医師との信頼関係は取り戻せるか

―――Dr.Rとの往復書簡―――

2001年6月作成
ある医師と交換したメールの内容を一部抜粋・編集して公開しています。
前段を略したままいきなり始まっているので、冒頭でややわかりにくいかもしれませんが、ご了承ください。

 

あやはとり

「患者はステロイドの事ばかり問題にする」という言葉は、R先生だけでなく他の医師の口からも聞いたことがあります。 ステロイドが良いか悪いかという話しかしない患者に、辟易する気持ちはわからないでもありません。

しかし、ステロイドが中心であるのは、医師側の治療もそうですね。そしてその中心的方法において、患者と医師の間でも、医師間でも、意見の違いがあり、患者を納得させるに足る理論が未だにないのが現状です。だからステロイドの話題が、いつまでも繰り返されるのではないでしょうか。

私のhpもステロイドの話題が占める割合が大きいです。最初は患者の私が何を書くべきか、ずいぶん迷いました。アトピー性皮膚炎全般の概説は書物もたくさん出ていますし、それは医師が書くべきものでしょう。 
一般の書物では読めないもの、私が書くべきことは何か考えました。あのhpを書いた時点で、私の中でステロイドに関する問題を重要視する思いは実は少なくなっていたのです。患者達の中でも年々ステロイドに対する関心は薄れていくだろうと思ってました。だからこそ、裁判資料を残そうとしてhpを作った面があります。 今後はステロイドの問題より、アトピーを治す他の諸々の具体的手段の情報の方が、求められていると思ってました。

過去にステロイド治療の失敗があったとしても、その失敗が知れ渡り、それ以降皆が気をつけるようになれば、ステロイドの問題は解消し、過去の話題となっていったでしょう。過去の失敗を踏まえて、改善した治療を医師達が行うようになれば、医師と患者の信頼関係も修復されて行ったはずです。 ところが、患者達のステロイド批判が強まった事に対して、医師たちの代表たる者の答えは、

・自分達に責任はない 
・不適切な治療は他科の医師がやった 
・患者が医師の言うとおり薬を塗らなかったからだ 
・ステロイドには悪い所はない

とあくまで、自分達の失敗を認めない。 さらに、

・ステロイドのリバウンドであっても、悪いのは全て脱ステや民間療法だ
 ・そもそもステロイド外用剤にリバウンドは存在しない 
・患者達がステロイドを嫌うようになったのはマスコミや民間療法が扇動したからだ 
・脱ステしたら、まともに社会生活も送れなくなるぞ、回復なんかしないぞ

という、脅迫まがいの嘘までつく。上記8点全て嘘ではありませんか? R先生はどう思いますか? 私がステロイドをやめたのは、20年ステロイド治療をしても治らない事にホトホト嫌気がさしたからであり、脱ステ後、一時社会生活に支障が出るほど悪化したとはいえ、その後回復し、今は何不自由ない社会生活を送っています。

嘘をついてまで責任逃れをするような相手を誰が信用するしょうか。 彼らは口では「患者と医師は信頼関係が大切だ」と言いますが、やっている事は、逆です。 患者の不信を増大させているのは、マスコミでも民間療法でもない。彼ら自身です。 ステロイド恐怖症・ステロイド忌避などという、患者をないがしろにする精神構造の人間でなければ思いつかないような命名をし、ステロイドを使いたくないと言う患者を精神病扱いするような事を、医学専門誌で堂々と発表しています。 またそれに対して他の医師から批判がないことにも失望します。

医師というものもまた、自分と違う立場(患者)の者への理解が難しいようです。普通の良心的な人間と思える医師でも、患者なら誰もが酷いと感じるような事に、鈍感である場合があります。

ステロイドの問題は、10年前には既に指摘されているのに、未だに同じ議論が繰り返されており、解決しません。医学的には既に古い問題になっているのに、純粋な医学以外の軋轢のために解決する事ができずにいるのではないでしょうか。故に、いまだに多くのアトピー関係のサイトで中心的に取上げられる事になるのだと思います。

私は、純粋に医学的に、ステロイドはどのような作用をするものなのか知りたいと思います。 しかし、皮膚科学会では、ステロイドに対する疑問に大して、純粋に医学的・薬理学的観点から答えず、民間療法がどうとか、痒いのが苦痛だというのが最大の訴えであるアトピー性皮膚炎という病気に対して、実は痒くないのに掻くからなる病気だという珍説までひねり出し、ステロイドの作用の問題から故意に論点を外すような事ばかりなされているように見えます。

 

Dr.R

アトピー性皮膚炎の治療に対する医師のスタンスも徐々に変わってきています。
乳幼児期には食物アレルギーも少なくないのですが、それでもあまり厳格な食事制限をする小児科医は減りつつあります。 
逆に皮膚科医も勉強して食事制限を考えたり、皮膚科医と小児科医の「溝」もかなり狭くなっているようです。 

ステロイドに関しても皮膚科医の中でアトピー性皮膚炎の治療には用いるべきではない、という意見もあります。多くの皮膚科医は「ガイドライン」とそのような意見の間で迷っているのではないでしょうか。
もちろんステロイド無しですべて済ませればそれに越したことはありませんが、短期間でそれなりの治療効果をあげようとすると現時点ではステロ イドがファーストチョイスになってしまいます。
言い訳かもしれませんが、クスリだけを 取り上げればそういうことになります。

それ以外にもアトピー性皮膚炎にまつわるいろい ろな問題があると思います。
生活環境の変化や精神的・身体的ストレスなどの影響も大き いと思いますが、そこまで突っ込んで話をする医師は比較的少ないのではないでしょうか 。
私も患者さんの病歴をとるのに当然家族関係のことも訊きますし、お姉さんがいると「 結婚しているのか」とか「美人か」とか尋ねたりします。すると中には「そんなことが関 係あるのか?」と聞き返す人や拒否反応を示す人までいろいろです。 

先日も2歳の男児がアトピー性皮膚炎の典型的な症状で受診しました。
よく病歴(家族構成)を訊いてみると、患児は3人きょうだいの真ん中で昨年、下に弟が生まれており、どうも母親がその弟の世話にかかりきりになっているよう でした。
ちょっとした精神的なストレスが皮疹の増悪の誘因になるというよくあるパター ンなのですが、同席した父親は半信半疑でした。
もっと強いクスリ(ステロイドのこと?) があれば痒みが止まる、という解釈のようで、私の説明もよく理解できないようでした。 
こういう例にはクスリを替えてみてもあまり効かないですね。
それを延々と説明するより も「ハイ、もっと強いステロイドどうぞ」という方に流れてしまいがちです。特に忙しい と。いけないことなんですが。 

****教授や####教授はステロイド推進派の先方のように見られていますが、学会内ではそ れほどでもないですよ。
以前「ステロイドバッシング」でマスコミに相当ステロイドをた たかれたので、今度は皮膚科医を代表してその反撃に出ようというお考えのようです。
今 の世の中、黙っていては負け(誤りを認めたことになります)ですから。広告塔という彼ら の立場もありますから、仕方ないと思っています。

それよりも事実を検証して一歩でも真 実に近づくことのほうがはるかに意味があると思います。 
私自身もステロイドの処方量(アトピー性皮膚炎についてですが)は減っています。ただ、
成人アトピーで明日も大事な取引先と交渉があるので何とかしてくれ、といわれればステロイドの内服も出します。要は使い方だと思いますが、皮膚科医に中には絶対に使わない、アトピー性皮膚炎以外でも使わない、という人もおられます。その先生に「じゃあ、先生はどんな治療をされるのですか」とお尋ねすると、強力ミノファーゲンC(強ミノC)とヒスタグロビン(血液製剤)というお返事でしたが、私としては「それはちょっと」と思いました。結局、ステロイドに代わるクスリというのは無いのですよね。やはり生活指導とか、ものの見方考え方を論じたりとか、患者さんどうしの交流とか、そういったケアが必要なのかなぁ、と思っております。


> 過去にステロイド治療の失敗があったとしても、その失敗が知れ渡り、それ以降皆が
> 気をつけるようになれば、ステロイドの問題は解説し、過去の話題となっていったで
> しょう。過去の失敗を踏まえて、改善した治療を医師達が行うようになれば、医師と
> 患者の信頼関係も修復されて行ったはずです。

医師一人一人の心の中にはこういった姿勢はあると信じています。

> ところが、患者達のステロイド批判が強まった事に対して、医師たちの代表たる者の
> 答えは、
> ・自分達に責任はない
> ・不適切な治療は他科の医師がやった
> ・患者が医師の言うとおり薬を塗らなかったからだ
> ・ステロイドには悪い所はない
> とあくまで、自分達の責任・失敗を認めない。さらに、
> ・ステロイドのリバウンドであっても、全て悪いのは脱ステや民間療法だ
> ・そもそもステロイド外用剤にリバウンドは存在しない
> ・患者達がステロイドを嫌うようになったのはマスコミや民間療法が扇動したからだ
> ・脱ステしたら、全員まともに社会生活も送れなくなるぞ、回復なんかしないぞ
> という、嘘までつく。上記8点全て嘘ではありませんか?R先生はどう思いますか
> ?

すべて「ウソ」かといわれると答えに窮しますが(^_^;。
【一般論としては】医者の世界ではある治療法で9割の患者がよくなれば、その治療は「大変優れた治療法」として評価されます。もっともその評価の方法が問題ですが。ステロイド外用剤の治験や実際に患者さんに使用してみて、90%の人がよくなれば立派な治療法です。逆いえば10%の人はよくならない(成人アトピー性皮膚炎になってしまう)ことについては問題は残りますが、これはすべての治療法が100%有効ではないという現実がありますので、目をつぶっていただく、ということになります。

上記のような考えで判断すればステロイド外用剤は立派な治療薬ということになってしまいます。残りの10%はステロイド以外の方法を考えねばならないことになります。こういうタイプはステロイドでOK、これはだめなケースという見極めがつくと医者も患者も助かるのですが、今のところ確実な見極め方法はありません(個人的には何となく予想できることもありますが)。


【個々のケースとしては】どんな病気の治療もほとんどはオーダーメードの治療のはずなので、アトピー性皮膚炎に一律にステロイド(それもvery stronクラス)を処方するのはおかしい。やはり患者さんとよく話をする、ということが原点だと思います。私の印象ではこの医師対患者の関係がうまくいくかどうかはほとんど初診で決まります。医師から見ても相性の悪い患者さんはいますし、患者さんから見ても当然合わない医者もいるでしょう。あやはとりさんがおっしゃる医療不信の捉え方とは違いますが、原点はこういうところにあるのではないでしょうか。

 皮膚科医の中でも現場で患者さんの向かう立場からすれば、何がベストな治療なのか、いろいろ迷うこともあります。その時点でベストと思われることをやるしかありません。ステロイドがベストだという時代にはそうしてきましたし、現在のようにステロイドにいろいろな問題があるということがわかってきた時代にはそれに対応したやり方を考えねばなりません。実は皮膚科学会のホームページがぼつぼつ立ち上がりますが、アトピー性皮膚炎に関する情報提供はさけて通れません。どのような内容になるのか、私も関心を持っています。

 

あやはとり

ところで、頂いたメールと私の返事を合わせてHPに公開させていただけないでしょうか。
 ステロイドを使わない医師や患者を脅迫するような言辞を弄してまで、ステロイドを 推進する医師とは違うこういう穏健な医師もいるという事を患者さんに紹介するのも、一般的な医師の信頼回復になるのではないかと考えました。

 

Dr.R

そちらのホームページに私とのメールのやりとりなどを掲載していただくのは支障ありま せん。

 皮膚科医の中にはステロイドを強要するものも少なくないと思いますが、治療の決定権は あくまでも患者にあるわけなので、私はそれはおかしいと思います。
ただ、それまでの皮 膚科医が受けてきた教育は湿疹皮膚炎にはまずステロイド外用剤というものがありますの で、どうしてもステロイドが頭から離れませんし、それ以外の治療法をしてくれ、といわ れても途方に暮れてしまうのが現状ではないでしょうか。
もちろんステロイドを使用して の治療に抵抗感がない人やうまくコントロールできる人(治療前には予測しづらいですが) それでかまわないわけです。

これは別に皮膚科医やアトピー性皮膚炎に関してのみ言える ことではなく、他科の様々な疾患についてもいえることだと思います。

 

あやはとり

>アトピー性皮膚炎の治療に対する医師のスタンスも徐々に変わってきています。
>多くの皮膚科医は「ガイドライン」とそのような意見の間で迷っているのではないでしょうか。

 この文章を読んで、私は少しは医師への信頼は回復しました。

医師は患者からの治療結果の報告をきちんと受け止め、現在はまだステロイドの作用は100%わかっているとは言えない事、特に長期使用における効果の可否は結論が出ていないことを、正直に患者に話すべきです。その上で、個々のケースにおいて、ステロイドを使った方が良いと現時点で医師が判断するのなら、私も批判しません。

しかし、患者の報告(ステロイド治療の結果悪化した、リバウンドが生じた)を否定し、副作用や効果について虚偽の説明をしてまでステロイドを勧める様では、批判はやまないでしょう。
失礼ながらR先生は、医者がつく嘘に少し甘すぎます。
これも患者と医師という立場の違いの、皮膚感覚の差なのでしょうか。 

>短期間でそれなりの治療効果をあげようとすると現時点ではステロイドがファーストチョイスになってしまいます。 

それは、現在では多くの患者もわかっている事でしょう。 
しかし、長期間でのより良い結果のためには、ステロイドはファーストチョイスがどうかは疑問がありますね。

>アトピー性皮膚炎にまつわるいろいろな問題があると思います。
>生活環境の変化や精神的・身体的ストレスなどの影響も大きいと思います 

それらの方が、本当は治療においてはステロイドより重視されるべきものと私も思います。先生がせっかくそれらに対応しようとしても、理解が浅い患者に日々接しているとがっかりなされるだろう事には、同情します。

 >****教授や####教授はステロイド推進派の先方のように見られていますが、学会内ではそれほどでもないですよ。 

そうでしょうか。論文を見ていてもこれは酷いと感じる箇所があります。また####教授は、顔に毎日ステロイドを13年塗り裁判を起こしたSさんの治療について、その治療は間違っていなかったという鑑定書を出しました。ステロイド批判を封じるために、そこまでやるかと感じました。 

>以前「ステロイドバッシング」でマスコミに相当ステロイドをたたかれたので、
>今度は皮膚科医を代表してその反撃に出ようというお考えのようです。

 いったい何に反撃するのでしょうか。そして何を擁護するのでしょうか。医師たるもの、治療や薬の研究以外に何を目標するというのでしょうか。私はその精神構造に首をかしげます。
彼らの民間療法の捉え方も歪んだおかしなものと私は思っています。 

>それよりも事実を検証して一歩でも真実に近づくことのほうがはるかに意味があると思います。 

私も、ステロイドに関して○○派等と名前をつけて争うような事は下らないと感じます。それよりステロイドそのものについて研究が進む事を願ってます。長期的にも実際に害より効果が上回るかどうかは、どこかで大規模に疫学調査でもしてくれないとわからないので、それは置いておくとして、理論的にはどうなのでしょうか。

ステロイドは、Th2優位をもたらす、IgE産生を増強させる、接触性過敏症を増強する、胸腺を萎縮させる、等のため、アトピー性皮膚炎を難治化させる可能性が指摘されています。
また、最近では皮膚科畑ではない安保徹氏から、ステロイドが組織に滞留し酸化コレステロールに変成してアトピー性皮膚炎悪化を招くという説も出されています。
http://www.osk.3web.ne.jp/~medinet/essay3.html
喘息などではステロイド抵抗例は少なくないと聞いていますが、ステロイドが効きにくい例、特に長期的な炎症において効きにくくなる理由も、現在の諸々のサイトカインなどの動きからでも想像できなくはないのではないでしょうか。
また、幼少期に使用したステロイドが、後年もアトピー発症に影響するのではないかという考えも出されています。免疫細胞の記憶を考えた時、これも無視できないような気がします。
外用剤は内服薬よりはるかに量が少ないから問題がない、という言い方がしばしばステロイド擁護派ではなされますが、免疫への影響を考える時、少なければ大丈夫などと言うのはあまりにも素人くさい言い方ではないでしょうか。先生は、これらについて如何お考えでしょうか。

 >皮膚科医に中には絶対に使わない
>アトピー性皮膚炎以外でも使わない、という人もおられます。その先生に「じゃあ、先
>生はどんな治療をされるのですか」とお尋ねすると、強力ミノファーゲンC(強ミノC)とヒ
>スタグロビン(血液製剤)というお返事でしたが、私としては「それはちょっと」と思い
>ました。結局、ステロイドに代わるクスリというのは無いのですよね。

そうですね。ステロイドに劣らぬ効果があるとは言えないでしょうね。

>やはり生活指導と
>か、ものの見方考え方を論じたりとか、患者さんどうしの交流とか、そういったケアが必
>要なのかなぁ、と思っております。

それもいいのですが、私は漢方と食生活ではっきりと良くなった経験があるので、そのような漠然とした精神的対応より、もう少し具体的にアトピー治療はできるものと考えています。
私の考えも百家争鳴の中の一つなのでしょうが。


>【一般論としては】医者の世界
>ではある治療法で9割の患者がよくなれば、その治療は「大変優れた治療法」として評>>価されます。

それは私もわかります。正しく事実どおり、9割の患者には良く、1割の患者には良くないと説明されるなら、問題ないと思います。また3ヶ月の観察では良いが、5年後評価すればどうなるかはわかりませんというなら間違っていないと思います。それでも立派な薬(^^)と思います。
10割良い、ステロイドが効かない患者は存在しないとまで言ったりする医者がいるから、おかしくなるのです。

>医師から見て
>も相性の悪い患者さんはいますし、患者さんから見ても当然合わない医者もいるでしょう。

日々の診察室では、そういう問題の方が実感されるのかもしれませんね。
私の場合は、どうしても一般論になります。

>実は皮膚科学会のホームページがぼつぼつ立ち上がりますが、

私はあまり見たくない気分です。
また医師への失望が増す内容でないことを祈るばかりです。


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