![]() 第1話 厄介事の種 5![]() アールスは短く刈った黒髪をガシガシと掻き、部屋を見回した。 「これはまた派手に傷つけたもんだなあ……」 そして部屋のほぼ中央で縛られ倒れている男たちに視線が移る。顔が微妙に引きつったのは、どうやら笑いそうになったのをこらえたためであるようだ。 「……これはいくら何でも縛り過ぎだろ」 「俺がやったわけじゃない」 「だって怖かったんだもん」 即座に返答する兄妹に叔父は苦笑して肩を揺らす。 「お前かエディル。……で、こいつらは何だ。押し入り強盗か?」 「似たようなものかな」 ラーガットの返事にエディルも頷く。 「部屋に子どもがいただろう。無事か?」 「無事だよ。そこで寝てる」 叔父はちらりと寝台を見、ホッと息をついた。 「やっぱり叔父さん、イジェールから何か聞いてたのか。叔父さんに話を聞いてから帰ってくるべきだったな」 「その話は後にして……」 叔父は倒れている男たちをあごで示した。 「ともかくまずはこいつらを官憲に引き渡そう。査官を呼んで来るから待ってろ」 そうして、査官と二人の警官が叔父に連れられてやって来た。警官たちは「いやこれはまた派手にやりましたねえ」「お嬢ちゃん、がっちり縛ったなあ」などと笑いながらてきぱきと仕事をした。 査官は奇蹟を行使できる聖師でもあったようで、起きてしまうと面倒そうだと男たちを神の力をもって眠らせ、さらに術の行使を封じる手錠をかけさせた。ぐったりしている男たちを警官たちが担ぎ上げて運び、外の馬車に放り込んでいく間に、ラーガットとエディルは査官から簡単な事情聴取をされ、あれよあれよという間に全員が去っていったのだった。 「いやー速かった速かった。いい仕事ぶりだったなあ。さて、飯にするか」 屋台の包みを手にそう提案するアールスを見て、ラーガットはハッとした。 「そういえばガールさんに夕飯持って行くって言ったんだった!」 「ああ、心配するな。これと同じのを伝言付きで届けるよう頼んできた」 そう言ってアールスは居間へと歩いていき、エディルもそれを追う。ラーガットも寝台の上のステーレットを抱き上げて続こうとし、ふと振り返った。 「あんたも来るか?」 「当然だ」 ふわりと灰色の衣がラーガットの横を通り過ぎる。 「他の人には見えていないんだな。さっきの査官だって一応聖師なのに、見えてなかったみたいだ」 「サルヴァの聖師のように異世の者の気配に敏感な者ならともかく、それ以外の者には普通見えまいよ」 (俺も見たくはなかったよなあ……) ラーガットは小さくため息をついた。「お兄ちゃん早く」と急かす妹に軽く返事をし、居間に移動する。 座り心地の良い長椅子にステーレットを寝かせると、この子は私が守るとばかりにシェルプスが降りてきて幼子の傍らに座った。いや、肉体はないわけだが、ちょうど座っているように見える。 ラーガットはきびすを返し、叔父と妹が食事の用意を進める食卓に歩み寄った。 「この包み、警官詰所のところの屋台のだよね」 「おう。お前ら、これ好きだろ?」 「黒麦の蒸しパンか」 厳密には、冷ました蒸しパンに野菜や焼肉、揚げた魚など様々な具材を挟んである軽食だった。安くて手軽で美味い。夕食には少し軽すぎるが、重いしっかりした食事をする気分でもなくなっていたのでちょうど良かった。 ラーガットは台所に行き、叔父が手際よく沸かしていたお湯で乳茶を淹れた。三人分の茶碗を盆に載せて居間に戻ると、すでに席について食べ始めていた叔父と妹に続く。 「いやはや、お疲れ様」 「全くだよ」 叔父のねぎらいの言葉に、ラーガットは肩をすくめた。 「で、叔父さんの言ってたとおり査官にはあの子をイジェールの遠い親戚って言っておいたけど、実際あの子はどこの子なんだ? あいつの子どもってことはないよな」 「つまらん冗談を言うなあ、お前」 叔父は鼻で笑った。アールスの隠し子、というもっとつまらない冗談も考えていたのだが、言わなくて良かったとラーガットは思った。 「じゃあ本当に親戚の子?」 エディルの言葉にもアールスは首を横に振る。 「それがな、どこぞの禁足地で監禁されてたところを攫ってきたらしい」 「……んぁ?」 パンにかぶりつこうとしていたラーガットは間抜けな声を出した。要するにあの小さな子どもを拉致してきて監禁したということか。 「禁足地って、入っちゃだめーって王様が決めてる場所だよね」 目を瞬かせたエディルの言うとおり、禁足地とはこの場合、定められた者以外の出入りが王によって禁じられている地域のことを指す。叔父は頷いた。 「場所を言うのはまずいからってどこかは教えてくれなかったがな」 そこに居た子どもを外に連れ出した、とはどういうことなのか。攫ってきたという表現をしているということは、無断で連れてきたということだろう。場所も言えないというのなら、無断で侵入したに違いない。 「ていうか叔父さん、俺に嘘つかせたのかよ……」 「イジェールが言ってたことをそのまま言ったりしたら大変だろうが」 ごもっとも、ではある。ラーガットは卓に肘をついて額を押さえた。 叔父に不審がられないようにそっと長椅子へ目をやると、シェルプスがじっとこちらを見ていた。表情からは何も読み取れない。だが、叔父の言うことが彼の知る事実と異なれば、もっと不機嫌になるなり否定するなりするだろう。 (厄介事確定かな、これは……) ラーガットはヤケ気味にパンをかじって飲み込んだ。 「あいつ、旅しながら何してやがる……。だいたい、なんで連れてきたんだ?」 「義憤に駆られた、ってなことを言ってたな。詳しいことは話していかなかったが、あの子にしてはずいぶん憤っていたぞ」 「……」 ラーガットは頭痛を感じて親指で右のこめかみを揉んだ。義憤に駆られたというからにはそれなりの背景なり理由なりがあって、大義名分は立つのだろうが、……いや、それも怪しいとラーガットは思う。それでも今は信じるしかない。信じる材料が皆無というわけでもないのが救いといえば救いだった。あんな奴等が来たからには、穏和な後輩が憤るだけのことはあったのだろうと思えなくはない。 (でもあいつ、単純でもあるからなあ……) 真剣に考えるラーガット。しかし、耳に妹と叔父の気の抜ける会話が入ってきて、がっくりきた。 「やっぱりイジェールさんってそういう趣味なの?」 「エディルもそういう発言はやめろって前から言ってるだろう」 「はあい」 叔父に軽く諫められて、エディルは笑う。どうやら叔父と妹の間では日常茶飯事のようなことらしい。 ラーガットはどうにか気を取り直して、もう一つ気になっていたことを尋ねた。 「叔父さん、あいつが来たのは何日前だ?」 「三十日だったから、三日前だな」 「あ、ガールさんちにお泊まり始めた日だ。急に叔父さんが泊まらせてもらえって言ったの、そのせい?」 「ラーガットが帰ってきて部屋の封印を解くまでは放っておくようにとイジェール君から頼まれていたから。黙っていて悪かったな、エディル」 エディルはむう、と唸る。謝られては仕方がない、などと呟いているのが聞こえた。 「なあ、叔父さん。本当にイジェールだったのか、それ」 「おう、本人だったぞ」 「術で顔を変えていた可能性……というか、叔父さんがだまされていた可能性は?」 「うちの店に仕掛けてある諸々の仕掛けも反応しなかったよ。何でそんなことを聞くんだ?」 「イジェールが残していった封印が、どれもあいつにしては珍しい構成をしてたから」 「ふうん?」 叔父は気のない相づちをうつ。ラーガットはぼそぼそと呟いた。 「ここに来たときもあいつは一人だったっていうし、やっぱり腕を上げたってことなのかな……」 「ラグ」 「ん?」 呼ばれて顔を上げると、叔父の不思議そうな顔が目に入った。 「イジェールがここに来たときも一人だった、って何でわかるんだ?」 「あ」 それは当然シェルプスから聞いたことなのだが、アールスには見えていないはずである。 ラーガットはどう説明したものかと悩み、いや、悩む前にエディルが口を挟んでいた。 「あのね、幽霊さんから聞いたの」 「……幽霊さん?」 「シェルプスさんっていってね、あの子を守ってるんだって」 アールスは瞬いた。 さてどんな反応をするだろうかと様子を見ていると、叔父はあっさりと「そうか」などとのたまった。さらに、 「今もいるのか?」 「長椅子のところにいるよー」 「それなら、香くらいは供しないとダメだろう」 そう言うとアールスは隅の棚に向かい、中をかき回し始めた。その香とやらを探しているらしい。 「香?」 ラーガットとエディルは顔を見合わせた。 「そうだよ、たしかこの辺にまだあったはずなんだが……」 ラーガットは叔父の背に声をかけた。 「……叔父さん、驚かないんだな」 「ん? ……ああ、そうか。普通は驚く場面だよなあ、これ」 苦笑混じりののんきな声が返ってくる。 「お前たちのお祖母さんがまだ元気だった頃は日常茶飯事だったからな。礼を失するなとよく怒られたもんだ」 父方の祖母、つまり叔父の母は聖師だった。しかも、死を司るサルヴァに仕える聖師だったはずだ。 「俺には見えないってのに、無茶言ってたよなあ母さんも」 アールスは昔を回想しているのか、懐かしそうな声をしていた。 「……幽霊がいるのが日常茶飯事ってどんな家だよ」 ラーガットの呟きに、「まったくだ」と叔父は捜し物を続けながら器用にも肩をすくめた。 「ああ、あったあった。……うん、湿気てないな。母さんが使っていたものだから古くて申し訳ないが、質は良いはずだ」 棚の奥からアールスが取り出したのは、小さな白い香炉と青色の香。珍しがってあれこれ尋ねてまとわりつくエディルをあしらいながら、叔父は手際よくランプから火を採って香に火をつけ、部屋の隅に置いた。すぐに漂ってきたほのかな青草の香りに、ラーガットは深く息を吸いこんだ。 「古い作法をよくご存じだ」 聞こえてきた幽霊の声にラーガットがそちらを見れば、シェルプスがわずかに相好を崩していた。どうやらお気に召したらしい。 「喜んでるみたいだよー」 「それなら良かった。見えぬ者ゆえの不作法はこれで勘弁していただきたいね」 戻ってきて腰掛けたアールスは長椅子に向かって軽く首を下げ、食事を再開した。エディルはまだ部屋の隅で香炉をしげしげと見ている。 ラーガットはあっけにとられた風に叔父を見やった。 「……叔父さんって、剛胆というかなんというか」 「褒めても何も出ないぞ」 「むしろ呆れてるんだけど」 「ひどいな、ラグ」 叔父は顔をしかめたが、さほど気分を害した様子はない。 「それはそれとして、イジェール君の話の続きだけどな」 「うん」 にやりと叔父は笑った。 「仕事の依頼が来てる。受けておいたからよろしく」 「は?」 「そのお嬢さんがらみの仕事。前金も預かってるぞ」 「また勝手に仕事を受けたのかよ!」 思わず椅子から腰を浮かした甥に、叔父はひらひらと手を振る。 「いつもたいていそうだろ。俺が受けた時点で決定なの。しっかりやれよ、ラーガット」 ラーガットは詰まった。叔父が受ける仕事は大口だったり報酬が大きかったり面白かったりすることが多く、いい思いをさせてもらったこともあるのだ。 乳茶を口に含んで味わう叔父をじと目で睨みつつ、ラーガットは腰を下ろした。 「具体的に、どんな仕事」 「あの子どもを隠し通してくれってさ」 うすうすそんなことではないかと思っていたので、ラーガットは驚きはしなかった。詳しい話はシェルプスから後で聞くとしても、とりあえず仕事として受けてもかまわない。ただ、 「……解呪師の仕事じゃないだろ、それ」 ぽつりとこぼすと、叔父が笑う。 「いつものことだろ」 「いや、いつもでもないだろ」 ラーガットは即否定した。自分には解呪しかできないのだ、そうそう気楽に解呪以外の仕事を受けてはいない。ただ、叔父が契約に絡む仕事には解呪以外の案件もあり、しかも断りにくいため、時々苦労する羽目になっているのは確かだった。 今回もそうなのかと思いきや、アールスが言葉を継いだ。 「頼まれていたことはもう一つある。その子にかけられている封印を解いてもらえないかとさ。負担を減らしてやってほしいとか何とか言ってたぞ」 「ああ、そりゃ寝たままにもさせておけないから解くつもりだけど」 それこそ自分が力を発揮出来る仕事だ。 「じゃあ、ほいこれ。イジェール君からの預かり物だ」 叔父が懐から何かを放ってよこした。ラーガットはあわててそれを掴み取る。 「宝石? ……あ、これ、解呪用の鍵だな」 親指の先ほどの大きさの赤い透明な石だった。灯りに翳すと淡い赤色が手にまとわりつくかのようだ。表面にいくつか精霊語が刻んであり、どんな光の加減か、その言葉が石の奥で深い色を纏って揺れた。 「さっき言ってた、抜き取られてるってやつのこと?」 戻ってきたエディルがラーガットの背後からのぞき込んだ。 「ちゃんと確認しないといけないけど、まあ間違いない」 意図して抜き取ったのだろう術の構造の一部が、この宝石に転写されていた。重要ではないが、解くには必要な部分があらかた込められている。 「これならそんなに手間もかけずに解けるな」 解呪師でなくともある程度の素養がある者なら容易に解呪できるだろう。力の性質を考えれば、聖師でも十分に可能かもしれない。 「ナレージュに相談すると良いかも、とイジェール君は言っていたが」 叔父の口から出てきた意外な名に、ラーガットは目を瞬かせた。 「そこまでのことじゃないよ。あいつもこれだけの鍵を作っておいて大げさだな」 「そうか。じゃ、あとは頼む。俺はそろそろ店に戻らないと」 最後の一口を食べ終えて、アールスは立ち上がって伸びをした。 「まだ仕事が?」 「ああ、昼の商談が意外と長引いたんで、いろいろずれ込んでいてな」 「もう行っちゃうの?」 アールスは微笑むと、やや不安そうなエディルの頭を安心させるようにゆっくりと撫でた。 「あんなことがあった後だ、本当ならここにいてやりたいんだが。一応、警官たちが見回りを強化してくれているはずだ」 「こっちは大丈夫だよ」 むしろ何か手伝うことはあるか、とラーガットが尋ねると、伸ばされたアールスの腕が髪をくしゃりとかき回す。 「馬鹿。お前はお前の仕事をしろよ、店のことはいいから」 ラーガットは不本意そうな顔で頷いた。子ども扱いされているようで気恥ずかしかったのだ。 「わかった。明日は店に顔を出すから」 「おう、何か必要な物があったら書き出しておけよ。セーンでの仕事の報告も明日でいいぞ」 「……ごめん、忘れてた……」 にっこりと笑う叔父に、甥はがっくりとうなだれた。 妹と一緒に叔父を見送って居間へ戻ってくると、ラーガットは髪をガシガシと掻き乱した。 (なんだか厄介事の種を抱え込まされた気もするけど、仕事じゃ仕方ない) そうして、子どもと幽霊というおかしな二人組に向き合った──正確には、幽霊に話しかけた。 「シェルプス、といったな。イジェールは俺にこの子を匿ってくれって言ってきたが、あんたはどうしたいんだ?」 「……匿ってくれるのか」 「正直言えば、もう少し話をきちんときいてから仕事を受けるかどうかの可否を決めたかったところだけど、叔父さんからのねじ込みじゃあそうもいかない。だから一応は受けたけど、動き始める前に当事者の一人であるあんたに尋ねておかなければならないだろう。イジェールは金だけ置いてまたどこぞに行ったようだし、当事者に話を通さなければどうにも動きがとれないからな」 依頼主はイジェールだが、隠し通される対象の意向を無視は出来ない。とはいえ、子どもはいまだ眠っているから、その守護をしているシェルプスの意向を聞いておく必要があった。 「あんたがこの子を匿って欲しいというのなら、そうしよう。その子……ステーレットからの拒否がなく、イジェールからの依頼の撤回がない限りは、その子を守れるよう力を尽くすよ。ただし、あんたが俺じゃ駄目だというなら、あるいはそんなことを望んでいないというのなら話は別だが」 シェルプスはしばらく黙って解呪師の青年を見つめていたが、小さく問い返してきた。 「信用していいのか?」 ラーガットは真っ正面から幽霊の視線を見返した。 「仕事であるからにはきっちりやらせてもらう。……俺の本業からずれているから成果の保証はできないけど、それでよければ」 背後で食事の後片付けをしていたエディルが口を挟んだ。 「お兄ちゃん、前半は格好いいのに後半弱気すぎ」 「……出来ないことは出来ないって言っておかないとあとで面倒なんだよ」 ラーガットが妹に返した言葉は正論だ。しかし、後半の台詞を言うときにシェルプスから少し目をそらしていたのも確かで、格好悪いという自覚は彼にもあり、気恥ずかしい。 「この子を匿ってもらえるのなら、それはありがたい」 そんな羞恥するラーガットの意識を一瞬で引き戻したのは、シェルプスの声に含まれた真剣さだった。 「それに、……こういう言い方は失礼だが、君では駄目だと言ったとて代替案があるわけでもないからな。君に頼ることにしよう。ただ……」 「ただ?」 何か条件があるのだろうか、とラーガットは先をうながす。 「依頼ついでにもう一つ頼んでもよいだろうか」 何を、と尋ね返そうとしたとき、玄関の戸の開閉音がした。さらに、ドタドタと駆けてくる音。何かと思えば、居間に顔を出したのは先ほど出たばかりのアールスだ。 「叔父さん、どうしたの?」 エディルの問いに、アールスはひどく真面目な顔で答えた。 「なんだか、後をつけられているようでな」 「つけられてる……?」 「まいてやろうとそこの路地裏に入ったら、警官が二人倒れてた」 ラーガットは思わず息を呑んだ。 「丸腰じゃ心許ない。ラグ、杖か何かないか。ただの棒でもいい」 「俺の部屋の隅にイジェールが置いていった杖があるけど」 「それ借りるぞ」 ラーガットの部屋に向かう叔父にエディルがついていく。ラーガットは状況を確認に玄関へ行こうときびすを返したが、頭上から声が降ってきて足を止めた。シェルプスだ。 「今、屋根の上から見てみた。玄関の外はもう押さえられているぞ」 足を止めて幽霊を見上げた。 「……なんで」 シェルプスは宙に浮いたまま腕を組んだ。 「さてな。彼が何かしたのか、それともこちらの追っ手か」 「順当に考えたらあんたたちの関係者だろ」 (ああ、やっぱり厄介事の種……) どうした、と杖を手に戻ってきた叔父が問うてきた。状況を説明すると顔がしかめられる。エディルも顔をこわばらせ、叔父の腕に抱きついた。 「どうする?」 アールスの問いに応えたのはシェルプスだった。答えというよりは要望だったが。 「あの子を裏へ。あちらはまだ人がいない」 それをうけて、ラーガットが叔父に提案する。シェルプスの声は叔父には聞こえていないのだ。 「裏から出て警官詰所に行ってみよう。そっちならまだ人がいないそうだ」 叔父は首をかしげた。 「……もしかしてさっきの幽霊さんの情報か?」 ラーガットが首肯すると、得心したようだった。 「よし、それなら急ごう。音は立てないように」 アールスとエディルは靴を手に裏口へ。ラーガットはすやすやと眠っている子どもを長椅子から抱え上げた。 (そういえば種って発芽して生長するものだったなあ) などと嫌なことを思いながら、自室に入る。 と、シェルプスの呟きが聞こえた。 「来るぞ」 「何が?」 幽霊の回答を待つまでもなく、爆発音とともに家が揺れた。玄関が術か何かで破られたのだ。爆風とまではいかないが、埃混じりの熱い風が吹き付けてくる。 「そんなめちゃくちゃな!」 「急げ!」 一足先に外に出ていたアールスが甥を呼ぶ。 ラーガットは子どもを自分の肩により掛からせるようにして片手で支え、もう片手で傍にあった小さな荷物をひったくるようにして掴み、裏口を飛び出した。 |
2007/2/13〜2007/4/1 初稿
2007/4/4 改稿
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