コード理論第8回 分数コード(オン・コード)

 コードの最低音は、原則としてそのコードの基準となっている音(要するにコードネームそのものの音で、AのコードならA音、Dm7ならD音)というルールがあります。しかし、原則あるところ必ず例外あり。たまに最低音がそうでない場合が見られます。

 わざわざベースを変えてしまうのには理由があり、コードの変化が大きい曲において、比較的安定した音楽の流れを作り出すのに、ベースラインを加工してみたり、或いは逆にコード進行が単調な曲を華やかにする効果を生み出すためです。

 

1、和音の転回形

 分数コードを用いた具体的な進行例の話をする前に、「和音の転回形」という概念について話をしておきましょう。

 そもそも、和音というのは「2つ以上の音を同時に鳴すことによって得られる音のかたまり」のことを言います。一般的にはある音を基準にして、その上に一つおきに音を重ねていったものが、響きが綺麗なので常用され、これらが「コード」として扱われていますが、本来は、重ね方に順番はありません。重ねたい音を適当に重ねていくことが出来ます。

 アンサンブルやバンド、オーケストラ、コーラスを問わず、一つの楽曲を構成する楽器や声は1種類ではないのが通常で(アカペラのソロや独奏ならともかく…)、それらが全て複数音を一度に鳴らせるわけがなく、また、得意な音域も違います。メロディとの兼ね合いもあるので、順番通りに並べずに多少番狂わせをしてしまうのが常套手段です。

 例えば、Cのコード(構成音:C、E、G)の場合、並べる方法としては[CEG] [CGE] [ECG] [EGC] [GCE] [GEC] の6通り、E7(構成音:E、G、B、D)の場合、24通り(書くとスペースばっかり食うので省略)あります。複数音を同時に奏でられる楽器がある場合、それが一度に幾つも奏でられるので、パターンは更に多くなります。

乗せる順番を変えても、同じ和音として認識され、同じコードネームで表記できる(例図はいずれの小節もE7)

 このようにすることで、ある一つの効果が生まれます。それは、「進行が滑らかに、かつ軽やかになる」ということです。

基本的な進行、「I→IV→V→I」のアレンジ

 上段のようにストレートにコードを入れてしまうと、どうも音のつながりが悪く、ガタピシでちょっと格好悪くなってしまいます(オマケにちょっと演奏しづらいし)。下段のようにすれば、音程の変化が少なく、2度や3度という狭い幅で音楽が進むので、聞いていても微妙な変化で味わい深いものになります。

 

2、分数コードとは

 分数コードとは、「Bm/D」のように、ベースがルート音(コードの基準となる音)ではないコードのことです。表記のし方によっては「Bm(onD)」という形でも書かれることがあり、またの名を「オン・コード」といいます。意味的にはこっちの方が分かりやすいかも(「Bm(onD)」=「D(音)の上のBm(コード)」)。

 分数コードを用いることによって、ある2つの効果が生まれます。一つは先に「和音の転回」で述べたように、コードそのものの繋がりがよくなること(これについては説明を割愛)。もう一つは、コードの性格が複雑になり、音楽的な深みが増す、というものです。

 「コードの性格が複雑になる」というのはどういうことか…、すなわち、「分子のコードに、分母ルートのダイアトニックコードの性格が半分乗り移る」というものです。

 例えば、長調でI(onIII)というコードがあったとしましょう。Iのコードは「絶対的な安定感・ほんわかした温かみ」を持っていますが、それがIになると、Iの性格にIIImの「ちょっと落ち着きのない、それでいて積極性のある主役のサポート」の役割が加わり、Iのコードのくせしてやけに積極的に他のコードに進もうとする力が付加されたモノになります。

 エイン(トニック)(onエンディ(トニック代理・動))エイン(トニック)+(エンディ(トニック代理・動))÷2

 また、分数コードの場合、転回形である必要は全くなく、コードに関係のない音をベースにすることも可能です。また、Am(onG)のように、ベース音のせいで別のコードになる場合、別のコードに合わせて書く場合と書かない場合があります。Em(onC)のように、(Cmaj7という)別のコードがあり、それが分数コード表記しなくてすむ場合は別なコードで、そうでない場合はどっちで表記しても構いません。

 各コードの性格については、理論第3回・その1(長調編)、及び理論第3回・その2(短調編)をご覧下さい。

 また、分数コードにはもう一つの使い方があり、本来のコードをわざと別なコードの分数コードの形にしてしまい、それにより「不安定な要素を和らげる」というものです。このやり方でよく使うのがVIIm7(-5)のコードをV(onVII)にして扱うものです。

 

3、ライン・クリシェとペダル・ポイント

 これら2つがどういうものかは、各々「木根バラサイコー」(ライン・クリシェ)「勝つためには基本が大事」(ペダル・ポイント)の項に譲るとして、ここではその応用としてのコード進行を紹介していきます。ただし、長調版と短調版をいっしょに紹介していくことにします。場合によっては、長調上で短調の風味をつけたい場合に、短調のクリシェパターンを使うこと(「Fool on the Planet」など)もありますので…。

 なお、ここで解説するコード進行のうち、8から14は厳密にはクリシェではありませんが、スケール音に沿って少しずつ変化するという意味で、その性格がクリシェに似ている(いわば『広義のクリシェ』)といえます。

1[クリシェ] I→Imaj7(onVII)→I7(onVII)→IV(or VIm7≒I6)
 エイン(トニック)エイン(トニック)(onアクセル(ドミナント代理))寂しがりやなエイン(変形トニック)(onハシボソカラス(ミクソリディアン・スケールのキーコード))ミラベル(サブドミナント)(orエセル(トニック代理・静))

 長調で、トニックコードがベース音を半音ずつ下げていき、最終的にサブドミナントやトニック代理のVIm7に進むもの。安定感と同時に、onVIIによる移り気、onVIIによる不思議な寂しさが特徴です。I7は長調上のダイアトニックコードではありませんが、使用頻度が結構高いコードです。

2[クリシェ] I→Iaug→I6→I7(→IV) (エイン(トニック)エイン(トニック)ケガエイン(トニック)平気そう痛がるエイン(変形トニック)(→ミラベル(サブドミナント)))

 Iで始まり、最高音が半音ずつどんどん上昇していくパターン。歩き出したらつまずいて転んでしまったものの、とりあえずは大丈夫そうに見えてやっぱり痛いという感じです。最後には誰かに頼ることになるのが特徴でございます。頼ることで満足、という感じだといえるでしょう。

3[クリシェ] Im→Immaj7(onVII)→Im7(onVII)→Im6(onVI)(or IV)→(V or Vm)
 エルアード(トニック)エルアード(トニック)(onミーシャ(ドミナント代理))エルアード(トニック)(onクリス(サブドミナント代理・強))エルアード(トニック)(onユア(正体不明の存在))(or グレイ・パパモード(サブドミナント))→(シェール(ドミナント)

 上の例と同じことを短調のトニックコードでやったもの。旋律短音階を使うので、緩やかな流れになるのが特徴です。マイナーの場合、かなり怪しげなサウンドになるのが特徴です。

4[クリシェ] Im→VI(onI)→Im6→VI(onI)
 エルアード(トニック)サフィ(サブドミナント代理・明)(onエルアード(トニック))エルアード(トニック)+αサフィ(サブドミナント代理・明)(onエルアード(トニック)

 最高音が一旦半音ずつ上昇し、最後に半音下がる、というもの。かの有名な007の『ジェームス・ボンドのテーマ』に使われている進行で、かなり癖の強い、そしてインパクトのあるモノになっています。(注:このパターンを解説している教本の中には、VI(onI)の部分をImaugと表記している場合もある。実際のコードトーンはImaug=VIとなっているので、ここではより自然なコードネームのVIを採用した。)

5[クリシェ] I→Imaj7(onVII)→VIm7→VIm7(onV)
 エイン(トニック)エイン(トニック)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)エセル(トニック代理・静)(onディッド(ドミナント))

 件の『Telephone Line』のサビに使われている形で、1のパターンとは異なり、長音階のスケール音上に沿ってクリシェしているというもの。1に比べて響きが大人しめになります。

6[クリシェ] Im→Im7(onVII)VImaj7(→IVm→V)
 エルアード(トニック)エルアード(トニック)(onクリス(ドミナント代理・動))サフィ(サブドミナント代理・明)サフィ(サブドミナント代理・明)(→グレイ(サブドミナント)シェール(ドミナント)

 globeの『Wanderin' Destiny』のサビで用いられているパターン。どこか雄大な感じと寂しさを醸し出します。

7[クリシェ] Im→Im7(onVII)VI→VImaj7(onV)(→IVm→V)
 エルアード(トニック)エルアード(トニック)(onクリス(ドミナント代理・動))サフィ(サブドミナント代理・明)サフィ(サブドミナント代理・明)(onシェール(ドミナント))(→グレイ(サブドミナント)シェール(ドミナント)

 6の形をもう少し伸ばしたもの。続く感じがより強まり、更に壮大なストーリーを予感させます。

8[広義クリシェ] I→V(onVII)→VIm→V→IV(or IIm7(onIV)
 エイン(トニック)ディッド(ドミナント)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)ディッド(ドミナント)ミラベル(サブドミナント)(orファタル先生(サブドミナント代理)(onミラベル(サブドミナント))

 半音進行ではなく、スケール音に沿った形のライン・クリシェ。変化と同時に不思議な安定感をもっているのが特徴です。

9[広義クリシェ] I→V(onVII)→VIm→VIm7(onV)→IV(or IIm7(onIV)
 エイン(トニック)ディッド(ドミナント)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)エセル(トニック代理・静)(onディッド(ドミナント))ミラベル(サブドミナント)(orファタル先生(サブドミナント代理)(onミラベル(サブドミナント))

 上記8のパターンにおいて、2回目のドミナントコードが姿を消し、代わりにトニック代理がドミナントの上に乗っかった形。トニックの比率が増すため、安定感はより高くなります。VIm7(onV)が次のコードに進みたがるようになっているので、自然な繋がりが期待できます。

10[広義クリシェ] I→V(onVII)→VIm→IV
 エイン(トニック)ディッド(ドミナント)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)ミラベル(サブドミナント)

 VIm7(onV)を経由せず、直接サブドミナントに突入する、パターン9の変形。滑らかさは弱くなりますが、その分IVに入った時にハッとさせられること請け合いの進行です。

11[広義クリシェ] I→V(onVII)→VIm→IIIm
 エイン(トニック)ディッド(ドミナント)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)エンディ(トニック代理・動)

 10を更に変形し、IVではなくトニック系のIIImに進むもの。I・VIm・IIImの3つに感化され、本来強力なドミナントであるはずのV(onVII)がなんだか妙な安定感を持ってしまう、クリシェにしては変り種です。

12[広義クリシェ] I→IIIm(onVII)→VIm→VIm7(onV)(→IIm7(onIV)→V7)
 エイン(トニック)エンディ(トニック代理・動)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)エセル(トニック代理・静)(onディッド(ドミナント))(→ファタル先生(サブドミナント代理)(onミラベル(サブドミナント))ディッド(ドミナント)

 V(onVII)の部分にIIImを持って来て、更にトニックの比率を増やした形。VIm7(onVII)は最終的にII→V進行に進み、そのままトニックに戻る、という形になり、循環コードとしての色合いが強くなります。前半にトニック系コードが並びますが、マイナーコードが並んでいるため、そこでどことなく物悲しい気分になるのも特徴。

13[広義クリシェ] I→V(onVII)→IV(onVI)→VIm7(onV)(or I(onV)
 エイン(トニック)ディッド(ドミナント)(onアクセル(ドミナント代理))ミラベル(サブドミナント)(onエセル(トニック代理・静))エセル(トニック代理・静)(onディッド(ドミナント))(orエイン(トニック)(onディッド(ドミナント))

 基本パターン「I→VIm→IV→V」の順番を引っ繰り返した挙句、オンコード化したもの。クリシェパターンとはかなり違っている華やかな進行です。雰囲気はかなりストレートで、とくに最後がI(onV)の場合、全てメジャーコードになり、分かりやすく明るく、それでいてパワフルな進行になります。

14[広義クリシェ] I→V(onVII)→VIm→IIIm(onV)→IV→I(onIII)→IIm7→V7
 エイン(トニック)ディッド(ドミナント)(onアクセル(ドミナント代理))エセル(トニック代理・静)エンディ(トニック代理・動)(onディッド(ドミナント))
   ミラベル(サブドミナント)エイン(トニック)(onエンディ(トニック代理・動))ファタル先生(サブドミナント代理)ディッド(ドミナント)

 究極形態にクリシェもどきをつけたパターン。ベース音が「1→7→6→5→4→3→2」と進み、最後にII-Vで安定する形です。

15[ペダル] I→IV(onI)(or IIm7(onI))→V7(onI)
 エイン(トニック)ミラベル(サブドミナント)(onエイン(トニック))(or ファタル先生(サブドミナント代理)(onエイン(トニック)))→ディッド(ドミナント)(onエイン(トニック))

 トニック→サブドミナント→ドミナントの基本的な流れにおいて、そのコードを全てトニックベースにしてしまうと、通常の力強さに更にどっしりした安定感が加わります。テンポが速い、もしくは高音がバリバリ鳴るような曲で使うと効果的でしょう。

例:「All-right All-night」Aメロ
キー:C
パターン:C|Dm7/C|G/C|Fsus4・F・Gsus4・G

16[ペダル] I→II(onI)→IV(onI)
 エイン(トニック)五体満足ファタル先生(サブドミナント代理)(onエイン(トニック))ミラベル(サブドミナント)(onエイン(トニック))

 通常のIImではなく、IIのコードを用いるところがポイント。一瞬ちょっとカッチョエエ音を鳴らし、その直後にもとのダイアトニックコードに戻す、というやり方です。一瞬ふわっと浮くような、そんな不思議な感覚が特徴です。


 ペダル・ポイントを用いる曲はたいてい♯系のキーで、なおかつギターを聴かせる曲であるケースが多いようです。ギターの弦は6本あり、そのうち低音の3本が(通常は)E、A、Dというチューニングになっています。これらは全て♯系のメジャーキーの主要コードになりうる音で、これらを開放弦として上手く用いることで、簡単にペダル・ポイントを生み出すことが出来ます。何より、A、D、Eのコードって押さえるのがすごく楽だし(笑)

 このページで扱っているコードのサンプルはサンプルのページをご覧ください。