『ゾウの時間 ネズミの時間』 本川達雄著

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本書は1992年に中公新書から出された生物学の入門書である。
僕はこの本以降、これほどに優れた入門書というものに出会ったことが ない。

入門書の使命とは、
わかりやすいこと
平易なこと
などが挙げられるけれど
実はそれ以上に大切なのは

いかにその門の先に面白いものがあるかそれを伝えることなのである
ついついその先も覗きたくなるような魅力を見せつけなくてはならないのである。

そして、それが伝わるのは、著者の顔が見える方が効果的に決まっている。

本書の後書で著者はこう語っている。
その言葉は著者の顔を思わせるものだ。
少々長いが引用してみたいと思う。

動物が変われば時間も変わるということを知った時は、
新鮮なショックを感じたものだ。
時間は唯一絶対不変のものだと、
あたまから信じ込んできたのだから。
時間がいろいろあると聞いて、なにか一つ賢くなったような気がした。

このときは、動物学を勉強しはじめて一〇年以上たっていたので、
別の意味でのショックも大きかった。
時間が違うということは、世界観がまったく異なるということである。
「相手の世界観をまったく理解せずに動物と接してきた。
こんな態度でやった今までのぼくの研究はどんな意味があったのか?」と呆然とした。
それと同時に、こんな大事なことを教えてくれなかった今までの教育に、怒りを感じた。
本書は怒りを「てこ」にして、自分自身への反省をこめて書いたもの である。

この門の中に誘う筆者の思いがストレートに伝わってくる。
彼が気づいたものに対する思い入れが感じ取れる。

ちなみに僕はほんの数ページで彼が遅くにして気づいた世界観に
完全にやられてしまったのであった。。

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哺乳類ならどんな動物でも生涯に心臓が鼓動する回数が同じ20億回。
そんなしょっぱなの出だしの提示にぼくはすっかりまいってしまった。

なに、その意外な共通項?
神のいたずら?

この瞬間、ある意味、地球上の生物の1つとしての自分を感じることができるようになった。

他の生物との連帯感を感じないわけにはいか なかったのである。

姿もかたちも全くちがう、 それなのに、
それぞれがもつ生命の要の循環系のシステムがダウン するそのタイミングが同じなんて。。

目的なんてないんだろうけど、きっと、その20億回という共通項に はワケが在る。
そんなことを考えていると想像力は加速する。

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そんな風に普通の生物学とは違い、
我々人間も他の動物との共通項 を探し当てたことによって
巻き込んで考えられるように仕向けるあ たりがうまい。

あとは、色々な動物のサイズに伴う事例をその戦略やその理由と共に
著者に誘うままに身を委ねるだけでよいのだ。

動物の身体のサイズが違うのに細胞の大きさは皆ほぼ同じ理由とは?
動物と植物の細胞の特徴の差違の理由は?
虫はなぜ変体するのか?幼虫−成虫と変化する理由は?
ゾウはなぜ大きく、昆虫はなぜサイズがちいさいのか?
植物や珊瑚が動かないことを選択した戦略とは?

などなどいちいち感心してしまう生命の不思議が本書には詰まっている。
そのように考えていくと人間がいまのサイズでどのような戦略をとるのがベストなのか、
なんてことも考えられるのかもしれない。
もしくは、今とっている戦略は最良なのか、否か、判断できるようになる かもしれない。

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関連書籍

『絵ときゾウの時間とネズミの時間たくさんのふしぎ傑作集 』
本川 達雄, あべ 弘士 著

『サンゴ礁の生物たち―共生と適応の生物学』 本川 達雄著

『ソロモンの指環―動物行動学入門』 コンラート・ローレンツ著

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2005/12/12