EPILOGUE
夕暮れの街、帰宅を急ぐOLやサラリーマンで賑わう駅前通りを走り抜け、ぼくはクラブの駐車場へバイクを乗り入れた。
グリーンのニュートラルランプを確かめ、キーを抜き取る。
そして、オープンフェイスのヘルメットを脱ぎ、シートの上に置いた。
グラブを手からはずし、ジーンズのポケットに差し込む。
ぼくは、ゆっくりとした足取りでクラブのドアに近づき、それを押し開く。
フロントの女のこが、ぼくを見て、ちょっと驚いた顔をした。
−−彼女なら、今、レッスンを終えてスタッフルームにいるわ。
女のこが教えてくれる。
ぼくは彼女に礼をいって、ジムの奥へと進んだ。
知り合いの会員や、スタッフが皆、好奇の目でぼくを見ている。
ぼくは、彼らの言葉に軽口で応えながら、スタッフルームへ通じる通路に向かう。
裕子がいた。
通路をこちらに向かい歩いてくる。
うつむきながら濡れた髪を掻き上げ、両手を右耳にあてながら歩いてくる。
彼女が顔を上げた。
全てがスローモーションのようにゆっくりと動いていく。
ジムの中に響くざわめきも、何も聞こえない。
灯りに踊る塵が、煌めいている。
彼女はぼくに気付いて、一瞬、不思議そうな顔をする。
「ただいま」
ぼくの言葉に裕子は初めてにっこりと笑った。
「おかえりなさい」
彼女の右の耳で、あのティアドロップのイヤリングがきらりと光った。
もう一つのイヤリングはぼくの相棒の左のミラーで、月の光をうけて輝いていた。

終