アドルフに告ぐ (1)手塚治虫著

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舞台は第二次世界大戦中
三人のアドルフを軸に物語りは始まる。

ユダヤ人で神戸のパン屋の息子
アドルフ・カミル

日本人の母、ドイツ人の父をもち、ナチスに青春をかけた
アドルフ・カウフマン

そして、ナチス・ドイツの言わずと知れた総統
アドルフ・ヒットラー

最後のアドルフ・ヒットラーの出生の秘密を巡り、
色々な人が
色々な組織が
色々な国が
跳梁跋扈する。

それの手がかりとなるワグナーの石膏像。
その在り処を巡り序盤からスリリングな展開で 舞台をドイツ−日本と転回してゆく。

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当時は今よりも 正義という言葉が飛び交い

振りかざし
押し付け

誰かの正義を踏みにじっていた。

日本に住んでいて、ユダヤ人のカミルの親友だった アドルフ・カウフマンは、
父親に一方的にドイツのエリート校 ヒットラー・ユーゲントに入学させられる。

彼は祖国ドイツから日本の母親にこんな手紙を送ろうと 思い、思いとどまる。

  ママ
  今日ぼくは人間を殺しました
  教官ケンメル先生は
  人殺しなんか戦場に行けばすぐ慣れるといいました
  一人目は殺すのにすごーく手間がかかりました
  でも二人目は一発でやれました!
  こんなことを平気で手紙に書くぼくは
  気が狂ったんだと思いますか?
  あと二、三年もたつと
  ぼくもSSかゲシュタポの隊員のように
  無表情に。。。いえ ニヤッと笑ってユダヤ人を殺せる
  ようになるんでしょうね!
  そうなればぼくはあっぱれな愛国者なんですね!

  畜生!!

彼とカミルはその後、再会する。
彼が押し付けられた正義は二人を分かち、
彼はその正義の名のもとに親友を裁こうとする。

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  おれの人生はいったいなんだったんだろう
  あちこちの国で正義というやつにつきあって
  そしてなにもかも失った
  肉親も
  友情も
  おれ自身まで
  おれはおろかな人間なんだ
  だが
  おろかな人間がゴマンといるから
  国は正義をふりかざせるんだろうな

作中後半にでてくる登場人物の談である。

正義はその時、その時代の要請だと言わんばかりに
有史以来生まれては消えていった。

その振りかざした手の先には誰かの顔があり、
その傷跡は次の代にも受け継がれる。

正義と憎しみは兄弟のように螺旋を描き、途絶えることはない。

それを途絶えさせようとすることは
昔、正義を振りかざされた犠牲者をないがしろにすることなのか
大地に染み付いた血は洗い流す事はできないのか
人は皆おろかで、この先もまたおろかであり続けるのだろうか

その問い対する解を手塚治虫は この物語りの語り部的存在の峠草平に託している。
この物語は手塚の渾身の大河ロマンである。
正義の正体を白日の元に晒そうとする意欲作なのである。

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関連書籍

陽だまりの樹 1 (1) 手塚治虫 著
わが闘争 上―完訳 角川文庫 白 224-1 アドルフ・ヒトラー 著
夜と霧 新版 ヴィクトール・E・フランクル 著

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2006/9/3