教え方ノウハウ
教えるにあたっての考え方や、これまでの経験から得たノウハウをご紹介いたします。(文責=服部)

目次
日本語は日本語で教えます(03/04/13)
初めは挨拶から(03/04/20)
ひらがな、カタカナの教え方(03/04/20)
ローマ字は教えません(03/04/13)
難しい質問のかわし方(03/04/13)
教え方の勉強方法(03/04/13)
良い授業とは?(03/04/13)
有声音と無声音に注意(03/04/20)
ジェスチャーで注意すること(03/04/20)
形容詞について(03/04/20)
「は」と「が」の違い(03/05/02)
黒板を使うときの注意(03/05/02)


日本語は日本語で教えます
「外国人に日本語を教えたいけど、英語ができなくても大丈夫ですか?」という質問をよく受けます。大丈夫です。英語は必要ありません。日本語は日本語で教えます。教授法にもいろいろな種類がありますが、相手の母国語に頼らず日本語だけで教える方法を「直接法」と呼びます。現在はこの教え方が基本とされています。
実際、非英語圏の人はほとんど英語ができません(日本人で英語ができる人が少ないのと同じです)。非英語圏の生徒さんと英語圏の生徒さんが混在するクラスの唯一の共通語は日本語です。こういうクラスで英語を使うのはタブーです。


初めは挨拶から
生徒さんががまったく白紙の場合、まずは「こんにちは」「おはようございます」「さようなら」「ありがとう」などの挨拶から教えることをお勧めします。コミュニケーションの第一歩である挨拶を教えるとその後の授業が和やかになってやりやすくなるからです。
その際、まだ学習者はひらがなもカタカナも読めませんから、先生の発音を耳で聞き取って繰り返してもらう方法を取ります。
また、ジェスチャーや簡単な数字を使うと、それがどんなときに使う挨拶か分かってもらえます。例えば黒板に7:00AMと書いて「おはよう」と言えばそれが朝の挨拶だと分かってもらえます。手を振って立ち去りながら「さようなら」と言えばそれが帰るときの挨拶だと理解してもらえます。
挨拶を一通り教えた後にひらがな、カタカナを教えます。


ひらがな、カタカナの教え方
私(服部)の場合はまず初めに「あいうえお」と黒板に書き、ひとつひとつ発音して繰り返してもらいます。その後、ノートに一文字5〜10回書いてもらいます。次に「かきくけこ」と黒板に書いて同様にノートに練習してもらいます。
この繰り返しだけでは生徒さんはすぐに退屈してしまうので、次に「あ」〜「こ」を使った言葉を提示します。この際、提示する言葉は「いえ」(家)とか「かお」(顔)のように、簡単なイラストやジェスチャーで説明できる名詞がベストです。「あい」(愛)のような抽象的な言葉は避けたほうが無難です。
また、形容詞や動詞もこの時点では使わないほうが良いです。「あお」(青)、「あか」(赤)といった色の名前も意外と説明が難しいので私は避けるようにしています。
また、書き方を教える際ひらがなで注意しなければならないのは「さ」や「り」のように文字です。活字では一筆で書ける形になっていますが、手で書く場合は途中で線が途切れます。活字と手書き文字は違うと教えておきます。(英語で言えば"g"のようなものです)
一方カタカナを教える際は、「シ」と「ツ」や「ソ」と「ン」のように紛らわしい文字の違いを強調しておきます。そのほかに紛らわしいのは「ク」「ケ」「フ」「ワ」、「コ」「ユ」、「ス」「ヌ」「マ」、「チ」「テ」などがあります。


ローマ字は教えません
基本的にローマ字は教えません。理由はいくつかあります。ひとつは日本人自身が日常生活で使っていない表記方法だからです。もうひとつは生徒さんの母国語によって書いたローマ字が別の発音になってしまうからです。
例えば「高校」をローマ字で書く場合、私は"KOUKOU"と書くべきか"KOOKOO"と書くべきか迷います。ひらがなをそのままローマ字に直したものでよければ"KOUKOU"になりますし、発音を意識するなら"KOOKOO"とします。ところがやっかいなことに中国の人は"OO"を「ウー」と発音するので「コーコー」と発音させたいのに「クークー」になってしまいます。こんな風にちょっとした言葉でもどんどん泥沼に入っていく可能性があります。生徒さんにしてもひらがな、カタカナを覚えるだけでも大変なのに、さらにローマ字の日本風な読み方までマスターしなければならないとなると気が遠くなります。こういうわけでローマ字は教えず、なるべく早いうちにひらがな、カタカナをマスターしてもらう方にエネルギーを注ぐべきです。
ただし例外的に、日本での滞在が極めて短期でその先も続けて学習する予定のない方に限ってはローマ字を使ったほうが良いかもしれません。


難しい質問のかわし方
生徒さんから難しい質問をされたり予想外の質問をされるとついパニックになりがちです。そういう時はいいかわし方があります。「来週ね」とにっこり笑って先生の宿題扱いにしてもらいましょう。もちろん翌週本当に説明できるよう準備は必要です。でもそうした熱心さが生徒さんの信頼を勝ち取ることになります。ちゃんと準備をしたときに限って当の生徒さんが来なかったりしますが、例え来なくても自分の勉強になったわけですから生徒さんを恨んではいけません。(笑)


教え方の勉強方法
教え方を本格的に勉強するなら、市販の日本語教科書の教師用教材を購入して熟読されることをお勧めします。この教師用教材には、具体的な文型の提示の仕方、生徒さんに与える練習方法、注意点などが細かく指示されています。この通りにやってみると驚くほど授業がスムーズになり、手ごたえも感じられるようになります。
具体的な本としては、日本語教材関連の出版社スリーエーネットワークの定番教科書みんなの日本語とその教師用教材教え方の手引きなどがお勧めです。
なお、プロの日本語教師養成を目的とする専門学校に通う方法もありますが、授業料は半年で30万円以上だったりします。


良い授業とは?
生徒さん自身が「書く」「話す」「考える」時間が半分以上あれば「良い授業」と言われています。そういう時間をなるべく多くとるように心がけると効果的です。逆に教師が半分以上の時間を話しているような授業はあまりよくない授業といわれています。


有声音と無声音に注意
特に英語圏の生徒さんに顕著ですが、有声音と無声音の違いに敏感です。例えば「すみません」の「す」と「私は先生です」の「す」は発音が違います。前者は有声音で後者は無声音です。(喉に手を当てて発音した際、喉が震えるのが有声音、震えないのが無声音です) 生徒さんが発音について質問してくる場合、この有声音と無声音の違いを聞き分けて質問していることがしばしばあるので注意が必要です。逆にこういう質問を受けて初めて音が違うことに気づいたりする場合もあります。


ジェスチャーで注意すること
日本人は自分を指すときに人差し指で自分の鼻のあたりをさしますが、これは外国の方にはほとんど通じません。鼻を指差して「わたし」と教えると「そうか、鼻のことを日本語では『わたし』というのか」と誤解されます。万国共通の「わたし」のジェスチャーは手のひらを自分の胸に当てるしぐさです。
また、「あなた」と言う意味でペンやチョーク、人差し指で相手を指すのも相手に不快感を与えます。こういう場合は指先をまっすぐにして手のひらを上に向け、手全体を相手に向けます。
他にも誤解を招くジェスチャーはあります。例えば「こちらへ来なさい」と言う意味で手の甲を上に向けて親指以外の指先を前後に振ると欧米人には「向こうへ行け」の意味に取られます。彼らの「こちらへ来なさい」は手のひらを上にして指先を前後に振ります。


形容詞について
日本語の形容詞には「い−形容詞」と「な−形容詞」の2種類があります。まずこのことを頭に入れておかなければなりません。
「い−形容詞」は名詞に接続する際、語の末尾が「い」で終わるものです。「大きい」「小さい」「高い」「低い」といった言葉です。
一方「な−形容詞」は国文法では「形容動詞」と呼ばれるもので、名詞に接続する際、語の末尾が「な」で終わるものです。「静かな」「元気な」「きれいな」などがあります(「きれい」は「な−形容詞」です)。「な−形容詞」の特徴は「な」を取り去ると名詞になることです。
どちらもありがたいことに活用はきわめて規則的です。唯一の例外は「い−形容詞」の「いい」だけです。
形容詞を教える際は「大きい」「大きくない」「大きかった」といった活用とともに、具体的な使用例を挙げて、どういう名詞と組み合わせることができるかも教えてあげてください。着眼点は「人の形容に使えるか?」「男の人の形容に使えるか?」「女の人の形容に使えるか?」「物の形容に使えるか?」といったところです。たとえば「きれいな」は一般的に男性の形容には使いません。このことを教えておかないと生徒さんは「ハンサムな」の意味で「きれいな男の人」と使ってしまいます。
形容詞を覚えると表現力にぐっと幅が出てくるので授業はけっこう盛り上がります。


「は」と「が」の違い
日本語を教えていると必ず一度や二度はこの質問を生徒さんから受けます。聞かれるとちゃんと答えねばと思って説明を試みるのですが、なかなかうまく説明できません。それもそのはず、実はこれはすごく難しい質問なのです。何人もの国語学者がその違いについて本を書いているぐらいです。
ではこういう質問をされたときどうするか、ですが、それは生徒さんのレベルに応じて対応を考えます。
まだ日本語を勉強し始めたばかりの初級の生徒さんからこの質問を受けたら、「今説明するのは難しいです。皆さんがもっと勉強した後に説明します。」と逃げておきましょう。
ところが中級以上の生徒さんになるとそんな逃げ口上では納得しませんから、こういう生徒さんには「『は』も『が』も主語に付きます。主語を強調したいときは『が』を使います。『は』と『が』が混在する文章では大きい主語に『は』、小さい主語に『が』を使います。」と答えておきましょう。この説明でほとんどの場合が理解してもらえるはずです。(本当はこれ以外にもありますがそれは上級レベルになります)


黒板を使うときの注意
黒板に提示した新しい単語や文型を先生が発音するとき、その単語や文型を手で指すよう心がけると効果的です。初めてその言葉に触れる生徒さんにとって、先生が声に出したのは黒板に書いてある言葉なのか、そうでないのか分からないからです。手で指しながら発音するようにしてあげると、文字と発音が結びついて生徒さんの理解を助けます。