短調のコード理論は、長調のコード理論を応用したもので、その中にはかなりのおかしな状態が存在しています(例えば、長調のV7=ドミナントであったのに、短調の♭VIIがサブドミナント扱いになる、など)が、逆にその矛盾を逆手にとって、長調ではルール違反だった進行も平気な顔をして使われることがあります。前回のIV7を用いた進行にもそういう「長調の禁手」がいくつかありましたけれども、今回は更に変な進行を紹介したいと思います。実際にTMの楽曲で(ある意味強引に)当てはめられているパターンをいくつかピックアップしていきたいと思います。
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まずは、「Girl」(Key:G♯m)に使われているいくつかのパターンを見ていきましょう。
サビ直後に現れるパターン。サビのダイナミックな進行(Im→IVm→♭VII→♭III・V7)とは対照的な、穏やかな進行。V7ではなくVm7がポイント。トニックコードが出てこないので安定感は若干欠けますが、淡々と進ませたいときにオススメのコードパターン。
並進行の一種。Imから始まってVm→♭VI→♭VIIと上昇するパターンは第5回・その3で紹介しましたが、このパターンはIVmから始まり、起承転結がよりはっきり浮き出てきます。サブドミナントコードが中心になっている(Vmはドミナントだが、その力は弱いのでサブドミナントに押し負ける)点が、微妙な心境の不安定さを物語るにふさわしいパターンです。
また、この例のようにVmの部分に♭III(onV)という第1転回形(3音低位、とも言う)が使われている場合もあり、その場合はトニックコードが付加されるので、動きがあるという感じはあまりしません。
このパターンの応用として、「Fighting」では、Aメロの後半(ちなみに前半はIm→IV(onI)を繰り返す)で、IVm→♭III(onV)→♭VI→♭III(onV)→♭VI→♭III(on♭VII)→Im7→V7というパターンが使われています。
「Fighting」
key:Gm Cm7・B♭(onD)|E♭・B♭(onD)|E♭・B♭(onF)|Gm7・D7
Bメロの基本パターン。もともとはIm→♭VI→IVm→Vmというパターンを♭VIから始めたものが、IVmをどこかで欠落させた形。IVmが持つ独特の寂しさが薄らぎ、またドミナントコードもVmの優しい形なので、トニックを絡めて静的な進行になっています。サビに向けて徐々に盛り上げたい場合に、サビ突入パターンの直前に用いて際立たせるための布石のような使い方をすると良好でしょう。
同じことを「Here There & Everywhere」のイントロ、及びAメロ(key:Em)でもやっています。
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Im→IVm→♭VII→♭IIIという王道パターンをIVmから始めて、しかも「逆5度進行」にしているところがポイント。「Major Turn-Round (Third Impression)」(key:F♯m)の出だしからしばらくの間用いられるパターンで、とげとげした感じが全くなく、マイナーキーっぽさをかなり相殺してくれるパターンです。曲にあまり感情を入れたくないときなどに。
本来はIIm7(-5)を用いるのが短調のII〜V進行(例:「Come on Let's Dance」サビ直前(key:Em)、F♯m7(-5)→B)なのですが、ここではあえて旋律短音階のII度和音(IIm7)を用いることで、短調としては不自然な違和感を出しています。変化するのはたった1音ですが、それだけで性格ががらりと変化してしまうのが面白いところ。「Time」Aメロ、「Girlfriend」Bメロ(ともにキーはF♯m)に実装されています。
「Time」Aメロ
||: F♯m・D|E・C♯m7|F♯m・G♯m7|C♯7・F♯m :||
「Girlfriend」Bメロ
D|E7|A(onC♯)・A|D|Bm7|Bm7(onE)・E7|G♯m7|C♯7|C♯7 || A……
Im→♭VI→♭VII→Vmを♭VIから始めた逆循環の一種ですが、雰囲気はがらりと変わります。Im→♭VI→♭VII→Vmがくどくない循環コードだったのが、♭VIから始めただけであら不思議。何となく落ち着かない雰囲気になってしまいます。特に、♭VIから♭VIIにコードチェンジするときに、どことなくふわりと浮くような感じがします。
特にこのパターン、key:F♯mのときに(たまにKey:Aでも)、♭VIIをオンベース♭VIにして多用されます。その場合、コードはD→E→C♯m→F♯mになるのですが、このEのコードをギターの4弦開放を用いてE7(onD)にすることで、独特の浮遊感を出しやすいからです(もちろん、他のキーでもやることは同じですが)。
+−+●+−+− +−+−+−+●+−+−
+−+−+●+− +−+−+−+−+●+−
+−+●+−+− +−+−+−+●+−+−
○+−+−+−+− → ○+−+−+−+−+−+−
×+−+−+−+− ×+−+−+−+−+−+−
×+−+−+−+− ×+−+−+−+−+−+−
0 1 2 3 0 1 2 3 4 5
D E7(onD)
ちなみに、後ろ二つのマイナーコードはときにドミナントコードに化けることがありますので注意。
「Don't Let Me Cry」のBメロが、これをちょっとだけアレンジした形になっています。
key:F♯m D・E7(onD)|C♯m7・F♯(F♯mではない!)|D・E7(onD)……
I→♭VIIまでは全く問題ないのですが、ここで♭VIではなくVIm7(-5)という頓珍漢なコードに進んでから♭VIに進む、という風変わりなパターン。VIm7(-5)というコードは、構成音がIm6と全く同じということからトニック扱いですが、このコードを使うと何となく音が外れたような、亜空間が広がります。「Your Song」のサビ直後に見られるパターンです。
「Your Song」のサビ直後(key:Gm)
Gm|F|Em7(-5)|E♭|B♭(以降、B♭メジャーキーに転調)……
Im→♭IIIというマイナーキー独特の安定感と暗さを持つところに、静寂を破るかのようにドミナントコードが入るパターン。このドミナントのところが印象深くなります。サブドミナント経由というわずらわしい手続きを経ないため、音楽的には少々がたがたになってしまうのが弱点ではありますが…。
同じIm→♭IIIでも、♭VIで変化した場合には悲痛な感じは受けなくなります。全体的にメジャーコードの割合が多くなるせいでしょうか。あまり派手にいじくり回さない分、聞いている側には心地よい温かみを与えるようなコード進行です。
「Message」のサビ(key:Em→Fm)で使われているパターン。♭VIIが第1転回形(3音低位)になっているせいか、ドミナントっぽさはほとんどなくなり、全体的に長調のサブドミナント終止のような、派手さはないものの渋い印象になります。無理せずやれるところを歌っている、という感じでしょうか。
「This Night」のコーダで使われているパターン。♭VIIからVIIdimに進行することでマイナーキーであるという強い自己主張をし、そこから♭IIIに進む「お約束」を見せてくれます。ポイントはやはりVIIdimでしょうか。さしずめ待ち人来たらず、という感じでしょうか。
(注:このVIIdimは譜面によってはV7と書いてあるものもあります)。
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「Come on Let's Dance」Aメロ出だし、「Girlfriend」Bメロ出だし(詳しくは上記「IIm7→V7→Im」の項を参照のこと)「Message」Bメロで用いられているパターンですが、よーく見なくても、これって……長調のIV→V→I……ですね。そうなんです、同じコードを使っても、長調と短調ではがらりとイメージが変わることが多いのです。実際にハ長調のメロディにC→F→Gというコードをつけた場合と、イ短調でC→F→Gとコード付けした場合とでは、雰囲気ががらりと変わります。一度お試しあれ。
「Beyond the Time」のサビ後半パターン。メロディが短調でありながら、コード進行は長調のIIm7→V7→Iというダイナミックな進行になっています。まだ希望の火は消えちゃいないんだ、という感じを表すことができます。