現代の音楽において、メインの旋律を引き立てるための伴奏が果たす役割は非常に大きいものがあります。伴奏も、多種多様の楽器によって構成される壮大なものもあれば、1楽器の伴奏もあります。その伴奏の核ともいえるのが和音(すなわちコード)です。複数の音を同時に鳴らすことで、独特の雰囲気を作り出すのがコードなのです。
しかしながら、コードを並べるといっても、美しい並び方、美しくない並び方、これらが多種多様にわたっています。コード理論を学ぶということは、そのコードのパターンを体系付け、伴奏…ひいては楽曲をより美しくするための方策を学ぶ、ということに繋がっていくのです。
では、コード理論を知らないと音楽が作れないのか、というと、必ずしもそうではありません。理論を知らなくても作曲をしている人はたくさんいますし、現にそういう人でもすばらしい作品を残しているのですから。ですが、コード理論を知ることにより、より安定感のある音楽を作り出すための方法を確認でき、その結果作品の質がより向上する、という可能性は決して低いものではありません。
ここで扱うコード理論は、それら多種多様な連結の可能性を持つコードのうち、いくつかの定跡的なものをピックアップしたものです。ですが、先達が残していったコードパターンの定跡はすばらしく、そこから更に自分独自のインスピレーションがわいてくるものばかりです。単純にメロディにコードを当てはめていくだけでなく、より効果的に聞かせるためのコードの変化の手法など、学ぶことはたくさんあります。
作曲する過程において、先にコードとリズムパターンを決めてからメロディをつけるという人もいます。そういう場合、定跡が多ければ多いほど、より多様な音楽を作り出せる可能性があります。また、先にメロディを作る人であっても、それに付随するコード進行の種類は多ければ多いほど面白みが出るといえます。
本講義で扱うコード理論の目的は以下の通りです。
まず、コード理論を学習する上で、楽譜を読めることは必須です。作曲・編曲・演奏・MIDI打ち込み等をする上で楽譜は必ず必要になりますので、まずはそちらをこなせるようにしてください。(稀に、楽譜は読めないけどギターは弾ける、という人がいますが、それは気にシナイの方向で) また、長音階、短音階のことについても解説していきます。
まず、音楽の基本となる「音の名前」から勉強していきましょう。
![]()
さて、ここまではもっとも一般的である音の呼び名である「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」で議論してきたわけですけれども、ところがこの音の呼び名、言語によって異なっています。いわゆる「ド、レ、ミ…」というのはこれ、実はイタリア語の読み方なんです。では、他の言語ではどう呼んでいるかというと、具体的にいうと、次のようになります。鍵盤楽器の白鍵音(=楽譜上で(原則)♯も♭もつかない音。これを幹音という)をメインに、黒鍵音(=♯や♭のついた音。これを派生音という)の場合につける接頭語や接尾語を含めて説明していきます。
| 音名→ 言語↓ | 幹音 | 派生音の場合 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ♯ | ♭ | |
| イタリア語 | Do (ド) | Re (レ) | Mi (ミ) | Fa (ファ) | Sol (ソ) | La (ラ) | Si (シ) | [幹]+diesis (ディエシス) | [幹]+bemolle (ベモーレ) |
| 日本語 | ハ | ニ | ホ | ヘ | ト | イ | ロ | 嬰(えい)+[幹] | 変(へん)+[幹] |
| 英語 | C (シー) | D (ディー) | E (イー) | F (エフ) | G (ジー) | A (エー) | B (ビー) | [幹]+sharp | [幹]+flat |
| ドイツ語 | C (ツェー) | D (デー) | E (エー) | F (エフ) | G (ゲー) | A (アー) | H (ハー) | [幹]+is* | [幹]+es* |
* ドイツ語読みの場合はC+isの場合、「ツィス」のように一つの単語になる。また、B♭(変ロ)に限ってはB(ベー)と発音する。なお、ドイツ語読みはクラシックを中心に専門家の間で使われることがあるくらいで、日本では一般的に使われているとはいえない。訳分からなくなったら覚えないでよし。覚えなくてもコード理論は学べるので。
コード理論においては、このうち英語名を使います。音名を英語で読めるように暗記してしまいましょう。たった7つです。
![]()
調を理解する上で、全音と半音の区別は非常に重要です。鍵盤楽器において「白鍵黒鍵問わずに隣同士にある音の間隔」、及びギターなどにおいて1フレット分の音の間隔を半音といいます。そして半音2つ分が全音、ということになるわけです。
ちなみに、白鍵音同士の間隔は常に全音ではなく、ミとファ、シとドの間には黒鍵がありません。ここの二つの間隔は白鍵同士であっても半音となりますので注意が必要です。
音階とは、1オクターブの範囲内で一定の決まりによって音を並べたものをさし、実際はさまざまな種類がありますが、その中でも近代音楽で使われるものは「長音階」と「短音階」という2つの音階です。
「ド」の音から1オクターブ上のドの音まで、幹音だけを並べて音階を作ってみましょう。次のような形になります。(画像の一番下のローマ数字は後でみっちりやります)
実は、こう並べただけでもうすでに長音階が完成しているのです。長音階の音の並べ方を、隣の音との音程関係で言えば、「全音・全音・半音・全音・全音・全音・半音」という形になっています。この並びが、長音階のルールです。
一方、同じ「ド」の音から短音階を生成してみましょう。以下のようになります。
長音階と比較すると、まず音の並び方が「全音・半音・全音・全音・半音・全音・全音」になっていること、そしてその結果として、3番目、6番目、7番目の音が長音階より低くなっています。これが短音階の並び方の特徴です。
なお、短音階には3種類あります。
| 自然短音階 | ![]() 通常の短音階。本来の「全・半・全・全・半・全・全」という並び方で並べたもの。短調の基本。 |
|---|---|
| 和声短音階 | ![]() 自然短音階の第7音を半音上げ、7番目の音が基準となる音に進みたくなるようにしたもの。伴奏付けで重要となる。 |
| 旋律短音階 | ![]() 和声短音階で大きく広がってしまった第6音と第7音の間(全音+半音)を埋めるために、第6音も半音上がった音階。メインの旋律を作るうえで時に必要。(ただし、音が下がっていくパターンの場合は自然短音階を用いる。旋律短音階は音が上がっていくパターンに限って用いられる。) |
![]()
一口に音の名前といっても、実は2種類あります。一つは、五線上で表された音の絶対的な位置(これが音名です)と、音階の基準音によって相対的に名前が決まる階名とがあります。
音名は特に問題ないとして、問題は階名です。階名はずばり、その音階がどの音を基準に作られているか、ということによって決められます。基準になる音から、長音階の場合「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」、自然短音階なら「ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ」という形になります。階名はドレミファソラシを使います。
その音階ですけれども、各々の音階にはそれぞれ名前がついています。その名前のもとになっているのが、「音階の基準になる音」と「長音階か短音階か」です。「基準になる音の音名」+「長音階か短音階か」ということで名前がつけられます。
そして、長音階によって作られた調が長調、短音階によって作られた調が短調となるわけです。
さて、各音階を作るうえで、指定されたとおりに音を並べようとすると、ほとんどの音階において♯なり♭なりの記号をつけて、音程関係を調節することが必要になってきます。しかし、いちいち記号をつけていたのでは楽譜がめちゃくちゃ見づらくなってしまいます。そこで、初めから変化させるべき音に変化記号をまとめてつけてしまおうということで、ト音記号やヘ音記号のすぐ右に、♯や♭をまとめてつけてしまうのが普通です。このようにしてつけられた♯や♭のまとまりを調号といい、実は各音階を一発で見破る鍵となるのがこの調号です。
同じ調号でも、長調の場合と短調の場合がありますが、その場合でも階名はたまたま一致します。つまり、同じ調号を持つ長音階と短音階では、長音階の基準のドと短音階の3番目のド、短音階の基準のラと長音階の6番目のラが一致するというわけです。このように、同じ調号を共有している長調と短調を、互いに平行調と呼んで、この相互の転調はよく行われています。(同主調・平行調に関してはTMの小噺・第7話:転調をご参照のこと)
また、調号は違うけれども、同じ音を基準にしている長調と短調の組み合わせのことを同主調といい、コレを用いた転調も頻繁に耳にします。
以下、調号による調名、及び構成音の音名と階名一覧を示しておきます。
| 調号 | 調名* | 階名 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ||
![]() | ハ長調 イ短調 | C | D | E | F | G | A | B |
![]() | ト長調 ホ短調 | G | A | B | C | D | E | F♯ |
![]() | ニ長調 ロ短調 | D | E | F♯ | G | A | B | C♯ |
![]() | イ長調 嬰ヘ短調 | A | B | C♯ | D | E | F♯ | G♯ |
![]() | ホ長調 嬰ハ短調 | E | F♯ | G♯ | A | B | C♯ | D♯ |
![]() | ロ長調 嬰ト短調 | B | C♯ | D♯ | E | F♯ | G♯ | A♯ |
![]() | 嬰ヘ長調 嬰ニ短調 | F♯ | G♯ | A♯ | B | C♯ | D♯ | E♯ |
![]() | ヘ長調 ニ短調 | F | G | A | B♭ | C | D | E |
![]() | 変ロ長調 ト短調 | B♭ | C | D | E♭ | F | G | A |
![]() | 変ホ長調 ハ短調 | E♭ | F | G | A♭ | B♭ | C | D |
![]() | 変イ長調 ヘ短調 | A♭ | B♭ | C | D♭ | E♭ | F | G |
![]() | 変ニ長調 変ロ短調 | D♭ | E♭ | F | G♭ | A♭ | B♭ | C |
![]() | 変ト長調 変ホ短調 | G♭ | A♭ | B♭ | C♭ | D♭ | E♭ | F |
| 数字表記 | 長調 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
| 短調 | ♭3 | 4 | 5 | ♭6 | ♭7 | 1 | 2 | |
* 上段が長調、下段が短調の調名
さて、階名を表すには通常ドレミファソラシを使うのですが、これをローマ数字や算用数字で表す方法もあります。
長音階の場合、基準となる階名のドに1を、以下(全て階名)…レに2、ミに3、ファに4、ソに5、ラに6、シに7(読みやすくするために算用数字使用)と番号を割り振ります。
短音階の場合、基準となるのがラですのでラに1、シに2を振ります。そしてドですが、長音階に比べて半音下がっているので、この場合は3ではなく♭3をあてます。以下、レが4、ミが5、ファが♭6、ソが♭7。このようになります。(読みやすくするために算用数字使用)
このローマ数字&算用数字による音階の位置の振り方は、コード理論において和音記号を表したり、旋律を一般化して表すために必要となるため、必ず覚えてください。
この数字に、各音階の階名に相当する音を放り込んでやると、目的のコードができたりする、というわけです。要はコードの進行パターンの一般化、というわけです。