帰ってきた準一達は酒場へ直行すると、早速冒険者リストを取り寄せた。ところが、準一はそれを見て思いきりゲンナリしてしまった。
「とりあえず登録者リスト見たんだが…
まともなの1人しかいねぇ!」
「そのまともなヒューマが外出中ときたもんだ。」
「じゃあ俺訓練場行ってくるわ。」
突然準一が言い出す、賢一が訝しげに問う。
「なぜだ?」
「モンクの修行するから。」
「いや、だから何で修行するのかを聞いている。」
「前衛誰もいないじゃん。
仮にヒューマが仲間になったとしよう。
じゃあ配置はこうなる。
| Nin | ヒューマ | Ran | 鈴木賢一 | - | - |
| Psi | 高田準一 | Bis | シザール | Mag | ミリア |
これじゃあ偏り過ぎだ。それに俺のサイオニックの呪文はシザールも持ってるしな。」
「そうか、じゃあ俺とミリアはでーと…じゃなくて偽クリスの情報をさがすことにする。」
シザールが茶化すようなことをいったが、ミリアの強烈なバカヤロウ目線を感じ、すぐにもとの口調に戻した。
「俺は?」
「留守番」
>illust
「ったく、勝手なこと言いやがって…」
賢一は渋々そこに残ることになってしまった。となると、彼にできることはただ一つ。そう、酒場での情報収集である。新米冒険者が中心のルルンの酒場ではなく、このギルガメッシュの酒場は、熟練冒険者が多い。すでに地下3階まで制覇しているものもいるほどだ。
彼らの間ではすでに噂になっている。
「地下5階へ行くにはどうすりゃいいんだよ…」
「途中で怪しげな機械を見つけたのだが、
いったいどうやって動かすんだ?
それ以前に、動かしていいモンなのか?」
「4階の一番奥になるんだろうな、
あそこにいるパーティーがやたら強くて
こっちも大打撃だっつーの…。」
「なんだか実験室みたいなのがあって、
そこでとてつもない化け物がいたんだが…。」
「一面氷に覆われた部屋があった。
入り口の扉には『φρεεζερ』と書いてあって…」
そんな情報を逐一メモしていた賢一。こういうところで、割にまめな性格のようだ。
ただ待つのも癪なので、注文をとった。チューハイにタコのマリネ…いたって普通のメニューである。どうやら、酒はあまり得意ではないらしい。
彼が1杯飲み干そうか、というところで、そこに銀髪のハーフエルフの男が入ってきた。
>illust
(ハーフエルフ…ヒューマか?)
ヒューマと思われる人物はカウンターに座り、考え込んでいた。
(さて、これからどうしたものか。仕事もないしどっかのパーティに入っかな?
けど人間にもエルフにも嫌われるハーフエルフってのが損だな。
これじゃあドワーフ、ホビットとかのパーティにしか入れねぇ。)
(とりあえず聞いてみるか。)
賢一は立ちあがってヒューマのもとへ行った。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが。」
「(…エルフか。めんどくせぇな。)なんだ?」
「お前、ヒューマか?」
「そうだが。何か?」
「単刀直入に言う。仲間になってくれ。」
「なぜだ?」
「酒場にはお前しかいないから。」
「だから嫌いなハーフエルフとでもいいから仲間を増やしたいってか。」
「は? 俺はハーフエルフ嫌いじゃないが。
というよりもここら辺界隈じゃハーフエルフは心を和ませる種族だ。
少なくとも、俺はあんたが一緒にいるということで心が和んでる。
ワービーストみたいに毛嫌いされることもないんじゃないか?
あいつらもそうだろう、喜ぶはずだが。」
「まぁ仲間になってやってもいいが。だが、一つ条件がある。」
「何だ?」
あまり機嫌が良さそうに見えないヒューマが条件を出す。独りで育ってきた彼にとって、協力とはあくまでビジネスなのだ。
「報酬。」
「…ううむ。」
賢一は唸った。と言うのも、先の冒険で得た金はミリアを仲間にするために全額使い込んでしまった。今彼の手にあるのは滞在用の路銀だけである。先のミリアといいこのヒューマといい、現世御利益主義の悪人を扱うのには何かと金がかかる。
「それよりもあんた、気軽に俺に話し掛けてきて良いのか?
見たところ善人のようだが。」
ヒューマに指摘されて、初めて賢一は周囲の視線に気付いた。もちろん、普段から人の出入りが多いこの酒場のこと、個人のやり取りに注目する者などそうそういるものでもない。しかし、それでも近くに居る人間にしてみれば善人と悪人が仲間になろうかという会話をしているのを聞くのはあまり気分の良いものではない。我々の社会と違ってここは異世界、隣人の物の考え方が違うことなど当たり前なのだ。そして何より善人と悪人は表立って協働できない、これは誰が決めたのでもない、社会が定めた暗黙のルールである。
「ま、俺を仲間にしたいのなら取り引きの前に場所を選ぶことだな。
俺はどこでも構わないが、お前にも世間体と言うものがあるのだろう?」
そういうが早いか、ヒューマは席を立った。すれ違いざまに、言葉に詰まりただ立ち尽くすだけの賢一にむかって耳打ちをする。
「どうしても俺の協力が必要なら、仲間を連れて魔道の入り口に来い。」
「仲間を連れてか…」
とりあえず3人の帰りを待つ賢一であった。
「今のところ偽クリスの情報は…
とかいうどうでもいい情報ばかりなんだよなぁ。」
とにかく情報収集する。
さっぱり集まらない。どうやらリルガミンの連中、クリスのことよりどっちかっつーとメイのことを覚えているらしい。まあ、最後の最後に活躍したのはメイだし、パーティー唯一の女性ということで華があり、そのおかげで記憶に残った、というのがあるのだろう。まあ当然、師であるクリスを絶対的存在と崇めるミリアの機嫌はsinθ=1/√2 くらいひん曲がってしまった。
しかしながら、そんな中とっても有力な情報を、ルルンの酒場のマスター、ルルンから聞くことになった。
>illust
「15年ぐらい前のことだけど…」
ルルンは銀の盆をカウンターに置き、二人に席を勧めた。
「ある一人の冒険者が魔道に向かったの。」
マスターにしては年が若い。それに他のウェイトレスと大して変わらない格好をしている。自分から名乗りを上げなければわからないだろう。
「その男の名前はゼグルス。
リルガミンでもあまり見ない、ドラゴンネオという種族の生まれよ。」
ルルンが言うには、次のようなことであった。
ゼグルスは他に善の性格を持った者たちと連れ立って魔道に挑んだが、一行がレベル13ぐらいになった頃に行方不明になった。正確には、還ってきたパーティの中にゼグルスがいなかったのだ。その者たちと面識のある者がゼグルスのことを尋ねても、彼らは隠し事をしているかのように「彼は迷宮の中で死んだ」と言うばかり。当初こそ「ゼグルスは見捨てられたのでは」という憶測が広まったものの、この街の喧騒の中に憶測は飲み込まれ、いつしか誰も話題にしなくなった。
「ふーん、不思議な話もあるもんだ。」
シザールは小説のような話を頷きながら聞いていた。
「それでね、その話には続きがあって…」
さらにまだネタがあるらしい。
「ここ一年ほど、『ゼグルスを見た』って人が出てきているのよ。」
「それって…ありがちな展開ね」
ルルンの発言にミリアは自然にツッコミを入れていた。
「しかも、そのゼグルスが最近ギルガメッシュの酒場に現れたんですって。
マルシェ姉さんに聞いたんだけど。」
「なるほど、それじゃあ賢一が噂を聞いているかもしれないな。」
礼と共に勘定をルルンに渡し、さらにミリアを伴ってシザールはルルンの酒場を後にした。迷宮の中で生き延びていたとすれば、サバイバル能力は超一流と見て間違いないだろう。おそらくは前衛要員としての技術も…というのがシザールの考えだった。
「とりあえず賢一のところに行くか。」
知り得た情報を、酒場で情報収集をしている賢一のところに持っていくシザールとミリア。
「おお、やっときてくれたか、実はヒューマが…」
「そんなことは後でいい。ゼグルスという男を知らないか?」
「……そういえばついこのあいだ現れた、とか話している奴がいたっけ…。
ゼグルスがどうかしたのか?」
「マジかよそれ。実はだな……」
ルルンから聞いた話を賢一に話すシザール。
「ああそうだ。んじゃあ付いてきてほしいところがあるんだ。」
「おお、さっきのエルフ。」
「連れて来たぞ、1人足らんが。」
「善人はお前だけか。」
「俺どっちかと言うと悪人だが。」
「え? だが酒場の情報には善とかいてあったはずだが…」
「そんなことはどーでもいい。じゃあシザール。」
「おう。アンタがヒューマか、単刀直入に言う、仲間になってくれ。」
「報酬は?」
「……じゃあ20,000GPでどうだ?」
シザールは、ミリアの時と同じ金額を出した。
「……考えておく。明後日の14時ここに来い。」
そういうとヒューマは去っていった。
「すげえな、何言ったんだ?」
「20,000GP出すって。」
「何ーーーー?!?!?! 何処にそんな金あるんだよ?!?!?」
「財布の中。」
「てめぇ、ミリアのときは俺の金を使ったクセにそんなに金があっただとぉ〜?(その前に財布に入るか?)」
「これは俺の最後のへそくりだ。」
「でもなんでへそくりを今使うんだ?」
「10,000,000GPをゲットするため。」
確かに10,000,000GPに比べれば、20,000GPなどはした金である。
しかしだ、それはあくまで「任務遂行の産物」である。
彼らが報奨金を当てにしているのは、いわば「捕らぬタヌキの皮算用」なのだ。だが、成功失敗の如何にかかわらず、この2人への報酬は支払わなければならないのだ。
「大丈夫なのかよ、懐にない金なんか提示して…。」
賢一が心配する。まあ、先に述べた理由ゆえ、シザールに金策があるのかどうか不安になるのは至極当然である。
数刻の沈黙。
突然シザールが切り出した。
「さっきのミリ●ネア、覚えているか?
ルールで、『50問の問題がある』と言っていただろう。
つまり、アレと同じような問答扉がまだ40あるってことじゃねーか。
そこの賞金で何とかできるだろ。」
「……ホントに大丈夫なのか……?」
やはり怪訝な顔をする賢一であった。
そもそも、残りの40問で賞金が出るのかすら分からないのだ。
さてさて、こちらは前衛要員になるべく訓練場を訪れた準一である。最初はモンクになるつもりで来たのだが…
「悪党に教える技は無い」
と取り付く島もなく拒否された。そこまで来て彼は自分の性格が悪であったことを思い出した。実は有益な前衛職には以外に善人向けなモノが多い。前衛向け職業の中で今の準一に就けるのは、戦士とレンジャーと忍者…以外に少ないものである。おまけに、レンジャーと忍者は片方を賢一が、もう片方をヒューマ(予定)が務める。これらの職に就いたのでは被るし、何よりこれらの職業は一発に欠ける。とりあえず準一が取るべき手段は…
のどちらかが妥当な路線。一番手っ取り早いのは戦士になることだ。成長も早いし、阻止力だけなら上級職にも劣らない。呪文を覚えないのはまあ仕方ない気もするが、いざという時に頼りになるのは自分の肉体である。
さて、と準一は考えた。正直なところ、ヒューマが仲間に入ってくれれば、属性の違いを意識する必要はなくなるが、なにぶん協力をビジネスと捉えるような輩である。パーティの再編成時のゴタゴタはともかくとして、性格転換の手間は結構わずらわしい。賢一たちへの合流を早めるためにも、やはりここは戦士がいいのか、などと考えながら戦士の訓練部門へと歩を進めていった。
戦士の訓練部門は屋外にあった。グラウンドの半分近くを占めるほどに柵が設けられ、その区切られた中では腕自慢の男たちが剣術を始めとして斧術、槍術、弓術、さらには奥の手としての格闘術などさまざまな技術の訓練に明け暮れている。その顔ぶれも実に様々だが、人間以外の種族はやはりドワーフやリズマンがほとんどだ。それでも、準一のように元は術士ではなかったかと思えるような痩せ気味の、いや正確には中肉中背の者もちらほらと見かけられる。
「ふむ…高田準一・悪・超能力者・転職希望である、と。」
入り口にいるごつい男が、太い声で帳簿に何かを書き込んでいる。そのまま頭を上げ、歳と戦場での経験が刻まれた顔で準一の顔を見回す。
「貴様は術士からの転職組だから、そっちへ行け。
基礎体力を付けるところから仕込んでやる。」
どう受け取っても軍隊で部下に命令するような口調である。大方、その手の出身なんだろう。男に言われたほうへいくと、そこにはドワーフやリズマンに替わってノームやワービーストが多くいる。入り口の様子からするともっと殺伐とした雰囲気なのかとも思ったが、意外なことに一人の訓練者に対して一人の指導員が付くという(もちろん、指示は術士にはそれなりに苦しい物のようだが)、なかなかの充実ぶりである。
「貴様は基礎体力は既に十分あるようだから、
いきなり剣技の稽古から入っても大丈夫だろう。」
この辺りはある程度予想していたことだが、やはり今までまともに剣を持ったことの無い準一には少々キツイ。杖を振り回すのとは根本的に違うからだ。慣れないことをしたせいか、訓練が終わった頃にはひどく疲れてしまった。
「今日の所はここまでだ。本格的な矯正はまだ先だが、
気が変わって忍者なり野伏なりに転職するとしても、
戦士ギルドでの経験は決して無駄にならないことは保証しよう。」
「経験、か……」
今までの自分を改めて振り返る準一。ずっと術師として魔術を扱い続けてきた彼だが、今回のパーティー状況によりやむなく転職を迫られた。
あれだけ体を動かしたのだ、もう体も頭も働かない。宿に向かって歩みを進める彼はただ食事と風呂と寝ることしか考えられなかった。
宿に戻り、シザールたちと合流すると、改めて自分の現在の特性を確認しつつどの職業にするかを相談し始めた。
「まあ、そんなわけでだ、一応戦士転職希望ということで
ある程度の訓練は受けてきたんだが…」
スコア評価が書かれた紙を確認する一行。
全て17。値としては悪くない。本人さえ希望すれば、どの職業でもこなせそうだ。
「しかしなあ、数字の羅列だけ見てもなんともいえない部分があるだろう…。」
賢一が口を挟む。
「とりあえず私が前衛に出るような事態になんなきゃ
どの職業でも問題なしね、私的には。」
ミリアは我関せずという態度を示している。
もう一度、転職可能職業の一覧を眺めてみる。
「今のところ……
まあ、戦士と魔術師・僧侶・アルケミスト、
そして盗賊・レンジャーか忍者…が候補か。」
シザールが呟く。
…ふっと、彼の目に5つの文字が飛び込んできた。
「……ベルセルク……?」
ベルセルク、鬼神の如き強さで戦場を駆け巡る究極の戦士。前衛職としては一つの理想であろう。特に一発に欠けるこのパーティの場合、凶戦士が一人いるだけで十分すぎる穴埋めができる。しかし…
「ベルセルク?
うーん、確かに一度は考えたんだが…
就職条件はともかくとして、あまり気が進まないんだよな。」
準一はあまり乗り気ではない。というのも、彼が本来転職を考えたのはパーティのアンバランスさを解消するためであって、武術を極めるためではない。何より、忍者より遅いと噂される成長がパーティの足を引っ張るだろう。それでは本末転倒である。
「しかしな、今は贅沢を言っている場合じゃないだろう?
戦士にしろ凶人にしろ、今うちに必要なのは
武器を真っ当に使えるやつなんだからな」
そう言って決断を促すシザール、なかなか適確な判断といえる。
「それは確かに…もう今日は寝させてくれ…疲れた…」
明くる朝、一行たちは食堂で朝食を取っていた。その席で準一が言う。
「あれこれ考えても意味が無い。つぶしを利かせるために、俺は戦士になる。」
「…それが一番無難な選択だろう。
需要は満たしているし、成長は一番早い、文句なしじゃないか。
こっちもゼグルスとヒューマを引き込むための算段…
特に、ヒューマは明日の14時っていう時間指定まであるし…
3人で解決しないといけないからな。」
そして、ヒューマとの約束の日は来た。転職のために訓練に出ている準一を除いて、シザールたち三人はヒューマとの待ち合わせ場所…魔道の入り口に来た。時刻はもうすぐ14時、果たしてヒューマは来るのだろうか?
14時になった。しかし、ヒューマは現れない。やはり、20,000G.P.では足りなかったのか? 今思えば、あの謎めいたクイズをもっと先まで進めておけば、こんな苦労もしなかっただろうに…。そんな後悔とも取れる考えがシザールの頭を過ぎる。
「よっぽど手が足りないと見えるな。」
そんな声と共に、いつのまにかヒューマがそこにいた。
「時間指定をしておいて遅れるとは…随分な態度じゃないか?」
「おいおい、そりゃあ無いぜ?
俺はお前たちが来る前からここにいたんだが…」
その言葉に、シザールは「一本取られた」と心の中で舌打ちをした。ヒューマのクラスは忍者、気配を断って居座るぐらいはできてもおかしくない。
「細かい話は面倒だ。早速だが、商談と行こうか…」
以前、シザールが提示した金額は20,000G.P.であった。これが自分のへそくりであることは内緒の上である。もし、この頭金が最後の砦だとヒューマに知られた場合には、破談になりかねない。努めて冷静に構えなければ…。
「まさかこの程度で済むとは、思ってないよな?」
「…その程度の認識はある。今すぐ出すことはできないのだがな。」
思ったとおりの反応だ。決して崖ッぷちの資金繰りを見破られてはいけない、というシザールの緊張は段々と高まっていく。
「ま、無理だというのはこっちも承知の上だがな。
…せめて『本当は崖ッぷち』って裏だけは、
無しにしてほしいものだな。」
崖ッぷちという言葉に一瞬だけ、シザールの顔が歪む。ヒューマの鋭い眼は、以前と同じようにその変化を見逃さなかった。
「そんなこったろーと思ったよ。
…しかし、そこまでして仲間かき集めて…どうしようってんだ?」
「探索報酬の一千万G.P.を頂こうと思っている。」
「…なるほど、国王が出している魔道探索の報酬が目当てというわけか。
話としては悪くない、な。」
「そう思うだろう?
一千万という金額に比べたら、二万なんてはした金も同然だ。
まあ、他のパーティほどの待遇はできないが、
儲けられる期待なら負けはしない。
いや、却って期待してくれてもいい。
一つ乗ってみないか?」
今、ヒューマの気持ちはこちらに傾いている。ここでたたみ掛ければ芽はある、そう思ったシザールはさらに誘いをかける。この交渉の結末はどうなるのだろうか?
「…なるほどな。面白い賭けだ。
…そういえば『あいつ』もこの探索に参加していたな…。
フン、なかなか面白そうだな。
いいだろう。お前らもまんざらでもなさそうだし、
これならそれなりに安心して事が進められる。」
ふっ、とエバイストのことを思い出すヒューマ。
「……あとからごねると面倒になるから、
今のうちの報奨金の配分比率を考えておかない?」
ミリアの突拍子もない発言に一瞬戸惑った3人だが、まあ、至極当然の話である。あとからもめてトビに油揚げかっさらわれてからでは遅いわけで…。
「だけどよぉ…どう決めるつもりだ?
それに、まだ準一と合流してないうちに決めたら、
あいつ絶対怒ると思うんだが…」
賢一が突っ込み返す。
「まあ、その辺は酒場でゆっくり話し合いましょ。
今後の動向とか話しながら、ね。
少なくとも、他のパーティーの情報を盗み出して
それで作戦を立ててかないとならないし。」
…なんとも狡い奴である、このミリアという女。
てなワケで、作戦会議・兼・情報調査ということで一向は再び酒場に戻ることにした。
酒場には既に2回目の訓練を終えた準一がいた。
「さて、どう攻めていくか、だな……。」
先ほどまで賢一が調べていた情報は主に4階のもので、5階以降に関する情報は限りなく0に近い状態だった。つまり、現時点でもっとも安全にコトを進めるには4階より上…今の戦力を勘案すると2階や3階に潜った方が確実なわけだ。
「ああそうだ!! 思い出した!!!
あの、以前にシザールのいい加減な召喚呪文で作ったあいつ、
今頃どうなってるんだ?」
賢一が思い出したように言う。現在このパーティーは5人。仮にゼグルスを仲間にするにしても、前衛が2人じゃ心許ない。まあ、その間は賢一が前衛に出る形でサポートできることはできるが。
「……そうだなあ、あいつ、どうなってるべ?
聞いた話じゃ、あっちのチームは術師を一人入れたらしいし。」
作った本人のシザールもすっかり忘れていたようだ。
「…あいつでもしばらく仲間に入れておくか?」
「まあ、5人より6人の方があたしが前に出る確率は下がるし、
あたしは全然オッケーなんだけどね。」
この女、初めのうちは一人で冒険してたくせに、いざ仲間が付くとどーしても前衛に出たがらないらしい。
「じゃ、とりあえずそこであいつを回収、
そしてまた問答扉の探索、だな。
とりあえず俺はもうちょっと戦士としての訓練があるから、
出立は明後日以降になりそうだな、早くても。」
準一が結論を出す。
「早くしろよー、鳶に油揚げさらわれないうちになー。」
そんな準一を賢一が茶化す。
「……何か前途多難な予感がするぜ……。
ったく、2万のカネなんざ博打で大穴狙いで一発じゃねーか…。
俺としたことが、迂闊なことしちまったぜ…。」
今ひとつ緊張感があるんだかないんだかわからんパーティーに、一人ブスーッとしているヒューマであった。
![]()
ヒューマは腕を組み、椅子に背中を預けて考えていた。
…頭金2万でけっこう大きく出るから期待してみたが、
どうにもこいつら情報を仕入れただけらしい。
…何だってこのミリアという女はこいつらに付き合っているんだ?
こいつはどうも金につられやすいクチのようだが…金銭感覚ぐらいはあるだろうに。
…それにこの野伏はエルフなのに名前がぜんぜん似合わねぇ。
腕ぷしも俺と大して変わらないようだが…におうな。
…で、シザールという名前の司教…こいつはリーダーなのか?
一番年上のようだし度胸も据わっているが、特にリーダーという感じは見せない…
…この初めて見る男は、転職中…戦士ってことは元術士か?
っつーか前衛要員なしでよく生きてこられたな、こいつら!?
考えれば考えるほどこのパーティの不可解さに頭が痛くなってくる。
「で、その『あいつ』ってのは何なんだ?
さっきからこっち、わけがわからないんだが。」
「まあ、こっちにもいろいろと事情があってな…俺の身代わりを置いてきたんだ。」
そういって、賢一が翔太たちとはぐれた後の経緯をかいつまんでヒューマに聞かせる賢一であったが…。
「…身代わりだと? その呼び出した戦士はどうした?」
「さあ?
今頃は翔太たちのパーティに見つかってそ知らぬ顔でいるか、
別の親切なパーティに拾われているんじゃないのか?」
ヒューマの眉尻が引きつったように跳ね上がる。そのあと、急にかけていた椅子から立ち上がり、三人を指差して言った。
「さっきから聞いていれば、お前らいつまで遠足気分でいるつもりだ?
本当に一千万G.P.頂こうって腹ならなぜこんなところでのんびり構えている!?
その身代わりとやらを仲間にしようとは考えなかったのか!!?
このチームのリーダーは誰だ!!!?
俺は…わけの分からんうちにくたばるのは御免だぞ…!」
口の端から泡を飛ばしながら早口でまくしたて、そして乱暴に椅子に腰を下ろす。その様子に酒場の雰囲気が一瞬静まる。賢一たちも突然のヒューマの癇癪に息を呑む。
「早速本音が出たわね。
でも、仕切る人がいなければ困るのはあたしも同じよ…。」
そういって顔を小さく傾げてシザールに流し目を送るミリア。しかし、当人にしきるつもりはさらさら無いようだが。
「む…まぁ…そうだな。
確かに、たかひでがいた頃のノリでやってきたのは間違いだったかもしれん。
だが…まず初めにすべきことは何だ?」
ちょっと焦った感じを見せたシザールだが、努めて平静を装いながら周りに問う。
「今この場を仕切っているお前が判断を下せばいい。
俺は報酬をもらったらオサラバだが、
それまでの仕事ぐらいはキッチリやってやる。」
「あたしは魔術師だからね。前に出るつもりはないわよ。」
「俺はとりあえず訓練の残りを済ませるのが優先だな。」
「俺は前でも後でもいいが…
できれば後で弓か呪文を使っているほうが気楽でいいな。」
四人とも手前勝手なことを口々にいうばかりで全く埒が明かない。こうしてみると、俺もずいぶんたかひでに迷惑かけていたんだな、と今更ながら反省するシザールであった。そこへ…
>illust
「ふう、ここに来るのも三年ぶりか。」
そういって一人の男が入ってくる。青緑色のケープに茶色のマント、手には六尺棒ぐらいの長さの杖。その後ろからは彼の従者と思しき少年が付いてくる。主人と同じく青いケープに茶色のマントを纏っているが、マントの上にあるその顔はなんとも形容し難い。さしずめエルフ顔の悪魔、といったところか。
「師匠! いつこっちに?」
早速ミリアがその姿を見つけて側に駆け寄る。
「ミリアじゃないか、成果はどうだ…と聞きたかったが、
相変わらず男ばかり追い回している感じが、しなくもないな?」
男はマントを脱がず、そのままミリアが着いていたテーブルにやってきた。
「あんたがクリスさんか?」
やや挑発的な声でシザールが名を問う。
「そうだと言ったら?」
名を問われた男は自分がクリスという名であることを認めた。
「お初お目にかかります、シザールといいます。以後、お見知りおきの程を。」
急に礼を正し、自己紹介をするシザール。
「魔術師クリスだ。こちらこそよろしく。
時に、ミリアの活躍の程はどれぐらいなんだ?」
「えぇ、かなり世話になっています。
デビリッシュの術士といえば、最高の取り合わせですから
(本当は大した戦闘もやっちゃあいないんだが…
世話になっているのは事実だからな)」
社交辞令でも何でも、とりあえず持ち上げておくのは付き合いの基本だが、やはり嘘はつきとおせない物である。
「ふむ。あまり大した戦闘はしていないが世話になっている、か。
やはり目的がないと、修行にも身が入らんのか、ミリア?」
少々厳しい詰問の声がミリアに発せられる。ミリアは少々圧され気味ながらも返事をした。
「いいえ。実戦が修行になっているので、
身が入らないということはありません。
ですが…確かに明確な目標が欲しいです。」
クリスはNOBAISの呪文を使うことができる。嘘を付いたときの心の動きは全てこの呪文に捉えられてしまう…ミリアは正直に答えた。
「そうだろうな。
ここに来る前にちょっと訓練場にも寄ってきたが、面白いものを見つけた。」
そう言ってクリスは一枚の紙を取り出し、ミリアに渡した。
「ウィザード…」
ミリアは言葉に詰まった。悪魔の血を引くものだけがなれる、究極の魔道士。もちろん、呪文使いであるミリアにとって憧れの職業であるのは当然だ。だが、何よりも悪のデビリッシュしかなれないという、その極めて限定されたクラスチェンジへの道が、ミリアの自尊心を刺激する。
「私は人間だからこの道を選ぶことはできないが、お前にはその資格がある。
これぐらいの目標があれば、お前も少しはやる気を出せるだろう。
ただし、クラスチェンジするには今のままでは全く足りん。」
ミリアの顔に笑顔が浮かぶ。その顔を見たクリスは安心した顔を見せ、席を立つ。
「ライーダ、あんたはこっちに残らないの?」
「僕は…マスターの手伝いがありますから。」
「まったく…まだお弟子さん気分が抜けないのね…。
いい? 私の気を惹きたければ、もっと男を磨きなさい。
あんた、外面は悪くないんだから。」
年が上ということもあるのだろう、ライーダに説教をたれるミリアであったが、その側でクリスが苦笑していることに、彼女は気づいていなかった。