『ニューロマンサー』 ウィリアム・ギブスン 著

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SFは映像では、作り手のイメージに浸ることがその楽しみのうちの大きな1つである。
作り手が紡ぎ出す映像に、あれやこれや考えず全くの受け身で浸る。
「よくもまあこんなの映像化したよな」っていう街だったり、惑星だったり、電脳世界 だったりに素直に驚き、わくわくする。 それがやはり楽しいのである。

そして、一方、活字では、作り手のストーリーに自分のイメージをのせて滑るように楽 むことがメインとなる。 その自分のイメージというものについて考えてみると、それは、 今までの人生でどんな SFを摂取してきたかを明らかにしてしまうという面白い特徴も持 つことに気付く。

自分が想像し得る奇想天外な未来なんてものは、結局、自分が見聞した誰かの描いたもの の上に存在するからだ。
純粋に個人の中から生まれるものではなくその時、その時代を色濃く反映してしまうこと の方が圧倒的に多いのだ。
本書『ニューロマンサー』を再読してみてそんなことに気付いた。

今現在の僕の『ニューロマンサー』の世界観は
古くは 『ブレードランナー』 から
新しくは 『マトリックス』
そして、 『AKIRA』
『フィフス・エレメント』 なんかがごちゃまぜになっているし、

しなやかで、攻撃的なヒロインのモリイは
『マトリックス』のトリニティのようであり
『COBRA』のレディのようであり
『甲殻機動隊』の草薙素子のようであり
その機械仕掛けの妖艶さは、さながら空山基ワールドから抜けてきたようでもあるのだ。

それは明らかに『マトリックス』を知らない高校生の時分の僕のイメージするものとは 全く違う世界観であることは言うまでもないのだ。
つまりは、この『ニューロマンサー』という作品は、他のSFを触媒として、絶えずその 人のなかで広がっていくバーチャルな世界だといえるのではないだろうか。

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ちなみに、この『ニューロマンサー』という作品はいわゆる”サイバーパンク”という ジャンルを作った金字塔とも言われている。
主人公のケイスは”スペースカウボーイ”という凄腕のハッカー。
彼は作中で 「すべては肉、すべて肉体の欲求」と吐き捨てるように言う場面がある。
そこから見えるのは極端な精神重視、ニューロ偏重。
そして、彼が”没入(ジャック・イン)”するのは無限に広がる電脳スペース、 肉体か ら解放される世界なのである。
そして、 「錠剤(ピル)を飲むの、忘れなきゃ大丈夫」なんてある娘がいうところからは、 八十年代のアメリカのムーブメントを感じる事ができる。

つまり、マトリックスの主人公ネロが迷いこんだ、あのマトリックスは、肉体を凌駕する 超意識の発端はこの『ニューロマンサー』にあった、そして、それはヒッピーの渦巻く、 あの八十年代のアメリカですでに産声をあげていたと言う事ができるのである。
その全てのはじまりであると言われるこの『ニューロマンサー』も、そのフォローワー である様々な作品を摂取することで、また、イメージがクリアに形成されていくところに
このジャンルの面白さがあるのかもしれない。

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SF小説は敬遠される方も多いのではと思うが、意外に思想じみたものが多い。
例えば 映画『ブレードランナー』の原本の 『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』も映 画よりかなり哲学的だし、そういう 作品であれば色々と書くべき事もあるかと思うが、 この『ニューロマンサー』はそうやってあれこれ考えて読み進む類の小説ではないのだ。

ストーリーもさることながら文章でその躍動感を伝える事ができるのだ。
言葉、それ自体で「ノれる」のだ。
「電脳世界とは?」「マトリックスとは?」なんて考えるんではなく、誰もが、一度は想 像したことがある、肉体に縛られない精神世界を感じながら疾走すればいいのである。
感じ、興奮すればいいのである。

とにかく、 出だし『港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。』
からいい!
そして、黒丸尚の訳が独自の世界観を確立する事に成功している。

圧倒的なカタカナのルビの洪水。
うるさいのだが、それが妙にデジタルというか”電脳”世界のイメージを喚起させるので ある。

例えば
『あとはお定まりー電極(トロード)、没入(ジャック・イン)、そして転(フリップ)。』
*括弧()内ルビ

『ケイスは皮膚電極(ダーマトロード)を額につけたまま、ロフトで腰かけていた。頭上の格子 (グリッド)を抜けて弱まった陽光の中、埃の舞っているのを見つめる。モニタ・スクリーン の 片隅では、秒読み(カウント・ダウン)が進行中だ。』
*括弧()内ルビ

のように独自の世界観がルビによって確立されているのである。
この世界観は活字を通してのみ味わえる独特の世界なのである。
そんな世界の中、今まで摂取してきたSFをベースにしたスペースカウボーイのケイスと冒険を供 にする。 それは、必ず、自分のイマジネーションを見直してしまうほどエキサイティングである だろう。

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〜『Between The Lines』雑記〜
隔週でお届けしている『Between The Lines』 ですが、 毎号、写真を載せています。
この写真と本文の関係は?と御質問を頂きました。
基本的には「ありません」。。。。
本を紹介するのでしたら確かに、文字だけで事は足ります。
ただ、それではちょっと息苦しい。 閉塞観を感じてしまいます。なので、「窓」のようなイメー ジで身の回りの写真を入れるようにした のです。
ですので、本文とは全く別のコンテンツとして楽しんで頂けたらと思います。

それでは今後ともよろしくお願いします。

 

2005/7/22