「翔太さん、気分はいかがですか?」
扉を開けてアルマダが入ってくる。ここはリルガミンの宿屋の簡易寝台の一室である。翔太の傷の回復はクリスの見立てよりも遅く、あわや全滅かと思われた死闘から都合1週間が経とうとしていた。
「走れるぐらいには回復してきました。
二、三日中にはまた本格的に動けるそうです。」
「そうですか。体調も大分安定しているようですし、
復帰もそう遠くはないようですね。では、また。」
アルマダは翔太に頭を下げて部屋を出て行った。気絶して一時は危険な状態にあったアルマダだが、軽傷であったことも手伝って、すぐに復帰がかなったのである。部屋を出ようとするアルマダの向こうでは、宿専属の看護師に混じってエバイストが他の冒険者たちの手当てを手伝っている。二人は多少言葉を交わしたあと、そのまま別れていった。
(二人は無事だったのか…でも…)
フラッシュとマックス、翔太と共に先陣を争った二人の腕利きは、文字通り戦死してしまった。いくら復活の方法があるといっても、高い代償を払わねばならない。そして、高い代償を払った者はもう一人…
「エバイストさん…ティナさんはどこに…あれ?」
廊下に出て手近にいた(はずである)エバイストに話しかけた翔太は、その男があちこちに違和感を漂わせていることに気が付いた。エバイストの髪は雪のように白いはずだが、この男は金髪というよりは橙色の髪で、燃え盛る炎のような印象がある。しかも、身体のサイズは翔太の記憶の中にあるエバイストよりも一回りも大きい。疑問の声を上げた翔太に、白い服の男は答えた。
「私はエバイストと言う者ではありませんが…。」
「すいません。知り合いに似ていたものですから、つい…。」
「ここでは珍しくもないことです。お気になさらぬよう。
ところで、人を探しておられるようですが…?」
特に驚いた風も見せない顔で答えるその男、人間違いの事もどこ吹く風という感じである。
「ティナという者がここに世話になっているはずですが…。」
「ここの宿泊者さんですか? さすがにそれは私も知りませんね…。
そこの宿のロビーで聞くのがいいでしょう。」
そういって男は廊下の片方に見える階段を指差した。
1階・2階はロビーになっている。翔太がいるのは3階だ。1階ロビーに問い合わせてみると、「その方なら……5階の532号室にいらっしゃいますね」と告げられた。特に外傷等もないと告げられていたティナは、とりあえず休息を取っている、という状況らしい。
「えっと……530、531、532……ここかな?」
そっと部屋の中に入っていく翔太。
見慣れた銀髪――再びこの顔を見ることができたことに、師・クリス、そして神に感謝の意を捧げていた。
「あ……翔太……さん…。」
なんとなくぼんやりした感じのティナ。顔も少しやつれている感じである。
ふと、少年が何かを言いたげに唇を動かそうとする。
一言いいかけたところで少年は言葉に詰まる。
「…よかった…よかった…」
ティナの肩を抱きかかえながら、ただひたすらに再会できたことを感謝する翔太。ティナのほうは相変わらず焦点の定まらない目つきで翔太の背後に広がる部屋の壁を見ている。そこへ入り口のドアを開けて入ってくる者があった。
>illust
「こんにちは、ティナさん…って、あらあら!」
ベッドの側にいる二人を見て驚いているジュディとその他の面々がそこにはいた。ティナのほうはというと、その入ってきた者達の驚きの声で現実に呼び戻されたらしい。耳まで真っ赤にして翔太の腕を振りほどくと、そのまま横を向いて黙ってしまった。
「うーん、様子はどうかと思ってお見舞いに来てみたけど…
これだけ元気があれば大丈夫みたいね。」
アンジェラがいかにもといった感じで納得し、お約束の言葉でフォローする。
「邪魔者はさっさと退散しましょう!
ほらほら、ジュディもジバリアも急いで!」
去り際にティナに視線を向け、にっこり笑ってアンジェラは出て行った。
「……あ……」
また二人っきりにされて唖然とする翔太とティナ。
「…なんだか……誤解されちゃったみたいですね……。」
「………」
照れる少年に対し、少女は黙ったまま彼を向く。
「……翔太さん…あの……」
「はい?」
「私……今回参加しようと思ったのには訳があるんです。」
「訳……というと…」
「実は……」
「おいっすぅ!!」
「し、師匠?!?!?」
「何だ元気がねーなー、もう一丁おいっすぅ!!!」
素っ頓狂な声を張り上げて登場するクリス。
「いやー、アレから彼女からいろいろ話を聞いてみて
分かったことがたくさんあったんだがな、
とりあえず彼女はもうちょい療養だな。
何つったって、魔力がかなり衰えているし、
体力も限りなく限界に近い状態で、
下手すりゃお前よりも危なかったかもしれんのだよ。
まあ、そんなわけでさ、お前、元気になったら
しばらく彼女のそばについてやってくれんかね?」
「え……?」
「いやー、だってお前さんたち、いい感じのカップルじゃん。
見ているこっちがうらやましい限りのな。」
「え、あ、ぼ、僕たちはそんな間柄じゃ……」
「う・そ・つ・け。
お前、俺に似て顔に全部出ちまうタイプだもんな。
ティナさんに相当気があるだろ、何気に。
耳まで真っ赤っかになってるのがその証拠。
じゃ、そんなわけで、あとは二人っきりで
好きなよーに、過ごすように。」
そういうとクリスは鼻歌交じりで部屋を後にした。
「れんあいの〜 ほうそくは〜
おした〜り〜 ひいた〜り〜
アダムとイ〜ブの むかしから
かみさまが〜 きめていた〜 ってかぁ♪」
微妙にピッチがずれているあたりが彼らしい。
「…………」
もう、お互いに目を反らしあっている二人であった。
しばし続く沈黙。
少年が、ふと切り出す。
「……師匠、歌詞間違ってるよ……」
「………」
「えっと、その、あの……」
「あ………」
「さっきの……僕たちのミッションに
参加したいっていう話なんですけど…」
「あ……えっと、その……」
「……あの………もしかして、怒って…ませんよね?
さっき誤解を招くようなことしちゃって……」
「えっと……誤解、ってほどでもない…です……」
「え……?」
「初めて会ったときのこと、覚えていますか?」
「あ、確かあの時は喧嘩に巻き込まれて……」
「私……何をやってもダメだったんですよね。
それに、ハーフだってことでいろいろ迫害も受けてきたし…」
いまだにハーフエルフという種族を嫌う者は多い。特に、生粋――純潔、というべきか――のエルフの中には人間という、彼らにとって忌まわしい血を受け入れたことに腹を立てている、頑固な者も少なからずいる。幸いなことに、同じパーティーのアルマダはハーフエルフに対してとても好意的な感情を持っていたらしく、彼女の誘いにすんなりとパーティー入りを同意してくれたが。
室内にレコードの音が静かに響いてくる。どうやらこの宿屋ではところどころでこのようなサービスを行っているらしい。フロアによって違うらしく、翔太のいる階では静かなバラードが流れていたが、ここではずいぶんアップテンポな曲が流れている。
まわれ Merry-Go-Round
めくるめくフューチャー負けないCRY信じて
強く 夢にGo-Round
抱きしめたいよ ギュッと 虹になる日まで……
「そんな中で……私をかばってくれた人がいた……
そのことがとても嬉しかったんです。
今回のこともあって、ずっとこう、私の中で
まだまとまりきっていなかった感情が、
少しずつ形になってきたというか…」
「まとまりきっていなかった感情……?」
数刻戸惑いを見せた少女が、意を決して口を開く。
「私、あなたのことを愛しています。」
「え…………?」
いきなりの告白。
翔太は動揺を隠せなかった。まさか、自分を愛してくれる人がいただなんて。
「あ、あの……その……」
言葉に詰まる少年。もちろん、その顔は炎のように赤い。
思わず後ずさりしてしまった翔太。言葉に詰まってしまう。
「……えと、あの………ご、ゴメンナサイ!!!!」
あわてて部屋を飛び出す少年。
「あ………」
走り去っていく少年を見る少女。追いかけようにも、動かない体がそれを許さない。
「嫌われてしまったのかな………?」
涙ぐむティナは、その日の晩ご飯にほとんど手をつけず、再び自分の側から翔太にアプローチしていいものか悩みに悩んだ末、結局その日は一人寂しく音楽を聴いて、それでせめて心だけでも落ち着かせようとしたが、逆に彼に対する感情が昂ってしまい、結局一睡も出来ずに朝を迎えることとなった。
翌朝は翔太が復帰する。果たして彼は自分のところに来てくれるのだろうか……?
彼女にとって不安な1日が始まろうとしていた。
「……僕のことを愛している、か……。」
明日、正式に復帰を控えた翔太。
ティナの付き添いを命じられているが、いきなりあんなことを言われるとは思っていなかっただけに、何となく、どう接していいものか混乱してしまう。生まれてこの方18年、恋というものにはとんと縁がなく、ずっと男友達と遊んだり、剣や魔法の修行に明け暮れたり…。そんな彼だからこそ、彼女のことを余計気にしてしまう。
単なる「仲間」だと割り切れない関係――。
彼にとって、生まれて初めての経験だった。
うわべだけ仲良く恋愛ごっこして、ということが出来るほど、彼の心は器用ではない。
ただ、あの時本当に思ったことはただ一つ。
「彼女だけは絶対僕が守る!」
……自分にとって、彼女は――
「復帰、おめでとうございます♪」
宿屋の玄関でアルマダが迎えにきてくれていた。
師の姿はなかったが、それでも一人迎えにきてくれると、やっと復帰できた、という実感がわいてくる。
「あれ、エバイストさんたちは……?」
「今……戦利品の鑑定と配分について
アンジェラさんたちと議論していますよ。
まだフラッシュさんとマックスさんの蘇生費用について
折り合いが完全についていない状態なので…。
それに、アイテムの中に有用なものがあった場合の
分け方についてもまだ決まっていませんし…。
酒場に行ってみますか?」
「………いえ、それよりもちょっとやりたいことがあって…」
「やりたいこと?」
「まず、レコード店に行ってきます。
その後ちょっとティナさんのところに行ってきますね。」
夕方6時――
彼女の夕食は早い。
だが、彼女は、食事にはほとんど手をつけていない。
二口三口食べただけで、「もういいです」と膳を下げてしまう。
昨夜に引き続いて、である。
「食べないとダメですよ、ティナさん。
あれだけ危ない状態にいたのが、ここまでよくなったのですし、
少しでも食べて、元気をつけましょうよ。」
給仕にそう言われるティナだが、
「……もう、そんなこと出来ない……」
急に大粒の涙をこぼし出すティナ。
事情を知らない給仕は、ただ困惑するばかりだ。
「えっと、あの………いったい何があったんですか?」
給仕が尋ねようとしたところへ、見慣れた青い服の少年が息を切らせて部屋に入ってきた。
「ごめんなさい、ティナさん、遅くなっちゃって……。
で、またわがままを言って申し訳ないんですけれども、
給仕さん、ちょっと席を外してもらえませんか?」
「え、あ、はい……。
ティナさん、じゃあこのお膳はもう下げていいですか?」
「はい……」
やつれたティナが半分ボーっとした感じで同意する。
>illust
翔太は部屋の中にあるレコードプレイヤーに手をかける。
奇跡の風が 胸を突き抜ける 超強くなれる気がして
純情な My感情が 騒ぎ出す
知らず知らずにカギをかけていた ラヴハート達を今こそ
勇気という 名の剣を振り 解き放てきらめきをBAGにつめこんで 君が笑う楽園まで行こう
不思議なパワー 二人で呼び覚ませ!!まわれ Merry-Go-Round
めくるめくフューチャー負けないCRY信じて
強く 夢にGo-Round
抱きしめたいよ ギュッと 虹になる日まで
まわれ Merry-Go-Round
大事なメッセージ 忘れないで今すぐ
君の胸にGo-Round
今伝えたいんだ LOVE(あい)は無敵だとガラスの扉 激しくたたいて YES未来地図を写して
迷わずに 次のステージへ 舞い上がれ永遠(とわ)のアドベンチャーを信じて
息を止めて口づけをしたら
未来のエナジー 溢れ出してくるよ!!まわれ Merry-Go-Round
輝けるフューチャーせつないCRY信じて
なぜか ふたりGo-Round
出会えたことを ズッと 大切にしたい
まわれ Merry-Go-Round
楽しいストーリー 感じたまま創ろう
君の ためにGo-Round
指切りしよう LOVE(あい)を離さないまわれ Merry-Go-Round
めくるめくフューチャー負けないCRY信じて
強く 夢にGo-Round
抱きしめたいよ ギュッと 虹になる日まで
まわれ Merry-Go-Round
大事なメッセージ 忘れないで今すぐ
君の胸にGo-Round
今伝えたいんだ LOVE(あい)は無敵だとまわれ Merry-Go-Round
楽しいストーリー 感じたまま創ろう
君の ためにGo-Round
指切りしよう LOVE(あい)を離さない夢を守るよ
「この曲は……!!」
ティナが思わず声を上げる。それは紛れもない、昨日彼女が告白したときにかかっていた音楽だった。
夕食の膳を下げ、部屋を出る給仕の姿を確認しつつ、少年は顔を真っ赤にして、すっと彼女を抱きかかえる。彼女のすべてを抱え込むかのように。そして、熱く唇を交わす。
「え……?」
「昨日のティナさんの問いかけに対する、僕の答えです。」
「え………?」
「僕にとっても、あなたは大切な人です。
単なる『仲間』だという意識を超えて……。
僕たち二人で、新しい未来を築いていきましょう。
……ただ、ちょっと恥ずかしいので、
他の人には内緒に、そっと……」
「………それじゃあ……」
「僕も、あなたのことを愛しています。」
少年と少女の意思が通じた瞬間であった。
「……そういうことだったんですね……。
立ち聞きしちゃうの、悪いとは分かっていたんですけど…。」
部屋の影でそっと二人のやりとりを聞いていたアルマダ。
「この二人に、幸せが訪れますように……。」
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一方のエバイストは、アンジェラたちと戦利品の鑑定やらで大忙しだった。
>illust
「とりあえず……お互いの戦利品を確認したけど、
やっぱり3階とか4階だからジャンクが多いわねぇ…。
それでも使えそうなのはいくつかあるんだけどね…。」
アンジェラがヴァラールの見積もりを見てため息をつく。とはいえ、ジャンクであっても売れば相当な額になる。半額で買い叩かれたとしても、7,000GPにはなるだろう。
「で、問題はジャンクじゃないものの配分と、
あとはジャンクを売り払ったお金の配分ね。」
エリトアが口を挟む。
「…そうですねえ……どうしたものでしょうか。」
エバイストがふとマックス・フラッシュのことを思い出す。
「単純に考えても、こちら一人のために
そっちで二人も犠牲者が出ているんですから、
そちらが多く取るのが妥当だと思いますけど…。」
典型的な『いい人』のジュディらしい発想である。
だが、エバイストがふと思ったことを口に出す。
「…しかしながら、恥ずかしいことに、
私はあまり武器に関して造詣がないもので、
今宿屋にいる翔太さんやティナさんの使えるものが
どれだか、皆目見当が付かないのですよ。
詳しく教えていただけませんか、ヴァラール殿?」
そうですね、と一言置いてからヴァラールが説明を始める。
「まず、今回見つけられた品のほとんどは、
私達が既に持っているものばかりなんですよ。
特に剣に関しては、皆が既に愛用の品を持っているわけですし、
バリボーさんはドワーフですから剣よりは斧を好むでしょうから、
売却しても良いものがほとんどです。
あと、翔太さんとティナさんが使えそうな物ということですが、
刀はほとんど差がありませんね。
楽器類は…そうですね…ここにAngel Fluteがありますが、
ティナさんはもうお持ちのようです。」
「そうなると、めぼしい収穫はないということになりますね。」
「仕方がありません。
けれども、当初の目的は蘇生の代金を調達することでしたから、
一応の目的は果たせたと言ってよいでしょう。」
そこまで言ってヴァラールは一息ついた。その後をジュディが受けて続ける。
「じゃあ、今回の配分は全部売却。
それをマックスさん、フラッシュさん、バリボーさんの
蘇生代金にするということで、いいですね?」
「構わないわ。いつまでも一緒、というわけにもいかないし。
いい加減生き返らせてやらないと身動き取れないものね。」
そんな言い種のアンジェラであったが、ヒドい言い方に聞こえるのは気のせいかもしれない。
「えーと、見積もり総額は9,183Gとなりますが、
こちらでよろしかったでしょうか?」
「あら、意外に高く売れたのね。
これはラッキーだわ。それでOKよ。」
バリボー1,250、フラッシュ2,500、マックス2,750、総額6,500あればいい計算のところを、思った以上に高く買い取ってもらって、ご満悦のアンジェラであった。
「しかし…一つだけ懸念があるんです。
バリボーさん、年が年ですし……。
万が一、ということも考えないといけませんよ。」
ジュディの指摘は間違ってはいない。何せ豪傑とはいえ、齢古希となるバリボー。しくじって灰になるどころか、一発で消失する可能性もある。
「その辺は……私たちも祈るしかありません。
いや、逆に私たちが祈らなければ、
そうなってしまうかもしれません。」
司教というだけあり、寺院にも出入りの経験が何度かあるヴァラールがそう一行に告げる。
「まずはとにかく、やれるだけのことをやるしかなさそうね。」
エリトアの発言とともに、一行は寺院へ足を運んだ。
「ふむ……この3名の蘇生を、と。確かにお布施を頂戴した。」
(きぃぃっ、こいつら金で動いてるインチキどもじゃない!!
何度来てもあったまくるわ、ホントに!!)
そう言いたい気持ちを必死に堪えたアンジェラ。そういう雑念が蘇生失敗の元になると頭ではわかっていても、先日の「出て行け」以来、ここに近づくたびに腹に据えかねて怒鳴りたい気持ちになる。
覚悟の上で、バリボーから蘇生を依頼した。
失敗する確率は決して低くない。
「ささやき……祈り……詠唱……念じろ!!!」
術者の詠唱とともに、一斉に祈るパーティーメンバーたち。
そのときだった。
「……ん、う、う〜〜〜ん、なんじゃろうなぁ、こう、
やっぱり首に違和感が残るわい。
あの兎、油断してかかるとえらい目に遭うの。
お、おぬしたち、すまんかったな、心配かけて。」
「……バリボーさん!!!!」
一発で成功である。
いつも街で見せている穏やかな声を再び聞き、思わずジュディがバリボーに抱きついた。
「ふむ……ジュディはジジィ好み、と。」
「そこ、何変なメモ取ってるんですか。」
エリトアが面白半分で言った言葉に、ジュディが真顔で返す。
と、そのときだった。
どこからともなく金ダライが天井から降ってきて、エリトアの頭上を直撃する。
「……っつ〜〜〜〜〜……」
「変なこと言った神罰ですよ!」
ちょっと本気で怒ったジュディであった。
「しかし、この年齢で一発、というのは珍しいですな。
過去のデータを見ても、この年齢の方であれば
98%失敗して、そのまま荼毘に付されていますから。」
神官の言葉にも驚きが混じっている。
パーティーメンバーの祈りが強かったのだろうか。
「さて、それでは残りのお二方をやりましょうか。
こちらはお若いようですし、九分九厘成功すると思います。」
九分九厘……100%じゃねーのかよ、と、思わず突っ込みたくなる一行であった。
特にエバイスト。
失敗したら倍のお布施を要求される。残り2,500ちょっとではどう考えても足りない。もちろん、これに関しても全員の祈りは欠かさない。
件の祈りが二人同時に始まる。
実はバリボーのときは、いつもは4チームに分かれてやるところを1つの台に4チームが終結して行われたのだ。そのせいで一発成功、というのもあったのかもしれない。が、今回はそんなに失敗するもんでもなし、ということで、一度に2人同時に行われたのであった。
結果は言うまでもない。
「……っってぇ……まだ肋骨がうずいてやがらぁ。」
「……なんかこう、頭がズキンズキンするなぁ…。
痛み止めでお酒が欲しい……。で、とっとと寝たいな…。」
ちょっと横暴な声とノンビリしてる相変わらずの声。
全員成功、である。
この朗報を伝えるべく、エバイストは颯爽と宿屋に駆けつけた。
が、エバイストは532部屋で何が起こっているのか、まだ何も知らない。
![]()
翔太の告白以来、すっかり元気になったティナ。魔力・体力ともに急激な回復を見せ、宿内を歩き回ったりすることだけでなく、多少の重いものなら持てるくらいまで回復した。
愛の力というものはすごい。
でも、やっぱり照れくさいようで、恋人同士の食事の時恒例の「アレ」はさすがにやれない。
「『はい、あーん』なんてやってたら、また師匠が入ってきて、
『ラブラブですなぁ』とかいいそうだからなぁ…。」
とは翔太の弁。
と、そこへ、息を切らせて入ってきた人物がいる。
見慣れた白い法衣に雪のような髪の男性。
「翔太さん、ティナさん、やりました!!!
皆さん無事に復活することが出来ました!!」
「えっ、本当ですか!!!」
「よかった……。私、ずっとあのシーンが目に焼きついて、
今でも時々夢見て、怖い思いをしてたんです。
もう、それも大丈夫になるかもしれません。」
と、そこへアルマダも入ってきた。
「これで、また冒険再開、といけますね。
エレベーターの謎も解けましたし、
今度は5階に潜っても大丈夫でしょうね。」
「5階、か……」
「おそらく、今後はより厳しい戦いが予測されますね。」
「4階ですらあの桁違いの化け物が出てくるんですから、
覚悟しておいた方がいいかも……」
アルマダが言いかけたそのとき、また入ってきた男がいた。
今度は二人…どちらも青いケープに茶色のマント、そして、マントに似た紋様の描かれたターバンのような帽子をかぶっている。
「あ、師匠、それにライーダ君も来てたんだ…。」
「ごめんなさい、ご挨拶が送れちゃって……。」
翔太に丁寧に頭を下げるライーダ。
「いや、そんなのはどうでもいいことだから…。
むしろ、僕の方から君に会いに行くべきだったと思うし。
で、師匠、何かあったんですか…?」
「…そうだな、まず、ティナさんはもう大丈夫だろ。」
「これで横綱大関揃い踏み、ですね。」
アルマダが、どこで覚えてきたかわからない東方のとある国の国技のランキングにたとえた。
「そして……非常に重大な話がある。
私の知っている3パーティー全員に話したい。
明後日の夜6時半から、ルルンの酒場に集合して欲しい。」
いつになく真面目な表情のクリス。
こんな表情を見るのは、ここに来て2度目だ。
1度目はあの大怪我から意識を取り戻し、いきなり引っ叩かれたとき。
そしてこれが2度目。
「今ミリアんとこがどうなってるかKANDIで確認したんだが、
奴さんたちは潜っているらしいな。
まあいい、俺がMALORで連れ戻す。
というわけなので、その辺よろしく頼む。
よし、行くぞ、ライーダ。」
「あ、はい。それじゃ翔太さん、失礼しますね。」
クリスがこの依頼にかかわっている、という話は今まで全く聞いたことがない。
しかも、「ミリア」という、初めて聞いた名前。
彼女はいったい何者なのか、そしてクリスの招集が意味しているものとは……。
![]()
ヒューマ一行は再び魔道にやってきた。そこは以前賢一がひっかかったシュートの底、そして『集合ラッパ』で呼び出した賢一の身代わりを置き去りにした場所である。しかし、そこには呼び出したはずの身代わりはいない。
「ある程度は予想していたことだが…やはりいないな。
カフアレフ・ヌーン・ダールイ…
うんと…この方向か。」
シザールがKANDIの呪文で位置を探る。念視した魂の位置へ向かって歩を進めるシザールの後ろから四人が付いてくる。しばらく進むと行く手にかがり火と、その灯に照らされたドアが見えてきた。
「なんだこりゃ?」
準一が疑問の声を出してドアを見る。そこには次のように書いてあった。
"Lair of Zegrus"
Gained a lost fighter, and finding the avowry.
The master is **IN**訳:
「ゼグルスの庵」
・迷子の戦士を一名保護しました。引き取り手を待っています。
ゼグルスは *在室中*
「こりゃまたどこかで見たような…まあこういうのも嫌いじゃないが。」
ヒューマが看板を見てつぶやく。
「『迷子の戦士』って…ひょっとして、『あいつ』ここにいるんじゃないか?」
「かもしれないな。とりあえず聞いてみるか?」
「それも大事だが…この『ゼグルス』って名前、どこかで聞いたような…。」
「確か…ルルンの酒場で聞いたことがあるな。
死んだと思われていた竜人らしい。
うまくいけば、仲間に入ってもらえるかもしれん。」
シザールがドアをノックすると、その奥から返事が返ってくる。
「どーぞ。鍵は開いているから自由に入ってきてくれ。」
その声に促されて一行は中に入る。そこは、迷宮の一部を改装したちょっとした住居になっている。壁にかかったランプの灯が揺れ、燃える油の臭いが漂ってくる。その明かりの下に敷かれたムシロに横たわる人影があった。
>illust
「…やっぱり。おい、起きろ…おぉーい!」
シザールは耳元で声を出し、『集合ラッパ』で呼び出したその男を起こそうとする。
「なんだ、お前が主人か?
何があったのか知らんが、置き去りなんて馬鹿な真似は二度とするなよ。
こっちはいい迷惑なんだからな。」
奥から太い声を出して一人のドラゴンネオが現れる。いかにもレンジャーという格好だが、どう見ても後方から戦闘に参加するようには見えない、ゴツい体つきをしている。
「あなたがゼグルスか?
私はシザールだ。置き去りの件は申し訳ないことをした。
こっちにもそれなりの『事情』というものがあって…」
「そっちの事情は知ったことじゃないが…
まあ、ゼグハスとしてはどうでもいい事だが。
で、ほかに用件はあるのか?」
しばらくシザールとゼグルスとのやり取りを見ていた賢一が前に出る。
「ギルガメッシュの酒場である竜人の噂を聞いたんだが…あなたがそのゼグルスか?」
「いかにも。今は『ゼグハス』だがな。」
「今は…? ま、まあ、ともかくだ。
うちらにしばらく付き合ってもらえないか?」
「そうだな…ふむ、誰でもいいから俺から一本取れたら、考えてやってもいい。」
「はぁ? 誰でもいいから?
つまり、1対1で勝負しろってことか?」
賢一が返す。ゼグルスはそれに返すように、居丈高に答える。
「…どうせなら5人まとめて相手してやってもいいがな。」
「フン! 1対5ならこっちの方が優位じゃ…」
「待て。」
啖呵を切ろうとしたミリアを、ヒューマが制止する。
「この男……相当の修羅場をくぐってきている。
いくら俺たちでも、5対1とはいえ、
ボコボコにされるのがオチだろうな、おそらく。」
「な…じゃあこいつを仲間にするの諦めろってことか?」
シザールがヒューマに突っかかるが、ヒューマは淡々と、
「5対1でも平気で勝負を挑んで来い、といっている男だ。
俺だってこれでも修羅場をくぐってきた身だからわかるが、
この男の持つとんでもない気に気づかないのか、お前ら?」
「む……」
黙りこくる一行に対し、さらにゼグハスは挑発をする。
「所詮はひよっ子どもの集まりだった、というわけか。
下らんな……付いていく義理も何もない。」
「な、何だとてめぇ!!!」
腹に据えかねた準一がついにゼグハスに突っかかる。だが、第一打はあっさりと紙一重のところでかわされ…いや、わざと紙一重のところでかわしたのだろう。かわされたことでバランスを崩した準一の頭上へ、ゼグハスの素早い弓の攻撃が襲い掛かる。が、その矢は準一の頭の上わずか1cmのところで壁に突き刺さり、決して当たることはなかった。
「………」
瞬時の出来事に声をなくす一行。
邪魔者扱いをするかのように、ゼグハスが一言返す。
「…とにかく、こいつを連れてとっとと帰ることだ。
お前らに協力するほど暇な身ではないのでな。」
「……分かった、邪魔をしてすまなかったな。」
ヒューマはそういうと、一行を引きずり出すかのようにし、ゼグハスの庵を後にした。もちろん、置き去りの戦士・ライネスも連れて。
「バカタレ!! 何であそこでおめおめ引き下がるんだよ!」
シザールのブチ切れに、真面目な顔でヒューマが返す。
「じゃあお前、あいつに脳天射抜かれたいのか?
あいつ、只者ではない、ぜひ仲間にしたい、
それは俺も同意はする。
だが、あいつの足を俺たちが引っ張りかねない。
だとしたら、それ相応の冒険者と行った方が
よほど確実、なんじゃないのか?
まあ、その前に俺たちが依頼を達成するがな。」
強気と弱気が入り混じっているかのように聞こえるヒューマの発言に、ミリアが切り返す。
「ったく、アンタいつの間にかリーダー気取りに……」
と、そのときだった。
目の前に魔方陣が現われ、そこに一人の男性が現われた。
「あ、アンタは……あの時の…」
賢一がその姿を見て驚いた様子を見せる。
紛れもない、それは酒場で会ったクリスだった。
「…お前さんたち、いったん地上に引き返してもらう。
せっかくの道中を邪魔するようで申し訳ないが、
ちょっと、大事な話があるからな。」
「も、戻るって……師匠、ここからどのくらい……」
ミリアの指摘に、即座にクリスは答える。
「お前、魔術師のくせにアホだな。
私がMALORも使えないヘッポコだと思ってんのか?
だとしたら、ずいぶんなめられたもんだな。」
「い、いや、そ、そんなことは……。」
「と、言うわけで、全員直行してもらおう。
さーて、じゃ、いっちょいったるか。
ミームアリフ・ラーザンメ・レー!
遠き場への移動…目的地はリルガミン市街!!!」
そういうと、一行は痕跡すら残さずふっと魔方陣に消えた。
「む? かなりの魔力が今そこで……。
何者だ、いったい?」
庵の中にいて、やりとりを聞いていなかったゼグハスも、さすがにMALORの強力な魔力を感じ取ったらしく、慌てて飛び出し、思わず外の通路を見回したが、そこにはもう、誰もいなかった。
さっきまでいた6人含めて。