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手品
こたつで丸くなる猫のように、司馬はぽかぽかした日を浴びながら情けなく背中を丸めてうとうとしていた。
こたつの上には、ゆらゆらと浮き沈みするマリモと、ひっそり静かなサボテン。
マリモの入った小瓶には、水の上に青い液体がぷかぷかと浮かんでいる。水に似ているが、完全に水と分離しているから水ではないのだろう。正体は不明だが、透明な水との対比がキレイだ。
サボテンの小鉢には、普通の土の上に飾り用の赤い土が盛られていた。多分、買った時からついていたんだろう。このサボテンにはまだ花は咲かないから、これも色の対比がキレイかも知れない。
そして、司馬。そう、司馬を構成するのもまた色彩のコントラストだ。
白い肌と青い髪、いつもそれを眺める度に眼を細めてしまう。
首筋にハッキリと残された赤い痕まで……司馬の色彩のひとつだ。
美しい、のだと……思う。
ただ、司馬の美しさというのは、人の顔立ちや造作の美しさというものとはかけ離れ、容姿やバランスや調和といったものの域ではなく、もっと言えば生物的なものすら越えて、まるで人が壮大で雄大な自然を前にして言葉を失うかの如く、純粋で色彩的なもの。
山紫水明を前にして感嘆するそれに似ている。
綺麗……そう、司馬は綺麗だ。
まぁ、全ては。しゃべらなければ、の話なのだが。
「ん〜……」
小さな声と共に、むくりと俯いた顔を起こす。
こたつの中に突っ込まれていた右腕が持ちあがって、片目を擦った。
「起きたか?」
「うん……」
まだとろんとした眼で、ぼけーっと差し向い……つまりはオレの顔を眺めている。
まだ覚醒しきっていない顔で立ち上がると、台所から皿を取ってきた。ごろごろとしたたまご。今朝のサラダに入れて余ったゆでたまごだ。
司馬はこたつの真ん中に皿を置いてからひとつ取ると、こたつの縁に叩きつけてヒビを入れる。ヒビの入ったたまごを両手で持って、親指で強く押して亀裂を広げ、たまごの外周を一周させてから……。
パキ。
「上手いな……」
器用にカラだけまっぷたつに割って剥き、つるんとした白身を覗かせる。何だか司馬の肌を思い出した。
「アレ? 犬飼はこうやって割らない?」
ふぅん、と呟いて塩を取ると、パラパラとふりかけてから齧りつく。
司馬はゆでたまごを茹でる時間感覚がいまだに備わっていなくて、黄身の状態は日によってまちまちなのだが、まぁ今日のは一応成功の部類に入れていいだろう。オレ自身は半熟の方が好きなのだが、それを司馬に言ったら「オレも半熟の方が好き」と言われたので、つまりは自分では作れないってことなんだろう。
「あ、ねぇ、犬飼」
「何だよ」
「たまご、立てれる?」
「は?」
「縦に」
「コロンブスがやったみたいにか?」
「ううん、割ったりヒビ入れたりせずに」
「ムリだろ」
「そんなことないよ」
司馬は手を伸ばして、皿からもうひとつたまごを取る。少し広がった方を下にして、微かに曲線を描きつつ尖った先端を掴み、こたつの上に立てる。
う〜んとか呟いて(念じているのだろうか?)数分間、じっとたまごを固定してから……。
「ホラ」
「うわ」
司馬が手を放しても、たまごは倒れなかった。
「ね?」
司馬が勝ち誇ったように笑いながら僅かに首を傾げ、たまごを手に取る。
「どうやったんだ?」
「チョーノーリョク」
「じゃあオレにもできるな」
「……どーいうリクツ?」
オレも手を伸ばして皿からゆでたまごを取ると、司馬がやったように数分間立ててみた。
しかし、オレが手を放した瞬間、たまごはころんと孤を描いて転がる。
「ね、犬飼にはムリでしょ?」
「どういうタネがあるんだ?」
「何も無いよ? こっちも普通のたまごだもん」
「ちょっと貸せ」
見比べる。別段変わったところは無いが……何か、違和感を覚える。
ふと、ふたつのたまごをこたつの上に横にして、同時に回してみた。
オレのたまごはくるくると回るのに、ごろんごろんとゆっくり回る司馬のたまご。
「……お前、コレ、生だろ?」
「バレたか……」
まぁ、確かにタネも仕掛けも無い。ただ、司馬はゆでたまごの皿にひとつだけ生たまごを紛れ込ませ、オレにそれをゆでたまごだと信じさせただけ。
「生たまごって、立つのか?」
「水平なところにずっと立てとくと、下の方に少しずつ黄身が移動していって重心が安定するの。
それで、ずっと冷蔵庫で立ててたから」
「へぇ……」
まぁ、理由がわかれば単純なものだ。
この世の何処にも、タネと仕掛けのある手品など無い。ただ、原因があって理由があって、それによって導き出される結果があるだけ。
「あのマリモに入ってる青い水って、何だ?」
「え? さぁ、油じゃないだろうし……シリコン?」
「あぁ、それで水と分離してるのか……」
ホラ、これも。
正体がわかれば、何てこと無いのだ。
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