川崎ステロイド裁判・目次
 【1】ステロイド裁判
 【2】原告Sさんの経過

〈1〉O病院 〈2〉Sクリニック 〈3〉F皮膚科 〈4〉K大学病院
〈5〉A皮膚科 〈6〉リバウンド 〈7〉裁判 〈8〉その後

 【3】裁判って、大変だ
 【4】「これは、やらなくてはいけない事だから」
 
【5】裁判で医師は何を語ったか

〈1〉副作用はなかったのか? そのステロイドの使い方は間違ってなかったか?
〈2〉Sクリニックの尋問――――――10年でも使う
〈3〉F皮膚科の尋問――――――――ステロイド10年、だが「副作用はなかった
〈4〉K大学病院のE医師の陳述―――アトピーの時は、ステロイド酒さは起きない?
〈5〉A皮膚科の尋問――――――――「当時」はそれが正しい治療法だった

 【6】Sさんとお話して
 【7】その後の裁判進行状態

「町では、死にゆく人々が呻き、
刺し貫かれた人々があえいでいるが、
神はその惨状に心を留めてくださらない。」
―――――旧約聖書ヨブ記24-12より―――――

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【1】ステロイド裁判

ステロイド外用剤が広く使われるようになったのは1960年頃の事だそうだ。ちょうどSさんや私が生まれた頃だ。

日本で初めてステロイド外用剤による被害で、江崎ひろこさんが裁判を起こしたのが1983年。この裁判もきっかけの一つになっているのだろう。5年後この裁判の判決が出た頃から、アトピー性皮膚炎患者のステロイド被害が、マスコミでも取り上げられるようになった。

ステロイドによって、大きな苦しみ・怒りを味わい裁判を起こしたいまでと思った患者は、江崎さん一人ではないはずだ。しかし、裁判ともなると、多くの時間と費用と知識が要求される。素人はどうすればいいのか、見当もつかない。中でも医療裁判は、患者にとって始めから不利と言われ、一般の裁判に比べて勝訴の確率は低い。ほとんどの人は、はなから無理だとあきらめるだろう。私もそのうちの一人である。

アトピー患者のステロイド被害者による集団訴訟を起こそうと考えた人もいたそうだが、やはり、裁判というものの難しさに、断念したそうである。

しかし、実際に裁判を起こした人も何人かはいる。正確な人数は分からない。

この情報化時代に意外な事だが、裁判所に問い合わせても、弁護士に聞いても、「ステロイドに関する裁判」を検索する方法はないのだそうだ。既に判決が出た裁判は、国会図書館に記録があるので、端から全部調べれば、調べる事はできるが簡単な事ではない。それに、現在、係争中のものは調べようがないのだそうだ。

(この件についてご存知の方、裁判をしているという方がいらっしいましたら、どうぞご連絡ください。(byd01645@niftyserve.or.jp

2年前、アトピー・ステロイド情報センターという患者団体を通して、私はたまたま川崎市でステロイド裁判を起こしているSさんと知り合った。裁判に興味があった私は、それ以来、公判があるたびに傍聴に行っている。

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【2】原告Sさんの経過

―――13年間1日も欠かさず顔にステロイドを塗った

 

Sさんは5つの病院に行った。現在訴えているのは、そのうちの3つである。1つ目の病院は、もう昔の事なのでカルテが残ってないという事で、4つ目の大学病院は、通院期間が短いという事で、訴訟から外したそうだ。Sさんの陳述書等を参考にしながら、通院した病院の順に経過を追ってみよう。

 

〈1〉O病院

幼児期より、夏に、手足の関節の内側に軽い湿疹ができることがあり、時々薬をもらっていた。医師に「大人になれば治る。」と言われた記憶がある。
16歳の頃から、継続的に薬をもらいに通院するようになり、少しカサカサする程度だった顔にも薬を塗り始めた。この時から、13年間、1日も欠かさず、顔にステロイドを塗り続けたのである。

普通のクリームは合わなかったので(今から思えば香料のせいだったか)、診察もせず病院がどんどんくれる塗り薬に副作用があるなどとは思いもせず、とてもよいクリームという感じで使っていた。

18、9歳の頃、医師のいない所で看護婦に「こんな薬いつまでも使っていると、毛細血管が切れて大変な事になっちゃうから、いつまでも使ってちゃだめよ。」と言われたが、当時は副作用に関する知識が無くその意味が分かず、気に留めなかった。

21歳の時、20分程外出して日に当たったら、顔が非常に痒くなり、掻くと顔中、虫に刺されたようにボコボコになった。この時から、顔が目立って悪くなりだした。その後、皮がボロボロに剥けたり、ジクジクしたり、赤くなったりして、毎日、一日何回も薬を塗っても、一向に良くならなかった。

23歳の時、たまたま診察した別の医師が、独り言のように「副作用じゃねえか?」と言ったが、何の事か分からなかった。
その後、「これから毎週注射を打つ。」と言われたが、注射という事になんとなく不安を感じ、その病院をやめた。

この病院で最後の頃、顔に使っていたのは、medium(W群)のステロイドだった。

 

〈2〉Sクリニック

23歳から3年間通院。
ダイアコート(T群・strongest)、マイザー(U群・very strong)、ケナコルトAG(抗生剤入りステロイド)等使用。Sさんの記憶では、ダイアコートもマイザーも顔に使用しているが、裁判では医師は、それを否定。

薬は何本欲しいかSさんに聞き、それによって薬が出す事が多かった。
「1ヶ所でも出てると、他にも出やすくなるので、朝昼晩、せっせと塗りなさい。」と言った。(準備書面では、医師は、1日2回までしか塗らないよう言った、と主張していたが、公判では、Sさん側の質問に口を滑らせ、3回塗るよう言っていた事までは認めた。)

顔の皮が酷く剥けるような症状は、やや収まった。が、元々は色白だった肌が、黒くなった。昔に比べて、太陽光や、冷暖房の温度差等に肌が非常に敏感になり、刺激を感じるようになった。

副作用や依存について、まだ知識はなかったが、サンケイ新聞の記事を読んだのがきっかけで、薬をいつまでも使っていてはいけないと考え、やや状態も良いため、薬をやめてみた。薬を止めると、ガサガサになり皮が剥けて、見た目も非常に汚くなって行った。

〈3〉F皮膚科

26歳から8ヶ月間通院。
サンケイ新聞にステロイドの副作用について書いているのを見て、そこに行けば薬を塗らずに治療してくれるかもしれないと思い、行き始めたが、やはり塗り薬をだされた。
キンダベート(W群・medium、おそらく顔に)、デルモベート(T群・strongest、おそらく身体に)等使用。
ステロイド内服(プレドニゾロン)を90日間しているが、本人は後にカルテ保全して初めて知った。

薬を塗り続けても、常に顔はただれ、酷い状態が続いた。
ある朝、思わず悲鳴を上げてしまうような状態になっていた。顔全体から汁が出て、火傷して真っ赤になった上に、蜂蜜を塗りたくったような状態だった。これでは会社に行けない、大きな病院で見てもらおうと思った。

 

〈4〉K大学病院

26歳から、1ヶ月半通院。
初診時に、アトピー性皮膚炎・ステロイド酒さ・伝染性膿痂疹・毛嚢炎の診断。しかしSさんは、カルテ保全して、その様な診断をされていた事を、初めて知った。
顔にリドメックス(V群・strong)やオリーブオイル、身体にリンデロンDP(U群・very strong)等使用。
本人にも説明の上、セレスタミン(ステロイドと抗ヒスタミンの合剤)内服。
ここで初めてのアレルゲン検査。
RAST・ヤケヒョウダニ3+等。IgE3800。LDH値・504。

眼がぼやける事があったが、アトピーとの関連を知らなかった。

通いやすいよう近所の病院を紹介される。

 

〈5〉A皮膚科

27歳から、1年8ヶ月通院。
顔にベトゾン(V群・strong)3ヶ月、その後アルメタ(W群・medium)等使用。
医師は、「これは副作用の少ない薬だから大丈夫。」と言っていた。
医師に勧められ、眼科受診。白内障になっている事がわかる。

顔は、赤黒く、油分のまったく無いバリバリの肌になっており、一日何回も薬を塗っていた。

1年8ヶ月後、医師に「あなたのも薬の副作用のような気がしてきたので、2、3ヶ月薬を抜いてみましょう。」と言われ、ステロイドを塗るのをやめる。
(後の裁判では、この医師は、副作用もリバウンドも無かった、アトピーの悪化である、それも医師の言うとおり治療を続けなかったからだ、と主張している。)

ステロイド内服薬を出されるが、副作用がある事が分かっているのに、短期間おさえられても、やめたら悪くなるのなら意味が無いと考えたので、1、2回飲んだだけで、後は飲まなかった。
それから、この病院には行ってない。

 

〈6〉リバウンド

ステロイドをやめた1ヶ月後には、症状はピークとなり、道を歩くと何人もの人が驚いたように見た。真っ赤に腫れ上がり、眉毛が抜け、二重まぶたが無くなり、皮が100枚以上張り付き、顔一面パン粉をバラまいたように皮が剥け出した。とても人間の顔とは思えなかった。
よく映画に出てくる化け物の特殊メークなど、ステロイドのリバウンドに比べれば、子供だましのように思えた。

8ヶ月間は、ほとんど家から出る事もできなかった。
会社も、退職した。
徐々に視力の低下していた左眼は、完全に見えなくなった。
家に閉じこもっていた間、副作用についての正確な情報も分からず、一生治らないのではないかと、毎日泣き暮らし、気が狂いそうだった。

何よりも、「短期間しか使ってはいけないという薬」を何百本も塗ってしまった事、真っ赤に腫れ上がった顔に必死にステロイドを塗っていた自分を思い出し、本当に身体がブルブル震えるほどの恐怖を感じた。

 

〈7〉裁判

29歳。裁判を起こす。
以来7年、係争中。ようやく今年中には判決が出そうである。
Sさんの訴えているのは、「ステロイドの使い方が間違っていた。」という事である。

 

〈8〉その後

その後、徐々に良くなり、以前の事を思うと夢のように良くなった。ステロイドをやめて1年後には、太陽光や暖房で刺激を感じる事も無くなった。爪を立てて掻いても、ただれる事が無く、肌が丈夫になった。
身体も、以前は、まるで血管の中に痒みの元の虫でも入っていて、血の流れと共に体の中から出るような酷い痒みがあったが、ステロイドをやめたためか、子供の頃のように単に身体の表面が痒いような、軽い痒みに変った。

しかし、現在も、本来の色白には戻らず、顔は赤っぽく、しわや毛穴が目立ち、皮も以前に比べれば少しだが毎日剥がれる。夜、せっけんとお湯で、何度も顔を洗い、その日剥がれてきた分の皮を落としておかないと、翌日皮が張って困ってしまう。これは江崎ひろこさんが書いている症状と同じである。
普通のアトピーでそんな事をしたら、悪化してしまう事からも、これはステロイド副作用の症状だと、Sさんは考えている。

これまでの経過から、Sさんは、顔にステロイドを塗り出して数年後以降の悪化、やめてからの激しい悪化は、アトピーではなく、ステロイドによるものと確信している。

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【3】裁判って、大変だ

〈1〉お金

裁判となると、まず心配なのは、お金が掛かるという事だろう。
Sさんは、弁護士費用・裁判費用・証拠保全費用・雑費などすべて含めて、総額でおよそ120万円かかっているそうだ。
思ったより安いと思われるかもしれない。裁判費用は、請求金額に左右されるので、裁判費用を安くするため、請求金額を低めにしているという事もある。

また、弁護士は、二人だ。医療過誤弁護団に電話相談して、紹介してもらったそうだが、非常に良心的というか、安い費用で引き受けてくださっているそうだ。安いから言うわけではないが、お二人とも、非常に誠実そうな方である。

 

〈2〉お勉強

私も傍聴に行って少し驚いたが、Sさん自身、弁護士と同じように、被告を尋問したりする。弁護士任せにしておいてもいいのだが、Sさんは、どうしても聞きたい事があるので、自分自身でも尋問するのだそうだ。又、Sさん自身、大学図書館や厚生省に行って、皮膚科医師向けの専門誌を読んだり、文献探しをするのである。真剣に裁判をするというのは、やはり楽ではない。

しかし、考えてみれば当然かもしれない。病状の詳細な経過や、診察室で医師が話した事、裁判で述べられる被告の嘘はSさんにしか暴けないのである。
また、弁護士がいくら誠実でも、本人以上に真剣に考える事はできない。自分の身で、苦しみ・怒りを感じた人間以上に、真剣になる事はできなくて当たり前だ。本人が必死になってやらなければ、勝つ事はできないのではないだろうか。

これは、医師の場合でも同じだと思う。医師にしても弁護士にしても、たくさんの患者あるいはクライアントを抱えているのである。どんなに誠実な医師あるいは弁護士でも、本人以上に真剣にその人の事を考える事は不可能ではないだろうか。自分の身体で痛み・苦しみ・怒りを感じるわけではない。だから、本人が、誰よりも真剣に勉強し、自分の頭で考え、必死でやるしかない。自分の人生が掛かっているのだ。

これは、医師や弁護士への非難ではない。私だって、自分の一つの人生を考えるだけで精一杯だ。人の痛みは、本当には分からない。医師や弁護士だって、他人の人生を、自分のと同等に真剣に考える事ができなくても当然だと思う。
 

〈3〉さらなる怒り

今まで書いたように、裁判はお金も手間も時間も掛かる。
しかし、裁判が大変なのはそれだけではない。
裁判ともなると、医者(とその弁護士)も必死である。カルテも改ざんする。嘘もつく。患者を攻撃する。その事によって、さらに患者は苦しみ、新たな怒りをかき立てられる。実際、裁判で、医師が嘘をつくのを聞いていて、怒りのあまりSさんの身体が震えるという場面もあった。

病気によって、既に肉体的・精神的に苦しみ、弱っているのに、裁判によって、これ以上苦しみが積み重ねられるのには堪えられない、と裁判を断念する人も多いだろう。病気だって、悪化しかねない。 

それでもなお、裁判を起こしたSさんの勇気には敬意を表さずにはいられない。その一線を超え行動を起こさせたものは何だったろう。
激しい怒りだろうか。深い絶望感だろうか。これは許せない、皆にも知って欲しい、という正義感のようなものだったろうか。 

 


【4】「これは、やらなくてはいけない事だから。」

 

医療訴訟など、患者の勝訴する確率は低い。しかも、このSさんの裁判の場合勝っても弁護士さんはそんなに儲かるわけでもない。よく引き受けてくれたものだと思う。そんな意味の事を言った時、弁護士の方は、
「これは、やらなくてはいけない事だから。」とおっしゃったそうだ。
アトピーとステロイドの問題について、Sさんが相談する前から、ある程度ご存知だったようで、ステロイド裁判の意義について認識がおありだったようだ。

この言葉を聞いた時、私は、本来の弁護士らしい、正義感を感じた。今の世の中、「これはおかしい。」と思っても、大きな力の前に、あきらめるしかない事が多い。
しかし、たとえ勝つ見込みが小さくても、「それでもやらねばならぬ」と頑張っている人は、少ないながらいるのだ、と勇気づけられた。
医療過誤弁護団という、いわば弱者の味方をしているだけあって、やはりその心の底に、秘めるものがあるのだろう。

Sさんも、裁判は難しい、勝てるかどうか分からない、と言っている。しかし、たとえ勝てなくても、裁判をする事によって、医者が何をしたのか、医者が何を考えているのか、公の場で記録に残し、世間の人たちに知ってもらいたい、と言う。

この記録に残すという事に大きな意義があると、私も考えている。
私自身、自分の受けてきたステロイド治療は間違っていた、と強く思う。同じ思いの患者は数多くいるだろう。しかし、いくら数が多くても、どこにも記録されなければ、時が過ぎれば、無かった事になってしまう。
医者が、わざわざ自分の失敗を論文に書いて発表するわけも無い。そんな中で、一人でも二人でも、裁判を起こした人がいれば、それが記録に残る。それは、裁判を起こすまでに至らなかった大勢のアトピー患者の代表なのだ。

私も「Sさんと弁護士さん頑張れ。」と、胸でつぶやかずにはいられない。いや、本当は声を大にして支援を叫びたいが、支援と言っても、何をどうすれば支援できるかわからない。せめて、この裁判を記録に残す事に、ささやかながら協力するくらいである。

 


【5】裁判で医師は何を語ったか 

 

〈1〉副作用はなかったのか? そのステロイドの使い方は間違っていなかったのか?

 

私が、この裁判を知ったのは、途中からである。従って、傍聴できたのも一部である。傍聴したのは、2番目と、3番目と、5番目の病院の医師の公判である。傍聴していないものについては、Sさんの話や記録を参考にした。

要は、医師側は、副作用はなかった、アトピーの治療で何年もステロイドを塗り続けたのは間違っていない、と言うのである。
「13年間、顔にステロイドを塗って、副作用を起こさない人がいたら、よほどの特異体質だ。」とSさんは怒り心頭だ。
だが、真正面から「13年間、顔にステロイドを塗り続けるのは正しい。」と言い切る医師もいなかった。言を左右にして、「患者の症状によるので。」等と、明言を避けるという印象だった。

なお、公判の順番と、実際通院した病院の順番は違っている。通院した順に、以下に書き記した。

 

〈2〉2番目に3年間通院したSクリニックのS医師の尋問

  ―――「10年でも使う」―――

 1997年12月11日・1998年2月26日 公判

 

S医師のところに初めて行った時、Sさんは既に、顔に7年間ステロイド外用剤を塗っており、皮がぼろぼろ剥がれたり、じくじくして、薬を塗っても良くならず、かなり悪い状態だった。日焼けしたようにほてって真っ赤になっていた時もあったそうだ。

前の病院で、別の医師が「副作用じゃねえか?」と一言つぶやいた事があったそうだが、つぶやいただけで、Sさんにはきちんとした説明はなく、その頃のSさんも知識がなく、なんのことか分からなかったそうだ。

 今回のS医師のカルテにも副作用の記載はない。丘疹と発赤の記載はあるが、S医師は「アトピーの丘疹と発赤は、ステロイドのそれと違う。副作用の場合は毛細血管拡張を伴う。」「アトピーの(副作用としての)酒さ様皮膚炎は、(自分は)一度も経験したことがない。」と述べた。

外来処置でほとんど毎回、ベリーストロングとストロンゲストのステロイドが使われてといることがカルテにも残っており、Sさんは通院時はいつも顔と腕に塗られていた事を覚えている。しかしS医師は「ランクから見て顔には塗ってない。」と言う。

つまり、顔に強いランクの物を塗ってはいけないと、一応、今は考えているようだ。

顔の症状も悪かったのに、なぜ身体には塗って、顔に塗らなかったのか聞かれて、「(患者が)嫌がることがあるから。」と答えた。Sさんに言わせれば、訳の分からないこじつけだ。

 また、外来でベリーストロングのステロイドを処置し、本人に渡す処方でそれより強いストロンゲストのステロイドを出している、ということがしばしばあった。普通は外来処置よりも本人に渡すのは弱いものを出すものであるのに、何故より強いものを出しているのか聞かれると、
「外来時より、良くなったり悪くなったりする事を予想して出す。」
「現に悪くなることが多いから、外来時より強いものを処方する事もある。」
と答えた。

 あるいは、カルテによると痒みが少なくなっているのに、ストロンゲストが出し続けられている時がある。その理由を問われると「落ちついているといっても、治っているのではなく、発赤が強くていつでも元に戻るから。」と答えた。
 ベリーステロングのステロイドは長期使用すべきではないのでは?と問われると、
「アトピーが治まらなければやもえない。」と答えた。では、治まらなければ10年でも使うのか問われると、
「使う。」
と答えた。20年でも使うのか問われると、
「仮定だから申し上げられない。」
と答えた。

 また、毛のう炎の所見で、ケナコルトAG(抗生剤入りステロイド)が何度も出されているが、初診時もそうであるが、毛のう炎の所見がない時も出されているのは何故か問われて、「顔は感染を繰り返しやすいから。」と答えた。
ステロイドも抗生剤も、予防では出しては行けない薬ではないか?良くなったらすぐ弱くするなり、やめるなりしなければならない薬ではないか?というのが、Sさんの疑問だ。

 

〈3〉3番目に約8ヶ月通院したF皮膚科の尋問

―――ステロイド10年使用、だが「副作用はなかった」―――

 1997年9月18日公判

 

16歳頃、カサカサする程度だった顔にステロイドを塗り始め、10年経過、F医師の所に行き始め時には、顔はかなり悪化し真っ赤でガサガサ、ボロボロ皮がむけるようになっていたそうだ。

Sさんは、サンケイ新聞にF医師がステロイドの副作用について書いている記事を見て、そこに行ったのだそうだ。
しかし、F医師は、既に10年間ステロイドを使用していたSさんに、さらに顔と体にステロイド外用剤、また、F医師のもとに来てから1ヶ月の後には、ステロイド内服薬を出している。(処方日数としてはプレドニゾロン1日4錠10日、1日2錠80日。)
Sさん本人には、薬の説明は何もなかったそうだ。

先に書いたように、F医師は新聞にステロイドの副作用について書いているくらいだし、「自分のところに来るまでの通院歴も問診した、内服もその方が離脱しやすいということを考えての事だ」とも、述べていることから、ステロイドの問題点を当時(1988年)認識していなかったと言うつもりはないようだ。しかしSさんには、ただただ外用、内服両方のステロイドの上塗りを続けた。

それで、副作用には気がつかなかったのか問われると、
「全くありませんでした。」
断言していた。次に行った病院では初回にステロイド酒さとカルテに書かれているのに。
また、90日間内服させて、副作用を心配はしなかったか聞かれて、
「全然心配してません。」
と言い切っていた。

 ステロイドの副作用は、見る人が見れば分かるものだが、リトマス紙のような判別する道具があるわけでなく、証拠物件が残らないから、とタカを括っているのだろうか。「副作用はなかった」で、押し通すつもりのようだ。
「顔に10年連用しても副作用は出ないこともある。(だから使っても良い)」とも言っていた。

ステロイドをそれまで使っていて良くならないのなら、さらにステロイドを続けるのではなく、アレルギーの原因調査など考えなかったのか問われると、
「2歳以下の子供は別として、成人アトピーは本来遺伝的なもので、アレルギーの原因調査は意味がないから、考えない。」と答えた。

というわけで、このF医師は、患者が良くならない限り、外用にしろ、内服にしろ、5年でも10年でもステロイドを使い続けるらしい。長期連用を避けるべきとか、内服は2〜3週間以内には中止するよう心掛けるべきとか、書かれたアレルギー治療に関するガイドラインがあるのだが、「心掛ける」というのは禁止ではないのだから、医師の裁量で使っても良いと言うのだ。

医師の裁量権は絶大だ。
このようなガイドライン等、その病気の標準的治療法について、患者が確実に情報を入手できるような制度になって欲しい。
この例のように、医師がそれを無視していても、患者自身にその情報が届いていれば、助かる場合もあるはずだ。

このF医師に似たような医師にかかり、後に副作用やリバウンド、あるいは元のアトピー自体の悪化・難治化で、死んだほうがましという状態にまでなった人も多いだろう。
かく言う私もそうだ。しかし、裁判ともなると、なかなかできるものではない。せめて傍聴に行き、Sさん応援することで、同じ思いを持っているのはSさん一人ではないということを知らしめたい。

 

〈4〉参考人として出廷した 4番目に通院したK大学病院のE医師の陳述

―――アトピーの時は、ステロイド酒さは起きない??―――

 

E医師によると、Sさんはアトピー性皮膚炎が主体で、そこに軽いステロイド酒さ(ステロイドの副作用)が加わっていたと言う。
別の回の公判で、やはり参考人として出廷した同K大学のN名誉教授(皮膚科著書多数、皮膚科の権威と言って良いだろう)が、
「副作用が出始めたら、ステロイド外用剤を中止する。」
という事を述べている。

しかし、Sさんは、この病院でもずっとステロイドを塗り続けている。
E医師は、
「アトピーの症状が強い時に、強めのステロイド外用剤を塗ってもステロイド酒さは起きない。症状が良くなっても外用剤を続けて塗っていると、ステロイド酒さが起きやすい。」
と言っている。
次の医師への紹介状では、ステロイド酒さの記載はなく、ステロイド酒さは無くなったのだの言う。ステロイドを抜かなくても、ステロイド酒さが無くなってしまうという例があるんですか、と聞かれて、E医師は、
「それはよくあります。」
と答えた。

又、別のある医師の本に 、「ステロイドは強いのを短期間使っても、副作用は出ないが、弱いのでも同一部位に長期続けると、副作用が出る。」と書かれている。これに対する意見を聞かれてE医師は、「前半は正しいが、後半は間違っている。」と答えた。
ほー、そうなんですか……?

 

〈5〉5番目(最後)に1年8ヶ月間通院したA皮膚科の尋問

―――「当時」はそれが正しい治療だった―――

1997年2月13日・3月13日公判

 

この医師には、最後の1年8ヶ月間かかっていたが、すでにステロイドを長期使用しているSさんに、さらに顔用に、ベトゾン軟膏(ストロング)を3ヶ月、その後はアルメタ軟膏(マイルド)を処方し続けている。 尋問では、診察の度のそれらの処方が延々と読み上げられた。裁判を傍聴するのも、なかなか忍耐心がいる。

裁判では、この医師はSさんが既に10年以上顔にステロイドを塗っている事を知らなかった、と述べている。つまり、この医師は、皮膚を見てもそれが判別できないし、問診でそれを確認する事も無い、ということである。
もっともSさんは、長期連用していた事は、ちゃんと始めに話をしてある、と言っている。

 また、この医師は、Sさんを診察していた1988年から1990年当時は、アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド外用が主体であり、使用量も投与期間も、基準はなかった、と述べてた。ただ副腎皮質機能抑制の問題があるので、全身の場合は週50グラム以下にとどめるのが望ましいという一応の目安があっただけだと言う。(確たる基準が無いのは現在も同じだから、Sさんと同じ被害に遭う人はこれからも出るだろう。)

 つまり、当時正しいとされていたことをやったのであって、なんら過失はなかった、Sさんが悪化して苦しんだのは、ステロイドが引き起こした副作用のためではなく、アトピーが難治であり、全てSさんが悪いのだ、と、医師は言うのである。

 しかし、カルテに「ステロイドinduced」という記載がある。これは通常ステロイド副作用の事を指す。この点を原告側弁護士に指摘されたこの医師は、この記載は副作用の事ではなく、やめた後、悪化する事を書いたのだと言う。また診断書に「副作用」と書いたのは、患者が泣いていたので、気休めに書いたのだ、と述べていた。
 通院中のある時、「もうずっと長く薬を使っているのですが、大丈夫ですか。」と質問したとき、医師は「これは副作用の弱い薬だから大丈夫。」と答えたそうだ。

顔にステロイドを13年間塗ってきたことを、どう思っているのか、この医師に聞きたいと、Sさんは話していたが、この公判では医師は「長期使用していた事は知らなかった。」と答えた。さらに、では知っていたらどうしたか聞かれると、「仮定の質問には答えられません。」と結局逃げられた。


【6】Sさんとお話して

この間Sさんと話して、何故、裁判を起こしたのか聞いた。
一つは、「何故、自分がこのようになったのか知りたい。」という事。
一つは、「ステロイドの副作用を知らずに使っている人に、このような事がある事を知ってもらい、同じ被害に遭わない様に。」という事。
そして、もう一つは、「被告医師が罪を認めないという事は、当然、”顔にステロイドを長期連用すべきではない”という、現在の医学常識を否定する事になる。その常識外れな医師の証言を、記録に残す事。」と言う。

私の質問に答えるため、裁判の速記録をあらためて読んでいると、ムカムカしてくる、と言う。

Sさんの、味わった苦しみ、悔しさに報いる判決が出る事を祈っている。

ここまで1998年4月記す


【7】その後の裁判進行状態

その後、裁判は、被告側と書類交換が行われている。
裁判とは、他人も傍聴できる公判より、そうした書類のやり取りの比重が大きい。
上記の記録Sさんの協力で準備書面などの書類を読ませてもらったから書けた物で、公判だけ傍聴していても、裁判の全体像はさっぱり理解できない。

各被告の公判も一通り終わり、ようやく今年中には判決が出そうだと思ったのに、もう9月である。
被告側は鑑定を要求しているそうだが、7年も経っている皮膚を見て、ステロイドによるものか、アトピー性皮膚炎か鑑別できる医師などいるのだろうか。いや、当時の皮膚を見ても鑑別できないのではないか。だからこそ、Sさんのような事が起こったのではないか。
自分の仲間内の医師でも連れてきて都合の良い事を言わせるのが目的だろう、とある人は推測する。
判決が出れば、このページにもすぐ書くつもりだが、この調子ではどうなる事か。

1998年9月記す

 

この裁判へのご意見・感想・励まし等、Sさんへのお手紙は、私byd01645@nifty.ne.jp当てにメールを下さい。Sさんへ回送します。


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