沙粧妙子 最後の事件

1995年 7月〜9月 フジテレビ 主演:浅野温子 脚本:飯田譲治


もう放映から6年が経とうとしていますが、いまだに私の中で風化しないドラマです。
’95年という年は、いろんな意味で印象深いんですけどね、例えば、あの『エヴァ』が始まった
のは、この年の9月……何かあったんですかねえ、この時期。現実にはまだそんなに猟奇的な
事件は起こっていない頃、お茶の間に届けられた日本発の本格的サイコものドラマ。
あの『王様のレストラン』の後番組でした。

その後も『ケイゾク』とか『QUIZ』とか、やばめのクライムモノは出来てますけど、でも、これほど
プロファイリングとか異常心理とかを全面に打ち出したドラマはないように思いますねえ。
さらにいえば、いまだに日本のテレビでは、タブー視されてるんでは……とさえ思える。
しかし、アメリカのFBIものと違い、それが主眼の物語ではありませんでした。
 
80年代には、ダブル浅野のトレンディ・ドラマや、刑事アクション・バラエティ・ドラマ『あぶない
刑事
(デカ)』の素っ頓狂な女刑事役などで、すっかりイメージが定着してしまった感のある温子
ネエさんが、イメージを刷新、というより、元来のクールさをようやく全面に押し出せたという
役どころで、ファンとしては非常に嬉しくかつ興奮させられました。

いっときますけど、温子さんのデビュー作は映画『スローなブギにしてくれ』ですよ、みなさま。
実をいえば、これは薬師丸ひろ子が『セーラー服と機関銃』で鮮烈に芸能界に現れたのと奇しく
も同時期。ある人が、もし『セラ銃』でなく『スロブギ』がうけていたら世のトレンドは今と全く違う
展開を見せていたかも…なんていってたのを思い出すんですが…………断っておきますが
『スロブギ』は猟奇犯罪モノでもシリアルキラーものでもございません。とにかく、温子さんが
このドラマのヒロイン・沙粧妙子を演じるにあたって、私は諸手をあげ歓呼こそすれ、当惑など
全く感じていなかったのでした。まして、「彼女はこれで壊れた」だの「顔色悪くてヤダ」などとは
サラサラ思いません。いや、よかった。本当にこの沙粧妙子はかっこよかった。
 
話のほうは、

地方から上京した新米刑事が組まされたのは、女刑事・沙粧妙子。彼女は、かつて警視庁が
組織したプロファイリングチームのメンバーであったほど優秀なエリートであった。しかし、
いまそのチームはなく、妙子も精神安定剤を服用する、陰鬱な女性に変貌していた。
そこに多発する猟奇犯罪、その都度、泥臭く足で捜査する同僚たちを尻目に、鮮やかなプロ
ファイリング
の手腕を見せつける妙子に新米刑事は感服し、シンパシーを感じていく。

しかし、妙子は、その犯人たちの裏に、共通する何かを感じ取っていた。それは赤い薔薇
よって象徴される、何者かの妙子への愛。犯人たちは、全て、妙子への愛を表明するため
何者かによって心理的に操作されていたのである。やがて、明らかになる妙子ら、プロファイン
グチーム瓦解の真相、そこには優秀な捜査官から恐るべき犯罪者に変貌した男が存在した。
そして、それは妙子の愛した男だったのである……。

妙子へのゆがんだ愛は、周りの者にもいやおうもなく及んでいく。新米刑事の恋人が失踪し、
変わり果てた姿で発見される。妙子のかつての恋人は彼女をゆさぶり“呼び寄せよう”としてい
るのである。さぁ、妙子は事態にどう決着をつけるのか。その結末は?
 
とまぁ、こんな具合。例によって、主観的要約ですし、記憶を頼りに書いてるんで間違いもあり
そう。その場合はひらにご容赦を。妙子の相棒の新米刑事に柳葉敏郎、プロファイリングなど
胡散臭いとする昔気質な刑事に蟹江敬三、また、かつてのプロファイリングチームの仲間で
科捜研の男に佐野史郎など、いかにもなキャスティングもそれぞれはまってました。真犯人で
妙子の恋人を演じたのは升毅で、私は彼をこのドラマで初めて見たのでした。

毎回の犯罪者たちに扮する人もユニークで、香取慎吾だとか、柏原崇などが嬉々として
演じていたのが印象的でしたねえ。私の目が甘いのかもしれないけど、巧かったものなぁ。
慎吾ちゃんなんか、まともに演技できるのか心配でしたけど、いや達者だったので驚きました。
あと、犯罪者じゃないけど、あのヒロスエが顔を出してるんですねぇ。ああ…あの頃はハッとさせられる新鮮さがあったのよねぇ……。
 
結局すべてはヒロイン・妙子の個人的宿命だったのか、と思うと、落胆しなくもないんですが
まぁ、日本でやる以上仕方がないかなという気もしてます。

海外の(というより、結局、アメリカだけの特色じゃないのと思う事もあるんですが)猟奇犯罪、
特にシリアルキラーといわれている犯罪の殆どは、宗教的か性的かどちらかの思い込みによる
ように思うのですが、日本ではあまり宗教が日常的でないというか、一般的でなく、もし仮に
それが起こっても、いわゆるアメリカ的猟奇犯罪とは少々違うような感じがするんですね。
オウムはカルトであり、テロだし、組織的なものだったし。極めて主観的な印象論で申し訳ない
のですが、望んでもいないのに他人を勝手に即身成仏させてしまうような事件が起きたら、
それでようやく私としては、宗教的思い込みによる猟奇殺人とみなせます。でも一般にこの手の
事件の遠因になるのって、みんなキリスト教ばっかりのような気もしてるんですけどね…。

宗教的思い込みにめどがなければ、あとは性的思い込み、はたまた個人的コンプレックス
というものを核とすることになるでしょう。で、このドラマで犯罪者に仕立て上げられた人たちは
そこを突かれたんだと私は解釈してます。で、この設定に、アメリカ型のサイコとは異なる、
シリアルキラーものにおける日本の独自の話型を見てしまうのです。
 
これは少女マンガの例なのですが、『BANANA FISH』という傑作があります。
シリアルキラーではないのですが、タイトルにもなっているバナナフィッシュとは薬品の名前。
他人の意識を操り、殺人者にしたててしまうという剣呑な薬です。

また、黒沢清が手がけたサイコ物邦画『CURE』というのがあります。猟奇な自殺が頻発し、
捜査してみると、一人の謎めいた青年が浮上、実は彼が人々に何かを囁いていたことが
判明するのです。

あと、これまたマンガの話で恐縮ですが、『多重人格探偵サイコ』なる作品があります。
WOWOWでドラマ化されたりしたので、ご存知の方もおいでかも。このマンガの中では
後催眠効果とはまた違った暗示や、まさに、人格さえも、外部からの他者によって、たやすく
移植されてしまうという、とんでもないSF的状況が出現してます。

つまり…日本ではこの手の物語で面白い事に、人々が本人の意思ではけっしてなくて、
外部の何者かの影響を受けて事をおこしてしまう、という類似したパターンが見られるのです。
つまり必ず人格改造について言及され、人はサイコに“仕立てられる”のですよ。

 
アメリカの犯罪者の場合、実際でもドラマでも、余りこうした設定は見受けないように思います。
そもそも彼ら異常犯罪者は、生い立ちで受けた虐待とか、個人的な体験が当人の内部で
発酵するかのように犯罪への衝動が萌芽すると解釈されているのではないでしょうか。まぁ、
なかにはサイコパスというものもあるようで、そうなると一層、問題を起こした当人の資質という
ことになりますが、結局、彼らの犯す犯罪というのは、そういう形でしか他者と関わりをもてな
かったり、はたまた自己表現できないことの表れに思えます。大変に、メーワクだけど、哀しいことです。

猟奇犯罪者、シリアルキラー、サイコキラー……言い方はなんでもいいんですが、
欧米のこの手の話は、ほとんど彼はいかにして、現在の彼になったか、その事情について
語るものが全てのように思えます。そういえば『羊たちの沈黙』の続編、『ハンニバル』にしても
クラリスやヴァージャーとの関わりよりも、レクター博士はいかなる背景を持つ人物であるかを
語ることが主たる関心だったように思えます。そして、読んだ方ならお分かりでしょうが、彼には
いうなれば、全ての核心ともいうべき原体験があり、彼のカニバリズムも、クラリスへの関心も、
すべてはそこから来ていることが、仄めかされている……

犯人を割り出すプロファイリングにしても、結局は、そうした葛藤や苦しみやらの問題を抱えた
破滅的なまでの個人を読み解こうとすることに他ならない。つまり、これもこれで一つのコミュニ
ケーションの形であろうと思うんです。

話はまたそれますが、特異な映像が話題になった『ザ・セル』という映画がありました。
犯人は、幼子だった頃の姿と、現在の猟奇殺人者を誇張した化け物めいた姿で、それぞれ
描かれ、J・ロペス演じるヒロインが、その犯人の二相に慈愛と果断さを示す。あれには、実に
アメリカの猟奇犯罪者に対する認識が、よく表れているように思うのですが。

しかし、日本だとどういうわけか、誰かによって仕立て上げられるというパターンになる。
何だか違和感があります。
 
そして、その大元には、当作の妙子の恋人のような、あるいは『CURE』の謎の青年のような
悪の元締めというか、伝染の源がある。いや、現実にではなくて、日本で描かれる、このての
ジャンルの物語のパターンがそうなってる、という話なんですけど、これは一体どういうことなん
でしょうか。そして、これら源となった人たちは、人の心を調べていてそうなってしまった
という設定です。この和製作品特有の共通点に、私は、何かひっかかりを憶えるのですが。
 
そのひっかかりはさておき、話を本題に戻しましょう。『沙粧妙子 最後の事件』は全11話、
なんだか1クールにしては微妙な数です。見ているときは気になりませんでしたが、ことによると
削除された話なんてあるんでしょうか……? このドラマは『NIGHT HEAD』で一躍メジャーに
飛び出した飯田譲治氏の脚本でしたが、飯田氏というと、後の『ギフト』のバタフライナイフ
事件による、気の毒な再放送中断の件もありましたし……。

後に(2年後)スペシャルとして『沙粧妙子 帰還の挨拶』とかいうのがありました。
(犯人役ゲストキャラは、草g剛に、中谷美紀。中谷の甲高い笑いは耳障りでした)で、期待に
胸膨らませてみたんですが、話はコピーキャットめいた事件でいまいち面白くなかった……。
劇中の事件が魅力的でないこともさることながら、気に入らなかったのは、このラスト。
最終的にどうやら妙子はかつての恋人と同じところにいってしまったことを匂わして終わるのです。それが、ちょっと気に入らなくてねえ。イヤ〜ンな感じだったから……。

でも、ひょっとして、初めから飯田氏の念頭にあったラストってそういうものだったのかしら。
かつての恋人に伝染した悪は、ついには妙子にまで及んで、彼女もまた、というものだったの
かも。で、『最後の事件』も、残り2話で、そういう酷い展開を見せて終わるんだったのかも……
ああっ、なんて、酷いッ。

でも、そう考えると、なんだか納得がいきます。最近、飯田譲治氏は『アナザ・ヘヴン』なる話を
映画とドラマ、そして小説として展開しました。その核になるのは『悪とはどこからくるのか』と
いう長年の自問だったといいます。しかし……私個人は、仕立てられた悪というのは、どうも
納得しかねるんですなぁ。この設定は、自分の心を勝手にされる事への嫌悪や恐怖からくる
ものだとすれば、それはそれとしてわからなくもないんですが、日本のこの手のジャンルが
悉くそうした、人の心が操られ、サイコに仕立て上げられる設定を持つことを、どう解釈したら
いいのか……悩みます。なんというか、平安時代の“女は恨みつらみで鬼になる”というほうが
納得がいくんですなぁ。だって、その鬼になるほどの恨みは、本人のものだもの。

でも、妙子の場合、恋人と同じところに堕ちるというのは、やはりいただけませんよ。
個人的宿命を、自分も傷だらけになりながら断ち切って、なお微笑んで生きていく強い女
そういう、ある意味イコン的な女像を、私はラストの妙子の微笑みに見たから、彼女が好き
なんですよねえ。話のオチとして“ミイラとりがミイラになりました”てのはショックでかくて良い
ってのはわからんでもないですが、衝撃のために夢も希望のなくすのはどうかと思うんです…。
だから、『最後の事件』が、11話のああしたラストでよかったと私は思っています。しかし、この
最後の事件』とか『帰還の挨拶』ってタイトルは、ホームズのパロディなんでしょうかねぇ。
 
まぁ、途中、作品とは無関係なことにも触れながら、つらつらと書いてきてしまいました。
不満めいたこともいいましたが、それは話の面白さとは別の事。毎回毎回、一体どんな事件が
起こるのか、ドキドキは尽きませんでしたし、最後まで固唾を飲んで見てましたから。
あとサントラも好きで(笑)CD買っちゃったほどです。

人によっては『ケイゾク』や『QUIZ』の方がいいよ!というかもしれません。
でも、私はこの話の押し殺した、重苦しい雰囲気が好きですし、高く評価するものです。
(ケーハクなコメディより、シリアスな方が好きなので、自ずとそういう評価になっちゃうのよね)
しかし、恐らく、地上波での再放送はないでしょうねえ、当時としても、よく放送できたものだと
感じてました。ですが、ビデオが出ています。ご覧になる機会はあるでしょう。

沙粧妙子を知るためのガイドページ
http://konno.walker.jp/drama/sasyoh.html

業界ライター・紺野睦月氏の『紺くんのドラマな音楽空間』DARAMA FILEのbT。
放送年月日、キャスト・スタッフ、各話あらすじetc. 必要なデータはほぼ全てわかるページ。
ここで興味をもてたら次に行きましょう。

http://www2u.biglobe.ne.jp/~kouki/sashow/index.htm

こーき氏とひかり氏による「ひかり小説館」姉妹館・沙粧妙子WEB。
まさに「沙粧妙子ファンの、沙粧妙子ファンによる、沙粧妙子ファンのためのページ」
こちらも詳細です。サイト運営者による、自作小説まであり。ほれ込んでいらっしゃる…。

http://member.nifty.ne.jp/guano/review/sw/sashow.html

久高東之氏の『INTERNET GUANO!』昏迷レヴューにあるドラマレビュー。
笠井潔の矢吹駆シリーズを引き合いに出したりするそのセンスと着眼点、
要点をついて、しかもコンパクトな文章には脱帽。



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