コンテンツの玄関へ…読むのをやめる・中断する

Day-8 Following-up by Angela Team

第2パーティー
NAMECLASSSEX,RACELVEXP.NEW SPELLS
バリボーG-LorM-Dwarf4△4,221[僧1] DIOS BADIOS PORFIC KALKI MILWA
ジュディG-LorF-Human4△5,421[僧1] DIOS BADIOS
ジバリアN-MonF-Felpur720,967-
アンジェラN-RanF-Human1060,747-
ヴァラールG-BisM-Rawolf830,461-
エリトアN-BarF-Human612,169-

古びた宿の一室

 魔道から引き上げたアンジェラ一行。一晩の宿を取り翌日からの行動の打ち合わせをしていた。

 口火を切ったのはこのパーティーのリーダーたるアンジェラであった。

「とりあえず、今回探索した部分には何も無い、
 というのが正直なところね…。
 落とし穴はあったけど。」
「もう一回探索してみますか?」
それを受けてジュディが尋ねたのを受けて、アンジェラが続ける。
「そうしたいところだけど、今度はもう1つの魔道に行ってみたいわね。
 以前会った面々、彼らと全く遭わなかったのが少し気になるのよ。」
「ふむ…ならばそっちに向かうのも良かろう。
 また『気が付いたら落とし穴!』は避けたいところだしのう…
 誰か気になるヤツがおるのか?」
このバリボーという人物、何気なしに他人をよく観察している…なかなか侮れないジジイである。
「失礼な!ワシは貴様にジジイ呼ばわりされるほど老いてはおらん!」
…聞こえていたらしい。
「あ…あの…バリボーさん? 誰に向かって話して…」
「何でも無いわい。」

地下1階

 んで、あくる日である。迷宮に挑んだアンジェラたち、明らかに誰かが踏み込んだと思われる通路を先へ進むと…開けた場所に出た。しかし、そこで一行を待っていたのは、魔物の群れではなく、強烈な異臭であった。
「う゛っ…こ゛の゛に゛お゛い゛は゛…」
「もごもご…(訳:肉の腐った匂いですね…)」
「はう゛ぅ〜…」
あまりの刺激臭に、ジバリアは失神寸前である。こんなところを魔物に襲われたら一大事だろうが、この強烈な匂いが幸いして魔物さえ近づけぬ有様である。
「この死体…傷がほとんどないわ。しかも死んでからだいぶ経つみたいね。」
驚いたことに、この極限状態ともいえる環境の中でもエリトアは平然としてる。心臓に毛が生えているのか、それとも単に鼻が利かないだけなのか…。
「死因は…強打によるショック死のようね。」
うーむ、しっかり無視されている…。既に気付いた読者がいるかもしれないが、この部屋は翔太たちがヘカトンオーク and ごっつい数のオークと戦った場所である。このものすごい腐敗臭は、フラッシュの必殺技で壊滅させられたオークのなれの果てが放つものだ。
「魔力の残滓(ざんし)が感じられないところからすると、何かでヒッサツされたみたいだわ。
 凶戦士の必殺技か、呪文でない人外の力で押しつぶしたような感じね。」
気絶寸前のジバリアを支えつつ、エリトアは一行をドアの外に出し、自分の思うところを告げた。

「はぅ…きゅ〜…(バタ)」(←倒れた音)
腐臭に耐えかねて、とうとうジバリアがダウンしてしまった。
「それにしても、あんなにたくさんの死体なんて…
 なんだかオークたちが可哀想に思えてきますね。」
ジュディがつぶやく、アンジェラも同じ思いを持っていたようで、
「エリトアさん、あのまま放っておくとどうなるのかしら?」
「そのまま朽ちていくことはまず無いわね。
 いいところ、無念の気持ちを抱えた霊体になって彷徨うか…
 ゾンビになって他の冒険者を襲うか…
 どっちにしても浮かばれないのは確実だわ。」
「仕方がない…葬ってやるか…」
バリボーはそういうと、この状況を何とかすべく立ち上がった。それに続く形で、この手の専門家であるヴァラールも立ち上がる。
「では、私も参りましょう。
 ところでバリボーさん、もうディスペル使えるんですか?」
「まだ使えん。だが、キチンと埋めてやるだけでも違うだろうよ。
 ほれ、若い衆もみんな手伝え!」

 
 さすがに数十体もの死体が腐敗しているのだ、その腐臭たるや凄まじきこと甚だしい。
一向は遺体を魔道の外に運び出し、ヴァラールの指示の下、儀式に則って埋葬が行われ、オークたちは安らかな眠りについた。
「…あのパーティーでこのようなことができそうなのは…」
アンジェラは消去法で考えていった。
「まず、あの半獣の小僧は論外ね。
 まだ駆け出しっていう感じだったし。
 白ずくめの僧侶とハーフエルフも違う。
 あの自己中のマックス……いや、有り得ない。
 アイツの場合、一撃じゃなく数回攻撃するだろうし。
 ………あのエルフのレンジャーか……
 テンガロンハットの男?」
「……あの……アンジェラさん?」
ジュディに声をかけられ、現実に返るアンジェラ。
「あ、また……ごめんなさいね。今行くから。」
その先に待ち構えているのは何か……
こちらのパーティーは、苦戦する様子もなく先の下り階段に差し掛かっていた。

地下2階

 その下り階段の先にあったのは、T字路の分かれ道と、長いこと使われていないと思われる鉄製のドアだった。表面はカビと錆で覆われ、長いこと使われていないのは明らかだ。目の高さの辺りには、ドアの向こうの部屋について書かれたらしいプレートが掛かっているが、やはり錆が浮いており字を読み取ることができない。
「このドア…すごく気になるわね。」
 周りの壁は(地上ほどではないにしても)人が踏み込むことが多いため、それなりに風化は抑えられている。が、この扉だけは数十年早く時間が流れたかのように腐敗している。普通は怪しんで他の場所を巡るか、無視するかするほうが賢明と言える。しかしながら、冒険者の性というべきか、ドアの向こうが気になるのもまた事実である。アンジェラは全員を説得し。扉を押し開けた。

 重々しい音と錆が落ちる音を響かせながら扉は開いた。その先にあったのはどうやら地下水脈であるらしい。水の流れる音が空洞に響く。
だが、一行の耳に聞こえたのは水の流れる音だけではなかった。

 苦しそうにうめく声に、物を引きずるような湿った足音。
骨がきしんでぶつかりあう音と、剣や鎧のがちゃつく音。
洞窟によくいる有翼動物の羽音と、耳に刺さる甲高い鳴き声。

 それらの音に一同は恐怖した。ものすごい数である。取り囲まれたわけではないが、部屋を抜け出してあの重い扉を閉めている間にも、あの死者軍団は一行に襲い掛かってくるだろう。好むと好まざるとに関わらず、戦わなければならない。

敵モンスター
7 不気味な人影(7)
7 粘液質のもの(7)
9 小さな物体(9)
8 着物を着た男(8)
4 巨大な昆虫(4)

 先ほどのコボルド以上に数が多い。弱り目に祟り目、肝心要の全体呪文を使えるエリトアが、今回最前線に立たされている。持っている短剣で何とか骸骨を凌いでいるが、彼女には「凌ぐ」が精一杯なのだ。

 後方で援護することになった形のアンジェラは、秘蔵の呪文、LIQUREAでモンスターを前から覆い尽くす。その呪文に動揺したのだろう、ゾンビたちは次々にうろたえる形になった。その一瞬の間隙を縫い、後衛に下がったエリトア。間髪いれず、ジバリアが素早い一撃を、ヴァラールがKATINOで援護に回り、さらに相手の正体を悟ったバリボーが的確な戦略を練った時点で、本格的な戦闘に突入である。

敵モンスター
7 Zombies(7)
7 Creeping Cluds(7)
9 Creeping Coins(9)
8 LV1 Ninjas(2)
4 Stone Spiders(4)

「ジバリアは奴らの裏に回れ!
 アンジェラは忍者を、ヴァラールとエリトアはゾンビどもを頼む!
 わしとジュディは骸骨どもを止めるぞ!」
バリボーが矢継ぎ早に指示を出す。肉弾戦で持ちこたえ、その間に間接攻撃で仕留めようという作戦らしい。
「そぉーれっ!」
 気合いの入った声と共にジュディが斬りかかる。忍者に一太刀浴びせてすばやく間合いを取り、そしてまた斬りこんでいく。バリボーも同じようにバトルアックスで、しかし一撃ずつ確実に叩き込み、ゾンビを弾き飛ばしていく。 その後ろから、ヴァラールが放つMELITOの爆風とエリトアが放つMAHALITOの炎がクリーピングクラッズとストーンスパイダーに襲い掛かり、ジバリアの追い討ちがかかる。

 …一見、戦いはバリボーの思惑通りに運んでいるように見える。実際、薄気味の悪いゾンビやクリーピングクラッドどもと忍者は先の3人による攻撃とアンジェラの射撃で次々と撃破に成功している。だが、クリーピングコインどもは二人がいくら打撃を加えても数が減る気配がない。

 ゾンビどもとコウモリをあらかた片付けて、コイン連中のほうに加勢しようとするヴァラールとエリトア。まだ数匹残ってはいるが、ジバリアとアンジェラが何とかするだろう、そういった判断が働いたからだ。

"MOLITO!!"

エリトアが挨拶代わりにMOLITOを打ち込む。それを食らったコイン以外のモンスターは弾け飛んでしまったが、肝心のコイン、一旦は吹き飛ばされバラバラになったものの、すぐに断末魔の叫びで仲間を呼びまくる。道理で二人がいくら攻撃しても数が減らないわけだ。しかし、時間をかけて兵糧攻めにすればコインども、何かの呪いから解放されたかのように、その身を崩し、再び完全に粉々に砕け、藻屑となってその場に砂となって倒れたのであった。
 その結果として、魔物たちは、その場から姿を消していったのだった。

「……哀れなる者たちよ…」
ヴァラールがそう言葉を残していくと、辺りに散乱していた魔物の屍骸が、未練なきがごとく消滅してった……。
「不思議なものよのう。魔物が消え逝くとは……。」
バリボーが、ヴァラールの祈りの成功に感心したのか、そう呟き、一行は再びこのフロアの探索を開始した。

 

Day-8' 悩めるお年頃?

地下3階

 暗い迷宮の回廊に金属音が響き渡る。音を発しているのは一人の屈強な戦士と6人の冒険者たち。その中の一人、ジュディが先陣を切って敵に斬りかかる。相手の繰り出す重厚な一撃を交わしつつ一太刀を浴びせるが、いかんせん巧く攻撃を当てることができない。相手になっている戦士…少なくともマックスやフラッシュと同じぐらいに腕は立つだろう…は、盾を巧みにつかってこちらの攻撃を交わしてくる。
 それでも、後方からアンジェラやエリトアの支援がある。ジバリアのヒット&アウェイとバリボーのバトルアックスによる一撃で、少しずつではあるが防御の上から相手の体力を削りつつある。事実上1対5という人数の差は、時を経ずして冒険者たちを勝利に導くだろう。しかし、ジュディは人知れずあせりを感じていた。
「……ムッ!?」
相手の戦士は遅まきながら己の不利を悟ったのか、一行に背を向けて逃げ出した。この機を逃すまいとジュディが追い討ちをかける。剣を上段に構え、一気に振り下ろす!しかし、こちらもむこうも走りながらの立ち回りである。しかも相手のほうが足が速いようで、ジュディの振り下ろした剣は切っ先が鎧の脇をかすめただけで、一撃を与えるには至らなかった。
「ぬぅ…逃がした獲物は大きい」
バリボーが地団太を踏んで悔しがっている。浅い階であれだけの強さの戦士なら、非常に割の良い稼ぎが期待できるのだが。
「仕方がありません。  それよりも、そろそろ引き上げたほうがよろしいでしょう。
 先ほどの戦いで大分消耗が重なっているようですから」
 戦後処理で傷ついた仲間に治療を施していたヴァラールが言った。戦闘中では傍観者に回ってしまうヴァラールも、非戦闘時には、回復呪文なり鑑定能力なりで何かとパーティの底辺を支えてくれる。翔太チームのエバイストもそうであるように、聖職者はその力で戦闘をバックアップする貴重な仲間である。だからこそ、前衛の戦士たちは思い切って戦うことができるのだ。(どこぞの世界では回復魔法を使えるジョブはその出自を問わず人気者らしい…回復魔法が使えるという点において)

 いつものように応急処置をしようとジュディに近寄るヴァラール。しかし、いつもと様子が違う。力なく座り込んで通路の奥をぼんやりと見ている。
「どうなさいました、ジュディさん?」
話し掛けられてジュディは我に返った。ヴァラールに向けた彼女の顔はいつもの元気が見られない。
「…あ、うん…ちょっと…」
元よりおっとり気味に話すジュディではあるが、今のはそれとも違う元気の無い声だった。

「あーあ、結局この宝箱にもまともなモノは入ってなかったわね。」
アンジェラがいつもと同じ元気の良い声で二人の下にやってくる。
「ジュディ、ヴァラール、そっちはどう?」
「…。」
「どうしたのよ、ジュディ?」
「ちょっと元気が無いようですね。怪我ではありません。」
「ふーん…? あ、あれは!」
さっきまでジュディが見ていた通路の奥のほう、ランプの明かりが届かなくなりそうな辺りに落ちていた「何か」をアンジェラは見つけた。
「…剣ね。」
おそらくは、逃げた戦士が腰に帯びていたものだろう。こしらえが普通のロングソードとは違い、湾曲した鞘に収められている。ジュディの一撃は相手をとらえることこそできなかったが、腰に下がっていたこの剣を相手から奪い取ることになったようだ。
「ヴァラール、これはとりあえずあなたに預けておくわ。
 一旦、引き上げましょう。」
ヴァラールに正体不明の剣を渡し、アンジェラはヴァラールのアドバイスを採用して引き返すよう、皆を促した。再び1箇所に集まって引き上げようとする6人だが、その中にあってジュディの足取りは一層重かった。

 
 暗く、湿気の強い回廊。ところどころから水も滲み出てくる暗い迷宮を、一行は再び戻ることにした。彼らにとって唯一の視界を保障するランタンの灯が、歩みとともにゆらゆらと危うく揺れている。

 確かに引き返しているはずだった。
目印のようなものは特に用意していなかったが、全体的にさほど広いとはいえない迷宮である。6人とも、道筋はきちんと覚えていたのだが…
彼らがたどり着いた先に上り階段はなかった。その代わりに待ち受けていたのは下り階段、そして、そこを守護する魔物たち…
なぜ道筋を間違えたのだろうか……一行の疑問をよそに、本能が牙を剥く。

敵モンスター
5 Bio-Zombie(5)
6 Vorpal Bunnies(6)
9 Iron Scorpions(9)

 6人の姿を前に、理性を失った屍が咆える。
何らかの薬品に漬け込まれていた死体は、めくれあがった口から涎をたらし、荒い息遣いが興奮している様を如実に伝えてくる。そして、その陰に見え隠れする小さな生き物…見るからに相手の警戒を緩めさせるような愛敬のある姿…。さらに、周りを飛び回るサソリは生理的嫌悪をもよおすような羽音とあごの鳴る音を発している。大の男さえ戦意を削がれるようなこの状況で、女性率の高いこのパーティには辛すぎる相手だ。しかし今は非常事態、相手を選んでなどいられない。

 武器を構えた冒険者たちに、飢えた魔物が襲い掛かる。さらに小さな姿も俊敏な動きで飛び掛ってくる。
前衛の3人は素早く広がり、相手の注意を複数に散らせる。
"KATIQUREA!!"
"MAHALITO!!"
"KATINO!!"
後衛の3人がそれぞれに敵に向かって眠りの呪文と火炎の呪文を放つ。獣ばかりのこの相手には最も合理的な攻め方だ。しかし、MAHALITOを唱えながら敵陣を見るエリトアの目は、最悪な状況を目の当たりにしたように厳しい。
「あのウサギに気をつけて!」
しかし、その言葉は一瞬遅すぎた。炎の渦の中から飛び出した影が、バリボーの喉元にめがけて飛び掛っていったのだ。
「が…ぶぁ〜!?」
皮を引きちぎるような鈍い音に続いてバリボーが叫び声を上げる。首筋から血が噴き出し噛み付いた影を、そしてその後ろにいるジュディを紅く染め上げる。素早く首筋を抑えて出血を塞ごうとするが、そんなものなど無いかの如く噴水のように血が噴き出す。
「なっ…バリボー!」
突然の出来事にヴァラールが叫ぶ。一瞬の躊躇のあと、手に持っていた剣を投げてバリボーに駆け寄る。
「行ってはダメ…くっ!」
バリボーの首を切った赤い影…ヴォーパルバニーは着地してすぐにヴァラールに標的を変えた。同じく首筋を狙って地面を蹴る。しかし、ヴァラールの肩をかすめて何かが飛んできた。それは宙を跳んで回避ができないヴォーパルバニーに刺さり、凶悪な暗殺者を仕留めた。

 一方、他の3人は炎を免れた獣やサソリを相手に苦戦を強いられていた。ジバリアは次々と遅いくるヴォーパルバニーの攻撃をかわすので手一杯、アンジェラは自分の身の丈ほどもあるアイアンスコーピオン相手にLIQUREAと弓矢で応戦し、ジュディは自分よりも大きなバイオゾンビの攻撃を受け止めて力比べ状態になっている。

(なんで…あたしは…こんな…)
顔にかかる生臭い吐息と、悪夢の腕力で襲い掛かる爪に耐えながら、ジュディは心の中で漠然と自問していた。
(人の前に立つべき君主が…みんなに助けられて…)
バイオゾンビの一撃を捌いたところにヴォーパルバニーが襲い掛かる。それを盾で打ちのめし、ジュディは一歩下がって間合いを取る。いきり立つバイオゾンビの太い腕がジュディに向かって振り下ろさる。力の入った一撃まともに受け止めたジュディは地面に叩きつけられた。しかも、その時の勢いで剣が手から離れてしまった。
(…情けないわね…)
殴り倒された上に武器を落とした君主…確かに屈辱的とも言えるだろう。
…通路の天井が見える。
…足元の方からは咆える声が響く。頭の方からは炎が吹き出す音が聞こえる。
…ヴァラールが大声で何かわめいている。盛んに足踏みする音も聞こえる。
…何だか頬のあたりがこわばっている。目の前もなんとなく赤い。
(…そうだわ、返り血を浴びたんだ…バリボーさん…あの様子じゃあ…)

敵モンスター
3 Bio-Zombies(2)
1 Vorpal Bunny(1)
6 Iron Scorpions(6)

 不意に目の前にウサギの顔が現れる。かわいらしい外見の凶悪な獣はゆっくりと口を開けた。短剣のような牙が目の前に迫る。素早く身体を転がし、ジュディはヴォーパルバニーの攻撃をかわした。立ち上がろうと片手をついたところで指に痛みが走る。手を見ると小さな切り傷ができていた。地面に目を向けると、そこにはアンジェラがヴァラールに預けた剣が落ちている。投げ出された時の衝撃で、剣が鞘から抜けたようだ。ランタンの薄暗い灯を受けて刀身が光る。数センチほど見えるそこには、波のような紋が見える。

 どこかで見たような…そう、宮殿とかにある大理石…あの模様に似ている…
「キャっ!」
ジバリアの叫ぶ声が聞こえる。その声にジュディは一気に現実に引き戻された。素早く足元の剣を拾い、中身を抜く。どういう代物なのかわからないが、今は気にしていられない。呪われた品ならボッタクル…もといボルタックでどうにかしてもらえばいい。
(もしかしてジバリアさんも…?)
そんなことを考えていられるのも一瞬だった。ヴォーパルバニーが飛び掛ってきたのだ。右に跳んで攻撃をかわし、緩やかに剣を横に構える。剣の射程にウサギを捉え、素早く振り抜いた。
 その一撃は確かにウサギを捉えた。しかし、手に伝わる感触は張った布を切り裂いた時のように軽かった。緩やかに反る刀身に刻まれたマーブル模様が、ランタンの光を受けて妖しく光る。粘土の塊を落としたような音が二つ、左のほうから聞こえた。
 視線を移したその先には、首と胴を切り離されてだらしなく口を開けたヴォーパルバニーが転がっていた。
(…もしかして…今の一撃で…?)
もう一度手に持った剣を見る。刀身が反っているのと、拵えがオリエンタルなのを除けば、まるっきりロングソードだ。重さもそのまんまである。何より刀身に浮かぶ美しい紋様を見ていると、心を奪われそうになると同時に自信が湧いてくる。
 だが、ゆっくりと鑑賞などしている場合ではない。目の前には飢えた獣人が立っている。ふと視線を移すと、その右手に何かぶら下がっている。血で汚れた銀色の髪に、力なく垂れた猫耳…。背筋に寒いものが走る。
 その数秒後、ジュディは剣を肩に構えて走った。Were Bearの肩口に向かって渾身の力を込めて剣を振り下ろした。肉を斬る感触と共に、重い音が響く。足元から小さくうめく声が聞こえ、頭上からは痛みと怒りの混ざった下劣な咆え声が聞こえる。その声を聞くと、全身の毛が逆立つような気がした。ジュディは顔を上げて獣人を睨みつけた。

 足元に転がるウサギの死体から短剣を抜いたエリトアは、素早くあたりを見回した。すぐそばにはかがみこむヴァラールがいて、全身血にまみれになっている、左のほうにはアンジェラがいて、ナイトロゥカストを相手に一人で戦っている。前方に目を向けると、気絶しているジバリアと当にバイオゾンビに斬りかかろうとするジュディが見える。腕を切り落とし、さらに荒々しく剣を振り回してバイオゾンビに斬りつけていく。しかし、その近くにもう一体のバイオゾンビがいることにジュディは気づいていない。
"TZALIK!!"
天撃の呪文を唱えると、幾重にも連なる光の矢がバイオゾンビを襲った。そのうちの一本がバイオゾンビの目を切り、さらに別の一本が耳を切った。痛みでのけぞり、無防備になった身体をさらに真空の刃が切り刻んでいく。今度は左を向いて氷の呪文を唱える。
"DALTO!!"
きらめく氷のかけらが気流に乗ってナイトロゥカストの群れの中に流れ込んでいく。低温で動きの鈍くなったところにアンジェラの放った矢が刺さり、一匹、また一匹と落ちていく。
「ありがとう…エリトア…ジュディは?」
無言で顔を背けたエリトアの視線のその先には、何本もの切り傷を付けられて血を流すバイオゾンビと、それでもなお斬りつづけるジュディの姿があった。

敵モンスター
1 Bio-Zombie(1)

「……いい加減……降参したら……どうなの…?!」
連戦に次ぐ連戦、ジュディの息は、まるで彼女の心を表しているかのごとく、荒々しい。
剣の切っ先をバイオゾンビの鼻っ面に近づける。
轟く咆哮。
刹那、悪夢の平手がジュディを襲う!
「はっ!!」
間一髪のところで回避し、手にした剣を悪夢の左胸めがけて一閃を放つ。
濁った悪夢の轟きが周囲に響く。ジュディが1体を迷宮に沈めたのだ。

 だが、彼女はもう1匹の野性に未だ気づいてない。
ちょうど、今倒した悪夢の死角にあるもう1つの恐怖。
恐怖は休む間なく襲い掛かる。
「危ない!! SOPIC!!」
猛る悪夢の牙が当たるまさに寸前だった。エリトアの防御呪文により、熊による被害はほとんどなかった。
「くっ!!」
悪夢の攻撃を最小限に抑えたジュディだったがその突進の威力に耐え切れず、バランスを崩してしまった。 「危ないから離れて!!」
アンジェラが叫ぶとともに、後方から数本の矢が飛ぶ。それらが悪夢の脳天を貫く。
「はぁっ!!」
アンジェラの命令で回避行動を取っていたジュディが怯んだ熊にとどめの一撃を加える。
再び重い感触と濁った咆哮。
理性が本能を打ち砕いた瞬間であった。

 周囲には獣たちの血液…いや、こちらの血液も大分混じっている。地獄絵図とはこういうことを言うのだろうか。
 勝利といえば勝利だろう。だが、こちらの状況は惨憺たるものであった。文字通りの辛勝を収めた途端、ジュディは片手と片膝をついた。肩を大きく上下させ、荒く息をついている。顔からは汗とも涙とも区別がつかないほど透明な液体が垂れている。辺りには血の臭いが立ち込め、斬られたばかりの肉片が転がっている。濃い湿気と激闘の後という状況が重なり、周囲はサウナとは言わずともかなり蒸し暑くなっている。
 ジュディにエリトアが肩を貸して立たせている間にアンジェラがジバリアを担ぎ、ヴァラールの元に行く。戦いの間中バリボーの復帰に集中していたのだが…しかし、話し掛けたアンジェラに対して応えたヴァラールの声は重かった。
「なんとか手は尽くしましたが…残念ながら…」
力なく首を振りながら、腹の底から搾り出すように話す。顔も法衣もバリボーの血で真っ赤に染まっているその姿は、ある意味異様な雰囲気を与える。
「仕方がないわ。首筋を切られたら簡単には助からないもの。
 それより、犠牲になったのがバリボーさん一人だったのは
 ある意味で幸運と言うべきね。」
ジュディを支えながら歩いてきたエリトアが言う。
「下手をすればヴォーパルバニーに全滅させられたかもしれないし、
 避けられたとしても残りの連中に少しずつ追い詰められていたかもしれない。
 とにかく、動けないのが二人というのは上々の結果よ。」
その場に沈黙が流れる。しかし、もっと重大な問題がまだ残っている。さっきよりも悪い状況でどうやって地上に戻るか?下手をすれば帰還途中に新たな魔物に遭って、そのまま全滅する可能性がある。エリトアもヴァラールもまだ移動系の呪文は習得していないし、かといってここに留まっていても死を待つのみだ。しかも、バリボー蘇生の可能性を失っていく分だけ先行きは暗い。

 そんな中、エリトアが思い出したように話はじめた。
「この先に一つ、確実にリルガミンに還る方法があるわ。でも…」
一旦言葉を切り、他のアンジェラとヴァラールを交互に見る。
「途中で魔物に遭うかもしれない。
 もし振り切ることができなければ、全滅する可能性もあるわ。」
リスクを伴うが確実な帰還方法、この状況では希望に満ちた選択に思える。しかし、もし運に負けたら…?
「…行きましょう。このまま待っても死ぬのを待つばかりだし。
 それに…確実な方法があるというなら、私はそれに期待するわ。」
「決まり…ね。」
ジュディを一人で歩ける程度までに回復させた後、エリトアが先頭に立って先へと進む。その後ろにジュディが続き、さにジバリアを背負ったアンジェラ、バリボーを背負ったヴァラールが続く。この状態で敵と遭遇したら、間違いなく全滅だろう。

 やがて通路を進んでいった一行は一つの扉の前に着いた。それは同じフロアのほかの扉とは多少違っていた。分厚い樫でできた頑丈な扉が両開き構造になっていて、そこに大きな取っ手がついている。そんな扉を押し開けてエリトアが中に入り、続けて3人が中に入る。 そこは小さな礼拝堂だった。幅10メートルで奥行き20メートルぐらい、と本当にこじんまりとしたもので、壁にかかった籠に入れられた薪が赤々と燃えて部屋を照らしている。
「ここまで来られれば、あとは大丈夫よ」
そう言いつつ、エリトアは中へ踏み込んでいく。奥には祭壇が設けられ、小柄な人間が何か祈りを捧げている。
その人間まであと数歩というところまで近づいた途端、その人物が振り返った。そして、両手をゆっくりと振り回して呪文の言葉を唱えた。

"MAPILO MAHAMA DILOMAT!!"

その瞬間、一行の姿は霞のように薄くなり、やがて消えていった。

 

 そのころ……
「マスター、これ、件の不登校関連の報告書です。」
青いケープに茶色のマントを羽織った少年――以前、クリスが魔人たちのスラムの孤児院から引き取り、自身の弟子として面倒を見ているライーダ――が、温泉宿で夕食をとっているクリスに、数十枚にのぼる書類を手渡した。
「……まあ、予想通りっちゃ予想通りだが……。
 こりゃずいぶん酷い状態だな…。」
彼はそういうと、荷物をまとめて帰り支度を整え始めた。
「私はこれからリルガミンに赴く。ライーダ、お前も付いて来い。
 調査は大掛かりになりそうだ。手伝ってもらう。」

「ぃぃえぇぇぇっくしょい!!!」
またも超特大サイズのくしゃみをぶっ放す男がいた。
青緑のケープに茶色のマントを纏った魔術師風…いや、事実魔術師の男…クリスである。
「…ったく、砂地はこれだから困る…。
 …まあ、何はおいても急がないとな。」
慌しくリルガミンに向かう彼とその弟子・ライーダ。
「ところでマスター、わざわざこんな砂地を歩かなくても…
 MALORの呪文覚えているでしょう?」
リルガミンへの道を急ぐクリスの後で、ライーダが結構もっともかもしれない質問をする。
忙しそうに歩くクリスの足がぴたりと止まる。
「そうだよなぁ…すっかり忘れてた。
 ふぅ、年はとりたくないものだな。
 おかげで要らんモンスターと戦って魔力も消耗しちまったし。」
やっちゃったよ、という表情でライーダに返事をし、クリスは杖を取り出す。
「えーっと…転移の真言は…あー、MA-LO-Rだから…
 よし、ライーダ、俺のそばから離れるな。」
そういって杖を地面に立て、詠唱の構えを取る。

「ミームアリフ・ラーザンメ・レー!
 遠き場への移動…目的地はリルガミン!」

 クリスの足元から光が立ち上り、さらに光の輪がクリスとライーダを囲むようにのぼる。そして光の輪が消滅したとき、二人の姿も消えていた。
いったいリルガミンに何が起こっているのか――――