本項は広沢先生のご研究や、柱梁接合部の検討と全く関係の無いお話です。
比較的最近の情報について、こんな読み方をしました。どのようなものでしょうか?
1 東海地震
今から約40年程前から、関東大地震再来の話が一般の方々の耳にも時々入るようになりました。
その頃は今のような地震観測網もまだ出来て無かった時代です。一部の週刊誌などが記事にしても、 いわゆる大新聞は関東大地震再来の話をなかなか記事にしない感がありました。
最近、ある事から大地震に関する新聞記事を調べてみますと、その大新聞が月に1回位の割で大きな記事を載せています。 これを集めて通読しますと、「これでもか、これでもか。」と書きたてている感さえあります。 昔とは全く様変わりで驚きました。その中でこれは重要と思う記事がありました。 なぜ重要と感じたかを記します。
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上図 は新聞に掲載されたもので、国土地理院による御前崎の観測データだそうですが、 縮小されていて分かりにくいものですから、
地盤の沈下量1cmが紙の上で1cmになるように拡大してみました。
これが 隣のグラフの拡大図 です。
(この画面では、その全体を少し縮小して入れています。)
過去では、地盤がある量まで沈下すると跳ね上がり、次にある量まで沈下すると跳ね上がる、 と上下しながら全体としては次第に沈下している様子が良く分かります。
そこで、近似的な直線を引いてみました。イ,ロ,ハは何れも同じ勾配のように見えます。 ところが、ニは勾配が変わっています。
このニの直線にご注目!です。 過去数年間は沈下と跳ね上がりがほぼ一定であったのに、ニの線の時期になると、 いままでより少ない沈下量で跳ね上がり出したようです。しかも跳ね上がるまでの沈下量が年々少なくなって来ているように見えます。
沈下量がゼロになる年は、図の中から読み取ると2004.6年となります。 新聞記事を拡大した粗い図から物差しを当てて計ったものですから、これは本当はかなり雑な値ですが、 これが東海地震発生の時期予測を発表された東京大学 五十嵐先生の予測値2004.2年の前後0.8年の中に入ってしまいます(*1)。 沈下量がゼロになると言う事は、以後は地盤が隆起をはじめると言う事になるのでしょうか。
(*1) その後、五十嵐先生は2002年春にデータにゆらぎが出たことで、2005.3年 誤差範囲 0.5年と修正されています。 (日経サイエンス 2002年10月号P31) [2002-12/25 追記]
関東大震災の前には地盤の隆起が観測されたそうですから、いやな事がすぐそこに近づきつつある、 といよいよ覚悟しなければいけないのでしょうか?
一つのデータのみをこのように注目するのは良くないのかもしれないのですが、 ここまではっきりしたデータが採れているのは驚きで、自分で読んでみて、初めて迫り来るものを実感しました。
新聞記事の中の小さいグラフですが、こうして読んでみると、かなりの迫力ではないでしょうか?
重要と思った記事は、朝日新聞2001-6/22、日経新聞2001-6/18、10/29に出ていました。他紙でもその前後でしょう。
[2002-3/10 追記]
2002-3/8 朝日新聞に上記の記事(2001-6/22の記事)をうけて、「原因はゆっくり地震―大地震の危機感薄らぐ」の記事が出ました。 正直なところホットしました。記事の中には '81年と'87年にも同様のゆっくり地震が起きていた。最近の一年間に同じような ゆっくり地震がこの同じ場所で起きていた。と述べられています。
しかし、このお話はそれぞれ一年間程度の期間についてであって、'95年〜'01年にわたる長期の傾向(即ち ニ の直線の傾向) については触れられていません。
[2002-4/11 追記]
朝日新聞 泊 次郎 記者からの御返事
上記の主旨の質問の手紙を、記事に署名があった泊 記者にお送りしました。
頂いたご返事の要旨は「貴方の指摘は大変興味深く、指摘により初めて気付いた事もあった。しかし、御前崎のデータだけから判断するのは危険で、他の観測データも合わせて判断すると、東海地震が間近に迫っている兆候は見られない、というのが 気象庁の東海地域判定会の総合的判断です。」でした。
時間をかけて、確認を取って下さったようで、誠に感謝にたえません。
私は大地震の兆候があると、申しているのではなく、地盤隆起が始まる時期を推定できるのではないかという指摘ですから、 総合的判断とは多少意味合いが違うかも知れません。大地震の兆候といえば、短期的には今はまだ「兆候なし」でしょうが、 果たして中期的な兆候もないということでしょうか。
2001-6/22付朝日新聞で泊記者の書かれた記事の中に「発生の10年前位になると御前崎の沈降が鈍化し、数年前には隆起に転じるという。」 の一節があります。 当時どなたかの研究者に取材され書かれたものでしょうが、指摘されている”沈降が鈍化”しつつある現象が今すでに起きているのではないでしょうか。 国土地理院発表のグラフから、私が気付いたことはその事実が生じていることを示しているのではないでしょうか。
私は学生時代に学んだ「関東大震災の前に御前崎で地盤隆起があった。隆起が始まったら要注意である。」ということを 大層重い兆候として記憶に留めて参りました。 昔なら問題になりそうな私の指摘を、私の拡大図をご覧になった研究者が、現在の地震学では必ずしも重い兆候と考えておられないようで、 これはこの50年間にそれだけ研究が進んだことを示しているのでしょう。
一方、私の疑問の全てに答えてもらえるほど、今はまだ研究が進んでいる訳ではなさそうですから、これはこれからの期待として 残さざるを得ません。
[2002-4/25 追記]
'02-4/23にテレビのNHKニュース10で放映された番組で、サブタイトルが「東海地震いつ起きる?判定会会長に聞く」、というのがありました。
判定会会長の溝上 恵先生がご出演になりました。
大地震に到る現象としての段階は、先生がおっしゃったのは次の4つでした。
1.沈下
2.固着域のはがれ
3.前兆すべり
4.大地震
3は従来の例では2〜3日、急速に進む時は数時間のこともある。
2はどの位かかるか、今はまだ分っていない。
現在は2の段階で「ゆるみ始めた。」状態である、とのことでした。
朝日新聞 泊記者から頂いたご返事では、「大地震が間近に迫っているとの兆候は見られない、 というのが判定会の総合的判断です。」でした。ここでの「間近」とは3を指すのでしょうか。
表現のとても微妙な差をどのように受け止めるべきでしょうか。
番組の中で「するべき準備の一つ」に、溝上先生は「建物の補強」をあげられました。
先生が現段階で、公共放送の小特集でこのように話されたことは、迫り来る地震と、建物補強の進んでいない現状 との差の深刻さを指しておられた、 ように私には思えました。
[2003-8/10 追記]
関東大震災とか阪神大震災の記念日の前後には、このささやかな記事も読んで下さる方が急増いたします。そこで、御前崎のデーターがその後どのようになっているのかを、私も気になりますので調べてみました。
国土地理院に問い合わせますと、地震予知連絡会のホームページの中にある「地震予知連絡会の活動報告」に、新聞記事の元になったと思われるグラフがあることを教えていただきました。このグラフは測定値を白丸、黒丸で表してある為に正確な位置を読み取れないのですが、図を拡大し、丸の中心を連ねることで一応の折れ線グラフにしました。
気にかかるここ数年分のみを前回と同一縮尺で表したものがこの図です。現在は前回予想しました点線域より外れだしたようです。しかし、沈下の傾向は同じようで、沈下は相変わらず収束傾向にあるように見えるのが気がかりです。収束すると跳ね上がりが始まるからです。
今回の作業で気が付きましたことは、新聞記事の図を縦方向に大きく拡大した為に、コピー時につく余分なヒゲも同時に拡大され、 ご覧頂いている図にはかなり誤差が入っているらしい、ということです。そこで、国土地理院に数値データーを頂きたい、とお願いしております。 入手出来ましたら、グラフ全体を書き直すつもりです。
[2003―8/14追記 ]
このホームページでは危険がいつ頃近づくのか、時期の表現が実に微妙な言い回しになっている事を記しました。ところが、 これにかなり明快に答えてくれている本(後出 ご紹介したい本B p30〜31)にお目にかかりました。この本では比較的最近のニュースを事例として説明されていますので、 一度ご覧になっていただきたいのですが、要は次の事のようです。
国土地理院は 長期的な監視を行い、その長期とは数ヶ月〜数年にわたる将来について考えている
気象庁は 短期的な直前予知を目的とした監視を行い、その短期とは数日〜1週間程度の将来について考える
これでかなりはっきりしました。
朝日新聞の泊記者が確認して下さったのは気象庁でしたから、泊記者がお伝えく ださった気象庁東海地域判定会の総合的判断を私の言葉で言い換えますと、
「 この1週間以内には東海地震は起こらない。」という短期的なお答えであって、これがご回答の 「・・・間近に迫っている兆候は見られない、・・・」の言葉に込められていたと思われます。 私が期待しました中・長期的な意味合いは入っていなかった、と考えたほうが良いようです。
[2003―8/19追記]
「関東平野には随所に断層がある。」 「都心では開発が進んでしまったので地上からは断層を見つけられない。」 「都心にも直下型の地震が発生する可能性がある。」等などと東京に関する大地震情報が流れています。
先ほどの「東海地震が分かる本」に耳寄りな記述がありました(耳寄りと言っても私だけかもしれませんが)。間違った抄録を避ける為に、その部分をそのまま収録します。
「・・・東京の周りにある断層について、どのくらいの頻度でどの程度の地震が起きるか、さらに、そのときの東京における地震動の大きさを、 ばらつきを考慮しながら評価し、これをすべての断層について合算してみると、東京の標準的な地盤における最大加速度が 400gal以上となる地震が起こる確立は今後50年間で約8%、その2倍の800gal以上は約1.5%となった。」(後出 ご紹介したい本B p139)
また、確率表現の理解の仕方については次のような説明がありました。
「・・・兵庫県南部地震直前の野島断層の30年確率は0.4〜8%程度であった。決して確率が100%になるまで地震が起きないわけではない。 ・・・・・・確率値が一見小さく思えても、野島断層の値より大きければ要警戒である。」(同書 p229)
東京が8%とか1.5%といえば、まさに地震前の兵庫県南部と同じ危険度となり、東海地震 を待たなくとも、現在は既に充分危険であることになります。
[2004-7/7 追記]
国土交通省国土地理院から御前崎の観測データを頂きました。
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実はこの前の記事[2003-8/10 追記]の後、すぐにFDでデータを送って頂いていたのですが、 私の都合で約1年間が過ぎてしまいました。
そこで、改めて直近分を含めたデータを送って頂きました。これがC図です。
私は1995年〜2000年の6年間の沈下が極めて特徴的な沈下曲線を描いていることに驚いた訳です(B図)。 その後の4年間(2001〜2004/4まで)の記録を含めて眺めてみると、この特徴的な沈下も、直線で示した長期間の 沈下直線の巾の中に収まっている、と考える方が良いように思えます。
そもそもは朝日新聞2001-6/22の”危機感あふれる”記事中にある小さい図を引伸ばして みると、危機が迫っていることが誰にも分かる図(B図)になりました。次に2002-3/8に”危機感薄らぐ”という記事が出て、 ホッとした訳です。そしてその後4年経ってみると、この危機感さえも長期の沈下傾向の途中の一部分の現象であったことを、 示しているように思えます。
今回、国土地理院から頂いたデータで作った詳細な図(C図)は、その間の経緯を端的に示しています。
では隆起する緊迫感から全く開放されたのでしょうか? 残念ながら、東京大学五十嵐先生の予測がまだ残っています。
私は2004年以降のデータこそ注目しなければと思っています。
2 阪神・淡路大震災 (兵庫県南部地震)
[2003―11/27追記]
阪神大震災での断層について少しショッキングな記述がありました。
次のAは後出 ”ご紹介したい本”Aにある”被災した集合住宅”の分布図です。
Bは 同じく”ご紹介したい本”Bにある地表の断層(実線)と 地震断層(黒丸、地下約18km位)です。 こちらは小さい図を拡大したものですから、実線は太く、黒丸は大きくなりました。
このAとBの縮尺をほぼ同じにして、重ね合わせたものがCです。地震断層は「震災の帯」の真下にあります。しかもこの断層は地表に表れていないそうです。 深層部が動いたのに地表部が動いていないから、 「いつの日か地表付近の浅い所で大きくずれるような地震を起こす可能性を秘めている」 そうです。 (後出 ご紹介したい本B p217)
素人考えを少し記させてもらいますと、この地震断層を地表に投影すると地表断層との水平距離は最大でも約2kmです。 地震断層は地下約18kmにあります。地表断層と地下の地震断層がもしつながっているとすると、 断層面は少し勾配をもちます。 2/18=1/9 程度の傾斜になります。そうなると、この上下の両断層がつながっていることになり、 「 」の心配はなくなると思えるのですが・・・、断層面とは垂直と決まっているのでしょうか。
A 被災した集合住宅の分布図
B 地表と地下の断層
C A+B
3 関東大震災
[2004―8/21追記]
私は、関東大地震については本郷で採れた地震記録、しかもその地震記録は振り切れている、ものしかないのだと思っていました。 しかしこの労作(後出 ご紹介したい本C)が明らかにしてくれたのは、多くの記録があったと言う事、そして、 その記録が関東大地震の姿を伝えている、ということです。 比較的最近に起きた地震、例えば阪神大地震にどうしても心が奪われるのですが、関東大地震はやはり忘れてはいけない、 と、この本は呼びかけてくれます。以下は書中にある関東大地震と阪神大地震の比較です。
私の父が関東大震災を東京の深川で経験し、その話を生前に聞くことがあったのですが、 こうした話でも技術的な観点でまとめると伝えるべきことが多くある、とこの本は語りかけてくれた思いがします。
そして p24〜p27には、
「 関東大地震の断層が北北東に向かい20度ていどの底角で(面的に)傾いているのに対し、兵庫県南部地震の断層はほぼ垂直で、 (これを)地表に投影すれば、一本の直線になる。(図3の二つの図)は同じ縮尺の地図である。 関東地震の震源断層が、・・・・・・兵庫県南部地震の場合と比較にならないほどの 広範囲で強いゆれに襲われた事は確かである(註 太い斜線域の比較です)。 ・・・・・・東京市が震源断層の直上からやや外れていたにもかかわらず、全潰家屋とそれに伴う死者数が兵庫県地震を 上回るようになったのは、ゆれの強い範囲が広かった事が原因で・・・・・・」 と記述されています。
その頃の住宅は今に比べて弱かったことと、地盤が軟かかったという一面はあるとしても、 それ以外に大きい理由があったことを教えられます。
関東大震災では震源の相模湾から100kmもはなれていた東京で、なぜ大規模な震害が発生したのか。 比較して、阪神大震災では震源の明石海峡と大阪は殆ど同じ距離なのに、大阪での被害ははるかに軽かったのです。 ここに東京の深刻さがあります。
4 <ご紹介したい本>
@ 「巨大地震と無力な技術者」(出版社 丸善 \3500)
というショッキングな題名の本を最近読みました。著者は AWA認証機構 編集委員会です。
これは鉄骨構造(特に溶接)について書かれています。本ホームページとはタイトルの「巨大地震」という単語しか共通点はないのですが、 実務家が教科書としてではなく本音で書かれた書物のようで、建築の構造専門家はお読みになることをおすすめしたいです。立ち止まって考えさせられることが色々と多い、良い本だと思います。
A 「被災した集合住宅」 阪神大震災写真集(出版社 (株)テツアドー出版 \3000)
これは日本建築家協会関東甲信越支部メンテナンス部会リフォーム技術研究会により編纂されたものです。 単なる写真集ではなく、一棟々々に添えられたコンパクトな資料とコメントが、色々と考える手掛かりを与えてくれるように思います。
B 「東海地震がわかる本 」 名古屋大学災害対策室編著(東京新聞出版局 \1500)
この本は名古屋大学の先生方が一般の方々のために書き下されたもの のようで、分かりやすくて良い本だと思います。
C 「関東大震災―大東京圏の揺れを知るー」 武村雅之(鹿島出版会 ¥2300)
関東大地震にもこのように大量の資料・データがあったとは驚きです。この本をまとめられた労力に深い敬意を抱きます。 関東大震災がかなり身近に感じられます。 資料の保存・管理の重要さも改めて実感しました。