幸か不幸か、この街の滞在中には競馬は開催されていなかった。その代わりといっては何だが、ひたすらタイ料理食ってシンハービール飲んで綺麗なお姉ちゃんと・・・ではなく、ムエタイ観戦に行ってきた。ムエタイといえば当然格闘技だが、それと並んで熱気あふれる賭場でもあるのだ。バンコク市内にはラーチャダムヌーンとルンピニーという2つのメジャーなスタジアムがあるが、今回私が行ったのはルンピニーの方。リングサイド、2階席、3階席と分かれていて、スタジアムの係員(なぜか「ムエタイ」とカタカナで書かれたジャンパーを着用している)にはリングサイド席を勧められたが、一番安い3階席に入った。スタジアム内は冷房もなく、天井では扇風機がやる気なさそうに回っている。客層は、観光客を除けばほぼ全員が男。それもどちらかといえばおっさんが多い。日本でいえば、中央競馬ではなく競輪場といった感じか。いや、競輪場よりはちょっと若いかな。パンチ、蹴りが決まるたびに大歓声。金が賭かっているがゆえの熱さだ。賭場の熱さが心地よい。どっちが勝つかというシンプルな賭けだからこその熱狂というものがそこにはあった。
ここでムエタイ賭博について簡単に説明。ムエタイ賭博は主催者が馬券のようなものを売り出すわけではなく、原則として客同士が握り合うものである。ただ、よく見ていると積極的に声を出し手のサインによってオッズを提示して賭けを呼びかける人と、そういう人に対して賭けを申し込む人とに分類できる。ここでは便宜上前者を胴元と呼ぶことにする。ムエタイは1ラウンド3分の5ラウンド制。たいていの場合、1Rと2Rは双方手の内の探り合いとなる。また、この間に客は両者の動きを観察し、どちらが有利かを見極める。2R終了くらいから胴元が積極的に動き始める。オッズを提示し、あちこちに大声で呼びかける。そのオッズに納得した客は胴元に対して賭けを申し込む。申し込むといっても馬券のようなものがあるわけでもなく、口約束だけだ。遠く離れている場合はお互い目を合わせ、指を差して確認するだけのこともある。あれでよく「誰と、どのオッズで何バーツ張ったか」を覚えてられるな、と感心してしまう。試合は好試合となるように(賭けが盛り上がるように?)実力が均衡した者同士の組み合わせとなる。しかしこの日はどうしたわけか序盤からKOシーン続出。2RでKOなんてことになると、観光客的には派手なKOシーンで盛り上がるかもしれんが賭博としては盛り上がりを欠くことになる。
ただ、現実としてふらっと行った日本人がこの賭けに加わるのは難しいだろう。オッズは手のサインでわかるとしても、どっちに、いくら張るというのを伝えることは出来ない。時間さえあれば意思を伝えることは可能なのだろうが、試合展開に応じて状況、つまりオッズもめまぐるしく変化するため、じっくりと意思を伝えている余裕がない。残念ながら、ここは賭場の熱気を味わうだけで我慢せざるを得なかった。
さて、次回はいよいよ今回の旅の最後の勝負の地へ向かう。