1.クリミア=タタール版
2.カザン=タタール版
3.カザフ版
勇士ナリクは,ある日ハンから褒美として馬と妻となる娘を選ぶよう命ぜられた。ナリクは,将来名馬になる小馬を選んだ。また娘を探していると,白髭の老人に出会い,彼の薦めに従って,ナリクはメンリスルという娘を選んだ。 ある晩,ハンの皇子はチョラに使いを命じて,その留守にメンリスルを奪う計略を立てた。しかし,妻はこの謀略に気がつき,ナリクに出かけるふりをして隠れているように頼んだ。メンリスルーはやってきた王子に次の物語を語った。「ある日,馬飼いが獅子に出くわした。彼は獅子に命乞いをして,身代わりに肥えた獣を贈ったが,ライオンはその獣にすでに歯形があるのを認め,受け取らなかった」と。「獅子は,すでに歯形がついたものは決して食べないものです」とメンリスルーは諭した。しかし王子はメンリスルに襲いかかったため,隠れていたナリクは王子の首を切り落とした。 ハンは,行方不明になった王子についてナリクに質した。ナリクが殺害を認めたため,ハンは「ここより立ち去れ」と命じた。そしてナリクと妻はコクシェリ=タマに移っていった。その道中,妻は子を産んだ。その子はチョラと名付けられた。彼は友人クルンチャク=バトゥルとともに読み書きを学び,牛飼いとなった。 ある日,旅の老人がチョラの村を訪ねてきた。誰も老人をもてなそうとはしなかったが,チョラだけは自分の牛を屠り歓迎した。老人はチョラに一頭の小馬を授けた。その馬はタスマルキョルと名付けられた。 またある日,カラというハンがチョラに「おまえは何人のバトゥルに価するのか」と尋ねた。「私は私一人に価します」とチョラ。カラ=ハンは「余のもとには100人にも価するバトゥルがいる」というと,チョラは「私一人に価する勇士はこのクリミアに果たしているでしょうか」と言って去った。カラ=ハンは40人のバトゥルにチョラを襲わせたが,チョラは彼らを馬の尻尾に結び付けてしまった。 カラ=ハンにはアリベイという勇士が仕えていて,40人の勇士にかわってチョラに挑んだ。一騎打ちの末,チョラはアリベイを破った。チョラは母に「私はアリベイを殺しました。ここにはいられません。カザンに行こうと思います」と言った。母はチョラを引き止めたが,チョラはクルンチャクとともにこの地を離れ,カザンに向かった。 カザンへの道中,チョラらはあるハンに客として招かれた。「おまえは矢をどこまで飛ばすことができるか」と尋ねるハンに,チョラは「カザンの町まで飛ばしましょう」と答えて,矢を射た。 チョラとクルンチャクはこの地をあとにして,カザンのハンを訪ねた。ハンは彼らをもてなした。そのころカザンでは大理石に刺さった矢を勇士たちが,これを引き抜こうとしていたが,誰も抜くことができずにいた。だが,チョラは容易にその矢を引き抜いた。これを見たハンは「カザンを敵が襲撃しても,チョラがいれば大丈夫だ」と喜んだ。 ハンにはサルハヌムという娘がいた。彼女はカザンの40人の勇士には褒美を授けたが,チョラには空のフェルトの袋を与え,クルンチャクには何も与えなかった。チョラはこの褒美に不満で,その袋を馬糞の中に捨てた。 敵のカザン攻撃が始まった。勇士たちは七日七晩戦ったが,敵を追い払うことができずにいた。戦場にチョラの姿はなかった。サルハヌムは,チョラが褒美に不満であることを知り,捨てられた袋に名刀を入れてチョラに与えた。チョラは満足して,馬に乗り戦場に向かった。チョラはクルンチャクとともに七日七晩戦った末,敵の勇士を矢で射抜き,勝利した。 バトゥルたちはカザン=ハンの宮殿に戻った。サルハヌムは,真の勇士であるチョラのもとに嫁いだ。しかしその後二人は別れ,サルハヌムは敵の側に寝返った。それから15-20年が経った。ある日,チョラ=バトゥルは敵の勇敢なバトゥルと戦う。チョラは,その勇士がサルハヌムから生まれた自分の息子であることに気付いた。一騎打ちの末,チョラの息子はチョラを川に投げ飛ばした。そして,チョラが川に沈んだあと,カザンはロシアのツァーリの手に落ちたのであった。
ダゲスタンにカズィ=ビーというミルザ(支配者)がいた。ある日,狩に出かけたカズィ=ビーは男の子に会った。その子は敵の攻撃から逃げて森に隠れていたのであった。カズィ=ビーはその子を連れ帰り,養った。その子はナランと名付けられ,勇敢な勇士になった。カズィ=ビーはこのナラン=バトゥルにミンスルという美しい娘を与えた。
ある日,カズィ=ビーの弟カンミルザはナランの妻ミンスルに一目惚れし,ナランの留守にミンスルを訪ねた。ミンスルは彼を受け入れなかった。カンミルザは彼女を追いまわした。ナランはこれを知って,カンミルザを刀で斬りつけて殺した。カズィ=ビーはナランに「ここから立ち去れ」と命じた。そのため,ナランはミンスルとアストラハンの町のアクチャ=スルタンのくにに移った。
アクチャ=スルタンはナランの妻を見て,恋に落ちた。ナラン=バトゥルを兵役に服させ,その隙を狙ってミンスルのもとに来た。彼女は「狼の食べ残しを獅子が食べることはふさわしいことでしょうか」と言った。このスルタンは後悔して,出ていった。出かけたふりをして隠れていたナランはこのスルタンを殺して,妻と共に逃げた。道中,ミンスルは子供を産んだ。そして彼らはクリム(クリミア)に着いた。
チュラはそこで育ち,5-6歳になった。チュラ=バトゥルは名馬に乗って,鎧甲冑を身につけ,イデル川(ヴォルガ川)に向かった。チュラはイデル川で溺れていた若い女を救い出した。彼女の夫コルンチャクは「彼女はあなたにこそふさわしい」と妻をチュラに嫁がせた。チュラは妹とコルンチャクとの婚約を取り決めた。チュラは妻を連れて,クルムに戻った。
さて,チュラがイデルにいるころ,クルムのハン,アクタシュの家来ガリ=ビーがチュラの父ナランを痛めつけ,名馬カラギルを奪っていった。戻ったチュラ=バトゥルは留守中のガリ=ビーの暴虐を知った。怒ったチュラ=バトゥルはガリ=ビーの頭を切り落とし,カラギルを取り返した。
そしてガリ=ビーを殺したチュラはカザンへ向かった。チュラはコルンチャク=バトゥルをカザンに呼びよせ,シャガリ=ハンのもとでカザンを狙うロシアとの戦いに備えた。
チュラがカザンでロシアと戦っているころ,クルムにいる父ナラン=バトゥルのもとにガリ=ビーの妹がやってきて,ナランの家畜を奪い去ったため,ナランは貧困に喘いだ。ナランはカザンにいる息子チュラのもとにきた。チョラはナランに多くの金を与えた。またシャガリ=ハンはナランをもてなし,家畜や衣服を与え,クルムに帰した。
ロシアでは占星術師がチュラの死について占っていた。占星術師は「チュラに美しい少女を送って彼の子を宿させなさい。その子がチュラを殺すであろう」と告げた。将軍たちは「チュラの子供を宿して,ここに戻ってくるのだ」と命じて,美しい娘を送った。チュラはこの娘がたいへん気に入った。やがて彼女は妊娠した。そして娘は自分の国に逃げ帰り,男の子を産んだ。
ある日,ハンの娘サルカニはバトゥルたちに贈り物を贈った。チュラには金の箱をひとつ与えたが,チュラはこれに不満で,それを捨ててしまった。そしてチュラは戦いに行くのを止め,寝ていた。サルカニはチュラに「箱の中を見てください」といった。チュラは箱を拾って見てみると,「クク=チュブク(青い竿)」という刀が入っていた。チュラはサルカニを許して,出撃した。チュラは敵を倒して追いやった。シャガリ=ハンとサルカニはこの知らせを聞いてたいへんよろこんだ。
ある日,チュラは,ロシアの娘が生んだ自分の息子と戦った。息子との戦いは長く続き,疲弊した馬はついにイデル川に沈み,チュラ=バトゥルは溺れて死んだ。
カザンのハン,ナリクには5人の妻がいたが,子宝に恵まれなかった。ナリクは,もう一人妻を娶ろうと考え,家来のアリビーに娘たちを連れてこさせた。ハンは,ノガイ人の娘メンディを選んだ。アリビーをはじめとするビーたちは,ナリクを快く思っていなかったため,彼をカルマクの町に行かせて,抹殺させようとした。ナリクが黒い駿馬を連れて草原に出ると,あとから追ってきた妻メンディは彼に,「行くならば帰ってはこれないでしょう」といった。ナリクは出かけるのを取り止め,奸計を企てたアリビーの首を取った。そして,ナリクは下僕テルショラやメンディを連れて,仇敵オギズ=ハンのくにに到着した。メンディの知恵によってナリクは,カザン=ハンである素性を隠して滞在した。
オギズハンはメンディを横取りしようと,ナリクに馬で9カ月かかる遠い地に赴くよう命じた。ナリクの留守中,オギズはメンディに言い寄った。だがメンディはオギズハンにナリクの先祖について語り,ハンに抵抗した。旅立ったナリクは途中で引き返し,オギズハンを殺害した。そしてそこにいられなくなったことを知って,妻メンディと下僕テルショラを連れて逃げた。道中,メンディは男児を出産し,ショラと名付けた。
ショラは急速に成長した。ショラはノガイの勇士クルンシャク=バトゥルと親友になった。ある日,カザンを異教徒が攻め取ったという知らせが入った。そこでカザンに向かった。カザンに向かうショラを殺そうと,オギズハンの子供メンディハンが道中に立ちはだかる。メンディハンにショラは自分の父ナリクの素性について語り,「私がカザンに行ったなら,雪ではなくて血を降らそう」とカザンにいく決意の程を語った。メンディハンは矢を射たが,ショラには当たらず,ショラに殺されたのであった。
ショラがカザンに着くと,カザンのアディルシェ=ハンの娘ハンジャンを狙って,カルマク軍がカザンを抱囲していた。しかし,ショラはこれを見事に追い払った。
ある日,カルマクのアクタシュ=ハンは60人のビーにショラの駿馬タスパケルを奪うよう命じた。ショラは彼らを捕虜にし,アクタシュのくにを攻めた。そしてショラは,アディルシェ=ハンの娘ハンジャンと結婚した。アディルシェはハンの座をショラに渡そうとしたが,ショラはこれを拒否した。その後も,ショラはバトゥルとしてクルンシャクとともに何度もカルマクと戦い,彼らを破った。
あるとき,ショラはクルンシャクに「もし,東からおまえのところに竜がやってきて,おまえを飲み込もうとしても,決して手向かうな」と言った。ある日,一匹の竜がクルンシャクのもとにきて,飲み込もうとしていた。そこでクルンシャクは腰の金剛の刀を引き抜き,切ろうとすると,竜はいなくなってしまった。クルンシャクが背後を振り返ってみると,地面が裂けて,大地がショラを飲み込んでしまった。音をたてて現れた竜はショラの守護霊(アルワク)だったのである。悲しみくれるクルンシャクとハンジャンはタスパケルを屠り,ショラに捧げたのであった。