出発前にちょうど給料日を迎えた。全額おろした。準備は万端。あとは勝つだけ。で、出発前に宿泊をどうするかを考えた。別に寝られればよいのでどこでもよかったのだが、「まあ勝った時はちょっと贅沢するべぇ」と、以下のようなプランを考えた。
もちろんどれにするかはその日の車券の成績次第。だから当然予約などなし。
さて前橋に乗り込む。空はいい天気。勝てそうな予感がする。早速ドームの中へ。空調も効いていて暑くもなく寒くもなく快適だ。我がホームバンク・川崎競輪場とは天と地、ロールスロイスと原チャリ以上の差があるね。
だがしかし、日頃汚い川崎競輪で打っている身としては、この前橋、いささか綺麗すぎて落ち着かない。まずゴミが落ちていない。場内は喫煙所以外禁煙だから煙草の吸い殻はないし、食べ物のゴミも落ちていない。川崎では物を食った後の串とかトレーはその辺に捨てておくのがローカルルールとされているが、ここ前橋では床に絨毯が敷かれているせいかそんなことをする人はほとんどいない。そして、たまにハズレ車券とか書き損じのマークシートが落ちていると、掃除部隊がやって来てすぐにきれいにしてしまう。そう、東京ディズニーランドでゴミがあるとやってくるお掃除隊(正式名称など知らん)みたいな感じ。ただ一つ違うのは学生のバイトではなく、地元の爺さん婆さんであることくらいか。それにしてもきれいな競輪場ってのはどうもなぁ。先にも書いたように、普段が汚ねえ川崎競輪で打っているから、競輪場ってのはそういうものだと思い込んでるし。
おもむろに新聞を広げ、予想を開始。この日はまあ堅いレースの連発で、中穴党の私としてはほとんど出番ナシ。かろうじて途中堅いところを一つ取ったが、結局それっきり。この日メインの「日本競輪選手会理事長杯」では、後閑信一(群馬65)が太田真一(埼玉75)の番手に行ったため、十文字貴信(茨城75)−神山雄一郎(栃木61)の3番手、すなわち「アトランタライン」のケツが空いている。このオイシイ位置を回ることになったのが北川智博(滋賀61)。競輪での実績はイマイチだが、全プロスプリントでは常に優勝し、毎年この寛仁親王杯では特選回りの権利を持って出場してくる。しかし客の大半は選考過程なんか知らないから、「何でこんなのが特選乗ってるんだ?」と毎年多くの競輪オヤジに疑問を投げかけてしまう北川である。ところがなんせスプリントでは敵ナシ、一瞬のダッシュにおいては確かにいいものがある。それがおいしいおいしい神山のケツ。十文字が逃げればベストの展開だが、そうでなければ神山が自力で行くだろう。そこを最後北川が一瞬のダッシュ力を生かして鋭く差す・・・見えた!北川智博、競輪人生最高の晴れ舞台が。勝利インタビューで涙を流す北川の姿まで完璧にイメージできた。一応、逃げる太田の番手・地元の後閑からも少々買っておいた。
太田が逃げて、3番手に十文字がハマる。絶好の展開と思いきや、十文字が3番手から出ない。てめえだけ届こうって腹づもりだ。まあそれでも最悪太田を後閑が差してくれればいいのだからもう取ったも同然。ところが・・・4角手前から十文字が捲り追い込み気味に差しに行く。そうなりゃ当然神山も踏む。あっさり神山が交わしてゴール。2着十文字。後閑はハコ4という、地元でこれ以上ない恥ずかしい成績。北川はダッシュを生かすどころか神山についていけず5着(笑)。何が「競輪人生最高の晴れ舞台」なんだか。これで初日は終了。
とりあえず初日は「脚を見る」ということもあって大勝負はしていなかったのだが、勝てなかったのは事実。仕方なく、健康ランドで寝ることにする。風呂入って、とっとと寝る。久しぶりの健康ランドの仮眠室。寝るだけならこれで十分。
2日目の朝。新聞読みながら朝飯を食って、早速競輪場入り。競輪場ってところはよく先着○○名様とか、スピードくじとかで入場者にプレゼントを配るのだが、これがまあたいていは役に立たないものばかり。そしてこの日前橋競輪場で配られたものは・・・干し椎茸(笑)。しかも、私、競馬場や競輪場ってたいてい手ぶらで行くから、このもらった干し椎茸のやり場に困る。まさか手荷物預かり所で預かってもらうわけにもいかんし。で、結局、着ていたジャージの前のチャックを開け、おなかのところに干し椎茸を入れ、チャックを閉める。なんで競輪場で干し椎茸をおなかで暖めなきゃいかんのか悩みながらも、仕方なくそうする。なんか捨てるのはもったいなかったし。
この日は・・・途中で内林−伏見という460円の車券を一点で取ったが、結局取ったのはその一つだけで1日トータルではチョイとばかりマイナス。あとこの日の特筆すべき出来事といえば8R。大井崇(茨城73)の番手が稲村成浩(群馬69)と渡辺晴智(静岡73)、通称「ハレトモ」の2人で競り。前橋は群馬県、ということは稲村の地元である。稲村と言えば父親は大スター、群馬県では人気があるようだ。おとなしい前橋の客もこの時ばかりは稲村への声援、そしてハレトモへの罵声が飛ぶ。そこで私も一言。「ハレトモ〜、稲村みたいなクズに競り負けるんじゃねえぞ〜」と。この一言で、全群馬県民を敵に回した。もう回りからの視線が私に突き刺さる。しかしそんなものに負けていたら競輪なんか出来ない。そうでなくても、電車の中でデイリースポーツの競輪欄とか読んでいれば 周囲の視線が「何だこの人間のクズは」という無言のプレッシャーとなっている。でもそんなことは気にしないのが正しい競輪客。それに比べりゃ競輪場内で冷たい一瞥を浴びせられようと気にはならない。どうせお互い人間のクズ同士なんだから。
レースは、ハレトモが稲村を競り落として番手取りきったが、そこで脚を使ったか大井を差せない。車券は見事に裏食った。で、結局負けてしまったので、またもや健康ランドへ。2日続けて仮眠室だ。
この日は、とにかく寒かった。本当に寒かった。で、健康ランドなんてところはそんなにいろいろとすることがあるわけじゃないので、風呂入って、TVで翌日の競輪展望番組見て、雑誌読んで、とっとと寝る。Zzzzz・・・ううっ、寒い。数時間寝たところで、めちゃくちゃ寒くて目が覚める。毛布を2枚かぶっていたのだが、そんなものじゃどうしようもないくらい寒い。寒いよぅ、ぶるぶる。しばらく震えていたが、そこでハタと気がついた。健康ランドにいるんだから、風呂に入って暖まればいいのだ。おお、賢いぞ、俺。どうせ何回入っても料金が変わるわけじゃないんだから。早速お風呂へ行く。あったか〜い。気持ちい〜い。1時間くらいかけてじっくり体を温めて、もう一度寝る。
・・・3日目の朝。目が覚める。妙に体がだるい。咳が出る。「風邪ひいたか?」そういえば、鼻が詰まっている。完全に風邪をひいてしまった。頭もぼぉ〜っとしている。よくよく考えてみれば、寒いからといって風呂に入ったが、その後寒いところで寝たものだから湯冷めしてしまったようだ。数行前の発言撤回。やっぱり賢くないわ、俺。とりあえずシャキッとしようと、マクドナルドに行って新聞を読みながらコーヒーを飲む。そして、薬局に行って風邪薬を買って飲んで、競輪場へ。
頭はぼぉ〜っとしてるし、鼻水は垂れてくるし、咳は出るし、体調は最悪。今冷静になって考えれば、なぜお帰りしなかったのか。自分でもわからん。ただその時は何も考えず、気がつけば競輪場という感じだったから。義務感を感じた訳でもない。朝起きて歯を磨いたりするのには特別な意志とかなくても自然とそうするでしょ? それと同じような感覚だな。
この日は準決勝3個レースがあったのだが、・・・特記事項ナシ(笑)。だってノーホーラだったんだもん。まあそれでもあえて書くなら後閑信一(群馬65)のだらしなさかな。11R、せっかく番組屋が地元の大将を決勝に勝ちあがらせようと神山の番手という最高の位置を用意してくれたのに、神山が捲りに行ったら0.3秒で千切れた。
さて、今日も負けたし、またもや健康ランド行き・・・と思ったがちょっと待て。風邪が本格的に悪化してきた。熱も出てきたのかもしれん。こんな体調で健康ランドなんかに泊まったら明日の競輪が打てないではないか、ということで方針転換。今夜はゆっくり休んで、その宿泊代は明日の競輪で稼げば何の問題もないではないか。おお、名案だとこの時は本気で思ったんだよなぁ。こうやって改めて書くと馬鹿そのものだな(^^;。ということで、どこかビジネスホテルでも探そうと思ったのだが、どうせ泊まるなら前橋から程近い伊香保温泉にでも行こうか。安いところならそれなりの値段であるだろう。それに温泉旅館なら食事も出るからトータルで考えればそれほど高くないだろうし、と考えて、早速伊香保温泉観光協会(みたいなところ。正式名称忘れた)に電話。幸い、安い旅館を紹介してもらえたのでそこに宿泊。体調悪いし早く休みたかったのでドテカマシで伊香保に直行。こういう旅館に行くとたいてい宿帳を書かされるが、その中に翌日の行き先という欄があった。他の客のを見てみたら、「帰宅」「ゴルフ」という中に混ざって「グリーンドーム」と正直に書いてある客がいた。いい心がけだ。私も早速見習って「グリーンドーム前橋」と書く。温泉宿での行動なんて特に書くことはないね。飯食って、温泉入って、少し近所を散歩する。伊香保なんて典型的な温泉街だから、飲み屋とか、寂れたパチンコ屋とか、ストリップ小屋とか、そんなものしかない訳だ。正しい日本の温泉街。
翌朝。これが最終日。目覚めは相変らず良くない。相変らず帰るという選択肢は頭には浮かばない。まずは露天風呂に入って体を温め、それからいざグリーンドームへ。こういう時、室内競輪場という最大の利点を感じることが出来る。屋外の競輪場だったら寒くて寒くてたまらんものなぁ。
この日のヤマ場はまず9R。オールスター完全Vのヤマコウこと山口幸二(岐阜62)が馬渕紀明(愛知68)の番手。しかし太田真一(埼玉75)と新田康仁(静岡74)がいるので馬渕はほぼ間違いなく捲りの展開。1番人気はヤマコウ−馬渕だったが、あえてその裏、馬渕−ヤマコウの一点勝負。馬渕捲りでヤマコウ差せず、に賭けた訳だ。14倍くらいつけてたかな。展開はまさに予想通り。馬渕が捲る。しかもちょいと遅めの捲り。理想の展開で、馬渕のアタマは見えた。あとはヤマコウが差さなければ・・・確かにヤマコウは差さなかった。しかし、ゴールもしなかった。ゴール直前で落車。がびーん。ああ、勝負レースが・・・。
そしていよいよ決勝戦。メンバーは以下の通り。
| 枠 | 車 | 選手名 | 所属 | 期別 | 初日 | 2日目 | 3日目 |
| 1 | 1 | 神山雄一郎 | 栃木 | 61 | 理事長杯1 | ローズC1 | 準決勝1 |
| 2 | 2 | 山田裕仁 | 岐阜 | 61 | 特選2 | ローズC6 | 準決勝2 |
| 3 | 3 | 児玉広志 | 小豆島 | 66 | 特選1 | ローズC5 | 準決勝1 |
| 4 | 4 | 内林久徳 | 滋賀 | 62 | 一次予選4 | 二次予選1 | 準決勝2 |
| 4 | 5 | 東出 剛 | 千葉 | 54 | 特選1 | ローズC2 | 準決勝3 |
| 5 | 6 | 伏見俊昭 | 福島 | 75 | 特選7 | 二次予選2 | 準決勝1 |
| 5 | 7 | 小橋正義 | 岡山 | 59 | 特選3 | 二次予選2 | 準決勝3 |
| 6 | 8 | 高谷雅彦 | 青森 | 67 | 一次予選2 | 二次予選2 | 準決勝3 |
| 6 | 9 | 高橋光宏 | 群馬 | 56 | 一次予選2 | 二次予選3 | 準決勝2 |
想定並び V19 247 6853
レースは、私の読み通り伏見−高谷−東出で先行しようとした・・・ところが、ここで山田ライン3番手にいた小橋が絶妙のタイミングで伏見ラインを分断して伏見の番手にはまる。高谷−東出が続く。この時の伏見の掛かりが凄かった。高谷が3番手から捲っていくが、番手小橋に並びかけるのが精一杯。山田も神山も不発だ。そうこうしているうちに最終4角、伏見の番手から満を持して小橋が抜け出す。でも私としては何とかして東出に突き抜けてもらわないと困るのだ。そこで叫ぶ。「ひがしで〜!!!!!」と。ところがこの時、「ひがしで」の「で」の字を叫んだあたりで明らかに喉がおかしくなった。こうして喉を潰すほど叫んだのに、東出は伸びず、小橋が突き抜ける。2着は不発に終わった神山の番手から鋭く伸びてきた高橋で車番連勝5万8千円の大穴。ここにすべての戦いが終わった。そもそも特別の決勝を東出のアタマで勝負する時点で間違ってるよなぁ。
戦い済んで日が暮れて、利根川にかかる橋を一人トボトボと渡って駐車場へ向かう。当然足取りは重い。利根川の上を吹き抜ける風が容赦なく私に吹きつける。風が痛い。ああ、やってもうた。4日間で給料がすべて無くなった。金はすべて絞り取られて、その上喉が嗄れて声まで出なくなってしまった。
帰りは当然高速なんか乗る金はないから国道17号線を走る。その途中、前のトラックのテールランプを眺めながら思った。「二度と前橋には行かない」と。もうこんな辛い思いはしたくない。