
「そんなことを聞くのはもうたくさんだ。
あなたたちは皆、慰める振りをして苦しめる。」
――――――旧約聖書ヨブ記16-2より―――――
「人々は恐怖にかられて、
山々、林、園、樹木、霊樹など
多くのものにたよろうとする。」
――――――ブッダの真理の言葉14章より――――――
世に民間療法は星の数ほどある。
一口に民間療法と言っても、本当に健康に役立つものから悪徳業者まで幅が広く、まとめる事は難しいが、私の経験から得た民間療法の選ぶ時の注意点を書いてみたい。
健康な人には分かり切った事でも、病気という弱みを持っている時には、悩んでしまうのである。民間療法については、私も本当に色々悩まされた。これは、注意というより、今、悩んでいる人への励ましである。
民間療法に頼る事を、「藁にもすがるような気持ちで………。」とよく言う。確かにそういう物も多い。
しかし、民間療法がいつも通常医療に劣っているとも言えない。民間療法が藁なら、私にとってステロイドは泥船だったのだから。
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〈1〉良くなった人も悪くなった人もいる |
私はわりとなんでも信じる方だ。健康食品から○○療法、果ては宗教まで、それで良くなったと言う人に何人もあった。それはそれで、本当の事だと思う。
しかし、全然効果無かった、悪くなったと言う人にも、たくさん会った。宗教などだと、良くなった人の割合は千人に一人くらいではないだろうか。
他の普通の民間療法なら、良くなった人が2〜3割なら、悪くなった人、変化無かった人もそれぞれ2〜3割という感触である。
○○療法をやっている所にいけば、××療法の悪口が聞けるし、△△療法をやっている所に行けば○○療法で悪化したと言う人が来ている、という具合だ。循環構造になっているようだ。
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〈2〉悪化してきたら、やめる |
健康食品のセールスマンは、悪化してきたら、よく「それは瞑眩反応ですから、そのまま続けてください。」と言う。確かに、漢方で、そういう反応が時にあるそうが、実際は、単に証が合っていない、間違った処方である場合が多い、という事を漢方医も言っている。
その場合、いくら続けても症状は悪くなるばかりという悲惨な事になる。
実際、私の場合、「これは効くな。」という民間療法も幾つかあったが、いったん悪くなってからその後良くなる、というような回りくどい経過をとったものは一つもなかった。1ヶ月とか3ヶ月とか、時間が掛かる事はあるにしても、単純に、最初から良くなって来た。
漢方薬でも、瞑眩反応は経験しなかった。一週間くらいで良くなってきた。
だが、悪化しているのかどうかという判断も、難しい。やめてみたら、なんだか良くなり、初めて、それのせいで悪化していたのだと気づく事もある。
その最中には、なかなか分からない。その後の経過を何ヶ月もみて、それどころか、次の年の様子と比較して、やっと判断がついたりする。
また、アトピーの人の皮膚は敏感で個人差が大きい。多くの人に良い物でも、かぶれてしまう事が意外と多い。
ともかく、民間療法は、星の数ほどあるのである。それ一つに固執する義理はない。悪化してきたと感じたら、さっさと、他の方法に乗り替えよう。
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〈3〉人によって、効く物は違う |
たとえ、本当に効果のある健康食品や療法にしても、全ての人に、いつでも効く物はない。
漢方で陰陽と言う言葉があるが、その言葉で説明すると、陰に傾いている人が陽の物を摂れば、病気は良くなるだろうが、陽に傾いている人が、同じく陽の物を摂っても、悪化するだろう。
また、陰に傾いている人も、いつまでも
陽の物ばかり摂っていては、今度は逆に傾いてしまうということもある。
同じアトピーでも、人によって、状態によって、何が効果があるかは違う。
効果が無いからやめようとすると、「続けないから治らないのだ。」などと言って脅すセールスマンや、善意のおせっかいやきがいるが、無視した方が良い。
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〈4〉費用の高さと、効果の高さは比例しない |
お金持ちには、この注意は必要ない。高額な色々な療法を試すのは、なかなか楽しい事である。本当に効果がある場合もあるだろう。
私がやった中で極めつけは、1週間で37万円と言う気功療法だ。私にとって、37万円は大変な金額である。広告には夢のような言葉が連なっており、私は今度こそ魔法のように治るのだと大きな期待を持っていた。
が、全然、効果は無かった。この時は、落胆の余り1ヶ月寝込んでしまった。
1年で150万円もするという療法もある。お金があるなら別にやっても構わないだろう。
私も、その療法の素晴らしさを書いた本を読んだ時、気持ちがグラグラ揺れた。それをやれば100%治ると書いてあった。
病気の時は、弱気になってしまう。150万円出せば治るのだろうか、これをやらなければ治らないのだろうか、と悩んだ。結局、150万は無理だと、辛い気持ちでその療法は断念した。しかしその後、ちゃんと良くなった。「なーんだ。」である。
この療法を、もう2年近くやっているのに、一向に良くならない、という人と話をした事がある。
かなり、症状は酷く、ずっと家にこもりきりだという話だった。この療法を今後も続けるべきか、非常に迷っていた。
これ以上続けても無駄ではないか、という気持ちは強いのだが、今まで掛けた金額が半端ではないだけに、ここでそれに見切りを付ける決心も、簡単にはできないのである。もう少し続ければ治るのだろうか、今やめれば、今まで投資したお金は全て無駄になるのだろうかと。
そのおう悩が、私には手に取るように分かる。その後、どうしたろうか…………。
私が今まで数え切れないほどやってきた様々な療法の中で、最も効果が高かったもの、それは「睡眠」である。
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〈5〉素晴らしい効能に、いちいち驚かない |
私も、始めの頃は、「アトピーに良い」とか、「こんなに素晴らしい働きのあるミネラルが豊富に。」とか、「抗アレルギー作用のある○○という成分が!」とか言う広告を見ると、「そうか、それを飲むと治るのか!」と期待に胸膨らませ、健康食品でも薬草茶でも、さっそく買ってきて、せっせと飲んだものだ。
しかし、次から次にそういう物が出てくるので、いい加減、飽きてきた。実際、どれも大した効果はなかった。
だいたい、大根でも、人参でも、すべての食べ物はそれぞれ、素晴らしいミネラルなりなんなりの成分があり、立派な効能がある。しかし、いくら素晴らしい効能のある物でも、たくさん食べれば食べるほど良いというものではない。
一つ二つの成分がどうというより、大事なのは、食生活全体としてどうかではないだろうか。
何の栄養素でもそうだろうが、欠乏は確かに病気の原因になるが、過剰もまた、立派に病気の原因になる。
2500年前に、「中庸」に真実ありと喝破したお釈迦様はやっぱり偉大だ。
甲田光雄という人が、『マイナスの医学』という言葉を言っている。大変含蓄のある言葉だと思う。
私自身、「アトピーに良い」という物を色々食べても、これといって効果はなかったが、逆に不必要な物・有害な物を次に次に削っていった時の方が、良くなった。
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〈6〉宗教じゃないんだから、「信じる」必要はない |
なかなか効果が上がらなかったりして、疑問を口にすると、「そんなうに疑り深いから治らないんだ。」とかいうセールスマンがいる。金銭的に関係なくても、自分がそれで良くなったりして、それにハマっている人の場合もあるだろう。本人は、善意のつもりだけに、余計始末が悪いかもしれない。
果ては、「性格が悪いから病気になる。」とか、「アトピーの人はそういう性格の人が多い。」とか言い出す。
病気の時はこちらも弱気になるから、そう言われると「そうなんだろうか。心から信じてやれば効くんだろうか。」「疑り深い性格のせいで病気が治らないんだろうか。」とか思ってしまう。
そんな事はない。宗教ではないのだ。信じてなくても、効く物は、効く。治る時は、治る。
疑いの気持ちがあるから、効かない、等という物は、最初から効かないのだ。試す価値はない。
強気で行こう。
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〈7〉魔法の杖はどこにもない |
苦しんでいる時、人はその苦しみを無くしてくれる魔法のような方法が、どこかにあるはずだと、それを探し求めずにはいられない。
ステロイドに決別してから、私も魔法の杖を探し続けた。
素晴らしい広告に引かれては、それを試し、落胆を繰り返した。お金もずいぶん使った。
何年間もそうした事を続けた末に、魔法の杖はどこにもない、という事を悟った。
しかし、魔法の杖など無くても、ちゃんと病気は治るという事がわかった。
病気を治すのは、魔法の杖の一振りではなく、煉瓦を一個一個積み重ねていくような、地味な毎日の積み重ねだと思う。
「青い鳥は家の中にいた。」というようなものだった。
ステロイドも、登場した当時は、魔法の薬と言われたのである。
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〈8〉「何もしない」というのも、あり |
アトピーの人は、絶対○○をしなければならない、という物はない。Aという方法で治った人もいるし、Bという方法で治った人もいるし、Cという方法で治った人もいる。いろんな治り方がある。
ある健康食品で治ったなんて言うのは、良識的なお医者さんに言わせればマユツバもんだろうし、私もその確率はせいぜい2〜3割、それほど高くないと思う。しかも、本当にその健康食品のおかげかどうかは、わからない。でも、構わないと思う。
「♪♪いいじゃ〜ないの〜、幸せ〜ならば〜」である。
極端な話、「何もしないけど治った。」という人もいる。
全く、拍子抜けするが、私も何人かそういう人に会った。
「何もしない。」というのも、立派な一つの方法だ。
余計な事をして、悪化させるという事も往々にしてあるだけに、なおさらだ。
最近聞きに行った講演会で、ある医師は、自分のところの患者が、脱ステ後回復するのが早いのは、一切の民間療法を排除し、患者にやらせないよう指導しているからだと述べていた。
私の場合にとっての余計な事は、ステロイド治療だったと思う。そもそもは、取るに足らない湿疹だったのだから、ほっておけば治っていたのではないかとさえ思う。
その経験から、何でも真面目に取り組めばいいというものではない、という事を学んだ。
お気楽に行く方が、案外、良い結果をもたらすのかもしれない。
人生、先を予測する事は難しいが。
「薬はみな偏性(偏った性質)のあるものであるから、その病気に適応しなければ必ず毒になる。であるから一切の病気にむやみに薬を用いてはいけない。病気の災難より薬害の方が多い。薬を使用しないで、慎重に養生をすれば、薬の害がないばかりでなく、病気も早くよくなるであろう。」
「薬を飲まないでも自然に治る病気は多い。これを知らないで、むやみに薬を使い、その薬に当てられて病気をひどくし、食欲をなくして長く回復しないで死んでしまう事も少なくない。薬を使用することは慎重でなければならない。」
――――――貝原益軒『養生訓』伊藤友信訳・講談社・1982年・971円
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