プロトピック軟膏0.1%(タクロリムス水和物軟膏) 

医療法人社団アップル会 藤澤皮膚科 医学博士 藤澤重樹
(2000/01/14up) 

 

1.はじめに 

  臓器移植後の拒絶反応予防薬として用いられる移植免疫抑制薬のシクロスポリン、 タクロリムスは、すでに過剰な免疫応答により発症する自己免疫疾患やアレルギー疾 患にも幅広く応用されている。シクロスポリン(商品名、サンディミュン)は、炎症性角化症である乾癬に対する内服療法がすでに保険適応となり、治療に用いられ、高い有用性を示している。シクロスポリンの内服療法はアトビー性皮膚炎(以下AD)についても、わが国では治験段階であるが、欧州を中心に多くの国では既に認可されている。治療に抵抗性のアトピー性皮膚炎患者に長期間(22〜44ヶ月間)シクロスポリンを投与して、その後、中止して2年以上(13〜34ヶ月間)観察しても、ほとんど再発が認められなかったという報告もある。 

 シクロスポリン、タクロリムスともにT細胞の活性化を強力に抑制する薬理作用を有する。タクロリムスの分子量(822.05)はシクロスポリン(1202.63)に比べて小さいために経皮吸収が容易で、かつシクロスポリンの30分の1の濃度の外用剤で、同等の効果を示すことから、皮膚局所における濃度を高めかつ全身的副作用を回避する目的で1992年2月から、外用化が検討されてきた。それが世界に先駆けて、藤沢薬品工業によって開発されたのがプロトピック軟膏である。1993年7月からフェーズU、1996年6月かフェーズVに入り、1997年7月に厚生省に薬価収載への申請が出された。 そして、1999年6月に成人(16歳以上)ADへの0.1%の濃度のプロトピック軟膏が承認された。しかしその後、価格の決定に時間がかかり、薬価収載が延び延びとなって、 発売が待ち望まれていた。やっと、同年11月19日に、薬価収載され、11月24日になり、使用が可能となった。 

2.夕クロリムスとは 

  タクロリムスは、筑波山麓の土壌より分離された放線菌Streptomyces tsukubaenesisが産生するマクロライド骨格を有する化合物である。T細胞の活性化に 伴うIL-2,-3,-4,-5、インターフェロン(IFN)-γ、GM-CSF等のサイトカイン遺伝子の転写を阻害し、産生を阻害することにより免疫抑制作用を発揮する。タクロリムスは、その優れた免疫抑制効果により、すでに移植領域において臨床応用され、注射剤、カプセル剤(プログラフ)が肝・腎・骨髄移植後の拒絶反応の抑制、 GVHD(graft-versus-host disease)の治療に用いられている。   

3.タクロリムスの作用機序 

  マクロライド骨格を有する放線菌の代謝産物であるタクロリムス、真菌の培養濾液 中から分離される環状ペプチドであるシクロスポリンは全く異なる化学構造を有する にもかかわらず、移植免疫抑制薬としての免疫抑制効果は非常によく似ている。両薬剤はいずれもT細胞が抗原刺激とマクロファージからのIL-1刺激により活性化される 初期段階に作用して、強力な免疫抑制作用を発揮する。ステロイドは強力な免疫抑制、抗炎症効果を有しているものの、T細胞に特異的というわけではなく、その作用はほとんど全ての細胞におよび、副作用も多岐にわたるという点で異なる。タクロリムス、シクロスポリンにはT細胞の活性化の抑制の他に、皮膚の抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞の抗原提示の抑制や、IgE依存性におきる肥胖細胞、好塩基球か らのヒスタミン放出の抑制、好椴球の脱顆粒の抑制などの作用がある。   

4.プロトピック軟膏の成人ADへの効果、利点と注意点 

  プロトピック軟膏は炎症症状の強いAD、特に潮紅を伴う顔面、頚部の皮疹に良く効く。一方、慢性の湿疹のため、皮膚が硬くなっているようなところ(苔癬化局面)は薬剤の吸収の悪さが影響し、効果がやや劣る。 

 プロトピック軟膏の問題点としてまずあげられるのは、顔面や、頸部の潮紅の強い皮疹に使用した場合、ほてり感やヒリヒリ感など特有の刺激感が高率(60〜80%)に 認められることである。この刺激感は、一過性で、皮疹の軽快とともに通常2〜3日、 長くて1週間で消失する。しかし、「唐辛子を塗ったような痛くて耐えられないような」激しい刺激感で、使用が継続できない症例もときどき経験する。

   免疫抑制薬であるため、外用した患部の皮膚に感染症が生じやすくなる。開発治験 の対象となった、568例のADでは、1年間の長期外用試験でみられた皮膚感染症の主な ものは、毛嚢炎が最も多く(12.0%)、次いでカポジ水痘様発疹症(4.2%)、単純疱疹(3.3%)であった(表1)。そのうち高度のものは、カポジ水痘様発疹6例、伝染性膿痂疹1例の計7例であった。AD患者のカポジ水痘様発疹症罹患率は3〜5%と考えられており、臨床試験における発生率と差がないと考えられるが、AD患者ではカポジ水痘様発疹症が幾度も再発するので、注意して観察する必要がある。また長期観察試験において、7.4%の患者にざ瘡が認められているので、ニキビがある部位には使用を避けるべきである(表2)。 

  プロトピック軟膏は強い免疫抑制作用があるため、皮膚癌発生のリスクを考慮して、PUVA療法などの紫外線療法を実施中の患者への処方は禁忌となっている。プロトピック軟膏を使用した部位を日光に長時間さらさないようにと使用上の注意事項として明記されている。 

 プロトピック軟膏の臨床試験では重篤な全身性副作用は認められていない。移植領域においてタクロリムスを全身投与された患者で20ng/mlを超える高い血中濃度が持続した場合には、腎障害や高カリウム血症、高血糖、胸痛、振戦、感染症など全身性副作用の発現頻度が高くなる。プロトピック軟膏を安全に使用するためには、そのような血中濃度上昇に伴う全身性の副作用が生じないように注意する必要がある。長期観察試験では、重症例または皮疹の著明な増悪をきたした場合に、一過性ながら血中濃度が10ng/mlを超えた症例が認められている。この様な症例が数例あり、いずれも全身に広範囲に使用したため、1日の外用量が10g以上となっていた。このことから、血中濃度10ng/mを安全性確保の基準として、1日に2回、1回塗布量の上限を5gまでで、10g/日までに抑えるように使用上の注意事項として制限されている。 

 プロトピック軟膏をびらん・潰瘍面など、バリア機能が著しく損なわれた表皮剥離部位や掻破痕に使用すると、ヒリヒリ感の刺激性が高まるばかりでなく、薬剤の吸収が増すために血中濃度上昇による全身への影響を無視できなくなるので、これらの部位への塗布を避けることとされている。プロトピック軟膏の優れているところは、ステロイド外用剤に認められる副作用である皮膚萎縮、毛細血管拡張、依存性、外用中止後のリバウンドが少ないことである。アトピー性皮膚炎治療にシクロスポリンの内服療法を用いた際にも、依存性、中止後のリバウンド症状がほとんど認められず、 この点がステロイド剤と異なる優れたところである。プロトピック軟膏の利点と注意点を表3にまとめた。   

5.小児への使用 

  プロトピック軟膏は16歳末満の小児に対しては治験が行われていないため、まだ使用できない。というより、保険診療の適応となっていない。米国で行われている小児の治験では、0.03%の濃度でも良好な結果が示されている。わが国でも近い将来、16歳末満の小児に対するプロトピック軟膏外用の臨床試験が行われ、0.03%のプロトピック軟膏が小児で使用できるようになる予定である。   

 表1 プロトピック軟膏長期観察試験で みられた皮膚感染症(因果関係あり) 
文献6)より引用

解析対象例数

568

 

発現例数

118

(20.8%)

発現件数

 

147

 

毛嚢炎

68

 

黄色ブドウ球菌感染症

1

せつ

6

 

ブドウ球菌・
連鎖球菌感染症

1

伝染性膿痂疹

4

 

単純疱疹

19

膿痂疹性湿疹

4

 

カポジ水痘様発疹症

24

膿疱

1

 

帯状疱疹

1

壊疽

1

 

尋常性疣贅

3

皮下膿瘍

1

 

伝染性軟属腫

2

炎症性粉瘤

1

 

白癬

5

丹毒

1

 

皮膚カンジダ症

1

麦粒腫

3

 

 

 

 表2 プロトピック軟膏長期観察試験 でみられた皮膚の随伴症状(因果関係あり) 
文献6)より引用

解析対象例数

568

 

発現例数

64

(11.3%)

発現件数

68

 

ざ瘡

42

 

前腕蒼白

1

ざ瘡痒皮疹

4

 

口唇蒼白

1

刺激性接触皮膚炎

3

 

爪甲剥離

1

皮膚乾燥

3

 

しびれ

1

丘疹

3

 

毛細血管拡張

1

 表3 プロトピック軟膏の利点と注意点(中川氏による)(一部加筆) 
文献3)より引用
 

<利点> 
○ステロイド外用薬の副作用である皮膚萎縮、毛細血管拡張がない。 
○ステロイド外用剤に比べて、依存性、中止後のリバウンドが少ない。 
○正常な皮膚からは吸収されない。 
○目の周囲にも比較的安全に使用することができる。 

<注意点>
○皮膚刺激性頻度が高い。特に、顔面・頸部、靡爛や掻破痕がある部位。 
○苔癬化の強い部位や痒疹には効きづらい。 
○カポジ水痘様発疹症などの皮膚ウイルス感染症に注意が必要。 
○長期連用の際の皮膚癌の発生などの安全性が確立していない。 
○本剤を使用した部位を日光に長時間さらしてはいけない。 
○紫外線療法を実施中の患者への処方は禁忌である。 

 文献  
1)Nakagawa H,Etoh T,Ishibashi Y et al:Tacrolimus ointment for atopicdermattis.Lancet 344:883,1994 
2)大槻マミ太郎、アトピー性皮膚炎治療薬のタクロリムスの臨床的有用性  メディカル朝日2,000, vol.29(1), p37-40 
3)成人アトピー性皮膚炎治療にFK506登場、期待される難治性顔面症状への効果、日経メディカル 2,000, 1 ,No.386, p44-45 
4)Kawashima M,Nakagawa H,Ohtsuki Met al:Tacrolimus concentrations inbloodduring topical treatment of atopic dermatitis.Lancet 348:1240,1996 
5)FK506軟膏研究会:FK506軟膏第V相比較試験-アトビ-性皮膚炎(顔面・頸部)に対するプロピオン酸アルクロメタゾン軟膏との群間比較試験-皮膚科紀要92:277、1997 
6)FK506軟膏研究会:FK506軟膏第V相比較試験-アトビ-性皮膚炎(躯幹・四肢)に対する吉草酸ベタメサゾン軟膏との群間比較試験-。西日皮膚59:870、1997 
7)FK506軟膏研究会:アトピ-性皮膚炎に対するFK506(タクロリムス)軟膏の長期観察試験-1年間の成績-。臨床医薬14:2405、1998 
8)Alaiti,S., Kang,S.,Virginia,C.F.,etal:Tacrolimus(FK506)ointmentfor atopic dermatitis:A phase I study in adults and children.J.Am. Acad.Dermatol.38:69.1998 
9)中川秀巳、移植免疫抑制剤によるアトピー性皮膚炎の治療、薬局、Vol.47,No.8,1137-1141,1996 
10)Sepp N & Fritsch PO:Can cyclosporin A induce permanent remission of atopic drmatitis?.Brit J Dermatol 128:213-216,1993    
 


HOME