:木を隠すには森に置けばよい.森がなければ森を作ればよい.>

寿命26年説普通の家は26年しかもたない
隠すべき真実欠陥基礎が一定数存在する
ストックフロー分析アメリカは100年,なのに日本の家の寿命はなぜ30年なの?


寿命26年説は建て替え年数を寿命(=物理的耐用年数)にすりかえて日本の家はボロイと主張しました.ボロイことを納得させる上で欧米諸国との比較は自虐癖のある日本人に極めて有効でした.ミサワの構造面のキーマンである平田氏の『柱の太さで家を決めるな!』(プレジデント社,02年刊)の中に <アメリカは100年,なのに日本の家の寿命はなぜ30年なの?>というタイトルの一節があります(第5章参照).

ミサワはストック÷フローを寿命としました.これも建て替え年数の目安を示すものには違いありませんが,フロー(新築件数)が低迷している時期あるいは国の場合,建て替え年数は非常に長くなります.建設白書のいわば実測値(解体時の築年数の平均)が日米英でそれぞれ26年,44年,75年であるのに対し,ストックフローではそれぞれ,30年,100年,140年になったりします.ストックフロー分析は,日本の家が欧米諸国の家に比べていかにボロイかを強調する文脈でしばしば悪用されました.


寿命26年説では,日本の家のどこがボロくて26年しかもたないのか具体的なことは言いません.下手に口にすると,隠すべき真実である欠陥基礎にニアミスするからです.したがって

「質より量の時代」に建てられたからボロイだとか(熊野コンセプト), 「木と紙と土という壊れやすい素材」で作られているからボロイとか,日本人には家を「仮の住まいと考える伝統」があるだとか,日本人の多くは家を消費財と考えているとか,果ては日本人にとって「家が長持ちしてはかえって困る」だとか(以上多くはミサワ広告より.第7章参照)・・・・・・その他その他の理由によって日本の家はボロイのです.つまり日本の家は26年しかもたない「江戸時代の庶民住宅さながらの間に合わせ住宅」=「低規格住宅」だというのです!

日本の家に責任をもつ立場の建設省は,・・・・・・こんな現状は放置できない,「極めて劣悪な耐久性水準」は改めなければならん・・・・・・,というわけで00年に品確法が登場します.(「こんな現状」にした建設省の責任が不問に付されていることにご注意ください.)

Before(品確法以前)アメリカ100年,なのに日本はなぜ30年なの?
After(品確法以後)アメリカ100年,日本も100年


品確法のどこが,30年→100年という<画期的耐久性向上>に寄与しているのでしょうか.品確法のどこを探しても,そんなもの,ある筈がないのです! 日本の家の品質は品確法なんてできるずっと以前から,アメリカと遜色ない水準に達していたのです.日本の建て替え年数がアメリカ44年に比べて少し短いのは,耐久性とは全然別の事情によるのです.


「日本人の平均寿命は長い,日本の住宅の平均寿命は短い,では何歳で家を建てるか,結構悩みます 」(ミサワ広告より.第7章参照.)何歳で家を建てるか悩む人は多いかもしれません.しかし悩む理由が<日本人の平均寿命は長い,日本の住宅の平均寿命は短い>とはよくも言ったり.

熊野コンセプトが真っ赤なウソを振りまくまでは,家が何年もつかなど気にした人はいませんでした.日本の家は実用上十分長持ちするものだったから,そんなことを気にする人はいなかったのです.中年で家を建て老年になって耐久性不足で住めなくなったとしたら,それは運悪く欠陥住宅にあたった場合だけです.

バラックで雨露を凌いだ終戦直後ならいざ知らず,現在建っている家で26年しかもたない家は欠陥住宅だけです.これは常識です.

熊野コンセプトは,次の図式で日本の常識を一挙に覆し,欠陥住宅の存在を隠ぺいしようとする「エポックメーキングコンセプト」です.



日本の住宅は,戦後の「質より量の時代」を経て,68年には一世帯一住宅を達成し「質の時代」に入りました.「質の時代」に入って30年も経った96年になって,突然,建設省が家の「寿命」を問題にしたのはなぜか.

寿命が26年?・・・そりゃ建設省の住宅施策の責任ではないか,「質の時代」「質の時代」と言いつづけて30年,建設省の住宅施策は中味カラッポだったのか・・・このような批判を受けることは承知の上で,建設省が寿命26年説を96年突然唱えたのはなぜか.

この時期に悪質業者の手抜き住宅が急増したから? 建設官僚が悪質業者の手抜き住宅を擁護し隠ぺいしなければならない理由などまったくありません.隠ぺいしようとしているのは悪質業者の手抜き住宅ではないのです.

「木と紙と土という壊れやすい素材」とミサワは言いましたが,木や紙や土という大昔から日本の住宅で使われてきた材料の耐久性が,その時期に急に問題化したのでしょうか.そんな話は聞いたことがありません.

「壊れやすい」どころか逆にもっとも「壊れにくい」というのが常識だったコンクリートが,きわめて早期に劣化して,「30代でやっと手に入れたマンションが、定年を迎える頃には寿命がきていた」という危惧が現実のものになりあちこちで見られたからこそ,建設省は寿命を問題にしたのです.

現在建っている家で26年しかもたない家は欠陥住宅だけです.そして

現在における欠陥住宅とは,悪質業者の手抜き住宅か,欠陥基礎の家かです.建設省が隠ぺいしようとしているのは欠陥基礎の家の方なのです.

建設省が建て替え年数で巧妙にカムフラージュした家の寿命とは,実はコンクリート(基礎)の寿命だったのです.熊野コンセプトの真の狙いは次の図式で欠陥基礎の家の存在を隠ぺいしようとするものだったのです.



「日本の家の基礎が26年しかもたないって,本当ですか?」
「本当です.素人の方はご存知なかったかもしれませんが,コンクリートはもともとそういうもんなんですよ」

すでにお気づきのとおり,これは「白華公団住宅」における公団理事の論理です.「知らしむべからず」を旨とする公団理事が公団住民に説明したのと同じ論理を,今度は本家「知らしむべからず」の建設省が広く国民に対してより巧妙で尻尾をつかまれ難い形で展開したのです.

公団理事の露骨な主張は反撥を買っただけで終わったでしょうが,寿命26年説 ―

 「日本の家が26年しかもたないって,本当ですか?」
 「本当です.建設白書平成8年版に書いてあるとおりです.日本の家はもともとボロイのですよ.」

― には実に多くの人がだまされました.

コンクリート早期劣化の根本原因は,行政のセメント品質,骨材品質に対する規制が甘すぎたことにあります(アル骨反応がアメリカで大問題になったのは実に1940年のことなのです).手抜き住宅の場合と違って欠陥基礎の家に関しては,官僚が重大な関心を持つ必然性があったのです.こうして官と業の思惑が一致し,寿命26年説が生まれました.被害を受けた国民の立場が無視されたのは日本ではいつものことです.


寿命26年説の本家提唱者である建設省(現国土交通省)が,いかに寿命26年説を活用しているか,ちょうどいい例が出ましたので紹介しておきます.

(click ↑)
左は05年8月11日付け朝日新聞の署名入りの1面記事です.

国交省は高度成長に建設された大規模団地の「再生」に乗り出す方針を固めました.その二つの柱は,建て替えの促進と住み替えの促進です.

住み替えとは,都心居住を望む高齢者と郊外での子育てを希望する若年層を入れ替えるという意味で,その促進策として団地の間取り変更,水回りの改善などのリフォームが挙げられています.

つまり「再生」とは建て替えるかリフォームするかです.そのどちらかを必要とする団地は「少なくとも約4万戸ある」そうです.両者の割合はどうなっているのでしょうか.

「国交省は,戦後の高度成長期に築いてきた貴重な住宅資産を活用する必要があると判断した.」

実に立派な判断です.きっと「貴重な住宅資産」をリフォームして大事に使いつづけるということなのでしょう.

ところが違うのです.見出しをご覧下さい.「国交省 建て替え促進」となっているではありませんか.4700億円再生事業の本質は建て替え事業なのです.リフォームは添え物なのです.

なぜ建て替えが「必要」なのでしょうか.築30年以上で「老朽化」しているから,と国交省は言いたいのです.


「老朽化」という言葉にだまされてはいけません.設備が老朽化するのと,構造躯体が老朽化するのでは,意味が全く違うのです.(水回り等の)設備の老朽化は交換で対応できますから建て替える必然性はありません.しかし構造躯体が老朽化しているのであれば,住み続けるのは危険ですから,建て替えることが必要です.

「構造躯体の老朽化」以外の理由で建て替える場合が,もちろんあります.建物がニーズに対応できなくなった場合です.たとえば入居者が急増し高層に建て替えて対応するといったケースです.ところが郊外団地は「都心回帰傾向」により「入居者の減少が目立っている」のですから,これには該当しません.建て替えの理由は,あくまで「構造躯体の老朽化」なのです.

積水のプレハブ2階建てアパート(上の声も隣の声もよく聞こえでした)に住む身からすれば,公団の頑丈な鉄筋コンクリート団地は憧れの的でした.何度応募しても抽選にはずれました.そんな頑丈な団地の構造躯体がわずか築30年超でなぜ「老朽化」するのでしょうか?

おわかりのように,築30年を越えれば「老朽化」し建て替える「必要」があるという論理は,まさに寿命26年説の論理そのものです.国交省は「白華公団住宅」のような欠陥団地の存在を隠したいのです.味噌もくそも一緒くたに潰してしまって証拠隠滅したいのです.

国交省の役人には,「戦後の高度成長期に築いてきた貴重な住宅資産を活用」して税金の無駄使いをなくすという殊勝な気持ちなど,実はまったくないのです.大手建設業者の救済と自分達の保身しか頭にないのです.



寿命26年説は隠ぺい劇の第2幕(90年代)のシナリオです.第1幕(80年代)のシナリオは次のようなものです.『コン危』184頁以降から抜粋します.
1984年はアルカリ骨材反応が社会問題にまで発展した年であるが,このとき,官庁の建築関係者はさかんに,「アルカリ骨材反応は建物にはおこらない」と主張していた.

建築物が土木構造物と異なる点は所有形態で,だいたい民間が所有している.アルカリ骨材反応は「コンクリートのがん」とよばれており,いったんその建物にアルカリ骨材反応がおこっていると判定された場合,資産価値は大幅に低下するおそれがある.

調査の結果,アルカリ骨材反応がおこっていると判明し,このことがなにかの拍子に外部に漏れると,資産価値の低下は避けられない.

それならば,「建物にはアルカリ骨材反応はおこらない」ことにしようというわけである.気にかかるひび割れは,ごくありふれた乾燥収縮によるひび割れとして,めんどうな原因調査を抜きにして手直ししておけばいい.

このような行政的配慮は,なにも行政官庁だけの専売特許ではない.真理の追究を目的に研究しているはずの大学教授が,これを錦の御旗にして情報隠しに加担するケースも多いのである.
欠陥基礎の場合も「大幅な資産価値の低下」が避けられないのはアル骨反応の場合と同様です.つまり

Xだと判定されれば,大幅に資産価値が低下する,だからXではないことにして建物所有者の利益を守る(ここでXとはアル骨反応または欠陥基礎).
盗人にも三分の理の典型です.一見すると建物所有者の利益に「配慮」しているように見えます.しかしXではないことにすることによって最大の利益を得ているのは,疑いもなく,「大幅な資産価値の低下」に責任を取らなければならない側です.建物所有者は資産価値が大幅に低下した危ない家に住んでいることに気づいていない「知らぬが仏」です.

旭化成の「客に安心して頂く論理」がまさにこれです.本当のことを言うと客は不幸になる,だから本当のことは言わずに圧縮強度は問題ありませんと「客に安心して頂く」のです.ウソはすべて客を思ってのウソにすりかわります.こうして旭化成の対応は偽善的になるのです.

低品質コンクリートに運悪くあたってしまった人は,いろいろな意味で負担を強いられます.『沈黙の春』に「負担が避けられない時,知る権利がある」という意味の文があるそうです.被害者は絶対に知らぬが仏であってはならず,真実を知る権利があります.

「真理の追究を目的に研究しているはずの大学教授」こそ,世の多くの知らぬが仏たちに真実を伝える責務があります.ところが現実は,御用学者の手によって,アル骨反応に起因するひび割れは「ありふれた乾燥収縮によるひび割れ」にすりかえられ,アルカリ過剰の動かぬ証拠である白華は明治以来おなじみのエフロにすりかえられました.

「知らしむべからず」という姿勢が露骨にでている,建築大辞典第二版のエフロ(=白華=鼻垂れ)の曖昧極まる説明,反撥度が30でていれば問題なしという建築学会式圧縮強度変換式 ― これらは学界の一部が業界と深く癒着して「情報隠し」に加担している証左だと思われます.



さて当たり前のことですが,寿命26年説の隠ぺいシナリオはヘーベルハウスには適用できません.<ヘーベルハウスは60年もつ>と明言しているからです.

耐久性が売り物のヘーベルハウスは,この隠ぺいシナリオにおいて,特別な役割を負わされたと考えられます.<普通の家は26年しかもたない.ところがミサワの家は60年もつ>ではさすがに多くの人がおかしいと気づいたでしょう?

旭化成の場合,それでも開き直ろうとすると次のようになります.

・・・・・・全面広告に60年もつと書いてあった?あんなものはセールストークにすぎん,60年保証しますと保証書のどこに書いてあるというのだ,保証書を読みもせずセールストークにだまされる客の方が悪いのだ・・・・・・! 

つまり旭化成の場合は,開き直ろうとすると詐欺師になるより他に道はないのです.ところが「普通の家」の場合,事情は大いに異なります.

「普通の家」は××年もつと明言していない点がヘーベルハウスとの違いです.積水ハウスをはじめほとんどの家は「普通の家」です.ミサワが積極的に「普通の家」であると言おうとしたのは,第7章で見たとおりです(ミサワ100年住宅というのは今後建てる家の話であることをお間違えなく).

「普通の家」の場合,中性化が進行し過ぎではないかとクレームをつけても,それで普通です,「日本の家は26年しかもたないのです」,保証書のどこに60年もつと書いてありますか,と堂々とすなわち詐欺師呼ばわりされることなく開き直ることができるのです.これは旭化成の場合と比べてたいへんな違いです.


「普通の家」の代表として積水ハウスに登場してもらいます.同社はもっとも建設戸数が多く,したがって低品質セメントに起因する欠陥基礎の家も最多であろうと推定されます.

積水ハウスは01年11月22日の全面広告(旭化成以外の広告で建設白書に言及している唯一の広告)において「日本の美しい四季が家の寿命をちぢめている,という事実」と特筆大書しました.「建て替えサイクル」が26年と短いのは「温度や湿度が激しく変わる日本の四季」が「家の強度や耐久性を低下」させているせいだとしました.

同広告で積水ハウスは「永く受け継がれていく住いを目指します」と目標を述べています.しかし過去に建てた家に関して,言質を取られるようなことは一切述べていません.積水ハウスも「温度や湿度が激しく変わる日本の四季」のせいで「26年しかもたない普通の家」なのです.

積水ハウスの場合も保証はせいぜい10年でしょう.施工不良に起因する不具合は早期に出るだろうし,10年超で出てくる不具合は想定された経年劣化によるものであり,外壁補修,屋根補修など通常の有償補修で話はすみました.基礎の想定される経年劣化は65年で中性化深さ30mmであり,手入れ不要でした.これが「日本の常識」でした.常識だったからこそ保守マニュアルに基礎のことなどほとんどなにも書かれていないのです.

客は家を建てる時,基礎が一番早くやられるなんて夢にも思わなかったでしょう,基礎など放っておいても半永久的にもつものだと考えていたことでしょう.そして積水ハウスもそう考えていたに違いありません.積水ハウスは信用あるメーカーであり日常的に不法加水している悪質業者ではないのですから.

築15年で中性化が「予想外に」進行していると客がクレームをつけようとした時,法律はおそらくなんの役にも立たず,建てる時はメーカーも共有していたに違いない「日本の常識」に拠るしかないのです.ところが「日本の常識」はいつのまにか中性化深さ23mm(15年)になってしまっているのです.

適正な補償が行われたとはまず考えられません.熊野コンセプトによって,もっとも恩恵を受けたのは積水ハウスのはずであり,恩恵をうけるどころか「被害」を受けたのは,旭化成かもしれません.ただし旭化成の場合は,実績宣伝広告による知らぬが仏からの受注増という,別の面で大きな恩恵を享受していることも忘れてはなりません.



官・業・学のプロたちがつくり上げた隠ぺいの森の真中に,一人置かれた素人はいったいどんな目に会うでしょうか.簡単に「隠ぺいフロー」を見ておきます.



素人にもわかる,劣化の目に見える2大シグナルは,ひび割れと白華です.目に見える症状を示さないまま劣化が進行しているケースでは,素人はもちろん知らぬが仏のままです.

シグナルが出たとします.ちょっと変だと家を建てたハウスメーカーX社に連絡します.X社は「簡単な説明」を し,客が納得すればすぐに対処します.時には説明を省いて対処だけします.欠陥が深刻なものであればあるほど,X社は説明を端折って対処を急ぎます.この太い赤矢印で示したメインルートは重要ですので後で補足説明します.

「簡単な説明」に納得しない素人は詳細説明を要求します.X社はやむをえず,この段階でようやく中性化深さと圧縮強度を測定します.

旭化成は23mm(15年)を「中性化進行は少し早い」と評価しました.60年もつと公言している以上,「それで普通です」と言えないのは当然です.しかしそれでも「少し早い」としか言わないくらいですから,他のプレハブメーカーがどう説明しているか推して知るべしだと思われます.圧縮強度の方は,どのメーカーもおそらく例外なく建築学会式の変換式を用いて問題なしと説明していると思われます.「変換式? もちろん建築学会式ですよ」と私が接した某建築士は言いました.

「詳しい説明」(たとえば「イヒ報告書」のような!)に納得すれば知らぬが仏行きです.しかしここまで来た人ならもうそう易々とはだまされないでしょう.多くは真っ直ぐ下に向かいます.

理は客側にあり企業側には信用問題になるというアキレス腱があります.しかしこれでようやく素人と優秀な顧問弁護士を抱えた大企業は五分と五分です.双方手練手管の応酬の末,示談決着に至ります.決着内容はさまざまでしょうが,企業から見ればすべて無事,金で問題解決です.客には守秘義務が課せられ信用問題には至りませんでした.「やみ改修」に成功したのです.

旭化成が熊野コンセプトで蒙った「被害」などたかが知れたものです.隠ぺいの森はあまりに深く,多くは知らぬが仏ゾーンに迷い込み,旭化成に建て替えさせる地点まで到達できた人などほんの一握りにすぎないからです.


さて知らぬが仏ゾーンに至る太い赤矢印のメインルートに話をもどします.劣化のシグナルがでた時,メーカーは説明を端折って対処を急ぎます.客とメーカーの間の「信頼関係」はこの場面でどのように働くでしょうか.客がメーカーを信用している場合
・・・どうせ技術的な話は聞いてもよくわからないだろうし,まさか×××がウソを言ったりするはずがない.担当者の対応もそこいらの悪質業者とは大違いで懇切丁寧だ・・・
そしてメーカーが対処を急ぐことも
・・・さすが×××だ,言ったらすぐに「無償」で対処してくれた・・・
となります.

我が家は築8年半の段階で旭化成(正確には関西旭化成リフォーム)に外壁塗り替えを依頼しました.この段階で基礎と地面の境界のところに白い粉がでていました.工事の前にこの白い粉は何かと尋ねましたが,工事店社員は答えずにザウルスで写真を撮りました.塗装工事が終わった時,もう一度尋ねると工事店社員は黙ってモルタルを西側和室下基礎に塗りました.工事店社員は,細かいことを気にする客だ,という風な態度をとったように私は感じました.

この時点では塗料すりかえは発覚していませんでしたから,私は旭化成を信用していました.白い粉が何を意味するか全く知りませんでしたから,さすが旭化成だ,無償でなにかを塗って対処してくれたと思ったのです.私の「細かい意匠面の指摘」に旭化成はきちっと対処したと思ったのです.



これは05年3月3日に旭化成が中性化深さを測った個所の7月末時点の様子です.ドリルの穴跡に塗られたモルタルには白華が出ていないことがわかります.これがモルタルの効果です.旭化成は西側和室下の基礎でこれをやったのです.薄く塗られたモルタルには中性化の進行を遅らせる効果はほとんどないと言われています.しかし白華の発生はこのように見事に押さえこむのです.白華は安価なモルタルを塗るだけで容易に「隠ぺい」できるのです.

対処を正当化する文脈で「コンクリートはメンテナンスを必要とする」と語られる場合があります.正しくは「 欠陥コンクリートはメンテナンスを必要とする」です.欠陥であることを認めた上で対処するのと,通常の手入れだと思わせて恩着せがましく対処するのでは,天と地の差があります.なにも説明せずにやみくもに対処を急ぐのは,臭いものに蓋をしようとしているのであり,決して客を思ってのことではないのです.

知らぬが仏は,メーカーを信用していればいるほど,簡単にだまされます.メーカーは客の信頼につけこんでいるのです.知らぬが仏は,メーカーにだまされていることに気づかず,ババをつかんだことに気づかず,大地震がくればぐしゃりと基礎が崩れる危険な家に住んでいることに気づいていないのです.


メーカーがもっとも恐れていることは,欠陥基礎の存在よりも,客をだまして隠ぺいしてきた事がバレルことです.なぜならそれはまさに信用問題だからです.

旭化成は白華に関してなぜ一言も見解を出すことができないのでしょうか.

過剰の強アルカリが析出したものであり劣化のシグナルであると,もし,正しい説明をすれば,知らぬが仏がだまされていたことに気づくからです.一言も見解を出せないのは,素人相手にこれまでさんざんいいかげんなことを言って「安心させて」きたからです.

旭化成は,知らぬが仏たちが見ていることを意識して,いつもの「金で解決」のルートに進めません.我が家との交渉が上記隠ぺいフローの「詳しい説明」のところで,にっちもさっちも行かなくなっているのはそういうわけです.

私は無理な要求など一切していません.私はただ白華に関する旭化成の見解を求めているだけです.

上記隠ぺいフローは隠ぺいに成功したケースを示したものです.「金で解決」はもちろん成功したケースです.隠ぺいに失敗したケースとは,多くの知らぬが仏たちがだまされていたことに気づき,企業の信用問題になったケースです.

隠ぺいフローはすでに破綻しているのです.



我が家の白華まみれの欠陥基礎は氷山の一角です.わが社は関係ないという企業に対しては,旭化成に出したのと同じ質問をもう一度くりかえしておきます.

コンクリート工学を専門とする学者ですら,「いったい何がおこったのか?」「セメントに問題があるなど考えてもいなかったが?」というありさまだった低品質セメントの罠に,どういう理由で御社だけが,はまらなかったのでしょうか?その理由をお聞かせ下さい.

三井論文が示しているように,国は国が管理するコンクリート構造物に関して耐久性調査を実施しました.目視で異常が認められた場合は中性化深さと圧縮強度を測りました.もちろんその必要性があったからこそ金をかけて大掛かりな調査を実施したことは言うまでもありません.同じくコンクリートで作られている普通の家の基礎はどうなっているのでしょうか.

プレハブメーカー各社は,小林氏の<基礎に問題がある家が多い>という重大な指摘をどう受け止めたのでしょうか.「わが社は関係ない」ですか.それとも「もともと26年しかもたん」ですか.それとも「どうなってるのかまったくわからん」ですか.

もういい加減に本当のことを言う時期です.それが戦後の日本で,家という生活にもっとも大きな影響を与える高額商品を製造販売し大企業に成長したプレハブメーカー各社の,果たすべき社会的責任であると私は思います.




ダイワハウス 04年2月13日付け全面広告(朝日掲載)



これは「普通の家」では珍しく過去に建てた家に関して消費者に言質を与えた広告です.ダイワハウスは「26年しかもたない普通の家」ではない,欠陥基礎の家に対しても応分の責任をとる,と表明した広告だと見ることもできます.

本当のことを言うのは旭化成や積水ハウスでなくともいいのです.1社がきちっと欠陥基礎に関して情報開示すれば,あとはアスベスト問題の時のように,次々開示せざるをえなくなるでしょう.

7月20日付け朝日新聞によると,クボタの播掛大輔社長は,周辺住民に石綿関連病の被害がでていることを知り,「社内ですごい議論があった」のち,「はっきりしないから関係ないとはいえない」と判断して見舞金支払いを決め,石綿被害の全面公表に踏み切りました.社長は次のように述べています.
「しゃしゃり出て騒ぎを起こしたような気がしないでもないが,(周辺住民への被害拡大で)伏せてはいられないところまで追い込まれていた」
播掛社長の英断によって国民は知らぬが仏から脱することができました.その意義がいかに大きいか,その後の経緯が如実に物語っています.




私はあらためて,旭化成会長山口信夫氏および住宅事業総責任者であった土屋友二氏(当時旭化成副社長,現ホームズ会長)の責任を問います.あらためてというのは,数年前にも両氏に対して塗料すりかえ事件の責を問うたからです.

塗料すりかえ事件は,旭化成のリフォーム事業の矛盾が露呈した事件でした.事件の本質は契約書改ざんが日常化していた点にあり,その事実を隠すために旭化成は契約書偽造という隠ぺい工作をしました.隠ぺい工作が発覚した時点で,契約書改ざん被害者の数を公表し潔く責任をとるべきでした.

今回の寿命すりかえ事件は,旭化成にとどまらず全てのプレハブメーカーの住宅事業に関わる事件です.旭化成が採った住宅戦略は詐欺的であり,先頭切って国民にひろく悪質なデマを振りまいた罪は万死に値します.

ウソと知りつつウソを言うのは,ばれてもたいしたことにはならんと,たかをくくっているからです.お上の威光を後ろ盾に,消費者をなめているのです.姑息にも契約書を偽造して責を免れようとしたのも,試験棟をさも商品であるかのように持ち出したのもその一例にすぎません.

私は結果責任を問うているのではありません.うさんくさい事を決定し実施した直接責任を問うています.両氏以外に旭化成には,二つのすりかえ事件の責任を取れる人はいないのです.




7.沈黙と先延ばしの歴史


娘の希望を容れ遅ればせながらDVDレコーダーを買いました.HDDへの録画の簡便さは予想以上のものがあり,10月に入って次のようなものを録画しました.このうち@は操作ミスにより後半だけの録画です(BSチューナー内蔵型でなかった為しくじったのです).BのNHKスベシャルは3時間を越える力の入った特集でした.日本石綿協会専務理事や協会側医師も出演しています.

@10.3放映 NHKBS世界のドキュメンタリ『終わらないアスベスト問題』(フランス・カナダ共同制作)
A10.3放映 テレビ東京 ザ・真相(5)「アスベストはなぜ止められなかったか」
B10.9放映 NHKスペシャル「アスベスト」(Q/Aが10.11のNHKほっとモーニングで放映された.)


05年6月29日,大手機械メーカー「クボタ」はアスベストによる死者が周辺住民にも出ていたことを公表しました.翌日の朝日記事は,「近年,石綿疾患で従業員が労災認定を受ける例は増えているが,被害の全面公表に踏み切ったのは同社がはじめて」で始まっています.

7月20日の衆院厚生労働委員会の石綿集中審議において,従業員の家族や周辺住民に中皮腫患者が出ているというイギリスの65年の論文を,旧労働省が76年の通達で引用していた事実が社民党議員によって明らかにされました.(8月27日付朝日新聞によると,72年に「環境庁が労働省労働衛生研究所に調査を委託.石綿の有害性について海外文献から,石綿によって肺がんが引き起こされることや,工場周辺住民にも中皮腫などの健康被害が出ていることが判明」とあります.)

西博義・厚労副大臣は「事実をわかりながらフォローができていなかった.決定的な失敗だったのではないか個人的には考えている」と述べました.テレビのコメンテータは謝ればすむ問題ではないなどとコメントしていましたが,この閣僚は日本のアスベスト問題を正しく言葉に表わしたと私は評価します.

8月26日,政府は過去のアスベスト対策に対する政府検証の結果を発表しました.もともとこの政府検証には<「薬害エイズとは全く別.行政には問題なしと国民に説明するためのもの」と政府内では受け止められていたが,衆院の解散風で空気が一変し,「世論が収まらない」との声が政府・与党内に広がった(朝日新聞8月27日付)>という背景があります.つまり「縦割りなすり合い」とマスコミが評した政府検証結果は,選挙前という特殊状況でこれでも精一杯世論に配慮した結果だったのです.

小泉首相は26日夜,アスベスト(石綿)による健康被害に対する政府責任について「反省すべき点もある.被害が起こっているわけだから,ないとはいえない.危険性を察知できなかった」と述べ,対応に不備があったとの認識を示した.(朝日8月27日付)
小泉首相のコメントは西コメントから大きく後退しています.<決定的失敗>から<知らなかった>への後退です.「危険性を察知できなかった」とは,いったい誰のことを指しているのでしょうか.


左図は日経新聞05年8月15日付け「検証アスベスト」より採りました.日本におけるアスベスト使用総量は約1000万トンでその9割は建材に使用されました(ちなみに1000万トンを1億人に分配すると,一人100キロです).

建設白書平成8年版に倣って(皮肉です),日米英の70年〜90年の使用量を下に示します.値はAのグラフから読み取ったおおよその値です.

ILOが発ガン性を指摘した72年頃が日米英ともに使用量ピークで,日本35万トン,アメリカ80万トン,イギリス20万トンです(米英はそれ以前もこの水準に近いアスベストを使用していた).80年には米英がピーク時の半分に減っているのに対し,日本はピーク時の水準.85年時点では日本25万トン,アメリカ20万トン,イギリス5万トン(米英はピーク時の4分の1),そして90年には米英ともにピーク時の20分の1程度に激減しているのに対しバブルピークの日本は,あろうことか,30万トンという第二のピークを形成したのです.

右下の短い赤線は中皮腫による死者数です.95年500人から年々増加し,04年で953人です(10年で約7000人).潜伏期間から考えてこれらの死者は第一のピーク以前にアスベストを吸った人たちです.

もし日本が,米英と同一歩調でアスベストの使用を減らしたとしたら,図中央の長い赤線のようになります.ピンクで塗りつぶしたおよそ400万トンのアスベストが,製造・施工・改修・老朽化・解体・廃棄の過程で飛散することによって今後顕在化するであろう人命の損失は防げたのです.

日本はなぜ米英と歩調を合わせて減らせなかったのか.代替品がなかったという石綿協会の言い訳(B)は通用しません.米英に代替品があって日本にない筈がありません.それとも米英は70年初頭から90年にかけて,ビルや住宅の建設が激減したとでも?


アイスランド,北欧諸国,ドイツは,ほぼ米英と同一歩調でアスベストの使用を減らしたと思われます.フランスは欧米先進国の中では数少ない「アスベスト擁護派」でした.友邦カナダが世界最大のアスベスト生産国だったせいもあるでしょう.フランスの規制は遅れ,丁度米英北欧グループと日本の中間に位置します(後述).

アメリカの場合です.1921年当時世界最大のアスベスト会社マンヴィル社の労働者が素手でアスベストを扱っている衝撃映像が残っています.60年代から70年代にかけて,従業員や地域住民が訴訟という形で行動を起こします.64年にマンヴィル社は工場周辺を体系的に調査し,健康障害を出している人が他地域より2,3倍多いという結果を出しています(A).

78年米国政府は国民に石綿の危険性を警告(8月27日付朝日記載の年表より).80年,映画俳優スティーブマックィーンが50歳の若さで中皮腫で死亡.アスベストを取り扱う労働者だけでなく一般人にもアスベスト禍が及んでいることがわかり,社会問題化しました.82年マンヴィル社は倒産します(A).

8月15日付日経の「日米格差を生んだもの」という署名入り囲み記事は,アスベストによる人的被害に対する企業の負担をアメリカと日本で対比しています. 「700億ドル(約7兆6千億円)以上の賠償金,70件以上の企業倒産.片や,実質ゼロ円の賠償金,ほぼ皆無の企業倒産」.

「日米格差」を象徴する事件が86年に起こりました.米空母ミッドウェーは横須賀で艦内のアスベスト除去を日本人労働者の手によって行いました.米兵は作業現場から口を押さえて逃げ出したという元作業員の患者証言があります.1.5トンのアスベストが横須賀市内の路上に不法投棄され事件が発覚しました(A).規制の厳しいアメリカ国内ではできないことを知らぬが仏の「植民地」でアメリカはやってくれたのです.


さてフランスです(以下@による).フランスでは95年にアスベストが社会問題化しました.「当局の不注意によりアスベストによって毎年2000〜3000人の死者がでる」という科学雑誌の記事が契機でした.フランス国民は歩道のタイルに含まれているアスベストが飛散し日常的に吸っている可能性を知らされて愕然としたのです.保健相曰く「アスベスト問題に真剣に取り組んでいませんでした」.シラク大統領は「国民にすべてを知らせる透明性が必要」とコメント.翌96年フランスの国立衛生医学研究所が「年間2000人,最終的に10万人が死亡」という調査報告書を出した翌日,仏政府はアスベスト使用禁止を決めました

仏政府の禁止決定に対し企業,労働側は失業者を増やすと反撥し,カナダは輸入禁止措置に対してフランスを提訴.カナダ政府は密かにフランスの調査報告書の問題点を洗い出す委員会を設けました.これに対し仏研究者は「友好国がだした公的な調査報告書のあらさがしをするとはなにごとか.もしカナダの言うとおりなら,アスベスト禍はカナダでは起こっていないはずだ.カナダにおける中皮腫患者数を公表せよ」とせまります.カナダはデータを出さず,裁判はフランスが勝ちました.WTOが公衆衛生上の理由により自由貿易の制限を認めた最初の例だといわれています.

調査報告書について執筆者のマルセル・ゴルドベルグ(国立衛生医学研究所)は,「我々が書いたことは全てよく知られた周知の事実であり,目新しいことは何もなくスクープ性はない」と述べています.研究者にとっては常識だったことが,仏の一般国民にとっては驚くべき事実だったのです.

早大村山武彦氏によると(Bより),1930年代にアスベストによる肺ガン,50年代には中皮腫の可能性が指摘され,60年代にはアスベストが原因の悪性腫は学者間の合意事項になっていました.研究者の常識が社会的に広く認知されたのが,アメリカではマックィーンが死んだ80年,フランスでは95年,そして日本では「クボタショック」の05年だったのです.


ILO(国際労働機関)が86年に採択した石綿規制条約に対し,経済発展に不可欠だと反対したアフリカ諸国やアスベスト生産国カナダなどと同調して日本は批准しませんでした(批准したのはつい先日の05年8月上旬です).87年労働省化学物質調査課長の冨田達夫氏はその理由を次のように答えています(Bより).
「アメリカ,北欧の一部で非常に厳しい規制をしているけれども,要はアスベストを取り扱う労働者が病気にならないような方向で使うことによって国民全体の生活は良くなる」
アスベストを直接扱う労働者の安全さえきちんと守ればよい,アスベストを封じ込めた製品自身は安全である,(アスベスト製品は安価で断熱性にすぐれ)国民全体の生活の向上に寄与するのだ・・・という論理です.

労働省課長がいう「アスベストを扱う労働者」とは,クボタや建材メーカーなどの工場労働者を指します.整備された日本の労働行政のおかげで危険作業に従事する工場労働者の安全は守られ,アスベストが塀の外にもれていることなど毛頭ないと,労働省課長は主張しているのです.

82年から石綿協会の特別委員を務めてきた産業医科大学の東医師は,末端にいたるまできちんと教育ができ安全に使えていたかどうかは真摯に反省する必要があると述べています(B).ここでいう末端もあくまで末端工場や工場末端労働者を指します.工場での安全管理が不十分だったことは,中皮腫で亡くなった多くの工場労働者の存在が証明しています.そしてアスベストの場合,アスベストを浴びた「末端」は,塀の外に大勢いるのです.

左は旭化成ヘーベルハウスで使用されてきたアスベスト含有建材の一部です(後述).90年築の我が家の軒天はアスベスト含有です.

7年前ある塗装業者が誤って軒天に径15cmの穴をあけてしまいました.旭化成リフォームに補修を依頼したところ20万とふっかけてきたことが『塗料すりかえ事件』の幕開けでした.

穴は1ヶ月放置されたのち,旭化成配下の工事店は,頭上のボードを半分に切断して取り替えました(添木された継ぎ目は今でもよくわかります).「アスベスト繊維が浮離した状態」が存在したことは確実だと思われます.


職業性疾患・疫学リサーチセンターの海老原勇医師は,81年から調査してきた,大工,空調,左官職などの建設労働者について「彼らは,建材メーカーからアスベストの危険を何も知らされないまま,建材を電動ののこぎりで切るなどして,アスベストが飛散する現場で働いてきたのです.建材メーカーの責任は大きいでしょう.建材メーカーの労働者は,約1万5千人ですが,建設労働者は540万人,退職者を含めると,約1000万人になります」(週刊文春05年9月29日号).彼らの多くはひとり親方で労災に入っていません.

元フランス労働省の医師フィリップ・ダベジーは述べています(@).
「アスベストは社会に広く浸透していた.製造現場で使用を管理することができても,広く世間に出回ってしまえば管理は不可能.管理して使えば安全というのは完全な妄想

「大切なお知らせ」

季刊『ヘーベリアン』05年秋号が10月下旬に届きました.「石綿(アスベスト)問題の対応について」と題する「大切なお知らせ」が載っていました.巻頭でも巻末でもない目だたない所にさりげなく挿入された,わずか1頁半の「大切なお知らせ」でした.お知らせは次の4項目からなっています.

(1)過去の使用状況

ヘーベルハウスで使用されてきたアスベスト含有建材の「使用部位と使用時期」が一覧表になっています(全体26項目の一部を上で示しました).設備メーカー情報であるユニットバス,キッチンセット関連を除くと16項目です.72年以来33年の歴史をもつヘーベルハウスの石綿使用状況が16項目に集約されているのです.この一覧表が概要にすぎないことは,(4)に示すようにリフォーム時には改めて旭化成に相談せよとあることから明らかです.

(2)現在の使用状況

「現在販売しているヘーベルハウスには石綿を含んだ建材は使用しておりません」

(3)通常の居住による石綿を含む建材の健康への影響について

「現時点で,通常の生活で健康に影響が生じたとの情報を確認していません.」
「現在大きく報道されているのは,石綿そのものを原材料として製造工程などの作業者,そのご家族,工場周辺住民の健康被害であり,石綿の粉塵を多量に直接吸入することに起因したと言われています.弊社が使用した建材に含有された石綿は,セメント板,プラスティック材料等の原料の一部として固定され設置しているものがほとんどです.」
「ヘーベルハウスにて通常の生活をお送りいただくには,石綿による健康障害はまず考えられませんので,安心してお過ごしください.」

(4)今後の解体工事,リフォーム工事について

通常の生活では石綿の飛散する恐れはありませんが,リフォームや解体時には事前調査等専門的な配慮が必要な場合があります.」
「特にヘーベルハウスの解体をされる場合は,弊社窓口ホームサービス課にご相談ください.」
「ヘーベルハウスでリフォーム工事をご検討の際は,各建物のアスベスト混入建材の使用状況を確認する必要があります.弊社窓口ホームサービス課にご相談ください.」


NHKスペシャル(B)に積水化学工業(セキスイハイム)が登場しています.同社は37万戸の全ハイムを1件1件どこでどうアスベストが使われているか調査しました.短時間で全件調査するには整備された顧客データベースの存在が必須であることはいうまでもありません.そして9月末には全顧客に,アスベストに関する重要情報が入っている旨朱記された封筒で,その家でアスベストがどのように使われているかを通知しました.説明は図入りでした.

旭化成は顧客データベースを「建てたあと」の宣伝の材料に使ってきました(第一部参照).ご自慢の顧客データベースは今回どうなったのでしょうか.こんな時こそ出番ではありませんか.情報を隠ぺいしたままリフォームの時は旭化成に相談せよというのでは,実にアスベストまで顧客囲い込みの材料に使っていると勘ぐられても仕方がありません.


「現在大きく報道されているのは(略)石綿の粉塵を多量に直接吸入することに起因」と旭化成は項目3で述べています.これは問題ある表現です.

クボタの情報開示が「大きく報道され」「クボタショック」と言われるまでの衝撃を世間に与えたのは,アスベストは微量に吸っても危ないらしいことに,多くの人がはじめて気づいたからです.大気汚染防止法の安全基準「1リットル中10本」ですら,「国際的規準に照らせば,一般環境ではさらに100倍の厳しい基準が必要」と早大村山氏は述べているのです(朝日11月7日付け).

92年の日本石綿協会パンフレットの「日常生活で危険率のきわめて小さいアスベスト」とまったく同じ精神で,旭化成ホームズは項目3を書いているのです.その矛盾はすぐそのあとの項目4に現われています.

項目4をはっきり書けば,リフォーム,解体時には「石綿が飛散する恐れ」があるということです.ここで当然の疑問が起こります.「今後」の話はいいとして,「過去」のリォーム工事,解体工事は,どうだったの?

過去においては,ヘーベリアン,その家族,近隣住民そして下請け作業員に「石綿が飛散する恐れ」はなかった,とまさか言うつもりはないでしょうね? 過去の話に一言もふれないのはどうして!


中皮腫の潜伏期間は30年から40年です.ヘーベルハウス第1棟は72年建設です.したがって「現時点」で被害者がいないのはむしろ当然です.被害者が出てくる可能性があるのは,これからなのです.過去にリフォームしたり,増築した経験を持つヘーベリアンに対して,いかなる根拠で,「安心してお過ごしください」とホームズは言っているのでしょうか.

「大切なお知らせ」はアスベスト問題を対岸の火事として眺めた欺瞞に満ちたものです.アスベスト問題はハウスメーカーにも重大な責任があるのです.



11月上旬テレビニュース画面の「クボタ5200万補償」に,私は一瞬,おっそこまで出したかと思ってしまいました.しかし200万円×26人ということでした.以下は月刊『論座』05年12月号の久保俊彦氏「「クボタショック」の尼崎を歩く」からの抜粋です.

「クボタの従業員は自分の意志で会社に勤めてたんでしょう.それで3200万円.でも住民は近くに住んでいただけで,後からきたクボタにわけのわからん粉を吸わされて200万円.不公平だと思いませんか.」

 ***

クボタは同工場の石綿が住民被害の原因の可能性があることは認めたが,因果関係は認めていない.患者らに謝罪もしていない.当時,尼崎市内で石綿を使っていたのは同工場以外にもたくさんあったとクボタは主張している.しかし同工場は57年から60年にかけて日本の石綿輸入量の1割以上を使用するなど,石綿全体の取扱量が格段に多かったのも事実だ.

 ***

周辺住民に石綿被害が起こる可能性をいつ認識したのか,との私の質問に,(略)クボタは,今年の4月になってからだと答えた.(略)しかも,クボタは「国による被害救済の新規立法化が進められていることなどから,現時点で,クボタ独自で補償することは考えておりません」という.

 ***

政府は最近「石綿新法」の骨子を決めたが,補償ではなく,240万円の一時金で済ませる方向だ.患者や支援者らでつくる石綿対策全国連絡会議は「一時金では到底『補償』制度とは呼べず,治療費はもとより労災補償に準じた所得・遺族補償等がなされるべきだ」と主張する.
同記事にはクボタ発表に至る経緯が書かれています.05年3月以降,患者遺族らがクボタに情報開示を強くせまった結果,クボタは因果関係をみとめないまま数人に見舞金・弔慰金200万を出すことを決めた,支払い前日の6月29日,毎日新聞夕刊が「クボタ社員ら“石綿死”10年で51人」,「工場周辺住民も2人」という見出しでスクープ,同日クボタは記者会見して事実を公表,という経緯です.

加害企業であることが明らかであるにも関わらず,工場から1km以内の中皮腫患者,遺族にだけ200万というわずかな金を支払っただけで謝罪もしていないというのでは,まるでかってのチッソと同じではありませんか.クボタ発表のおかげで,国民がアスベストの危険性に気づいたのは紛れもない事実ですが,発表を英断とまで(私が)思ったのは過大評価であり,支えきれずに公表したという社長の言葉が真実だったようです.


朝日新聞11月8日付「負の遺産 アスベスト」Dより.
政府は(石綿)新法の財源を,税金のほかに石綿業界からの拠出金にも求める.その負担も定まらない.

建材などの石綿製品メーカーには零細業者が多く,業界は石綿規制の強化で90年代以降,斜陽化が急速に進んだ.石綿製品は04年に生産・販売が原則禁止になり,業界は消滅寸前だ.

「新法の財源は,石綿の輸入業者,製品メーカー,使用企業と国が,それぞれ負担するべきだ」 日本石綿協会の福田道夫専務理事は10月25日,自民党の合同部会で議員たちにそう訴えた.しかし,

石綿製品を部品として使ってきた自動車や造船,化学メーカーなどに負担を引き受ける動きは鈍い.
この記述に私はもやもやした印象を持ちました.

建設業界の責任はどうなっているのでしょうか.アスベストの9割は建材に使われたのであり,建材は建設業界が使用してきたのです.日本の隅々にまでアスベストを浸透させてしまった責任は明らかに建設業界にあります.

「消滅寸前」の零細石綿業界にすべてを押し付けようという動きは,かってアル骨騒ぎの時に,真っ先に零細骨材業者がバッシングされ,大企業寡占体制のセメント業界は,アルカリ規制は国家的損失だとうそぶいていた話を思い起こさせます.

石綿被害は労災がカバーできない範囲に拡がっています.石綿新法の趣旨は広く被害にあった国民を救済しようというものです.財源に石綿業界が拠出金を出すのは当然です.しかし「石綿の輸入業者,製品メーカー,使用企業と国が,それぞれ負担するべきだ」という石綿協会専務理事の主張にも理があります.


もし建材メーカーが石綿含有であることを隠して建設業者に納入していたのであれば,建材メーカーの責が重いことは明らかです.しかしそんな話は例外中の例外でしょう.ハウスメーカーはたとえばアスベールという建材が何%アスベスト含有であるか知った上で使ってきたのです.

それは知っていたが,危険性は知らなかった・・・? ではお聞きします.アスベストの危険性は石綿業界しか知らない極秘事項だったのでしょうか.否.断じて否.危険性を知りつつ使ってきた建設業界の責任もまた極めて重いというべきです.


・・・・・・小泉首相がおっしゃったように旭化成も「危険性を察知」できませんでした,旭化成は首相のような素人ではないにもかかわらず,危険性を察知できないマヌケでした,どうも誠に申し訳ありませんでした・・・・・・

と率直にまず謝ることこそ,アスベスト問題に対してハウスメーカーのとるべき態度ではないでしょうか.一言お断りしておきますが,私は旭化成がマヌケなどと失礼なことは思っていません.

弊社もアスベストの危険性くらい重々知っている,しかし現実問題,微量に浴びても問題なかろう,仮に問題だったとしても発症するのはどの道30年以上先の話だ,規制される前に儲けられるだけ儲けておこう,赤信号みんなで渡れば怖くないのだ

というのが偽らざる実態でしょう.そんなことは口が裂けても言えないでしょうから,それならせめてマヌケでしたと手をついて謝れと言っているのです.少しは反省の色をみせろと,言っているのです.


87年に全国の小中学校で吹き付けアスベストが問題になった「学校パニック」の際,文部省が出した通達に誤りがありました.アスベスト含まずと通達した15建材のうち実に11建材がアスベスト含有でした.これに対し文科省の施設企画課長が釈明しています(B).過ちを認めない無謬主義の典型答弁でした.これにはさすがの優しいNHK女性アナも「反省の色がみえませんね」と厳しくコメントしていました.

学校関連は「学校パニック」時に文部省が実態調査して対策をとったことに一応なっています.その後文部省は18年間なにもしておらず,「クボタショック」であわてて再度実態調査したら,全体の34%を調査した中間報告の段階で184校(調査済み校の0.9%にあたる)でアスベスト飛散防止対策がとられておらず石綿吸引のおそれがあるという恐ろしい結果がわかりました.「予想外の多さで,非常に重く受け止める」と文科省施設企画課は述べています(日経9月30日付).

「学校パニック」時に実態調査が行われたのは学校関連だけだったようです.今回はじめて調査されたと思われる病院関連では341病院(調査済み病院の実に7.7%にあたる)で石綿が飛散,吸引の恐れがあることがわかりました.厚労省は「ボイラー室や機械室など患者や職員が立ち入らない場所が多く,病室はほとんどない」とコメントしていますが,作業員の命は患者や病院職員より軽いのでしょうか(日経10月5日付け).

マンションなど住宅でのアスベスト使用状況の実態はもっとひどいと思われます.亀戸2丁目団地(公団)のように,36年間も廊下のアスベスト吹き付け天井の下で住民は何もしらずに生活してきたというのはその一例です(B).そして・・・

05年10月15日付け朝日新聞『アスベスト/住宅も対策義務化』より抜粋
国土交通省は12日,既存のマンションやビルで使われた吹き付けアスベストについて,飛散防止や除去を所有者に義務づける方針を明らかにした.来年の通常国会で建築基準法改正をめざす.これまで事業所については労働安全衛生法で飛散防止や除去が義務づけられていたが,既存住宅でのアスベスト使用に規制はなかった家主の責任が明確になることで,中古マンションの売買や賃貸にも影響が出そうだ.

規制の対象とするのは,室内などに露出している吹き付けアスベストとアスベスト含有の吹き付けロックウール.対策がとられていない場合は建物の使用を禁止する.

アスベストの吹き付けは75年,「特定化学物質等障害予防規則」で原則禁止されており,現在,新規の使用はないが,建築基準法で禁止することで,市町村が建物所有者に報告を求めたり,勧告や是正命令を出したりできるようになる.また,増改築の際には,除去などの対策が持ち主の義務となる.
ご覧ください.国や建設業界の責任が明確になる前に,いち早く国民の責任が明確になろうとしています!


75年の吹き付けアスベストの「原則禁止」というのは,「今後は」アスベストの吹き付け工事を禁止するというだけのものでした.「過去の」工事は放置されたままでした(亀戸2丁目団地のように).そして「原則」がついているのは含有率5%以下の吹き付けは許されたからです(朝日11月7日付).

中皮腫・じん肺・アスベストセンター代表の名取雄司医師によると(B),スーパーの駐車場などで今もよく見かける吹き付けロックウール(岩綿)は,75年頃からアスベストが混ざりだし90年ごろまで続いた,その後も一部の現場で混ぜた例がある,95年以降は報告はない・・・・・・ということです.つまり岩綿であっても,単純には安心できないのです.石綿含有の有無は分析してみないとわからないのです.

どうしてもツケを国民に払わせたいのであれば,その前に,「過去において」国が実に甘い規制を行ってきたことをまず謝罪すべきではないでしょうか.旭化成の「大切なお知らせ」と同じ欺瞞姿勢がここでも見られます.


石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎氏はNHKスペシャルで次のように述べています(B).
国は業界がアスベストを使わなくなるのを待った.業界は規制がないから使えるだけ使った.
国は業界が使わなくなるのを待って04年原則使用禁止,そして06年に全面禁止を予定しています.

私はこれを聞いた時,アスベストを「高アルカリセメント」に置き換えればそのままあてはまると思いました.この規制パターンは国民の生命財産より業界意向を重んじる土建国家日本を象徴するものです.


11月4日の報道ステーションは80年のマックィーンのアスベスト死を報じていました.

「彼の死が中皮腫によるものであることはほとんど知られていない」.たしかに私の友人も知らなかったし,私も上記テレビ東京「ザ・真相」ではじめて知りました.ほとんどの日本人は彼は肺がんで死んだと思っていました.当時の日本で中皮腫を知っていた人はどれほどいたでしょうか.が,しかしアメリカでは,彼がアスベストに起因する中皮腫で死んだ事実は,衝撃をもって広く報道されたのです.

古舘氏は「日本はアメリカより20年遅れている」とする一方で,「アスベストはアメリカでも全面禁止に至っていない」と述べました.これは私も知りませんでしたが,日本が遅れていることに対する「相殺情報」であることは明らかです.日本は来年あたり全面禁止を予定しているからです.

青酸カリは猛毒であるにもかかわらず管理されて使われています.アスベストも厳重管理が可能な特殊な用途・施設(たとえば原子力関係)で使われる分には問題ないと考えられます.いつ「全面禁止」するかはほとんど枝葉末節の問題です.

問題はいつ「全面禁止」されたかではなく,アスベストの危険性が<いつ社会的に認知されたか>です.日本では05年の「クボタショック」でようやく中皮腫が「ポピュラー」になりました.アメリカではそれが80年だったのです.

日本人はテントを張っただけの解体現場の横をなにも気にせず歩いてきました.95年阪神大震災の被災現場で,青石綿,茶石綿が舞っている中,若いボランティア達はガーゼマスクすらせずに献身的に活動しました.阪神大震災後に国があわてて毒性の強い青と茶の製造や使用を中止したのは,何ゆえか.


アメリカ政府は数十万トン以上アスベストを使用していた78年に国民に危険性を警告しました.フランスは96年段階ではアスベスト使用量はかなりのものだったと思われます(だからカナダはフランスを訴えたのです).シラク大統領は企業側の抵抗を押し切り,友邦に告訴されても,断固として禁止に踏み切ったのです.これが政治です.一方日本はどうか.

05年日本人がアスベストの危険性に気づいた時には,多くの企業はすでにアスベストから手を引いていました(ヘーベルハウスしかり).企業がもう腹一杯だと言うまで,赤信号を渡り終えるまで,国はほとんど何もせずに放置したということです.これが日本の政治です.


フランス・カナダ共同制作の番組@は,フランスのアスベスト問題を,77年にできた筈のことが97年まで遅れた,わかりきった問題を是正するのに20年かかったと総括しています.

米国政府が「国民に石綿の危険性を警告」したのは78年です.そして日本の労働省が英国の65年の論文を通達で引用したのが76年です.もし日本に真の意味で「政治のリーダーシップ」が存在していれば,同じ頃に「国民に石綿の危険性を強く警告する」ことができたでしょう.

同番組はフランスにおけるアスベストの歴史を「沈黙と先延ばしの歴史」と形容しました.「沈黙と先延ばし」は表面に現われた現象であり,本質は隠ぺいです.日本のアスベストの歴史もまた隠ぺいの歴史です.そして日本にあっては事はアスベストに限らないのです.水俣病事件しかり,コンクリート品質問題しかり.



コンクリート品質問題をスケール別に振り返りましょう.まずはミミッチイ「小」の事例で,無論わが白華ヘーベルハウスのことです.

旭化成ホームズは4月21日,我が家で「イヒ報告書」を説明したのを最後に沈黙しました.あれから現在(11月上旬)まで半年以上,電話一本ありません.「客に安心して頂く」材料がすでに完全に枯渇したのでしょう.

旭化成ホームズに対する私の要求が白華に対する書面見解であることを,もう一度強調しておきます.コンクリート品質問題に対する旭化成の企業姿勢を鮮明に映し出す動かぬ証拠になるからこそ,旭化成は紙一枚の見解を出すことができないのです.

本当のことを言わずにモルタルやエポキシを塗ることによってその場をしのごうとした旭化成の対応経緯は,小さいながらも立派に「沈黙と先延ばしの歴史」です.


「中」の事例は民間マンションです.

9月26日の朝のNHKニュースはアスベスト問題を取り上げていました(「シリーズアスペクト」).その中でリニューアル技術開発協会の須山氏は,老朽化した民間マンションではアスベスト除去費用がかさむため,「マンションの管理組合が住民に情報開示しない可能性がある」と指摘していました.

アスベスト除去費用はたしかにかさみます(亀戸2丁目団地の例で4300万).しかし欠陥コンクリートの補修補強費用の比ではないと思われます.「中古マンションの売買への影響」もアスベストの比ではないと思われます.「建て逃げ」した建設業者の責を問うことが困難だとすれば,外部に対して欠陥情報が隠ぺいされる可能性は非常に高い,というより隠ぺいが普通であると考えられます.それはババをつかまされた身になって考えれば容易にわかるでしょう.

まともなマンションと見分けのつかない姿かたちで,一定数の欠陥マンションが混在しているのが現実であり,このような状況のもとで「どんなマンションでもメンテナンスさえしっかりやっておけば100年もつ」と唱えることは,アスベストの「管理して使えば安全」と同様に欺瞞であり,臭いものに蓋をする考えである,と私は考えます.


最後に「大」の事例です.05年9月17日付け日経新聞より.

(click↑)
2%とはいったいどれくらいでしょうか.(ちなみに日本の人口は全世界の人口の2%,大阪市の人口は日本の人口の2%です.)

我が家の外壁面積は200uでその2%は4uです.外壁のヘーベルパネルが,30cm×30cmの大きさで「コンクリートが劣化,一部がはがれ落ちて鉄筋がむき出し状態」になっているとしましょう.そういう個所が44箇所,これが「表面積2%劣化」のイメージです.

こんなヘーベルハウスはいったいどう見えるでしょうか.きっとボロボロに見えるでしょう.それが「鳥の眼」から見た山陽新幹線高架橋の現状です.

山陽新幹線は建設後まだ「わずか」30年しかたっていません.すでに40年たった東海道新幹線はどうなんでしょうか.劣化表面積は1桁以上小さいと思われます.

小林一輔氏は山陽新幹線高架橋は東名高速道路にくらべて6倍の速さで老化が進行していると警告しています(『コン危』38頁).山陽新幹線の中性化深さが建設後わずか10年ですでに平均15mmに達しているのに対し,東名高速道の方は建設後22〜24年の段階でわずか5mmなのです.東海道新幹線は東名高速道路と同等のコンクリート品質だと思われます.

「建設から年数がたち,劣化が進んだためらしい」とはいったい誰の推測でしょうか.天下の日経は,無知な素人の推測を,記事にしたのでしょうか.

山陽新幹線高架橋が建設後30年でボロボロなのは,コンクリート品質に問題があったためです.塩害・アル骨反応・炭酸化の3重苦のためです.



JR西日本のキーマン井手正敬氏は,尼崎脱線衝突事故の1ヶ月後の時点で朝日新聞の単独インタビューに応じています(朝日新聞05年5月25日付より).
安全投資が遅れたという批判に対しても,95年の阪神大震災や99年のトンネル崩落事故を例に,「思わぬことでお金がどっと出てそこを集中的にしないといけないことがあるとすれば,全体として(投資)を調整しなければならない.鉄道会社の第一は安全で,投資額の半分は安全対策にかけている」とした.
同氏はまた「高架橋の問題,新幹線のトンネルの壁の剥落など,国鉄時代にやった工事のツケがさまざま発生」(『論座』05年12月号)と述べています.「年数がたって劣化」ではなく「国鉄時代にやった工事のツケ」が回ってきているのです.高度成長期の負の遺産にJR西はいまだに苦しんでいるのです.

99年刊の『コン危』で小林氏はすでにこう述べています(同書68頁).
JR西日本はすでに,高架橋の補修・補強のために200億円をこえる費用を投じていると聞く.しかし,これらはその場しのぎのもので,その効果が持続する期間は意外と短い.また補修・補強がおこなわれても,設計時に想定された耐力が回復されたという保証はない.
「安全対策費」は現在莫大な額になっていると思われます.そして井出氏はいつ噴火するかわからない火口の傍らで踊っていることを自覚しているように思われます.しかしコンクリートがボロボロで危険な状態になっているとは口が裂けても言えず安全に問題はないと言い続けるのです.まさに「沈黙と先延ばしの歴史」です.これがJR西日本の頽廃の根源です.





8.姉歯ショック


05年11月29日(参考人質疑直前)
   12月03日(参考人質疑)
   12月07日(第2回参考人質疑)
   12月11日(隠ぺい疑惑)
   12月17日(証人喚問)
   12月19日(NHKスペシャル)
   12月31日(朝日トップ記事)
06年01月17日(品質不良)
   02月13日(国の責任)
   03月07日(静香ショック)
   03月14日(新計算法)
   04月02日(アウトロー作家)
   04月13日(建築基準法の穴)
   04月21日(強制捜査直前?)
   04月23日(プロ集団JSCA)
   04月29日(小川コンセプトと民主党案)
   05月11日(ゆゆしき事)
   06月07日(隠ぺいの森に茂る木々)
   06月30日(真っ赤なウソ)
   12月31日(国交省重大発表)
07年01月31日(既存不適格物件と耐震診断)
   02月18日(アパ問題)
   03月10日(国交省の悪意の証明)
   03月26日(「もちろん建築学会式です!」)
   04月21日(国交省重大発表の続報)
   05月23日(藤田東吾氏「月に響く笛」)
   06月25日(藤田東吾氏VS.八方美人の市民派権威)



05年11月29日 参考人質疑直前



11月18日に報道された構造計算書偽造事件で世間は大騒ぎになっています.今日午後から国会で関係者が参考人招致され審議されます.TBS系(みのもんた朝ズバッ!など)ですでに一部報道されている10月2X日に開かれた「5者密室会談」(ヒューザー,木村建設,イーホームズ,姉歯,元請設計会社4社)の議事録メモが全てを語っているように思われます.ここでは別の観点から事件を切ってみます.


千葉県建築士協会のある一級建築士は彼言うところの「盲点」を次のように述べています.

「以前は役所が細かく構造計算書をチェックしていたが,昨今はほとんどコンピュータで処理されるから間違いようがないという認識がある.なおかつ民間が検査する制度ができると民間の企業ですから利潤を求める.なるべく多くの顧客にきてほしい.そうなればなるべく早めに要望通り早くチェックしたものを通してOKする.」

98年に建築基準法が改正され,建築確認は規制緩和の一環として官から民に解放されました.11月21日の報道ステーションで朝日の加藤コメンテータは「規制緩和の悪い面が出た」と述べました.古館氏は「民間では検査はできないことがはっきりした」とまで極言しました.26日の別の番組では(もういい加減顔を見るのもうんざりの)H弁護士が小さな政府の問題点であるなどと述べていました.はたして姉歯事件はそういう問題なのでしょうか.


建物の仕様を記載した建築設計書が最重要ドキュメントであることはいうまでもありません.

建築設計書から柱や梁の太さ,鉄筋の本数など,構造計算に必要な数値を抽出して構造計算プログラムに入力します.その結果がOKでもコスト削減の要請により,NGなら必要強度がでるまで,設計内容を変更して繰り返し再計算するのが,建築設計書のFixつまり設計完までの通常の設計作業です.

問題の構造計算書とは,もちろん設計完の建築設計書に対応するものです.それは構造計算プログラムに対する入力データと出力データを紙に記載したものです.入力データはかなりの数ですが,出力データは乱暴に言えばOKかNGかだけです.

構造計算書は数100頁になりますがそれは数多い入力データを転記してあるからにすぎません.構造計算書には概要もついていますが,それはお飾りでその本質は入出力データなのです.



今回の事件では構造計算書が偽造されました.規準を下回る外力の場合の出力データ(当然OKがでます)にすりかえるという単純な偽造です.民間検査機関イーホームズは「偽造は極めて悪質,巧妙でわが社の審査に過失はない」と述べました.これはウソです.審査手順は論理的には次の2ステップからなります.

1.入力データが建築設計書から正しく抽出されているかチェックします.(机上チェックフェーズ)

2.それを構造計算プログラムに入力して再計算します.計算結果が構造計算書と矛盾していないかチェックします.(再計算フェーズ)

この手順を踏めば,どんなに悪質巧妙な偽造もたちどころに発覚します.偽造の有無を「精査」する必要などまったくなく,機械的に上記手順を踏めばよいのです.1は建築設計書の見方を教え適当なワークシートさえあれば中高生でもできるでしょう.2はパソコンのアプリが使える人なら,誰にでもできるでしょう.つまり1も2も,その手順の遂行には「専門性」は要求されないのです.

念のため2つ補足しておきます.構造計算のロジックは素人には理解できません.しかしそのロジックは構造計算プログラムに凝縮されていて理解する必要はないのです.構造計算書のチェックは,「構造計算の専門家」ではなくても,意匠専門の文系建築士でもできるのです.

2つ目.構造計算の結果がNGの場合,どう対処するかは設計者の仕事です.梁を太くするのか,鉄筋の数を増やすのか,それとも構造全体を変えてしまうのか判断するのは,建築設計者が判断するのであり「構造計算の専門家」が判断するのではありません.設計フェーズではこのような判断が何回も行われ建築設計書をFixするまでの作業は高度の専門性が要求されます.

今回問題となっている構造計算書は,すでにFixされた建築設計書に対応するものです.NGが出た場合の対処法など知る必要はありません.NGがでたら即アウトです.NGが出るかどうかは素人でもできるのです.


イーホームズは「膨大な資料を限られて時間に1から10までチェックしなければならない」などと弁明しました.そうです.そのとおりです.それが仕事です.ただしチェックは極めて機械的な単純作業ですから,やりかたを考えればいくらでも効率的にできます.

11月27日の朝日新聞によると,国交省がこの1年でイーホームズが建築確認を出した約500棟のマンション,ビルのうち,98棟を抽出して再点検したところ,わずか2棟しか手順どおり審査していないことがわかりました.2%しかチェックしていないのです.

だから民間に任せるのはだめなんだと言うのはまったくの誤りです.同日の朝日新聞によると,「イーホームズの審査担当者10人全員が,市役所などで建築確認業務に携わった公務員OB」です.イーホームズは「建築主事」たちの仕事振りを踏襲しているだけです.

イーホームズは国の認定を受けた122の民間検査機関の一つです.これらに対して,国交省は年一回程度立ち入り検査を実施しています.ところが検査内容は「建築基準適合判定資格者」の資格をもった1級建築士の数や確認書類の保存状況など「事務上の不備」に関する点検が中心で,構造計算書の審査状況など全く調べていないのです.北側大臣は今回の事件は純然たる民民の問題ではないと述べました.当然です.「国指定確認検査機関」がきちんと仕事をしているか監視するのは国の責任だからです.


11月24日の朝日によると,建築確認の民間最大手は「日本ERI」というところ(シェア1割)で,ジャスダックに上場しています(17日が53万円台だった株価が22日には76万円台にまで高騰しました).ところが27日の毎日新聞によると偽造発覚物件はイーホームズ26件,東日本住宅評価センター1件,日本ERIが2件となっています.日本ERIもノーチェックであることがわかります.

そして民間ではなく行政が審査したものには,平塚市1件,長野県2件,松本市1件,台東区1件,愛知県1件となっています.自治体の検査もノーチェックです.

11月28日(月)朝の,みのもんた朝ズバッ!は見ていると,群馬県の渋川市のホテルでも偽造が発覚しました.これは県が検査をしています.「再計算」の結果不一致が発見されたとのことです.これに関して県は次のような実に正直な(!)驚くべき見解を発表しました.
「我々は性善説に立って検査している.書類上の不備はなかった.独自に県の方で構造計算の専門家に依頼した結果,偽造がわかった.」
特に後半部にご注目下さい.自分達では「再計算」もできないなどと恥ずかしげもなく表明しているのです.自治体の「建築主事」たちの実力はこの程度のものです.

番組コメンテータは「構造計算はブラックボックスになっている.いかに実効ある検査体制を確立するかが問題である」などともっともらしいコメントをつけました.ブラックボックスになっていてなんら問題ないことは上で述べたとおりです.

これに対して番組の男性アナは「検算すれば簡単にわかることだと思うのですが」とつぶやきました.そのとおりです!すべては性善説に立った検査の「手抜き」が問題なのです.


事件発覚直後から「構造計算の専門家」と称する人たちが頻繁にテレビに登場しています.「構造家」などと自称する人まで現われました.「日本建築構造技術者協会」の大越会長も登場し,1級建築士が30万人もいるのに構造計算を専門にするのは1万人しかいない,医者の専門が細分化されているように,構造計算の専門家も独立した資格にすべきなどと主張しています.

おわかりのように,今回の事件で「構造計算の専門家」たちに出る幕はないのです.厳しく言うと,かれらは素人の無知につけこんでこの機とばかりしゃしゃり出てきているのです.構造計算はOKだったが実際は問題があった場合にのみ,専門家に出番があるのです.(今回事件は構造計算はNGなのに「構造計算書」がOKだったという事件です,念のため.)



05年12月03日 参考人質疑



11月29日午後,3時間あまりにわたって耐震強度偽装問題で衆院国土交通委員会が開かれ,そのすべてがNHKで生中継されました.冒頭の自民党議員(1級建築士)の質問があまりにも漠然たるものだったのでどうなることかと思いましたが,続く民社党の長妻,馬渕,三日月3氏の追及で重要な事実がいくつか明らかになり,たいへん見ごたえのあるものでした.

姉歯建築士は欠席しました.彼はすでに国交省の聴聞を受けています.発覚直後のまったく悪びれたところのない受け答えはおおもねそのまま受け取っていいと思われます.ただし「審査したのはイーホームズだけ」ときっぱり明言していたのは真っ赤なウソでした.日本ERI(や自治体)も審査していたのです.

ヒューザー,木村建設は真っ赤なウソをついています.彼らデバロッパーが主犯です.問題はイーホームズ(以下イー社と略記)です.イー社藤田東吾社長は,技術者風のごく普通の人に見えます.藤田社長の答弁を次の2つに分けます.

 1.業務上の過失の有無に関するもの.
 2.偽造発覚経緯に関するもの.

1に関して.藤田氏は国交省の調査で98件中2件しか手順どおり検査していないと報道された(上記参照)ことに関して,構造計算には一貫計算と個別計算の2種類があり,「大臣認定プログラム」を使用した一貫計算の場合は認定番号が印字され,大部の入力データの添付を省略できる(「図書省略」)という制度になっている,どちらを採用するかは申請者が決めることであり,98件中の2件だけが一貫計算であった,そして偽造はすべて個別計算の方だった,と述べました.つまり認定番号を見落すといった単純ミスを犯した云々の報道は誤りであると主張したのです.多分これは本当でしょう.

藤田社長は「大臣認定プログラムの改ざん」があったと述べました.「計算書」の改ざんではなく「プログラム」の改ざんと述べたのです.私は初耳でした.彼はまた社内の若手ソフト技術者が解明した云々ということも口にしました.

もし姉歯事務所にインストールされているプログラムが改ざんされていれば,構造計算書を穴のあくほど調べてもおかしな点がでてくるはずがありません.ただし同じデータを使って検査機関にインストールされている正しいプログラムで再計算すれば,簡単に改ざんが明らかになるのです.

申請者にどんな悪人がいるかわからないという性悪説に立てば,申請データに基づき検査機関のコンピュータで「再計算」することが絶対の条件であることがわかります.ところが藤田氏は再計算には膨大な手間がかかり事実上ムリな話であり(国会ではここで無理ならそんな仕事をするな,開き直るなとヤジがとんだ),業務上の過失はないのだ・・・というのが彼の苦しい主張です.

もし「再計算」がそんなに面倒な話なら,この10日あまりの間になぜ次から次へと偽造が発覚するのでしょうか.もし本当に検査機関で「再計算」が無理なら,そもそも構造計算に対して国が結果を保証するという認定行為自体が無理な話になってしまいます.


2の発覚経緯について.主に民主党馬渕議員が追求したこの部分が今回の参考人質疑のクライマックスでした.

イー社藤田氏は最初社内監査(10月20日実施)でわかったと述べていましたが,そうではなくある設計事務所社長(以下X社長)からの情報提供がきっかけであることが明らかになりました.

イー社に対しX社長から「姉歯物件には注意されたし」という電話がありました(12月1日の毎日新聞記事によると10月14日頃です.同記事によると,1週間後の21日になってイー社は調べたが問題なしとX氏に答えた,これに対しX社長がイー社に出向いて説明した結果,ようやくイー社も重大性に気づいたという経過をたどったようです.)

10月26日,藤田社長は国交省建築指導課係長に「構造計算書の偽造が見つかった」というメールを入れます.ところがその返事は「課で検討した結果,本件は申請者とイー社の問題であると認識している.以後本件に関し,当方にご報告いただく必要はない」という実に驚くべきものでした.(11月30日の日経によると,「国交委終了後,小川富由建築指導課長は事実関係をほぼ認め」ています.)

10月27日に関係各社がヒューザー社に集まります(「10.27密談」).この密談では「事実は曲げない方が結果的には良い結果を生む」として事件を公表しようとするイー社藤田社長と,「正義を通そうとすると売るに売れない.天災地震で倒壊した時に調査した結果発覚したということにしてくれ」と公表に強く反対したヒューザー小嶋社長がするどく対立しました.

ヒューザー小嶋社長は,国会という場においても「なに言ってんだ,バカヤロー」などという「不規則発言」のできる人です.自社の密室においてどんな調子でどんな言葉を吐いたか,容易に想像できます.

密談後,藤田社長は国交省に対し,再度問題の重大性を訴えます(メールと電話).これに対しようやく国交省は話をきくことを受け入れ,藤田社長は翌28日に国交省に出向き事件を報告します.国交省が対策会議を開いたのは,最初のメールから実に2週間後だと言われています.そして
11月15日 伊藤元国土庁長官がヒューザー小嶋社長とともに国交省幹部と会談
11月17日 国交省が事件を公表
という経過を辿ったのです.11月15日は,臭いものに蓋をしようとする勢力が最後にあがいた日だったと思われます.


藤田社長は,X社長から聞いた話として1年ほど前に日本ERI(以後ERIと略記)が審査した姉歯物件で偽造が発覚したがその時は隠ぺいされたと述べました.ERI鈴木崇英社長は,国会質疑の直後に国交省において緊急記者会見し,隠ぺい疑惑に対し「そのような事実はまったくなく,ただちに告訴の準備をする」と完全否定しました.ERI社長はイー社藤田氏かX社長がウソをついていると声高に叫んだのです.

ところが翌30日には一転してERIが検査した11件に偽造があったことを認めました(後述).同社は「偽造,改ざんではなくミスだと思った」「担当者が上に情報をあげなかった」「姉歯事務所が電算プログラムの計算過程を別の市販ソフトを使って改ざんしていた可能性が高い」「相当な能力をもった専門家が十分な注意を払っても見抜くことは困難だった」などと釈明しました.ERIこそまぎれもなく隠ぺい企業です.

12月1日には新聞各社にX社長の話が載っています.朝日夕刊によると,X氏は04年1月に日本ERIが建築確認していた姉歯物件を調べ,おかしいことを見つけました.X社長は構造計算をやり直し同年4月にERIに図面を見せて問題点を報告し,「こんな図面が建築確認を通っていたら大変だ.ほかにもないか確かめてみてはどうか」と言い添えました.しかしERIは放置しました.ERIは1年半の間,不正を知りながら放置していたのです.

担当者(といっても元建築主事の立派な審査官でしょうが)に責を押し付けるのは隠ぺい企業のいつもの手口です.社内監査すらできていない企業に,建築確認業務を行う資格はありません.


自治体の検査についての続報です.11月30日JR西日本の子会社が経営する姫路市のビジネスホテル(木村建設,平成設計,姉歯)でも偽造の疑いがあることが公表されました.検査した姫路市は,偽造発覚後,建築確認申請書を再確認したが問題はないと県に報告していました.JR西の子会社が念のため民間検査機関に依頼して調べたところ偽造が疑われるという結果がでました.市の都市局長は今後は外部の専門家に再計算を依頼すると答えています.建築主事は性悪説に立っても偽造を見抜けなかったのです.半分寝ながら見ていたテレビ報道によると計算ソフトがないなどという声が聞こえました?

(12月2日の夕刊によると京都府の2つのホテルでも上記姫路市と同様のパターンで偽造が発覚しています.)

今度は長野の例です.上述のように長野県検査物件に偽造があったことはすでに明らかになっています.日経12月2日付けによれば,
長野県も一日,県が建築確認した建物について専用のシステムを購入して構造計算を再計算することを決めた.対象は2002年ど以降の3階建て以上のホテルやマンションなど約200件.
田中康夫県知事の対応はさすがに早いと思われます.第二,第三の姉歯がいるかもしれないことを考えると,全件再計算する必要があることは言うまでもありません.ここの「専用のシステム」とはなにを意味するのでしょうか.長野県は「大臣認定プログラム」を持たずに検査してきたのでしょうか.まさかそんな筈はないとすると・・・

古ぼけた大臣認定プログラムではなく,もっと使い勝手のいい最新システムかもしれません.構造計算書記載の入力データはいずれ建築設計書と矛盾がないかチェックする必要があるとすれば,構造計算書を相手にせず,直接建築設計書から入力データを抽出して最新システムにかけるのです.これでOKならOKです.ただし法律が定める手順には従っていません.

とここまで書いた段階で,12月3日の毎日新聞(朝日にも載っていた)に「兵庫県は再計算を制度化」という記事が載りました.上記の長野県に続くものです.「ソフトは業者から1台年間50万程度でレンタルし,民間機関にも導入を義務付ける」とあります.

同記事によると,現在の国交省が求めている検査手順は純然たる書類チェックで再計算は求めていないのです!大臣認定プログラムをもっていない検査機関があっても不思議ではないのです!実に驚くべき話です.

大臣認定プログラムが改ざんされていれば,国交省の定める検査手順で机上チェックをいくら厳密に行っても,問題は発見できないことになります.つまり検査機関側の検査に過失はないことになります.だからこそイー社もERIもプログラムが改ざんされたと強調しているのです.しかしながら,プログラム改ざんは姉歯改ざんパターンのごく一部にすぎないと思われることを付記しておきます.

今回の事件で構造計算書の検査は机上チェックで終わっている,再計算はどこの検査機関もやっていない,そしてそれが国交省の定めた検査手順であるという驚くべき事実が明らかになりました(というよりそうであることを私は知りました).悪人たちにとっては国がきめた法律がまったくのざる法であることは明らかです.そしてもっとも大きな責任が「検査体制の不備を招く制度を温存してきた国交省」(日経12月2日)にあることも明らかです.(12月3日日経夕刊によると国交省は「ソフト偽装防止策の検討に乗り出す方針」だそうです.これがまったくもってマヌケな方針であることはすでにおわかりでしょう.小嶋ヒューザー社長の言を借りると「国交省,いい加減にしろ!」.)


12月2日(金),X社長は記者会見しました.アトラス設計の渡辺朋幸という方でした.同日昼のテレビ朝日の番組を見ていると,住宅新聞社編集長の吉岡達也という人が出演していました.彼は「ちょっと思うのですが,最初にわかった時(つまり1年半前に渡辺氏が姉歯の偽造に気づいた時という意味です),もっと違う形で公表していればその後の偽造は防げたのではないか」などと述べました.許し難い結果論です.非は「告発者側」には全くなくて,日本ERIにあるのです.

姉歯設計がおかしいことに気づいた渡辺氏は04年3月,姉歯氏,木村建設東京支店長,平成設計,総合経営研究所と打ち合わせをもち,間違っているから訂正して下さいと申し入れています.そして4月に上述のようにERIに対して問題点と調査の必要性を指摘し,ほかでもやっていたらたいへんなことですよと伝えているのです.(ERIはその事実は認めていますが,担当者が上に報告しなかったと釈明.)

日本ERIは最大手の民間検査機関です.日本ERIは当然するべきことをしてくれると渡辺氏が思ったのも当然です.ところが今年の10月になって,偶然に渡辺氏は姉歯建築士が同様のことをまだやっていることを知り,イー社に対して注意されたしとアドバイスしたのです.

日本ERIは姉歯氏申請物件が16件あり,そのうち11件に改ざんが認められ,うち3件の強度が規準に満たなかったと発表しています.11件という改ざんの多さに目を奪われがちですが,改ざんの有無などもはや問題ではなく,16件中3件だけが規準以下の強度だった点の方が重要です.低強度物件の割合は姉歯物件としては異常に低いのです.3件はおそらく渡辺氏の指摘以前の物件だと思われます.これはなにを意味するのでしょうか.

ヒューザーの犬山専務(1級建築士)はテレビ各局での説明で必ずある表を持ち出し,ヒュ−ザが売った物件の中で,強度不足物件は正常物件よりむしろ高いと強調しました.つまり安くあげるために強度不足になったわけではないと主張したのです.この正常物件というのが日本ERIが検査した13物件ではないでしょうか.これらの正常物件はヒューザーにとっても日本ERIにとっても一種のアリバイになるものなのです.それらは赤字覚悟の物件で客から見れば超お買い得物件です.

12月2日の日経によると,国交省は年内に国が指定した48の民間検査機関すべてに立ち入り調査する,特に日本ERIについては厳しく調査する方針だそうです.今さら日本ERIに立ち入り調査しても見るべき成果はないかもしれません.日本ERIは,渡辺氏指摘以来この1年半の間,今日あることを予期していたに違いないからです.それに比べ,かわいそうにもイー社は「10.27密談」の直前に,(どこからかのタレコミに基づくと思われる)国交省の抜き打ち検査にあっています.


04年3月の打合せにおいて渡辺氏は木村建設,平成設計,総合経営研究所に姉歯氏の誤りを指摘しました.そして4月に日本ERIに報告しました.その後ERIは今回の「10.27密談」と同様の打合せをもったと思われます.デベロッパー側は検査機関側の弱みを知り抜いています.「おまえらこれまでなにをやってたんや」という恫喝だけで日本ERIを屈服させるには十分だったと思われます.

ところが今回のイー社藤田社長はERIと同じ弱みがあったにもかかわらず,小嶋ヒューザー社長からすればまったく信じられない「青臭い正義感」を通したのです.今回ここまで事件が明るみにでたのは,どちらもごく普通の技術者タイプに見える渡辺社長と藤田社長の勇気ある行動のおかげであることは忘れてはならないと思います.


来週12月7日に第2回の参考人質疑が行われます.今度は姉歯建築士,イーホームズ,日本ERIが呼ばれます(渡辺氏は未定).ヒューザー,木村建設,平成設計,総合経営研究所などの確信犯たちには,ウソを言えば偽証罪に問われる証人喚問の場が適当であることは言うまでもありません(どうせ証人喚問の席でもウソをつくでしょうが).

次回参考人質疑はなぜ1年半も発覚が遅れたかが焦点になり,日本ERIの隠ぺい行為が厳しく問われることでしょう.

言い忘れましたが,シノケン社長は悪人には見えませんでした.社長は最初から全額金を返すと明言していました.シノケンのマンションを買った人は不幸中の幸いだったと思われます.

明日のサンデープロジェクトは,先週のようにひどい内容(田原氏は全く勉強していなかった)でないことを期待しています.以上12月3日(土)夜10時.




05年12月07日 第2回参考人質疑



12月5日大阪市が検査した姉歯物件(ホテル)もまた上と同様のパターンで偽造が発覚しました.大阪市は11月24日にいったん安全宣言しましたが,建築主のJR西日本子会社が信用せず,建設会社に計算させたところ偽造が発覚したということです.

12月4日日曜午前のテレビは姉歯問題一色でした.北側大臣は私が見ただけで3局に出演していました.氏はなかなか説明能力のある大臣だと私は思います(サンプロには先週に続いて公明党高木氏も出ていましたが,大臣のほかに政治家を出すのであれば民主党でしょう.高木氏が出る必要はありません).この日のテレビでも,性善説に立っていたからわからなかった,問題があるという前提で調べたらわかった筈だと主張している人がいましたが,事件発覚後でもこれだけ行政の建築主事たちが見抜けなかった例が続出してくると,そういう話ではないことが明らかです.

大阪市は会見を開いてずさんな検査を謝罪しました.そして「民間に依頼すると100万かかる云々」と釈明したとテレビで報道されました.JR西日本の子会社は建設会社に100万も支払ったのでしょうか.100万というのは構造設計の料金だと思われます.構造設計のやり直しと構造計算のやり直しの区別がつかないとは,大阪市の建築主事はかなりマヌケです.建築主事にもいろいろいます.弁護士にもいろいろいて,1級建築士にもいろいろいるというのと同じです.


4日のサンプロによるとイー社藤田社長は田原氏に対して,経済設計は意匠屋の仕事であり,構造設計には経済設計という概念はないと述べたそうです.

昔は建物の外観を決める「意匠屋」と建物の構造を決める「構造屋」が,建築設計の二本柱でした.しかしコンピュータ技術の急速な進歩により「構造屋」の肩身はずっと狭くなってきました.

「意匠屋」は施主も設計者も満足する「最適な」外観を決めます.最適という意味は施主の好みと設計者の好みは通常は相反するところがあるからです.一方「構造屋」はコスト,性能という明らかに相反する要素のもとで最適解を求めます.

もし藤田氏のいうように構造設計に経済設計の概念がないとすると,構造設計はもはや設計とはいえないと思われます.なぜなら種々の制約条件のもとで最適解を求めるという設計行為の本質的要素がないからです.コストを無視できるのであれば性能をあげるのは極めて容易です.鉄筋の数を増やし,太くすればいいのです.梁や柱の太さを太くすればいいのです.

イー社藤田氏のような「検査屋」は性能面で規準以上か検査します.むろんコスト面の検査などしません.つまり検査屋から見たら,構造設計=構造計算に見えるのです.構造設計から経済設計を取り除いてしまうと,残るのは構造計算というコンピュータが得意とするルーチンワークだけです.「検査屋」から見たら構造設計はたんなる構造計算に矮小化されてしまうのです.

進歩した設計支援システムの存在を前提にすれば,経済設計は意匠屋でも可能です.つまり「意匠屋」が建築設計のすべてを見通すことが可能な時代にすでになっていると思われます.構造設計の専門家も,まして構造計算の専門家など不要になっているのです(誤解のないように言い添えますが,以上の話は姉歯物件のようにごく普通の建物を対象にした話であり,特殊な建物は除きます.当然それらには本物の構造設計の専門家が必要です.)


4日のテレビで,くしくも旧建設省OBと学会権威が同じようなことを述べていました.

NHKの「日曜討論」に出演した旧建設省OBで明海大学教授の松本光平氏は次のように述べました.「一般論だが高度な専門領域で不正を専門家がしようとすると,同等以上の専門知識をもった人でないと発覚できない」「偽造にはペアレビューが有効である」

サンプロに出演した東工大教授(耐震工学)で日本建築学会の前副会長の和田章氏は次のように述べています.「最先端のプロが設計した仕事は最先端のプロがみないとわからない.A社の検査をB社がみるというダブルチェックはアメリカではどこでもやっている.構造設計の専門家は一級建築士27万の3〜4%しかいない.構造の専門家をプロフェッションとして位置付けるべきだ」.ここで経済評論家の財部氏は「重要な仕事をしている構造士は建築業界のヒエラルヒーの最底辺に位置している非花形職業である.これが根本的な問題である」とマヌケな提灯をつけました.

元官僚の一般論だと断っている慎重な言い回しにご注意ください.今回事件にその一般論があてはまるかどうかは,事実を知らないのでわからないと逃げているのです.学会権威の方はその点は無防備です.今回の姉歯物件ははたして「最先端のプロ」が設計した物件でしょうか.構造計算というのは果たして「高度な専門領域」なのでしょうか.これらの「専門家」は見当はずれのことを言うことによって問題の本質をあいまいにするという役割を果たしています.


なぜ偽造を見抜けなかったか.官や民の審査官たちが高度な専門知識をもたないマヌケぞろいだったからではありません(中にはマヌケもいたでしょうが.)

審査官たちが「法令に則ってまじめに審査」したから見抜けなかったのです.法令がバカでマヌケなザル法だったから,まじめに法を守ろうとすればするほど見抜けなかったのです.ここにイー社やERIが審査は「適法」だと主張している根拠があります.現在までのところ,「法令に則ってまじめに審査」して偽造を見抜いた例は一件もありません.

ではアトラス設計の渡辺氏はどのようにして偽造を見抜いたか.彼は設計図面を一目みておかしいとわかりました.そして独自に再計算しました.その結果と姉歯士作成の構造計算書を詳細に比較して偽造個所を発見したのです.

北側大臣は建築確認は公けの事務(自治体事務)であるという最高裁判例をもとに国の責任を認めています.しかし上記のように国にはザル法を制定したという根本的なところで重大な責任があるのです.国がすばやく公的助成を決めたのは,そこまで責任が追及される前に金で解決して事態をあいまいにしようとしていると勘ぐられても仕方がありません.旧建設省OB松本氏は今なにをすべきかを問われて,まず被害者救済,次に事故の防止,責任論はずっとあとでよいと,きっぱり述べました.それはそうでしょう.責任論を追及されるとわが身に及んでくるのは必至だからです.

(以上12月7日午後1時,いまから第2回の参考人質疑が行われます.日本ERIが焦点です.)


1時半から第2回の参考人質疑が行われました(姉歯氏,内河氏欠席).参加したのは,アトラス設計渡辺氏,イーホームズ藤田社長,日本ERI鈴木社長です.前回の小嶋社長のような「花形」がいなかったのでごく地味な参考人質疑でした.特に渡辺氏は弁のたつ方ではないようです(私はこういう人の方が好きです).

2点だけ報告しておきます.1点は,藤田社長が次のように述べたことです.

「偽造,改ざんは再計算,再設計しないとわからない.ところが再設計は設計業務に該当するので検査機関が行うことは法律で禁止されている.だからわからなかった.」

ごらんのように今回は1から10までチェックするのは不可能だという話は述べていません.そして再計算なくして偽造はわからない(これ自体は正しい),再計算=再設計は違法行為である,だから「適法に」偽造を見抜くことは不可能である,悪いのは法律だ・・・という論理です.この論理はイー社にとって業務が適法だったかどうか争う上で生命線です.

上述したように私は再計算=再設計とは考えていませんが,悪いのはザル法の方であり,イー社も,日本ERIも,自治体検査機関も偽造を見逃したのは「適法」だと思います(ただし重大な偽造を見逃し国民の信頼を裏切った道義的責任が万死に値することは言うまでもありません).そして日本ERIは偽造を見逃した上にさらに重大な隠ぺい疑惑がかかっています.

民主党の馬渕議員に地方自治体の行政職員から「指定検査機関の隠ぺい可能な方法は設計変更という形で再認可するしかない」と通知がありました.極めて重大な指摘だと思われます.

日本ERIは港区のワンルームマンション物件で姉歯の偽造を見抜けず04年1月に認可しています.その後,建築主が姉歯設計に疑問をもち渡辺氏に依頼して見直してもらった結果偽造がわかりました.その物件は渡辺氏が再設計し04年4月に,日本ERIは設計変更の形でふたたび認可しました.

姉歯設計は偽造すなわち虚偽に基づいた設計だったのですから,前の認可を取り消しあらためて認可する必要があります.認可の取り消しは検査機関の権限ではなく,行政の仕事です.特定行政庁つまり自治体に報告して取り消してもらわなければなりません.つまりその段階で,構造設計書偽造という事件がありそれを日本ERIが見逃したという事実を行政に報告しなければならないのです(今回のイー社のように).ところが日本ERIはそれをせず,たんなる設計変更という形で新たに認可を与えました.こうして姉歯偽造設計は1年半の間隠ぺいされたのです.イー社が日本ERIと同じことをしていれば,大地震が来て崩壊するまで隠ぺいされたままだったでしょう.

日本ERI鈴木社長はどんな弁明をしたでしょうか.説得力のかけらもない実に馬鹿げたことしか言えませんでした.小嶋氏や内河氏がすべてを姉歯氏に押し付けたように,鈴木社長はすべてを担当某氏に押し付けたのです.許し難い隠ぺい企業です.

話はちょっと変わりますが,旭化成はヒューザー,木村建設,総合経営研究所のようなあくどい「巨悪」では無論ありません.しかし日本ERIと同じクラスの隠ぺい企業です.

(以上が第2回参考人質疑も見ての感想です.12月7日午後7時)


夕食時に日経夕刊を見ていたら私にとって驚くべき記事がありましたので補足します.アルコールが入ったまま書いていますので細かい誤りはご容赦ください.

私が驚いたのは日経12月7日夕刊1面の「構造計算の認定プログラム 市販56種を点検」という記事です.大臣認定プログラムはなんと106種類もあるのです.そしてそのうち市販されている56種について,国交省は計算過程を改ざんされる恐れがないか総点検することに決めたというのです.

プログラムの改ざんはどのように行われたというのでしょうか.18面に「編集ソフトで改ざん容易」という関連記事があります.実におそまつな話です.計算結果のファイルは市販の文書編集ソフトで開けるというのです.これでは編集結果はいかようにも編集できることが明らかです.しかしこれはプログラムの改ざんというほどではなく,単なる計算結果の改ざんです.こんなに簡単に改ざんできるならそのうわさが業界内でひろまっていたのも当然です.

プログラムの改ざんは上のようなお粗末なレベルだけではありません.計算ロジックそのものを改ざんすることすら,腕の立つソフト技術者なら可能でしょう.

検査機関は106種類も手持ちする必要はなく,汎用性の高い優秀な計算ソフトだけインストールしておけば十分です.もちろんこれは外部からいじられないようにしておきます.検査側は構造計算書を相手にせず,建築設計書から必要データを抽出してその優秀ソフトに入力します.結果がNGであれば,それがミスであるか故意によるものか問わず,ただちに申請を却下すればいいのです.論理的に考えてこれ以外に方法はないと私は思います.

国交省は例の役所に誤りはないのだという無謬主義に基づいて行動しています.素人には国交省は大変努力しているように見えるでしょう.しかしそれは無意味な努力なのです.藤田氏が今日主張したではないですか,再計算を行わなれば,偽造を発見することはできないと.検査機関が再計算さえ実施すれば,市販ソフトの改ざんなど全く無意味です.業者もそんな無駄な努力はしないでしょう.苦心して改ざんしたプログラムで自分の所では望む結果がでても,検査機関で簡単にはじかれてしまうのですから.

(以上12月7日,午後9時)




05年12月11日 隠ぺい疑惑



12月7日の第2回参考人質疑について国会議員もマスコミ報道も姉歯,内河両氏が欠席したことを口を極めて批判しました.彼らが事件の一方の主役であることは間違いありませんが,この事件には主役が「二人」いるのです.「極悪犯」とそれを見逃してきた「刑事」です.人を疑うのが商売のはずの「刑事」があろうことか「極悪犯」を信用していたのです.

国民の立場から言えば,「極悪犯」のことよりも「刑事」がなぜ見逃してきたかの方がむしろ大事なのです.「極悪犯」がいかに手広く商売していたとしても全体の1%に満たないことは明らかです.しかし「刑事」がするべきことをしていないとなると,これはすべてが疑わしいことになるからです.

残念なことに民主党の馬渕議員さえ,上で引用した部分以外は(当時者が欠席している)「極悪犯」のことばかり追求しました.内河氏をピラミッドとする組織犯罪の構図を示して,参考人たちにこんな構図だとわかっていたかとマヌケな質問をしました.うわさ話に精通している業界紙編集長ならそんな構図は常識ですと答えるかもしれませんが,かたぎの仕事をしている参考人がそんな話は全く知りませんでしたと答えるのはわかりきった話です.

外部の渡辺氏が偽造を見破れたにもかかわらず,検査機関はどこも,イー社もERIも自治体の建築主事たちも誰一人見抜けなかったのはなぜか,どこに問題があると当事者である検査機関は考えるのか,そしてERIはなぜ1年半も隠ぺいしたのか・・・適切に質問すれば解明できたことは山ほどありました.しかし議員たちに追求する力はありませんでした.議員の中には藤田氏の言うことを理解できていない人さえいました.

「刑事」が「極悪犯」を見逃した責任はもろに国の責任です.公務員や「みなし公務員」が犯罪を見逃したというだけでなく,法そのものがまったくのザル法だったのですから,国の責任は極めて重いのです.今のところ公的支援の対象外になっているホテルのオーナーたちが国家賠償を請求しても不思議でないと思われます.

藤田氏が国会で「わが社だけでなく,どこの民間検査機関も自治体建築主事たちも見抜けなかった」,そして「国が定めたチェックリストに従っていくらチェックしても見抜けなかった」といくら説明しても,それは盗人にも三分の理と同じである,単なる言い訳であると,片付けられていることが多いようです.しかし藤田氏は事実を語っているのです.


国交省は「10.27密談」の直前そして事件公表後の11月24日にもイー社に立ち入り検査しています.24日付の日経夕刊にこうあります.「同省は書類の不備に気づき計算書を精査していれば偽造を見抜くのは可能だったと見ており,業務停止,指定取り消しなどの処分を行う方針.」

「書類の不備に気づき計算書を精査」して偽造を発見した例はこれまで一例もないのです.これは厳然たる事実です.国交省は短期間に2回も立ち入り検査したにもかかわらず,まだ処分に至っていません.国交省はメンツにかけて「違法性」の追求に努力を払うでしょう.検査機関におとがめなしはおかしいという「国民感情」があるうちにかたをつけようとあせっているのです.


阪神大震災を経験した兵庫県が「再計算を制度化」という記事をもう一度引用します(毎日新聞12月3日付).

国土交通省が求めている書類チェックでは巧妙な偽造が見抜けないと判断した
「佐々木晶二・県まちづくり復興担当部長は「国が示したチェック方法自体が甘かった.偽造を見落とさないために,国が再計算を義務付けるべきだ」と話している.」

国交省が,市販大臣認定プログラムの総点検とか年内すべての指定検査機関への立ち入り検査などしようとしているのは的外れもいいところです.今は隠ぺい疑惑が色濃い日本ERIを徹底的に調査すべきです.

その他の検査機関への立ち入り検査を今この時期にする意味はなにかあるのでしょうか.いったい何を検査する気でしょうか.書類に不備はないかチェックするのでしょうか,チェックリストは漏れなくチェックしているかチェックするのでしょうか.実にこれほどマヌケな話はありません.国交省役人たちは,国民に対して一生懸命働いていることをデモしているのです.働いているフリをしているだけなのです.


12月8日付け日経夕刊によれば,「日本ERIの主要株主には大手住宅メーカー5社が名を連ね,しかもそれらの株主が主な取引先になっている.大株主が手がけている建物を審査しているわけだ」.手元の会社情報を見たところ,大株主の持株比率は鈴木社長8.4%,ミサワホーム,大和ハウス,パナホーム,三井ホーム,積水化学がそれぞれ3.9%となっています.藤田氏が違法だと判断されれば私は一生かかっても償うと明言したのに対し,資産家の鈴木社長は明言を避けました.鈴木社長の場合は違法だろうが適法だろうが,渡辺氏が指摘した時期以後に建てられた11棟の欠陥マンション住民たちに対して私財をなげうって償うべき道義的責任があると私は思います.それが隠ぺいの罪です.

日本ERIは国会で指摘されたとおりのトンネル会社でした.しかしなんですね,検査される側が大株主になっているこんな機関を,国交省はよくも国指定の検査機関に指定したものです.官から民の問題ではなく,この場合もたとえば道路公団民営化,JR民営化と同じく,いかに民に移すかが問題なのであり,その過程で官すなわち国交省官僚が果たした役割こそ追求されるべきです.


日本ERIはプレハブ住宅検査が主な収入源であり,プレハブ住宅の戸数は多いですからシェアNO1であって当然かもしれません.そして彼らには高層マンションを検査する技術力はもともとないのかもしれません.年間の建築確認件数75万件の多くは戸建て住宅です.戸建ての構造再計算などマンションに比べればちょろいものです.住宅メーカーの営業なら1日で再計算結果をもってくるでしょう.

市販の大臣認定プログラムが56種もあるのもうなづけます.ミサワのパネル構造と鉄骨軸組みでは計算方法は異なるでしょう.ヘーベルハウスは鉄骨軸組みで計算できるでしょうが,大成パルコンの耐力コンクリートパネル住宅は違う計算方法でしょう.ハイムのユニット構造は鉄骨軸組みの計算とは少し異なるでしょう.戸建ての構造は多様ですから,それぞれに特化した計算ソフトがあっておかしくありません.

日本ERIはプレハブ会社のトンネル会社でした.他にもゼネコンOBが検査官として自社物件を検査しているという検査機関の例も報道されています.イー社藤田社長は「イーホームズは検査業界の中で唯一の独立系機関である」ことを強調していました.そして六本木ヒルを検査できるスキルを持っているのは我が社と他2,3社だけだとも語っています.その2,3社にERIが入っていないことは明らかです.日本ERIが形だけの中味のない会社であり,そうであるからこそ,隠ぺいに走るのです.この点は旭化成リフォームと全くおなじです.



12月11日(日)午前のテレビには,フジテレビにイー社藤田社長,テレビ朝日にテレビ初登場のERI鈴木社長(および中澤副社長)が出演しました.検査会社に関して問題は二つあってなぜ偽造を見抜けなかったのか,そしてもう一つはERIの隠ぺい疑惑です.

藤田氏は問題点の一つとして認定プログラム制度をあげました.プログラム結果が編集されないように改善することがまず第一にすべきことだと主張しました.これは国交省の主張に沿っています.

姉歯氏が使ったソフトはユニオンソフトのSS2というプログラムだそうです.このソフトは紙に出力した計算結果をディスク上に保存できます.そしてそれは編集ソフトで編集できます.このソフトとして当たり前の機能を,藤田氏も国交省も1月前まで知らなかったというのです.(前に藤田氏は技術者風と書きましたが彼は文系の人のようです.)

このソフトを認定した日本建築センターの塚田氏は「紙で出力する限りプログラム側で偽造を防ぐのは難しい」と述べておられるそうです.まったくその通りだと思います.

コンピュータ出力された1枚の紙があるとします.これと一部だけ数字が異なった偽造物の作成は困難でしょうか.こんな偽造は旭化成が行った手書き文書の偽造(『塗料すりかえ事件』参照)に比べれば,いとも簡単な話です.

認定ソフトの出力結果が容易に編集できることは,事件の本質になんの関係もない話です.藤田氏がこんな話を持ち出したおかげで,番組の女子アナはほとんどだまされかかっていました.


キャスターが検査機関の仕事はデータを入力してコンピュータで確かめることですかと問いました.本質に迫る質問です.藤田氏はそれは設計業務ですから我々はしませんと答えました.再計算=再設計という上述の論理が適用されています.

これに関してテレ朝の方で民主党馬渕議員は次のように述べています.「一貫計算の場合は必ずしもしなくていい.個別計算では再計算する」.この件に関しては,再計算=再設計であり,法律で禁じられているという藤田氏の主張は強引すぎると私は思います.再計算は法的には単に強制されていないだけであり,禁じられているわけではないのです.問題はどこもやっていなかったという事です.


東工大の和田氏(元建築学会副会長,耐震工学)がまた出ていました(テレ朝の方).氏は言います.数字の流れを追っていけばわかったはずだ,私なら3,40分でわかる,中をチェックしていないのではないかと述べました.氏はこれだけ多くの検査機関がどこも中をチェックしていない,つまりすべて手抜きだと主張しているのです(手抜きでないというのなら私なら3,40分でわかるほどのことができない無能な人ばかりだという主張です.)

和田氏は法には問題がなく,偽造が見抜けなかったのは検査官たちが手抜きしたか無能かのどちらかだと主張しています.そして無能な人を排除するために構造士をプロフェッションとしてを位置付けるべきだと主張なさっています(財部氏の意見もこれに同じ).和田氏は現行の(マヌケな)検査手順を定めた張本人かもしれません.


さてなぜ偽造を見抜けなかったかに関してERIはどう主張しているのでしょうか.これは国会で鈴木社長が答えたとおりです.我々は性善説に立っているので申請者を信用していた,現時点のようにもし偽造があるとわかっていれば我々にもわかった,子供でもわかる(と鈴木社長はおっしゃいました)と答えています.藤田氏の論には反論する気も起こりますが,鈴木社長の説明はまったく論評に値しないひどい話です.


さて隠ぺい疑惑の方です.これに対して鈴木社長はアトラス設計の渡辺氏を引き合いにだして答えました.鈴木社長曰く,渡辺氏自身も改ざんとは思っていなかった,それが証拠に1年半後にイーホームズに対しても改ざんがあるとは言わなかった.この話と上の話は次のように繋がります.

渡辺氏は単に姉歯の設計はおかしい,他にもあるかもしれないから注意して下さいと指摘してくれたにすぎない,偽造・改ざんがあるとは指摘してくれなかった,偽造・改ざんがあると教えてくれていたら,それは子供にもわかる話ですから,我々にも当然わかる・・・という論理なのです.(信じられない人は録画を見てください).

疑わしいというだけでは,現に複数の自治体で偽造が発見できずに安全宣言しあとで取り消すという失態を演じ,イー社でも渡辺氏が乗り込んで説明してくれるまでわからなかったようですから,ERIのようにスキルの低いところはわからなかった,ということに,ひとまずしておきましょう.

問題は上で述べた計画変更の話です.これに関してはフジに出演した藤田氏が公文書偽造にあたると述べていますが私流に説明します. 計画変更の話というのは,繰り返しになりますが以下のような話です.

検査機関は確認申請に対して適合か不適合か審査します.適合の場合は確認済み証を出します.ERIは姉歯の設計に対して確認済み証を出しました(04年1月).ところがそれに疑問をもった建築主が渡辺氏に再設計を依頼しました.渡辺氏が再設計した物件を,ERIはERIは計画変更承認という形で再度確認済み証を出しました(04年4月).

渡辺氏の申請に対して審査しているERI社内の打合せ室を想像してみましょう.ことは確認済み証をおろすかどうかという基幹の業務ですから,チーフ,意匠担当,構造担当,設備担当の4名(チーム構成は国会質疑で鈴木社長が答えています)が集まっています.机上には姉歯設計の前回承認物件資料と今回の渡辺氏設計の申請物件資料があります.この二つは,意匠,設備はほとんど同じで,構造だけが違っています.そして申請強度は同じレベルです.この二つを比べれば,どちらがおかしいか,まさに子供にでもわかった筈ではありませんか!

参加メンバー全員はバカではありませんから,なにが問題か当然わかったのです.そして対策を考えたのです.不適合だとわかった前の確認済み証を取り消さなければなりません.そうとすると行政に報告して取り消してもらう必要がある,すると不適合物件に確認済み証をだしたという失態が公けになる,それは困るので計画変更承認という形にしよう・・・・・・

と推理するのがきわめて合理的です.このERI流の仕事のやり方ではいくらおかしいと指摘する人がいても,改ざん・偽造は絶対に世に出ないことになります.これを隠ぺいと言わずして何を隠ぺいというのでしょうか.


田原氏は番組冒頭でERIが隠ぺいした,隠ぺいしたとマスコミは垂れ流しているが,それは本当かと述べました.鈴木社長,中澤副社長の説明を聞いているとERIが隠ぺい企業であることはまちがいないと思われます.彼らの言になんの説得力もありません.

姉歯事件に関してサンデープロジェクトはすでに今日で3回目ですが,田原氏はまだわかっていないようです.1回目は小嶋,犬山のヒューザーコンビの意見を垂れ流し(みのもんた氏の方がずっとするどかった),2回目は藤田氏のやや強引な説明を鵜呑みにし,今日3回目はERIそして学会権威の説を垂れ流しました.垂れ流しも当事者の生の意見が聞けるという意味ではいいのですが,もっと聞きたいと思うところで田原氏が話をさえぎり,自分の意見をしゃべり出すのは困ったものです.



一つ補足しておきます.現行の検査手順はなぜこのように煩瑣な形式チェックだけになってしまっているのでしょうか.民主党馬渕氏は重要なヒントをくれました(サンプロ中).馬渕氏によれば平成10年5月15日,法改正(官から民へ)を審議する建設委員会で当時の住宅局長は次のように述べたとされています.

「民間にお任せした場合には,確認対象法令に合致しているかどうかというただ一点を事務的機械的にたんたんとさばいていただく云々」

確認済み証の発行という権限を民に移すにあたって,民は権限を与えるとなにをするかわからない(民に対する性悪説に立っています),だからカシコイ官の方でできるだけこまかく検査手順を規定して,バカな民間検査員でも「事務的機械的」にできるようにしたのだ・・・というわけです.おわかりでしょうか.官が望んだように「事務的機械的」にやった結果,検査という本来の機能が全く果たされていないことが今回わかったのです.つまり煩瑣な手順を決めた国交省官僚,学会権威,業界代表たちがバカでマヌケだったのです.


北側国交相は,姉歯問題を「建築行政の根幹を揺るがしかねない重大な事態」だと認識しています(12月10日朝日夕刊).「極悪犯」がでたことが,「建築行政の根幹を揺るがした」のでしょうか.私は違うと思います.公務員や「みなし公務員」たちが自壊すらしかねない建築物に対して確認済み証を与え続けてきたことが発覚したことが建築行政の根幹を揺るがしているのです.

サンプロに出ていた自民党片山虎之助はだから民に任せると問題なのだと二度三度口走りました(その都度田原氏が自治体もおんなじだとたしなめていましたが).もし今回事件が自治体検査物件を舞台に起こったとしたら,建築主事はどう行動したでしょうか.99.9%,日本ERIと同じ行動をしたでしょう.藤田という気骨ある青年社長のいる民間会社で起こったからこそ,ここまで明るみに出て「建築行政の根幹を揺るがす」大事件になったのです.

(以上12月11日 深夜)



05年12月17日 証人喚問



12月14日(水),証人喚問が行われました.午前は姉歯氏,午後一番は木村建設の社長,東京支店長,そして最後は総合経営研究所(以下総研)のトップ内河所長です.焦点は姉歯氏にだまされたようなものだと記者会見で述べていた内河氏です.

今回も爆弾は民主党馬渕議員が投じました.総研の四ヵ所氏が平成設計に宛てた鉄筋減量を指示するメモがそれです.四ヶ所メモにより内河グループ(他にもいくつかグループがあると青山氏が某局で述べていました)の「内河→姉歯一気通貫システム」の全貌がかなり明らかになりました.

四ヵ所という名前は,前回参考人質疑でアトラス設計渡辺氏がなんどもその名を出していたことで印象に残っていました.四ヶ所氏は総研幹部であり総研記者会見に同席していました.彼は大手ゼネコン出身の1級建築士でした.総研はマネジメントのコンサル会社であり構造計算のわかる人は社内にいないなどという内河氏の話は大ウソでした(全部で20数名の社内に1級建築士5人,土木なんたら士が5人います).

もう一度,偽造が最初に発覚した港区の学生マンション案件の経緯を振り返っておくと

04年1月 日本ERIが建築確認をおろす.
04年3月初旬 アトラス渡辺氏,総研四ヶ所氏,姉歯氏等による打合せ.姉歯氏偽造を認める.
 (その後) 渡辺氏は検査した日本ERIの「担当者」に重大アドバイス(上述).
 (その直後) 日本ERI社内対策会議(上述).
04年4月 日本ERIは計画変更の形で「新たに」建築確認をおろす.

となっています.

総研内河所長は,渡辺氏の偽造の指摘を姉歯氏がミスしたと総研担当者は思ったと,最初述べていました(日本ERI鈴木社長は今なおそう弁明しています).ところがその担当者というのは総研幹部で大手ゼネコン出身の1級建築士というれっきとしたプロであることがわかりました.内河氏は,四ヶ所はコンピュータが使えないなどと弁明しましたが,コンピュータが使えるかどうかなど無論関係ない話です.


姉歯氏は偽造は(構造の)プロなら一目でわかると証言しましたが,正しくは「偽造のプロ」なら一目でわかるです.姉歯氏の偽造を見抜いたかたぎの「プロ」はただの一人もいません.アトラス設計の渡辺氏は一目みて偽造を見破ったわけでは決してありません.報道されているとおり,彼は図面を最初見たとき,「ちょっとおかしいな,こういうのもありかな」と思ったのです.彼は自分で再設計してその結果を姉歯氏の結果と比較することによって偽造個所を見破ったのです.30分でわかるなどと豪語している「構造のプロ」の言うことなどすべて結果論です.

渡辺氏は自身が行った構造設計(正)と姉歯氏の構造設計(偽)を対比して偽造個所を指摘している点が極めて重要です.渡辺氏によって「子供にでもわかる形」に問題点が整理されているのです.子供でもわかる話ですから,まして一級建築士なら誰でも姉歯氏がなにをしたか理解できます.総研の「担当者」はバレタと思っただろうし,日本ERIの「担当者」(検査官の資格である「建築基準適合判定資格」は1級建築士の資格に2年以上の実務経験が必要)にとっては晴天の霹靂だったと思われます.



翌15日夜のNHKニュースによるとNHKは姉歯氏と5時間にわたる独占インタビューをしています.その中で姉歯氏は渡辺氏の指摘を受けた時,「ジ・エンドだ」と思ったと述べています.しかし,現実には姉歯氏はなお偽造を続けました(偽造パターンはより巧妙になっていったでしょう,仮想壁などというものまで報道されています).総研,木村建設,ヒューザーは欠陥ホテル,欠陥マンションをなお作りつづけました.ここまで図太くやれたのはどうしてでしょうか.

彼らは検査機関がどういうものか理解したのです.この学生マンションのように,偽造が明白にバレタにもかかわらず,検査機関(日本ERI)はなにごともなかったかのように計画変更という形で処理してくれることがわかったのです.偽造を見逃したという弱みをもつ検査機関は(ちょっと恫喝するだけで)保身に走ることがわかったから,彼らは図太く商売を続けたのです.


姉歯氏がウソをついているのか,それとも総研,木村建設がウソをついているのか,テレビ中継を見ていた多くの国民は判断できました.姉歯氏の対木村建設(平成設計),対総研に関する証言はほぼ真実を語っていると思われます.しかし対検査機関の証言には疑問が残ります.

上述したとおり,姉歯氏は最初マスコミに登場した時(事務所前のインタビュー),検査機関はイーホームズだけだと,きっぱりと,ウソをつきました.そして今回証言でもイー社の検査は甘い,幼稚な質問しかしてこない,なにも見ていないのではないか,民間に移ってから検査が甘くなった,等々と述べました.

イー社に比べ日本ERI(や自治体建築主事)はそんなに専門的な質問をしたのでしょうか.自己の知識をひけらかして重箱の隅をつついただけのことではないでしょうか.たとえどんなに「高度な」質問をしていたとしても,肝心かなめの点を見逃した点で,「なにも見ていない」イー社とまったく変わりはないではありませんか.

姉歯氏は早い段階で国交省の聴聞を受けています.その議事録は民主党が要求したにもかかわらず国交省は公表しませんでした.姉歯氏は国交省の意向がどこにあるか,聴聞で十分認識したと思われます.日本ERIは自民党森派議員に献金しています.その議員が会社の存亡に関わるこのような緊急時に動かないわけがありません.イー社だけ叩くというのが国交省の意向だと思われます.

これは姉歯氏の個人的感情にも沿うものです.彼はバレタ時「ジ・エンド」だと思った,しかし日本ERIが隠ぺいしてくれたおかげでその後1年半の間,高収入が得られた(リスクが極めて高いことが明白になったのですから,彼の取り分は上がったと思われます),ベンツもBMも買えた・・・彼はERIに対しては足を向けて寝られないのです.だからERIのことは決して悪く言わないのです.

ただ彼も少しボロをだしました.申請がイーホームズに集中したのはなぜかと聞かれて,イー社の審査が甘かったからと述べる一方で全然別のことも述べています.日本ERIがなにかの件で行政処分を受け3ヶ月業務停止になった,それを機にイー社に移したと言っているのです.行政が立ち入り検査した,これはヤバイと思うのが普通です.

姉歯氏のNHK独占インタビューはいずれ放映されるでしょう.リラックスして,さもすべて真実であるかのように,たんたんと語るでしょう.対イーホームズ,対ERIの話の部分に是非ご注目ください.


さてこの日の証人喚問もこれまで2回の参考人招致と同様に,与党側の追求は手ぬるいものでした.特に最初に質問した自民党W氏の「追及」はひどいものでした.この日夕方の小宮悦子のニュース番組によると,自民党に抗議電話が殺到したようです.W氏は持ち時間40分のうち実に34分も自分の推理を「演説」したのです.その推理たるやワイドショーの推理を一歩も出ない話にならない低レベルなものでした.

翌日の毎日新聞の社説の一部を引用します.
久しぶりの証人喚問で,各党の「追及力」も注目されたが,自民党は余りにもお粗末だった.まさか,業界批判を遠慮しているのではあるまいが,材料も乏しく,演説のような話をだらだらと続けられては時間の無駄だ.その分,質問時間を野党に配分した方がましだった.
実にその通りであるというのが,計7時間の中継を全部見た私の感想です.しかし当事者たちの「編集されていない」生の声がまとめて聞けるという機会は他にありません.与党議員の質問の間は「テトリスしながら」時間をつぶしますから,今後も是非すべて生中継してほしいものです.


今焦点は総研幹部の四ヶ所氏にあたっています.氏は大手ゼネコン出身です.偽装案件の中に大林組が元請,木村建設下請けの例があるようです.強度偽装問題が準大手からスーパーゼネコンに拡がる可能性すらあります.野党は四ヶ所氏の喚問を要求していますが,自公がはたしてどう出るか?

すこし前のやしきたかじんの番組(関西ローカル)で,犯罪被害者,加害者の実名を公表するかどうかの判断を,現行のように報道機関側が判断するのか,それとも警察が判断するのかがテーマになったことがあります.司会者の読売テレビ解説委員の辛抱氏は,ジャーナリズムの原点に立って警察が判断するのはおかしいと熱く語りました.しかし例の若手弁護士H氏だけは警察が判断すべきという意見でした.彼は民の判断よりお上の判断が信用できると考える人です.

喚問翌日の15日夕方のこれも関西ローカルのムーブという番組で,H弁護士は,証人喚問を立法の府である国会で行うのはおかしいと私は思う,司法でやるべきだなどといい始めていました.証人喚問は彼によれば議員の「パフォーマンス」に終わっているのだそうです.彼がいうパフォーマンスとは民主党馬渕議員の追及をさしているのであって,W議員の演説をさしているわけではありません.(H弁護士はいずれ自民党守旧派から「タレント候補」として出馬するでしょう.)

16日お昼のテレビ朝日の番組に民主党長妻議員が出演していました.小嶋ヒューザー社長と伊藤元国土庁長官に対して証人喚問,平成設計社長および総研四ヶ所氏に対しては参考人招致を要求していたが,前日夜(つまり15日夜)自民党から,証人喚問は一段落したので,今後はしないと決めたと連絡があったそうです.16日朝,みのもんたが言っていた「いやな噂がある」というのはこのことだと思われます.

同日夕方の読売テレビ「激テレ」において,M某(フリーアナウンサ)は,やしきたかじんのマネをして,パネルに自分の思うところを書きなぐっていました.そしてどういうわけか(喚問に出ていない)イー社藤田社長をやり玉にあげました.姉歯氏は内心ばれてほしい,ばれてほしいと思っていた,ところがイー社は見逃したというのです(無論ERIの隠ぺい疑惑など全く触れません).そして四ヶ所氏ではなく藤田氏を証人喚問すべきだと叫んでいました.また出席者の一人は喚問された4人は「3人のマヌケと1人のワルだ」と評しました.4人の中にマヌケは1人もいません.4人ともワルでワルの程度が少々異なるだけです.マヌケはおまえの方だろうとおもわず突っ込んでしまいました.

M某は証人喚問を総括して「国会では限界がある」と偉そうに宣言しました.間髪をいれずに自民党枡添氏(彼はこんな番組に出ているのです)は,「司直に委ねるべきだ」と応じました.

「激テレ」という番組の姉歯報道は,私が見た中ではまちがいなくワースト1です.たかじんにはお上なにするものぞという上方の反骨精神があります.しかしM某にはそんなものはカケラもありません.彼はH弁護士と同じくお上のイヌです.もしイヌでないとすると単なるマヌケです.


馬渕議員が厳しく追及できたのは確かに外部からの情報提供のおかげです.枡添氏は上記番組で民主党は「ブツ」を持っているからと評しました.テレ朝の昼の番組のKコメンテータは自民党は材料に乏しいからなどといつものようにネボケタことを言っていました.自民党建設族の頭の中は,膨大なブツ,材料ではちきれそうになっているのではありませんか.それらすべては公けにできない性質のものだからこそ,W議員のようなパフォーマンスでお茶を濁すしかないのではありませんか.

イヌたちを使って事態の収拾すなわち「疑惑隠し」の方向に布石が着々と打たれています.司直に委ねてしまったら,せいぜいが詐欺罪です.ことの本質は詐欺罪などといった陳腐なものではなく,おおがかりな「殺人未遂罪」なのです.この意味では「コンクリート早期劣化問題」も同じです.そして「アスベスト問題」の場合は「殺人罪」です.これらすべてに旧建設省,現国交省が深く関与しています.


(以上12月17日土曜夜)



05年12月19日 NHKスペシャル



12月18日(日曜)午前のNHKテレビ討論,テレ朝サンデープロジェクトの両方で民主党は自民党から証人喚問継続の言質を取ろうとしていました.自民党中川氏は継続に異論はないという意見でしたが,サンプロ出演の早川氏の方は「効果的な喚問ならやってもいい」と条件付でしぶしぶ賛成しました.効果的喚問にするのは実に簡単です,自公が持ち時間を野党に譲ればいいのです.

月曜日の朝,喫茶店でスポーツ紙を見ていたら,日刊スポーツの「政界地獄耳」に次のようにありました.
自民党がマンション耐震偽装事件の政界への波及を食い止めようと懸命だ.先週の姉歯秀次らの証人喚問では,(略)党本部に抗議が殺到し,幹事長・建部勤(64)は「申し訳なかった」と陳謝したが,単純な人選ミスではない.

「国土交通委員会は建設・不動産業界と近い建設族議員の牙城であり,自民党は『疑惑の段階で証人を呼ぶのは人権問題だ』と関係者の喚問に消極的だった.やる気のない質問者を立てて時間稼ぎをしたのも,野党に質問時間を与えないための作戦で,最初から真相解明などする気はない」と民主党幹部は見る.

実際野党側は(略)森派の元国土庁長官・伊藤公介(64)の参考人招致を再三要求しているが,自民党は「疑惑はない」と拒否して逃げ切りの構えだ.ヒューザーなど業者から多額の献金を受けていた森派も,慌てて金を返してまるで何もなかったかのように,口をぬぐっている.
コラムはこの後「森派は公明党に弱みを握られた」という「地獄耳」にふさわしい話で終わるのですが,上で引用した部分はすべてさもありなんと思われます.こういう場合だけ「人権問題」を持ち出すのは狡猾きわまりない話です.


さて土曜日(17日)夜9時からのNHKスペシャル(1時間)は姉歯事件がテーマでした.民放は1の材料を10にして報道する傾向があるのに対し,NHKは10取材したものを1に編集している感じです.

番組は事件当事者とのインタビューが骨格となっています.当事者とは姉歯,小嶋,篠塚,木村,内河,それにERI社長,副社長です.国会での態度ともっとも落差があったのは木村建設社長でした.なにも知らない田舎の年寄りではなく,いかにも傲慢そうなクソ爺に見えました.

当事者の発言はたんたんと紹介されます.エッセンスですから垂れ流しという印象はありません.誰がウソをついているかは視聴者の判断に任され,わかる人にはわかる筈だという精神で番組は作られているように思われます.登場人物はすべて疑惑の当事者だと制作側が判断したものに限られています.検査機関はERIに絞られていることにご注意ください.ERIの社内風景も出てきますが,疑惑企業の社内風景として出ているのです.

日本ERIも計算ソフトを持っていなかったことを番組は伝えています.そして姉歯物件に対して検査官が問題点を指摘した記録文書も登場しています.(テレビに出す位ですから最もまじめにやった例だと思われますが)たいした指摘ではありませんでした.そしてそれに対する姉歯氏の極めて形式的回答で一件落着している点が重要です.渡辺氏から「子供にでもわかる形で」偽造を指摘されても「何もしなかった」くらいですから,厳しい追及などしているわけがありません.

このドキュメンタリにはもう一つ大きな目玉がありました.再発防止策です.番組は長野県の例を紹介しています!

長野県はパソコンと計算ソフトを購入し,講習会を開き,ある時期以降の全件を来年1末までに再計算しようとしています.昔ちょっとやったことがあるという人が,3階建てマンションの再計算に苦闘している様子が出ていました.設計書から入力データを抽出しパソコンで検算が終わるまで1日かかっていました(たいへんに見える作業は設計書からデータを拾い出す作業です.入力操作ではありません).「やればできる」のです.ワークシートを用意して経験者が建築設計書から抽出転記していけばもっとはかどるでしょうが,経験が乏しくてもやっていくうちにどんどん改善されていくでしょう.

長野県,兵庫県が現にやっていることが,再発防止の王道でありしかも他に道はありません.鉄筋量はへーべこれこれ,コンクリート量はリュ−べこれこれが「普通」であり,姉歯物件は一目でおかしいとわかるといった話は再発防止とは無縁の話です.「子供にでもわかる」強度0.2の物件を見つけ出すだけでなく,強度0.9の欠陥物件も見逃してはならないからです.性悪説に立てば全部まじめに再計算するしか手がないことは明らかです.


今日19日お昼の番組でテレ朝は昨日のサンプロの話をまたやっていたようだったのでTBS系に変えると驚くような話が出ていました.「10.27密談」については上述しましたが,その直前の「10.25密談」の議事録をTBSが新たに入手したというのです.前者はいわばトップ会談で後者はその前の担当者会談です.番組参加者はイー社はきちんと仕事をしたじゃないのなどと感想を述べていました.そうです,渡辺氏に乗り込まれて以降は,イー社は実にまじめに仕事をしたのです.

「10.27」の翌日に住民に引き渡されたヒューザー物件が最近問題になっていることに関連して10.25議事録が公けにされたと思われます.もし両方とも早い段階で入手していたとすれば,情報を切り売りするその姿勢は「報道のTBS」がすでに過去の話であることを証明しているように思われます.もっと早くきちんと報道されていればM某のような藤田たたきがいかに歪んだものであるか多くの人にわかったでしょう.イー社とERIは同じアナのむじなではないことが多くの人にわかったでしょう.

10.25から10.27を経て国交省発表にいたる経緯には,偽造張本人,建築主,元請設計事務所,施工会社,検査機関,国交省関係者,自民党政治家・・・すなわち関係者一同が,実名入りで,登場します.第1回の参考人招致で自民党吉田氏は10.27を「藪の中」と評して蓋をしようとしましたが,この間の経緯こそ姉歯事件のクライマックスです.議事録はまちがいなくイー社側から流れたと思われますが,これは今回事件においてイー社藤田社長が明白に「告発側」に立っていることを示すものです.だからこそ臭いものに蓋がしたい人たちにとっては藤田憎しとなるのです.


(以上12月19日月曜夜)



05年12月31日 朝日トップ記事



12月20日(火)全国100ヵ所以上で一斉捜索の手が入りました.同日昼のテレビで馬渕議員は四ヶ所氏喚問はなくなったと述べていました. 夜のNHK10時のニュースは捜索に関連して事件経緯に簡単に触れました.日本ERIはその短いまとめの中で次のように登場します.

 「日本ERIは一度は疑問を持ったが,姉歯氏が明解に答えたので,担当者はそのままにした」.

これは17日のNHKスペシャルの,ERIはこれこのとおり指摘すべきは指摘したというリストの話です.一度は疑問を持ったというならば,それはその後渡辺氏に姉歯の設計はおかしいと指摘された時何もしなかった事実と矛盾する話ではありませんか.「一度は疑問を持った」というNHKの編集はおかしいのです.ERIは形式的に疑問点を質問したにすぎず,だからこそ姉歯氏の形式的回答で満足したのです.渡辺氏の指摘はERIにとって青天の霹靂だったのであり,だからこそERIは隠ぺいに走ったのです,かっての旭化成のように.

続いて番組は中澤芳樹副社長(持株比率2.9%の大株主)の「企業は社会的責任を果たす必要がある」云々の厚顔無恥な弁明を垂れ流しました.

NHKのドキュメンタリや特集はたしかに人も金もかけて10取材し1にまとめています.しかしその1を,このニュースのようにさらに0.1に編集する時,現場取材スタッフとは別のもっと「えらい」人が編集するのです.上にいけばいくほどだんだんおかしくなるのが官僚的組織の通弊です.


一斉捜索の結末が,建築基準法違反や宅建業法違反,偽証罪などの「微罪」で終われば,国民が納得しないことは警察,検察側も十分意識しています.

総研に関しては少なくとも04年3月以降の物件,ヒューザーの場合は少なくとも05年10月25日以降に契約・引渡した物件に関しては,詐欺罪が成立してなんの不思議もないと思われす.前者では渡辺氏が後者では藤田氏が,姉歯構造設計が意図的偽造であることを,企業中枢である四ヶ所氏や小嶋・犬山氏に対して指摘しているからです.そして同席した姉歯氏が「ジ・エンドだと思った」と証言しているからです.



さてすこし遡って証人喚問前日の12月13日,朝日新聞の一面トップ記事は大見出しが「全ソフト改ざん可能」,サブタイトルが「国交省電子審査を検討」というものでした.

大臣認定プログラム106種類全てが改ざん可能とみられると国交省は発表しました.出力のテキストデータが編集可能であることをもって「改ざん可能」というならば,全てが改ざん可能であってなんの不思議もない話です.そしてもし仮に一切改ざん不可能なプログラムがあったとしても,紙に出力された申請書類を偽造することなど簡単な話です.特殊な紙,特殊なインキ,特殊な印刷方法の紙幣ですら,偽造が絶えないではありませんか.

構造計算書が改ざんされたのは「プログラムに改ざん防御機能がないためで,国交省建築指導課は「『性善説』を前提に制度を作ってきた.こうした偽造に現在,防止策はとられていない」としている」,つまりプログラムに「改ざん防御機能」がないことが問題であるかのように国交省はおっしゃっていま.これに対して大手ソフトメーカーも日本建築センターも国交省のおっしゃるとおりで対応を検討します,などと述べています.認定プログラム制度のおかげで甘い汁を吸っている彼らが,まさか国交省の指摘は的外れだなどとは口が裂けても言わないでしょう.

さて記事の最後の方にさりげなく次のように書かれています.
国交省はプログラム改良で偽造を防ぐのは難しいとみて,構造計算書の審査省略制度を見直す方針を固めた.建築確認の申請時に構造計算を書類ではなく,再計算しやすい電子データで提出させ,コンピュータですべて点検する方法や,別の構造計算の建築士に分析させる制度の創設などを検討.
この短い文にいくつかポイントがあります.一つ.プログラムを「改良」しても,「偽造を防ぐのは難しい」というのです.こんな結論は「総点検」などしなくても常識で考えれば明らかな話です.「計算プログラム総点検」は国交省が怠けずに働いていることを国民に示すデモンストレーション以外のなにものでもないのです.

二つ.「審査省略制度」を見直すとあります.省略とは一貫計算の場合の図書省略制を意味しています.まるで一貫計算の方に問題があると言わんばかりですが,イー社藤田氏は,国交省が立ち入り検査した98件のうち2件だけが一貫計算だった,そして偽造はすべて残り96件の個別計算の方だったと第1回参考人質疑で明確に述べています.

一貫計算でデータが改ざんされた例は,実際にはほとんどないのではないでしょうか.これはだます側の立場に立って考えればわかります.一貫計算というのは,そっくりそのまま再計算するのも容易であり,なにかの気まぐれで検査官が再計算するかもしれないからです.シンプルな一貫計算の書類ではなく,個別計算の膨大な紙資料の中に偽造改ざんが隠されていたのです.

三つ.国交省は検査制度の見直しを二つの方向で考えています.一つは「再計算しやすい電子データで提出させ,コンピュータですべて点検する方法」です.これは長野県がいち早く始めた「再計算の制度化」と実質的に同じです.二重チェックの方は本質的ではありませんから,再計算に話を絞ります.

国交省の「再計算の制度化」には「電子審査」という名前がついています.入力データを例えばCDに焼き付けて提出させるという意味だとすれば,それは単に検査機関側の入力操作の省力化だけであり,構造計算データと建築設計書の整合性は相変わらず人間が確認しなければなりません.これをもって「電子審査」と呼ぶのは羊頭狗肉といわれても仕方がありません.

私のイメージの「電子審査」とは電子化された<建築設計書>の審査です.その大前提として建築設計書が標準化されていなければならないことはいうまでもありません.標準化された建築設計書を「建築設計書」と「」付きで表記するとして,構造計算に必要なデータは「建築設計書」に包含されていますから,人手を介さないで構造計算が可能です.そして構造計算データと建築設計書の整合性は自動的に保証されます.

検査機関は「建築設計書」から描画ソフトで構造図など必要図面を出力し,たとえば避難経路は大丈夫かなどの法的チェックを行います.そして後の中間検査,完了検査における実物建物との照合も,「建築設計書」から出力した必要図面をもとに,人間が,厳密に行います.

設計現場の建築士は,「建築設計書」形式で出力する機能を持った「設計支援システム」で日常の設計業務を行います.おわかりのように現場設計者は.認定プログラムという名の高価格ソフト(たとえばSS2は170万)を使う必要はありません.中味がしっかりした無認定ソフトでいいのです.検査機関側が権威ある「大臣認定プログラム」を使って再計算してくれるからです.

これで検査機関側も設計事務所側も大幅に省力化でき,しかもミスもなくなります.夢のような話ですが実現に技術的困難はないと思われます.平成10年にそうなっていて不思議ではありません.しかし現実はあまりにも乖離しています.なにしろ多くの(ほとんどの?)の検査機関は計算ソフトすら持っておらず,3,40年前と同様に膨大な書類を前に机上チェックに精を出していた,あるいは何もしていないのです.なぜか.

官にはそして民や学の一部にも,標準化が進みシンプルで効率的なシステムになると「既得権益」を失う人が大勢いるからです.官庁でパソコンの導入が大幅に遅れたのとまぁ同じような理由です.


証人喚問前日の朝日トップ記事「全ソフト改ざん可能」は国交省発表の垂れ流し記事です.こんな発表は無視するか3面で小さく扱えば十分であり,一面トップに据えたおかげで多くの人が「国交省にだまされた」と思われます.問題の本質はソフトの改ざんなどにはなく,国交省(旧建設省)が民性悪説に立って「法令に合致しているかどうかというただ一点を事務的機械的にたんたんとさばいていただく(平成10年5月15日建設委員会での住宅局長発言)」ことを目的として事細かく机上チェック手順を定めた,ところがそれがまったく無効だった点にあるのです.国交省(旧建設省)が一番の大マヌケでありずる賢いワルたちがそこにつけこんだという構図なのです.


同じく12月13日の朝日新聞に,こちらは非常に小さなスペースで「石綿含有の建材使用禁止へ−国交省部会提言」と題する記事が載りました.「既存建物の増改築時の除去や封じ込めを義務づけるよう建築基準法での規制を求める提言」だそうです.もちろん所有者に義務付ける話であり,建てた企業は知らん顔なのでしょう.記事の最後はこう結ばれています.
建物へのアスベストの使用は,これまで建築基準法に規制がなく,労働安全衛生法により工場や事務所での使用禁止や飛散防止が定められているだけだった.
アスベストが社会の隅々にまで浸透したのは,建築基準法がまったくのザル法だったからであることは明らかです.そしてそのもっとも深刻な影響が建設労働者を直撃しているのです.12月7日の筑紫哲也のNEWS23はアスベスト被害を取り上げ,早くから建設労働者の石綿被害に取り組んできた海老原医師(アスベストのところで触れました)の活動を紹介していました.

海老原医師によると建設労働者150人の肺がん患者のうち実に110人が石綿による肺がんとのことです.氏は81年のマックィーンの中皮腫によるガン死が契機になってアスベストに取り組み始めました.アメリカでのアスベスト被害拡大を重く受け止め,これはたいへんなことになるとライフワークにした医師がいる一方で,建設省はなんの手も打たなかったのです.そして彼らはなんの責任もとっていないのです.


(以上05年大晦日夜)



06年01月17日 品質不良



第2回の参考人質疑(日本ERIが計画変更の形で隠ぺいした疑いが明るみに出た時です)の翌朝の番組で,朝日新聞の清水建宇氏は「ERIは総研・姉歯とグルといってもいいのではないか」とズバリ言ってくれました.ところが同席した建築Gメンの会理事の方(女性)は,建築士の意識云々と曖昧なコメントをしただけでした.

一連の姉歯報道では,コメンテーターとして建築Gメンの会の人をよく見かけました.いずれも年配の実直そうな方ばかりでしたが,コメントは総じて生ぬるく隔靴掻痒の感がありました.Gメンの会の活動の中心が,設計図どおり施工されているかどうか,つまり手抜き工事の摘発にあったからではないでしょうか.設計図が偽造されていることなどまさに想定外だったのです.

住宅の品質不良は次のように設計品質不良・施工品質不良・材料品質不良の3つに大別できます.箱の大きさは件数の多さのつもりです.


姉歯事件は設計品質不良の極めて特異な事例です.過失による設計ミスは従来も少なからずあったに違いありませんが,意図的組織的な設計書偽造が露見したのは疑いもなくはじめてのことです.
7年前我が家で起こった塗料すりかえ事件も設計品質不良の事例といえます.外壁塗り替えという小さな工事の場合は,契約書が設計書を兼ねています.その契約書が工事店によって改ざんされました.ヒューザー,総研が姉歯にだまされた可能性はほとんど無いと思われますが,旭化成が工事店にだまされた可能性はかなり高いと思われます.
数からいえば設計品質不良は欠陥住宅全体の中でごくわずかです.欠陥住宅といえばその多くは施工品質不良(手抜き工事)です.欠陥住宅番組が扱っているもののほとんどはこれです.そしてもう一つ忘れてならないのが,コンクリート品質不良を代表とする材料品質不良です.

まともな住宅は設計品質・施工品質・材料品質の3つとも一定の水準に達していなければなりません.設計が正しくても施工に問題があれば欠陥住宅であり,設計・施工がまともでも材料に問題があればこれも欠陥住宅です(わが白華ヘーベルハウスのように).


姉歯事件では建築士・性善説のオンパレードでした.民・性悪説が持論であるハズの国交省までも上述のように性善説を口にしました.もちろん自己の失態を隠すためです.

性善であるべき一級建築士が意図的におかしな設計をした場合は,施工もそして材料もおかしいと考えるのが自然です.設計だけがおかしいと考えるのは姉歯一人がおかしくて,誰も性善であるとは思っていない施工業者はおかしくないと考えることになるからです.頭が腐っていれば全体もたぶん腐っているのです.

年末27日のみのもんた「朝ズバ」は,グランドステージ川崎大師の住民による「怒りの自室破壊検査」を取り上げていました.その結果やはり設計書(竣工図)どおりに施工されていないことが発覚しました(スリットの施工など).0.3という設計強度より実態強度は更に低いのです.

「大手ゼネコンの施工だから信用した」と住人の言葉にあるように,この物件の施工は木村建設ではなく,一部上場の新日鉄直系ゼネコンの太平工業です(四季報によると太平工業の時価総額は317億,清水,大林といった超大手が5,6千億,飛島建設,銭高組,安藤建設などの中堅で300億近辺です).太平工業は,わが社は図面どおり施工した,図面を見せてもいいがマスコミには出すなという風な対応をしていると報じられました.

「大手ゼネコン」の施工ですらこれです(太平工業は下請けへの丸投げつまり名義貸し疑惑は否定しています).木村建設の施工物件では住民はいまさら調べてなんになる,調べなくてもわかっているというあきらめの心境でしょう.

構造計算には(鉄筋の数や太さの他に)柱や梁の太さが必要です.鉄筋コンクリートという構造は,鉄筋が伸張力に抵抗する一方でコンクリートが圧縮力に抵抗するという役割を担っており,圧縮強度の算出にはコンクリートの柱・梁の太さが必要になるためです.姉歯設計では,コンクリートは標準的な圧縮強度をもった品質であることを前提にしていますが,柱・梁が細すぎ立っているのがやっとで「自壊」の恐れすらある物件もありました.我が家の基礎コンクリートのように圧縮強度が経年劣化で急低下する品質の場合だと,地震など起こらなくても10年も経たない間に本当に「自壊」したかもしれません.

06年1月14日防災科学技術研究所が6階建てマンションの「実物」で振動実験を行ったことが報じられました.「実物」の設計仕様は81年建築基準法が改正される以前の仕様です(改正以前の基準強度は現基準の0.8程度だそうです).震度7程度の地震波(阪神大震災と同程度)を与えると,「1階の柱2本が折れるように壊れ」「倒壊寸前の状態」になったと毎日新聞は報じています.しかし倒壊は免れました.

この実験は欠陥マンションの実験ではありません.実験で使われた「実物」の設計・施工・コンクリート品質は,無論なんの問題もない標準品質だと考えられます(ただし設計強度は0.8).コンクリート品質に問題がある欠陥マンション(特に基礎)の場合は,たぶん倒壊したと思われます(現に阪神大震災で多くのマンションが倒壊したように).

81年改正以前の仕様でもきちんと作られていれば震度7では倒壊しません.改正前のものは危険で改正後は安全という時折見かける意見は,ザル法である建築基準法の実態(つまりどれだけ守られているか誰も把握していない)から目をそらした意見であり,そんなことよりきちんと手抜きなしで施工されているか,コンクリート品質に問題はないかという個別状況の方がずっと重要なのです.姉歯事件を経験した現在ではそもそも設計が大丈夫かも疑う必要がありますが.


姉歯事件では多くのコメンテータが氷山の一角ではないかと口にしました.他にも第二,第三の姉歯がいるのではないかというわけです.

木村建設が国会に提出したリストのへーべ当たりの鉄筋量をキーに他の建築士も疑われましたが,問題なかったようです(壁式構造である,ピロティがない等の理由).国会提出リストでチョンボするほど「犯人側」もマヌケではないということです.内河グループ,ヒューザーに限定すれば姉歯氏一人で十分だったという話であり,まったく別のグループの第二第三の姉歯の存在を否定するものではないことに注意する必要があります.

最初の参考人質疑があった週の日曜日は,上述したように姉歯問題一色でした.関口宏の番組では,ある人は「基礎にも大きな問題がある」と指摘し浅井氏は「阪神大震災の時ある大手ゼネコンの建物が軒並みやられた」とコメントし,サンデープロジェクトでは高野氏がコンクリート品質にも問題があると短く指摘しました.いずれも設計に限定せず欠陥住宅というより広い視点からのコメントです.

建設省を中心として高品質住宅が喧伝された時期と前後して姉歯偽造が始まり05年まで続きました.10年にわたる瑕疵担保責任という「極めて重い責任」(小嶋社長の言)が課せられて以降に,それでも事件が起こったのです.鳴り物入りで導入された中間検査も住宅性能表示制度も,姉歯偽造物件に対してはまったく機能しませんでした.建築基準法というのは今も昔も抜け道だらけなのです.

姉歯事件は今まで疑われることがなかった設計品質分野にも欠陥が存在することが発覚したという意味で,まさに氷山の一角なのです.


 (以上06年1月17日昼.1時45分から小嶋社長に対する証人喚問が行われます.)




06年02月13日 国の責任



1月17日に2回目の証人喚問(小嶋社長)が,そして19日には3回目の参考人招致(四ヶ所氏など4名)が行われました.証人喚問はNHKだけでなくテレビ朝日も中継しました.

小嶋社長の態度は一変しました.朝日新聞のコラムは「雄弁な参考人から寡黙な証人に変容を遂げる怪奇映画」と皮肉りました.瑕疵担保責任は結果責任でありすでに免れようがなく,宅建業法違反も明らかだと思われます.しかし偽証罪はなんとしても免れようと「31回の証言拒否」という戦術に出ました.偽証罪は3ヶ月以上10年以下の懲役で証言拒否罪よりずっと重いからです.

小嶋社長の「補佐人」は喚問直後に「10月27日の議事録なるものが出回っている.これに反する証言は検察陣に対する心証を悪くするので証言拒否した」とコメントしました.当局の心証が「議事録なるもの」に基づいていることを前提としています.「議事録なるもの」がいかに事件の核心文書であるかを雄弁に物語たるコメントです.最初の参考人招致のおり,最初の質問に立った自民党の吉田議員はこの議事録について「藪の中」と評しました.どこまで真実であるか不明であると否定的でした.しかし今回の証人喚問では自民党すら,この議事録を元に「追求」しました.

姉歯事件でキーとなる協議(これまで密談という言葉を使ってきましたが協議に改めます)は,04年3月8日の「3・8協議」,05年10月25日の「10・25協議」,10月27日の「10・27協議」の3つです.イーホームズが関わったあとの二つには詳細な議事録が存在し,それらはイーホームズの真下危機管理担当役員が書いたものであることが今回の喚問の場で明らかにされました.真下という人は参考人招致の折,若い藤田社長の後見人のような形で後ろに控えていたお爺さんです.

昨年の参考人招致の時は,小嶋社長は真下メモに対して雄弁に反駁しました.曰く,ニュアンスが違う,イーホームズをたたくなどと言った覚えはなく,公表を遅らせるようお願い申し上げただけだ,と言った類の雄弁です.今回の証人喚問では小嶋社長はただ一点を除いてすべて証言拒否しました.その一点とは…

いつまで公表を遅らせるよう要求したのか,「地震で倒壊した時に発覚したことにしてほしい」と言ったというのは本当かと問われた時,小嶋社長は「言っておりません」と明言しました.この時の補佐人のエッと驚いた表情をテレビははっきり映していました(議場ではホーという声が流れた).それだけで終わりませんでした.この少し後,小嶋社長は言っておりませんと言った前言を撤回したのです.

たいへんわかりやすい話です.ウソをつくと偽証罪という重い罪に問われる場で,一旦言っておりませんと明言しながら,それを撤回したのです.小嶋社長はまちがいなく「地震で倒壊した時に発覚したことにしてほしい」と言ったのです.真下メモの信憑性は非常に高いのです.(伊藤議員と国交省幹部の密談と異なり,10.27協議には証言に立ったスペースワン社長を含み11人もの人が参加しています.信憑性の検証は容易です.)

地震といういつ起こるかわからない不定の未来まで公表を遅らせるということは,事実上公表するなと圧力をかけていたのと同じです.自分の会社=我が身のことしか頭になかった小嶋社長は,倒壊で失われる「自社顧客」の生命のことなど眼中になかったということです.殺人未遂という厳しい声が挙がって当然です.
小嶋社長は証人喚問の直前に週刊誌でしゃべりまくっています.週間朝日(1月27日号)によると12,13の両日計11時間にわたって,「核心を赤裸々に語った」そうです(それがわずか4頁に編集されています).その中で小嶋社長はイーホームズに対して「ヒューザーを悪の権化に祭り上げようという悪意を感じます」と述べています.もし「地震で倒壊した時に発覚したことにしてほしい」と言ったというのが真っ赤なうそなら,そういった話も少しは説得力をもったでしょうに.

真下メモにはもう一つ注目すべき小嶋社長の言があります.「阪神大震災の時建築主におとがめはなかった」です.これらから「10・27協議」時点での小嶋社長のホンネは次のようなものだと推測されます.

……偽造を公表してしまえば,私たち(ヒューザー)だけでなく,これまで多数の偽造を見逃してきたあなたがた(国やイーホームズなど)もお困りになるのではありませんか.現に阪神大震災の時そうであったように,大地震が起きれば建築主,施工業者,検査機関,国の責任問題など吹き飛んでしまうのです.軽軽に公表するなどというバカなことをしないことが「国民をいたずらに不安に陥れない」オトナの解決策というものです……

小嶋社長の深く遺憾とするところは,イーホームズ藤田社長が日本ERI鈴木社長のような物分りのいい「紳士」ではなかったことです.

ここで忘れてならないことは,小嶋社長の言であるにもかかわらず,「阪神大震災の時建築主におとがめはなかった」こと自体は真実であるということです.阪神大震災ではズタズタに崩落した阪神高速道路を筆頭に臭いものに蓋がされたのです.そしてこのような国・行政の姿勢が小嶋社長や姉歯設計士を生んだのです.


1月16日のNHKクローズアップ現代は木造住宅の耐震診断を取り上げました.国交省監修の耐震診断マニュアルには85年発行の旧版と00年発行の新版があります.新版では柱と筋交いの接合部の頑健性が重視されています.安直にクギで柱につながれている筋交いは,想定された効果がないことが阪神大震災後の研究で明らかになったからです.震度7に耐える評価点を1として旧版で0.98と診断された場合でも,新版で診断すると0.75になるという例(わがH市の例でした)を建築士が紹介していました.

00年発行の新版には阪神大震災の教訓が活かされています.新版の方が信頼性が高いことは明らかです.ところが実に驚いたことに,旧版がいまだに堂々と出回っているのです.新版は一部自治体を除き普及していないのです.

新版しか認めないと耐震診断自体が普及しない,旧版による診断の方が金も手間もかからないというのが国交省の言い分です.しかし朝日新聞が主要自治体に対し聞き取り調査した結果(対象は81年建築基準法改正以前に建てられた木造家屋)によればわずか1.7%しか耐震診断を受けていないのです(05年12月30日付朝日新聞).普及率がわずか1.7%では国交省の言い分に説得力はありません.そして国交省は今なお切り替えの時期を示していないとNHK記者は報じました.国交省は無責任にも二重基準状態を放置しているのです.

ダブルスタンダードといえば,シュミットハンマー法による圧縮強度を思い出します.実測値Rから圧縮強度への変換には材料学会式と建築学会式の二つがありました.旭化成はすでにご覧いただいたように,書面では実測値を提示しただけで圧縮強度は隠しました.そして口頭で圧縮強度は旭化成の設計基準(JIS基準よりかなり上)を満たしていると述べました.わがへーベルハウスはちょうど上記H市の家と同じ状況なのです.甘い値がでる建築学会式を使うと「0.98」で旭化成の設計規準をほぼ満たしますが,材料学会式では「0.75」しかなく最低基準たるJIS強度なのです.

旧版を用いた耐震強度の評価と建築学会式圧縮強度の評価には,どちらも「甘い値」が出るという共通点があります.つまりどちらも知らぬが仏に「安心」を与えるものなのです.そしてこの「安心」は「安全」に繋がるどころか「危険」に繋がっているのです.

電子審査のところで建築設計書は「標準化」されていないのではないかと推測しました.耐震診断マニュアルとか圧縮強度の変換式のような非常にベーシックなところで複数の基準が存在し,どの規準を使うかは業者任せになっているようでは,高次のレベルでの標準化などできている筈がないと「邪推」したところでバチは当たらないでしょう.


大晦日の朝日新聞の「1150万戸耐震化急務」と題する記事によると,東京都武蔵野市では耐震診断済みの分譲マンションはわずか7%です.
「診断の結果,数値が低かったら,資産価値が下がってしまう」と,居住者自身が後ろ向きになるケースが多いという.
耐震診断にせよ,コンクリートの圧縮強度・中性化深さにせよ,住宅性能表示にせよ,構造計算の見直しにせよ,正常な値が出てあたりまえであり,もしおかしな値がでると,所有者は非常に困惑するというのはまぎれもない真実です.だからこそ,そこにつけこんだ「安心」を与える甘い基準が生き延び,欠陥住宅,欠陥マンションが世の中に広く潜在することになるのです.



2月8日,国交省は福岡市内で「姉歯以外」の建築士による構造計算書偽造マンションが3棟あったと発表しました.施工は木村建設で設計は福岡のサムシングという80年開業の会社です.サムシングはピーク時には55人の建築士(うち1級建築士5人)を抱え,福岡でのシェア65%の(件数だけでみると)最大手企業でした.02年に廃業していますが,元社長によれば廃業理由は経営に関心を失ったからで構造計算した建築士は行方不明だそうです.

サムシングは福岡県を中心に約1万件の構造計算をしたとされます.今回発表された3件の強度は0.85,0.9,1以上です(1以上については後述).国交省は物件名,所在地を公表していません.

同日夕刊によると,北側大臣は衆院予算委員会で「サムシングがかかわった関与物件がどれぐらいあるか,しっかり特定する必要がある」と述べ,国交省の山本住宅局長は第二の姉歯が存在したことについて「非常に残念であり,深刻に受け止めている.建築行政を見直して今後に憂いがないようにしたい」と述べています.


サムシングに関しては,昨年住民側が損害賠償訴訟を起こした段階でNHKニュースが報じていました(会社名は出ていなかったと記憶しています).住民側弁護士が構造計算書偽造の可能性を指摘していました.そして今年1月8日のサンデープロジェクトはサムシングについて詳細を報じました.番組には仲盛元社長が登場していました.

サンプロが紹介したマンションは上記3棟のうち強度0.85の物件だと思われます.このマンションは入居直後から雨漏り,床の傾きなどの異常が見られました.住民側の調査の結果施工不良にとどまらず,構造計算にも疑義が生じました.当時使われていた構造計算プログラムSS1(改)を使って再計算したところ,設計強度は0.8程度であることがわかりました.構造計算書の計算結果は,記載入力データとは別物で計算された結果だったとサンプロは報じていました.

翌2月9日の『耐震偽装の拡大「深刻」』と題する朝日の2面記事によれば,今回の3件の偽装は国交省の要請で福岡県が調査し,その調査の中で見つかったとあります.本当でしょうか.かねてから住民側が欠陥住宅であることを主張しサンプロでも報道された物件を,「仕方なく」公表したというのが真実ではないでしょうか.

福岡県が調査対象として把握していた福岡市内木村建設施工物件はわずか65件(うち16件が調査中)です.そしてサムシング1万棟のうち7割が福岡市に集中しているのです.


さて毎日新聞の2月9日朝刊は,熊本県の木村建設施工物件で新たに6件の強度不足が発覚したと報じました.強度は0.45〜0.94です.設計した5業者は姉歯,サムシング以外の「第三の姉歯」で,建築確認はすべて行政側がおろしたものです.
国交省は8日の発表段階時には熊本県の6件を把握していませんでした.国交省小川課長があわてて熊本に飛び,熊本県知事の謝罪会見,北側大臣の遺憾声明とドタバタ劇が演じられました.
毎日記事によると,熊本県建築課は国交省指示で木村建設施工物件を調査したが問題は見つからなかった,「念のため日本建築構造技術者協会九州支部(JSCA九州)に依頼し再計算した結果,強度不足が判明した」という経緯です.強度不足が判明したと言っているだけで,偽装判明とは言っていないことにご注意下さい.

同日の夕刊には,朝日,日経にも熊本6件強度不足の記事が載りました.県が国への報告を怠っていた経緯が簡単に触れられています.昨年末までに2棟,今月までに4棟の強度不足を外部機関より指摘されていた,しかし「県は一連の事実を公表せず,1日に「構造計算書の再計算の結果,改ざんなどの事実は認められなかった」と発表.国にも同じ内容で報告していた」ということです.

翌10日,熊本県は木村建設施工物件でさらに8棟が強度不足だったと発表しました.強度は0.90〜0.98でした.そして13日(月)に熊本県はさらに6件の規準をわずかに下回る物件があったことを公表しました.計22棟が強度不足だったことになります.

熊本県がまじめに「再計算した」ことは確実です.0.98の物件など書類チェックでわかるはずがありません.一方福岡県は何件再計算したのでしょうか.


再計算の結果,強度不足が判明したとします.その計算経緯と構造計算書を照合して差し替えなどの事実が判明して初めて偽装です.構造計算書が廃棄されていれば偽装かどうかという悪意の証明は,建築士が自白しない限り不可能です.こうした強度不足だが偽装かどうか不明というパターンはあって当然です.熊本の例では次のようになります.

再計算件数強度不足件数偽装判明件数
(22以上)226?

22件のうち何件が悪意によるものか今のところ不明です.こうみていくと福岡県の強度1以上で偽装判明というのは非常におかしなものであることがわかります.そもそも8日の国交省の発表そのものがおかしいのです.


2月8日の国交省の発表は,9日の上記朝日記事によると次のようになります.

国交省の調査対象は「姉歯」と「非姉歯」に分けられます.「姉歯」とはもちろん姉歯が設計した物件であり,「非姉歯」とは木村建設・ヒューザー・平成設計・総研が手がけ,姉歯が関与していない物件です.つまり「非姉歯」といっても,姉歯事件の関係業者となんらかの接点がある物件に限定されています.全体からみればごくごく一部を国交省は調査対象にしたのです.

国交省発表をもとに朝日新聞がまとめた集計によると,「姉歯」の調査総数は207件,偽装判明97件,調査継続2件です.「非姉歯」の調査総数607件,偽装判明3件,調査継続217件となっています.偽装判明の3件がサムシングです.

あって当然の「強度不足だが偽装かどうか不明」というのはどこに紛れ込んでいるのでしょうか.調査継続に含まれているのでしょうか.もしそうなら「非姉歯」で(607−217−3)の387件の物件にはただの1件も強度不足はなかったことになります.熊本県だけで22件もあったのに.

国交省の実態調査のいい加減さが,熊本県の一連の発表で明らかになりました.偽装かどうかの判定は自治体の判断に任せ,確実に偽装だと判明したものだけ報告せよと指示していたと思われます.そして国交省は再計算して調査しろとは指示していません.それも自治体任せです.「念のため」再計算を実施した自治体よりも,していない自治体の方がむしろ多いでしょう.福岡県もたぶんしていません.


姉歯元建築士はきわめて特殊な例外だという見方は事実をもって否定されました.弁護士,医者,大学教授にもおかしな人がいるように,おかしな1級建築士がいてなんの不思議もないのです.いちいち偽造かどうか,悪意があるかどうかなど,もはや言っておれなくなりました.まず規準強度を満たしているかどうかです.悪意による偽造であろうと,まぬけな計算ミスであろうと,住民にとっては同じです.ワルなのかマヌケなのかは,規準を満たさない設計をした建築士に言い訳させればいいのです.

国交省は,再計算実施件数,強度不足件数を自治体別に公表すべきです.わがH市でも正月の広報に約40件を調査したが問題ありませんでしたと載っていました.「無駄で冗長なダブルチェック」(後述)は行わなかったのではないでしょうか.


熊本県は「一連の事実」を最初なぜ公表しなかったのでしょうか.国交省は「第二の姉歯」がいないことを祈っていました.姉歯が例外であることを前提に制度改正を考えていました.国にとって第二の姉歯の存在が証明されるのは困ったことなのです.このことは当然地方公務員に対してプレッシャになります.熊本県は,第二の姉歯の存在を自ら最初に公表することの重大性にビビッタのです.

ではなぜ福岡県は公表したか.サムシング疑惑がすでにマスコミ報道されていたからです.決して県独自の調査で判明したものではないと思われます.サムシング3件がまさに氷山の一角であることが今後明らかになっていくでしょう.なにしろ1万棟もあるのですから.


熊本県で最初に強度不足と発表された6件を設計した建築士(3人だと思われます)の中で,熊本市のマンションと八代市のホテル2件を手がけた白髪の1級建築士(52)が注目されます.この白髪紳士が設計した物件に強度が0.4台のものがあると県は発表しました.これに対し白髪紳士は「誰が審査したのか.技術力は私の方が上だ」と県庁に自分の再計算結果を持って乗り込んだのです.抗議を受けた県は17日に改めて結果を公表するそうです.

この白髪紳士は次のような注目すべき発言をしています.

「構造計算ではプログラムや設計者の考え方で違う数値がでる.誰がどうチェックして強度不足と断定したのか」(朝日)
「構造計算のソフトによっては,まったく違う数値が出ることがある.私は国交省が認定したプログラムを使っており(以下略)」(日経)

蛇足ながら構造「設計」が設計者によって異なるのは当たり前です.壁式にするのか軸組みにするのか決めるのは設計者です.しかし構造設計の一部品にすぎない構造「計算」がやる人によって異なっては大変な話になります.その違いがわずかなものであればそれは「誤差」ですが,人や使うソフトによって0.4になったり1になったりするのであれば,建築行政が根底から崩れます.白髪紳士の主張を額面どおり受け取るとこういう話になると思われます.

国は耐震設計の考え方として5つの設計法を認めています(『文芸春秋2月号』の構造設計家・東京電機大教授今川憲英氏の論説より).白髪紳士がポピュラーな「自動設計プログラムを使用した許容応力度等計算法」を使わずに,国が認めている「××計算法」に基づいた(甘い値のでる)大臣認定プログラムを使用しており,その結果が(ポピュラーな計算法では0.4であるにもかかわらず)規準強度1をみたす結果になった,ということであれば白髪紳士の主張は正当なものです.この場合の責任は明らかに,ダブルスタンダードを放置している国側にあります.

県側にも若干の弱みがあります.構造計算書の完全版はすでに廃棄され概要版をもとに再計算したそうだからです.しかし私見では二次資料である構造計算書などどうでもいいのです.一次資料である建築設計書さえ残っていれば,再計算は可能です.JSCA九州支部が紙一枚の構造計算書「概要版」だけ見て再計算したというずさんなことをしていない限り,0.4台の値が出たという結果は信頼できるように私は思います.

いずれにせよ17日の県の発表が待たれます.できれば参考人招致でこの白髪紳士の意見をもっとよく聞きたいと思います.(次回参考人招致の本命はもちろんサムシング元社長ですが.)



サムシング3件が発覚した時,国交省建築指導課の担当者は次のように述べたと9日の朝日は報じています.
姉歯元建築士だけであってほしいと願っていたが,偽装の手口は特殊ではなく,他の建築士がやっていたとしても不思議ではない.やっぱり出たかという印象だ.
正直な感想です.しかしこの担当者と違って,「権威たち」は姉歯だけだと考えて事を進めていたフシがあります.

国交省は昨年12月,社会資本整備審議会に「基本制度部会」を設けました.そこでの審議の中間報告は2月下旬にまとまる予定で,それを基に建築基準法や建築士法の改正案が今国会中に提出される予定です.しかし第二の姉歯の存在が確実となった現在,「「悪意」の広がりを前提に全体の制度設計を修正する必要がある」と9日の朝日は報じています.つまりこれまで審議会はあいもかわらず性善説に立って制度設計を検討してきたということです.8日午後,基本制度部会の部会長の村上周三慶大教授(建築学)は次のように述べています.
姉歯元建築士だけなら例外的な事件とみることもできたが,もう一人いたとなると中間検査の強化などの再発防止策を重点的に考えないといけないだろう.
そして東京構造設計事務所協会の榊原信一会長は次のように「指摘」しています.
構造計算の途中で別の数値を使ったり,ごまかしたりするのはメリットがあまりないと思っていた.再計算では見抜けないものもあり,設計の考え方や入力データが妥当かを構造設計の専門家がチェックする態勢が必要だと感じる.
中間検査は施工品質を検査するためのものであり,設計品質を検査するためのものではありません.それでなくても施工品質には検査項目が沢山あるのです.中間検査も完了検査も,設計が正しいことを前提に設計どおり施工しているかどうか検査するものです.なぜ村上教授は設計書偽造の再発防止策の本命として中間検査の強化などというマヌケなことを言ったのでしょうか.

さて榊原会長の方も,偽造のメリットはあまりないと思っていたなどと実に浮世離れしたコメントを残しました.メリットがあるから偽造するのです.建築士にはリスクの見返りとして高給が,そして建築士を雇っている企業には客をだました莫大な金がころがりこんでくるのです.

榊原会長は「再計算では見抜けないものがある」と述べています.再計算で構造欠陥のすべてが見抜けるわけではないことはもちろんです.しかし構造計算書の数値が妥当かどうかは見抜けます.そして再計算以外にそれを確実に見抜く手段はないのです.榊原氏がPRしている「構造設計の専門家」でも,再計算せずに,強度が0.8しかないことは見抜けないのです.

予算委員会の中継で,公明党の斎藤議員の北側大臣に対する質問を見ました.見るつもりはなかったのですが,与党側最後の質問者だった為見てしまったのです.斎藤議員は「再計算は必要である,しかし再計算のように無駄で,冗長なダブルチェックはできればせずにすませたい,その為には建築士の倫理を高めることが必要云々」と質問していました.検査におけるダブルチェックの意味を誤解していますが,それはともかく,再計算は無駄で冗長なチェックだと斎藤氏は考えています.


これら学界権威,業界権威,与党議員のコメントに共通している点は,「再計算」に焦点があたることを避けようとしていることです.焦点があたるとまずいことでもあるのでしょうか.あるのです! 国の立場からすれば実にまずいことになるのです.検査機関に再計算を義務付けなかった事こそ国が犯した最大の過失であり,その責任は「悪の権化」小嶋社長の罪よりはるかに重いからです.



1月26日の予算委員会で質問に立った馬渕議員によれば,検査手順を定めた当時の建設省住宅局長オガワタダオ氏は現在は都市再生機構の理事長に天下っているそうです.

国交省中央建築士審議会は元請設計会社の8人の1級建築士を,氏名を伏せたまま,はやばやと免許停止処分にしました(1月25日).一罰百戒のみせしめ的処分です.彼らに悪意があったことは証明されていませんから,見逃したという過失責任を問うたのでしょう.それならば検査機関や自治体建築主事たちの過失責任はどうなるのでしょうか.

私は総研四ヶ所氏やヒューザー犬山氏が免許停止処分になっても驚きません.しかし元請設計の1級建築士たちに対して,氏名を伏せたままいきなりレッドカードをだすという処分には違和感をおぼえます.氏名をきちんと公表した上で,イエローカードを出すのが公正なやり方ではないでしょうか.

国交省は「末端」技術者に対して免許停止という最大の罰で報いました.その一方で,彼らとは比べ物にならない重い過失を犯した高級官僚の責は不問に付しています.おかしいではありませんか.


私はオガワ氏が官から民に検査事務を移すにあたって,「事務的機械的にたんたんと検査」できるよう手順を定めたというその精神はまったく正しいと思います.建築確認における審査は,構造設計コンペの審査とはまったく違うのです.シドニーのオペラハウスのような特殊な構造を審査しているわけではないのです.

オガワ氏のコンセプトは正しかったのです.しかしコンセプトを具体化する段階で誤ったのです.再計算というきわめて「事務的機械的」作業を義務付けなかったという致命的誤りを犯したのです.その責はオガワ氏一人が負うべきものではなく,当時の審議会の主力メンバーたる学界権威,業界権威も連帯して負うべきものであることは言うまでもありません.


予算委員会の質疑を見ていると,北側大臣は建築確認は公けの事務であるという意味での「行政上の責任」は認めていますが,国が賠償すべきであるという「国賠上の責任」は認めていません.マンション住民に対する支援は,公益性,緊急性を配慮した公的支援であり,国が責任を認めて賠償しているわけではありません.お困りでしょうから援助して差し上げますということなのです.

公益性つまり周辺住民に被害を及ぼすという意味ではホテルの場合も同じではないか,なぜホテルオーナーには支援しないのかと馬渕議員は突っ込みました.北側大臣は,ホテルオーナーは建築主という立場でありマンション住民の消費者という立場とは異なる,施工業者を決めたのは建築主の責任であるから損害は施工業者に要求すべきであって国が支援する筋合いのものではないと,公益性には触れずに,逃げました.

ホテルオーナーに一定の自己責任部分があるのは確かです.しかし国に責任がないというのは明らかにおかしな話です.ホテルにも建築確認は下りているのです.


行政上の責任は認めるが国賠上の責任は認めないという論理は詭弁です.姉歯事件ほど国の責任が明々白々な事件は,すくなくとも建築行政分野に限れば,かってなかったと言っても言い過ぎではありません.

小嶋社長の首根っこを真下メモが押さえつけているように,判明しただけで100件にものぼる悪質な偽装を,国が定めた検査手順で見抜けた例がただの1件もなかったという厳然たる事実が国,国交省の首根っこを押さえつけているのです.




 (以上06年2月13日夕方)




06年03月07日 静香ショック



3月7日,朝日新聞朝刊は,耐震偽装問題で「二重規準問題」が露呈したことを,トップと2面で報じています.その前に,ちょっと寄り道することをお許しください.偽造メール問題という功を焦った大蔵官僚あがりのどうしようもない低レベルな失態や,倫理審査委員会における伊藤元国土庁長官の直視に耐えない顔を忘れさるために・・・



静香ショック


10日ほど前日本中は荒川静香の金メダル獲得に沸きました.早朝のライブを見た私も人並みに興奮しました.野球にしろサッカーにしろ大相撲にしろ,あるいはまた囲碁名人戦にせよ,結果がわかってからの録画鑑賞は気の抜けたビールです.何が起きるかわからないという緊張感に溢れたライブ中継には絶対的な魅力があります.

ところが荒川静香の場合は少し違いました.昨年お盆に買ったDVDレコーダーで再生して見たとき,何度見ても感動するのです.金メダルが獲れたという事実に対する感動ではないことは明らかです.事実というものは,それがいかに驚嘆すべき事実であっても,起こってしまった途端に,起こって当たり前に転化してしまいます.感動も一過性なのです.

朝日新聞のスポーツ欄の署名記事に,フリーの演技が終わった時メモを取る手が震えた,隣のアメリカ人は涙を流していたという文章がありました.テレビ席での私の感想は,転ばず,けなげによく滑ったという感動であり,泣くような感動ではありませんでした.しかし再生して何度も見ていると(何度も見たいと思わせること自体珍しいことですが),時にはそれに近い感情が起こってくるのです.なぜか.

荒川のフリーは,聴きなれない緊張を強いるような高音のヴァイオリンの音で始まります.張りつめた緊張のうちに最初の3回転−2回転のコンビネーションジャンプが「決行」され,無事着氷した後に,一転して優しいメロディが流れます.この導入部は見るものの心をしっかり捉えます.

クライマックスは短いレイバックイナバウアーとそれに続く3−2−2の連続ジャンプです.イナバウアーの時,荒川は初めて歓声が聞こえた,スケートを楽しんでいると感じたと後に語っています.笑みが自然にこぼれています.そしてそれに続く3連続ジャンプに成功した後荒川ははっきり笑顔をみせます.

本屋の五輪コーナーで立ち読みした『Little Wings』という本で荒川は,トゥーランドットを選曲した理由の一つとして無理に笑顔を見せなくてよいからと語っています.まるで能面のような荒川の表情は,緊張でこわばっているわけではなく,それはまさに冷酷なトゥーランドット姫の心情を表すものだったのです.そしてそれがイナバウアーで一気に氷解するのです.

終りの方にステップがあります.足の動きの巧みさは私にはよくわかりませんが,腕の動きは素人にもよくわかります.ジャッジ席の前での一連のステップの演技が終わった後,荒川は5本の指を広げたまま振り払うような腕の動きを見せたのち中央での最後のスピンに移りました.私のステップのよさがあなたにわかった?,これでおしまいよと言っているかのように私は感じました.素人のオジサンにも,媚びとは対極にあるなにかが,伝わりました.

何度見ても感動する理由の半分はプッチーニの曲にあると私は思います.昔落ち込んだ時期に,トスカの中のアリアが心に染みた記憶がありますが,プッチーニは叙情に流れすぎると私は思っていました.しかし荒川のトゥーランドットにそんな心配は無用でした.五輪という最高の舞台で長期間の苦しい練習に耐えたアスリートが全力を尽くしているのです.感傷が支配する余地などないのです.荒川の訓練された肢体の美しい動きが,プッチーニの叙情性の極めて上質な部分と融合し,それが涙を誘うのです.

トゥーランドットの舞台である中国風の,どこか垢抜けない衣装とヘアースタイルにもかかわらず,演技中のいくつかの小さな瑕疵にもかかわらず,荒川の4分間のフリーの演技は,技術性と芸術性が高いレベルで融合した最高の「作品」として,後世に残ると思われます.それはワーグナーの目指した総合芸術としての楽劇に匹敵する,とまで言ったらさすがに言いすぎでしょうか.


日本メディアは当然ながら荒川を絶賛しました.しかしアメリカの一部メディアは「荒川静香は卑怯な女王」と報じました(『週刊ポスト』3月17日号,ちなみに記事タイトルは“「荒川静香は卑怯な女王」とは頭に来た!”で,記者の怒りが伝わってきます).その中で前回五輪の女王サラ・ヒューズは次のような感想を述べています.
「今回のオリンピックでは信じられないような素晴らしい演技はひとつもなかった.誰も自分の人生を賭けた演技はしていなかった.抑圧された戦いだった.どんなオリンピックでもあってはならないことだった.」
このコメントは荒川の達成したものが一部アメリカ人の考えるフィギュアの概念といかに異質であるか物語っているように思われます.私はコーエンもヒューズの妹も嫌いです(16歳のナンバー3は好きです).彼らの演技は観客うけを狙った美です.

ロシアの女王スルツカヤはすこし違います.彼女の一つ一つの動きは荒川の丁寧さに比べると極めて無造作です.しかし彼女には荒川にない,高いジャンプで象徴されるダイナミックさがあります.

SPの「死の舞踏」で思ったほど荒川を引き離すことができなかったスルツカヤに焦りが見られました.公式練習や本番前の練習で彼女は荒川を気にしていました.荒川の自分とは全く異質なスケーティングの完成度を見て,ミスは許されないと思ったに違いありません.彼女は語っています.「私のもっとも得意なジャンプで失敗するなんて考えられません.試合では何が起こるかわからないのです.それが人生です.」私はスルツカヤの男らしい(?),さっぱりした性格に好感を持ちました.

「スルツカヤが転倒して3位になり,“それでも満足だ”といっているがそれは負け惜しみでしかないんです」と上記週刊誌でスポーツライターT氏が語っています.そうでしょうか.スルツカヤこそ,自分が敗北したことを,負けるべくして負けたことを,他の誰よりはっきりわかっていたのではないでしょうか.


娘はエキシビジョンの「YouRaiseMeUp」がお気に入りですが,オヤジはプッチーニです.アマゾンで注文したアリア集はまだ届きません.しかしなんといっても,実況アナウンサーと解説者の声が入っていない,会場アナウンスと観客の声だけの,タラベーラ会場のライブDVDの発売が待たれます.「芸術作品」に余計な解説は不要です.


(以上3月7日夜)




06年03月14日 新計算法



3月13日,アマゾンからプッチーニのオペラアリア集CD(ドイツグラムフォン盤)が届きました.『誰も寝てはならぬ』はやはりすばらしいアリアでした.クライマックスで王子は次のように歌います(坂本鉄男訳).
おお夜よ,失せろ! おお,星たちよ,沈め!
星たちよ,沈め! 夜が明ければ!
私は勝つのだ!
荒川静香が精神的に非常にしっかりした女性であることは衆目の一致するところでしょう.イナバウアーしながら,歓声を楽しみましたなどと言いながら,実のところ「私は勝つのだ!」と思っていたのかもしれません.



気分良く書いた「静香ショック」を登録した3月7日に二つの気分の悪くなるニュースがありました.

 1.札幌市の浅沼2級建築士による偽装発覚.
 2.構造計算における二重基準問題の露見.

の二つです.前者から片付けておきます.

札幌市で33件の強度不足物件が発覚し,うち5件が設計書偽装と判定されました.浅沼建築士の技術的「信念」に傾聴に値する独創性はないように思われます.第二,第三の姉歯の存在は九州で証明済みで建築士性善説なる幻想はすでに完全に崩れており,ワルかマヌケかの詮議はもはや枝葉末節の話に転化しています.焦点は建築確認がおりているにもかかわらず設計強度が不足している物件がいったいどれだけ存在しているのかに移っています.

札幌市の記者会見は余計な言い訳をせず好感のもてるものでした.熊本県と同様に札幌市もまじめに再計算したことは明らかです(「札幌市は自らが建築確認した16棟について専門機関に再計算を依頼し,5件について偽装が確認された」と朝日記事にあります).

熊本でも札幌でも相当数の強度不足物件が再計算によって露見しました.わが大阪はどうなのでしょうか.大阪は熊本や札幌とちがって良心的業者ばかりなのでしょうか.「えげつない」人間が住んでいると思われている大阪で,「えげつない」建設業界には善人ばかり住んでいるのでしょうか.

同日の日経夕刊に大阪市の見解がでています.
今回偽装が判明した浅沼建築士の関連物件が市内にあるかどうか早急に調査したい.その後,理想的には,なるべく多くの物件の構造計算書を再計算して安全性をチェックすべきだろう.ただ費用がかかり簡単ではない.
大阪市は姉歯の時は姉歯関連物件だけ,そして今回は浅沼関連だけ調べるおつもりのようです.このような考えでは存在するに違いない「なにわの姉歯」を見つけ出すことは金輪際できないでしょう.理想的には?理想的にはではなくて,再計算は最低限の必要条件です.費用がかかる?いったいどれほど金がかかるというのでしょうか.一声100万というのは「悪徳業者」のふっかけ価格です.私見ではせいぜい10万です.ウソだと思うならNHKスペシャルで紹介された長野県の建築主事の再計算作業をじっくり御覧なさい.(くどいですが再「設計」作業ではないことに是非ご留意下さい.)

第3セクター問題であれだけ莫大な金を溝に捨てた大阪市は,市民の命に関わる重要案件に対してはわずかな金を出し惜しんでいます.なぜでしょうか.大平前助役は政治家の口利き内容を文書に残すことに努力しました.ところが自民党は猛反対しました.依頼業者のプライバシーを尊重するというおきまりの理由からです.市議会にはプチ伊藤がごろごろいるのです.彼らがなにより恐れているのは,下手に再計算に手を出して,大阪市が福岡市のような底なしの状況に陥ることです.



さて本題のダブルスタンダード問題に移ります.名誉毀損だ,営業妨害だと熊本市役所にねじこんだ「銀髪紳士」のその後はよくわかりませんが,もし彼の主張がまともなものなら,この問題に包含されると思われます.

3月7日の朝日新聞は1面と2面で二重基準問題を扱いました.2面の方が読み応えのある内容になっています.ちなみに2面の大見出しは「新基準 手抜きの温床」という激越なものです.

事例が1面にひとつ2面にひとつ報告されています.1面の事例は,新宿区の投資用分譲マンションで姉歯偽造物件です.強度は0.85しかなく,補強工事を迫られた建築主が新宿区と対応策を話合う中で,<新計算法>で再計算するという案が浮上しました(ちなみに姉歯元建築士やサムシング行方不明建築士や浅沼建築士が使った計算法はすべて旧計算法です).旧計算法では0.85だったにもかかわらず,新計算法では1を超える値が得られ,建築主は無事金をかけずに済んだという(たいへんおかしな)結末です.これが1面見だしの「「不足」,一転「安全」に」の意味するところです.

一方2面に掲載された事例というのは,「住友不動産が札幌市で建築と販売を中止し,売買契約の解約を進めている分譲マンション2棟」のことです.この物件は姉歯物件ではなく,また同じ札幌市の浅沼物件とも違います.このマンションは最初から<新計算法>で計算され建築確認がおりています.

住友不動産が他の設計会社に(念のため)検証を依頼したところ,「耐震面の配慮不足」を指摘されたため,販売,建設を中止したという経緯です.1面見だしにならうなら,こちらの方は,「「安全」,一転「不足」に」です.注目すべきは,不足理由が姉歯物件のように偽造発覚による「不足」ではないことです.

記事はあいまいな表現になっていますが,おそらく検証した設計会社は<新計算法>ではなく<旧計算法>で再計算したと考えられます.その結果が1に満たなかったのです.

住友不動産は,<新計算法>で合法的に検査に合格しているにもかかわらず,そして姉歯の場合と異なり検査自体には問題がなかったと思われるにもかかわらず,販売を中止しました.

住友不動産はなぜ堂々と「合法性」を主張しなかったのでしょうか.それは旭化成が「建築学会式」による圧縮強度という「甘い値」の文書化を拒んだのとたぶん同じ理由です.いくら合法とはいえ「甘い基準」を使っている実態を公けにすることは,「信用を重んじる大企業」として,できなかったのです.一方投資用マンション建築主にそんなこだわりはありません.合法でありさえすればいいのです.



新計算法は98年の建築基準法改正時に認められ00年から使用可能になっています.新計算法は建築業界とりわけ大手ゼネコンから歓迎されました.新旧のちがいをまとめると次表のようになります.

構造計算における二重基準
旧計算法新計算法
計算法の名称許容応力度等計算限界耐力計算
計算ロジックの特徴建物の変形を限定的に許容建物の変形をより大きく許容
外面(そとづら)ポピュラーな計算法「技術力」のある人しか使えない「高度な」計算法
新宿物件への適用結果強度0.85強度1以上
一言で言うと厳しい基準甘い基準


旧計算法について構造設計家今川憲英氏は次のように述べています(文芸春秋06年2月号).
(姉歯元建築士の使用したソフトつまりSS2やSS1(改)は)「全構造設計者の99パーセントが使用している非常にポピュラーなものだった」

「あまり知られていないが,(それらは)国交大臣が認可している設計法の中では鉄筋やコンクリート量が最も多くなるように設定されている」
姉歯事件で何度も登場した計算ソフトは,実に意外にも,広く普及しているという意味でも安全サイドの値が出るという意味でも,「事実上の標準」と呼ぶにふさわしいソフトだと思われます.


一方新計算法について今川氏は次のように述べています.
(「限界耐力計算法」は),優秀な技術者しか扱えない.だから技術や知識レベルの優秀な人材が必然的に集中する大手ゼネコンの一部で実際に使用されているのである.
事実,朝日記事で,大手ゼネコンの設計担当者は新計算法を次のように手放しで礼賛しています.
「自由度が高く建築主が求める耐震強度をより精密に実現できる高度な計算法だ」
いくら「高度な計算法」であっても,そのロジックを実装したソフトが存在すれば,「技術や知識レベルの優秀な」技術者しか扱えないということは,ソフトの外部仕様ができそこないの場合を除いて,普通はありえないことです.設計支援ソフトの開発に昔従事した経験から,そう断言します.

大手ゼネコンの一部でしか使われていないとすれば,それはもっと別の原因,たとえば新計算法をサポートするソフトの価格が「街の構造設計士」の手の出せない法外価格になっている,などによると考える方がありえると思われます.


大手ゼネコンはなぜ新計算法を歓迎するのでしょうか.今川氏は語っています.
「限界耐力設計法」を使うと,(SSシリーズで計算した場合に比べ)鉄筋の量をなんと20パーセントも節約できる.
「限界耐力計算法」は「最も経済設計に適している」と氏は語り,朝日新聞は,新計算法にはコストダウンを実現する手段に使われているという批判がつきまとっていると報じています.

コストダウンがなぜ可能か.今川氏は次のように述べています.
他の設計法では建物全体の変形が500分の1まで許容されている(私は1000分の1以下に抑えられる設計が望ましいと考えているが).それが「限界耐力計算法」では300分の1まで許容される.
外力による建物の変形について,旧計算法ではたとえば,柱や梁がわずかにひび割れした状態をもって,建物の限界だと考えます.一方新計算法では,いやいやその程度の変形では崩壊に至らず人命には影響しない,もっと外力が加わっても大丈夫だ,と考えるのです.

変形がひどくなればなるほど,現象のシミュレーションは技術的に高度な話になります.終末に近い複雑な状態を,仮定に仮定を積み重ねて評価するのですから,「高度な計算法」になるのは当たり前です.複雑な状態になる前に限界だとして計算を打ち切る旧計算法がシンプルなのも当然の話です.

旧計算法で強度1の建物と新計算法で強度1の建物を比べると,後者の方が地震時に大きく変形する華奢な構造つまりはちゃちな構造であり,変形に起因する揺れが大きいことは明らかです.3階建てより6階建て,6階建てより12階建ての方が,両者の違いは顕著になるでしょう.

今川氏は次のように述べています.
私は「経済設計」そのものを否定するつもりもない.ただ「限界耐力計算法」で設計されたマンションが,通常の設計法で建てられたマンションよりも危険性が高いことは事実なのである.
そして朝日記事は次のように述べています.
専門家の間では「大地震が起きたら従来の計算法による建物より被害が大きくなり,大規模補修や建て替えを迫られる建物も増えるのではないか」と懸念する声が出ている.
新しい計算法による建物がどの程度の割合になっているかははっきりしないが,従来の計算法と同等の強度を保つように内規で定めているゼネコンもある.
東京都の強度基準はたしか1.2と厳しいものでした.上のゼネコンの「内規」というのは,新計算法で1.2,旧計算法で1が目標ということかもしれません.これでは基準の厳しい東京都のマンションの実際の強度は地方のマンションとなんら変わるところがないという話になります.

新宿区の投資用マンションの強度は新計算法で1以上で補修不要となりました.強度基準が1.2の東京都の物件ですから,1.2をクリアしたのでしょう.それが旧計算法では実に0.85でした.(強度基準が1である)札幌市の住友不動産販売物件や,たとえば大阪市の大手ゼネコン販売物件は,新計算法で1程度だと思われます.それらは旧計算法ではいったいどんな数値になるのでしょうか.


こんな理不尽なダブルスタンダードが,なぜ,存在しているのでしょうか.朝日記事において東大の神田順教授(建築学)は次のようにコメントしています.
「新しい計算法が認められた際は,問題点について十分な検討がなされなかった.(基準を満たしていても)実際には従来の計算法による建物より強度が低いということもありえる.そうしたことがマンションの購入者に知らされていない点が問題だ.」
十分な検討がおこなわれないまま新計算法は導入されました.もちろん大手ゼネコンの圧力によるものでしょう.中小業者には縁のない話なのですから.


姉歯事件発覚直後のNHK日曜討論で建設省OBの大学教授がとくとくと語っていました.「英米では中間検査を7,8回行っている.しかし日本では業界がコストがかかると難色を示した為,1回だけになってしまった云々云々」

業界が金のかかることに反対するのはある意味で当然です.しかし建物に住む人,使う人の立場に立って,すなわち国民の立場に立って,金儲けに走る業界を押さえ込むのが監督官庁の役割ではありませんか.それを他人事のように業界が反対したから中間検査は1回だけになってしまったなどと,ぬけぬけと元建設官僚は言い訳しました.

コンクリート品質問題にしても,アスベスト問題にしても,監督官庁である建設省が見識をもって業界を厳しく規制するどころか,業界の言いなりになったことが問題の根源にあります.そして犯人探しをすれば景気が悪くなるなどと口をすべらした武部幹事長に象徴される業界の利益代弁者たる政治家の存在があります.


経済性をひたすら追及した総研,木村建設,ヒューザーの面々には経済設計に最適な新計算法は無縁でした(ただし国会で問題となった木村建設施工物件リストのなかの鉄骨量の少ないものは,あるいは新計算法によるものかもしれません.設計会社が記者会見で姉歯設計を低レベルな設計だと罵倒していたことをふと思い出しました).

新計算法のメリットを腹いっぱい満喫したのは大手ゼネコンであり,中小業者,新興業者にはなんのメリットもなかったのです.物理的に同じ強度の物件でも,かたや新興企業の物件は強度偽装物件として厳しく糾弾され,かたや大手ゼネコンのブランド物件は新計算法という衣のおかげでなんのお咎めもないのです.

新計算法が使用可能になった00年以降,業者の間で新しい計算法では強度が低くても検査に合格するようだという「噂」が流れたに違いありません.新計算法に手が出なかった資力のない中小業者は考えたのです.そういうことなら,計算書をちょっと細工して鉄筋量の少ない建物を申請してもバチはあたらんだろう・・・・・・と.こうしたモラルハザードのそもそもの原因が建設省の定めたダブルスタンダードにあることは明々白々です.『アンフェアなのは誰だ』!



さて同じ3月7日の報道ステーションは,強度0.57とされているグランドステージ江川A棟が,一部実測値を考慮して再評価すると0.82だったとレポートしました.コンクリート強度がコア抜き取りで測定した結果,設計値が240(kgf/cm2)のところ実際は300以上あった為です.コンクリート強度は建物強度を計算する上で基礎数値ですから,その値が上がれば強度が増すのは当然です.

ただしグランドステージ江川が計算値0.82の他の姉歯物件と同等強度かといえばそれは疑問です.なぜなら江川の施工会社がコンクリート品質に格別の配慮をしたハズはありませんから,他の物件でも実測値を使えばあがる可能性が高いからです.現在のコンクリート品質は一時期に比べ改善されていると思われます.(セメント会社HPで見ていただいたように,セメント協会が規制は国家的損失だとまで猛反発したアルカリ量も現在は国際基準に達しています.)

話がそれで終わればどうということのない話です.しかし蛇足がついていました.強度があがった理由はそれだけではない,他にもあると,建築構造士O氏が登場し,ソフトやバージョンの違い,構造設計者の判断でも,強度が変わると述べたのです.つまり前に登場した「銀髪紳士」と同じようなことを述べたのです.O氏は言いました.

 「構造設計者がその建物に適した解析手法を選ぶ.」
 「その判断は構造設計者の判断であり,どれが間違っているとは言えない.」

このような話を真に受けた女性アナウンサーが医療の場合のように,セカンドオピニオンが必要ですね,などとコメントしていました.

O氏のオフィスは,姉歯元建築士のみすぼらしい住居兼用オフィスと違って,近代的オフィスでした.O氏のところでは,新計算法も守備範囲なのでしょう.そしてお客によってどれを使うか,「判断」しているのでしょう,きっと.


最後に国交省の見解を朝日新聞から引用しておきます.
計算結果が大きく食い違う場合こそ,安全性を判断するためには専門家の助言が必要になるだろう.ただ,元の強度が著しく低い場合は別の計算法で数値が上がったとしても,安全だと判断されるとは限らないのではないか
無責任極まりない見解です.新計算法と旧計算法では考え方がそもそも違いますから,両者の結果がかなりの程度,時には大幅に食い違うことは必然です.新計算法導入時にそうした問題点を検討する為に,日本でトップクラスの専門家を招集して委員会が開かれたのではありませんか.いまさらなにが「専門家の助言」なのでしょうか.「専門家」とは具体的に誰のことを指すのでしょうか.ダブルスタンダードが現に存在することに対して責任をもつべきは,正体不明の「専門家」ではなく,監督官庁である国交省(旧建設省)なのです.



さて新計算法のことは一旦忘れ,旧計算法の世界にもどりましょう.3月13日月曜のNHKクローズアップ現代は耐震偽装を取り上げました.そこに日本建築学会会長の村上周三慶応大学教授が登場していました.村上会長は耐震偽装の再発防止策の目玉の一つとして第三者機関の設置をあげ下図をもとにおおむね次のように説明しました.

「第三者機関とは外部の学識経験者による検査システムで,公正中立に提出された構造計算書を構造計算書の考え方にたちのぼって検査します.これができますと,今回のような耐震偽装問題はたいがい防止できます.」


言うまでもなく「問題点の把握」があって「対策」があります.再発防止策というのはもちろん対策です.村上周三建築学会会長は100件以上の強度偽装を自治体も民間検査機関も見抜けなかったという問題点をどう認識しているのでしょうか.図で左半分が現状を表しています.そこには問題点が一切書かれていませんので,村上会長の問題認識を再発防止策から推理してみます.

1.ひとつの検査機関が検査したから見逃したのだ,複数でやれば見抜けたはずだ.
2.検査機関が公正中立な検査を行わなかったからだ(検査機関は故意に偽装を見逃したのだ).
3.検査員が構造計算書の考え方を理解していないからだ(検査員は無能だ)

こんなところが今回の耐震偽装問題の原因だと,村上会長が考えているらしいことが,この再発防止策から浮かび上がってきます.どれもこれも的外れだと私は思います.

事件発覚後,計算強度に問題があることを再計算によって具体的に指摘したのは,たしか兵庫県の建築主事を除き,ほとんど民間検査機関,民間設計会社の実務担当者です.学識経験者は「図面で一目瞭然の言語同断設計」(上記今川氏)などと声高に叫びましたが,ただの一人も具体的に数値を示して強度不足を指摘していないと思われます.建築確認という実務作業は,オガワタダオ氏が述べたように,まさに事務的機械的に行われるべき筋合いのものであり,学識経験者など不要です.いても邪魔になるだけです.

上で私は意図的に村上氏の現状認識から一つ重要な点を触れませんでした.それは「再計算」です.

再計算という言葉が第三者機関が行うべき作業に加わっていることにご注意ください(ただし赤字は私が強調したものです).さすがの村上会長も再計算そのものを隠ぺいすることはできませんでした.再計算の実施こそ再発防止策の核心です.

再計算がなぜ第三者機関の仕事なのでしょうか.再計算こそ,自治体,民間検査機関の検査業務の核心というべき作業ではありませんか.再計算を行わずして,検査機関はいったい何をせよというのでしょうか.


同番組で愛知県の取り組みが紹介されていました.週に3回外部から専門家を招きその指導を仰ぎながら,全件再計算に取り組んでいます.職員数を現行の2倍の10人に増員すれば余裕をもってこなせそうです(役所には高学歴で暇な職員が民間よりずっと多いと思われますからこの程度の増員は十分可能でしょう).

おなじく同番組で日本ERIが登場していました.日本ERIの取り組みには再計算という言葉は一切出てきませんでした.ではなにをしているか.従来一人の社員が行っていた机上チェックを4人で行うというのです.そして鈴木社長は,前より手間がかかるので,検査費用があがることの理解を客に求めることが必要などと説明していました.

なぜ4人でするようにしたのでしょうか.アトラス設計渡辺氏の指摘を担当者が上に報告しなかったため偽装に気づかなかったと,組織的隠ぺいを担当者一人の落ち度に押し付けた事と辻褄合わせしているのです.今後は一人ではなく複数でチェックすると言っているのです.こういうのを世間ではウソの上塗りと言います.



私がこれまで言ってきた再発防止策はごくシンプルなもので下図のようなものです.



現状の問題点は検査機関が机上審査しかしていない事です.それはなぜか.検査機関の怠慢ではなく,建設省のオガワタダオ住宅局長がそう定めたからです.ところが机上審査だけではただの一件も偽装を見抜けた実績はないのです.


おわかりのように,私の案は検査機関性善説に立っています.しかしこれでも偽装の99%は摘発できるでしょう.残り1%は検査機関と業者がグルになっているケースです.これを防止するために学識経験者のチェックなど不要です.ライバル関係にある検査機関どうしでダブルチェックすればいいのです.

日本ERIのような検査される側の企業が大株主になっているようなうさんくさい検査機関の検査に対しては,イーホームズのような独立系の検査機関がダブルチェックすることが必要です.



(蛇足)新計算法の検査について.

「高度な」新計算法が使える設計事務所なら,旧計算法で計算することなど,朝飯前のはずです.新計算法で確認申請する場合は,同時に旧計算法による値も参考値として添付するようにしましょう.そうすれば,指摘されても問題だと気づかなかったマヌケなERIでもちょっとおかしいな,くらいは思うでしょう.新計算法による検算はどっちみち無理でしょうから要求致しません.その代わりSS2も購入したことだし,旧計算法ならスキルの低いERIでも再計算できるでしょう.そして旧計算法で検算した結果をきっちり公表するのです.これだけのことで,新計算法を用いた申請は激減することでしょう.


 (以上3月14日昼)




06年04月02日 アウトロー作家



3月17日,ローカル番組『ムハハ no たかじん』に建築家安藤忠雄氏が出演していました.耐震偽装がテーマの一つでしたが,そこに入る前に次のようなメッセージが画面を流れました.
誰にも住む家がある
庶民は終の棲家のために気の遠くなるようなローンを・・・
人生のすべてを賭けて購入したマンション
しかし耐震偽装
夢の結晶は家族の思い出すら作れぬままコンクリートの塊に

誰にも住む街がある
都市開発の名のもとに次々と作られる高層ビル
街の景観を破壊しながら
しかし所有者を満足させ
それはまさに資本主義・拝金主義の象徴

誰も訪れぬ街がある・・・
それは我々の血税が眠る墓標

何のために? 誰のために?
自らの存在意義を見つけられぬ建築物の数々は
もはや魂の抜け殻と化した鉄と砂のオブジェ
生みの親の責任は
ちなみに「血税が眠る墓標」の代表は大阪の第三セクターの一群の建築物です.

なかなか格調高い「叙事詩」です.世界的建築家が出演するというのでスタッフが頑張ったのでしょう.「こんなこと急に言われても困ってしまう」というたかじんの言葉で,詩的世界から現実世界に引き戻され,いつもの調子でお喋りが始まりました.

私は安藤忠雄氏こそ本物のクリエイターだと尊敬していますし,大阪が彼を生んだことを誇りに思っています.<建築とはなにか>というお話なら,背筋を伸ばして謹聴させて頂きます.しかし欠陥住宅とか耐震偽装のような<業界の負の側面>に関する話なら,失礼ながら聞き流させて頂きます.そんな事は世界的建築家安藤氏の専門ではないからです.

氏は検査機関が偽装を見逃したのはコンピュータに対する盲信が原因だと述べておられました.偶然にも上記構造設計家今川氏も『文芸春秋2月号』で同じようなことを述べています.3,40年前,まだコンピュータが物珍しかった時代ならともかく,いまどき「コンピュータ盲信説」はあまりにも素朴すぎる見解だと私は思います.


「叙事詩」が語られていた間バックで流れていた音楽が,トゥーランドットの『誰も寝てはならぬ』でした.荒川のフリーで使われたヴァイオリンバージョンではなく,オリジナルのアリアです.このアリアが持つ劇的盛り上がりは,「叙事詩」の深刻な内容とも見事にマッチしていると私は感じました.

3月26日朝の「題名のない音楽会21」は『誰も寝てはならぬ』特集でした.男性テノール歌手の歌っているものより,故本田美奈子が歌っているものが,私には一番よかった.目頭が熱くなりました.

「静香ショック」のところで私は米選手ではコーエンもヒューズの妹も嫌いで,16歳のナンバー3が好きだと書きました(正しくはナンバー2).その16歳のマイズナーが世界選手権で見事金に輝きました.だからどうしたと言われても困ってしまうのですが.



3月14日の朝日新聞に国交省が3月中に国会に提出する建築基準法の改正案に関する記事が載っていました.次のようにあります.
建築確認の審査強化では建築基準法を改正.構造計算が適正かどうかを判断する第三者機関「構造計算適合性判定機関」を新たに設置し,7階建て以上に相当する高さ20メートル超の鉄筋コンクリート造りの建物については,自治体や民間検査機関が建築確認する際にこの判定機関で専門家による審査(ピアチェック)を受けるよう義務づける.
3月13日のNHKクローズアップ現代に登場した建築学会会長の村上周三慶応大学教授は自らが座長としてとりまとめた国交省案をお話なさったたわけです.

さて日本全国を興奮の渦に巻き込んだWBC決勝戦が行われた3月21日の日経新聞朝刊1面に,耐震偽装不安を解消するため「22都道県で対策」と題する記事が載りました.各自治体の対策が下表のようにまとめられています.

構造計算書の再計算など審査体制強化北海道,茨城,新潟,静岡,三重,滋賀,
兵庫,和歌山,福岡,佐賀,鹿児島
建築指導担当者の増員群馬,愛知
マンションなどの耐震診断,
改修費用の一部負担
千葉,東京,岐阜,奈良,岡山,徳島
工事開始後の中間検査石川
相談窓口の設置など神奈川,栃木


NHKが報じたように2の愛知は再計算実施のための増員です.3以下は計算書偽装を見抜くための対策とは直接には関係しない話です.長野県が1に含まれていない理由は不明ですが,大阪の名前が影も形も見えないのは半ば予期したとおりです(しっかりした建築主事がいる兵庫は当然1に入っています).

再計算実施グループにこれまで報道されてこなかった茨城などが含まれています.茨城については次のように言及されています.
茨城県は地上5階建て以上の物件などを対象に,建築確認時に提出される構造計算書を再計算する.
1と2で13の県が06年度に再計算を実施しようとしています.耐震偽装が発覚したのは05年11月ですから役所としては迅速な対応です.中央は腐っていても,まともな地方自治体も多いのです.もちろん中央と同じパターンで腐っている地方自治体もありますが.

この事実は「再計算には1ヶ月もかかる,金も100万かかる」と,再計算と再設計を混同した一部の専門家(ドクターなんたらという1級建築士の資格をもつ芸能人?が先日いまだに同じようなことを言っていた)に対する明確な反証です.再計算がそんなにたいへんなものなら,事件発覚後半年も経たない時期に,これだけ多くの自治体が再計算実施を決める筈がないではありませんか.

自治体検査機関ではまだ少数派ですが,民間検査機関の方はすでに大半が再計算を実施していると私は思います.なぜなら自治体検査機関はつぶれることはあり得ませんが,民間検査機関が今後同種の見逃しを行うと企業そのものの命とりになる事は確実であり,それを防ぐには再計算の実施以外に道はないからです.私は官よりむしろ民を信用します.官だから公正・中立だという,官の実態に目をつぶった論を立てる人の気が知れません.



姉歯事件で多くの人は検査機関というのは官民問わず何もしていないのではないかと思いました.そう思われてしまったのは当然です.日本の建築確認制度は,たとえていえば30点の水準でしかなかったのです.

合格点の60点をとるためには,最低限,再計算の実施が必要です.どんなに有能な専門家でも再計算なしに強度がこれこれであると評価することは不可能であり,逆に再計算さえすればごく普通の建築主事でも0.85しかない,却下だ,出直せときっぱり断言できるのです.ただし再計算の実施はそれだけでは60点です.しかしこれまで検査機関が実施してきた机上審査(ただし構造計算の細かい机上チェックは全く不要であることに注意)を加えれば80点になるでしょう.


国交省案にある第三者機関によるピアチェックなどというのは,現行検査水準が90点に達しており,それを95点にするためのしくみです.それは30点水準の日本には猫に小判なのです.つまり国交省のスタンスは,日本の現行検査水準はすでに十分合格点に達しているが,少し不足しているものがあるというものなのです.なぜそうなのかすでにおわかりでしょう.国交省は自らの過ちを認めたくないのです.官僚特有の無謬主義です.

日本の現行水準が30点レベルであることの責任が国交省(旧建設省)にあることは明々白々です.建設省住宅局長オガワタダオ氏が制定した検査手順は,結果として実にマヌケな,欠陥検査手順というべきものだったのです.

国交省が再計算の制度化を明言すれば,それは同時に一連の耐震偽装問題に対して,単なる行政上の責任にはとどまらず「国賠上の責任」を負わなければならなくなることを意味します.だからこそ「専門家による審査(ピアチェック)を受けるよう義務づける」などという国の責任を隠ぺいする案をマヌケを絵に描いた建築学会会長に代弁させているのです.

今緊急にすべきことは,日本の官民全ての検査機関の検査水準をまず60点以上にすることです.すべての検査機関に再計算を義務づけることです.「理想的には再計算すべきだろう」などとネゴトを言っている自治体をゼロにすることです.その他のことはじっくり時間をかけて検討して法改正すればいいのです.拙速でやるとロクなことはなく新計算法のように将来に禍根を残すことになります.




先日『耐震強度偽装問題 ワルの本丸を暴く!』と題するイサマシイ題の本が出ました.著者の宮崎学氏はかってグリコ森永事件で「きつね目の男」として疑われた人物として有名です(テレビでおなじみの評論家宮崎氏とは無論別人です).「宮崎家は父の代から建築関係の仕事をしているから,私など,建築業界ほどいい加減なところはないと,とうの昔から知っている」そうです(同書154頁).

著者は「はじめに」で述べています.
耐震偽装問題とは,一体何なのか?当事者やその周辺を人々の取材を行いながら私は,日本というこの社会の,この国のそして日本人の「ほころび」を見る思いを持った.
実に文学的感慨です.
「ほころび」の根底には,庶民の「持ち家志向」という幻を求める意識とそれを金融システムとして取り込んだ銀行の存在がある.

「ほころび」は,そうした「庶民の意識」「銀行の営業戦略」の上に立った国交省の住宅政策にもある.更に問題とすべきはこれである.国交省の建築に関わる役人は,当然今のマンション市場がある種の架空の基礎の上に成り立っていることは百も承知しているはずである.そうしたことから,建築物の安全基準などは「所詮は砂上に立つものの基準」ということになる.

が,しかし,この「幻の市場」の恩恵には自分たちも浴すべきであるとしたのが,建築基準法の出鱈目な改「正」であり,一級建築士の濫造であり,天下り先の確保のための「官」から「民」への緩和であった.最後にあえて言うなら,庶民の「持ち家志向」も「ほころび」であると私は考えている.
最初の参考人招致の折公明党高木氏が,居並ぶ参考人たちに対し,「あなたにも責任がある,あなたにも責任がある,そしてあなたにも責任がある」と述べていたことを思い出させます.宮崎氏は銀行に責任がある,役人にも責任がある,そして庶民にも責任があると言っています.

「ワルの本丸に鋭く斬り込む!」「この国は国家的責任を果たしてどのように償うのか!」という帯びに書かれたコピーと対比した時,意外にも,実になまぬるい「はじめに」です.本丸に斬り込む武器は,結局そもそも官から民へが問題だという錆び刀しかないようです.


氏は実にいろんなことを語っています.中には傾聴すべきものもあります.「耐震強度偽装問題の幕引きは誰だ!」「あのロッキード事件の茶番劇と全く同じ構図が見えてくる」「司直の手に委ねるということは闇に葬られるということと同義語なのだ」「司法の手に委ねることによって,問題の全体像が明らかになったことなど,この国には一度としてなかった」そして「アメリカなどでは関係者全員を呼び出して,聴聞会を毎日開いて,ああだこうだと永い期間やっている」

事件発覚後,わずか1ヶ月あまりの時点で,自民党議員M,売れっ子弁護士Hが「司直の手に委ねるべきだ」とテレビ番組で言い始めたことはその時点で書いたとおりです.大きな問題が起こった時,聴聞会を毎日開いて「ああだこうだと」しつこく真相を追究するアメリカと比べたとき,その違いはあまりにも明らかです.


「アウトロー作家」を標榜する氏は,世間から「悪の権化」のごとく叩かれているヒューザー小嶋社長の肩を持ちます,たとえば次のように(同書185頁).
いろいろ取材していくと,国交省の責任は絶対に免れない.小嶋が仮に100悪いとするとしたら,国交省は500ぐらいかもしれない.捜査のメスが,なぜそこに向かわないのか.小嶋氏逮捕で,幕引きされるのではたまったものではない.
小嶋が100悪いとすれば国交省は500悪いと言っているのですから,宮崎氏は国交省こそワルの本丸だと主張しているようにみえます.


さてヒューザー小嶋社長はご存知のように,一貫して,すべて検査機関・地方自治体・国の責任であり私は被害者だと主張しています.「すべて」というのが完全な誤りです.その証拠は真下メモです.「10・27協議」において小嶋社長はいったいどう振舞ったか! 小嶋社長と宮崎氏の対談部分に次のような個所があります(同書21頁).
宮崎 地震が起こったときに発表すればいいじゃないか,と小嶋さんが言ったという人がいますが.

小嶋 言ってないですね.「それだったら,殺人マンションの販売会社の社長になってしまう」と,自らマスコミに言ったくらいですから.
ここは証人喚問時に最大の焦点になった個所です.嘘を言えば偽証罪が科せられる証人喚問の場で,小嶋社長はいったんは「言ってない」と明言しながら,あとでそれを翻しました.小嶋社長は,真下メモにあるとおり,公表を迫るイーホームズに対してはっきりそう言ったのです.心情的には殺人未遂罪です.

小嶋社長の首根っこを押さえつけているのは明らかに真下メモです.小嶋氏の肩をもつ宮崎氏は「10・27協議」における小嶋社長の言動をいったいどう説明しているのでしょうか.

驚くべきことに,宮崎氏は「10・27協議」を完全に無視しているのです.いかにして無視することが可能か.実に驚くべきことに,宮崎氏は事件経緯を,「ワルの本丸」である筈の国交省の公式資料だけ参照して記述しているのです.

イーホームズ・ヒューザー間の白熱したやりとり,宮崎氏に言わせれば「醜い責任の擦り付け合い」(同書54頁)に関し,国交省はわれ関せずの態度を取りました.したがって国交省側の公式資料に「10・27協議」の内容が一切記載されていないのは当然といえば当然です.国交省文書は,真下メモの内容に一切触れていないが故に,小嶋氏を擁護する宮崎氏にとって非常に都合がよいのです.


さて小嶋社長は宮崎氏との対談の中で次のように述べています(同書32頁).ここは見逃すわけにはいきません.
小嶋 (略)イーホームズの藤田社長のメールの件ですが,彼は嘘つきの名人っていうか,嘘八百もんですね.われわれの何10億というプロジェクトを審査するのに,100万か150万の(建築確認用)ソフト代をケチって再計算しなかった.

宮崎 たしかに,イーホームズの藤田は臭いと思います.この事件のある面でのキーマンではないでしょうか.国交省と利益がぴったり一致している.
偽装を見抜けなかったのは再計算しなかったからだと小嶋社長が認識している点にご注意ください.この点では,検査機関の検査員はマヌケぞろいだと主張した一部の専門家たちよりずっとマシです.

惜しむらくは,再計算しなかった理由をソフト代をケチった為という,低次元な理由にしたことです.イーホームズが再計算しなかったのは,再計算せよというルールがなかったからです.旧建設省が定めた検査手順は再計算を要求していないのです.ほとんどの(すべてかもしれません)検査機関はソフトを持っていなかったのです(最大手日本ERIすらソフトを持っていなかったことをNHK報道で知った時,正直私はちょっと驚きました).

これに対する宮崎氏の反応をご覧下さい.イーホームズの藤田社長が臭い,国交省と利益が一致している,などと言っています.

国交省の出した尻尾が,現にそこに紛れもなく出ているのに,宮崎氏は見逃しています.ちなみに再計算という言葉は上記以外,この本には一切出てきません.

「ワルの本丸に鋭く斬り込む」道は,再計算の道以外にはありません.そもそも官から民へが誤っていたのだなどとネボケタことをいくら言っても,あるいは「ザル検査だ,ザルシステムだ」と一般論をいくら声高に叫んでも,「ワルの本丸」は痛くも痒くもないでしょう.それどころかもっとやれと思っているでしょう.なぜならそれによって焦点がぼけることは,「ワルの本丸」にとって大歓迎だからです.



少し補足しますが,宮崎氏はイーホームズが関与した「10・25協議」「10・27協議」こそ黙殺しましたが,ERIが絡んでいる「3・8協議」には後述するようにそれなりに触れています(同書46頁).つまりERIの隠ぺい疑惑まで黙殺しているわけではありません.

もう一つ補足しておきますと,宮崎氏は藤田社長を全面的に貶しているわけではありません.たとえば(同書126頁)
ザル検査,ザルシステムの実態については,イーホームズの藤田社長も,ヒューザーの小嶋社長も,当初から,一貫して叫んでいるところだ.国交省は,彼らに指摘されるまでもなく,そのことはとっくに承知していたはずだ.だからこそ,彼ら二人を敵対する立場に追いやり,問題の核心をそらそうとしたのではないか.
なるほど関係者の中で国交省に対して異議申し立ての姿勢をとったのはこの二人であることは確かです.日本ERI鈴木社長など,国の制度不備は一言も言わず,担当者に罪を着せて隠ぺい疑惑から逃げ切りました.

宮崎氏は「いっしょくた」にしていますが,藤田社長と小嶋社長はまったく違います.

藤田社長は制度の不備を,一般論ではなく,具体的かつ論理的に公けの場で主張しました(ただ少しおかしなことも言っていることは既に指摘したとおりです).一方不規則発言で国交省をどなりつけた小嶋社長は,肝心要の証人喚問の場で,具体的なことは一言も言いませんでした.これが両者の違いです.藤田氏が告発者すなわち「公益通報者」(後述)だったのに対し,小嶋氏にそんな気持ちはさらさらなかったということです.(ちなみに宮崎氏は小嶋社長がだんまりを通したことを「ある意味では見事だった」と評価しています.同書94頁)


宮崎氏の立場は,宮崎氏が「告発」というものをどう考えているかを知れば,鮮明になります.

国交省文書によると05年10月7日(金)に「関係者と名乗る者から,イーホームズは建築基準法において備え付けることを義務付けている帳簿を備え付けていない旨の電話」があり,10月24日に国交省はイーホームズに立ち入り検査します.その結果は「監督処分事由に該当する帳簿の不備を発見し,確認書を取った」ことで終わります.単なる帳簿の不備の確認です.この立ち入り検査が「10・25協議」の前日です.

宮崎氏は10月7日の国交省への匿名電話を次のように複数箇所で引用しています.

2005年10月7日,国交省への匿名のタレコミがすべての始まり(同書46頁の見だし)

問題の発端は,イーホームズの文書管理の不備を指摘したとされるタレ込みだったが,これにいちばんドキッとしたのは,ほかならぬ国交省だったかもしれない.いよいよ来たか,とうとうザル法,ザルシステムが明らかにされてしまうのか,と.(同書127頁)

今回の問題のそもそもの発端は,国交省への関係者を名乗る者からの告発だった.その告発はどういった経緯からなされたのか.非常に興味あるところだ.(同書78頁)
宮崎氏がこの匿名電話を重視していることがわかります.そして宮崎氏はタレコミと告発を「いっしょくた」にしていることがわかります(後述).宮崎氏は匿名電話に関して次のような説を紹介しています.

「今回の事態をひそかに知ったある総会屋が,姉歯氏の身柄を抑えて偽装の真相をしゃべらせ,その情報をもとに,ヒューザーと民間検査機関の日本ERIを恐喝しようとしたが,いずれにも断られたのでバラしてしまったという説だ.たしかに日本ERIには,総会屋につけ込まれるような“過去”がある.」(同書79頁)

一見するとなかなか手の込んだ説で,旭化成K文書を分析した私としては,食指が動きます.

総会屋が事態を知りえたのは,発覚の1年以上前の「3・8協議」以降,「業界内では知る人ぞ知るの“姉歯偽装”」(同書47頁)だったからだとしましょう.そして総会屋がヒューザーとERIを恐喝したとしましょう.さてヒューザーはともかくERIが脅しをはねつけたということが果たしてあり得るのか.ERIの隠ぺい体質から考えて,99.99%の確率でERIは脅しに屈し金でかたをつけたでしょう.

100歩譲って,ERIが断固脅しをはねつけたとしましょう.総会屋は,その腹いせにどうして国交省にタレコム必要があるのか.それもERIではなくイーホームズをターゲットに.金目当ての総会屋が貴重な「情報」を,ビタ一文にもならない国交省へのタレコミでバラす筈などあり得ないことです.週刊誌に持ち込めば,超スクープに見合う情報料をゲットできるのは確実ではありませんか.

「総会屋腹いせ説」が根も葉もないガセであることはこのようにちょっと考えればわかります.しかし宮崎氏は「姉歯愉快犯説」とあわせて,「以上,二説,今の段階ではどっちもありかな,と言うほかない」(同書81頁)などと述べています.


宮崎氏は「さらに不可解なこと」を次のように述べています(同書54頁).
さらに不可解なことがある.10月24日に,イーホームズの立ち入り検査を行い,匿名の電話の主が指摘したように,帳簿の不備を確認し,かつ,翌日にイーホームズから報告を受けているにもかかわらず,その後の対応はあまりに鈍く,事態の公表は翌月の17日と,1ヶ月近くを要しているのだ.なんとも,不自然,かつ,怠慢とも思えるような対応だ.
二つの異質なことがらが,「かつ」によって結合しています.10月7日の匿名電話を受けて国交省は10月24日にイーホームズに立ち入り検査しました.しかし11月17日の国交省発表に繋がるような成果は何一つ挙げることができませんでした.タレコミの結末は10月24日に完結しているのです.

翌日以降のイーホームズからの報告というのは,宮崎氏が黙殺した「10・25協議」「10・27協議」に関する藤田メールです.藤田メールは国交省を震撼させるような内容でした.国交省が蒼くなったのは,10月7日のタレコミなどではまったくなく,10月下旬の藤田メールです.

したがって国交省が全貌を掴みきれぬまま,11月17日に記者会見を開いて公表したのは異例の早さというべきです.なぜ公表を急いだのか.直前に伊藤元国土庁長官と小嶋社長が公表を遅らせろとプレッシャをかけてきたことに対して,国交省が危機感を抱いたためであることはほとんど確実だと思われます.

真下メモが一部報道機関に流れたのは,国交省発表より前に違いありません.イーホームズ側が,半ば自衛のため,報道機関に情報を流し,事態の隠ぺいはもはや不可能だ,早く公表せよと伊藤・小嶋コンビのプレッシャとは逆方向のプレッシャを国交省にかけていたのです.


宮崎氏は発表に至るまでの国交省の対応を「なんとも,不自然,かつ,怠慢とも思えるような対応だ」と述べ,他の個所では「今回の偽装問題を解く鍵は,先ずは監督官庁である国交省の初期対応の中味にこそあるはずだ」(同書61頁)と述べています.氏は国交省の初期対応を問題視しています.私の見方は逆です.


国交省の初期対応はそんなにおかしなものだったでしょうか.なるほど一番最初こそ民民の問題だから勝手にせよといったおかしな対応をしました(これに関して国交省はすでに謝罪).しかしそれ以後,11月17日の発表に至るまで,国交省はすじを通して行動したのではないでしょうか.もちろん藤田サイドからのプレッシャがあってこその話ですが,より根本的には隠ぺいするにはあまりにも深刻な問題であることを,国交省が正しく認識していたからではないでしょうか.

予算委員会での馬渕議員に対する国交省小川課長の答弁を見ていると,長身の課長にはなんとなく官僚らしからぬ骨太の雰囲気がありました.「知る人ぞ知るの姉歯偽装」が「知らぬ人のない姉歯偽装」に転化したのは,国交省が記者会見して事態を公表したからであることは間違いないところです.耐震偽装問題の底知れぬ拡がりを思えば,国交省が逸早く公表に踏み切ったのは大英断だったと評価すべきだと思われます.

アトラス設計渡辺氏がイーホームズ藤田社長を動かし,その藤田社長が今度は国交省を動かしました.小嶋社長からみれば,藤田社長と国交省がグルのように見えたのも無理からぬところです.

蛇足ながら一言補足します.私が国交省を評価しているのは宮崎氏が問題視した「初期対応」に関してだけです.その他の点に関して国交省を持ち上げる気は毛頭ありません.再発防止に関する国交省案を知って以後,この気持ちはさらに強くなりました.この点だけは,くれぐれもお間違えのないように.


10月7日の匿名電話はイーホームズに敵対する側のいやがらせにすぎないと思われます.いずれにせよ,10月7日のタレコミ電話は本筋に関係のないどうでもいい話です.宮崎氏がそれに固執するのは,国交省を震撼させた藤田メールから目を逸らせるためです.

国交省へのタレコミがすべての始まりではなく,国交省への藤田告発メールがすべての始まりです.



ここまで書いていた時,『公益通報者保護法を見直せ』と題する内部告発に関する投稿記事が目にとまりました(朝日新聞06年3月25日付け朝刊).筆者は(会社員)串岡弘昭氏です.記事は次のように始まります.

私は,トラック業界の闇カルテルをメディアに内部告発したため30年余,企業内で昇格を見送られ,言葉に尽くせないほどの屈辱と不利益を受けた.02年に勇を鼓して提訴,今年2月に高裁控訴審で会社と和解した.その経験から内部告発者を守るとされる公益通報者保護法(4月1日施行)の問題点を指摘したい.
続いて
この法律は通報先に順番を決めている.まず不正や違法行為が起きている事業者,つぎに所轄の行政機関,それでも改善されなければ新聞などメディアに通報していい,という.
まず事業者に通報せよという事に関し,氏は次のように述べています.
問題を自由に指摘できる社風なら「不正の通報」など必要ない.関係者が知りながら,見てみないふりをする組織だから不正・違法行為が起こるのである.
そのとおり!続いて
この法律がおかしいのは,訴えるには危険すぎるところに,真っ先に通報することを義務づけていることだ.告発しようとしている者が通報先を自ら決められないのでは公益通報者保護の名に値しない.
そのとおり!通報された事業者が証拠隠滅に走るのは確実ではありませんか,かった旭化成が「打合せ記録書」の偽造に走ったように(『塗料すりかえ事件』参照).続いて
次は行政機関への通報だが,どこまで信頼できるだろうか.天下りや官製談合などを例に引くまでもなく,業界と役所には密接な関係がある.02年に明らかになった東京電力の原発ひび割れ事故も,米企業の技術者が旧通産省に通報してから2年あまりたっていた.その間,東京電力は最後まで隠し通そうとしていた.

行政機関が重い腰を上げるのは,国民世論が厳しい視線を投げかけている時である.通報が役所に止まっている限りその対応が不十分に終わる可能性が強い.
そのとおり! 国交省が昨年末,やれ検査機関の一斉立ち入り検査とか,やれ構造計算ソフトの一斉調査とか,さも活動しているかのようにデモしたのは「国民世論が厳しい視線を投げかけている」時だったからです.二重基準問題まで露見してしまった現在,国交省はいったいなにをしているのでしょうか.


串岡氏は報道機関への通報の意味について次のように述べています.ここは大切なところです.
行政機関に内部通報するなら,同時に外部のマスコミなどへの通報を併用することが必要である.内部告発するものがメディアに訴えるのは,不正や違法があることを社会に知ってもらいたいからだ.公開の場に出ることが不正をただす早道であり,自分を守ることにもなる.企業内部や裏での交渉は強い者が有利だ.
イーホームズ藤田社長はまさにこのとおりのことを実践したのです.そして国交省官僚も,ある意味でこれを実践したのです.官僚と与党有力政治家の力関係を考えた時,どちらが「強い者」であるか明らかです.伊藤元国土庁長官と密室で対峙した国交省住宅局長ははたして何を思ったか.


串岡氏はこの法律の本質を次のようにまとめています.
私は,この法律は内部告発を密告と考える人,内部告発は企業を滅ぼすと考える人などの意見が反映されたものだと思う.事業者が優先されているのだ.
西宮冷蔵の水谷洋一氏が,この法律を「内部告発者規制法」だと批判しているのはもっともな話だと思われます.内部告発されたら困る側が作った欠陥法律としかいいようがありません.



内部告発したことによって30年余にわたり「言葉で尽くせないほどの屈辱と不利益を受けた」方の重い言葉をしっかりと受け止めた上で,ここで改めて宮崎学氏が告発というものをどう考えているか見ていきましょう(同書152頁).節のタイトルは「資本主義社会上のシステムは,その欠陥にこそウマみが生じる」というものです.宮崎氏は語ります.

今回の事件は,いわゆるタレこみに発端があった.このような内部告発という行為にも,ある種の意味はあるだろうが,それによって,社会や組織のあり方が変わるきっかけになるかというと,私は疑問だ.たいていの内部告発は,ある対象に向けての個人的恨み,つらみなどをぶちまけて,単発で終わってしまうからだ.
たとえば,型枠などのコンクリート打ちをやっている職人が,「この建物のコンクリートは水が混ざっていてヤバイ」と外部に内部告発したとする.するとマスコミなどは,彼は職を賭して会社のウミを暴いたなどと,美談に仕立てる.しかし,その種の内部告発は,ほとんどが社会的正義などに基づくようなご立派な告発などではない.動機的には,当人がその現場で損をしたか,得をしたかによるものだ.現場でとんでもない嫌がらせを受けたとか,さんざんこき使われたあげくクビにされたので,その腹いせにやったというような,なんらかの形で利害関係を背景とした内部告発にならざるを得ない.それは,内部告発などではない.単なる鬱憤晴らしにすぎないのである.
ある現場でシャブコンを打つという違反行為がなされ,それを目にしても,自分がその儲けのおこぼれに預かれるのであれば,人間の心理として,さらには損得勘定として,見ざる,言わざる,聞かざるでもって,黙っているに決まっている.社会正義のために,わざわざシャブコンの内部告発など自分からすすんでやる者がいるだろうか.
逆にいうと,社会正義に基づく内部告発がたくさんあるほうが,よほどおかしい.「おまえ社会正義やりたかったら,どこかのボランティアでもやってろよ,土方工事なんかするんじゃねぇよ」という理屈の方が,はるかにわかりやすい.とりわけ,建設,建築業界などでは,社会正義に基づく内部告発など,発生する可能性は限りなくゼロに近いだろう.宮崎家は父の代から建築関係の仕事をしているから,私など,建築業界ほどいい加減なところはないと,とうの昔から知っている.
ご感想はいかがでしょうか.宮崎氏のホンネがストレートに出ています.ここはおそらく一気に書かれた文だと思われます.

宮崎氏が告発とタレコミ(=密告=チクリ)を「いっしょくたに」議論して,告発行為を貶めようとしていることは明々白々です.これはまさに宮崎氏が告発されたら困る側の味方であることを示すものです.「てめえ正義漢ぶりやがって.いったい何様のつもりだ」と藤田社長をののしった(ニュアンスは違うかもしれませんが)小嶋氏と,宮崎氏は同じ穴のムジナなのです.

宮崎氏の文には,社会正義という言葉が乱発されています.5箇所で叩き売りされています.その使い方の典型例が「社会的正義などに基づくようなご立派な告発」です.「告発」ではなく「ご立派な告発」です.社会正義も告発も宮崎氏からみれば揶揄,からかいの対象でしかありません.一方本物の内部告発者である串岡氏はたんたんと語ります.
公正な社会建設に,内部告発が重要であり,告発者を保護する風土を築かなければならないことは一般的な理解を得た.だが,法律制定の過程が拙速であり,内容に問題あることは弁護士などからも指摘がでている.暴走する企業に警報する人がいなくなれば公益は守られず,この法律では公益通報者は守られない.
社会正義を大上段に振りかざすような言い方では全くありません.告発内容を公正な第三者がみれば,告発がなんのためのものであり,なにが正義でなにが公益に資するか,自ずから明らかだから,社会正義を振りかざす必要はないのです.

宮崎氏はアトラス設計渡辺朋幸代表について次のように触れています.
2005年12月19日の衆院国土交通委員会の参考人質疑で,(平成設計の元社員)徳永氏は「(資料を)見たか記憶はないが,渡辺氏が構造について姉歯氏に間違いを指摘していた.結構,大きな声だった」と述べている(同書47頁).

渡辺代表は日本ERIに,姉葉元建築士の設計は杜撰だから,調べなおすよう勧めている.しかし同社はその真偽を確認しないまま,偽造を見逃したのだ.もしこの時点で,同社がきちんと精査していれば,それ以後の姉歯偽造物件は生まれていなかったかもしれない(同書79頁).
かもしれない…だって.かもしれないではなく,ERIが事態を公表していれば,以降の姉歯偽造物件が生まれなかったのは100%確実ではありませんか.

宮崎氏は「3・8協議」に関してだけ渡辺氏を引用しています.しかし渡辺氏がヒューザー物件に関してもキーマンであったことはご存知のとおりです.藤田社長は渡辺代表の一喝によって目がさめたのです(ニュアンスは違うかもしれませんが).

宮崎氏は,横浜の設計事務所の渡辺という人がこれこれのことをしたという形でしか渡辺氏に触れていません.つまり渡辺氏に関する評価を避けているのです.なぜか.渡辺氏がいかなる立場でどのように事件に関わったかを評価すれば,さきほどの宮崎氏の告発=タレコミ論が根底から崩れ去ることが目に見えているからです.

アトラス設計渡辺代表がとった行動は,業界内の不正を同じ業界で働く人が告発したという意味でまぎれもなく内部からの告発です.彼こそ告発者であり,「公益通報者」です.そして彼と協力者藤田社長の力によって国交省が重い腰をあげざるをえなくなったのです.山は動いたのです.



宮崎氏の本の最終章は「国交省とイーホームズは共同歩調?」というタイトルで,宮崎氏と民主党長妻昭議員の対談となっています.対談の最後の言葉,つまりこの本全体の最後の言葉は次の長妻議員の言葉です.
長妻 きちんと捜査がなされ,政・官・財の癒着がきちっと明らかにされると,偽装に対する防止策などもガラッと変わってくると思います.
当局の捜査の焦点は詐欺罪の立件にあると思われます.しかし小嶋社長が詐欺罪に問われようが,問われまいが,それと,偽装に対する防止策がいったいどう関係するというのでしょうか.だいいち,まさに宮崎氏も言っているように,<政・官・財の癒着>といった全体像が,司直の手によって解明されたことが,日本でかってあったのでしょうか.

時期が時期だけに,誠実そうな長妻議員に対するこれ以上の苦言は,控えておくことにします.



3月31日(金),朝日新聞は報じました.
耐震強度偽装事件の再発防止に向けて,政府は31日午前,建築確認の審査の厳格化や強度偽装に対する懲役刑の導入などを盛り込んだ建築基準法や建築士法など4法の改正案を閣議決定した.同日中に国会に提出する.大幅改正となる両法は6月18日までの会期中の成立,1年後の施行をめざして,5月の連休明けから本格的な審議に入る見通しだ.
翌4月1日の朝日・日経・毎日の社説は,3社とも民主党前原氏辞任と耐震偽装の再発防止案に関するものでした.

金曜日の辞任会見で前原氏が何度か口にしたように,政治家は結果責任をとらなければなりません.前原氏の地元後援会会長が言ったように,「辞任は仕方ない.彼にはこれからなんぼでもチャンスがある」と,私も思います.また荒川かと言われるかもしれませんが,荒川だって8年前の長野五輪の挫折があってこそ,トリノで大輪の花を咲かせることができたのです.

政治家だけでなく企業トップも,結果責任が問われます.そして私は官僚のトップもそうあるべきと考えます.旧建設省の住宅局長の責任に言及する際,私は必ず「結果として」をつけておきました.オガワ氏の定めた検査手順は,手計算時代の構造計算に引きずられた,「結果として」欠陥検査手順でした.その結果責任は極めて重大です.

国が「行政責任」というインチキな責任ではなく,きちんと責任をとれば,被害者(もちろん潜在被害者を含めて)に対する「賠償額」は確実に1桁増えます.一私企業にすぎない松下電器が,誤解をおそれず書くと,たかが20年前の欠陥石油温風器対策に関して,100億もの金を投入したと言われていることを考えれば,国に明らかな責任があるこれだけ深刻な事態に対して,「公的支援」なるインチキな金はあまりにも少なすぎます.


耐震偽装の再発防止案に関する各社の社説を読んで気づいた点を二つ.

上で述べたように先日,朝日新聞は1面と2面にわたって,「新計算法」の問題点をスクープしました.この二重基準問題は極めて深刻な問題だと思われます.日経社説は
構造計算の方法次第で建物の強度の数値が大きく変わることも明らかになっただけに,審査方法について国土交通省は明確な指針を示すべきだ.
と国交省案を批判し,毎日の社説は
そもそも建物の安全についての考え方も,統一されていないようだ.姉歯元建築士が設計し,耐震基準を下回るため補強が必要とされた東京・新宿のマンションが,別の計算法で計算したら基準を満たしていたと伝えられた.複数の計算法が認められ,その整合に明確なルールがない現状では,安全検査すらスムーズには進まない.
と問題点を指摘しています.ところが朝日社説はこの二重基準問題には一言も触れていないのです.この社説を書いた人は自社の記者の書いたスクープ記事の重要性がわかっていないと思われます.しかしこのマヌケな社説が,私にとって,非常に有益でした.次のような一節があります.
高さ20メートル以上の建物の構造設計は,自治体や民間検査機関のチェックに加えて,第三者機関で専門家の審査を受けるよう義務付けた.建築士の団体がかねて強く求めていた制度である.
業界団体がかねてより強く要求していた制度を国はようやく取り入れようとしているという意味で国交省案を肯定的に評価しています.ちなみに朝日社説のタイトルは「この案で安心できぬ」というもので,国交省案に一定の意味を認めていることは明らかです.(せめて「この案では安心できぬ」であるべきでしょう.)


朝日社説のこの一節を読んで,私は「そうか,第三者機関というのは,建築士団体がかねてより強く要求していたものだったのだ.あ〜あ,そういうことだったのか」と思いました.構造設計士の団体の会長や,構造設計を専門とする建築士が,なぜ,「検査機関の検査員はすべてマヌケである」というとんでもない暴論を展開したのか,はっきりわかったと思いました.「第三者機関」の正体がわかったと思いました.



いくつかの自治体で,「念のため外部の専門家に調べてもらったところ偽装が発覚した」ということがありました.また最近では愛知県で定期的に「外部の専門家」を呼んで指導をうけているというのがありました.ここでいう「外部の専門家」というのは具体的に誰を指すのでしょうか.学識経験者などではなく,日常的に構造計算を行っている設計事務所の建築士であることは明らかです.

建築主事たちは,机上審査のレビューを「外部の専門家」に依頼したわけではありません.自分達がこれまでやったことがない再計算を設計事務所に依頼したのです.机上審査に限っていえば,オガワ氏の定めた審査手順におおきな穴があった筈がありません.建築学会会長は第三者機関の業務を審査・再計算と説明しましたが,審査の方には実体がなく,再計算を行う機関だったのです.

事件発覚以前であれば,どこの検査機関も再計算していなかったのですから,再計算を行う第三者機関は,まさに上記「外部の専門家」が果たした役割を果たすことができたでしょう.しかし事件発覚後はどうか.ほとんどの民間検査機関は,自衛のため,すでに再計算を実施していると思われます.自治体もかなりの数の自治体が再計算実施を決めています.だとすれば,屋上に屋を架す第三者機関はなんの為の存在か.天下り先確保のため?「建築士の団体」の権益拡大のため?


そもそも「建築士の団体」は,かねてより,なぜ,第三者機関の設置を要求していたのでしょうか.

「建築士の団体」というのが,普通の人より,今回事件の不正現場に近いところに居た人の集合であることは明らかです.計算書偽装に関して少なくともウワサ程度は知っていたでしょうし,検査機関が不正を見逃している原因が,再計算していないからだということも,正しく認識していたと思われます.さてここから先の行動が「公益通報者」と「私益追及者」を分かつ分岐点でした.

「建築士の団体」は国に対して,制度に問題があると「告発」することなく,「第三者機関の設置」を強く要求したのです.

宮崎学氏が告発=タレコミ論を展開した節のタイトルは,「資本主義社会上のシステムは,その欠陥にこそウマみが生じる」というものでした.「建築士の団体」にとって,再計算が制度化されていないという「欠陥にこそウマみ」があったのです.



姉歯事件において「構造の専門家」たちがとった言動はいかがわしいものでした.かれらがこの機とばかり権益を拡大しようとした行為は,同時に国の責任を隠ぺいするという役割を果たしました.

かれらが果たした役割がいかに効果的であったかは,朝日新聞4月1日付けのマヌケな社説をみれば十分わかります.社説を書くような人でさえ,耐震偽装問題の核心がまったくわかっていないのです.


(以上06年4月2日昼,昨晩の教育テレビは録画はしましたがまだ見ていません.)




06年04月13日 建築基準法の穴



4月4日行きつけの書店の建築雑誌コーナーで,「耐震偽装建築は倒壊するのか」という<刺激的コピー>が目に入りました.建築雑誌を買ったのは何年ぶりでしょうか.家を建てる前プラニングしていた時になにか買った記憶がありますから,もう16年以上前のことです.

『建築知識』(06年4月号)の「総力特集:耐震偽装建築は倒壊するのか」はたいへん参考になりました.「マスコミ報道では知られざる真実」というのもウソではありませんでした.

特集記事は次のような人が執筆しています.その多くは60歳以上の方で立場は見事に分散しています.

・建築基準法の改正案の審議に参画した日本建築士会連合会理事
・建築確認業務に長年従事した元都庁専門副理事(構造担当),現東京建築検査機構部長
・構造設計者(SDGに勤務後,JSD設立)
・建設省OB,住宅生産性研究会(HIPCM)理事長
・芸術院会員で日本景観学会会長の建築家,

建設省OBの記事がもっとも「おもしろい」ものでしたが,その前に3月6日東京で開かれたシンポジウムの話から.

シンポジウム「耐震偽装事件に何を問うべきか−本当の黒幕は誰だ−」(耐震工学研究会主催)の概要が特集記事の中で紹介されています.「ディスカッションでは構造の専門家だけでなく一般の参加者からも多くの質疑が出され」,構造計算ソフトメーカーの技術者から次のような意見が出ています.
「偽装を見逃してはいけないが,行政庁・民間ともに確認検査機関では構造を審査できない.それを簡単に行うには再度計算データを流すことである.これは頭を使わない,最も簡単で確実な方法で,確認制度に不安をもつ国民も納得することができる
パチパチ!これに対しパネラーの一人である多田英之氏(日本免震研究センター)が意見を述べました.
それに対して多田氏は「認定プログラムは技術の進歩をゆがめ,行政が建築に対して力をもつための道具になっている」と反論した.
これは反論になっていません.認定プログラム制度の問題に話がすりかわっています.ちなみに多田氏は基調講演の中で次のような考えを披瀝しています.
一貫構造計算プログラム(認定プログラム)の普及が,設計者の能力を低下させ,姉歯元建築士のような計算屋を生み出した
ずいぶんと時代錯誤な御意見です.計算ソフトのおかげで「設計者の能力」は低下どころか,倍増している筈ではありませんか.計算というルーティンワークに時間をとられることなく,クリエイティブなことができる筈ではありませんか.


パネラーの一人渡辺邦夫氏(構造設計集団SDG)は多くの偽装物件は補強で対処可能だと考えておられるようです.ではなぜ誰もそう発言しないのかという質問に対し,渡辺氏は次のように答えています.
「補強する技術は十分にある.しかし構造設計者個人が補強できますと発言しても声が届かない.建築学会やJSCAなどの団体が発言すれば影響力はあるが,彼らは国と喧嘩したくないので手を挙げないだけ
建設業界に,国に対してきちんとものがいえる,御用団体でない団体が,はたして存在するのでしょうか.


シンポジウムに関してもう一点.前に熊本県の「銀髪紳士」に言及しましたが,氏は中山構造研究所代表の中山英明氏という方で,シンポジウムで経緯を報告し熊本県側の対応を批判しています(同誌87頁もこの問題に触れています).県建築士事務所協会が行った再計算において鉄筋の径,本数などに入力ミスがあったようです.この件は国交省預かりとなり,同省の違反是正計画支援委員会で再調査されています.



特集記事の本文に入りましょう.建設省OBでHIPCM理事長の戸谷英世氏という人が,「国交省の安全基準,耐震強度とは何か」という一文を寄せています.(「またまた帰ってきた!」とタイトルにありますから,常連執筆者なのでしょう.)

戸谷氏の論説は,後半部が重要ですが,まず前半部から.

建築基準法が定める耐震強度の基準は
Qu/Qun
が1以上です.耐震強度0.5と報道されているものは,この値が0.5であるわけです.ここでQuは保有水平耐力,Qunは必要保有水平耐力と呼ばれるもので,後者は「施行令82条の4」で次のように定められています.
Qun=Ds・Fes・Qud
ここでDsは各階の構造特性を表す係数で(0.25〜0.50),Fesは各階の形状特性を表す係数で(1.0〜3.0)となっています.これに関して戸谷氏は次のように述べています.
このDs・Fesの数値の裁量幅は0.25〜1.5(掛け算ですからこうなります:引用者注)と極めて大きく,構造設計者個人の判断に大きく左右される部分である.
分母がこれだけ変化すれば耐震強度もこれだけ(最大は最小の6倍)変化することになります.「設計者個人の判断」の「裁量幅」が,こんなに広いのなら,そもそも姉歯元建築士は偽装という違法行為をする必要はないと思われます.この点に関して,元都庁専門副理事(構造担当)で現東京建築検査機構部長の春原匡利氏は次のように述べています(同誌93頁).
耐震強度指標値(Qu/Qun)の分母(Qun)は,政令で定められた式で計算する比較的変動の少ない数値であるのに対し,分子(Qu)は動く.そもそもQuの数値は,壁の剛性評価,モデルの設定条件や最終的な安全の確認でかなり動くものである.
戸谷氏はきっと『建築知識』の読者をなめているのでしょう.

さて戸谷氏論説の問題の後半部です.戸谷氏は,国交省が「10月28日の事件発覚以降,わずか2ヶ月余りで,800棟を超す耐震偽装マンションを再検討し,その耐震強度評価を仕上げた」と国交省の対応を持ち上げた後,次のように述べています.
それほど短期間にできた耐震強度判定を,確認検査機関である日本ERIやイーホームズが通常の確認でなぜ行わなかったのか.
イーホームズのあとに,<XXやYYやZZといったあれやこれやの検査機関も>という言葉があるものとして下さい.偽装が見抜けなかったのは2社に限りません.それどころか「通常の確認」によって偽装を発見した検査機関は,官,民問わず,日本でひとつもないのです.アトラス設計渡辺氏は「通常の確認」とは全く違うアプローチで見抜いたのです.

この疑問がもっとも根本的でかつ重大な疑問です.私の答えは何度も示しました.戸谷氏の答えをみていきましょう.
今回の耐震偽装事件は,建築行政法規が機能を果たさなかったことによって発生した.日本ERIやイーホームズのような建築確認検査機関や平塚市の建築主事などは,すべての工事は工事契約上の設計図書にもとづいて実施されるので,その設計図書が建築関係規定に適合するという確認が工事検査上必要とされているにもかかわらず,それをまったくやっておらず,事実上法律の求めている工事検査はまったくやられていない.

それにもかかわらず,これらの確認検査機関や行政機関は,耐震偽装の違反建築物を数百棟見逃しながら,異口同音に「確認事務は適正に行われた」と公然と国会証人喚問の場で答えている.
前段はどうやら中間検査,完了検査をまったくやっていないと主張しているようです.計算書偽装を見逃した話と,中間検査・完了検査をどれだけきちんとやっているかは,本来関係のない話です.なぜなら後者は設計図書が正しいとして,そのとおり施工されているかを検査するものだからです.(この点を素人が誤解しやすいのはよくわかりますが,後述するETV特集で「構造設計家」まで中間検査をきちんとやっていれば偽装は見抜けた筈だと発言しているのにはビックリしました.)

さて何が怠慢だったかは別にして,検査機関はすべて怠慢だった,それが原因で偽装を見逃したというのが戸谷氏の主張です.続いて氏は主張します.
施行令82条の4の耐震強度の判定は,構造設計の結果から安全性を確認するものであり,その作業自体は手順と操作性のバラツキがなくなるようにすれば,簡単にやれるはずである.
「耐震強度の判定」は「簡単にやれるはずだ」と主張しています.しかし能力がないと無理かもしれないと戸谷氏は自問し次のように補足します.
確認検査能力がない場合でも,ほかにも構造安全チェックのやり方にはいろいろある.耐震偽装の目的は,建設コストの引下げ,つまり材料と労務の数量を減らすことであるから,使用数量が著しく少ない設計には,構造計算上の間違いか偽装があるという推測が成り立つ.
続く部分で具体案を述べています.それは要するに鉄筋量などが「過去の実績」を集積した統計データの「標準偏差以内」に収まっているかチェックする,納まっていない場合は,「疑問を持って調べる」という,平凡な方法です.そんな平凡な「推測手段」は法が定める検査手順には存在しないことにご注意.


戸谷氏の主張は,日本建築学会の前副会長の和田東工大教授,日本建築構造技術者協会の大越会長,構造設計家今川憲英氏,1級建築士の自民党W議員,そして姉歯元建築士などの主張と同じグループに属しています.

このグループの人たちは,一言でいうと,「構造のプロ」なら「図面で一目瞭然の言語道断設計」を,検査機関は見逃したと主張しています.つまりこの人たちは,検査官たちが構造設計を熟知していないから見逃した,あるいは,怠慢でするべきことを何もしていないから見逃したと,主張しているのです.

この意見を検査官無能説と呼んでおきます.無能と怠慢は外見では区別し難いものがありますから,無能の中に怠慢も含んでおきます.

検査官無能説を主張している人の大半は「構造のプロ」です.それはそうです.素人がいくら内心では検査官はマヌケぞろいだと思っていても,(1級建築士+アルファ)の国家資格を持つ検査官に対して公然とマヌケだと主張するのは難しいものがあります.しかし検査官無能説が素人受けするのは確かです.藤田社長が頑固に「確認事務は適正に行われた」と主張すればするほど「おまえ,偽装を見逃しておいて何言うてるんや,責任逃れもいい加減にせい」と言いたくもなるからです.


さてしかし,「構造のプロ」が主張する検査官無能説はちょっとおかしいのではないか,ということが素人目にもはっきりしてきます.

検査官たちがそろいもそろって怠け者だったしましょう.それならば,国交省が大勢の職員を動員して行った一斉立ち入り調査で,成果が何もあがっていなのはどうしてでしょうか.「証拠」がぎっしり詰まった何箱ものダンボール箱の中味を「精査」した結果,XXとYYとZZZは職務怠慢であることが判明した,よって業務停止とするという発表がどうして行われないのでしょうか.

また検査官たちが構造のアマだったから見ぬけなかったと仮にしましょう.民間検査機関の検査官たちは,(1級建築士+アルファ)の難しい検査官の国家資格保有者です.有資格者のスキルが例外なく問題であるということであれば,それは個人の問題ではなく,国家資格そのものに問題があることになります.つまり制度欠陥です.

なるほど発覚当初は誰もがイーホームズの(天下り)検査官はいい加減なことをしていると思いました.もっと信用ありそうにみえる業界最大手日本ERIの株価は急騰しました.ところが国会質疑でそのERIも過去に見逃していた(もっと悪いことにそれを隠していた)事が明らかになりました.そして自治体の建築主事たちも偽装を見逃していたことが次々と明らかになりました.


これだけ大勢の検査官たちが全部そろいもそろってスキル不足だあるいは怠慢だというのはどう考えてもおかしな話です.人が問題だったわけではなく,制度がおかしかった,検査手順を規定している法に問題があったと考える方がずっと合理的です.建築基準法がザルならば,それをまじめに(あるいは中にはふまじめに)適用している検査機関がザルになるのは当然の話です.すべての検査機関がザル機関であってもなんの不思議もないのです.

「構造のプロ」たちは,建築基準法に穴があることは口にしないで,穴を小さくする為のいろいろな「思いつき」を述べています.そのような「思いつき」は,検査官が法に則って行ってきた検査業務となんの関係もない話です.マスコミに登場する「構造のプロ」たちが,「思いつき」をいろいろ述べたてることは,検査官に濡れ衣を着せ,法に大きな穴があることを隠蔽する役割を果たします.そのことに気づいていない「構造のプロ」はまさに「専門バカ」なのです.

建築士の団体がかねてより主張していたという第三者機関というのは,現行法に大きな穴があることを指摘した上でそれを少しでも埋めるものとして提言していたのでしょうか.そんな筈は絶対にありえません.なぜなら現在も法に穴があると明言していないからです.彼らにとって,宮崎流にいうならば,穴(欠陥)にこそうまみがあるのです.




検査機関側が業務は適正に行ったと主張することは,とりもなおさず,国側に責任があると主張しているのと同じです.端的にいえば国に刃向かうことになります.

日本ERIは偽装を見逃した責任と隠ぺいした責任の二つの責任が問われています.隠蔽責任は今後も否定するでしょうが,前者は将来あっさり認めるような気がします.「偽装を見逃したのは事実である」とかなんとか理由をつけて.若貴問題で相続放棄したアニキに対して潔い態度だと拍手する人がいたくらいですから,さすがERIだと拍手する人も出てくるでしょう.前者は認め,後者は否定するということは,国の責任を隠蔽し,自社の隠蔽責任も隠蔽している最悪のパターンであることにご注意下さい.

イーホームズはどうか.あの北尾芳孝氏がCEOを務めるSBIホールディングは4月4日イーホームズの株式の49%を取得しました.取得価格は日経によると資本金(1億2600万)を下回っている模様です.北尾氏からみればゴミのような金です.SBIは不動産事業を行っていますから,イーホームズは「業界で唯一の独立系検査機関」ではなくなりました.「告発者」藤田氏や真下氏の身分は今後どうなるのでしょうか.

イーホームズはヒューザーから訴えられています.北尾氏は,いつまでも業務の正当性を主張して裁判闘争することは今後の商売にとって得策ではないと判断するでしょう.国に逆らうより,金ですむ話なら早くけりをつけるべしと考えるでしょう.この推測は外れることを祈ります.

地方自治体の建築主事たちはどう考えているでしょうか.たしか岐阜の建築主事は業務は適正に行ったとはっきり主張していました.インタビューをした(なにもわかっていない)レポーターは当然ながら「見逃しておいて何を言うてるんや」という反応を示していました.

性善説を最初に言い出したのはどこかの建築主事でした.性善説はあっというまに広まり誰も彼もが言い出しました.最近では建築学会会長も口にしたし,朝日社説にも登場しました(「「性善説」に基づく行政」だって!4月1日付社説). 建築主事にとって性善説というのはきわめて便利な言葉です.そう言っておけば,制度に問題があると国に刃向かうことを言わなくてすむし,怠慢だ,スキル不足だという批判からも免れることができるからです.

自治体で最後まですじを通すのは,東京都かもしれません.石原都知事は「ビタ一文払う必要はない」と発言しています.北側国交大臣が「地方と協議して」などと,弱腰なのは理が自治体側にあるからです.

偽装を見逃した責任は,民間検査機関や自治体にはなく,欠陥法を制定した国にあるのです.



建設省OB戸谷氏は,誰が責任をとるべきかに関して次のように述べています.
確認事務は建築基準関係法への適合を確認する業務として規定されているため,その内容確認に欠陥があったという事実に議論の余地はなく,建築主事または建築確認検査機関および特定行政庁の担当者にすべての責任があったという事実は否定できない.
ここで特定行政庁(つまり自治体)は次のような理由で入ってきます.
検査済証の交付は確認検査機関の権限のもとで行われ,特定行政庁に報告されていた.つまり検査済証の最高行政責任は特定行政庁にある.
すべての責任は,建築主事(という個人),民間検査機関の担当者,特定行政庁の担当者にあると建設省OBは主張しているのです.国の責任には全く触れていないことにご注意ください.戸谷氏は国が行うべきことを次のように述べています.
国家は,国民が法律で適正な建築物としてつくられたマンションを購入したにもかかわらず,それに欠陥があった場合には,まず国家がマンション購入者に対して損害賠償を行うべきである.国家はその後マンション購入者に対して支払った損害賠償請求額を,その業務を適切に行わなかった建築主事や建築確認検査機関,特定行政庁に対して行うことになる.
被害者に対してひとまず金を支払い,その後真の責任者(検査機関,自治体)から金を回収するのが,国の役割だというのです.

前に述べたように,国は「行政上の責任」は認めていますが「国賠上の責任」は認めていません.「行政上の責任」の意味が戸谷氏の文を読んでよくわかります.それは「検査済証の最高行政責任」を負っている地方自治体が負うべき責任なのです.つまり国は地方自治体が全責任をもてと主張しているのです.


戸谷氏は国家賠償について次のように述べています.
国家と国民の関係は憲法にもとづいており,制定された行政法の適正な履行を前提として国民に納税義務が課せられている
国家は行政法で定められたことの完璧な施行義務を負っているが,それが実現しなかったことで国民に損失を与えた場合には,国家賠償請求される法律制度構成になっている
今回事件は行政法の適正な履行に問題があったというよりも,行政法そのものに欠陥があったケースです.
行政法に欠陥がありそれが原因で国民に損失を与えた場合は,国家賠償請求の対象となる
というのが,私のごく常識的な意見です.



4月1日の教育テレビのETV特集より.

世田谷の古ぼけた木造2階屋の全景が画面に映ります.妻部に「住民法律センター」という大きな看板がかかっています.カメラは入り口に向かいます.ドアにも「住民法律センター」と書かれたプレートが張られています.ギシギシと建て付けの悪いドアが開けられると,いかにも人のよさそうな,頭のはげたおじさんが笑顔で立っています.

このおじさんこそこう見えても都市法研究の第一人者なのです.氏は弁護士で法政大学教授の五十嵐敬喜氏です.氏は40年近く建築法制に携わり,市民の立場から国会で意見を述べたりしています.

氏は建築基準法の厚いファイルがずらりと収納された書棚を背に語ります.インタビュア曰く,これが全部建築基準法ですか.氏曰く「そうです,建築基準法は日本の法律の中でもっとも難しい法律の一つです」.恥ずかしながら,こんなこともまったく知りませんでした.

さて氏は98年の建築基準法改正(建築確認事務の民への移行)時に,国会で意見を述べています.氏は極めて重大なことを淡々と語ります.
今回の事件が発覚した時,私はすぐ議事録をとりよせ,何を議論したか調べました.いろいろ議論したけれども,法的に首尾一貫した論理的なシステムの検討は……ヤッテイナイ(小さな声で首を左右に振りながら)
五十嵐敬喜氏は,建築基準法に重大な穴があることを認めておられます.この証言以上に信頼できるものはおそらくないでしょう.


プロの棋士が,次の一手を考えるとき,筋のいい手(効率のいい手)から考えます.初心者がまず考えるようなイモ筋(効率の悪い手)を検討するのは最後の最後で,時には最後まで,最善手だったイモ筋に気づかないこともあります.実に初心者ならイモ筋から考えるので,トップレベルのプロがその手を見落とすことなど信じられない話なのですが.

再計算するつまり検算するという行為が,効率の悪いイモ筋であることは明らかです.専門家たちはもっと効率よくチェックする手順をあれやこれやと考えたのでしょう.再計算が義務付けられていないという建築基準法の穴は,素人からみてきわめてわかりやすいが故に,専門家たちの盲点になっていたということは十分にありえる話だと思います.


再び『建築知識』誌にもどって,今度は藤本昌也氏という方に登場してもらいましょう.記事タイトルは『建築基準法,建築士制度はこう変える!』です.「こう変わる」ではなく「こう変える」となっていることにご注意.同記事は氏を次のように紹介しています.
耐震偽装事件を受けての改革の総本山「社会資本整備審議会 建築分科会 基本制度委員会」.
26名の委員の一員に数少ない建築家として参加しているのが,現代計画研究所代表,藤本昌也氏である.
日本建築士会連合会理事を務め,これまでも建築士制度改革に声を上げてきた同氏に,
今後の法改正の見通し,あるべき建築士制度の方向性についてうかがった.
氏によれば,今国会では建築基準法の検査機関に関する部分と,建築士などの罰則の強化について建築士法改正が行われる予定であり, 「その後,春から夏にかけて,建築士法の問題を中心に審議する予定」だそうです.つまり建築基準法はあまり熱心に審議されないようです.

左は同記事89頁の一部です.

再計算センターというのは,検査機関はどこも再計算していなかった,これはたいへんだというので言い出されたものだと思われます.再計算センターなど不要であることは論をまちません.検査機関が再計算すればいいのです.

Aの曖昧な文が,もし二重基準問題を含んでいるとすれば,現状はある自治体主事が言ったように「収拾のつかない」状態であり,安全性の基準をどう考えるかという根本的な問題に対し,氏が言われているような「JSCA(日本建築構造技術者協会)のような機関が柱」となった第三者機関で検討するというのは,明らかにナンセンスです.



氏が言われているように,そして私も何度も書いたように,再計算など誰でもできるのです.そして再計算さえしていれば,今回の偽装物件は100%見破れたのです(再計算ですべてのおかしな物件が摘出できるなどとは一言も主張していません,念のため).

再発防止策も簡単です.すべての検査機関に対して(誰でもできる)再計算を義務付ければいいのです.

藤本氏や「構造のプロ」たちがはっきりそう明言しないのは,明言すれば現行の建築基準法に大きな穴があったことを認めることになり,国の主張と対立することになるからです.彼らは国と争いたくないのです,たとえ国に責任があることが明白だったとしても.




4月9日のサンデープロジェクトにおいて田原氏は構造計算に4つの方法があるが「どれが正確か」などと北側大臣に訊いていました.そうではなく「どれが厳しくどれが甘いのか」と訊いてそこから話を始めるべきなのです.まぁ,わかっていないのだから仕方がありません.ところで北側大臣はほとんどが「旧計算法」だと述べていましたが,基準の厳しい東京都の大手ゼネコン施工物件を中心に「新計算法」物件がそれなりの数存在するのは間違いないと思われます(でなければ札幌市の物件が表面化する筈がありません).
上記『建築知識』に竹中工務店が開発したBRAINという「構造設計システム」の広告が出ていました(66頁).同ソフトは新計算法と旧計算法の両方をサポートしています.姉歯元建築士がこのソフトを持っていれば違法物件件数は半減した(?)でしょうが,きっと高すぎて姉歯事務所では買えないでしょうね.
同番組によれば「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委最終報告書」は,「耐震偽装がなぜ見逃されたのか」という問いに対し
技術的能力については,規制する側が規制される側よりも同等以上の能力を持つという制度創設当時の状況が逆転し審査の形骸化の誘引となった
と答えているようです.この問いが今回事件の核心の質問であることは上に述べたとおりです.2,3ヶ月も税金を使って調査した結論がこんなバカげた答えでは批判する気も失せますが…

不必要・不正確に一般化してありますが,規制する側とは検査機関側であり,規制される側とは構造設計者側です.この文はつまり検査機関側の「技術的能力」が制度創設当時(98年)より落ちたことが,偽装を見逃した原因だとしています.検査官無能説であることは明らかです.しかしただの検査官無能説ではありません.さらに一歩踏み込んで,なぜ無能であるかまで言及しています.

この文の論理にしたがうと,建築主事がすべての検査業務を行っていた時期(98年以前)は,建築主事の「技術的能力」は民間の構造設計士より高かった,ということになります.

こんな話を信じる人は,官は「公正・中立」であるばかりか「技術的能力」も高いと考える人です.つまり「そもそも官から民への移管が問題だ」と主張するどうしようもないバカです.

この文は,「構造のプロ」が唱える検査官無能説と「そもそも官から民へが問題だ」という意見が野合して,生まれたのです.

委員会に参画している有名ジャーナリストも手もなくだまされているらしいところを見ると,この「最終報告書」は国の責任を隠蔽する隠蔽文書として十分機能していると評価することができます.田原氏がこの件に関し何の有効なコメントも出す事ができなかったのは当然です.



今朝4月13日朝日新聞朝刊1面に,構造を専門とする1級建築士に対して行ったアンケート結果がでていました(回答者数57名).建築主からどのような圧力がかかっているか生々しい証言が出ています.

姉歯元建築士以外で,(国交省,自治体,民間検査機関,建築主,施工主,意匠など他の設計業者)の6者の中で誰の責任が重いか(複数回答可)というユニークな問いに対し,最も多かったのが建築主の27名,次いで国交省が13名でした.私も同意見です.ヒューザー物件であれば,まず責任をとるべきはヒューザーで,次に国です.自治体,検査機関は基本的に無罪です.しかし中には次のような意見があります.
偽装を見逃した建築確認の問題点を指摘する声もあった.ゼネコンに勤務する45歳の建築士は,「審査が全く形骸化している.構造設計の経験のない者が審査しており,悪意のある者がいくらでもつけこめる」という.
ここにも検査官無能説を主張する「専門バカ」がいます.検査機関がザル機関になりはてているのは,建築基準法がザルだからだということに気づかず,検査官の個人的能力のせいにしている「専門バカ」です.しかし国の責任を指摘する声が多いことを考えると,このような「専門バカ」は,構造設計の実務に従事している人には少ないようです.みんなわかっているけど口に出せない,ぷうたろうだから言える……ということかもしれません.



 (以上06年4月13日 夕,6月7日氏名誤記を修正)




06年04月21日 強制捜査直前?



4月18日.小嶋社長の事情聴取が今ごろになってようやく行われ,「当局が家宅捜査し強制捜査に着手してから4ヶ月で,刑事事件として立件できるかどうかのヤマ場を向かえ」(4月18日付け日経新聞社説)ました.4ヶ月もたった割には,名義貸し容疑,粉飾決算容疑といった,本筋と違う容疑ばかりが報道されています.

昨年12月6日に政府は耐震偽装問題に対する総合対策を発表しました.阪神大震災や中越地震では「個人の資産形成に税金を投入できない」という理由で実施されなかった「公的支援」が,80億円の補正予算を組むという異例の形で,あっさり認められました.その一方で「刑事責任の徹底追及を行う」と言明しました.税金を投入する以上,責任者は「徹底追及」するというわけです.その結果がようやく出ようとしているのです.

上記日経社説によると

「日本の警察の実力を示す意味でもやらなければならない」と警察庁長官が表明し検察庁は東京地検に専従班を設け,捜査当局は異例の部厚い体制で臨んでいる.
しかしその一方で国民が期待するような結果はでそうもないという予防線もすでに張られています.同社説によると
警察庁長官は記者会見で「現行法令で使える法令は使って解明する.それでも解明できない部分があれば現行法令に欠陥がある.問題提起する必要がある」と述べている.
この日経社説のタイトルは『耐震偽装の捜査を通じ法の不備も探れ』というものです.ここで言う「法の不備」とは
数多くの偽装物件を設計し建設し販売するのにかかわった企業や個人にどのような逸脱行為があったのか,捜査を通じて解明できれば,その行為を取り締まる法令がなかったり,あるいは罰則が軽すぎて法令に抑止力がない「法の不備」がおのずと明らかになる.
という意味の「法の不備」です.「犯人側」を取り締まる上での「法の不備」であり,私が問題としてきた検査機関が偽装を見逃した原因に関わる「法の不備」とは全然別の話であることにご注意ください.

4月19日に朝日テレビの『ムーブ』(大阪市役所問題などを精力的に報道しているローカル番組では珍しい硬派番組ですが,H弁護士が加わってから見る回数が減りました)において夕刊ゲンダイの編集長二木啓孝氏は,今回の捜査は詐欺の立件に至ることなく「しょぼい幕引きでおわる」と予想を述べました.私も小嶋社長は詐欺罪では告訴されないと思います.なぜか.

詐欺罪で告訴されたなら,小嶋社長は国と徹底抗戦すると公言しています.自分のことを棚にあげれば,私がこれまで述べてきた国の責任を追及する論理を小嶋社長も全て使うことができます.伊藤元国土庁長官との関係もカードとして使えることはもちろんです.その為に国会では黙秘をとおしたのです.法廷において小嶋社長がべらべらしゃべり出すと困るのが誰であるか明白です.国交省が困るのです.自民党が困るのです.

耐震偽装問題はライブドア事件とか偽メール事件など問題にならない,政官業学報が関与する,まさに建築行政を根幹から揺るがす深刻な大事件です.このような大事件に対して警察,検察に「公正・中立」を期待するのは,残念ながら幻想です(この意味では宮崎学氏の本が参考になります).


4月20日,新聞各紙はイーホームズの「架空増資疑惑」を「一斉に」報じました.国交省の通達で,検査機関は資本金の大きさで検査対象の範囲が定められています.イーホームズは99年12月に資本金1000万で設立,01年10月に5000万に増資したと登記されていますが,この増資が架空だった疑いが浮上したというのです.

警視庁などの合同捜査本部は,「昨年12月に姉歯元建築士の建築基準法違反でイーホームズの関係先を家宅捜査.押収した財務資料などを詳しく分析した結果」,疑いが浮上したというのです.藤田社長は自社サイトで「事実無根」とコメントしています.

私は捜査本部が4ヶ月の間何をやっていたか合点しました.4000箱ものダンボール押収は何のためかわかりました.私は「虚偽登記の疑い」が本当かどうか知りません.しかしはっきりしていることは,イーホームズが偽装を見逃したことと,この「虚偽登記」はなんの関係もないことです.警察お得意の「別件逮捕」であることは明らかです.

同日夜のテレビ番組の中には,架空増資の話と偽装見逃しの関係を,ご丁寧に推測しているものがありました.つまりイーホームズには大規模な建物を検査する体力がなかったのだ,だから見逃したのだというわけです.当局は大喜びでしょう.なにしろ「別件逮捕ではないこと」をマスメディア側から説明してくれているのですから.

同じ4月20日の早朝,みのもんたの朝ズバッでもこの虚偽登記疑惑が報じられました.コメンテーターの嶌(しま)信彦氏(ジャーナリスト,白鴎大学教授,慶応大学講師)は「一時ヒーロー視された藤田社長」と口にしました.ホリエモンと同じ扱いです.氏は前回述べた「わけのわからない」最終調査結果を出した第三者委員会のメンバーです.温厚そうで一見進歩的,一見公正・中立に見える「インチキ紳士」によって隠ぺいの森はますます深くなるのです.


4月21日,朝日と毎日は小さな扱いで,SBIが,保有するイーホームズ株をCEOの北尾氏個人に譲渡したと報じました(日経には出ていなかった).その理由を朝日は「イー社に架空増資疑惑が浮上,上場企業であるSBIが株式を継続保有するのは適当ではないと判断」した為と報じました.毎日は「」付き,つまりSBI側の発表を引用する形で次のように述べています.
「増資が適法と確認され,検査機関の免許が維持できると判断されるまで,株価下落などのリスクを回避するための緊急避難的措置」としている.
すでに述べたとおり,株取得金額はイー社の資本金を下回る模様と日経新聞は報じました.つまり1億とか2億とかいったレベルです.ライブドア株の数100億といった金額に比べ本当にゴミのような金です,もちろんSBIにとってです.だとすると「株価下落などのリスク」「緊急避難的措置」などといったSBIの説明が大げさすぎるものであることがわかります.

大株主SBIがこの時期にこんな行動をとり,メディアに公表したことは
イー社株というのは上場企業がそれを保有すること自体適当ではないほどうさんくさい株である.
イー社というのは免許取り消しになってもおかしくないほどうさんくさいことをしてきた企業である.
ことを,世間に対して印象付けるという役割を果たしています.

・SBIが大株主になることにより唯一の独立系機関という誇りは失われました.
・大株主SBIはイー社の免許取り消しの可能性すら公言しました.
・「一時ヒーロー視された藤田社長」(嶌氏)=「正義漢ぶった藤田社長」(小嶋氏)

布石は終わりました.あとはイーホームズを強制捜査し,業界の秩序を乱した「告発者」を,まさに小嶋社長が言ったように「徹底的に叩く」だけです.


同じく21日の毎日新聞によりますと,
警察庁の漆間厳長官は20日,耐震偽造データ偽造事件について「現行法令の中で使える法令は使って解明したい.日本警察の実力を示さなければならない」と話した.
「日本警察」の威光が地に落ちないよう,せいぜい頑張って下さいネ.


(以上06年4月21日,昼過ぎ)




06年04月23日 プロ集団JSCA



検査機関はなぜ偽装を見抜けなかったのか,今回は構造のプロ,JSCA(日本建築構造技術者協会)の見解をみておきます.JSCA(ジャスカ)は4月14日「関西クローズアップ(耐震基準1.0の落とし穴)」というNHKの番組で主役の一人(?)として登場していました.番組では「スリット」の意味・問題点が解説されていてたいへん参考になりました.

野辺公一編著『耐震偽装−安全なマンションに暮らしたい−』という300頁の本(雲母書房,発行日06年3月15日)を書店で見かけました. その中に「耐震偽装は見破れるか −確認検査機関の重い責任−」と題する章があります.この章の執筆者,山辺構造設計事務所代表の山辺豊彦氏はJSCAにおいて「構造設計者の地位確立のための活動に取り組んで」おられる方で,NPO緑の列島ネットワーク理事,JSCA資格問題委員会主査,JSCA東京代表です.

山辺氏は検査機関の民間解放について次のように述べています.
99年から確認検査機関の民間解放が始まった.この背景には,建築確認の件数が増えすぎて行政だけでは十分な対応ができなくなったことに加え,民間の実務者の能力を生かして,審査の質を向上させる狙いがあった.しかし現実には,民間審査員の資格には審査実務経験が2年以上必要という条件がついたので,実態として民間審査員のほとんどはそれまで審査をしていた行政OBが担当するという,審査の質の向上というより,むしろ以前からの行政のやり方がそのまま引き継がれることになった.
明快な説明です.なぜイーホームズやERIに元建築主事が多いのか,この説明でよくわかります.

山辺氏はマスコミ報道について次のように述べています.
マスコミの報道では,意匠設計者,確認検査機関,施工会社,現場監督や職人,施工検査をした検査員みんなが重大な不正を見逃していたと伝えられている.しかし,(略)その職業と役割からして,不正をチェックできるのは,確認検査機関(特定行政庁を含む)しかない.
施工検査(中間検査,完了検査)で偽装が見抜けた筈だという意見は,素人ばかりか一部専門家まで口にしました.計算書の偽装は基本的には検査機関でしかチェックできないのです.


さてその重い責任をもつ確認検査機関はなぜ偽装を見抜けなかったのか.山辺氏は次のように述べます.
現状の確認検査機関の構造担当者は,実務経験がほとんどないので,書類上の不備など形式的なチェックが中心になっている.これは,民間の検査機関も行政の機関も同じである.このような偽装があった場合,現状の日本の確認検査体制ではチェックすることが難しい.ただ単に電算の出力結果の数字を確認するだけでは意味がないからである.
現状の確認検査体制が<形式的なチェックが中心になっている>ことは間違いありません.しかしそれは山辺氏の言うように<検査官に実務経験がない>ためではなく,建築基準法で定める検査手順がそうなっているからです.

山辺氏はまた次のように述べています.
国交省は,この値(耐震性能)が0.5以下の場合をとくに注目している.耐震性能が0.5以下というのは,明らかな耐力不足である.実務経験のある構造設計者であれば,構造図をチェックするだけでおかしいと気づく.
0.5という数字は,行政の立場から,建て替えか補修かを何らかの基準で線引きする必要があり,基準強度の半分にエイヤッで決めた値にすぎず,その数字に「技術的」な意味などある筈がないと私は思います.

したがって0.5以下なら,「実務経験のある構造設計者であれば,構造図をチェックするだけでおかしいと気づく」という山辺氏の意見がどこまであたっているか私にはわかりません.しかし重要なことは「実務経験のある構造設計者」であっても,「構造図をチェックするだけでおかしいと気づく」物件は限られている,ということを山辺氏が認めている点です.

山辺氏は続いて次のように述べています.
しかしその値が0.5を超えてくると,構造図だけでは気づかない場合がある.その場合は,構造計算書を入念にチェックするか,場合によってはチェックする側で構造計算書を再計算して検証する必要がある(これをダブルチェックという)
いくら「実務経験のある構造設計者」がチェックしても,構造図だけでは気づかず,構造計算書を入念にチェックしてもわからず,再計算してようやくわかるというケースがほとんどだろうと私は勘ぐっています.

しかしとにかく,山辺氏も再計算しないとわからない場合があることだけは,認めています.さてここで気になるのは再計算=ダブルチェックというところです.前に公明党議員が国会質問でダブルチェックを世間の常識とは違う意味で使っていると述べましたが,公明党議員はまさに山辺氏と同じ使い方をしていたのです.

以下小学生の算数の計算という簡単な例で説明します.

(2桁の偶数×3桁の奇数)という掛け算で,A君が出した答をB君がチェックするとします.

チェック手順は左図のように2段階に分かれます.答えが6桁になっていたり,奇数になっていたりすれば誤りであることは,「一目瞭然」です.このように行われる「事前チェック」がOKの場合,電卓を用いて「再計算」します.事前チェックは頭を使い,再計算は頭を使いません.

事前チェックで誤りが見つかれば効率的です.しかし正解がいくらであるかは,再計算しないとわかりません.現行の建築基準法のチェックというのは,チェックリストを豊富に用意することで1だけで検査済にしていることに相当します.つまり欠陥手順なのです.

ダブルチェックとは,B君のチェックだけでは万が一電卓の操作ミスをしているかもしれないので,念には念を入れてC君もチェックするという意味です.再計算=ダブルチェックという意味では全くありません.

ちなみに,二重基準(新・旧計算法で結果が違う)とは,B君の使う電卓とC君の使う電卓で結果が違うということに相当します.


再計算=ダブルチェックという考えはどこから生まれたのでしょうか.

現行検査手順の机上審査(上図の事前チェックに相当)は論理的に完全なチェックであると考えるとそうなります.机上審査が必要十分なチェックであれば,その上再計算するというのは,念には念を入れるためのものですから,まさにダブルチェックになるのです.つまり現行手順は欠陥手順ではないと主張する人が,再計算=ダブルチェックと主張しているのです.

一方,欠陥手順だと考える人からすると再計算は欠陥を補うためのものです.机上審査だけでは半人前で再計算によってはじめて一人前のチェックになるのです.再計算=ダブルチェックなどというのは,とんでもないタワゴトです.


山辺氏の言葉を再掲します.
このような偽装があった場合,現状の日本の確認検査体制ではチェックすることが難しい.ただ単に電算の出力結果の数字を確認するだけでは意味がないからである.
すぐ続けて山辺氏は次のように述べています.
重要なことは,前提条件である建物のモデル化や基本となる計算条件,そして設計の考え方など建物全体を把握する総合力である.そのなかで,プログラムを使っての解析は構造設計を行う上でのひとつの要素であって,それがすべてではないことを考え合わせると,構造設計は専門的な知識と経験がないと審査できないことになる.つまり,確認審査のなかで最も専門性が高く難しい構造設計の部分だけは,実務経験豊富な構造設計者に委託する必要がある.
構造計算がすべてではないことはもちろん言うまでもない話ですが,今回問題になっているのは構造計算なのです.

スリットがむやみに切られていて,構造計算上は問題ないが,構造設計としてはおおいに問題がある,という物件は今回の問題物件には含まれていないのです.今回問題となっている物件は,すべて,計算上の耐震強度が1未満の物件なのです.

耐震強度が1未満の物件を検査機関はなぜ見逃したのかがまず解決されなければならない問題であり,計算強度は問題ないが,その他に「構造のプロ」の眼からみていろいろ問題があるというのは次の段階の話です.まず解決しなければならない問題が未解決の段階で,より高次の問題を持ち出してくるというのは,話を混乱させるだけです.そのような行為は「確認審査のなかで最も専門性が高く難しい構造設計の部分だけは,実務経験豊富な構造設計者に委託する必要がある」ということを言わんがために,姉歯事件を利用していると言われても仕方がないのです.

<耐震強度が1未満の物件を検査機関はなぜ見逃したのか>がまず早急に解決されなければならないのです.なぜなら,それをはっきりさせることによってはじめて,国の責任が明確になり,損失を蒙った国民に賠償の道が開けるからです.


山辺氏は前々回触れた「再計算センター」について次のように述べています.
最後に,国土交通省から今後のチェック体制について,次のような提案がなされている(未決定ではあるが).
「一元的に構造計算書を集めてコンピュータで再計算し,偽装をチェックするセンターの設置」案である.
私は再計算センターなるものは,検査機関はどこも再計算していなかった,これはたいへんだというので,「素人の」委員から提案されたものだとばかり思っていました.ところが意外にも国交省が提案した案であるとは!

これは二つの点で重要です.

1.国交省は再計算こそキーであることを(正しく)認識していることがわかる.
2.国交省は検査機関に再計算を義務付けずに,第三者機関で実施という形で提案した.

国交省の苦心は,キーである再計算を,欠陥を埋める為のものではなく,念には念を入れる為のものという位置付けで,導入するところにあったのです.第三者機関は国の責任をカムフラージュするための存在なのです.おわかりのように,再計算=ダブルチェックというのは,山辺氏や公明党議員の「独創」ではなく,国交省が言い出したものだと思われます.


「再計算センタ−」案はすでに述べたように,審議の過程で否定されました.しかし「第3者機関」で再計算実施という,国の責任を隠ぺいする核心部分は生き残りました.

3月13日NHKクローズアップ現代で日本建築学会会長の村上周三慶応大学教授は,再発防止策としての第三者機関を次のように説明しました(3月14日登録分より再掲).図は表題を除きテレビで村上会長が説明したものです.

「第三者機関とは外部の学識経験者による検査システムで,公正中立に提出された構造計算書を構造計算書の考え方にたちのぼって検査します.これができますと,今回のような耐震偽装問題はたいがい防止できます.」


「誰にでもできる」再計算をわざわざ第三者機関で行う必要は全くありません.検査機関がすればいいのです.では第三者機関はいったい何を審査するのでしょうか.しばしば報道されているように,なにをしているのかさっぱりわからない独立行政法人が沢山あります.この第三者機関もまちがいなくその一つになるでしょう.なぜって.そもそも,国の責任を隠ぺいするための存在であり,まともな仕事などないからです.


さて山辺氏は国交省の再計算センター案について次のようにコメントしています.
これは,構造設計の一部分である,電算プログラムによる計算の部分だけをコンピュータでチェックするというものだ.コンピュータはあくまで計算するための道具であり,その部分だけをチェックしても,構造設計の全体をチェックしたことにはならない.
再計算がすべてではないことはもちろんです.
この案が実施されても,コンピュータによるチェックで問題がなければ,それだけでよいという考え方を変えなければ,根本的な解決にはならない.結局,5年後,10年後には,構造的に粗末な建物をたくさん建設してしまう可能性は非常に高い.
計算上の耐震強度が1以上であっても,構造的に粗末な建物がたくさんあるとは具体的にどういう意味でしょうか.二重基準問題のことでしょうか.では二重基準問題に対してJSCAはどういう見解をお持ちなのでしょうか.「根本的に解決する」ためには,何が必要なのでしょうか.
先に構造設計の過程で示したとおり,構造設計者は,建物の安全性に関わる専門性の高い職業であるゆえ,将来にわたり基本的事項を明快に押さえられる人材を育てる必要がある.そこで,構造設計がわかっているプロが審査し,構造設計者を育てると同時に,建物の質の向上を図ることが重要である.
ということだそうです.
いずれにしても今回の国土交通省の再計算センター案が,問題を解決する案でないことは明白である.
というのが,この章の結語です.

一見すると国交省にもの申しているように見えます.しかし実は国交省の掌の上で踊っているのです.再計算をダブルチェックにすりかえた瞬間から,国交省の隠ぺい行動に加担しているのです.


今回事件で多くの自治体は「外部の専門家」にチェックを依頼しました.それは,しかし,なにも「実務経験豊富な構造設計者」に「机上審査」をお願いしたわけではなく,「再計算」を依頼したのです.検査機関には計算ソフトがなく,検査官たちは計算ソフトを一度も使ったことがなかったからです.しかし「再計算など誰でもできる」のです.

「プロがプロとしての尊敬を得ているのは,その背後に高い専門性と責任が伴うからである」(北城恪太郎経済同友会代表幹事,4月22日毎日新聞より)
この言葉を姉歯元建築士に対してだけでなく,テレビに登場した多くの「構造のプロ」に対しても謹呈いたします.彼らの多くは「検査官無能説」を唱え国の責任を隠蔽しました.「確認審査のなかで最も専門性が高く難しい構造設計の部分だけは,実務経験豊富な構造設計者に委託する必要がある」という利益誘導的言動に終始した「構造のプロ」を,真のプロとして尊敬することは到底できません.


 (以上4月23日夕方,今朝のサンプロで田原氏がまたはしゃいでいたようですが,まだ録画を見ていません.)



06年04月29日 小川コンセプトと民主党再発防止案



4月26日,姉歯元建築士など8人(藤田氏を含む)が別件逮捕されました.同日夜の報道ステーションでは「あながち別件ではない,よくぞここまで法律を駆使して立件しようとした」と警視庁担当記者が当局の対応を持ち上げ,NEW23では「決して全くの別件ではない」という捜査幹部の話を報じました.

NEWS23に登場した「グランドステージ住吉」の住民は
姉歯氏だけが悪いわけではなく,それを強要したであろう建設会社,それを見逃した確認検査機関も同等だと私たちは思っている.
と述べ,別の住人は
イーホームズのチェック体制が機能していれば問題はおきなかった.確認検査機関が本当に正しいことをしているのかどうか捜査の手を緩めず本丸に向かって進んでもらいたい
と希望を述べました.ここでいう「本丸」が国あるいは国交省を指すものでないことは明らかです.

事件発覚直後ならいざ知らず,5ヶ月経ってまだこんなご意見とは.ただし同じ被害住民でも「グランドステージ川崎大師」の方は違う意見のようです.発覚後早い段階で,公的支援という形ではなく国が補償または賠償すべきだと思うとはっきり意見を述べられた方もいました.


前記二木氏は,同日の「ムーブ」で詐欺罪立件には共同謀議を証明する必要があり難しい,藤田氏はスケープゴートだ,「本丸は民間検査機関の甘い体制を見逃した国交省だ」と述べました.そして事件をいろいろ取材してみて氏の唯一の疑問は,姉歯氏がなぜ偽装したかだと述べました.

藤田氏がスケープゴートであり本丸は国交省という点で異論はありません.しかし中身はまったく違うことがわかりました.事件の核心は姉歯氏がなぜ偽装したかではなく,検査機関がなぜ偽装を見逃したかにあります.二木氏の眼はそこには向いていません.氏の論理では国交省に対して監視監督責任以上の追求は困難です.そして単に監視監督責任を怠ったというだけでは,とても本丸とは言えないのです.


警視庁担当記者も二木氏も詐欺の立件は容易ではないと言い私も別の意味でそう思っていました.ところが翌4月27日の朝日新聞のトップ記事は実に,「小嶋社長詐欺立件へ」というものでした.
捜査本部は,耐震強度が基準値に満たないことを知りながら住人から代金を受け取ったとされる行為が「不作為による詐欺」に該当すると判断した模様だ.
とあります.不作為の詐欺とは,
うそをつくなどの言動で他人の財産をだまし取る通常の「作為の詐欺」とは異なり,本来やるべきことをせずに財産などを手に入れるケースをいう.例えば,土壌が汚染されている事実を言わず,土地を売る行為などがそれに当たる.
捜査本部は当初組織的詐欺に当たるとみて捜査を進めたが,「関係者による共謀や偽装に対する認識の立証が難しいことがわかり」「多角的に立件を目指した」結果,「ヒューザー側による不作為の詐欺の容疑」が浮上したということです.

なんのこっちゃと私は思いました.ヒューザーがイーホームズから姉歯偽装の事実を通知された後に,マンションを住民に引き渡したり,代金を受け取っていたことは,早い段階でわかっていました.そしてそれは宅建業法違反であると報道されていました.弁護士もそう言っていました.そして当の小嶋社長は宅建業法違反なら認めるが詐欺は絶対に認めないと言っていたのです.

宅建業法違反というラベルを,中味そのままでより量刑の重い「不作為の詐欺」というラベルに張り替えただけではありませんか.これではまるで「詐欺」ではありませんか(笑い).


同じ4月27日の毎日新聞では1面に「イーホームズ ずさん検査 社員認識」という記事がでました.イーホームズの複数社員が「検査はほとんどノーチェックだった」「検査件数が多すぎて,とてもさばききれなかった」と捜査本部に証言しているようです.

当局に協力した証言者たちは「検査件数が多すぎて,とてもさばききれなかった」という理由で,「ほとんどノーチェック」で判だけ押していたのはたぶん間違いないでしょう,だって本人がそう証言しているのですから.ところでこれら証言者たちは,時間をたっぷりかけて申請書類を精査していたら,偽装を見抜けたのでしょうか.絶対にノー!日本の数ある検査機関の中で机上審査で偽装を見抜いた機関はただの一つもないのです.

「捜査本部は,同社が確認検査数を急速に増やす裏で,ずさんな検査や不正な増資をしていたことが耐震偽装の背景にあるとみて,今後厳しく追及する方針だ」そうです.別件逮捕ではないことを,身柄を拘束した「藤田容疑者」を厳しくしめあげて,いかに立証するつもりなのでしょうか.

この毎日新聞の記事を読んだ10人のうち9人は,そうかイーホームズという会社はそんな会社だったのか,そんな「ずさんな検査」をやっていれば,偽装を見逃すのも当然だと思うに違いありません.つまり藤田氏逮捕は別件逮捕ではないと思うに違いありません.この記事を書いた二人の記者もたぶんそう思っていると,私は思います.

イーホームズの検査がそれほどずさんな検査だったということであれば,何度も行って成果なしの国交省の立ち入り検査もずいぶんと「ずさんな検査」だったことになります.毎日新聞は,最低限,国交省の監視監督責任も厳しく問われなければならないぐらいのことは書いておくべきです.そしてイーホームズ以外に偽装を見逃した,29の自治体検査機関,5つの民間検査機関,とりわけ隠蔽疑惑がもたれている日本ERIに対しても,イーホームズを叩いたのと同じ「強い意志」をもって警察は「厳しく追及」すべきである,ことも書いておくべきです.


4月13日掲載分の「建築基準法の穴」で書いたとおり,
建築基準法がザルならば,それをまじめに(あるいは中にはふまじめに)適用している検査機関がザルになるのは当然の話です.すべての検査機関がザル機関であってもなんの不思議もないのです.
国が定めた検査手順では,まじめに検査していようがいまいが,検査機関は偽装を見抜けないのです.したがって「藤田容疑者」の逮捕は明らかに別件逮捕です.毎日新聞は別件逮捕の正当化に手を貸しました.



逮捕当日4月26日の筑紫のNEWS23に民主党の馬渕議員が出ていました.おひさしぶりです.

馬渕議員は,<98年当時の建築基準法改正の議論がずさんだった,当時の住宅局長(オガワタダオ氏)は民間検査機関は事務的機械的にたんたんと検査すべしと述べ,民間検査機関はそのとおりのことを答弁している,ここに制度として偽装を見抜けない本質的欠陥があった>と述べました.

私がこの住宅局長の答弁をサンプロに出演した馬渕議員の説明で知ったことは前に書きました(05年12月11日掲載分).

馬渕議員は偽メール事件で耐震偽装問題が吹き飛んでいた3月6日に,毎日テレビの「ちちんぷいぷい」というトリビア専門番組にちょっと顔を出しました.テーマが「耐震偽装問題はいったいどうなったの」だったからです.そこで例の第三者機関設置という再発防止策が話題にのぼりました.民主党の対案はと訊かれた馬渕氏は,チェックポイントを増やすことなどを考えていると,馬渕氏にしては珍しく歯切れの悪い説明でした.エースがこんなことで大丈夫かと私は心配になりました.

心配は当たったようです.馬渕氏は設計施工の分離を柱とする再発防止案を考えていると今回明言しました.耐震偽装問題は設計の問題であり,施工と直接的な関連はありません.設計ミスなら施工段階で発覚する場合もありますが,今回のような設計書偽装が施工時に発覚することはありません.施工業者,施工検査員は基本的に無罪です.

設計施工の分離に関して問題がないと言っているわけではもちろんありません.それは大昔から議論されてきた大問題です.私が言っているのは耐震偽装問題に設計施工の分離という別件の大問題を持ち出すのは,議論を発散させる結果しか生まないということです.郵政民営化で小泉首相の単純明快な二分法に大敗した教訓が活かされていないようです.


馬渕議員はどこで道を誤ったのか,とまで言えばちょっと大げさですが,オガワタダオ氏答弁に対する評価が分岐点だと思われます.

私はオガワ氏の答弁を次のように評価しました(06年2月13日掲載分).

私はオガワ氏が官から民に検査事務を移すにあたって,「事務的機械的にたんたんと検査」できるよう手順を定めたというその精神はまったく正しいと思います.建築確認における審査は,構造設計コンペの審査とはまったく違うのです.シドニーのオペラハウスのような特殊な構造を審査しているわけではないのです.

オガワ氏のコンセプトは正しかったのです.しかしコンセプトを具体化する段階で誤ったのです.再計算というきわめて「事務的機械的」作業を義務付けなかったという致命的誤りを犯したのです.
馬渕氏はオガワ氏のコンセプトそのものを問題視していることが今回わかりました.馬渕氏は検査業務というのは事務的機械的にできるものではなく,エキスパートでなければできないと考えているのです.これこそまさに事件発覚直後の05年12月4日のNHKの「日曜討論」に出演した旧建設省OBで明海大学教授の松本光平氏が述べた
「一般論だが高度な専門領域で不正を専門家がしようとすると,同等以上の専門知識をもった人でないと発覚できない」
に沿ったものです(05年12月7日掲載分).

建設省OBの大学教授が狡猾にも一般論だと断った,その一般論に多くの「構造の専門家」が群がりました.馬渕氏の隣に座っておられたJSCA大越会長もそのお一人です.種々の変種を持つ検査官無能説はこうして生まれました.本当に残念なことに,馬渕議員もこの罠にはまっているように思われます.

建築確認の審査というのは,法令で定められた一定の基準を満たしているかどうかを審査するものであり,事務的機械的にできるのです.ただ事務的機械的な検査手順に重大なもれがあったのです.再計算実施という重大なもれが.



民主党が設計施工の分離を再発防止策として持ち出そうとしている背景に思い当たるフシがあります.参考人招致において,民主党のS議員は,設計元請のスペースワン社長をネチネチと追及しました(議員の東京弁には生理的嫌悪感を覚えました).一部上場企業である太平工業の施工を,通気口の位置を例に出して,元請設計のスペースワンがきちんと監理していないと追及したのです.

スペースワン社長の答弁は単純明快でした.元請として姉歯偽装を見逃した点は認める,しかし施工は太平工業にお任せしている,通気口がどこかなど施工会社が現場で決めることだ,などと反論したのです.

教科書的机上論でいえば,S議員の主張が正論でスペースワン社長の反論は大間違いでしょう.しかし実態からいえば,S議員の机上論どおり行われている例など,皆無とはいわないまでもごくごく特殊なレアケースだと思われます.

施工の監理などという本線から外れた話でスペースワンを追及するのでなく,なぜ平成設計をもっと追及しないのかとその時私は思いました.平成設計こそ,事件発覚の1年半前から姉歯偽装を知っていた設計会社だからです.民主党は問題の本質がわかっていないのかもしれません.

先日の管氏の小泉首相への質問で耐震偽装に触れた個所がありました.テレビには自民党道路族エース(証人喚問時の1番バッターで小嶋証人を巧妙に「恫喝」した議員)が管氏の近くに映っていました.管氏が官から民へがどうだとかこうだとか言い出した時,道路族エースはなにをバカなこといってんだとあきれ顔をしていました.残念ながら私もそう思いました.


 (以上06年4月29日 夕方)




06年05月11日 ゆゆしき事



8人が別件逮捕された4月26日の日経夕刊で,ジャーナリスト魚住昭氏は「国の責任こそ問われるべき」として次のようにコメントしました.
耐震強度偽装問題の本質は建築確認制度の破綻.構造計算のコンピュータ化などで審査不能になっていたことだ.そういう事態を招き,放置してきた国の責任こそ問われるべきではないか.
「国の責任こそ問われるべき」という結論は賛成です.しかし<構造計算のコンピュータ化などで審査不能になっていた>という認識には賛成しかねます.審査不能に<見えた>のは法に欠陥があったためであり,<構造計算のコンピュータ化>に罪を着せるなど,的外れもいいところです.

魚住昭氏は神田順東大大学院教授(建築構造学)とともに4月23日のサンデープロジェクトに出演しています.紹介フリップには元共同通信記者で耐震偽装問題を「深く取材」とありました.「深く取材」したジャーナリストと「専門家」のご意見がどのようなものか,以下みていくことにしましょう.


なぜ別件逮捕なの,という田原氏の問いに対し,魚住氏は,当初マスコミや国会(議員)が思っていた「きれいな構図」(みんながグルになって姉歯に偽装をやらせた)が実態と違うことがわかったからだと僕は思うと,答えました.なぜみんなそう思ったの,という問いに対し,魚住氏は
みんな構造計算のことがわからんわけです.みんな無知,国交省も無知で,こういう無知が誤解を生んで「きれいな構図」を想定してしまった.
み〜んな無知だった,マスコミも,国会議員も,国交省も無知だった … で,検査機関の検査官はどうだったの,国交省官僚が無知だと言っているくらいですから,検査官など魚住説では当然ながら無知です.こうして<なぜ検査機関が軒並み偽装を見逃したか>という事件の核心は,法の不備に一切触れることなく,見事に解明されたことになるのです! 

み〜んな無知だったとかみ〜んなマヌケだったとかとで説明するのであれば,世の中のどんな難事件,難問題でもたちどころに解決です.アスベスト被害がなぜあそこまで放置されたか … 国民も官僚もメーカーも無知だったから,これで終りです.


魚住説は「検査官無能説」を拡張したものです.どちらも「本当の専門家」は真実を知っている,という点で同じであり,違う点は,検査官無能説では控えめに検査官は無能とだけ主張しますが,魚住説では「本当の専門家」以外すべて無知に拡張されている点です.

魚住説で見過ごすことのできない点は,国交省が無知グループにしっかり分類されていることです.「国の責任こそ問われるべき」と言いながら,国交省は無知だと主張することによって,国交省のために逃げ道を用意してあげているのです.国交省に関して魚住氏は以下のように何度も触れています.

神田東大教授曰く.「国交省が強度0.5以下に対して退去命令を出して大騒ぎになったが,0.5以下がどれほど<ゆゆしき事>かは個別に建物を<しっかり>調べないとわからない」.これを聞いて田原氏大喜び.なんであんなに大騒ぎになったの,と魚住氏に問う.魚住氏答えて曰く.
国交省が問題.一つは無知,一つは責任逃れ.
これを聞いて田原氏またまた腕を振り上げて大喜び.北側大臣きいてますか,国交省が無知だと言ってますよ,と例の調子.

魚住氏また別の文脈で次のように仰っています.
国交省は本当の専門家ではなかった.0.5とか0.3という数字を見せられてビックリしちゃったんですよ.驚愕の数字だったと建築指導課の幹部が言っていた.

役人の質が落ちたのが問題.
建築指導課の幹部と言えば,予算委員会で答弁に立った建築指導課課長の小川氏のことだと思われます.驚くべきは,小川課長が驚愕の数字だと言ったと,魚住氏が鬼の首を取ったように言っていることです.

普通の人なら基準の半分以下の「0.5とか0.3という数字を見せられればビックリ」しちゃうのは,当たり前です.しかしどうやら「本当の専門家」なら驚かない,というのが魚住氏の主張のようなのです.だから小川課長が驚いたことは,魚住氏にとって,とりもなおさず小川課長の「無知の証」なのです.もう一つ似たような例を出します.

『建築知識4月号』からの引用です.元都庁専門副参事(構造担当)の春原匡利(すのはらただとし)氏の論説の中で,マンション住民が強制退去を求められた事に関し,春原氏は次のように述べています(同誌95頁).
具体的な数値で,「倒壊のおそれがある」と国に突きつけられたとき,住民はどのような感情をもつだろうか.ほとんどの住民は建築の専門家ではないのである.
住民がどのような感情をもつか想像できます.しかし,専門家がどういう感情をもつのか,想像し難いものがあります.


「本当の専門家」といえば魚住氏のお隣の建築構造学が専門の神田順氏はまちがいなくそのお一人でしょう.「本当の専門家」は次のようなお話をされました.

事態を混乱させている原因の一つは,適法かどうかと実際に安全かどうかには随分ギャップがあることが理解されていなかったことがあると思われます.10月11月段階ではみんなギャップはないと思っていた.強度が1なければならないのに,0.5しかないのは<ゆゆしき事>だとみんな思っていた.ところが0.5というのはある計算法でやったら,<たまたま>0.5になっているだけで,別の計算法でやったら0.8になる.

速度違反だって10kmオーバーなら<ゆゆしき事>だと大騒ぎするにはあたらない.強度が0.5だって同じだ.それがどれくらい<ゆゆしき事>かは,個別にしっかり調べないとわからない.国交省は0.5以下に対して退去命令を出したが,それがどれくらい<ゆゆしき事>か住民に対して説明責任があるが,国交省はしていない.
神田氏の眼には「事態は混乱している」と映っています.そして氏は混乱の原因を指摘しています.しかし実は,神田氏のこの話の中に,事態を混乱させている原因が潜んでいるのです.


<耐震強度を絶対視してはいけない>というご意見があります.なにごとでも絶対視するとろくなことはありませんから,いかにももっとそうにみえます.しかしもっともらしい意見にはしばしば裏があります.

 表:耐震強度が基準を満たしていても絶対安全とはいえない.絶対安全かどうかは神のみぞ知ることである.
 裏:耐震強度そのものがそもそもあいまいである.計算法によって0.5になったり,0.8になったりする.

表の意味ならそのとおりです.法律で定めている耐震基準は,これ以上なら<安全とみなす>ということ以上の意味はありません.ただし,みなすといってもいい加減にみなしているわけではなく,日本の英知を結集して,それなりにきちんと決めている筈のものです.そして決めた以上,ルールとして守ってくのが,「ゲーム参加者」の義務です.

神田氏は「適法かどうかと実際に安全かどうかには随分ギャップがあることが理解されていなかった」と仰っています.実際に安全かどうかは上記の表の意味であり,適法かどうかは裏の意味です.両者の間にギャップがある,つまり神田氏は,表と裏をいっしょくたにして,主張しています.これが「事態を混乱させている」のです.

「実際に安全かどうか」を理解している人は,果たして存在するのでしょうか.当の神田氏のみならず,日本中の専門家のただの一人もわかっていないと思われます.たとえば上記の元都庁専門副参事の春原氏は,「0.5未満で倒壊とは断言できない」と次のように述べています.(『建築知識4月号』93頁)
確かに,「耐震偽装指標値1.0未満=建築基準法違反」,ではある.しかし,前述のとおり,それがすなわち倒壊に結びつくとは限らない.では,絶対壊れないかというと,これもいえない.つまり,耐震強度指標値1.0未満の建物は,構造設計上の数値をクリヤしてしていないため,地動の加速度400〜500gal程度の地震により倒壊しないとは言えないが,逆に倒壊するとも誰も断言できないのである.これは「耐震強度指標値0.5未満であれば震度5強で倒壊するか」についても同様で,誰も断言できないはずである.
国交省は断言などしていないのに,「誰も断言できないはずだ」と力み返って国交省を批判している,なかなかの迷文です.それはともかく,春原氏のいうとおり断言できないのは真実です.実大実験が事実上不可能で所詮きわめて不完全なシミュレーションの世界だからです.実際はどうかがほとんど検証されていないのですから,車の衝突安全性のシミュレーションに比べると精度はずっと低いに違いありません.

したがって神田氏の「適法かどうかと実際に安全かどうかには随分ギャップがあることが理解されていなかった」というのは「事態を混乱させる」問題発言です.「実際に安全かどうか」は神のみぞ知ることであり,正しくは「適法かどうかに随分幅があることが理解されていなかった」というべきなのです.事実氏の話の中身は「随分幅がある」ことの説明に終始し,「実際に安全かどうか」に関する氏の見解はありません.<しっかり>調べなければならない,と仰っているだけです.

これで話は少しすっきりします.「適法かどうかに随分幅がある」つまりグレーゾーンが随分大きいことを理解していなかったと言われたら,私は一言もありません.私がいかに「無知」であったかは,この『姉歯ショック』を最初から読んで頂ければあきらかです.でもなんだかおかしいと思われません? 口の巧い詐欺師にだまされているような気持ちになりません?

「0.5とか0.3という数字を見せられればビックリしちゃう」のは普通のカタギの人で,ビックリしちゃわない人は,グレーゾーンが大きいことをなんらかの意味で飯の種にしている裏の人たちです.裏の人といってもヘンな人とは限りません.大手ゼネコンに所属するれっきとした紳士もいるのです.



私が「無知」から脱したのは,3月7日の朝日スクープ記事によってです(06年3月14日掲載の「新計算法」).新計算法については今川氏の『文芸春秋2月号』の論説にあるように,批判的な意見が専門家の間で存在していたことは周知の事実だと思われます.

このスクープ記事を田原氏は4月9日のサンプロでとりあげ,「どれが正しいの」と北側大臣に聞き,「ひょっとして空騒ぎ」と聞き捨てならないことを口走りました.そして4月23日のサンプロでも同記事を再度とりあげました.2回とも田原氏は同記事の1面説明だけとりあげ,2面の説明は無視しました.

「新計算法」で書いたとおり,スクープ記事の1面は,「危険,一転安全に」の事例であり,2面の方は「安全,一転危険に」の事例です.田原氏が前者だけ取り上げたのは,マスコミは危険だ危険だと騒いだが,より高度な計算法で計算すると安全なのだ,マスコミが大騒ぎしたのは「空騒ぎ」なのだ,というストーリィが田原氏のお気に召したからだと私は推測します.しかし実は田原氏が無視した「新基準 手抜きの温床」という痛烈なタイトルの2面記事の方が重要なのです.

新計算法(限界耐力計算法)について神田氏は次のようなお話をされました.
米からの開放要求を受ける形で行われた98年の法改正時に,政令で定めた計算方法で計算して大丈夫なら安全とみなす(安全の定義)という考え方が導入された.従来の仕様規定から性能規定に考え方が変わった.限界耐力計算法というのは,大学院で専門にやっている人でないと理解できないような高度な計算法だが,法改正の目玉として導入された.

建築基準法では複数の計算法が認められていて,すべて同一だとみなしているが,実態とみなしの乖離が限界耐力計算法でバーンと広がった.
「実態」といっても「実際の」耐震強度という意味ではないことは上で注意したとおりです.「実際に安全かどうか」など誰もわからないのです.つまり氏は,みなしに関して,建前と実態が乖離していると指摘しているのです.旧計算法の世界では<みなしの幅>は小さかったが,新計算法が登場したとき<みなしの幅>が「バーンと広がった」と氏は述べているのです.

旧計算法の世界に限っても<みなしの幅>がかなりあることを指摘している技術者がいます(JSD徐光氏,『建築知識4月号』参照).これは後回しすることにして(徐光氏の連載は始まったばかりです),ここはひとまず神田氏の言うように新計算法が登場して<みなしの幅>が「バーンと広がった」ことにしておきます.


法が認めている設計法には4種類あり,それぞれに技術的根拠があります.それらによって求まる耐震強度は,根拠が違うのですから,結果が違っていてもおかしい話ではありません(というより違うのがむしろ当然です).大切なことは,設計者個人の工学的判断といった曖昧模糊とした理由で結果が違うのではなく,客観的ロジックの違いによって違うことです.

このように考えれば,計算法によって結果が違うことは,条件を一つ加えれば,たいした問題ではないことに気づきます.その条件とは,どの方法で計算したか,建物を購入しようとする人,建物に住もうとする人に情報開示するという条件です.



旭化成はコンクリートの圧縮強度を示すにあたって,<建築学会式による>という根拠を表明することを拒否しました.もし旭化成が,「圧縮強度は200kgf/u(建築学会式算出法による)で問題ない」と表明すれば,それは旭化成という企業が,甘い基準を採用してクレーム対応している企業であることの証明です.

住友不動産は,新計算法で合法的に基準を満たしているにもかかわらず,販売・契約を中断し,マンションの補強を始めました.これがスクープ記事の2面に載った「安全,一転危険に」の事例です.これも同じです.住友不動産は,日常的に甘い基準を採用している企業である,と思われたくはないのです.


甘いとか厳しいとかではなくどれが正確かと(田原氏のように)思われる人も少なくないでしょう.コンクリートの寿命に関して参考になる話があります.

『寿命すりかえ事件』でコンクリートの寿命を問題にしました.コンクリート寿命のもっとも簡便な算出法は中性化深さが鉄筋位置に達した時点を寿命とする,30年代の浜田式に始まる算出法です.これがいわば旧計算法です.

これに対して次のような考え方が存在します.中性化が鉄筋位置に達しても物理的強度に問題はなく(つまり中性化で物理的強度は劣化しないという前提に立っています),そこから鉄筋が錆び始め,錆びが膨張し,コンクリートがひび割れしてはじめて物理的強度が減少し,その時点が寿命であるとする考え方です.この考え方は欠陥コンクリートが問題になった80年代に表舞台に出てきました.こちらがいわば新計算法です.

耐震強度の新旧計算法の話と似ている点があることにお気づきでしょう.どちらも,ある状態を限界と考えるか,まだまだ大丈夫と考えるかで違ってくるのです.ある状態になったら限界と考える方が「厳しい評価」であり,「まだまだ大丈夫だ」と考える方が「甘い評価」です.そしてどちらも,「甘い評価」の方が技術的に高度な話になります.鉄筋腐食による寿命の算出には,個別の建物毎に,プロジェクトチームを結成する必要があるでしょう.一方中性化深さの方は拍子抜けするほど簡単で,やろうと思えば素人でもできます.

ではどちらが「正確」なのでしょうか.二つのマンションを想定します.マンション1は鉄筋位置までのコンクリートの厚さ(かぶり厚)は十二分にあり,マンション2のかぶり厚は非常に薄いとします.この二つのマンションを,それぞれ中性化深さと鉄筋腐食膨張で評価したら,どちらも40年になったとします(次表参照).

コンクリート寿命の計算値実際の寿命(ケース1)実際の寿命(ケース2)
マンション140年(厳しい評価:中性化深さによる)80年(評価は厳しすぎた)40年(評価は正確だった)
マンション240年(甘い評価:鉄筋腐食膨張による)40年(評価は正確だった)20年(評価は甘すぎた


さて実際の寿命はどうでしょうか.ケース1はコンクリート品質に問題がない場合の例です.マンション1は40年で中性化が鉄筋位置に達しますが,物理的強度に問題はなく40年は厳しすぎる評価だといえます.一方マンション2ではかぶり厚が薄いため20年で鉄筋が錆び始め,40年時点ではひび割れが発生していて,40年は正確な評価だったことになります.

欠陥コンクリートの場合はどうでしょう(ケース2).この場合中性化の進行とともに,コンクリート自体も劣化していきます.中性化で強度は劣化しないという前提が,欠陥コンクリートの場合崩れるのです.鉄筋が腐食する以前にコンクリートが腐食する例は,我が家の基礎でも見られます.つまり欠陥コンクリートの場合は,中性化深さに基づく寿命が正確であり,鉄筋腐食に基づく評価は甘すぎる評価なのです.

欠陥コンクリートであるかどうかは,建てた時点ではわからず,10年後,20年後に顕在化するのが一般的です.つまりケース1になるのか2になるのか,わからないのです.

こうして現実には,コンクリート寿命の評価にはほとんどの場合簡便な式(=厳しい評価)が使われます.なぜなら,80年もつものを40年と過小評価しても実害はほとんどありませんが,20年しかもたないのに40年もつと過大評価するのは非常に危険だからです.安全性に関わることで甘く評価するのは,おそらくどんな場合でも非常に危険です.


結局のところ,よくわかっていないのです.名著『コンクリートが危ない』を読めば,コンクリートの内部でいかに複雑なことが起こっているか,その一端を知ることができます.ニュートンやアインシュタインの例を出すまでもなく,本物の学者であればあるほど,わかっていないことの方が多いことを理解しているものなのです.これは耐震強度の場合も同じです.限られた知見をもとに,千差万別の対象建築物を高い精度でシミュレーションできるほど,技術は進歩していないのです.なにもかもわかっている筈,と考えるのは科学技術に対する過信です.

正確かどうかは誰にもわからないのに対し,甘いか厳しいかは,客観的に判断できます.そして使う側,買う側,住む側の立場から言えば,できる限り安全サイドに立った厳しい評価が望ましいのです.<大学院レベルでないと理解できない高度な技術を駆使した>と称する<甘い評価>にだまされてはならないのです.


同じ建物を新旧計算法で比較します.朝日スクープ記事の1面の新宿の投資用マンションの事例です.

耐震強度の評価
新宿の投資用マンション0.85(旧計算法・許容応力度等計算法による)
1 以上(新計算法・限界耐力計算法による)

新計算法が甘い評価であることを示しています.

同じ地盤に隣り合って建っている,中堅業者施工のマンションと大手ゼネコン施工のマンションにおいて,前者は旧計算法で後者は新計算法で耐震強度を算出したところ,いずれも1.0だったとします.どちらの建物が頑健でしょうか?

耐震強度の評価
中堅業者施工のマンション1.0(旧計算法・許容応力度等計算法による)
大手ゼネコン施工のマンション1.0(新計算法・限界耐力計算法による)

前者のマンションの方がまちがいなく頑健です.厳しい評価の旧計算法で基準に達しているからです.だからこそ住友不動産は,販売・契約を中断し補強工事を始めたのです.


以上の説明でも,まだ新計算法の方が正確でいいのではいないか,と思っている人がきっといらっしゃるでしょう.よろしい,新計算法の方が「正確」だとしましょう.そろばん時代の産物である旧計算法(とJSCAの大越会長は筑紫の番組で仰った)は廃棄することにし,すべて新計算法で計算するよう法を改めたとしましょう.

日本のマンションは,旧計算法で計算したら0.8程度の建物が大部分を占めることになるでしょう.これは何を意味するのでしょうか.

81年の法改正で,耐震基準はそれまでの0.8程度から1(いずれも旧計算法での評価であることはもちろんです)に上げられました.新計算法で一本化すれば,それは耐震基準を81年以前の耐震基準に戻すことと同じことになるのです.甘い評価法を標準にすれば,耐震基準を下げるのと同じ結果になるのです.


現在の耐震基準は厳しすぎるという主張が次のように変装して4月23日のサンプロで姿を見せました.

コメンテーター席のジャーナリスト高野氏が「建築関係の人から聞いた話で本当かどうかわかりませんが」と断りをいれた上で
日本の耐震基準というのは世界一厳しくて,姉歯氏が偽装したのもそのせいではないか.
と発言したのです.それまでの耐震強度の計算法の話から,突然,耐震基準を話題にし,姉歯氏の不法行為と耐震基準を関係付けることにより,暗に日本の耐震基準は厳しすぎると主張している点にご注目ください.


81年に耐震基準が上げられ現在の基準になったのは,直前の地震で痛い目にあったからです.厳しい基準では家が建たない後進国ならいざしらず,わが日本は技術立国日本です.そして日本は地震で何度も何度も痛い目にあっている地震国です.世界一だかどうだか知りませんが,仮に世界一厳しくても,それは当然ではありませんか.

偽装物件が全体の1,2割に達するほど多いのであれば,基準そのものに問題があるという話が出ても不思議ではありません.しかし偽装物件など,絶対数はともかく,全体の中での割合でいえばごくわずかなのです.「世界一厳しい」という耐震基準を,厳しい旧計算法でクリアしている物件が大部分なのです.

姉歯氏が偽装に走ったのは個人的理由によるものです.耐震基準うんぬんという姉歯氏本人も言っていない理由が,なぜ持ち出されてきたのでしょうか.それは誰に利する主張なのでしょうか.

耐震基準が厳しすぎるという主張の裏に,甘い評価法である新計算法を正当化しようとする意図があるのです.

耐震基準が厳しすぎるという意見を正々堂々と主張するまともな専門家はたぶんいないでしょう.まさに,「本当かどうかわかりませんが」という留保をつけ,誰の主張かわからない匿名の形で,提出されるのです.

コメンテーター席でお隣の慶應大K氏なら,なにを仰ろうと私は驚きませんが,高野氏ともあろう人が,影響力の大きい(?)番組で,大手ゼネコンが言いたくても言えないことを代弁したことは非常に残念です.もう一人のコメンテーターである大谷氏はさすがにこんな話には加わらず,なぜ別件逮捕かに関して,「国交省の失態を隠すための国策捜査だ」とコメントするにとどめました.



さて田原氏は再発防止策の目玉である第三者機関で,偽装はチェックできるの,と神田氏に尋ねました.神田氏は「できないと思う」と否定的見解を示した後,次のように述べました.
本来は指定確認機関でやるべきことなのですよ.やれる人がいればやればいいのですよ.
別の機関を作ってどうしてチェックできるとわかるのですか.
田原氏答えて曰く.「そうか,検査機関でできないものが,第三者機関でできるわけがないか.な〜んだ,どうしよう」.ここでどっと笑い声.田原氏はじめ皆どういうわけか実に楽しそうです.


偽装のチェックは本来検査機関がすべきであることは言うまでもないことです.しかし,神田氏は「やれる人がいればやればいい」と仰り,「やれる人がいるかどうか」に関しては一言も意見を述べていません.

検査官無能説は,検査官は設計実務経験がない等の理由により偽装のチェックはできない,だからたとえばJSCAのような専門家集団に検査を委託すべきだと主張します.「やれる人が検査機関にいるかどうか」に関して検査官無能説はきっぱりとノーと答えているわけで,旗幟はまことに鮮明です.神田説はその点あいまいなままですが,問題を「やれる人がいるかいないか」,つまり「人の問題」に帰着させている点で,検査官無能説と同じ穴のムジナです.


田原氏は神田氏のお話を,「検査機関でできないものが,第三者機関でできるわけがない」と理解しました.つまりどちらにも人はいないと考えているわけです.この理解が正しいかどうかの責任の半分は説明した神田氏にあり,こう理解されても文句はいえまいと私は思います.とにかく,田原氏は偽装のチェックは検査機関も第三者機関もできない,と理解したのです.こりゃたいへんだ,どうしよう,と思うのも無理はありません.

田原氏の混迷の度合いは,「事件を深く取材した」ジャーナリストと「本当の専門家」によって,より深まったように思われます.


事件発覚後非常に早い段階で,<再計算こそキーである>ことを,民間検査機関や有能な建築主事は理解しました.兵庫県の建築主事は発覚後わずか2週間の時点で次のように話しています(05年12月11日掲載分
国土交通省が求めている書類チェックでは巧妙な偽造が見抜けないと判断した
佐々木晶二・県まちづくり復興担当部長は「国が示したチェック方法自体が甘かった.偽造を見落とさないために,国が再計算を義務付けるべきだ」と話している.(毎日新聞12月3日付)
そして当の国交省も<再計算こそキーである>ことを骨身にしみて認識したことはまちがいありません.だからこそ,再発防止策として,その名もズバリ再計算センターを提唱したのです.


姉歯事件以前と以後で事情はまったく違うのです.

姉歯事件以前では偽装のチェックは確かにどこの検査機関もできませんでした.しかし事件以後はどこの検査機関でもできるのです.多くの検査機関は,姉歯事件によって<再計算こそキーである>ことを理解し,すでに対処しているからです.今後もし偽装を見逃し,「性善説」を持ち出して言い訳などすれば,被害者に鼻面をぶん殴られることは確実なのです.

検査機関のレベルは,事件によってすでに事件前の30点レベルから脱しているのです.誰のおかげでしょうか.アトラス設計渡辺氏,イーホームズ藤田氏の「告発」を受けて,国交省が事件を公表し,社会問題化したおかげなのです.日本ERIのように闇から闇に偽装を葬っていればこうはならないのです.

設計元請には構造設計士の出した結果をチェックする責任があることはもちろんです.事件以前なら構造設計士を信用していたからノーチェックだったという言い訳が通ったとしても,事件発覚以降はそうはいきません.罰則も厳しくなるでしょう.設計元請は,構造設計士の出した結果をチェックしなければならなくなっているのです.そしてそれはたいそうな話ではなく「誰でもできる」再計算で簡単にチェックできるのです.

こうして検査機関に提出された構造計算書は,すでに一度設計元請によるチェックが終わっているのです.確認検査機関は当然ながらもう一度再計算してチェックします.おわかりのように,これですでにダブルチェックになっているのです.この上さらに第三者機関によるチェックなどどうして必要でしょうか.


「な〜んだ,どうしよう」と田原氏が騒ぎ,どっと笑い声が起こった直後,神田氏曰く.
どういう仕組みにすべきかしっかり検討しないとだめなんです.第一姉歯さんがどういうことをしたか,まだはっきりしないのですよ.
またも<しっかり>検討しないとわからないです.オイオイと言いたくもなります.

偽装マニアでもあるまいに,「姉歯さん」がどういうパターンで構造計算書を偽装したか,詳細を知る必要があるのでしょうか.それがわからないと,偽装をチェックする仕組みは考えられないのでしょうか.神田氏が,もし本心からこう思っているとすると,神田氏こそ専門バカとよぶにふさわしい人です.

必要とされていることは,強度不足物件をチェックする仕組みです.それが悪意をもった偽装によるものであろうと,たんなるミスであろうと,住民側,購入者側からは同じことです.ワルであろうとマヌケであろうと同じです.強度不足物件をチェックする仕組みを考える上で,「姉歯さん」の偽装パターンの詳細を知る必要がどこにあるのでしょうか.

発覚後5ヶ月経っても,いまだにチェックする仕組みを<しっかり>検討しなければならないと仰る専門家がいらっしゃること自体,本当にゆゆしきことです.

5月8日の『ちちんぷいぷい』は「再検査補助制度 申請ゼロの不思議」と題するもので興味深いものでした.話の最後に作家のA氏が一言ポツリと「耐震偽装は誰がみてもわからないものですからネ」と仰いました.氏はおそらく4月23日のサンプロをご覧になり,そして田原氏同様きれいにだまされている,と私は思います.



すでに審議入りしている建築基準法,建築士法等の改正は何のためのものでしょうか.罰則規定以外は,姉歯事件とほとんど関係ないと思われます.第三者機関の設置など,国民の目を欺くためのものでしかありません.

今回の法改正は,従来から国交省やJSCAのような関係団体が変えたいと思っていたいろいろなことを手直しするのが主目的だと思われます.民主党は設計施工の分離という手垢のついた問題(5月3日の『ちちんぷいぷい』で毎日放送の元社会部デスクI氏は,今回が3回目のチャンスだと力説していました)を中心に据えるようですから,これも姉歯事件と直接関係する話ではありません.


国交省は次のように考えているのではないでしょうか.

たしかに現在の建築基準法があれをやれ,これをやれと規定している検査手順の中に再計算しろという項目はない,しかし再計算してはならないとも書いていない,姉歯事件で再計算実施が必須であることが明らかになった以上,再計算の制度化は,建築確認制度の行政上の最高責任者である特定行政庁が責任をもってすすめるべきことだ
これであれば建築基準法に手を入れる必要はありません.


国は国の責任をどう考えているのでしょうか.4月27日の毎日新聞の「国の責任どこまで」と題する記事に次のような一節があります.
制度の不備を放置してきた「国の責任」については(北側一雄国土交通大臣は)「制度上の問題と法的責任は別の話.司法の判断を待つ」と明言を避けたままだ.
被害者(たとえばホテルオーナー)が国を訴え,司法が国家賠償すべきだという判断を示さない限り,国の方から国賠責任を明言することはないという姿勢です.

水俣病事件もそういう経緯を辿りました.水俣病事件と比べて,姉歯事件は国に責任があることが歴然としています.だからこそ,国は事件発覚直後に80億というハシタ金を「公的支援」というインチキな名目で出すことを決めたのです.裁判で国は必ず敗れるでしょう.しかしそれはずっと先のことになります.こうして「沈黙と先延ばしの歴史」がまた繰り返されるのです.



 (以上06年5月11日夜 作成, 5月14日夜 加筆修正)



06年06月07日 隠ぺいの森に茂る木々



5月15日の月曜日,『建築知識』の5月号を読んでみようという気になりました(4月号は4月13日登録の建築基準法の穴で紹介しました).いつもの書店になかったので,別の書店で店員に「建築関係の雑誌はどこにおいてあるのですか」と尋ねました.「建築関係の雑誌?あっ,建築知識とかですか」.

これはちょっと驚きでした.「総力特集 マスコミ報道では知られざる真実」のおかげで,建築雑誌コーナーの場所すら知らない私のような人が『建築知識』を買っている例が他にもあったと思われます.案内された棚には,5月号が3冊も並んでいました.

5月20日土曜日,いつもの書店に囲碁の本を立ち読みするため寄ったところ,アレレ,5月号を買ったばかりなのに6月号が出ているではありませんか.4月号は半月遅れ,5月号はほぼ1月遅れで買ったようです.3冊あったのは売れ残り分だったのです.

5月号には,神田東大教授とJSCAの大越会長が顔写真入りで記事になっています.その他JSD徐氏と建設省OB戸谷氏による連載もの,国交省建築指導課担当者による見解などが載っていました.そして6月号には神田氏,戸谷氏,春原氏など「おなじみ」メンバーによる巻頭座談会,「銀髪紳士」中山氏の主張,民間検査機関の見解などが載っています.


まず建設省OB戸谷英世氏のお話しから.4月号の氏の見解に対しては,建築基準法の穴において批判的に紹介しました(戸谷氏を戸田氏と誤記した個所がかなりありました.訂正してお詫びします).5月号の戸谷氏の論説は次の一文で始まっています.
今回の耐震偽装事件は,建築基準法,建築士法,建設業法および宅地建物取引業法に欠陥があって発生したものではない.これらの法律の施行に重大な欠陥があったため発生したのである.
これはまさに氏の主張の核心です.氏は法に欠陥があったのではなく,法の施行に欠陥があったと主張します.すべての責は,確認検査業務の施行に責任を持つ特定行政庁,検査機関にあり,「公的支援」の80億というのは,国が一時的にたてかえて支払ったものであるというのが氏の主張であることは前に見たとおりです.

5月号の戸谷氏の文は次のように続きます.
しかし社会資本整備審議会基本制度部会建築分科会は,現行の建築基準法行政が,建築基準法どおり行われない理由を明らかにせず,その原因が建築基準法自体の制度的欠陥のように勘違いして,中間報告を行い,これを受けて改正案が提出された.
戸谷氏の主張が非常に極端なところに位置していることを,自ら表明しています.ところが驚いたことに…


左は6月号の巻頭座談会,すなわち「学識者,構造家,元建設官僚,元建築主事,被害者住民による緊急座談会」(出席者8名,うちグランドステージ東向島の住民代表3名)の先頭頁から採ったものです.

『建築知識』がつけた「キャッチフレーズ」すなわち「納税者である住民の財産は国家が補償すべき」には,ビックリしました.これなら私の主張と同じではありませんか(笑い).戸谷氏は座談会で次のように発言しています.

日本は憲法によって国民の納税義務に対して国家が安全の保障を約束し,それを行政法で担保しています.また建築基準法による検査済証の交付によって,マンションの使用が許され,保存登記,抵当権の設定ができ,不動産売買が可能になります.ヒューザーの小嶋社長が「検査済証が交付されたから売った」と言ったことは法律上理にかなっています.
 それを民事の問題から考えると,建物は瑕疵保証でしか守れないんです.瑕疵保証には,買い戻すということは基本的にないのです.しかし,建築基準法の話でいうと,契約に抵触するところがあれば,契約どおりにつくりなさいということになります.

これに対し「学識者」神田氏は,阪神・淡路大震災の時もそうであったように「国が本気で責任をとるとは思えません」とコメント.これに対して戸谷氏曰く.

そこに責任をとらせるのが法治国家維持のために最も重要なんです.行政の責任逃れは許せません.
「法治国家維持のため」とはまた,たいそうな言いようですが,欠陥法の制定に責をもつ「元建設官僚」の責任逃れは断じて許せません.

「キャッチフレーズ」は,出席者の4割を被害者住民が占める場における,「元建設官僚」のリップサービスです.氏は国が補償すべきなどとは,露ほども思っていないのです.

確認検査業務に従事した「個人」が責を負うべきだと,戸谷氏は主張しているのです(4月号).
確認事務は建築基準関係法への適合を確認する業務として規定されているため,その内容確認に欠陥があったという事実に議論の余地はなく,建築主事または建築確認検査機関および特定行政庁の担当者にすべての責任があったという事実は否定できない.


私は次のように批判しました(建築基準法の穴).
戸谷氏は,国交省が「10月28日の事件発覚以降,わずか2ヶ月余りで,800棟を超す耐震偽装マンションを再検討し,その耐震強度評価を仕上げた」と国交省の対応を持ち上げた後,次のように述べています.
それほど短期間にできた耐震強度判定を,確認検査機関である日本ERIやイーホームズが通常の確認でなぜ行わなかったのか.
イーホームズのあとに,<XXやYYやZZといったあれやこれやの検査機関も>という言葉があるものとして下さい.偽装が見抜けなかったのは2社に限りません.それどころか「通常の確認」によって偽装を発見した検査機関は,官,民問わず,日本でひとつもないのです.アトラス設計渡辺氏は「通常の確認」とは全く違うアプローチで見抜いたのです.
NHKでご覧になられたとおり,最大手の日本ERIすら構造計算ソフトを持っていませんでした.法が定める検査手順に再計算による確認というステップが存在していなかったからです.再計算せずして,いったいどんな手段で,基準に達しているか否か,すなわち<適法か否か>の審査が可能でしょうか.

建築主事や民間検査機関が<すべて怠慢あるいは無能だった>と考えるよりも,<検査手順を規定する法にポッカリおおきな穴があった>と考える方がずっと合理的です.法の施行に欠陥があったのではなく,法に欠陥があったのです.



「元建設官僚」は法に欠陥はないと主張しますが,それとは一見正反対の「極論」を吐く「学識者」がいます.それは他ならぬ神田順東大教授です.氏は法そのものが「諸悪の根源である」と主張します.

左は『建築知識5月号』より.氏は次のように述べています.
諸悪の根源は建築基準法だと私は考えています.そもそも最低基準を定めたものなのに,それ自体が複雑になり,計算方法も告示のなかで詳細に規定されています.そのため,構造安全の最低基準を満足すること,つまり「確認申請を通す」ことが大きなことと認識され「確認が通ればすべて安全」という状況ができたのです.
「諸悪の根源」としている中味に是非ご注目ください.欠陥があるからという理由では全くありません.基準法は複雑で計算方法まで詳細に規定している,「そのため」,「確認が通ればすべて安全」という状況になった,と仰っているのです.

人々は確認検査など通っていて当たり前だと思っています.市場に出ているマンションはすべて検査に通っている,しかしチャチなマンションもあれば,頑丈なマンションもある,さてどれにするか,と考えているのです.

検査済証は最低水準に達していることを示すだけであることなど,多くの人が知っています.「確認が通ればすべて安全」と考えるほどのお人よしは稀です.

確認さえ通れば<すべて>安全と考えているのは誰?
そう考えているのは一部の「業者」だけではないの?

人々が驚いたのは,「最低基準」の半分以下のものが堂々と売りに出され,そして「最低基準」の半分以下であるにもかかわらず,安全かどうか<しっかり>調べないとわからないと,主張する専門家の存在に驚いたのです.


法改正で導入される予定のピアチェックについてどう考えるかという問いに対して氏は次のように答えています.
どの程度安全か,また安全性が今の技術レベルに照らして妥当かどうかを判断する場合,同業者が別のプログラム・検証方法で評価するピアチェックは,非常によいことです.同時に費用が掛かるので,それを社会の仕組みとしてどのくらい建物の用途・規模までを取り込むかを検討する必要があります.ただし,建築主が希望すれば用途・規模にかかわりなく行うべきでしょう.規模の大きい建物は,その公共性からもお金をかけて安全を確認する必要があるでしょう.
4月23日のサンデープロジェクトにおいて,氏は「第三者機関」に対し否定的見解を述べました(ゆゆしき事).ところがここではどうみても肯定的見解です.注目すべきは第三者機関の性格を「どの程度安全か」を審査する機関であるとした上で,意見をのべていることです.否定的見解には「人がいれば」という留保条件がついていたように,この肯定的見解にも留保条件がついているのです.

サンプロで氏は次のように述べました.
事態を混乱させている原因の一つは,適法かどうかと実際に安全かどうかには随分ギャップがあることが理解されていなかったことがあると思われます.
5月号の氏の記事は次の言葉で始まります.
まずはじめに言いたいことは「構造安全や耐震安全の考え方には,専門家と一般の人には大きなギャップがある」ということです.
また氏は次のように述べています.
多様な方法で検証することはいいことです.許容応力度等計算で1.0を下回るものが,限界耐力計算だと適法になるのは問題だといわれていますが,本当の問題は適法か否かではなく安全か否かです(図).ですから多様な検証結果を示して,住民に使用の可否の判断ができる状況をつくることが重要なはずです.
神田氏が「適法かどうか」ではなく「安全かどうか」を論じようとしていることは明らかです.

耐震偽装事件は合法的建物の安全性に問題が発生したという事件ではありません.多数の不法な建物が合法的建物に偽装されて世に出ていたという事件です.氏は問題をすりかえています.

氏は次のように述べています(5月号).
形式的に数字だけ再計算しても,建物全体の安全性に与える影響を考えると,それはほんの一部にすぎません.にもかかわらず,「国が計算書を確認したから安全」とするのは危険です.「誰が設計をしてどのような方法で検証したから安全」とすべきです.そして,どのくらいのレベルの地震を想定し,どこでどのくらいの頻度を想定して設計しているかを丁寧に説明するのです.
神田氏にとって再計算など取るに足りないものです.なぜならそれは単に「適法か否か」を示すだけのものにすぎず,「安全か否か」を示すものではない,からです.


「安全か否か」を論ずべきというのは,いかにももっともらしい主張です.一つ忘れてならないことがあります.

我々は貴重な文化遺産が「安全か否か」を論じているわけではありません.そういう場合なら専門家を集めて金に糸目をつけずに検証すればそれなりの結論が出ます.そうではなく,我々は年に10万棟を超す新築マンションの「安全性」を,建築確認の枠組みの中でいかに検証するかを議論しているのです.


さて,「安全性」をいかに検証すべきか.神田氏曰く.「誰が設計をしてどのような方法で検証したから安全とすべき」.

「誰が設計したか」は関係あるのでしょうか? まさか氏が8年間勤務された竹中工務店が設計したものならOKで,「姉歯さん」が設計したものはNG,というわけではないでしょうネ.

「安全か否か」を検証する上で,誰が設計したかに配慮することは馴れ合いと予断に通じます.「誰が設計したか」はむしろ排除すべき情報です.

そうではなく,氏が触れておられない「誰が検証したか」こそ検証の本質です.なぜなら,「安全か否か」は検証する専門家の<立場>によって,しばしば正反対の結論が出るからです.「ユーザの立場」に立つ専門家なら,強度1.2のマンションでも「安全性に問題がある」という結論が出て不思議ではなく,「ゼネコンの立場」に立つ専門家なら,強度0.85のマンションでも「安全だ」と仰るでしょう.

「公平・中立な立場の専門家」というものが絵に描いた餅であることは,水俣病事件をはじめとする公害問題,航空機事故調査,アスベスト問題,コンクリート品質問題等々における専門家の振る舞いの中に枚挙に暇がないほど例があります.

神田氏は<しっかり>調べる必要があると仰るばかりで,「誰が検証すべきか」には触れておられません.神田氏自身は以下述べるようにユーザ側すなわち<危険を蒙る側>の立場に立つ専門家ではない,と思われます.


氏は「どのくらいのレベルの地震を想定し,どこでどのくらいの頻度を想定して設計しているかを丁寧に説明する」と仰っています.しかし<危険を蒙る側>の人にとって,そんな説明になんの意味があるのでしょうか.

この地域の地震は,従来は100年に一度だと思われていたが最新の知見では1000年に一度だとわかった,だからそれを前提に設計したと「丁寧な説明」があったとしましょう.だからどうだというの?それは従来よりも強度を小さくしたという意味なの?1000年に一度の地震が明日起こったら,設計者は責任をとってくれるの?

物理学者武谷三男氏は『安全性の考え方』の中で述べています.
確率とか統計とかは,社会全体としてものを考える時には意味があるが,自分が死ぬかどうか,という点では問題は別になる.
確率も統計も,保険会社にはきわめて有益な情報です.それに応じて地震保険料が変化するのは合理的です.しかしそれに応じて耐震強度を下げられては,<危険を蒙る側>はたまったものではありません.

車が衝突する確率は,ドライバーに大きく依存します.若年層の方が一般に運転は荒いので保険料が高いのは合理的です.しかし,もしトヨタ技術陣が,高齢化社会の到来とともに衝突確率は減少してきた,したがって衝突安全性のレベルを下げる,と発表したらどうでしょうか.衝突確率がどうであれ,ゼロでない限り,少しでも剛性の高い車を開発し,一人でも死者を減らすように務めることこそ,技術者の使命ではありませんか.

「安全か否か」の議論に,統計・確率を持ち出したことは,神田氏が<危険を蒙る側>に立つ専門家ではないことを強く示唆しています.


神田氏は旧計算法と新計算法で結果に差があることに関して次のように述べています.
技術なので差が出るのは当たり前ですが,本来どの程度まで建物の変形を許容するかは,技術者の経験の範囲で評価するもので,人によっても大きく結果が異なることがあります.そして結果が異なるならば,その結果を理解し,建築主・販売業者に分かりやすく伝えることが重要です.
まず後ろの文から.

安全に関することで切実な影響を蒙るのは,「ユーザ」です.「業者」にとっては,安全性など確認済証がありさえすればいいのです.最新の新計算法で計算したと手短に説明するだけで,彼らは納得するのです.住友不動産も説明を聞いて納得していたのです.

作家には自分の作品の説明責任などありません.構造設計士にとっても構造図がすべてのような気もしますが,もし説明責任があるとすればそれは「業者」相手ではなく,「ユーザ」に対してあるべきです.<しっかり>調べないとわからない,といった曖昧な説明では,一生に一度の買い物をする人に,鼻面を殴りつけられる事を覚悟すべきでしょう.

神田氏の眼は「建築主・販売業者」側に向かっていて,「ユーザ」側は無視したままです.


次に最初の文です.そもそも「技術者の経験」って何でしょうか? 何度も何度も大地震を経験し,ある値以上に「建物の変形を許容」することは危険であることを経験的に知っている,という技術者の経験なら私は信用します.しかし,そんな技術者って世の中にいるの?

氏がいう経験とは単にこれまで何十棟,何百棟,設計してきたが,問題なかったというだけであり,問題なかったのは,その間に大地震が<たまたま>起こらなかっただけのことではないの?

阪神淡路大地震の被害状況や(1回きりの)実大実験の結果を,詳細に分析し,一定の知見が得られたのであれば,それは広く技術者間で共有されてしかるべきであり,建築学会,JSCA等の諸団体そして国交省はその実現に責があります.

「どの程度まで建物の変形を許容するか」といった安全性に直接関わる事柄において「人によって大きく結果が異なる」ようなことは,<危険を蒙る側の立場>から言えば,絶対にあってはならないのです.

しかし神田氏は許容しています.これも氏が<危険を蒙る側の立場>に立つ専門家ではないことを示しています.


5月号の記事は,次の言葉で締めくくられています.
性善説・性悪説といわれていますが,結局構造は分かっている人でないと分かりません.分からない人があたかも分かっているかのようにするから問題になるのです.今回は構造技術者の職能を問われている面もあるので,それを育て確立していく必要があります.具体的には,構造設計者に説明機会をつくることで,信頼がおけるようになる.誰がやったかで質が決まるということは,厳然たる事実です.
「分かっている人でないと分からない」のは,構造に限らずなにごとにおいてもあたりまえの事であり無意味な言明です.しかし次の「分からない人があたかも分かっているかのようにするから問題になる」というのは注目すべき主張です.事件の本質がここにあるという主張です.

「分からない人があたかも分かっているかのようにする」って,国交省のこと?姉歯さんのこと?イーホームズのこと?それとも私のこと?

そうです.そこにはあなたも含まれているのです.「構造の専門家」以外は「み〜んな無知」でそれが姉歯事件の本質だという,4月23日サンプロでの魚住氏の主張に見事に照応しています.耐震偽装問題を「深く取材」したと称する「ジャーナリスト」は隣に座っていた神田氏の持論を代弁していたのです.


たとえ事務的・機械的なルーティンワークであっても,人によって丁寧に誤りなくできる人もいれば,まったく正反対の人もいます.「誰がやったかで質が決まるということは,厳然たる事実です」などと,あったりまえのことを,肩肘張って主張しているのはいったいなぜ?

姉歯事件を契機にそれまで陽の当たらなかった「構造の専門家」に種々の「説明機会」ができたことは,「厳然たる事実」です.その結果,「構造の専門家」は信頼をかちとれました?

他の人がどう思ったか知りませんが,マスコミに登場する「構造の専門家」は「専門バカ」ばかりだと私は思いました.


6月号の座談会において,「被害者住民」としてグランドステージ東向島の荻津氏は次のように述べています.
この問題について徹底的に戦いたいのですが,実際には僕らもどこまでリスクを負えるか,ということがあります.後先考えず,破産してもよいという気持ちでどこまでもリスクを負えると言うのであれば,いろいろな行動がとれます.しかし,実際のところはこうして働きながら,現在の家賃の2/3を家賃補助として受けながら行動しているのです.
 こうすることで最良の結果が得られるという道筋があれば,腹をくくって突き進むこともできるんです.そのためにも,力になっていただける専門家が必要なんです.特に建築関係団体などにももっと協力していただきたかったというのが本音です.
これに対し専門家の一人である神田氏は,次のように「第三者的」に答えています.
建築学会などもきちんと動けていなかったのは確かですよね.ただし,あの当時,いろいろなことが明らかになっていない時点で発言することは難しかった.といっても,今でもすべてのことが明らかになっているわけではありません.またこれはさまざまな議論の場でごちゃごちゃになっていることですが,適法か否かということと安全か否かを分けてきちんと議論しなければいけないと思います.
でました,お得意のフレーズが! が,しかし,この状況では,このフレーズに格別の味わいがあります.なぜなら強度0.31のまぎれもない違法マンションを買ってしまった人の面前で発せられたからです.

ぴゅーざーの「顧問構造家」が被害者住民を前に言いました.

「皆さん,パニックにならずに落ち着いてよく聞いてください.
適法か否かではなく,安全か否かが問題なのです.
安全か否かは<しっかり>調べないとわからないのです.」

怒った被害者住民は「顧問構造家」の鼻面を殴りつけました.
専門家が「適法か否か」ではなく「安全か否か」が問題だと主張したとき,そうか最低基準を満たしているだけでは問題なのか,適法だから安心と考えてはダメで,「安全か否か」が問題なのだ,と思うのが普通の素朴な受け取り方です.専門家が「ユーザの立場」に立つ人ならばそのとおりです.しかし神田氏はそうではないのです.

「安全か否か」は「適法か否か」を超えた高次の安全性の話ではなく,反対に「適法か否か」以下の低レベルの安全性の話にすりかわっているのです.この方向の行き着く先が,まさにサンプロでの「耐震基準は厳しすぎるのではないか」という「ゼネコンの立場」を代弁した高野発言です.


神田氏のこの「アドバイス」を被害者住民はどう聞いたでしょうか.自分達の味方になってくれる人ではないらしい,ことぐらいはわかったでしょう.


被害者住民は「破産してもよい」などと悲愴な覚悟をする前に,するべき事があります.

それは事件がなぜ起こったか,誰に責任があるのかを正しく把握することです.私は神田氏とは違って必要な情報はすでに十分明らかになっていると考えています.「国策捜査」の結果に期待する必要などまったくありません.

阪神淡路大震災の時は,個人の資産形成に税金は使えないという論理で金を出さなかった国が,今回は早々となぜ80億も出したのでしょうか?

国ははじめから「行政上の責任」というインチキな形ながら責任を認めているのです.そして「法の不備」で発生した「国賠上の責任」に関しては司法の判断に委ねる,と腹を括っているのです.まな板の上の鯉の心境にならざるをえないほど,国の責任は明白なのです.

どこまで進むかは被害者住民それぞれの事情と立場によります.しかし,少なくとも進むべき方向は明らかです.


「力になっていただける専門家」は「ユーザの立場」に立ってくれる人でなければなりません.それが絶対の必要条件です.しかし十分条件ではありません.

テレビの欠陥住宅番組は,相手が街の中小業者の場合「ユーザの立場」に立って手助けしてくれます.しかし相手が大口スポンサーである大手プレハブメーカーの場合はどうでしょうか.大手プレハブの欠陥問題をあなたはテレビの欠陥住宅番組で見たことがありますか?

大阪の「建築士の団体」は,欠陥基礎に対して最初親切に助言してくれました.しかし相手が旭化成とわかると,目に見えて消極的姿勢に転じました.


小林一輔氏の『コンクリートが危ない』の7頁に次のようにあります.
1984年5月のある日,私が関係していた学会の専務理事から電話がかかってきた.
「埼玉県下の公団分譲の団地で,建設後数年足らずのあいだに,建物の雨漏りやひび割れなどのトラブルが大規模に発生している.居住者は公団に補修を頼んでいるが,いっこうに改善される気配がなく,不安に駆られている.(略)なんとかめんどうを見てもらえないだろうか.」
「建物の調査だから,建築の先生にお願いするのが筋ではないか」と言ったところ,「何人かの先生にあたってみたが,どうも反応が思わしくないとのことだ」と言う.分譲者が日本住宅公団であり,しかも居住者のクレームに応えて,そのつど補修などをおこなっていたのであれば,この依頼におうじることは,公団の技術陣,場合によってはその後ろ盾の建設省の技術陣を相手にまわす覚悟が必要となる.建築の先生方が尻ごみするのもとうぜんのことと思われた.「少し考えさせてほしい」と電話を切った.
「力になっていただける専門家」は,「国を相手にまわす覚悟」を持った人でなければなりません.


ヒューザー小嶋社長が逮捕された翌日の日本テレビのワイドショーに,弁護士の吉岡和弘氏が出演していました.

氏はグランドステージ川崎太師住民の,公的支援ではなく国が補償すべきという意見を,自分の意見ではなく,あくまでも住民の意見として紹介しました.そしてアメリカで氏が最近調査したところインスペクタ制度がいかに有効か知った,小嶋社長も現場にインスペクタをはりつけていたら,偽装を発見できただろう,などと述べていました.

中間検査,完了検査で設計書偽装を検出することはできません.今回事件において工事検査の重要性を強調することは,建築基準法の欠陥から眼をそらさせ,国の責任を隠ぺいすることに,結果的になります.吉岡氏は国と対峙することに尻ごみしているように,私は見ました.



さて6月号の座談会には,「元建築主事」も出席しています.

もと東京都の専門副参事の春原氏は現在東京建築検査機構の部長です.この組織はそのいかめしい名前から私はてっきり公的機関だと早合点していましたが,6月号の記事によって純然たる民間検査機関であることを知りました.氏は建築主事から民間検査機関に「天下った」検査官だったのです.

なぜ検査機関が軒並み偽装を見逃したのかに関して,春原氏はどういう意見をお持ちなのでしょうか.
神田 でも構造計算は本来,民間確認検査機関や建築主事がみるべきものですよね??

春原 その通りです.(略)今回の事件で特定行政庁にも民間確認検査機関にも十分な構造計算の専門家がいないことが指摘されてしまったため,高度な工学的判断を要する構造計算は適合性判定機関の構造の専門家がチェックする,つまりピアチェックということになったのです.
氏は検査官無能説を受け入れています.無能説には法の欠陥を指摘する視点が完全に欠落しています.無能説からは「だから法改正よりまず構造の専門家を育成する仕組みをつくる必要がある」(神田氏発言)といった的外れの話がでてくるだけです.


春原氏によると「適合性判定機関」(以下これまでどおり「第三者機関」と呼ぶことにします)とは,構造の専門家が高度な工学的判断を下す機関です.したがって,氏の論理に従う限り,検査機関は「第三者機関」になり得ないはずです.

ところがなんと東京建築検査機構も「第三者機関」に立候補するつもりだそうです.その心は?

「年間10万件といわれる件数を処理するためには相当数の判定員が必要です.日常の設計業務を抱えるJSCA構造士からどの程度確保できるものか,人員不足が心配です」.だから「構造の専門家ではない」自分達も立候補するのだというわけです.あきれた話です.


ピアチェックについてはJSDの徐氏が鋭く指摘しています.
ピアチェックというのは調べてみると,同じレベルの構造技術をもっている設計者相互の構造の確認・提案なんです.偽装を防ぐための道具としては,ピアチェックは関係ないんです.
「第三者機関」というのは,国交省が提案した「再計算センター」が変形したものです.なぜ変形したか.JSCAなどが再計算だけでは不十分である,「安全か否か」もチェックすべきである,ピアチェックの要素も取り入れるべきである…云々と反対したからです.純粋に「適法か否か」を検査するつもりの「再計算センター」は,こうしてもっと高次の安全性を審査する「第三者機関」に変容したのです.

しかしいくらピアチェックという高尚な衣で隠そうとも,「第三者機関」の本質が再計算する機関であることは明らかです.村上周三建築学会会長がNHKテレビで解説した「第三者機関」の図にも「再計算」という言葉がしっかり入っていたではありませんか.

問題は,村上会長の図でも不明な,検査機関と「再計算」の関係です.国の改正案はどうなっているのでしょうか.

春原氏の解説によれば,ルート1は検査機関がみて,ルート2,ルート3,限界耐力計算(新計算法)などは「第三者機関」がみる,ということになっているそうです.

ルート1というのは,1次設計(許容応力度計算)のみ行うという81年法改正以前の計算手法です.ルート2とは1次設計+2次設計(層間変形角,剛性率,偏心率などの計算),ルート3とは1次設計+保有水平耐力の計算,だそうです.いわゆる耐震強度(Qu/Qun)はルート3で求まる値です.

ここで1次設計とは,(耐用年限中に数度は遭遇する)中地震に対して建築物の機能を保持することを目的としたものであり,2次設計とは(耐用年限中に1度遭遇するかもしれない程度の)大地震に対して,建築物の架構に部分的なひび割れなどの損傷が生じても,最終的に崩壊から人命を保護することを目的としたものです.

姉歯設計物件には1次設計レベルの基準を満たしていないものがあります.それらの耐震強度がいくらになるかは,2次設計しないと求まりません.ルート1でわかることは,81年法改正以前の基準レベルに達しているかどうか,だけです.

ルート2以上の再計算を必要とする申請件数が「ものすごい数になる」(春原氏談)のは確実です.「再計算」は「適法か否か」を検査する上で必須要件であり,一部だけ抜き取って「再計算」することは許されません.「全頭検査」が必須要件です.ここから春原氏が言うように,人員不足だから検査機関が「第三者機関」を兼業するという話がでてくるのです.実におかしな話です,それならはじめからルート2もルート3も検査機関でやればいいじゃないですか!


5月号で国交省が興味ある見解を示しています.
建築確認の現場では限界耐力計算(新計算法)を審査する場合,たとえば層間変形角をどこまでとるべきか判断が悩ましいときがあるという声を聞きますが
という問いに対し国交省建築指導課担当者は次のように答えています.
限界耐力計算の扱いについても留意していかなければいけないと考えています.建築基準法上の技術的基準としてさらに明確化すべきことがないか検討したいと思います.さらに,建築物の構造などによって適正な工学的判断が必要になる場合もありますので,建築確認時に限界耐力計算等を審査する場合には,規模に関わらず,すべてピアチェックという方向で検討しています.
同じ5月号に限界耐力計算法が全体に占める割合を民間検査機関10社にアンケートした結果がでています.それによれば,2社が5%,3社が1〜5%,2社が1%未満,2社が0%(残り1社は受け付けていない)となっています.アンケートには新計算法に関して検査機関が感じている疑問,問題点がいろいろ書かれています.たとえばヒューローベリタスジャパン社は次のように述べています
安全限界変位の設定などに法的しばりがなく,設計者の判断に委ねられている.
「高度な計算法」である新計算法は「検証に時間がかかる」(国交省)し,計算ソフト自体も法外価格(?)だと思われます.しかし,さいわいにも件数が少ないので,全件を「第三者機関」でピアチェックして再計算する事は不可能ではないでしょう.この場合に限り検査料がいくら高くても私はかまいません.


もしこの「国交省建築指導課担当者案」が,旧計算法は検査機関が再計算し,新計算法だけ「第三者機関」がピアチェックして再計算するというものであれば,私はもろ手をあげて賛成です.

しかし実際の国の改正案は春原氏が説明したとおりだと思われます.なぜなら,合理的に見える「国交省建築指導課担当者案」なら,「第三者機関」は,耐震偽装を再発防止するためのものでなくなるからです.

もともと「第三者機関」というのは,建築基準法にポッカリあいた大きな穴の存在から国民の眼をそらせることを目的として,再発防止の機関として提案されたものです.多くの国民は,「第三者機関」こそ耐震偽装の再発防止機関であり,それができるまでは偽装が防げないと,いまだに思っているのです.ところが「第三者機関」が,耐震偽装事件とまったく関係のない新計算法をピアチェックするためのものだとわかったら,いったいどうなります?国が真っ赤なウソをついてきたことが国民にバレルではありませんか!


長野県,兵庫県,愛知県等の建築主事たちは,四半世紀前の基準を満たすかどうか調べるために再計算しているの?
そんなバカな話はありません.現在の基準に達しているか調べるために再計算やっているのです.

やる気のある自治体がすでに耐震強度の再計算を行うことを決めているのに,誰が,なんのために,ルート1だけ再計算するという案を出したの? 国の欠陥隠しに便乗して「1粒で2度おいしい」を狙っているのはいったい誰?



春原氏は座談会の「構造計算プログラムは是か非か」という驚くべき(!)タイトルの節の中で次のように発言しています.
(今回の改正では)一貫計算プログラムは認定しないようです.応力計算など部分的な計算プログラムだけを認定対象にします.このような状況では,偽装する動機は少なくなるのではないでしょうか?
氏はまた次のように述べています.
多くの人の一致した意見として大臣認定プログラムの一貫構造計算プログラムは偽装を助長するものになるからやめたほうがいいということです.
一貫構造計算プログラムが偽装を助長する,などというおかしな意見が,「多くの人の一致した意見」???


6月号に「銀髪紳士」中山明英氏の「偽装冤罪事件はこうして作られた」と題するインタビュー記事があります.その中に熊本市の建築指導課から,中山氏に対して,「二次設計のアウトプットは再検証したものがあるので,一次設計のアウトプットを用意してくれないか」と要請があったという話が載っています.

一次と二次は,一次がNGなら二次も当然NGで,一次がOKでも二次はNGの可能性があるという関係であり,上の話は,一貫プログラムは二次の結果だけ出力するようになっている事を示しています.(一次の結果を出していないのは,技術以外のクダラナイ理由に違いありません.)

熊本市の要請は,まさにルート1だけ見るつもりの検査機関に,一貫プログラムを用いた申請があった場合に何が起こるかを,具体的に示しているものではありませんか.こう考えると春原氏の話の真意が見えてきます.

一貫プログラムで申請されると,ルート1だけみるつもりの検査機関はお手上げになる,だから一貫プログラムに「偽装を助長する」という濡れ衣を着せて,使わせないようにしよう・・・

自分達の都合だけ考えている老害検査官の歪んだ主張によって,構造計算ソフトが使い勝手の悪いものに改悪され,構造設計士の活動が制約を受けようとしていることに注意すべきです.


この文脈で渡辺邦夫氏が発言しています.氏は構造設計集団(SDG)代表で,「松井源吾賞,JSCA賞など受賞歴多数」の「構造家」です.

「構造計算プログラムは是か非か」で氏は次のように述べています.
この事件は,構造計算プログラムに尽きると思うよ.この問題の本質はこのプログラムにあるのであって,そのプログラム自体を見直していかないといけないと思う.プログラムの問題さえ解決すれば,これほどまでに法改正をする必要はないんだよ.
 それに,12階の建物を構造計算をやるには5年くらいの修練がなければできないにもかかわらず,既製のプログラムなら構造を理解していない人間が安易に構造計算できてしまう.ここが一番の問題なのだ.
東京オリンピックの頃なら「12階の建物を構造計算をやるには5年くらいの修練がなければできない」というのはまぎれもない真実だったと思われます.「そろばん時代」は構造計算はたいへんな作業だったのです.

しかし現在においては「既製のプログラムなら構造を理解していない人間が安易に構造計算できてしまう」のがまぎれもない真実です.「構造を理解していない」検査官でも「安易に」再計算できてしまうのです!「再計算は誰でもできる」のです.

で,それがなぜ「一番の問題」なの?構造計算できることが構造設計できることを意味するの?もしそうなら「構造家」はいずれ消え去る運命にありますが,そんなハズはないんでしょう,渡辺殿.

「構造家」はユーザ要件からどのような構造にするか<創意をもって>設計し,構造図が作品なんでしょう.構造計算なんて,構造図の情報を入力に強度を出力する機械的手順にすぎないんでしょ.ブラックボックスでいいんでしょ.

グラフィックアーティストは,毎日使っているソフトがどんな手順で処理しているか,知ってる?建築士が構造計算の原理を知っているほどには原理を知らないでしょう.しかしそれは彼の作品が優秀かどうかとは,全く無関係です.


一貫ソフトなど一度も使ったことがないに違いない元建築主事に,ベテラン設計家がまんまとたぶらかされているような気がします.



6月2日の夕刊に,東京都八王子市の旧都市公団が89年に分譲したマンション1棟の強度不足問題が報じられました.この強度不足問題は次の点で注目すべきです.

一つ,構造計算書がない(実に1879棟分もの構造計算書を都市開発機構は紛失した)ため,構造図をもとに再計算した事例であること,二つ,住民側の依頼を受けてJSCAが検証したこと,三つ,JSCAは6階が基準の58%,1階から5階が65%であるとしたのに対し,都市開発機構側は「1階から6階までは基準をクリアしていることを確認している」と主張して対立していること.


再計算はこの事例のように構造図があれば可能です.構造計算書は偽装があったかどうか知るには必要ですが,強度不足かどうか知るには,構造図があればいいのです.(この他4月号にはJSD徐氏が姉歯物件で構造図を元に再計算した例が載っています.)

偽装だろうと,計算ミスだろうと,住民側からみれば同じです.姉歯事件は計算書偽装事件として発覚しましたが,いまやより広く<設計強度不足事件>としてとらえなければならないのです.設計強度が不足している物件は,欠陥検査手順のため,存在してはならないのに多数存在しているのです.


JSCAやその他「建築士の団体」は,計算ソフトを持っていない自治体や検査機関からの再計算依頼で,大忙しでした.「第三者機関」の予行演習(?)です.しかしこの八王子市の案件でJSCAが果たした役割は全く違います.

JSCAは住民側からの依頼に応じて再計算したのです.建築確認という行政の枠組みの中に組み込まれた下請け的活動ではなく,「ユーザの立場」に立った活動なのです.私はこの件でJSCAが果たした役割に,そうそう捨てたもんじゃないという可能性を感じます.

「構造家」渡辺氏は座談会でこんなことを述べています.
マンションの宿命として,構造設計者にとって本当のエンドユーザーの顔が見えないということ.デベロッパーがクライアントになってしまう.だから,クライアントが壊れてもいいから安いものをつくれと言われたら,断りにくい構図です.
重要な指摘です.どうすればユーザの顔が見えるでしょうか.この旧公団案件のような「欠陥住宅問題」に参画して経験を積むことも一策です.<危険を蒙る側>にとって安全性がいかに大切な要件であるか,骨身にしみてわかるでしょう.そのような経験のない設計士にいくら倫理を説いても,クライアントからのプレッシャに抗することはできないでしょう.

渡辺氏だけでなくJSCAの大越会長も,エンドユーザという言葉を多用されていますが(5月号),末端ユーザという言葉を無反省に使うような意識ではだめです.コンピュータのソフトの世界では,エンドユーザはほとんど死語になっているのではないでしょうか.エンドユーザではなく,ユーザです.


さて同じ構造図をもとに同じ旧計算法の枠組みで(たぶん)同じソフトを使って,なぜ,かたや58%,こなた100%なのでしょうか.

北側大臣は「極めて遺憾.機構は解決に向け取り組んでほしい」と機構側にげたを預けていますが(日経夕刊),私は国交省が黒白つけてその結果を公表すべきだと考えます.なぜなら同種の再計算をめぐるトラブルが今後も発生するに違いないからです.今までトラブルなしだったのは検査機関が再計算していなかったからです,もちろん(笑い).


熊本の「偽装冤罪事件」が最初のトラブル事例です.行政側が再計算の結果,中山氏設計の物件で0.5を切るものがあると公表したのは2月8日のことです.中山氏はすぐに事務所で再計算し1.0以上であることを確認した後,翌日に県に資料を提出しています.結局2月14日に,熊本市は再計算ミスを認めました.市の依頼で中山氏物件を再計算したのは「建築士の団体」(JSCAではない)のX氏です.

中山氏は再計算ミスを次のように見つけたと述べています(6月号).
「(X氏が再計算に使った入力データを)プログラムに入れて計算したところ平面形状が私たちの構造計算書の控えに付けたものと違っていることが分かったんです.」
「入力データから図面化するソフトを使って梁のリストなどを出力して,本来私たちがつくっていた構造図と対照しました.すると鉄筋の太さも本数も私たちのものとまったく違うんです.」
「ほかにも主筋の違いやSTP(あばら筋)の違いなど多々見つかりました.」
中山氏はインタビューの中で,再計算者は「設計者の判断」が分かっていないからミスした,と取れる説明をしています.しかしミスがあったのは,鉄筋の太さ,本数など「構造図」に含まれる情報であり,設計が分かっていない云々というより,「構造図」から再計算用の入力データを抽出する際にミスしたという単純ミスのように思われます.

行政側は多数の物件の再計算作業を,「建築士の団体」およびJSCAに,「マル投げ」しました.時間に追われる中で,入力データの抽出でミスするという「初歩的ミス」を犯したのでしょう.しかし

中山氏が,「(建築士の団体は)構造を再検証することの社会的立場に対する自覚がまったくなかった」,「熊本市が再検証の計算ミスを認めているのにもかかわらず,(建築士の団体)はそれについて説明する責任はないというのです」と批判しているのは正当な批判です.自分の「作品」が,「匿名」の建築士によって0.5以下と断定され,即マスコミに公表されてしまってはたまったものではありません.


さて八王子市の旧公団物件の方です.熊本市の場合と同様に,こちらも技術的に黒白つけるべき問題であり,そのためにも,機構側は,問題なしと主張しているプロが誰であるか,まず公表すべきです.「匿名」のプロが無責任な主張をすることは許されません.

公団の建物は建築確認を免除されているようで,この建物も審査を受けていません.免除されているのは,最低基準である法の基準は当然満たし,さらに高い水準で安全性を確保している,ハズだからでしょう.だとすると,JSCAは<適法か否か>を超えて<安全か否か>まで踏み込んで,公団側を追及してもいいと私は思います.

この旧公団マンションは「この地区のマンション46棟では鉄筋不足などの欠陥工事が次々と発覚し,20棟を建て直す事態となっている」というムチャクチャヒドイ欠陥マンションです.設計だけまともだったとはちょっと信じられません.


熊本では検査機関側が再計算ミスして,正常物件を強度不足物件として公表してしまいました.反対に偽装物件を再計算ミスして見逃すこともありえます.民間検査機関のヒューローベリタスジャパンの佐々木氏は,ミスを犯した場合について次のように述べています(6月号).
建築確認業務はすべて人のやることですから過ちはありえます.過ちを犯したら即それが処分となるのではなく,定められたプロセスのなかで結果責任と過ちを犯した事象に対しどんな対処をしたかに関し,公開で調査,究明し白日の下で処分を決定するシステムが必要だと思います.これらの情報を関係者が共有することで,同種の過ちの再発防止にもなると思います.
公開で調査,究明し白日の下で処分せよ! すばらしいメッセージです.密室でごちゃごちゃやってイーホームズの免許を取り消した国交省官僚諸君,聞いてます?

イーホームズは「過ちを犯した事象に対し」非のうちどころのない立派な「対処」をしたではありませんか.もし多数見逃したという結果責任をいうのであれば,旧建設省住宅局長,現再生機構理事のオガワタダオ氏こそ最大の結果責任を負うべきではありませんか.


(以上06年06月07日 昼)




06年06月30日 真っ赤なウソ



前回6月7日登録分の中で,ある弁護士について次のように触れました.
ヒューザー小嶋社長が逮捕された翌日の日本テレビのワイドショーに,弁護士の吉岡和弘氏が出演していました.

氏はグランドステージ川崎太師住民の,公的支援ではなく国が補償すべきという意見を,自分の意見ではなく,あくまでも住民の意見として紹介しました.そしてアメリカで氏が最近調査したところインスペクタ制度がいかに有効か知った,小嶋社長も現場にインスペクタをはりつけていたら,偽装を発見できただろう,などと述べていました.

中間検査,完了検査で設計書偽装を検出することはできません.今回事件において工事検査の重要性を強調することは,建築基準法の欠陥から眼をそらさせ,国の責任を隠ぺいすることに,結果的になります.吉岡氏は国と対峙することに尻ごみしているように,私は見ました.
青で示した言葉が私を刺激しました.しかしインスペクタをご存知の方の中には,本当にそんなことを言ったのかと思われた人がいらっしゃるに違いありません.


その後吉岡氏は朝日新聞の「私の視点」欄に<行政が「現場」でしっかり見張れ>と題する投稿を寄せました(6月12日付け朝日新聞).吉岡氏は次のように論を展開しています.

1.今国会で審議中の耐震偽装事件の再発防止策には「場当たり的」との批判が続出.

2.「私は再発防止の決定打は「行政」が「現場で見張る」ことだと考えている」.(左の写真参照)

3.欠陥住宅の多くは工事現場での手抜きが原因であり,手抜きは現場で見張れば防止できるからである.

4.「「現場で見張る」体制が確立されれば,姉歯元建築士のような計算書の偽装は現場で容易に見破られる.」(左の写真参照)

5.なぜ「行政」に期待するか.規制緩和の「先進地」アメリカでは「行政」が「現場で見張る」システムが確立されているから・・・だそうです.

6.カリフォルニア州のインスペクション(検査)制度を「見聞」した結果の紹介.(後述)

7.日弁連は今年2月に建築主事のもとで現場検査を行う「住宅検査官」制度の導入を提言.(後述)

私の前回の引用がウソではなかった(笑い)ことがお分かりいただけたでしょうか.吉岡氏はこれこのとおり「小嶋社長も現場にインスペクタをはりつけていたら,偽装を発見できただろう」と,まじめな顔をして,語っておられるのです.


今年はじめに登録した「品質不良」において,耐震偽装マンションといわゆる欠陥住宅を比較しました.従来の欠陥住宅のほとんどは,施工品質・材料品質不良が原因であるのに対し,耐震偽装マンションは設計品質不良が原因で,いわば新型の欠陥住宅なのです.

たしかに吉岡氏が言われるとおり,「欠陥住宅の被害事例の多く」が,「工事現場で手抜きがなされ」た為であり,「現場で見張る」体制が確立できれば手抜き工事は撲滅できるでしょう.しかし,「計算書の偽装」は手抜き工事ではなく「手抜き設計」なのです.手抜き設計は,施工に支障をきたす「ドジな」手抜きの場合を除き,現場でいくら工事を見張っても見破ることはできないのです.工事現場での見張りとは<設計書どおり施行されているか見張る>ことだからです.

「現場で見張る」ことにより計算書偽装が「容易に」見抜けるという吉岡氏の主張(4)は完全な誤りです.



吉岡氏は投稿の後半で次のように述べています.
私は先日,米ロサンゼルス市の建築安全局(LADBS)と全米建築基準協会(ICC),民間の検査会社や建築工事現場などを訪問し,カリフォルニア州で採用するインスペクション(検査)制度を見聞した.例えば,ロス市は厳格な耐震基準を定め,戸建て住宅については同局職員が各工程ごとに6ないし8回,現場で施工をチェックし,工事に問題があればその場で工事の改善命令を発し(以下略)
アメリカの検査制度に関する解説は,多くの本に載っています.たとえば小林一輔氏は『コンクリートが危ない』の付録で「日本版スペシャル・インスペクター制度」という節を設けて説明しています.この本は99年刊で,官が確認・検査を行っていた時代です.小林氏は当時の状況を次のように述べています.
日本の現状はどうなっているであろうか.建築確認や完工検査などの住宅検査制度はある.しかし,建築確認は建築基準法に合った設計図を出せば済み,チェックはゆるい.施工後になると,行政側が現場に出向いて検査する実例はほとんどなく,現場まかせが実情である.完工検査も施主が完了届けを出さない場合が多いことから,実際にはなされない例が多い.
「そもそも官から民へが問題だ」と主張する人たちは,官の時代がこんな状況であったことをきれいさっぱり忘れ去っています.小林氏は続いて次のように述べています.
しかし,わが国でも,アメリカのような制度の確立を目ざした動きが活発である.

1998年6月に,建築基準法の改正法案が国会を通過している.改正の主な骨子は,(略)建築確認と検査手つづきにおいて,建築着工と完了検査のあいだに,「中間検査」を導入したこと,これまで特定行政庁の建築主事がおこなっていた確認・検査業務について,新たに必要な審査能力を備える民間機関(指定確認検査機関)も実施できるようにしたこと,の二点である.

アメリカのように施主が直接雇用するスペシャル・インスペクターのようなシステムとはやや様相を異にするが,現状改善に向かっての第一歩として今後の展開に注目したい.
小林氏は「現状改善に向かっての第一歩として」法改正に希望をつなぎました.しかし結果はどうだったでしょうか.

建設省OBの明海大学教授松本光平氏は05年12月4日のNHK日曜討論で「とくとくと」述べました(「新計算法」参照).

「英米では中間検査を7,8回行っている.しかし日本では業界がコストがかかると難色を示した為,1回だけになってしまった」
ちなみに吉岡氏は北側大臣,建築Gメンの会会長と共にこの番組に出演しています.吉岡氏は建設省OBの言ったことの裏をとるために訪米した・・・? さすがにそれはないと思われます.


小林氏は上記「日本版スペシャル・インスペクター制度」の中でアメリカの検査制度について次のように説明しています.(項番は私が振ったものです.)
(1) アメリカでは,建築に際して詳細な設計図がつくられ,行政担当者(Building Officer)はそれが建築法規に合致しているか否かを入念にチェックし,合致していない場合は着工を許可しない.

(2) 許可が出されて施工に入ると,こんどは設計図どおりかどうかを,市の検査士であるシティ・インスペクターが,現場に何度も出向いて検査する.そして一定規模以上の工事や,学校など特別の場合には,有資格の民間のスペシャル・インスペクター(特別検査士)が,シティ・インスペクターの監督を受けつつ,現場に常駐して検査・監視する.違反があると,再度の検査がパスするまでつぎの段階に進めないうえ,罰金の制度がある.

(略)(スペシャル・インスペクターは)もちろん,ゼネコンとのあいだには利害関係はなく,全面的に検査に対する責任をもつ.歴史は古く,およそ60年にもなっており,これにより建物の品質管理,構造体強度の信頼性向上などの向上につながっている.

(略)このようにアメリカでは正しい設計図にのっとり,コンクリート強度の管理,鉄骨の溶接,高力ボルトの締め付けなどについては,かならずインスペクターを必要とする.
(1)は設計図が「適法か否か」を審査するフェーズであり,耐震偽装事件で問題になったのはまさにこのフェーズです.アメリカでは「行政担当者(Building Officer)」が設計図を審査します.「行政担当者」の役割とインスペクターの役割は全く違います.

(2)がインスペクターに関する説明です.インスペクターは,設計図どおり施工されているかどうかを検査・監視します.市の検査士であるシティ・インスペクターは<現場に何度も出向いて検査>し,一定規模以上の建物などに対しては民間のスペシャル・インスペクターが<現場に常駐して検査・監視>します.

民間のインスペクターは<全面的に検査に対する責任>を負います.と同時に大きな権限を持っています.この制度には長い歴史があり,日本の「場当たり的」制度とは対照的です.

一口に「設計図どおりかどうか」といっても,実はたいへんな作業です.それは例に挙がっている<コンクリート強度の管理,鉄骨の溶接,高力ボルトの締め付け>の一つ一つを思い浮かべるだけで想像できます(不法加水の監視は,「コンクリート強度の管理」の一細目にすぎません).手抜き工事を撲滅するのはたいへんなのです.

日弁連が提唱した住宅検査官制度(上記の7)は,吉岡氏の説明によると「全国各地で活躍する建築士に検査員の資格を付与し,建築主事のもとで現場検査を行う」ものです.これは「有資格のスペシャルインスペクターが,シティインスペクターの監督を受けつつ,現場に常駐して検査・監視する」というスペシャル・インスペクター制度の焼き直しだと思われます.



さて吉岡氏はアメリカのインスペクション制度を「見聞」なさった結果,インスペクターの役割の重要性を強調されました.しかし,ちょっと変ではありませんか?

訪米されたのはつい「先日」です.耐震偽装事件が日本の建築行政の根幹を揺るがしている状況の最中に,氏は訪米なさったのです.訪米の目的が,アメリカにおける設計図書の審査実態,つまり小林氏の言葉を借りると
アメリカでは,建築に際して詳細な設計図がつくられ,行政担当者(Building Officer)はそれが建築法規に合致しているか否かを入念にチェックし,合致していない場合は着工を許可しない.
の部分が実際どう行われているか視察する,ことにあったと推測するのが自然です.で,その結果は?

日本人は何事においても欧米,とりわけアメリカがどうなっているのか,非常に気にします.しかし,不思議なことに,私はこれまで,アメリカにおいて設計図書がどのように審査されているか紹介されているのを見たことがありません.その意味で吉岡氏が「米ロサンゼルス市の建築安全局(LADBS)と全米建築基準協会(ICC)」などを視察されたのは実にタイムリーで興味津々です.

ところが非常に残念なことに,吉岡氏はこの点に関して何も報告されていません.氏の報告は従来からよく知られていた施工フェーズのインスペクターに関することだけであり,設計フェーズの審査には一言も触れておられないのです.変ではありませんか.



4月1日の教育テレビのETV特集において,東京千代田区の建築主事が設計図書を審査している場面が映っていました.構造図の数値と構造計算書の入力データの間に矛盾がないか,チェックしていました.建築主事曰く.「これだけ細かくチェックして偽装がようやくわかるかどうか,です」.テレビ席の私は思わず突っ込みました.それだけではわからんだろ,チェックしたデータで再計算しない限り,偽装はわからんだろうが・・・と.
蛇足ながらこのETV特集にはもっと重要な話があったことは「建築基準法の穴」で紹介したとおりです.
この建築主事がやっている作業は実はくだらない単純作業です.しかし,日本の紙資料ベースの審査制度のもとで,再計算を意味のあるものにするためには,この単純作業が不可欠なのです.なぜなら(施工フェーズの検査で使用する)構造図に記載されている,たとえば鉄筋の太さ・本数と,異なる太さ・本数で再計算しても,それは何の意味もないからです(熊本の事例のように).


4月27日の朝日新聞は京都府と神戸市の建築主事の仕事ぶりを次のように報じています.
京都府は今月1日,構造計算書の再計算を手がける10人の専門チームを土木建築部に新設.00年4月以降に建築確認した3階建て以上の建物130件について,構造計算をやり直している.

府は昨年末,舞鶴市や京丹後市のホテルにいったん安全宣言しながら,10日後に撤回した.その教訓を得て,態勢を強化したが,これまでに再計算できたのは10件ほど.府建築指導課の担当者は「構造力学を理解し,建築技術の進歩に対応するには時間がかかる」と漏らす.

神戸市も同じ悩みを抱える.02年度以降に建てられたビルなどの再計算を昨年末から進めているが,4ヶ月を経た今も,対象となっている128件の半分も終わっていない.
これらの自治体における再計算能力は,2日から3日で1件ということがわかります.「構造力学をよく