前田雄吉議員の予算委員会質問に寄せて 寄稿者:ぶるーさん
「マルチ商法の嘘 〜国会でも認められた?〜」という寄稿文の於いて取り上げました「流通ビジネス推進政治連盟(NPU)」という団体にに参加している、民主党の前田雄吉議員が、平成18年3月1日の衆議院予算委員会第7分科会に於いて、マルチ商法(=ネットワークビジネス=連鎖販売取引)に関する質問をしました。(議事録)
内容的にツッコミどころ満載で、正直、呆れるほどなのですが、呆れてばかりもいられません。「国会で認められたマルチ商法」などという都市伝説が出回ることのないよう、ここでおかしな点を検証したいと思います。
(文頭に数字がついて点線枠で囲んでいる文章が前田議員の発言。一行開けての文章が私の記述です)
1.「中国は、WTOに加盟いたしまして世界標準のビジネスモデルを求める、その中にネットワークビジネスの導入というのがありまして、昨年末に法整備もきちんとされておられました。」
2005年11月1日に中国に於いて公布された「伝銷(マルチ商法)禁止条例」では、マルチ商法そのものを禁止している。「ネットワークビジネスの導入」など、全くのデタラメ。
参考:http://www.explore.ne.jp/business/xianweirai/xwr004.html
2.「我が国は、このネットワークビジネスに対して、無知、無理解、誤解、偏見、勘違いというものにさいなまれまして、その中で我が国における立法政策がなされてきたというふうに私は思っております。」
前田議員の主張は従前から、「マルチ商法は無知・無理解、偏見に晒されている」というものだが、具体的にどのような偏見があって、どう事実と異なるのかという具体的な指摘が全くなされていない。これでは、無知・無理解や偏見を解消することなど到底無理。
3.「アメリカにおきましては、フランチャイズと並んで、ネットワークビジネスは二大ビジネスの一つであります。」
どう言ったビジネスと比較して「二大」なのか、全く不明瞭。さらに、「二大」である根拠が不明。
4.全米の商工会議所の会頭がアムウェイの会長でありますし、そうしたことでもわかりますように、しっかりと社会的にも認知されているわけであります。
商工会議所の会頭をマルチ商法企業の会長が勤めたことがあるという事と、マルチ商法が社会的認知されているかどうかという事に、論理的な繋がりはない。
ちなみに、アムウェイ社会長であるSteve
Van
Andel氏は、2001年〜2002年に「Chairman」(「President」「CEO」は別人)を勤めたが、2006年現在、その職には別の人が就いている。
5.去年と今お出しになった数字は、私が申し上げたWDSA、世界直販協会、ダイレクト・セリング・アソシエーションの推計値であります。それから、後の三兆円というのは訪販協の出されています数字であります。大体その半分がこのネットワークビジネスではないかというふうに言われておりますけれども、私どもは、この産業は六兆円の八百万人が従事する産業であると考えております。
「訪販協の数字の半分がネットワークビジネスである」、「この産業(マルチ商法)は六兆円の八百万人が従事する産業である」という根拠が不明。
ここでつっこみどころなのだが、前田議員のいうところの「私ども
」というのは、どういった立場で発言している言葉なのだろうか?
前田議員は衆議院議員としてこの予算委員会に参加しているのだから、当然ながら「私ども」と言った場合は前田議員が国会議員として所属する民主党を指すはずなのだが・・・。
6.では、私は、このネットワークビジネス、先ほど申しましたように、非常に、我が国に入ってきて以来、誤解、偏見等が渦巻く中に置かれております。一部の、ごく本当にわずかな悪質な人のために、まじめにこの業で汗を流しておられる方、あるいは納税の義務をきちんと果たしておられる方が迷惑しております。ですから、違法な人は、違法な企業は厳格に取り締まる。これは、私は基本になければいけないと思うんです。でないと、まじめにこの業にいそしまれる方が迷惑をする。
往々にして、マルチ商法に従事する方が展開する論法、「悪いことをやっているのはごく一部。真面目にやっている人もいる。」という主張を展開しているわけだが、前田議員はこの論を裏付けようと、一つのインチキをする。
前田議員は、警察庁による昨年のマルチ商法に関連した摘発件数とその被害総額を質問し、検挙は1事件5人、被害総額約3億6千万円という回答を得ると、
>ですから、先ほど私は、この業態というのは六兆円で八百万人の産業だというふうに申し上げました。これは別に根拠がないわけではないんです。その中で、今警察が取り締まられたのはそれだけであると、ごくわずかでありますので。
と、あたかも全体の売上に対して、摘発された被害額は少額であり、悪質なものはごく一部である
と主張する。しかしこれはインチキであろう。
なぜなら、前記したとおり、前田議員の言うマルチ商法による売上が6兆円であるという根拠がないからである。「根拠がないわけではない」のなら、根拠であるデータを提示するべきであるし、根拠も提示出来ない状態で「3億円は業界全体の売上に比べればこく一部」などとするのは暴論であろう。
また、摘発されていないマルチ商法主宰企業に於いても、消費生活センターへの相談事例があるわけで、摘発された金額だけをもって「悪質な企業は一部」と結論づける事は出来ないはずである。
7.特に平成十二年で特定負担の概念を取り払って、すべて一つの定義に入れてしまいました。つまり一本化したわけでありますけれども、そのために、規制すべきビジネス形態と育成すべきビジネス形態をどう峻別するべきかということがあいまいになってしまったわけであります。
マルチ商法に対して、「育成すべきビジネス形態」などという概念は、前田議員の主張(あるいはNPUに参加している人たち)の中に
あるだけで、日本の政府にそんな概念はない
。峻別すべき必要があるのなら、その必要性についての根拠と、その峻別方法について、前田議員自身が提示すべきである。
8.連鎖販売ということで規制をかけると、問題のある悪質なマルチ商法も健全なネットワークビジネスも同じように規制されてしまう。また逆に、育成しようとする場合も、健全なネットワークビジネスも悪質なマルチ商法もこれまた育成されてしまうという非常に自己矛盾を来すようなことに陥ってしまいますので、私は定義の問題は軽視しちゃいけないと思います。
繰り返しになるが、そもそも「悪質なマルチ商法」「健全なネットワークビジネス」について、前田議員自身が定義していない。
これでは政府としても回答のしようがない。
9.入り口と出口だけで、その間の、このビジネスを健全にどう育成、発展させるのかということが我が国の法制度の中には欠落していると私は思うんですね。
ここで前田議員のいう「入り口」とはマルチ商法への加入、「出口」とはクーリングオフ(解約)の事を言っているようである。マルチ商法を育成する法制度がないと前田議員は嘆くが、マルチ商法という販売形態を「健全に育成しなければならない」という根拠が無いのに、そのような観点での法整備などしようがない。
また、現在の「特定商取引に関する法律」では、マルチ商法=連鎖販売取引の行為規制が厳密に行われており、「ビジネスを行うに際しての法規制」はすでになされている訳で、なぜ「入り口と出口だけ」と判断しているのか、理解に苦しむ。
10.遵法精神が十分な方、法を守る方については、私は、保護、育成する、その形が必要であると思います。保護、育成すべき基本法がこの業態には必要であるというふうに私は思っております。
またまた繰り返しになるが、マルチ商法を何故、保護・育成しなければならないのか、前田議員は一向に語っていない。理由も分からず保護・育成など出来ようはずもない。
11.ネットワークビジネスの会社は社会的な差別や偏見にさいなまれています。例えば、公的施設が、セミナールームが借りられないとか
マルチ商法のセミナーは勧誘目的であることが多く、施設利用に際しては、実質的に営利利用になるわけで、営利利用禁止の公的施設に於いて施設が借りられないのは仕方のないことであろう。これは差別や偏見ではない。
12.今、ネットワークビジネスの話をずっとしてきましたけれども、やはり、世界で認知されている二大ビジネスであります。
前田議員の言う「世界」とは、いったい何処のことであろうか?質問の冒頭では「アメリカでは〜」だったものが、いつの間にか「世界で」に変わってしまっている。前記したが、「二大ビジネス」たる根拠を挙げて欲しいものである。
13.一方、遵法、そして納税の義務をきちんと果たされる皆さんについては、保護、育成すべき基本法が必ず必要であると思っておりますので、
遵法・納税など、商売をする上ではごく当たり前のことで、これらの条件を守っている事を条件に保護・育成を行う必然性が見当たらない。
根拠不明な「世界に於ける認知」などを理由に、マルチ商法の保護法など作れるわけもない。
私の検証は以上です。
前田議員の発言全体を通して言えることは、根拠が不明確であるという事と、社会常識から見て共通の概念とは呼べない「ネットワークビジネスの保護・育成」という主張について、なんら説明をしていないという事です。
このような語り口、どこかで出会ったことはありませんか?そう、マルチ商法に従事する方によく見られる語り口にそっくりなのです。
「国会議員として」マルチ商法保護を謳いたいのであれば、少なくとも、マルチ商法という販売形態が日本経済あるいは日本社会に於いてどのようなメリットをもたらすのか、そこを説いてもらわなければなりません。前田議員の発言からは、一部の人間の権利擁護という視点しか感じられず、日本という国に対する視点が欠けている
ように思われるのが非常に残念です。