『優雅な生活が最高の復讐である』 カルヴィン・トムキンズ著

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「優雅な生活が最高の復讐である」

タイトルになっているこの言葉はスペインの諺でもある。
その意味は、
他人にどんなにひどい目にあわされても、それらに惑わされず、悠然と優雅に何事も なかったかのように生活すること、それが、その相手にとって最大級の復讐だ,といっ た意味である。
自分に対して不幸になるような意志や、行為を振るわれたとして、それに対するは、 そいつを痛い目にあわせるのではなく逆に幸せになることなのだ。
そいつを痛い目に あわせた後、気付くとそれ以前より幸せになっている奴なんて いないのだから。

では、本書では、誰が誰に対して最高の復讐をしたことになっているのか?

実はとりたてて、誰も何もしていないのである。

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この作品の舞台は第一次世界大戦後の20世紀初頭のフランスである。
当時のフランスは戦後の自由感に突き動かされ芸術のあらゆる分野での活動が活発な 時期だった。 例えば、「キュビストの破壊力はダダの霊感的狂気とシュルレアリスト の攻撃的エロ ティシズムに受け継がれていた」ようにである。

本書は主人公、ジェラルド・マ−フィー、セ−ラ・マ−フィー夫妻を中心とした、当 時芸術、文化の中心を盛り上げていた人々の記録である。

マ−フィー夫妻
ジェラルド・フィッツラルド、ゼルダ夫妻
レジェ
ピカソ
ヘミングウェイ
コール・ポーター

達を生き生きと描いた作品である。

マ−フィー夫妻はフィッツラルドの『夜はやさし』の主人公のモデルになった人物でも ある。

マ−フィーは 「ひとりの人物が、ひとつの時代と場所の意味をすべて一人占めするという ことがある」 とジェラルド・フィッツラルドが著作のなかで記している言葉のその人にふ さわしい人 物だった。

そんな主人公の周りには復讐というおぞましい影は見当たらない。
ただし、「優雅な生活」が復讐であるのなら、彼の生活にはそっと潜んでいる可能性は 高い。

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マ−フィーは作中、人生についてこう語っている

「手を加えない限り人生はとてもたえがたいものだと思っている」 と。

敢えて言うなら作中の復讐者はマ−フィーといえるだろう。

しかし、対象は人ではない。

そう、復讐の対象とは、堪え難い人生、堪え難い世の中なのではないだろうか。

そして、スコットにはこうも語っている

「自分でこしらえた人生、人生の非現実的な部分だけが好きなんだ。たしかにいろんな ことが起るーーーー病気とか誕生とか、ゼルダのプランジャン入院とかパトリックのサナト リウムとか父のウィボーグの死とか。しかし、それらは現実的な出来事だからどうしよう もないことだ」
それよりも、 そんな現実を突き付ける人生、そんなものに翻弄されず、ユートピアを作ろ うと彼は優雅に生きようとしたのではないか。

復讐という刃を胸に人々を魅了し続けたのではないか。

優雅さだけを見ていてはフランスの社交界の主役しか見えてこない。
それでは、その優雅さもなにも生み出さない退廃的な弛緩したものに見えてしまう。
ただの金持ちの道楽だと。

その復讐の刃を胸に秘めている、 それは必ずしも、社会に振りかざすというわけでも、ま して、自分自身に向けるもので もなく、誰に向けるというわけでもなく、ただ、胸に秘め ているだけで、 その優雅さには凛とした輝きを賦することができる。

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人生とは結局自分の死という現実にて幕を閉じる。

マ−フィーも例外ではなく、最後は彼の嫌う現実に飲み込まれていく。
彼の復讐は所詮、最後には果たし切れずに終わってしまう。

ただ、そんな現実に負けまいと、真っ向立ち向かう、そんな宿命に復讐の刃で立ち向か う。

決してそんな現実に絶望して自ら命を断つなんてことはせず、
決してそんな現実に辟易して、拗ね、無為に生き長らえるのではなく

優雅に生を全うする
従容として現実を受け入れられる程に
現実がかすんでしまうように

ほんとうはそれだけで、 ほぼ、人生に対する復讐は遂げられているのかも知れない。

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現在、本書は新潮文庫にて発行されているはずである。
しかし、今から20年ばかし前に戸田ツトムさんのデザインされた装丁は、固定観念を 撃ち破る見事なものだった。
ぼくの持っているものも後者である。
絶版ですが一見の価値はあるので、色々入手先を探してみることを強くお勧めいたします。

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2005/9/3