雪之丞変化

1970年 フジテレビ 主演:丸山明宏 監督:五社英雄


さて、2001年上半期、CSでこんな番組をやっていたので見てしまいました。
美輪明宏サマがまだ丸山明宏だった頃の主演ドラマで、演目はかの名高き『雪之丞変化』。
丸山明宏は、なんと主役・雪之丞と、義賊・闇太郎の一人二役。うってつけじゃ〜と思うのは
私だけではない筈だ!
 
なんというか……このドラマには驚かされます。演出が実にベタでキツい。
最初、五社英雄アワーというロゴが、実に迫力のある毛筆書きでドバンと現れる。続いてあの
歌舞伎でも有名な『鷺娘』の雪の場面が……鷺娘を演じているのが、主役・雪之丞で、てことは
当然ながら丸山明宏氏なのですが、いやはや、この人、なんと芸域の広い人なんでしょう!
シャンソンのみならず、鷺娘まで出来ちゃうとは……ひょっとして日舞も修めているのかしら。

その後画面一転、中央に女形姿の丸山明宏が裃つけて畏まっている。背後にはまた改まった
装束の人々が頭を下げて座っている。で丸山明宏氏が
これからご覧にいれますは……
おもむろに口を開く……つまり、歌舞伎の舞台口上な訳ですね。丸山明宏氏がえんえんと口上
を述べている中、画面上方に、勘亭流文字でスタッフ・キャストが映し出されていく。
私はこういう趣向好きです(笑)
 
原作は三上於菟吉の同名小説。
昭和9年に朝日新聞で連載されたもので、翌昭和10年には松竹により初映画化されてます。
上下巻で出版されているものもあり、それをたった1クール、全13話にまとめたのですから、
きっとアレコレ省くところは省き、まとめるところはまとめ、又は大胆にアレンジしたりもしたん
でしょう。基本的に日本のドラマは、まず原作に忠実とということは滅多にありませんから、
そこのところは諒解しつつ、いずれは原作を読まねば、と思っているのですが、これは本当に
人気のある話で、幾度も舞台化・映画化されてます。

映画では’63年の大映の長谷川一夫主演のものや、美空ひばり一人3役の『ひばり三役・
競艶雪之丞変化』などが知られてます。近年、映像化よりも舞台のほうが盛んのようで、宝塚
市川右近らの二十一世紀歌舞伎組が取り上げたりしています。
 
さて、物語はと申しますと……、

江戸でただいま評判の中村座の女形・雪之丞。花をも欺く美貌と妖艶な色香で下は女スリから
上は大奥のお女中まで虜にしていたが、実は、彼は、長崎の豪商で、抜け荷の咎で破滅させ
られた松浦屋の遺児・雪太郎だった。抜け荷とは全くの濡れ衣。いまわの際の父は世を呪い、
雪太郎を復讐の鬼へと変貌させた。孤児となった雪太郎は、歌舞伎役者に拾われる。

松浦屋を陥れた土部三斎は長崎で蓄えた富を元手に権力への道をひたかけり、ついに一人娘
浪路を大奥にあげるまでになっていた。この土部三斎六人の仇を倒すべく人気役者として
の立場と色香、そして知略を駆使して雪之丞は凄絶な復讐を開始する。そんな彼を、瓜二つの
義賊・闇太郎が影ながら助勢する。闇太郎もまた土部のやり口が許せなかったのである。

さぁ、雪之丞は、6人の仇を探り当てることができるのか、彼の復讐はなされるのか。
波乱万丈・情念タップリの物語がいま幕を開く……!
 
……てな感じなんですな(主観的要約です、念のため)。

他にも、雪に惚れる女スリに、やはり土部の不生に憤る町奉行所の同心であるとか
雪を危険視する土部の用心棒とか様々な人物が登場します。しかも、各回のゲストキャラも
かなり、バラエティに富んでて、表沙汰に出来ない江戸のいかがわしい秘密クラブの女将とか、
やっぱり表沙汰に出来ない陳情で上京した藩士たちとか、更には琉球拳法の忍者たちとか
盛りだくさん。なんたって最終回にいたってなお新しいキャラが登場してドラマを盛り上げて
くれるんですから。見てて「大丈夫なのか?」と不安になりましたが、見事に収束しました。

でまた出てくる奴出てくる奴、みんな悪党ばっかり。まぁ、闇太郎は義賊だし、中村座の座長は
高潔といえるんですが、他はみんな大なり小なりイヤラしいワルぞろい。
つまりこのドラマ、ピカレスク・ロマンでもあるわけです。
 
で、すでに申しましたとおり、主演が丸山明宏の一人二役。
この雪之丞闇太郎、どっちも実に素晴らしい。雪之丞は、表こそ艶華だけど実は復讐の鬼、
ということで、なんだか青白いオーラが取り巻いているかのような佇まい、着物の着こなしも
無論いいし所作もステキ! 一方、闇太郎、これも親分と呼ばれるだけのいなせ気風の
いい
ところを全身から発散しているんです。そもそも、今、美輪明宏氏は、もう完全に“艶なる
マダム”として完成されており、彼の男装などおがめるものではありません。ましてや、美輪氏が
今更男役など想像だにできません。この闇太郎は、その滅多に見られない彼の男役、それも
かなり麗しく、カッコイイ姿として特筆できます。……いや、実をいうと、物珍しさもありますが、
私はこの闇太郎の方が好きですね。今の基準からすると、やはり雪之丞はいささか不気味
ものがある……多分、舞台で見ると丁度いいんだと思うんですが、メイクが濃くって(苦笑)。

でまた、復讐鬼・雪之丞ですから、もう心が凍り付いているって事なんでしょう、いつも取り澄まし
たような顔でほとんど感情の起伏を表さないのに対し、闇太郎の方は実におおらかに感情を
表すんですな、顔をしかめたり、罵ったり、またいい顔で笑ったり。まぁ、そういう訳で外見や
性格など対照的な二人ではありますが、丸山氏の演じ分けは一見です。でねぇ、この二人が
よく密談を交わしている場面があるんだけど、この場面の撮影を想像するだけで、なんだか
おかしいような気分になってくる。まぁ、手間かかってるんだろうなってことです(苦笑)。
 
で、雪之丞のメイクが濃いと申しましたが、実は濃いのは彼に限りません。
このドラマの登場人物たちは、どいつもこいつも、顔の濃ゆい役者ばっかり! 仇敵・土部
扮するは金田龍之介、その用心棒には細川俊之。同心には夏八木勲……ね、濃いでしょ?
でもって、劇中、雪之丞と用心棒の、剣を抜いてのたちまわり場面があるんですが、その場合、
丸山明宏の濃い顔と、細川俊之の濃い顔が、アップで、交互に映し出される…………
その濃ゆいの濃ゆくないのって、見ているこちらは、アップアップですわ(爆)!
毎回のゲスト俳優も、山本学とか、伊丹十三とか、面白い顔ぶれ。この中では山本学が唯一
濃ゆくない役者でしょうか。この濃さは、例えば、後の(というより最近の)『鬼平犯科帳』の
いかにも和風な顔ぶれとは対照的です。まぁ、全体にこのドラマは濃くて、その様は時代劇に
おけるデミグラスソース、いやオタフクソース……。

このように濃ゆい顔ぶれが揃っていて、男優陣は非常に強烈なのに比較して、どうも女優陣が
イマイチ印象が薄い
のが難です。まぁ、双方で濃いと疲れちゃいますから、仕方がないことかも
しれませんが、男優陣が今も現役で活躍している人が多いのに、女優の殆どは今は昔の人
ばかりというのも物足らなさの一因かもしれません。今も残っている人は女スリの吉行和子さん
など僅かで、特に私が不満なのは、一応のヒロイン・波路役の女優さんがちっともキレイじゃ
ないってこと。ああ、でも、あの父親の娘だから、あれでいいのかなあ。でも、彼女に限らず
あんまりグッとくる美人女優、いません

まぁ、主役で一番の美形は、丸山明宏なのですから、それでいいんでしょう(キッパリ)
 
そんなこんなで、是非一度は見ていただきたいドラマなのですが、残念ながらビデオ等は
出ていない様子です。また、「エタ・非人」などの放送禁止用語もびしばしなので、地上波での
再放送も望めません。最近ではCSの時代劇チャンネルでさえ、そうしたコトバは削除していま
すから、ホームドラマチャンネルによる今回の放映は蛮勇だったのかもしれません。でも、
時代劇である以上、時代や作品の雰囲気を損なわないためにも、こうしたコトバが出るのは
ある程度は仕方がないと思うのですがねえ。それに、いわゆる放送禁止用語にしても、人道上
許しがたい場面・状況を描くため
に出てくることが殆どですし、差別意識を助長するものでは
ないものです。そういう作品を見て、義侠心に燃えるのではなく、悪い言葉を使うようになるのは
結局、その当人の精神の卑しさの問題だと私は思うんですが……。

というわけで、今となっては非常に見るのが難しいドラマかもしれません。ですが面白いです。
いろんな面から楽しめると思います。機会があれば、逃さずご覧下さい。



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