かけぬける風は優しく暖かい
すぐそこに春を感じさせる風
『春がきて、ずっと春だったらいいのに』
そう言っていた優しい少女の顔を思い出す
真琴、春はもうすぐそこだぞ・・・
「ゆういちせんせ〜!」
屋上でタバコをふかしていた祐一にパジャマ姿の女の子がかけよってきた。
「ゆうい、わったた」
「おっと!」
足のもつれた少女を祐一は優しく抱きとめた。
「こら、真琴!病院では走ってはいけないぞ!」
「えへへ、ごめ〜ん、ゆういちせんせ〜」
少女・・・真琴は照れ笑いを浮かべて言った。
「で、なんだ」
「べつに何でもないけど〜」
と言って真琴は祐一の隣に座った。
ふと、幼いその横顔が、いつの日かの少女の横顔を思い起こさせた。
「窓から見ていたらゆういちせんせ〜が暇そうにしてたから・・・」
「俺は別に暇じゃないぞ、こうして英気を養っているんだ」
「名雪さん、探してたよ」
祐一は思わずむせる。その姿をみて真琴は笑った。
「名雪さん、怒らせると怖いよ〜」
「うっ」
祐一が言葉に詰まると、真琴は言った。
「もうすぐくるんじゃないかな?祐一!どこいったの!って」
「いいんだよ、今は休息時間なんだから」
「もう今から尻にしかれてるんじゃ、この先、どうするの?」
「おまえは・・・どこからそんな言葉を・・・」
祐一の言葉に真琴は笑った。
その笑顔を見て祐一もほほ笑む。
そのとき・・・
「あっ」
二人の間を、暖かい風が吹き抜けていった。
風は二人のほほを優しくなでて、病院の屋上の植木を揺らしていった後、空へ飛んでいった。
「春・・・の風だね」
「そうだな・・・」
真琴が言った言葉に、祐一が答える。
柔らかい日差し、はためく真っ白なシーツ、吹き抜ける風の音
春の足音が聞こえる午後の日
「春がきて・・・ずっと春だったらいいのに・・・」
真琴の何気ない一言に、祐一ははっとして振り向いた。
幼い少女の面影が、あの日の少女と重なる。
「真琴・・・どこでそれ・・・」
「って、ゆういちせんせ〜の口癖だよね?」
と真琴は言った。
「そ、そうだったか・・・」
「うん!一人でぼーとしてるとき、いつも言ってるよ」
と真琴は笑った。祐一も苦笑する。
「そうか、そんなこと言ってたか?」
「うん!そうだよね、いつもこんな風の中でサボってたいよね〜」
といたずらっぽく真琴は言って、う〜ん、と両手を天に伸ばした。
「別にさぼってないといってるだろうが!」
「はいはい、わかってます」
「わかってないだろ、おまえ」
「わかってるって・・・でも」
そう言って真琴はうつむいた。
「でも、春の喜びがわかるのは、きっと冬のつらさを乗り越えるからだと思う。
冬の寒さや厳しさを我慢して耐えてこそ、春の暖かさが
よりいっそううれしく思えるんじゃないかな?
そう考えると「ずっと春だったらいいのに」ってなんだかさびしい言葉だよね?
まるで春がこないような、こない春を待っているような、そんな気がする・・・」
「・・・そうか・・・」
真琴は顔を上げると、笑顔で言った。
「ねぇ、これってゆういちせんせ〜のオリジナルじゃないよね?」
「ああ、まあな」
「やっぱり!なんだか女の子っぽい台詞だもんね♪」
と真琴は言った。
「その娘って、ここの患者さん?」
「いや・・・」
そう言って、祐一は屋上のフェンスの向こうに見える緑の丘に目をやった。
「もうずいぶん前に、遠くにいってしまったよ・・・」
「・・・そっか・・・」
真琴は立ちあがると、フェンスの鉄網に手をやる。
風が真琴の髪を揺らして、羽ばたいていた。
「お〜い、聞こえるぅ〜!」
真琴は突然、声を張り上げてフェンスの向こうに向かって叫んだ。
フェンスの向こう・・・緑の丘に向かって・・・
「春はもうきたよ〜、寒い冬にさよならして、春はきたよ〜
そしていずれ夏がきて、秋がきて、冬がくる・・・
そうすれば春はまたくるんだよ〜。春はいつだって巡ってくるんだよ〜
だから・・・・」
真琴はそこで言葉を詰めた。
「だから、冬の冷たさに負けないで!
冬の冷たさは巡ってくる春を暖かくしてくれるんだから!」
「真琴・・・」
祐一がつぶやいたとき、風が真琴を祐一を取り巻くように吹いた。
「きゃっ」
「・・・っ」
春の風というには少し乱暴な、でも二人を包み込むようにふいた風は空にふきぬけていった。
「へへ、わかってるって言われちゃった♪」
「真琴、髪がみだれてるぞ」
真琴は髪を手でなでる。祐一は真琴に近づき、髪についたごみをとってやった。
「ありがと、ゆういちせんせ〜」
「・・・こちらこそ」
「へ、なにが?」
「・・・ありがとうな、真琴」
祐一は真琴の頭に手をやってなでた。
真琴は良くわからないと言う風な顔をしたが祐一になでられるとうれしそうに笑った。
そこへ・・・
「ゆういちぃ!!!ここだったのね!!!」
バタン!と屋上のドアを思いっきり勢い良く開けて、仁王立ちしているナースがいた。
「な、名雪・・・さん」
「あ〜あ、みつかっちゃった・・・・」
おもわずさん付けになる祐一に、いたずらっぽく笑う真琴。
ナース姿の名雪は祐一に近づいてきて、耳を引っ張った。
「いてて、いたいぞ!名雪」
「相沢先生、午後は回診があることをお忘れですか?」
「あの、え〜と、いえ、忘れてないですぅ」
名雪の笑顔の額に青筋がたっているのをみて、祐一は何もいえなくなった。
「では、いきましょうか?相沢先生!」
「え〜と、はい・・・いきます」
「あ〜あ、もう尻にしかれっぱなしなんだから・・・」
「そうそう、真琴ちゃん!」
そう言うと、名雪は真琴の耳も引っ張って言った。
「いたい!名雪さん!いたいよ〜」
「今日は検査の日だって言うの、わすれちゃったのかなぁ?」
「え〜と、その、はい、忘れてません・・・」
「じゃあ、二人とも覚悟はいい?」
「え〜と、はい、いいですぅ」
名雪の声に二人の言葉がはもる。
二人は耳を引っ張られたまま、屋上のドアへと消えていった。
その姿が見えなくなると同時に、屋上の植木を風が揺らした。
まるで笑い声を上げるように・・・
あとがきです♪
さて今回は真琴ストーリーでしたが・・・って違う真琴しかでてないじゃん!