一方のヒューマたちは、相変わらず地下2階と3階をうろついていた。いや、うろついている、という言い方は彼らに失礼だ。実際は二つの探し物――FREEZERと謎の忍者の行方を捜しているのである。
2階はこう見えてかなり広い。慎重にマッピングをする賢一のメモ帳は既に真っ黒になるほど情報が書き込まれている。この中にさらに情報が加わるのだから、賢一にしてみれば「もうちょっと丁寧に書けばよかったかもしれない」と悔やまれるところである。最も、そのような作業は地上に戻って仲間の記憶も頼りにすれば難なくできる作業なのではあるが。
1階も含め、未探索エリアを探していくと、地下3階の奥…ちょうど下り階段、ジュディたちが死闘を繰り広げた場所である。今でも生々しい結婚が残るその奥に通路が通じている。その通路をさらに進んでいくと、1つの扉が見つかった。
「どれ、ちょっと調べてみましょうか。」
シザールが扉の奥をCALKOで調べてみる。中に人がいるようだが、なにやら怪しい呪文が聞こえてくる。それはあの死闘の直後、ジュディたちが聞いたものと同じである。
「どうやらこの奥には入らないほうがいいらしい。
どうやらよく分からん魔術師が地上に送り返す呪文を
ここで唱えられているようだな。
まあ、緊急脱出には使えるだろうがね。」
反対側にはまだまだ通路が続いている。ジュディたちが気が付かなかったものだ。その通路をまっすぐ歩き、散々蛇行を繰り返して到達した場所に1つのドアがあった。バッチリφρεεζερと書いてある。どうやらこの先が冷凍庫のようだ。
準一が力任せにドアを開けようとするが、どうやら鍵がかかっているらしくうまく開かない。
「バカ、どれ、貸してみろ。」
ヒューマが慣れた手つきで錠前破りを披露した。さすがに元盗賊だけあって手先が器用である。そしてドアを開けた直後……
バタン!
後方でドアが閉まる音がした。しかもどうやら外側から鍵がかけられたらしく、ヒューマの錠前破りをもってしても開かない。しかも最悪なことに、前には巨大な氷の壁……いや、なぜか人の形をしたレリーフが付いているものがある。つまり、この氷の壁を破壊しなければこれから先に進めず困るのだ。
しかし、その壁はただ単なる壁ではなかった。程なくして壁が動き出したのだ!!!
| 2 Ice Rocks | (2) |
「ちっ、またここで魔物かよ!!」
ヒューマの舌打ちをそっちのけにして、シザールとミリアが早速呪文の詠唱に入る。まずはミリアが詠唱を終えた。
「炎よ…わが手より放たれよ!」
HALITOの呪文だ。相手は氷、炎の呪文が聞くのだろうと考えたんだろう。だが、その考えは甘かった。なんと、相手に届く前に炎が消えてしまったのだ。いくら隊列が隊列――ミリアが最後尾だとはいえ、こんなことが起こるわけがない。いや、部屋全体が恐ろしく冷え切っているせいもあるのだろう。ミリアの集中力が失われていくとも考えられる。薄着がこんな形で裏目に働くとは彼女も思っていなかったのだろう。呪文を詠唱した後に、ミリアは急激な意識障害に見舞われ、地面に崩れていった。
その次はシザールの番だ。だが、彼の口から唱えられた呪文は意外なものだった。
「速やかな嵐よ、光となって解放されよ!!」
なんと、最強の攻撃呪文、TILTOWAITだった。こんな階層のモンスターにかける呪文としては少しやりすぎであろうとも思えてくるが、彼の狙いはそこにあった。
「グギャァァァアァァァァアァ!!!」
氷の魔物が吼える。だが、一向に弱る気配がない。それどころかさらに凍てつくような寒さの息を吐いてきた。その息によって与えられるダメージは壮絶なもので、メンバー全員がその威力にたじろぐ。防御を取れないミリアは、その状態でマトモにブレスを受けてしまい、再び目を開けることはなかった。最強呪文をしてこれなのだ、シザールの敵を見る目は確かだったといえる。もしここで安直にLAHALITOを唱えていたら、被害は計り知れないものになっていただろう。
「くそったれが……MAWXIWTZ!!」
準一がかつて覚えたサイオニック呪文の最強呪文から一発を選んで相手に一撃をかける。果たしてこれで倒れるのか……
「ガハァァァァァ」「グギギィィィィィ」
1体が崩れるようにして倒れる。もう1体は麻痺したらしく、動きを止めてしまった。そこへ前衛の攻撃が襲い掛かる!
「閃!!」
ヒューマが相手の急所を的確に狙う。この一撃により、もう1体のアイスロックも地に落ちた。
「ぅっかぁぁぁぁぁ、死人が出ちまった!!」
賢一が嘆くが、済んでしまったことは仕方がない、という目つきの3人に連れられて、その場を去ろうと、一方通行の反対側にあるドアに手をかけた。
すると、思わぬ方向から拍手が聞こえてきた。
拍手を送っていた人間は覆面を被っており、いったいどういう人相なのか全く見当がつかない。しかし、その服装から忍者であることは一目瞭然である。
「まさかここを通り抜ける連中がいるとはな。
普通は見過ごすか、諦めるかのどちらかなんだが。」
そう男はいうと、コインを片手にメンバーの前に立ちはだかった。
「…1人死人が出ているようだな。
その女の処遇はあんたたちに任せるとして…
なんだ、5人とは酔狂なことだな。
どういういきさつがあったのかは知らんが、
……俺の眼鏡に適えば仲間になってもいい。」
「…ずいぶん偉そうなことをいうな、貴様。」
さすがにムッと来たのか、ヒューマが相手を威嚇するような鋭い目つきでにらんでいくが、男はたじろぐ様子もなくこういった。
「…善人が混じっているようだな、気に入らん。」
「ま、待て、これには重要な理由が…」
シザールが静止するが、男はコイントスをすると、
「裏か……邪魔だな、消えてもらおう。」
いきなり賢一に突っかかると、男は足がすくんで動けなくなっている賢一の首を一撃でしとめてしまった。これで死人は2名…このまま探索を続けるのは困難であるが、KADORTOを持っているシザールは何とかできるだろうと思ったのだろうか、すぐに治療を開始する。
「おい、コイツやばくねぇか…?」
「いきなり首斬りだもんな…あまり係わり合いになりたくないが、
実力はそれ相応にあることだし、何よりヒューマがハーフエルフで
それで何とか相性を改善している状態なんだ。
もしヒューマがいなかったらこんな状況では済まされん。」
準一とシザールがぼやいているのが耳に入ったのか、覆面の男は更に言葉を続ける。
「ふん、ハーフエルフの相性調和ってぇやつに期待してんのかい。
まあいいだろう、どうやらこっちも前衛がいないらしく
苦戦しているんだろうしな、面白い。」
「面白い? まさかてめぇも行くっていうのかよ。」
ヒューマが不満を漏らすが、この状態では全然改善の余地はないのも事実である。ライネスが抜けてしまったことで穴が生じ、そこを賢一のような本来前衛に出るのを避けた方がいい人物によって補強してやる必要があると考えたからだ。
「大方報酬も望んでいるんだろ、貴様も。」
「当然だ。」
KADORTOに集中しているシザールを横目に準一が問いただすと、案の定の答えが返ってきた。このメンバーは資金こそ潤沢だが実力に差がありすぎるのが欠点である。どうやらこの覆面男、さっきの首刎ねの技術からいうと相当な手練のようだ。
「名は……?」
「レノスだ。まあ、一つ付き合ってもらおうか。」
何とかKADORTOで息を吹き返した賢一とミリアも再びパーティーに加わり直し、改めて奥のルートを探索するに至った。
「おいおい……マジでやばいんじゃねぇのかこいつ?
味方になろうとしている相手の首いきなり切り落とすなんざ、
普通のヤツじゃねぇのが目に見えてるっての…」
準一が心配するのも無理はないが、今はそんなことを言っている場合ではない。ヒューマが言い返す。
「ここはとにかく人手優先だな。
それ相応の収入をちらつかせれば誰でも入る。」
「我慢するしかないってか……あんまり気分よくねぇな…。」
「わがまま言うな。こっちが助かるのなら何でもいい。」
準一のぼやきに賢一が今ひとつ合わない相槌を打つ。
レノスがいた場所からさらに奥へと行くと、そこには長い回廊があった。しかもさっきの冷凍庫の影響からか、かなり冷たい風が吹いている。この状況で一番困っているのはほかでもないミリアだ。一番の薄着なのでいつものテンションの高さやわがままの多さは影を潜め、体を縮めてひたすら我慢しているようだ。
点在するドアを開けると必ずしもモンスターが出てくる。しかも、それぞれの部屋にはドアもなく(ヒューマやレノスでさえも発見できなかった…というより実際ないのだが)、これ以上進めないものばかりである。もっとも、修行中のパーティーにとってこれほどうれしいことはないのだが。
長い回廊を通り抜けると、そこには石の壁があった。よく見ると、壁に貼り付けられた石盤にはこのような文字があった。
MARIKI3
CLRIKI3
ALRIKI3
PSRIKI3
「……これは何なんだ?」
また準一の頭が「?」になっている。どうやら何かの暗号らしい。この奥にも何かありそうな予感がするのだが…。
「これって……呪文の種類じゃないの?」
意外な人物が鋭い観点を突いてきた。ミリアだ。
「MAは魔術師(MAGE)、CLは僧侶(CLERIC)、
ALはアルケミスト(ALCHEMIST)、PSはサイオニック(PSIONIC)、
ね、合ってるでしょ?」
賢一も妙に納得したらしく、
「んじゃ、シザール頼む……あ、お前アルケミスト呪文ダメだったっけか。
じゃレノスに頼むか。3レベルくらいなら余裕だろ?」
「なぜ俺がアルケミスト呪文を使えるのを知ってる?」
「こっちも……伊達にいろいろやってきたわけじゃない。
魔力があればちったぁ感じるものだ。」
「ふん……」
というわけで、二人が石盤の前に立ち、呪文を放つと……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
突然壁が動き出して、さらに奥へと通じる道が出来上がった。あれこれ詮索しても仕方がない、こうなったら進めるだけ進んでしまおうと、一行はその扉(?)の奥へと足を進めた。