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PART2 「老健」食堂の涙の創作メニュー
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目次 1.感動の試食 |
(作者からひと言) 舞台は、介護老人保健施設わかばの食堂 ひとりの事務長の施設の食事へのこだわりと、そのこだわりを実現させようとする職員の苦悩と奮闘努力の過程をプロジェクトX的に書いてみました。 |
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| ちょっと立ち読みコーナー 〜ハッスル「老健」 62〜70ページ〜 | ||
●トップページ 業務内容 会社概要 代表者略歴 社長挨拶 便利屋にこだわる理由 お問い合わせ 東京支店代行開設準備室について |
こう言われて正直ちょっと戸惑った。実は食事のことを書くということは、ほとんど頭の中になかったからである。どこの施設も大きな差はないのではないか。 老人保健施設というのは、施設長を医師が務めるということからもわかるように、医学的管理の下に介護やリハビリが必要なお年寄りが主な対象である。こう定義付けられるとどうしても病院をイメージしてしまう(実際は病院と自宅の中間であるらしいが)。病院食といえば、プラスチックのトレイと器、きちんとカロリー計算や食塩などを抑えた食事が思い浮かぶ。それが画一的でおいしくないという固定観念を持っているのは筆者だけだろうか。 しかし考えてみれば、病院も老人保健施設もサービス業である。特に後者の場合、介護保険の施設サービスと大きく謳われている。 同じサービス業としてのホテル・旅館を考える場合、その選択基準はいろいろあると思うが、そのもっとも大きな要因のひとつが「食事」であるといっても過言ではあるまい。 たとえば、名門ホテルの一流シェフが腕を振るったオリジナルフランス料理。老舗旅館の京風懐石料理。山深い温泉旅館の山菜料理。海の近くの民宿なら新鮮な海の幸。利用者はその辺をしっかりチェックしてから、予約しようかどうしようか決める。 何度も言うが、ホテルも旅館も老人保健施設も、お客様に満足して泊まっていただく目的を持ったサービス業である、という点では変わりはない。しかし、どの福祉施設を扱った書物に目を通してみても、「食事介助」「栄養のバランス」という言葉は散見されるものの、本来の「食事メニュー」に言及しているものは少ない。むしろ、ほとんどない、と言ってもいいのではないだろうか。 老健わかばは、毎日工夫を凝らした創作料理を出しているという。興味を持ち、保科事務長を介してインタビューを申し込んだ。 ちょうど、昼食後一段落している時間でもあったので、調理部門の責任者二人は快く取材に応じてくれた。 調理部門のチーフは芳賀英行、そして管理栄養士の植松智子。二人ともまだ若く、三十代の前半であろうか。おとなしそうな外見であるが、ひたむきで芯が強そうな印象という点では共通している。誰もいない食堂で、テーブルを挟んで差し向かいに座った。こうして構えてしまうと、さて何から聞こうかと考えてしまう。 ちょっと沈黙が流れる。 「今日の分、試食してみますか?」 芳賀が突然言った。 前もって試食を申し込んでいたわけではないので、取材にあわせた特別メニューではない。毎日、お年寄りが食べている普通のメニューである。時間は、午後二時を過ぎようとしている。お昼ごはんをたっぷり済ませてからわかばへやってきたので、正直あまり腹は減っていない。残すと申し訳ないなぁと思いながら、出された食事を眺める。 今日のメインメニューは親子丼。 芳賀が名古屋の某有名店の親子丼をヒントにして、鶏肉をつくねに代えたものだという。それに小鉢とサラダがつく。汁物はのっぺい汁。それにスナック菓子のようなデザートがついている。小鉢は、細かくスライスしたおくらをだし汁で割ったもので、その上に色鮮やかないくらがたっぷり浮かべてある。サラダは、ベーコンとスパゲッティーをごま入りの特製ドレッシングであえたもの。のっぺい汁は新潟の郷土料理で、和風かつおだしの上品な汁の中に、里芋、大根、にんじん、ごぼう、油揚げなど具がたくさん入っている。 メニュー全体を見た感じは、とても色鮮やかな印象。まず、親子丼のじっとりと濡れた卵の黄色。それから、おくらとデザートのスナック菓子の鮮やかな緑。いくらの紅色がアクセントとして全体を引き締める。 コントラストが見事に取れていて、思わず食欲が湧いてくる。 親子丼へ手を伸ばす。つくねのやわらかさにまず驚く。筆者のよく食べるつくねは、焼鳥屋の串に刺さっているもので、歯ごたえがあって多少表面はざらざらしている。しかしこのつくねは、口に入れると溶けてしまうぐらいやわらかい。お年寄りが食べるために作られているので薄味だが、その分、肉のおいしさ、甘辛のつゆが卵と絶妙にからみあって実にうまい。 思わず、どんぶりを手に持って、かっ込むようにして食べていた。 のっぺい汁も、同じように薄味だが、だしが利いていてこれもうまい。具の細かく切った野菜が、口の中に入れると溶けていくようだ。 次ぎに小鉢に手を伸ばす。おくらのとろみといくらを噛んだときのプチップチッという食感がおもしろい。おくらが細かく切ってあるので、噛むというよりとろりとした液体を飲み込む感じ。不思議な感覚だ。 不思議といえば、さっきから気になる鮮やかな緑とベージュの粉でまぶしたスナック菓子のようなものは何なのだろう。芳賀に、「これは何ですか?」と正直に聞いてみる。 「食パンのミミです。パン粥を作ったとき余ったので、それを揚げて作ってみました」 事も無げに答えられて驚く。 「これはちょっとお年寄りには固いので、職員のお昼ご飯に出したのですが、どうぞ食べてみてください」 手にとって、緑色の粉のついている方を口に入れる。緑の粉は抹茶であった。あと、きなこと砂糖もまぶしてあるという。カリッと揚げたそれに、かつて学校給食の人気メニューだった揚げパンの記憶がよみがえる。言われなければパンのミミの廃物利用とは思えないおいしさである。もうひとつのベージュの粉がまぶしてある方を取り上げて食べてみる。ちょっと塩味がきいていて香ばしい。どこかで食べたことあるような・・・!? 「かっぱえびせんです。それを細かく砕いてまぶしました」 ちょっと恥ずかしそうに言われると、納得。食べたことあるはずである。 上品な甘みと塩味のコントラストが絶妙。 気がつけば全部きれいに平らげていた。 食べているときは気がつかなかったが、食べ終わって一息つくと急に満腹感がやってくる。好物のデザートは別腹というやつであろう。 保科事務長の言う「食事の充実」という言葉も十分納得のいくものであった。 しかし、素人目にも食材や材料費、人件費に制約のある老人保健施設で、創作料理を作って喜んでもらおうというのは、一朝一夕にできるものではないのはわかる。 事実、現在の水準に達するまで、芳賀と植松の苦闘の歴史があった。
2.
こんなもん出して、お前は恥ずかしくないのか 話は平成十一年にさかのぼる。老健わかばが設立した年だ。今でも管理栄養士の植松智子は、あの日のことが忘れられないと言う。 老健わかばの職員の昼食は、入所のお年寄りと基本的に同じメニューである。昼食の時間が来ると交代で下へ降りてきて、一階の食堂で食事を取る。食堂の入り口のテーブルの上に、ご飯やおかず、味噌汁、デザートなどの食材が置かれているバイキング形式。職員たちは、自分のトレイに料理を取って、それぞれの席について食事をする。 開設日は平成十一年九月一日。その日は、開設日の行事の慌ただしさの中にあって何事もなく過ぎた。 事件は二日目に起きた。 事務長の保科は、トレイの上にのる自分の食事を見て顔色を変え、思わず叫んだ。 「植松!! ちょっと来い」 施設の食事部門の責任者である植松は、突然の大声にびっくりし、おずおずと保科の前に足を運んだ。 「何だ。これは!! こんなもん出して、お前は恥ずかしくないのか?」 二十人近い職員が、シンと静まり返ってそのやり取りを聞いている。開設前には、食事の介助方法について介護職員に講義したりと、老健の中では食のスペシャリストであると自他共に認めていた植松としては、まさに穴があったら入りたいような気持ちだった。 「申し訳ございません」 心の中ではチクショーと思いながらも、黙って頭を下げた。 その日のメニューは、麻婆豆腐、かに風味の酢の物、中華スープ、それにバナナが一本。取り立てて悪いメニューではないような気がするが、麻婆豆腐が見るからに脂っこそうで少し黒ずんでおり、見栄えがよくない。つまりおいしそうに見えなかったという。それにバナナが一本、ドンとトレイに置かれているのはあまりに芸がない。食欲の湧ゆく取り合わせではないではないか。 老健わかばの食事は、日清医療食品株式会社という調理専門会社に委託して作られている。その委託会社は、病院食を主体に一部特別養護老人ホームも手がける大手企業。もちろん調理師のインストラクターが派遣され、付きっ切りで厨房で作ったもの。老人食として栄養的には全く問題ないし、衛生的にも十分配慮されている。また老人の障害の程度によって、ミキサー食、キザミ食、普通食と作り分けてもいる。ただ、食事の盛付け方、彩りを考えていない。お年寄りに食欲を出してもらい、食事を楽しんでもらうという工夫がなかった。何よりおいしそうに見えなかった。 植松は施設の職員として、委託会社が作る食事全般を管理する立場にあった。彼女に言わせれば、「その日が地獄の始まり」だったという。 次の日の朝、保科は朝一番に施設へやってくると、入所のお年寄りが朝食を食べているところを遠くからじっと見ていた。その日の食事も、保科には大いに不満だった。食事の盛り付けがよくない。見栄えが悪い。そしてお年寄りには、硬い。その日のメニューには、きんぴらや揚げ物があったそうである。普通の人にとっては、それらにある程度のかたさというか、「食感」が大事だが、お年寄りにとっては、硬い、噛めないとなる。お年寄りの食事の基本は、食べやすく、やわらかく、思わず食欲が湧いてくるように作らねばならないという信念が保科にはあった。病院、福祉施設と長い勤務経験を持つ彼は、病院や福祉施設に入っているお年寄りの楽しみは一体何だろうと常に自問自答する。食事、お風呂、レクリエーション・・・。その中のひとつである食事は、絶対粗末に扱うことができない。その保科の信念が、植松から見て、地獄の閻魔様のように写るのである。 続く |
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ホームページ管理人の本![]() ●ハッスル!「老健」 −介護老人保健施設のすべてがわかる本− 単行本: 283 p 出版社:ゆまに書房 ISBN: 4843311669 ; 2004/04発売 |
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