その8:豪遊


さて、金は手にした。まずは尖沙咀の重慶大厦に戻って両替。ここの両替屋はレートがいいんでわざわざ戻ってきた。香港ドルを叩きつけて日本円に両替してもらう。両替屋の兄ちゃん、一瞬慌てる。日本人が円をドルに両替することはよくあるが、その逆はせいぜいが余ったドル少々を円にする程度。万ドル単位で両替する日本人は確かにそうそうないことだろう。店員以上に近くにいた日本人のOL風3人組はもっと驚いた表情でこちらを見ていたが。「何でこんな小汚い格好した人がこんなにいっぱいお金持ってるの?」って感じで。確かにジャージ着てたけどさ。
こうやって両替してもらって諭吉さんの団体とご対面。なんか二度払い戻しを受けた気分。気分がよくなった私とSさん夫妻は「せっかくなんで香港の夜景でも見ておこう」ということでお出かけ。まずはスターフェリーに乗る。その乗り場に向かう途中に香港で、いやアジアで1,2を争うといわれる高級ホテルであるペニンシュラホテルの前を通る。「今ならここに泊まる金もあるんだけどな」と思いながらホテルを見上げた。それでもこの夜も例のゴキブリが出没する安宿に泊まるのだが。話は戻って九龍半島の尖沙咀と香港島の中環を結ぶこのスターフェリー、香港市民の重要な足であると同時に海から香港の姿が見られるスポットにもなっている。運賃は1.7ドルと安いので、香港に行った際にはぜひどうぞ。
スターフェリーを降りて、香港の夜景の名所であるヴィクトリアピークに向かう。今回の旅行記の第1回でも書いたように夜景自体は飛行機の中から見るものがもっとも美しいと思うのだが、それでもこのヴィクトリアピークから見る夜景もなかなかである。観光客にも有名だが地元の人にとってもやはり有名なようで、香港人カップルの姿も結構目に付いた。Sさん夫妻はともかく一人身の私にとっては普段であればかなり刺激的な光景であるはずだが、この日は全く気にならない。だって金を持っているから(笑)。
俗に「百万ドルの夜景」と評される香港の夜景。さすがに百万ドルは儲かってはいないから買い占められはしないが、それでもこうやって丘の上から勝利者として夜景を眺めると「香港は俺のものだ」という感慨に浸ってしまう。さすがにちょっと傲慢過ぎるか。でもそのくらい気分がいい。最高の気分だ。前回香港を訪れたときは負け犬として競馬場を後にし、それでもあきらめきれずにすかさずマカオに直行して朝までカジノで勝負してさらに傷口を広げたものだった。それに比べて今回は雲泥の差だ。

夜食を食べるべく香港でも有名らしい繼L酒店にタクシーで乗り付ける。当然ながらお釣りは運転手へのチップ。到着すると、ドアマンがタクシーのドアを開けてくれる。広東料理のお店に来たはずだが、そのドアマンはターバンを巻いていた。席に案内されると日本人の店員さん(美人のお姉さん)がメニューを持ってきてくれた。広東語のものと日本語のものと両方。この日本語メニュー、広東語のメニューに比べて品数が少ない。店員さんによると「こちらのメニューは高級な、値段が高めの料理が中心になってますので」とのこと。正直者だね。
ここでは贅の限りを尽くした。値段も見ずに、食べたいものを適当に注文する。フカヒレは当然外せないし、この店の名物であるガチョウのローストも当然いただく。その他あれやこれやと注文し、メニューにはないエビチリまで作ってもらう。エビチリって本来は四川料理なのだが、広東料理のこのお店で作ってもらってもこれがまたおいしい。締めにヤキソバにするか炒飯にするか迷ったが、面倒だったので両方とも注文。最後はマンゴープリン。もうお腹がはちきれるんじゃないかと思うくらいの満腹。全部で8品くらい食べたと思うが、すべての料理がとてもおいしい。満腹になったし、いよいよお勘定。当然ながら私が3人分の勘定を支払う。ここ香港では、お勘定をしてもらうときにはある馬の名前を呼ぶと店員がレシートを持ってきてくれる。その馬の名はマイターン。手を上げて「マイターン!」と声をかけよう。「美純残せ〜」とかそういうことまでは言わなくていいけど。ちなみにこれ、本来は「埋單(まいたん)」と発音するのだが、「マイターン」でも十分通用する。しかし、高級なお店で満腹になるまで食べたのに勘定はなぜか2万円もしない。これ、一人2万円ではなく、3人の合計で2万円しないのだ。横浜の中華街で同じことをしたらいったいいくらかかるか。一人2万円でも驚けないところだ。いつもSさん夫妻、特に奥さんには何かとお世話になっているが今回これで少しは恩返しができたかなと思うとなおさら安く感じる。ここのお店、たいていの香港ガイドブックには掲載されていると思うが本当にお勧めできる。できれば数人で行って、コースではなく単品で注文したいところ。日本人の店員さんがいるときならメニューの相談にも乗ってもらえるはずだ。後にこの店に通って研究したところ、この日本人店員はディナータイムになると出勤するようである。

翌朝、早朝に香港を出発していよいよ帰国。空港では免税店でしっかり買い物をした。せっかくなんでネクタイを一本。あとは飛行機に乗って5時間少々で成田空港に到着。到着直前に窓から空港が見えたときに、「ここが下総御料牧場の跡地なんだよなぁ」ということを脈略もなく思い出す。日本の競馬に一時代を築いた下総御料もいまは日本から世界への、世界から日本への玄関口になっている。

たった3泊4日だったが、ずいぶんと長い旅だったような気がする。マカオのドッグレースに行けなったのは心残りだが、競馬では勝ったしおいしいものはいっぱい食べたし大満足だ。日本からも比較的近いし、言葉の問題もそれほどない。片言の英語と、あとは日本語で大丈夫。最悪でも筆談すれば何とかなるし。治安は日本に比べれば良くはないが命の危険まではないだろう。それに何より、出発時より金が増えて帰って来れるなんてこんないいところはない。というわけで、これに味を占めてこの後3回も香港に行ってしまったのは私だ。

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