忘れられない光景がある。

 2年ほど前だろうか。
 仕事で、とある地方に出かけた。
 JRの鉄道以外に公共交通手段がないような、田舎だった。特急以外に停車するのは在来線が一時間に2本程度、といった、ささやかな駅だった。
 少女は、大きなボストンバッグを引きずるようにして乗ってきた。車両内には入らず、デッキに立ったまま、ホームを見ていた。
 少年は、車内には入らずホームに立ったまま、少女の手を握っていた。
 二人とも、まだ高校生のように見えた。

 少女は泣いていた。大声になりそうな嗚咽を必死に押し殺して。

 少年は泣いていなかった。ただ少女の手を握りしめて、真っ直ぐに少女を見ていた。

 「もう泣くな」

 少年の声は震えていた。泣くのをこらえているかのように。

 「俺がちゃんとした仕事見つけたら、お前を迎えにいくから。お前の親父さんに話つけるから。絶対、いつか、お前の家にお前を迎えに行く。………だから、泣くな。電話する。手紙書く。だからお前もがんばれ。な?」

 少女がしゃくり上げながら小さく頷いたとき、発車のベルが鳴り、ドアは閉ざされた。
 動き出す列車の窓に顔を押しつけて、少女はずっとホームに立ちつくす少年の姿を目で追っていた。姿が見えなくなったとき、少女は、壁にもたれて、初めて声をあげて泣いた。

 あれから、仕事で何度も同じ駅を通過したけれど。
 通るたびに思い出す。あの若い二人はまた会うことができたのだろうか。少年は少女を迎えにいくことができたのだろうか。二人は、幸せになったのだろうか。

 どうということはない、行きずりに見た風景ではあるけれど。何故か今でも、忘れられない何かが、ある。



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