第12話、木根バラって最高やね。あの流れる旋律が…。
(ライン・クリシェの話)

 ご存知のとおり、木根尚登といえばバラードの専門家である。やはりTMを語る上で、これらキネバラを研究しないのは問題が大有りなので、今回はその話をしていこう…といっても、その中に使われているテクニックの話なのだが…。


 もちろん木根尚登がバラードしか作らないというわけではない。例えばアルバム『CAROL』に収録されている『Chase in Labyrinth』、『Gia Corm Fillippodia』などは、その雰囲気が若干バラードとはかけ離れている。

 それに加えて、木根尚登と小室哲哉が共同で作曲したナンバーというのもある。『Your Song』、『Maria Club』、『Leprechaum Christmas』、『Still Love Her』などがそのいい例だ。

 残念なことに、これを執筆している時点で、私がスコアを持っている木根バラのナンバーというのが、『Confession』、『Telephone Line』、『Come Back to Asia』の3曲しかない。サンプル数が少ないので、木根バラ一般論というよりは木根バラ各論といったかんじになってしまわざるを得ないことをここで申し上げておく。今回は、その木根バラの中から、『Telephone Line』について分析していきたいと思う。この曲の中に、今回の主題である『ライン・クリシェ』というテクニックが頻繁に使われているからだ。もちろん、残りの2曲も簡潔ではあるが解説していこうと思う。

 

1、Confession

 この曲はTMの曲の中でもテンポがかなり遅く、q=72(注:変換で四分音符が出ないので、quarterの頭文字を取って、四分音符をqで表すことにする)となっている。曲としての難度は見た目…否、聞いた耳(?)に反してかなり高い。というのはキーがかなり頻繁に転調するし、それに加えてコードがかなり複雑になっているためだ。

 コードについて特記すれば、ダイアトニックコードの出現率があまり高くなく、その分ほかのコードが多々出てくるのだ。例えば、BのキーでDなどというコードが出てきたりする。

 どちらかというと小室哲哉は、シンプルなコード進行から複雑なメロディを紡ぎ出していく傾向にある。ところが、逆に木根尚登はわざとコード進行やコードそのものを複雑にして、それによる人の心の移ろいを表現するという手法を多用するようである。

2、Come Back to Asia

 前回転調論のところでちょっと触れた曲だが、この曲の特徴はドラムパート。所々でスネアドラムによるロールが多用されている。このドラムロールに加えて、前述のドリアンがこの曲でも用いられているので、2つが融合し、日本人の心の琴線に訴えかけてくるような不思議な感じを醸し出している。

 基本的なキーはAマイナーと、比較的シンプルな構成になっている(間奏で、所々Gマイナーが入ってくるのは前話したが…)。q=102。TMの他の曲に比べると遅い部類に入る。他のナンバーには、早いのだとq=172なんていう強者がありますから。(ちなみに『Time to Count Down』、なぜかスコアに書いてなかったんで、管理人の実測です。)

3、Telephone Line

 今回のメインイベンター。タイトル通り、ラインにとことんこだわった曲である。基本的なキーはEメジャーで、これが最後の最後まで変わらない。つまり転調一切なし。テンポはq=78と極度に遅い。

 特徴的なのが、サビの部分で使われているコード進行なのだが、その前にテーマ部分のコード進行を見てもらおう。ここも興味深いことをしている。(『アリガ式』ではおなじみの書き方で。各セルは小節をあらわしています。また、分数の形になっているコードは、分子がコードそのもの、分母がベース音を表していると考えてください。)

EGm7CmFm
灯りを消して  窓を開けると  ミルキーウェイが 降りてくる   受話
気なDJ ラジオの音も   なぐさめに ならなくて   ダイ
B7   B7/AE/GFmAm
器から 呟く声 同じ星座 見つけたいね  陽
ヤルを 回したのは 静か過ぎる 夜のせいさ

 不思議なことが起こっているのが5小節と6小節、それと8小節である。普通、音楽の場合は2、4、8と、2の整数乗の小節によって、一つの楽節が構成されている…のだが、この曲は何と最初の6小節で一旦完結し、そのあと2小節が追加されているのである。オマケに最後の8章節目は、どういう訳かAmのコードを用いてあり(本来、Eメジャーのキーで使われるAのコードはA、もしくはAmaj7のはず)、ふっとそこだけスポットライトが消えたような感じになる。この、音階の第4音のコードが、音階の性質と逆になっている(即ち、短調でIVを長調でIVmを使う)というテクニックは結構使われているので、知っておいて損は無い。

 そして今回の最大の主役、ライン・クリシェのご登場だ。サビのコード進行をご覧頂きたい。

コード  E  EM7/DCm7   Cm7/BFm   FmM7/FFm7/E B7
歌詞いつからだろう 友だちだった君が変わる   せつなくなるほど 触れ
ベース  E  DC    BF    FE    B
コードE  EM7/DCm7   Cm7/BFm   FmM/FFm7/E Am
歌詞そうで触れぬ こころを抱いて I call youevery night  causeI fell in love with you
ベースE  DC  BF  FE  A

 流れるような下降ラインが特徴的なこの曲のサビだが、ここで、1、2小節(5、6小節)と、3、4小節(7、8小節)の進行を抜き出してみると、ある不思議なことに気がつくだろう。

 EM7はE/D、Cm7はE/C、そしてFmM7はFm/F、Fm7はFm/Eとみなすことが出来る(なんでかはコードの教本を参照のこと)と…あら不思議、何と全てEのコードやFmのコードの下で、ベース音がスケールの構成音に沿っていたり、綺麗な半音ラインを描いたりしてだんだん下がっているということが分かる。

 このように、ある一つのコードの中で、どこかのパートが連続的に変化していくというパターンのことを、『ライン・クリシェ』と言う。 実際に聞いてみても分かるが、この曲の場合、ベースがどんどん下がっていき(実際は、単音のEGも下降ラインを描いている)、最終的にB7のドミナント・モーションで戻ったり、Amで一応の解決を見たりしている。

 このライン・クリシェという技法、余りぱっと聞いて分かるようなテクニックではない(この曲だと一発で分かるが、普通はもっと大人しい)が、使い方さえマスターすればなかなか面白い技法である。このパターンを使っている名曲も数多い。探してみるのもまた乙かも…。

 ちなみに、このクリシェ、サビだけでなく実は間奏の前半でも使われている。オマケにパターンがサビと全く一緒だというんだから…。

 

 木根尚登にしろ小室哲哉にしろ、ベースラインにはかなり気を遣っているふしがある。実際、TMの曲のほとんどが、離散的な(=ベースの音が激しく変化する)ものではなく、連続的(=音が段階的に変化する)なものになっているのだ。1音ずつ徐々に上がったり、逆に徐々に下がったり、同じコードないでも少しずつ上げ下げして変化をつけたりと、細かい芸が光る。

 ところで、「一つのコードの中でどこか一つが変わらないっていうのがあるなら、その逆(つまり、どっか一つのパートが変らないけど、コードはコロコロ変わるパターン)もあるんじゃねぇか?」と思った貴方、鋭いですね。まさにその通り。その発想がなければ発電機は生まれませんでした(何でそうなる?) その『逆パターン』は、また今度お話しましょう。