未来は誰にも予測できないもの。その未来が予測できたらどんなに楽になるでしょうか。でも、それがわかってしまうということは、人生の半分を捨てているようなものなのかもしれません。予想ができないのが人生、そして自分で作り出すのが人生、この小説はそんなことを思い起こさせます。
未来を知ることができたら、どんなに良いことだろうと思ったことはないかい? そりゃあ、そんな能力さえあれば、人生のあらゆる困難も簡単に乗り越えられるよな。当然だ。未来が分かるんだから。自分は正しい道を踏むだけで後は正しい結果が待ってるだけだ。
おっと、言い遅れちまったな。俺はまあとりあえず外見普通な社会人だ。とりあえず普通の生活をして、とりあえず今の世の中を生きている、そこらへんにゴロゴロいそうな人間だよ。そう、”ある能力”を除いたらな。
え、どんな能力かって? そうだな、君は第六感というのを信じるかい? 実は、人間は誰でも第六感というのを持っているんだ。世の中には霊感の強い人や、超能力などと言ってスプーンを曲げたりする人間がいるだろ? そういった能力を持ってる人間達は特別それが優れてる人たちなんだよ。まあ、俺もそういった特別な奴らと同じ部類に入るな。俺には、どうやら未来を予知する能力があるようなんだ。
こんなこと言うと信じてもらえないだろうけど、俺は未来の内容を手に取るようにわかるんだ。明日、こういった事件が起きるとか、試験で出題される問題とかな。そういえば、1999年にノストラなんとかって奴の予言みたいなものがあっただろ? 俺は鼻っから信じちゃいなかったぜ。俺にはわかったんだ。そんなことは起こらないって。歴史上のどんなにお偉いさんがそう言ったとしても、俺の予知のほうが絶対なんだ。自慢じゃないが、俺が予知した未来は外れたことがないんだぜ?
でもな、この能力が生まれ付きあったわけじゃないだ。ある出来事を境に、俺は未来を予知する能力を身につけたんだよ。
今考えると、その出来事が俺のくそったれ人生の幕を開けたわけだな。
ある日、俺の父親が出張でニューヨークへ飛ぶことになったんだ。当時俺は5歳だったからな。それなりに親には甘えてたし、遠くに行っちゃうって聞いたら少し寂しい気持ちになったことを覚えてる。出発の前夜、お別れパーティーっていうのかな?まあとりあえずそういったことを家でやった後のことだったよ。突然、俺に激しい頭痛が走ったんだ。その時は苦しかったさ。耳鳴りだの幻想だのが見えるんだもんな。 いや、幻想なんかじゃない。俺は未来を見たんだ。明日、父親が乗る飛行機が墜落する未来を…。俺は泣き喚いた。そして父親に行かないでくれと頼んだ。「明日お父さんが乗る飛行機は墜落するんだよ」って言ってな。
当然、信じてくれるはずがなかった。「何か夢でも見たんじゃないか?」と言われたけど、そんなはずはない。あんなに強くイメージでき、まるで今、目の前で起こっているように見えた状況が夢なんかのはずがない。
次の日、父親は予定通りの便で、ニューヨーク行きの飛行機に乗った。
そして、その飛行機は墜落した。
ニュース速報で父親の名前が表示され、死亡を確認した時、極度の絶望感と恐怖感があふれたよ。未来を予知することができたっていう事実の恐怖感と、それを知っていて父親を止めることができなかった絶望感さ。俺自信も半信半疑だった。ただの偶然かもしれないって思ったさ。でもな、それ以降に起こった事件なんかも、全て予知することができたんだ。その時確信した。俺には未来を予知する能力があるんだと。
それから数年したら、俺はこの能力を悪用するようになった。分かるだろ?未来を予知できるってことは、完全に確率勝負だったら負けるはずがない。確率なんてものは、俺にとっては確実だった。
そこで、俺は競馬というのに手を出してみた。簡単なことだった。未来を予知して、勝つ馬に全財産賭けるんだよ。そしたら黙っててもがっぽりお金が儲かるってわけさ。本命だの穴馬だの、好調だの不調だの、そんなの俺には関係ない。「勝つ馬が分かる」、それだけで十分だ。
けどな、競馬も2、3回ほどやったらやめることにしたよ。分かるかい? 結果が分かってしまう競馬ほどつまらないものはないんだよ。たいていの競馬ファンは、お金を儲けることよりも、お金を賭けて、その馬を応援し、熱狂するのが好きでやってるらしい。だけど俺は違った。いくら周りが熱狂して騒いでいようと、俺はただ決められた結果が出るのを待つだけだった。時間の無駄とも思ったよ。くそつまらない競馬だった。金は稼げたとしてもな。
これ以降賭け事にこの能力を使うことをやめた。罪悪感もあったけど、何よりつまらないからだ。ラスベガスに行って本格カジノで一攫千金も狙えたが、そんなの全く興味がなかった。他にこの能力を悪用したのは、試験問題を予知したことだけだよ。今の学生には悪いけどな、解答を上から順に丸暗記して、解答欄に書くだけさ。問題用紙なんて必要ない。おかげさまで、東大の試験全問正解で入学しちまったよ。これまた結果がつまらなかったよ。掲示板に合格者の受験番号がズラーと表示されるだろ?周りはすごい熱狂っぷりだった。受かって喜ぶ人もいれば、落ちて泣き叫ぶ人もいた。中には胴上げなんかしちまう人だっていたよ。俺はそれを見る気になれなかった。すごい人込みだったし、何より自分は当然受かってるはずだ。それもまた予知できたよ。だから、俺は掲示板には目もくれず、真っ直ぐ関係者に向かい、「受かりました」と言って、受験番号と受け渡しに、関係書類の入った、「合格」と書かれている封筒をもらうだけさ。
どうだい?君はこの夢のような能力を手に入れたいと思うかい? まあ当然だな。この能力があれば億万長者はもちろん、世界の指導者になることだって簡単だろうな。それは極々自然な意見だろうな。たしかに、この能力は様々なことを可能にする。この能力さえあれば「不可能」なんてことはないさ。
だけど、俺は違う。この能力を持って気付いたんだ。こういった夢のような能力の代わりに、楽しい人生ってやつを失ってしまうんだ。いくら金があったからって、俺には未来が次々と頭の中に入ってしまう。予知したくもない時にもだ。常に未来の情報が頭に入ってしまい、これから何が起きて、どういうことになるかも、もう何もかもわかってしまうんだ。 結婚相手だってはじめっから分かってたさ。出会う前からな。それもまたつまらなかったよ。その人に出会った瞬間、この人と結婚するんだってな。笑っちゃうだろ?これが本当の「運命の出会い」ってやつさ。本当にくそったれな人生さ。楽しみというのが存在しない。世の中には、知らないことを知ることがあって喜んだり、未知の困難を乗り越える充実感があったりして、本当は楽しいはずなんだ。楽しいはずなんだよ。
だけど俺にはわからない。どんなに未来のことがわかったとしても、それだけは理解できないんだ。君は、それでもこの能力を持ちたいと思うかい? それでも欲しいって言うんなら、できるものなら俺と君とを交換したいよ。俺は普通の人生のほうを求めるさ。
だけどな、この能力を持って一つだけ良かったと思うことがある。それは、競馬に勝って儲けることや、有名な大学に入学することなんかじゃない。未来を知っているからこそ、心をこめてできることがあるんだ。
それは「親孝行」ってやつさ。
あまり考えたくないが、親の寿命だって当然わかる。あと何年ってな。悲しいがな、俺の母さんは予定ではあと1年ちょっとで死ぬことになってる。いや、予定なんかじゃない。俺の未来は確実なんだ…。だから、俺は心をこめて親孝行ができる。5歳の時に死んじまった父親の分もな。
今度は後悔なんかしたくない。死んでからじゃ遅いからな。普通の人間は、親が死んでしまってから親の大切さに気付き、後悔してしまうケースが多いからな。俺の母さんには「親不孝者」なんて言わせないぞ。死んでしまう直前まで、俺は目の前にいてやりたいと思う。
母さんの寿命が分かるってことは、当然自分の寿命だってわかるよ。 俺は82歳と4か月と13日で死ぬ予定になってる。いや、予定なんかじゃない。それはさっきも言ったな。 本当は100歳まで生きたかったよ。それでも80まで生きれるんだったらまあまあかな? このくそったれ人生を100まで続けても意味がないけどな。
それは今にわかったことじゃない。子供の時からずっとこのカウントダウンをしてきたよ。複雑な気分だな。一日一日確実に死のカウントダウンを減らしてしまうってことは。 おかげで、俺は一日一日を大切に過ごそうと思ってきたよ。まあ、何も充実しない日々には変わりないが。
長くなっちまったな。そろそろ俺のつまらない話も終わりとするかな。おっと、言い忘れてたがな、君の寿命や、これから起こる出来事も全部分かるんだぜ? 結婚相手とかな。それはだな…やめておこう。せっかく君がこれから楽しい人生を迎えるっていうのに、俺が駄目にしちまうとこだったぜ。人生知らないことだらけのほうが楽しいぜ? 自分で未知の未来を切り開くんだ。時にはつらいこともあるかもしれないけど、それが人生さ。きっと生きていれば良いことが起こるはずだぜ? 俺みたいにつまらない人生送るなよ。
それじゃあな。楽しい人生送ってくれ。
Fin.