友人に長いこと会っていない
気まぐれおこして手慰みに見た
携帯電話のメモリー
あの子もあの人も彼も彼女も
遠いところにいってしまった と
液晶上の名前と一緒に
頭の中を文章が流れていく
その小川は
ほんの一歩で渡れるけれど
決して下を見ないで渡る
本当は底なしの淵だから
きれいなタテマエで飾られた
深く暗く 濁った淵
気付いている
君が離れているのではなく
私が離れている
君たちから離れているのではなく
私たちから離れている
今 離れているのではなく
もしかしたら 最初から
(違う そんなことはない)
河原の石を拾って裏返す
ずっと忙しかったから
つい疎遠になってた
それは嘘じゃない
でも 本当?
河原の石を元に戻す
ここでは何も起こらなかった
私は何も見なかった
……わかっている
ボタン一つで空間の制約は消え
唱える呪文は「ひさしぶり」
追加の呪文は「元気してる?」
それで始められる
便利な定型
そのあとは?
用件は特にない
よって
話は続かない
河原の石を裏返す
向こうは忙しいかもしれない
今まで連絡しなかったのに
今頃何? と思うかもしれない
迷惑かもしれない
(きっとそうだ)
そうして私はその石を手に
心の中で
きれいな小川を渡る
渡った先には同じ河原
ほんの一歩で渡れるけれど
変化がないから先に進めず
何度でも 流れを前に立ち往生する
現実には
この親指と通話ボタンの間に
深い小川が横たわっていて
私は その
わずか一ミリの空間を移動できない
必要なのは
河原の石ではなく
小川の中を覗き込むこと
私に暇があることでも
君に用があることでもなく
淵に足を踏み入れること
けれど私は
きれいな河原の石を拾って
深い小川に投げ込んでゆく
底なしの淵だということを
忘れたふりをして
気付いていないふりをして
きれいな石で
いつか小川が埋めたてられてしまえばいい
小川のそばにいつのまにか
注意の立て看板が現れた
「きれいな石が無くなれば 残るのはどんな石?」
携帯電話を鞄にしまった