「…さてと、俺たちの場合…
お前さんたちだけで冒険することになったときの
対策を立てなきゃならんのだが…どうするよ?
そうなった時は俺はどうにもかかわれないんだし、な、フラッシュ。」
「確かにそれは言えるね。
…僕はマクスウェルの気が変われば話は別だろうけど、
マックスの場合はそうも言っていられなさそうだからね。
君には君の本来果たすべき役割があるかもしれないし。」
マックスとフラッシュはかなりの酒を飲んでいたが、酔いが回っている様子もなく淡々と語りだした。
「まあ、確かに……。
もともとこの世界の住人じゃないしな、俺は。
そういう意味ではこっちに残るしがらみがあるわけじゃない。
…とはいえ、この面子はそれ相応に気に入った仲間だ。
そう簡単に見放すわけにもいかないってのが本音だな。」
「私たちも、お二人と出合えたのはカドルト神の導きだと
信じておりますから、このままのパーティー編成で
ずっと続けていたい、という気持ちです。」
エバイストが更に続ける。他の3人も同じ思いのようで、翔太はうなずいたり、ティナは腕を組んで祈るようなしぐさをしたりしている。しかし、
「…でも、万が一のことを考えておく必要はあると思います。」
アルマダがそこに割り入る。確かにその通りだろう。つまり、今後は前衛要員を2名待機させていかなければならないのだ。
「俺が思うに、エバイストはやっぱり君主になった方がいいんじゃねーのか?
僧籍云々とは別に、神の加護を受けし戦士…
それが君主なんだろ、な、そっちの爺さんに嬢ちゃん。」
「だぁ、誰が爺さんじゃ!!」
「………まあ……おっしゃる通りかもしれませんけれども……」
「ちょっとジュディ、こんなアホのいうこと
そんなあっさり同意しないでよね、気分悪い!!」
「なんだとこのアマ!!!!」
ちょっと憤慨気味のバリボーに、地ののほほん感丸出しのジュディがマックスに応答するが、そのジュディの応答にアンジェラが頭に来たらしく、またも一触即発の状態に陥る酒場だったが、そこは前と違って、猛者2名によって静まる。MANIFOとMONTINOの呪文だ。
「はいはい、この面子同士で喧嘩しないように。」
「他のお客様のご迷惑となりますので、
喧嘩を売り買いするのは外にしましょうね。」
そう言われたまま二人は固まってしまい、何も喋らなくなってしまった。
「…で、そうなるとエバイストさんが前に出るから、
あとは僕ともう一人前、で後ろにもう一人いるといいのかな?」
翔太が分析すると、エバイストは困ったような顔になり、
「…やはり私が僧籍を脱するのは必然のようですね…」
とぼやかれてしまった。
「い、いや、そこまでは言っていませんよ…。
ただ、あくまで『もしそうするとしたら』ですから…。
そうなった時には前に戦士…
できれば回復呪文の使い手も兼ねられる
ヴァルキリー辺りが望ましいかな?
後衛は盗賊か召喚師という手も考えられますし。」
「仮にエバイストさんが僧侶から司教になったとすると…」
今度はティナの番だ。
「…合わせてアルマダさんも司教になって、援護を強化しましょう。
前衛はどこかから頼んで見つけてくればいいことですから。
それでも不足なら、私も転職…」
「いや、ちょっと待った。
ティナさんは転職する意味がほとんどないと思う。
一人で盗賊技能と魔術師の呪文を操れる…
しかも楽器という特殊な道具を使うことで
より長時間の滞在が可能になる。
その方が効率的だと思うけれど…どうかな?」
フラッシュが合いの手を入れる。そうなると前衛にどういう面子をそろえるか、だ。
「…このパーティーの有利な点は、ティナさんがいることで
どんな面子でも自由に組むことが出来るという点だと思う。
極端な話、たとえみんなが嫌でも利己的な人間が
仲間に加わっても調和が取れるんじゃないかな?
その意味からすると特に前衛の問題は気にならなくなると
僕は思う。…そうじゃないかな?」
「…たとえば、サイオニックや忍者といったメンバーを
この中に入れることもできる、という意味ですか?」
翔太が改めて聞き返すと、フラッシュは何も言わずうなずいた。
「…それでもやはり一抹の不安が付きまといます。
回復呪文の使い手を一人補充することも
考えた方がいいかもしれません。
この間の一件みたいにならないためにも…。」
あの時の自分の不甲斐なさを思い知っている翔太。だが、それは他のメンバーも同じだ。特にフラッシュとマックスは死、と言う最悪の――それでも幾らかマシな方であるが――状態を経験している。その意味で彼の提示はもっともだ。
さて、どうまとまるか…。
「さてさて…まずはわしからかの。
皆に心配をかけてしまい、申し訳ない。」
「いえ、あの、あの時は私がウッカリしていたから…」
「まあ、確かに油断ならない相手だったのは確か。
バリボーさんだけの責任ではないわ。
こちらこそ、攻撃が手薄になってしまってごめんなさい。」
バリボーが頭を下げるのを見て、ジュディとエリトアが彼をかばうように言葉を続ける。
「…さて、これからどうするかなんですけれども、
とりあえずあちら(フラッシュ)のパーティー同様、
まずエレベーターを使えるようになることが第一でしょう。
多分、要領は同じだと思いますからね。」
ヴァラールの言葉に一同納得する。こちらのパーティーの武器はなんといっても複合要素による戦闘が可能なことだ。呪文・武器、どちらでも攻撃可能であるという点を見れば、長期的なスパンで考えればジャーニーの言うとおりもう既に完結しているのだから。
「でも、問題はそのためにどれほどの能力が私たちに
求められているか、ですよね。ちょっと怖いですが…」
ジバリアが続ける。彼女らしい慎重な――ある種臆病ともいえるが――発言だ。
その刹那である。脇からあまり聞きたくない声が聞こえてきた。
「……それが君主なんだろ、な、そっちの爺さんに嬢ちゃん。」
「だぁ、誰が爺さんじゃ!!」
「………まあ……おっしゃる通りかもしれませんけれども……」
「ちょっとジュディ、こんなアホのいうこと
そんなあっさり同意しないでよね、気分悪い!!」
「なんだとこのアマ!!!!」
が、その騒ぎはすぐに収まった。さすがに猛者が二人もいればすぐに騒ぎは収束するものである。
固まっているアンジェラをそっちのけにして、5人の会話が始まる。
「とにかく、下に行くことを考えつつ、
まずは上で修練を積んでいくことかしら。」
「そうですね、私もそれに賛成です。」
「わしもじゃよ。特にわしは大幅に皆と遅れを取っておるからの。」
「しかし、あんな浅い階であんな魔物が出るとは…、
やはりただならぬ妖気が漂っているようですね。
今後気をつけていかないといけませんね。」
「確かにずっと気持ち悪いものを感じていました。
なんというか、こう、まとわりつくような冷たさを…。」
エリトアの提案には全員賛成のようだ。ジュディ、バリボー、ヴァラール、ジバリアの順に同意していく。
「そのためにも…これからの魔道について話をしておく必要があるわね。
さてと、ちょっとこのメモを見て。」
エリトアはポケットから4枚の紙を取り出した。その全てに30マス四方の、書き方は大雑把だが書いてある内容は精巧な地図が記されている。
「まず、私たちが酷い目に遭ったのがこのポイントで…」
こちらの探索は彼女の地図のおかげでかなり進みそうだ。
「…な〜んかわけがわかんな〜い、今の話。
そんなことよりお金がほしい〜、男がほしい〜!!」
相変わらずマイペースというかわがままなミリア。だが、その態度に遂にキレた男がいた。その男はいうまでもない、このミッションに関してこのチームでは一番真面目に考えているヒューマだ。
「へっ、そっちの伝説の魔術師の弟子っていうから
いかほどのもんかと思ってたが…この程度とはな。
オイ、そっちの翔太とかいうの、ホントにこいつは
お前の師匠の弟子なのか?」
「は、はい?!?!?
い、いえ、あの、その……僕は全然知らないんですが…。」
「あたしもアンタのことなんか全然知らないわよ、
この薄汚いケダモ……」
それを見ているクリスが危うくキレる寸前になるが、そこに割り行って入った人物がいた。ライネスだ。
「一応僕は召喚された身ですから大きなことは言えませんが、
少なくとも今はそんなことで喧嘩している暇はないはずです。
とにかく、今後のことについて考えましょう。」
「…全くだ。とりあえず私から言えることはただ一つ。
時期が全く重なっていないが、二人とも私の弟子だ。
…ただし、修行の熱の入れ方は全く別だが…。」
「ほーらごらんなさ……えー?!?!?
あたしだけじゃないっていうの?!?」
「…そういうあなたこそ!!!」
意外にも翔太がプッツンしてしまった。
「まあまあ、そこは抑えてください。
とにかく、私たちのことをまず考えましょうよ。」
ティナがたしなめると、翔太はおとなしくなってしまった。さすがにただの仲間という関係を超えている以上、彼女の意見も最大限尊重するのが筋というものである。
「…はぁ…やれやれ。先が思いやられる…」
「それはこっちのセリフだ!!
ったく、こんなヘタレを仲間に…」
シザールが頭を抱えてぼやいたところに、間髪いれずヒューマが怒鳴りつけるが、それを今度は賢一がなだめるように話し出した。
「いや、もうその話はよそう。
ところで、私が以前酒場で仕入れた情報ですが…」
賢一が仕入れた情報…
「地下5階へ行くにはどうすりゃいいんだよ…」
「途中で怪しげな機械を見つけたのだが、
いったいどうやって動かすんだ?
それ以前に、動かしていいモンなのか?」
「4階の一番奥になるんだろうな、
あそこにいるパーティーがやたら強くて
こっちも大打撃だっつーの…。」
「なんだか実験室みたいなのがあって、
そこでとてつもない化け物がいたんだが…。」
「一面氷に覆われた部屋があった。
入り口の扉には『φρεεζερ』と書いてあって…」
「…なるほどな。特に気になるのはその『φρεεζερ』だな。
古代文字の一種なんだろうが…俺じゃ解読できん。
シザール、お前わかるか?」
「……なんだこれは……?
こんな文字見たことないぞ、俺も。」
準一とシザールが頭を抱える中、ミリアが思い出したかのように普段持ち歩いている古代文字字典を取り出した。
「……『FREEZER』……冷凍庫、ですって。
何でこんなカビ臭くてぼろい魔道にこんなのがあるの?
…気になるわね。行ってみない?」
「決まりだな。…だが、魔法が足りなすぎる。
冷蔵庫ってんだから氷の呪文が得意な連中が
わんさか出てくるに決まってる。
てことは攻めてLAHALITOが使えるようにならないと
話にならないわけだ。
できれば賢一、お前もMALIQUAとは言わないにしても
LIQUREAぐらいは使えるようになっておけよな。」
シザールがまとめに入ると、全員一致で目的が決まった。
「…ところで、あの、僕はどうなるんでしょうか…?」
ライネスが冷や汗を書きつつ質問する。
「…そうだった、それも考えないとなんないんだった。」
ウッカリしてた、という顔でシザールがテーブルに突っ伏す。
「あの、すいません、ユディ……じゃなくて賢一さん。」
隣のテーブルから女性の声が聞こえてきた。ティナだ。
申し訳ない、昔の仲間がどうしてもと頼むものだから、
そちらに合流させてもらうことにする。
もしもまた会うことがあるとしたら、
そのときは互いに集めた情報交換でもしよう。あのハーフエルフのティナさんには特に宜しく言っておいて欲しい。
鈴木賢一
いつか、大事なことを話さなければならないから…。
「この手紙について、ちょっと伺いたいんですけど…。
一体何が起きているのですか? ずっと気になっていて…。」
遂に話さねばならぬときがきたか…、と、賢一の顔が歪む。それは彼女にとってあまりにも辛いことであるからだ。
「分かった。全てを話そう。
……シザールもちょっと解説してくれないか?
…初めに、泣かないでほしい、現実と向き合ってほしい。
これだけは約束してほしいんだ。」
こくりとうなずくティナ。襟を正し、互いに面と向き合う二人。その顔には微塵の笑顔もない。
「まず……君の従兄さんはもうこの世の人ではない。」
いきなりの衝撃発言である。ティナにとっては何よりも自分を愛してくれていた人が冥界の住人だとは。だが、彼女はその事実をありのままに受け入れようとしている。しかし、ありのままを受け入れようとする自分と、それを拒否したい自分が同時に出現してくる。
「……しかも惨たらしい死に方だった……。
なんというか、一つの集落全体が生気を失っていた。
まるで魂が抜かれているかのように…。
いや、事実魂を抜かれていたんだ。
一体何者かは知らないが、魂を食らったという感じに…。
普通死んでも魂は一定期間その場にとどまる。
そしておよそ7週間経つとその場を離れる。
だが、その村が滅ぼされたという知らせが入ったのは3日前、
それなのに魂が全く感じられない。」
……一体どういうことを意味しているのか分からないが、とにかく何が起きているのかだけでも知りたいと思い、ティナは涙の出そうな目をハンカチで拭った。
「…で、私はそのとき死の寸前にあったんだ。
その島の流行り病でかなり酷い状態だったかな…。
残念ながら、その病気には治療法がない…
正確には、その島では治療できない病だったんだ。
そこで、触媒として不死者の力を借りて、
魂をそこにいる最強の戦士の身体に詰め込んだんだ。」
「……不死者の支配者、ヴァンパイアロードか…!
あンのど腐れの手を借りるとは、
ずいぶん嫌らしいことをしてくれたもんだな。」
すかさずクリスが突っ込んでくる。何せ彼にとってヴァンパイアロードはかねてからの天敵なのだ。
「…仕方がなかったんだ……。
こっちだって賢一にいなくなられると困るんだし…」
「…………」
黙りこくるティナだが、どうやら状況は飲み込めたらしい。自分がかつて住んでいたエルフの里は滅んだこと。そこで勇敢な戦士として里を守っていた従兄のユディクは既にいないこと。
「うっ……ううっ……」
それはあまりに少女にとって辛い話だった。こみ上げる涙……。
だが、そんな自分を優しく賢一が受け止めてくれた。
「…君の従兄さんの魂はきっと帰ってくる。
それまで…待っていてほしい……。」
「…………」
「…翔太君、君に彼女を守ってほしい。
最後の最後まで一緒にいてあげてほしいんだ。
君が年頃も近いし、それに……力もある。
彼女の従兄さんと同じような力を感じる。
だから、君が一番適任だと思うんだ。」
「……分かりました。」
そういうと、大粒の涙をこぼすティナを二人でそっと抱きしめた。少女の悲しみを分かち合うかのように。
「泣くな、って言ってるのに泣くってねぇ、だっさ…」
ミリアが突っぱねるように話したが、辛いのは賢一もだ。
「あー、何だかやる気なくしちゃいそ……、でも、
この『Wizard』ってのは気になるわねぇ……。
あたしも本腰入れてやってみようかな?
お金のことはこの際後回しでもいいかも。」
(あぶねー、こっち、今担保が1人分しかないから
今の言葉でめっちゃくちゃラッキーになったぜ!!)
そっといつもの3人組が話し出す。
ところが……
ポワン!
一瞬の煙とともに、肝心要のライネスが消滅してしまったのだ。
「げげっ!!!!!!」
このパーティーの面子だけでなく、今ルルンの酒場にいる全員が
素っ頓狂な声を斉唱のようにあげてしまった。
「……おい、どーすんだよこれ……?」
「やっぱりあのゼグルスだかに頼んだ方がいいんじゃねーのか?」
シザールと準一が目を合わせる中、一人冷静なヒューマが、
「…どうやらそっちの女は金は諦めたようだな。
契約切れだ。20,000GPを今いただくことにしよう。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!
今こんな状況に置かれたんじゃ、俺たちどうすれば……」
ドタバタ劇が続いているこちらのパーティーをよそに、
他のパーティーは淡々と準備を進める。
「ま、待ってくれ……バンス20,000GPじゃ足りないだろ、
あと50,000GPを約束する、頼む、残ってくれ!!」
賢一が必死の説得を試みる。
ところが、意外なところから資金がポンとわいた。
「君には……私の弟子を育ててやって欲しい。」
クリスはそういうと、無言で70,000GPを手渡した。
「このうち50,000GPはヒューマ、あんたが使えばいい。
残りの20,000GPはミリアの世話賃だ…。」
「大将……ずいぶんコイツにご執心だが……何かあるのか?」
「私も『Wizard』とやらの誕生を見てみたいものでね。
だからこうやってお願いしているわけだ。
まあ、同じ意味では翔太にも期待しているが。
あいつとこいつでは修行に対する熱の入れ方が違うし、
何より、翔太には護るべき人ができたようだ。
あいつはますます伸びていくはずだ。
そうすると、ミリアが不憫すぎるんでな…。」
だが、実はこの現金はクリスがこっそりジャーニーに頼んで
無利息で借りたものであるというからとんでもない話だ。
「それに、あんたはウチの翔太を暗殺しようとしたが、それをやめた。
そういう意味で、あんたは信頼できる……」
「あれはエバイストがいた建前だ。
そうでなければとっくに殺している。」
「ふっ……まあいい。」
一同の今後のルートの話が終わると、今度はお楽しみタイムだ。
3パーティーがほろ酔い加減(一部を除く)になり、フラッシュが自慢の喉を披露し、
(伴奏はティナとエリトアと翔太)
ジバリアが格闘技の型を決めて見せるなど、
やんややんやと歓声が上がる中……全員の歓談が終わり、それぞれの会話がいつの間にか雑談に移っていった頃。
ルルンの酒場の扉が勢いよく開いた。
その酒場にいた多くの者がその方向に眼をやる。そして、すぐに身体ごと向けた。
扉の前に立っていたのは、一人の青年だ。ボサボサとした黒い髪が右目を隠している。
彼は、なんともか細い声で、僅かに言った。
「すいません…誰か、助け…」
言い終わる前に倒れてしまったが。
彼の後ろには、もう一人意識のありそうな人物と、あとは死の淵を彷徨いそうな四人がいた。
「…やばい、な」
ぼそりと、賢一が呟いた。しかし、賢一が呟くまでもなく、その場の全員が分かった。
なんとか意識のあった戦士の少女が、それでも何かに脅えるように話し始めた。
他の五人は、先ほど倒れたサイオニックの青年、ベルセルクの男、モンクの少年、僧侶の青年、魔術士の少女という編成だ。その誰もが苦痛をたたえた表情で気絶しており、全員とも魔力はほぼ0と言っても過言ではなかった。そう、何かに魔力を根こそぎ奪われたような。
「地下二階に降りたところで…いきなり、襲われたんだ…
私は、運よくそんなにダメージは受けなかったけど…みんな…ッ!」
そこまで話をして、突然少女は頭を抱えた。小刻みに身体が震えている。
余程の恐怖を見せ付けられたのだろう。涙すら流せない。
「…イコーズも、蛍も、ヴァルナ兄さんも、
ケイールも、アバルも…助けてよォッ…!」
錯乱する少女。もはや話は出来ない状態だ。
「地下二階程度で…そこまでヤバイのが出たのかよ…」
誰かが呟いた。全員、やはり同意だった。
少女たちはすぐに宿の中の治療部門専門の部屋に運ばれ、酒場での話題はその謎のモンスターのものとなっていった。
後日その謎のモンスターには、『フィアー』という名称がつけられることになる。
しかし、そのフィアーと遭遇したというパーティーは一人もいなかった。深い階層へと潜っていったのだろうか。
「おかしいわね……私が知っている限りでは、
そんなモンスターはいなかったわね…
魔力を吸い取るモンスターだなんて。」
一番の事情通であるエリトアが口を開いた。
「フィアー……ですか……。」
ジャーニーがいぶかしげな話し方をし始めた。
「彼らがいっているフィアーは……私の知っているものとは
完全に異なるものと考えて間違いありませんね。
フィアーは少なくとも地下7階まで降りないと現れません。」
「少なくとも……私が見聞きしたフィアーというモンスターとは
全く異なる種類です……。
魔力や体力・生命力を吸い取りこそしますが、これほどまでは…。
それに、そんなモンスターの気配は感じませんでしたし。」
ジュディも思い出したように話し始めるが、
「とにかく……何とかなるようにしませんと。」
というヴァラールの一言で、回復術が試みられた、
6人はエバイストのDIALMAの呪文で回復が試みられた。
だが、さすがに回復しただけではどうにもならない。
なぜこうなったのか……エスタスのいる錬金術師ギルドで
詳しいことを調べてもらうことにした。
「とにかく、まずは5階に行く準備をしないといけませんね。」
ティナが自分たちのパーティーのメンバーに話をすると、全員同意をしたらしく、こくりとうなずいた。
「じゃ私たちは……その未探索エリア中心に
調査してみようかしら、改めて。」
アンジェラも自分たちのパーティーに同意を求めた。もちろん全員賛成である。
その一方、
「……じゃ、あと一人どうするよ……?」
突如としてヒューマ一行を悩ませた大問題、恐れていたライネスの消滅であるが、冷静に考えたミリアは、
「確かねぇ……3階か4階あたりに、
謎の忍者がいるって聞いたんだけれども…
そいつに賭けてみない?
この話は4階から帰ってきた冒険者から聞いたから
間違いないわよ。」
という。それを受けてシザールは、
「まあ、もともとバクチ要素が高かったわけだしなぁ、
……あてがあるんだったらそいつをあてにするか。」
というわけで、3チームとも、行き先が決まった。
時計は既に2時を指していた。
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店主のルルンまで加わり、大盛り上がりとなった酒場を後にした一行は、おのおのの目標を立てつつ、宿で時間を費やし、どのエリアに進入するかを決め、新たに覚えた魔法や武器・防具、その他もろもろの確認を行い、再び魔道へと挑んでいった。
「……ったく…あの変身ヤロウのせいで、
武器の調子が今ひとつでしょうがねぇ。」
そうつぶやいたのはマックスだった。あれからどうもメタルコントロールがうまくいかないのだ。もう当てには出来ないな、と本人も悟ったらしく、武器を剣から槍に持ち替え、以前エレベーターと思しきものがあったフロアに降り立った。
「確か、このカードキーを使うのでしたね。」
エバイストが認識をすると思われる部分にカードを差し込んだ。ところが……
「エレベーターに電源が供給されていません。
4階のエレベーター電源を入力してください。」
どうやら必要なのは赤い玉とカードキーだけではないらしい。
「この橙色の玉が、おそらくエレベーターの
作動に必要になるんじゃありませんか?」
アルマダが冷静に分析する。
「…また4階か……困ったね。
できればもう行きたくなかった所なんだけれども。」
フラッシュが妙に消極的な発言をするが、無理からぬことだろう。一度死んでいるフロアに近づきたがる人間など、そうはいまい。
「でも、作動させなければそれより下には行けなさそうです。
どうも他の方の話を聞く限り、5階へ行く階段は
どこにもないようですし……。」
ティナがフラッシュの発言に対して言葉を返す。
「…仕方がないな……まあ、今度は大丈夫だと信じて、
とにかく前に進んでみよう。」
地下4階は想像以上に入り組んでいた。先に訪れたコントロールセンターは階段を下りて割にすぐだったが、それ以外の場所がことごとく入り組んでいた。メンバー全員、慎重にマップを描きつつ進んでいくと、
「電源室」
そう書かれたドアがあった。
「…また敵が出るかもしれません…気をつけていきましょう。」
翔太が恐る恐るドアを開けると……予想通りの展開になった。
| 3 Smelias | (3) |
| 5 Ashers | (5) |
6対8…不死系のモンスターをを相手にするとなるといささか大変ではあるが、特殊攻撃さえ防いでしまえば敵ではない。マックスとフラッシュとが前衛に回り、翔太がアッシャーにMAHALITO、エバイストがBAMATU、ティナがMOLITO、アルマダがNOFIS、という絶妙のコンビネーションで相手を一気に押さえつけることが出来た。
そして、いよいよエレベーターの作動装置が見つかった。目の前には先にエレベーターのドアを開けるときに使った赤い窪みと同様、橙色の窪みがあった。エバイストがその窪みに橙色の玉を入れると、人気のない薄暗かった部屋全体がまるで日の光が差し込んできたかのように明るくなり、機械からは無機質な声が聞こえてきた。
「電源、確認しました。エレベーター作動開始します。」
「いよいよ本格的になって来ましたね…。」
ティナが幾分身震いをしながらつぶやく。
「さてと……空気が変わったね。」
「今までよりもずっと寒くなってきましたね。」
フラッシュと翔太がそう言うが、実際地下5階はじめじめしていて、今まで以上に不気味になってきている。この調子では最下層に降りるのは到底無理であろうと察知した一行は、まずこのフロアに慣れることにした。歩いてみると、小部屋がたくさんある以外はいたって普通の造りで、マップを書いていると明らかに通路が太い。だが、このフロアがいわば分水嶺、死と生を分けるフロアであろうと予測される。
一通り歩き、小部屋のみとなったところでエバイストが意見を提案した。
「これから先、どれほどのモンスターが登場するかわかりませんが、
ここで一度戦ってみて、ダメならまた出直しましょう。
ドアはきちんと開けたままにすればすぐ逃げられるはずです。」
采配としては正解だといえよう……その扉が一方通行扉でない限り。だが、幸いなことにこのパーティーにはアルマダがいる。つまり、奥に何があるかだけでなく、その扉が何であるかを見破ることも可能なのだ。
「やはり…いますね。ドアは一方通行ではなさそうです。」
「ならば…やってみましょう!!」
マックスがドアを開けると……
| 6 Giant Slugs | (6) |
| 2 Gas Dragons | (2) |
| 2 Were Rats | (2) |
「げげっ、厄介な連中じゃねぇか!!」
1体1体は大したことはないが、何せ能力が桁違いである。オオナメクジは体力が高いし、ガスドラゴンは強力なブレス、ワーラットにいたっては体力・攻撃力ともに侮れない連中である。とはいえ、最悪の事態を免れる方法がないわけではない。ティナのMOLITOだ。真っ先にMOLITOを唱えるティナの前に、さすがのモンスターどももあっけなく倒されてしまった。だが、楽観視していないのがエバイストである。
「この辺りから呪文を無効化するモンスターも出てくるだけに、
油断はなりません。前衛と私とで何とかしていく必要があります。
そのためにも、なるべく高い経験を得る必要がありますね。」
最初の扉を出て、その直後だった。
ドッスン
ドッスン
「……? 妙な音が聞こえてきたぞ…
まさか、噂の『フィアー』ってヤツなのか?」
マックスが驚いているが、その心配はすぐに無駄なものとわかった。どうやらフィアーではないらしい。
| 1 The Mad Stomper | (1) |
いかにも異形、といういでたちで、一同攻撃にかかろうとするが、それを制したのはアルマダだ。
「待って下さい。この方からは邪気や戦闘意欲はありません。」
「言われてみれば……確かにそうですね。」
エバイストが同調すると、メンバーはいったん武器をしまい、何とか彼(?)と対話を試みようとした。しかし、どうも無反応なので、アルマダに頼んでKATUをかけてもらった。
「君たちは新しい冒険者諸君だね。初めまして。
僕はマッドストンパーと呼ばれている。」
「あ、はい…こちらこそ。」
翔太が何とも頼りげのない応対をする。
「いきなりこんな話をするのは失礼かもしれない。
でも、聞いてもらえるかな?」
「何でしょうか?」
マッドストンパーの二の言葉にエバイストが同意すると、彼は自分のことをとうとうと語り始めた。
「信じてもらえるかどうかはわからないけれども、
僕はこれでも昔…といってもつい最近のことだけれども、
立派な貴族だったんだ。もちろんリルガミンの。」
「はぁ? そんな話聞いたことねぇぞ。」
「それはそうさ。ただでさえ国王がいない状態なのに
こんなことまで公にしたら国がどうなるかわからない。」
「まあ…確かにそうなんだろうけどよぉ…」
マックスが疑問に思うのも無理はない。城からの依頼は「魔道の真実を確かめよ」というものだったからだ。もっとも、そのついでに彼を見つけて欲しい、というものがあったからかもしれないが。
「それで、君はどうしてそんな姿になったのかな?」
フラッシュが尋ねると、マッドストンパーは明らかに怒りの表情を浮かべ、言葉の一つ一つに憎しみのこもった思い口調で語り始めた。
「僕にはライバルがいてね……。
知っての通り、この国の国王は血縁がいない。
だから、それまでの貴族の中から
次期国王を選ぼうということになったんだ。
ところが、ライバル心の強い奴がいたんだ。
そいつが『イビルアイズ』という最低の魔術師と
手を組んで、僕をこんな風にしたんだ。
それだけならまだいいさ。その上……」
そういうと彼はまたドスン、ドスンという地団駄を踏んでいる。
「この通り、あいつは僕の足にかゆみの呪文をかけたのさ。
やつは『1分間我慢できれば元に戻してやる』というけれども。
イビルアイズってヤツは性根が曲がっていてね、
とにかく人の苦しむ姿を見るのが大好きなヤツなのさ。
あいつの手にかかったのはもう一人、
この国でも勇敢な猛者とたたえられている
マイティヨグもなんだけれども、
これはやつがマイティヨグにやったことよりも酷いよ。」
相変わらず足踏みを止めていないマッドストンパーに対して、試みにエバイストがMADIをかけてみるが、全く通用しない。見かねたティナがひっきりなしに彼の足をかいている始末だ。
「マイティヨグ…もしかしたら君たちも会うことになるだろうけれども、
そのヨグにもやつは変化の魔法をかけたんだよ!
そのせいで大きな白いサルの出来上がりだよ。
でも、ヨグも応戦したんだ。
イビルアイズの足を噛み千切ってやったのさ。
よほど腹に据えかねたんだろうね。まあ、それは僕もだけれども。
でも、結局はイビルアイズに軍配が上がったんだ。」
「何ということでしょう……そんな卑劣な輩がいるなんて。」
「酷い話ですね……あの、落ち着きましたか?」
アルマダとティナが相槌を打つと、マッドストンパーはいくらか落ち着いたらしく、冷静さを取り戻し、落ち着いた口調で語り始めた。
「…ヨグは、今は眠らされているんだ。
ガラスのシリンダーに閉じ込められて、
ずっと眠らされているんだ。
そのシリンダーは破壊しようにもできないらしく、
唯一開けられるのはイビルアイズだけらしいんだ。
これがどういう意味だかわかるよね?」
「僕たちに、イビルアイズを倒してほしい、と?」
フラッシュが答えると、マッドストンパーはうなずいた。
「あいつから僕らを元に戻す方法を聞きだして、
…いや、この手の呪文は術者が死ねば消えるはず。
それをお願いしたいんだけれども……。」
哀願するような目にどうしても正義の血が燃えがってしまう二人の男――言うまでもなく翔太とエバイストだが――が、彼と固く誓いの握手を交わすと、マッドストンパーは安心しきったようで、
「僕はずっとここで待っているから、
君たちに全てを託すよ。
ヤツはもっと深いところにねぐらを構えているだろうから、
少し時間はかかるかもしれないけれども、
僕はいつまでも待つ覚悟はできている。」
と口にすると、再び闇の中に消えていった。
「そんな話があったとはな…」
マックスがつぶやくと、翔太は真剣な目で、
「でも、あの人が困っているのは事実です。
冒険のことはともかく、助けてあげないと…。
それに、これからの魔道でそのイビルアイズというのが
何か鍵を握っている可能性もありますし。」
と訴えかける。どうやらエバイストも同じ意見らしい。
「確かに、なにやら背中にいそうですね。
確かめる価値はあるのではないでしょうか。
しかし、確かめるにしても危険が伴うのは事実。
少しここで宝物と経験を積んでおくのも必要でしょうし、
とにかく、あちこち歩き回って情報を確かめないと
なんともいえない部分もありますから。」
そんなこんなで、一行は本格的に5階の探索を始めた。
「やはりおぞましい雰囲気を感じます。
これが深い階が持つ空気なのでしょうか。」
アルマダがつぶやく。もともと彼女は冒険者ではなかったが、その性格がゆえにどうしてもこのミッションに参加を決めたわけだ。他の連中より肝が据わっていない面があるのも仕方なかろう。同じことがティナにもいえる。もともと翔太に一目惚れしたがためについてきたようなものだ。このパーティーは女性軍に血と難あり、というところが玉に瑕、かもしれない。
しかしながら、この二人とていざ戦闘となれば攻撃呪文や補助呪文で勇敢に戦う。決して侮ってはいけない。女性軍の華奢な腕から繰り出される勇気は他のメンバーにとって何よりの補助呪文である。
襲い掛かるマスタードスライムやサムライ、ムシャゾンビ、キングコブラ、ワータイガー、ヒュージスパイダー、スピリット……こうした強敵をなぎ倒しつつ前に進む一行だが、前を見れば見るほどこのフロアは広い。内側のドアをあけることなく、外側を歩き回ったのだが、どうやらこの階、外側に30ブロックの通路があり、そこから中に進入していかなければならない複雑な構造のようだ。上りエレベーターだけは特別な通路で外周につながっているので、来た道を引き返せば何とかなるのが幸いなのだが、こうしたフロアに限って戻り道がわからなくなるものである。
覚悟を決めていかなければならない――遂に内周のドアに手をかけた瞬間、恐るべき気配があたりに漂ってきた。
| 1 The Dejin Wind King | (1) |
| 8 LVL 3 Ninjas | (8) |
| 6 Monsterous Snakes | (6) |
| 7 Were Bears | (7) |
「HP回復や攻撃補助に関しては私にお任せください!
アルマダさんはMAKANITO、ティナさんはMOLITO、
前衛の皆さんは全てデジンに集中攻撃を!」
エバイストがこの状況下での最善策を叫ぶ。出人を守る後ろのモンスターはMAKANITO一発で塵にすることができる。ティナのMOLITOはこの状況下でアルマダの攻撃が遅れた場合にモンスター全体を威嚇することが出来る呪文、兼、デジンへの攻撃補助として大変に有用だ。
「ふんっ!!」「せやっ!!」「はぁっ!!」
前衛3人の切りかかる気迫に押されていったのか、デジンは得意の呪文を放つことすらできない。更にティナの放ったMOLITOも受け、デジンは瀕死の状態まで追い込まれている。
一方のザコモンスターだが、アルマダのMAKANITOに関しては言うまでもなし。既に塵と化しており、埃となってデジンに振りかかっている。
その刹那、隙を見せた冒険者にデジンの魔法が襲い掛かる!!
「BADI!」
「皆さん離れて! CORTU!!」
ティナが接近戦を挑み、2つの呪文に自らのCORTUをぶつける。普通ならこのような手は使うべきではない。隊列が乱れるということはすなわち後衛の死を意味するからだ。しかしながら、状況はいい方に転じることとなる。
「ティナさん!!」
フラッシュが叫ぶと、ティナが倒れている。だが、彼女はすぐに笑顔を見せて、完全に呪文を防いだことを知らせている。
「やってくれたな、お前……」
翔太が本気以上の力を出した。迷いのない一筋に、デジンはそこに倒れることとなった。一方のライフスティーラーはエバイストによって丁寧に成仏させられるに至った。
「…あれはなんでしょうか…?」
「ロウソク…にしちゃ変わってるな。
普通は溶けたやつは下に垂れたままなのに
コイツは自分で少しずつ元に戻して
またすぐ本体に使ってやがるし…
何より色が青というのは珍しいんじゃねぇか?」
アルマダがデジンの背中にあったものに興味を示すと、マックスが身軽にそのものを取ってきて調べている。どうやらただのロウソクではなさそうだ。
「普通の明るさじゃないね。これで照明は
十分過ぎるほどだし、取っておいて損はないだろうね。」
フラッシュが結論を出すと、一行は更に奥の部屋に進んでいく。
それにしても、ここまでうまく戦闘がこなせるようになっているのは、それぞれのメンバーが確実に成長しているからだろう。専門職が多いゆえの特権、回復はエバイスト、攻撃・補助魔法はティナとアルマダ、前衛も優秀な面子が育っている。
その大広間を後にすると、今までエバイストが唱えていたLOMILWAで明るくなっていた廊下が更に明るくなっている。迷うことはなさそうだし、明るさを嫌う魔物たちにとっては天敵ともいえよう。見えなかった扉も鮮明に見えるようになり、まさに盤石といえる布陣で望めるようになった。
5階の魔物は思ったほど強くないようで、前衛の攻撃にティナのリュートから奏でられるKATINOで眠ってしまうモンスターも多い。人間型のモンスター――という言い方は変だが、危険さにおいては魔物と同じである――相手には特に効果的だ。最もエレベーターに近い南西のエリアを探索している一行は、ひとまず南西ブロックの探索を終え、次は南東ブロックの探索を始めることにした。
南東ブロックは南西ブロックと違い、一部屋一部屋がやけに大きくなっている。しかし、この部屋に入ったことがすべての失敗の元凶であることを一行は全く知らない。
しばしうろうろしていると、いくつかの部屋に分かれていることが明らかになるこの部屋だが、どうもおかしい。どの部屋を歩き回っていても魔術師や僧侶をはじめとする呪文の使い手がいないのだ。コンスタントにKATINOが効く動物や戦士、厄介な特殊能力を持たない魔法生物といった連中しか出てきていないのだ。
「……!!!」
ふと部屋を出ようとすると、強い殺気が感じられる。
こにいたのは……
| 1 Gucumatz | (1) |
| 8 Boring Beetles | (8) |
| 5 Needle Mantises | (5) |
| 6 Faerie Flies | (6) |
「まさか……これが例の『フィアー』ってモンスター…?」
「いや、噂に聞いた『フィアー』というのは、
人間の上半身のみを象った姿をしているとのことですから
このようなまっとうなアンデッドではありません。」
戦闘の経験がもっとも浅い翔太がひるんだが、エバイストが落ち着いて解説すると、少しは楽になったようだ。落ち着いて刀を構える。
「呪文、かけられるだけかけてみましょう。MOLITO!!」
ティナが速攻をかける。ところが……
「?! な、どうして? まだ使えるはずなのに…」
「…僕のDILTOもだ……」
「これって……もしかして……」
「『魔法の効かない広間』に入っちまった、ってことかい。
まあいい、向こうさんに呪文を唱えられなきゃいい話。
とっとと叩き潰したろうかい!」
主に攻撃呪文を使っているティナと翔太が焦る中、マックスが気を荒げ、連中を見つめ、もっとも危険な敵を見分ける。
「一番危険なのはあの『グクマッツ』ってやつだ!!
先に殺らないとこっちが同士討ちになる!!」
マックスの分析とともに、戦闘が始まる。
「グクマッツ……確かに危険そうですね。
ですが、このものからも不死者の力を感じます。
ならば…私にお任せ下さい。」
「なるほどね…その方がどうやらよさそうだし、
君に任せた。僕は前衛を攻撃する。」
エバイストの判断にフラッシュが同意したのか、一目散にグクマッツに近寄っていく。このグクマッツという魔物、表向きはただの骸骨だが、実は2レベルドレインの能力を持ち合わせているのだ。それを察知したフラッシュの慧眼はさすがだ。
「闇に囚われし心弱き者どもよ、汝らの心に平安を与えん。
しからば今、この聖なる光の洗礼を受け…
土に還るがよい!」
後ろでエバイストが解呪の言葉を口にしているのを聞いたのを受け、前衛メンバーが一斉にグクマッツに飛び掛かる。こうなればもう結果は見えている。3人がかりで飛び掛かっては太刀打ちできるものも太刀打ちできない。
一方、呪文の使い手で普段は前衛に出ないティナとアルマダはというと、とりあえず完全に防御に回り、スティンガーやピククルー、ボーリングビートルの攻撃を振り払う。振り払う、といってもしっかりダメージは与えているのだが。
「きゃっ!!」
ところが、ここでボーリングビートルがアルマダの足に飛び掛り、噛み付き攻撃を放ってきたのだ! こいつの歯はかなり強力らしく、運が悪ければ相当タフな戦士でも一瞬にして食い散らかされるほどなのだ。
しかし、幸いそこまで大事にはならなかった。出血はかなりあるのだが、それでも足を食いちぎられるような惨事は免れた。その声を聞いていたエバイストたち男衆は、一斉にボーリングビートルに飛び掛る。 グクマッツが立ち去ればあとは怖くない。3種の魔物はエバイストを加えた4人に袋叩きにされて、見事に退治されるに至ったわけである。
「……アルマダの出血は何とかなったし、まだ戦力は大丈夫そうだな。
とりあえず戻らずに探索を…奥のドアに何かありそうだからな。」
アルマダには噛まれた足を包帯で強く締めるという一時しのぎの止血処置が施され、何とか歩けるという状態である。マックスはそう判断したが、呪文が使えないのは非常に痛い。2階に戻るか6階に進むか、どちらかしかないのだが…。そう考えつつも、とにかく動かなくては話にならない。
カランッ
先ほど魔物を倒した辺りから音が聞こえる。翔太が慎重にその位置に近づくと、そこには金鋸が残されていた。
「これ…何に使うんでしょうか?」
「どこかのドアの鍵を引き裂くとかそういうのでは…?」
翔太とアルマダが談話するが、とりあえず辺り一帯を探索することにした。魔術師系のモンスターが出なかったのはどうやらこういう魔封じの空間があるということを知っていたからだろう。本来呪文が使えるナイトメアも使ってこなかったのだから。
再び回廊に出ると、鉄の鎖で厳重にロックされた扉があった。どうやら金鋸の出番は早くも訪れたらしい。面子の中で一番力が強い翔太が金鋸で鎖を引きちぎりにかかると、あっという間に鎖は切れてしまい、扉がだらしなく開いてしまった。
(いつの間に僕、こんなに力が強くなったんだろう…?)
「おい、翔太、ぼさっとしてないで早く来いよ!!
下に行く階段が見つかったぜ!!」
「あ、は、はい、今行きます!!」
これで魔封じ状態からも脱却できた一行は、更なる真実を求め、6階へと足を運ぶに至った。
6階はじめじめした感覚はなく、むしろ水のせせらぎが聞こえる美しい造りになっている。その証拠に、ところどころ水が流れている通路がある。浅いところなら何とか歩けそうだが、深いところはさすがに普通に歩くことはできない。もっとも、ティナがLITOFEITをかければ歩けそうなのだが。とはいえ、そんな水のせせらぎを聴いて癒しを、というわけにもいかないのがこの魔道であろう。アルマダの傷はエバイストのDIALMAで無事に治療が施されたのだが、5階以上に魔物が登場する。特に魔術師系の敵が俄然増えてきている。呪文による攻撃をまともに食らっては命にかかわる。先にティナや昇太の呪文で叩きのめすか、エバイストにMONTINOをかけさせるかをしないと危険でどうしようもない。打撃系のモンスターも一撃が非常に重い。マックスやフラッシュでさえ抑えきるのが精一杯という感じの強豪が現れてくる。特にマリリンフロッグが強敵で、パーティー全員の力を使わないとどうにもならない。HPもものすごく高い。MAKANITOも底を尽きてしまった状態でこれなのだからもう大変である。MOLITO、MAHALITOが尽きるような目に遭ったら大変な状況だ。
「すみません、ちょっと休ませてもらえませんか?」
アルマダが珍しくギブアップ宣言をした。ティナも同様に相当疲れているようだし。前衛もこの状況ではまともに戦えない。
「…これは……これ以上探索を続けるのは危険です。
もう少しレベルを上げてから再探索したほうが安全でしょう。
少し休んで、今までの経験を振り返ってみるのも
一つの策であるといえませんか?」
「俺もそれに賛成だ。
無理して死んじまったんじゃ話にならないからな。」
「多分、みんな同じことを思っているんじゃないかな?」
「そうですね、ここで手に入れた物品も鑑定したいですし。」
全員がうなずいたのを見て、エバイストの指示通り再び地上に戻ることになった。
「うわ……まぶしい……」
ティナが久々の日の光を浴びてつぶやく。いったいどれくらいの時間あの中にいたのだろうか、ということを考えると恐ろしくなってくるものだ。しかも緊張状態も最高レベルで、である。普通の人間ならとてもそんな状態を保つことは不可能であろう。
「それでは、翔太さんと私はアイテムの鑑定、
皆さんは先に宿に戻っていてください。」
エバイストの言うとおり、一行は二手に分かれることにした。