大阪のカニ料理 「福すし」                        

 今宵は大阪のカニ料理。 この店は大阪市の中心から言えば北東の方角に位置する地方都市にあります。 なんでこんなとこで、こんなに美味しいカニが食べられるのでしょう。 それも松葉ガニではありません、越前ガニです。 どちらも同じズワイガニ(語源は、楚(すわえ、いばら、小枝)で、脚が小枝のように見えることから)ですが、実は味が異なります。 それぞれの持ち味があります。 この間の、「浜坂のカニ料理」の松葉ガニも、美味しかったですが、こちらのカニもまた美味しいです。

 大阪の北新地駅より遙々(はるばる)東西線を経て、片町線、別名学園都市線と愛称名も車両も新しくなった快速列車に乗って京橋から三つ目か四つ目あたりの某停車駅に降り立ちます。 

 以前はこの駅から、テクテクひたすら25分くらいかけて歩いていたのですが、昨シーズンからはタクシーを利用しています。 車に乗って狭い道を行きますと、5分くらいで店の前。

 薄暗い狭い道、シャッターの閉まった傾きかけたような店舗住宅群の中に、このお店「福すし」があります。 この店の表のシャッターが半分閉まった正面玄関からは入れません。 もしそこを開けようもんなら、ここのご主人様に怒鳴られます。 もう中へは入れて貰えません。 なんせ、このお店に来(こ)ようと思ったら、絶対に先達(せんだつ)に連れて来てもらう必要があります。 まさに祇園のお茶屋さんのようなものです。

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 左側の狭い路地には料理の果てのカニの甲羅が右左に、地面に並べてあります。 そこを進むと勝手口。 立て付けの悪い戸を左へ開けると、そこは調理場のすぐ横です。 いつもはネクタイして、首にタオル巻いたご主人様、今日は作務衣(さむえ)のような、褞袍(どてら)のような、ワケの判らんノーネク上着姿。 予約の席らしきところに勝手に座らせていただきます。 一年ぶりに拝見いたしますと、少し老(ふ)けられたかのようです。

 すでに大皿に野菜盛り、そしてガスコンロの上にはカニ脚のいっぱい入った鍋が鎮座ましまする。 とりあえず、ビールを冷蔵庫から出して、グラスも無理言うていただき、乾杯です。 なんせここはそのような飲み物は勝手に冷蔵庫開けて取り出してくるのが習いです。 ガスコンロに着火です。

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 やおらご主人様、タレと比較的大きな器、人数分の小さな深皿、を持ってこられます。 さっさと受け取らんと怒られます。 「どういう躾(しつけ)してるねん、ここ連れてくるヤツには、ちゃんとレクチャーしとかんと」  そして大きな器から大きなお玉で豆腐をその比較的大きな器に盛り入れていただきます。

 「この豆腐は、土から造ってます。 一切何も入ってません、ニガリも使うてません、土からだけ造ってます。」と宣います。 ははっー、いただきます。 タレをぶっかけていただきます。 美味しいねこの豆腐、あんなに仰るだけあって。 でも一所懸命全部平らげると、あとで泣きを見ます。

 

 またこの小さな深皿、豆腐食べ終わっても、大事に残しておかねばなりません。 これで、後ほどカニしゃぶをいただくのに使います。 なんせ新しい器、絶対にサーブしてくれませんので要注意です。

 最初からテーブルに載っているカニ味噌も、ビールをいただきながら、ほどほどにいただきます。 これも美味しゅうございます。

 やおら、平皿に、大きなカニの脚の生一本、刺身です。 今日の脚は普段のより大きいな。 さっとお箸でそぎ落として、そのまま一口で行ってしまいます。 う〜ん、素晴らしい、このカニは。 やっぱりこのお店やないと。 舌が打ち震えます。 甘い余韻がいつまでも口に残ります。 この平皿も残しておかねばならないのは言うまでもありません。

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 どんどんビールもいただきますが、ここらで頼みに頼んで、ヒレ酒をオーダーいたします。 「そんな面倒くさいもん、アカン」とか仰りながら、ガスコンロに鉄網を乗せ、しぶしぶヒレを焼きにかかられます。 不思議なことに、ここはフグ料理屋さんでもないのに、ヒレ酒をいただけます。 

 なんせ頼み方も難しく、初めての客が先達(せんだつ)なしに、ここを訪れようもんなら、怒鳴られまくりまくられます。 「お前らなあ、喰わしたってんのやで、食べてもうてんのと、ちゃうぞ」 と、その客は客扱いされません。 「気に入らんかったら帰ってもろて結構」

 そんなの言われた初心者は涙目で、食べたいものも飲みたいものも、ろくにノドを通らず、いっぺんにシュンとなります。 そんなシーンを横目で眺めるのも、ここのお店の楽しみ方のひとつですが、最近は常連客が多くって、あんまり面白くなくなっています。

 頃合いを見計らって、お寿司が出て参ります。 鯖寿司です。 ここは考えたらお寿司屋さん。 しかしお寿司屋さんの雰囲気まったくありませんが、取りあえずお寿司屋さんの証(あかし)?か、名残?か、鯖寿司です。 とても美味しくって、一口いただくと思わず、次々と行ってしまいそうになりますが、ぐっとこらえて、持参のタッパーウェアに、お土産といたします。

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 さあ鍋も煮えて泡だって参ります。 この鍋いっぱいのカニの脚、美味そうやなと食べようもんなら、「お前ら出し殻喰うんか、さっさとすくい上げんねや」と、大きなガラ入れと大きな柄付きのタモ網のような金属網を渡されます。

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 出て参りました、大皿いっぱいのカニの脚。 三段重ねのてんこ盛りになってます。 これを解(ほぐ)して、あるいはそのまま鍋に入れ、箸でしゃぶしゃぶと半生で、薬味の入ったタレでいただきます。 う〜ん、生きてて良かったね、この店来られて良かったね。 めっちゃ美味しいね。 どんどんいただきます。 

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「このカニはなあ、一杯(カニの数え方は、一杯・二杯)90万円するんやぞ、それをお前らに7千円で喰わしたってんのや」

 ずらっと並んでいる「三田村」吟醸、今日は飲ませていただけません。 「今日はアカン、これ全部空や」 以前は「これは売りもんちゃう、一本だけタダで飲ましたる」とか言われて、冷やでいただいたこともあります。

 やっとヒレ酒もサーブされます。

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 途中、ご主人様、また大きなカニを一杯そのまま、今日は勢子蟹も人数分、鍋に放り込みになります。 「15分待ってや」 ひきつづき、カニしゃぶをいただきますが、またまたここで、脚の根本部分をバター焼きにして切り分けた別のカニ料理の皿がサーブされます。 しかし、このバター焼きのカニを鍋に入れるバカが居ようとは。 これはこれで箸で解(ほぐ)していただくのです。

出来たて、湯気の立つカニバター焼き

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 しかしなんやかんや、どんどんいただいてると、肝心のカニしゃぶ、全部食べきれなくなります。 先ほどの15分前に鍋に入れてもらったカニを取り出し、甲羅裏返して左右のカニ脚をもって内側へ根本を割り曲げ、甲羅の中身を、すなわちカニ味噌をいただきます。 皆で分け合って、すすりあっていただきます。 しかし今日は勢子蟹の外子と内子もいただきます。

 そして余った雄蟹の甲羅に解(ほぐ)したカニ脚の身を浸し、すなわちカニ味噌をたっぷり絡ませていただくと、これがまたバカ美味(うま)。 なんぼでも行けますが、連れもって来た人たち、なんだかさっきから箸が止まっています。 きっと最初になんやかや、豆腐とか食べ過ぎたのか、もうアカンと宣います。

 「私は、福井で900年続いているこの吟醸三田村酒造の第17代目です。」「三国港でカニの4万トンの母船と49隻の船持ってます。」「この野菜もうちの何百ヘクタールの畑で、農薬一切使わんと作ってます。 白菜ひとつ幾らする思うてます?」 どんどんご主人様の自慢話が披露されます。 「それになあ今はこんな店やってるけど、昔は阪大病院の第一外科に居ましたんや。」

 すべてのカニを食べ尽くし、あるいは残ったのをタッパーウェアに詰め終わり、さあカニ雑炊です。 ご飯を鍋に入れ、残しておいた解(ほぐ)したカニの身を一緒に鍋に入れ、ネギととじ玉子を最後に入れていただきます。 これに先ほどのカニしゃぶのタレを少し落としていただくと美味しさが引き立ちます。 

 自家製漬け物に黄金色の醤油もサーブです。 「この醤油はなあ、そこらの醤油みたいに、コールタール入ってません。 純粋のこれが本物の大豆だけで造った醤油です。」 「漬け物、持って帰ってもエエけど、明日になったらカビ生えるぞ。」

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一個何万円だったか何十万円だったかの、メチャ美味しいメロン

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 あ〜お腹いっぱい。 もう食べられません。 とっくにさっきからお腹いっぱいの人も居て、そろそろ引き上げましょう。 タクシー呼んでいただいて、帰ります。 どうもご馳走さまでした。 

 追記:このお店の住所と電話番号はインターネットで検索しても出て来ません。 福すし楠公店ではありません。 予約は特殊な方法でないと受け付けてくれません。 初めての方は必ず先達(せんだつ、徒然草第52段参照)とご一緒に。 

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02/14/2008 記


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