第13話、勝つためには『土台』が大事?
(ペダルポイントの話)

 どうも、こういう文章で「です・ます」調ってのはやりにくいので、今回もまた常体でやらしてもらいます。昔っからそうなんですけど、どうしても書き言葉で語り口がですます調ってのは、どうもしっくりこないというか、子供っぽいような感じがして苦手なもので…。

 

 ここに『Just One Victory(たった一つの勝利)』という曲がある。この曲が今回の主役である。ご多分に漏れず、この曲もまたイントロが長い。q=120で20小節ということは、40秒がイントロである。

 それはまあいいとして、この曲の面白いところはベースラインだ。それを具体的に見ていこう。

 問題のベースラインが出てくるのは、ヴォーカルが入ってすぐのことである。第1テーマの基本的なキーはBメジャー(正確に言えばB-ミクソリディアン)である。問題の部分を書き出してみた。

B7 Bsus4B7 Bsus4 B7 Bsus4 B7B7 Bsus4B7 Bsus4 B7 Bsus4 B7
We've (中略)groovy night!今宵満ち足りた 時が
 
B7/E AM9/EEM9 Aadd9/E A69/E EM9B7/C AA
訪れるWow wow  wowwow wow

 あることに気がつかれただろう。1の部分では、音階の主音であるBがずっとベース音で、2の部分のうち前半2小節では、第4音のEがずっとベース音を奏でている。そして、どちらの部分でも、ベースが安定していると同時に、上のコードはころころと変わっているのだ。

 このように、「ある一定の区間、コードそのものが変わっているのに、ベースの音が不変である」というテクニックのことを『ペダルポイント』という。前回お話した『ライン・クリシェ』の逆のパターンだと思って貰えれば分かりやすい。元々はオルガンの足鍵盤に由来するテクニックで、バロック時代の作曲家で、オルガン曲の名手であるバッハの曲にもこのコード進行が見られる。そのため、またの名をドイツ語で「オルゲルプンクト(Orgelpunkt)」という。管理人は第2外国語でドイツ語を取っていないので、この辺は詳しく知らないのだが…。

 ただし、ライン・クリシェと違い、この「ペダルポイント」というのはベースにしか使われない。どの音に適用してもいいのだが、よく使われるのは音階の主音(つまり、長調ならド、短調ならラ)、もしくは第5音(長調ならソ、短調ならミ)に使うことが多い。前者を「トニック・ペダルポイント」といい、後者を「ドミナント・ペダルポイント」という。

 この曲では、テーマ1が計4回出てくるのだが、その全てにこれと全く同じ形が出てくる。このテクニックが目指すものは「安定性」である。とにかく最低音がコロコロと変わらないので、聴く方は落ち着いて聴くことが出来るのだ。それにこの曲のテーマは「勝利」。勝つためにはやはり基本(Basis)が大事であることは言うまでもない。そのBasisに通ずるBassがしっかりしていないと、この曲は聴くに耐えないものになってしまうだろう。

 

 ところで、この曲はちょっと変わっている曲で、曲の間奏で全く別の曲がリミックスで入ってくる。具体的に言うと『Chase in Labyrinth(闇のラビリンス)』という曲なのだが(注:『Chase in Labyrinth(闇のラビリンス)』を書いたのは木根尚登。『Just One Victory(たった一つの勝利)』は小室哲哉作曲)、興味深いことに、この曲にもペダルポイントが使われている。どちらもアルバム『CAROL』に収録されているので、ぜひ自分の耳で聞いて確かめていただきたい。

『Chase in Labyrinth(闇のラビリンス)』、リミックスとはいえキーが変わっているとかそういうワケではなく、元のままである。肝心のキーはFメジャーであるが、よく見るとBやCのコードでFがベースになっているのがお分かりいただけるだろう。

F   F6B/F C/FF   F6B/F C/F
   闇のラビリンス  ドアから ドア駆け抜け
F   F6B   CF   F6B  C
   崩れ落ちて来る  壁から 壁くぐって
F  Fmaj9 FB   CF  Fmaj9 FB/F C/F
 背中に迫るあの声に 振り向かずにキャロル
F   Fmaj9 FB/F C/FE  C/DD
 奪われた僕らのメロディ 取りもどすのさいつか 2人ならば怖く…

 …16小節めのコードがDになっているが、要するに同主短調であるFマイナーから失敬してきたコードである。この辺の話はコード理論でゆっくりやるので、乞うご期待(←待て)

 

 この他にも、TMの曲でこのテクニックを使っている曲は結構ある。『WILD HEAVEN』の間奏などもそうだし(トニック・ペダルポイント、B音による)、『RESISTANCE』の第2テーマにもこれが見られる(トニック・ペダルポイント、A音による)。他にも、『All‐Right All-Night』の第1テーマ(トニック・ペダルポイント、C音による)、『Nervous』(トニック・ペダルポイント、D音による)などの例もある。

 それだけではない。このテクニックが多用されているアーティストがもう一人いる。ベースの対極に位置するような高い声の持ち主だといえば見当はつくだろう。そう、華原朋美である。私がちょっと確認してみたところ、少なくとも『I Believe』、『Keep yourself alive』、『Save your Dream』(全てトニック・ペダルポイントが使われている。それぞれF、D、C音による。ちなみに最初の部分のキーはそれぞれFマイナー、Dマイナー、Cメジャー。最初の2曲は最後に半音上のキーに転調する。)の3曲で確認されている。華原朋美クラスの高音になると、低音が不安定に動くとかえって耳障りなので、ベースを動かさずに安定感を出そうとしたが故の試みなのだろう。

 最後にもう一つ。実はライン・クリシェとペダルポイントをどちらも使っている曲がある。『8月の長い夜』という曲である。この曲の第1テーマ、及び第2テーマにおける基本的なキーはFマイナーである。よく見なくても、2つのテクニックが上手く使い分けられているのがお分かりいただけるだろう。

Bm BmM7Bm7 E7Fm7/C Cm7Fm7/C Cm7
君の声が泣いている8月のながい夜
あいつのことを話してる8月のながい夜
ライン・クリシェドミナント・ペダルポイント
(中略)
Bm7 BmM7/BBm7/A E/GEE
君の姿浮かべる-Please Be Only One
ライン・クリシェ--