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RPG −Random Personality Girl− 「ちっ、シケてんなぁ。たったの銀貨10枚かよ!」 空になった宝箱をつま先で足蹴にして、デューイは不満たっぷりに洩らした。 「そりゃ仕方ないよ。だってこのダンジョンってまだ新しくて、出入りしてるはモンスターくらいだからね」 さも当たり前のようにディアスは返すが、当然デューイだってそのくらい百も承知である。 「んな事は分かってるよ!」 分かっている事を他人に指摘されるほど嫌な事はない。案の定、デューイのイライラは高まるばかりだった。 「そうじゃなくて、お前はいいのかよ。たった銀貨50枚の依頼だぞ。それも後払い。俺達じゃ3日も持たねぇっての! だからこうして俺が宝箱を探してんじゃねえか」 「まあまあ、そう怒らないでよ。いいじゃん、それで村の人たちが安心できるならさ」 「嘘は休み休みに言え。お前は戦えればそれでいいんだろ?」 「あったり〜!」 どうしてコイツはこう戦闘狂なんだと、デューイはうんざりした表情で手にした銀貨を皮袋にしまった。 まあ、闘士が戦闘を恐れていたら話にならないのだが、にしてもディアスの戦闘好きには振り回されっぱなしである。避けられる戦闘にも進んで首を突っ込んでいく性格なのだ。頭脳労働者を自負するデューイとしては、ただただ迷惑なだけである。 そんなこともあり、デューイの八つ当たりの矛先はついついディアスへと向いてしまうのだった。 「ほらほら、デューイくん。宝箱の中身に文句をいっても始まらないよ」 そんなデューイを、レムが優しい口調でなだめた。 言われてデューイは口を閉じる。レムに反論するのは、自分の命を削るようなものだという事は、すでに経験済みだ。 彼ら――盗賊デューイ、闘士ディアス、白魔術師レムの3人は、特に目的も持たない流れの冒険者だ。 勝手気ままに旅を楽しみ、ある時は未開のダンジョンの財宝を狙い、またある時は困っている村に目をつけ依頼を受けて生計を立てる。まさに行き当たりバッタリの、なんでも屋的パーティであった。 その功績(?)からついた呼び名は数知れず。ダンジョン荒らし、へっぽこ白魔術師とそのお供、バトルジャンキーと愉快な仲間達、ニセ勇者様御一行、etc……。 吟遊詩人にサーガを詠(うた)わせたら間違いなく悪名として轟いてしまいそうなこの3人。今回は、モンスターの被害にあえぐ村を救う(?)ために立ち上がり、元締めであるボスを退治するため、こうして巣窟であるダンジョンに来ていたのだった。 「しっかし、あれだよなぁ。俺たちってホント、バランスの悪いパーティだよな」 ディアスの倒したモンスターから戦利品を奪い、デューイがボヤく。 「そうかな? 結構、仲良くやってるじゃない」 「そうじゃなくて、戦闘のコトを言ってるんだよ」 レムの言葉に、すかさずデューイはそう答える。 「戦闘はほとんどディアス任せだろ。俺は戦えない事はないけどレベル低いし、レムなんか戦力以前の問題だしさ」 「ひっどーい!」 レムは唸って杖を振り回すが、自覚があるのかそれ以上は文句を言わない。 デューイの言うとおり、彼らパーティのバランスはかなり傾いていた。 冒険者、ことモンスターを相手にするパーティには基本形がある。勇者、戦士、闘士、黒魔術師、白魔術師の5人一組がそれにあたる。まあ、勇者は血筋で選ばれるモノだからそれはともかくとして、剣や斧で外面から叩き潰す戦士、肉体を武器とし内面から破壊する闘士、攻撃の魔術を繰り出す黒魔術師、そして癒しの魔術を使う白魔術師。これが、まさにどんな状況にも対応できる理想のパーティ像なのだ。 ちなみに、魔王を倒したという伝説の勇者様御一行は、前3人と、白黒両魔術を扱う賢者、そして精霊の力を借りる召喚士だったという。 だが、彼らといえば、 盗賊としての技能は高いが、道徳的観念が乏しく、レベル2の戦士と同等の力しかないデューイ。 闘士としてはマスタークラスだが、精神年齢がかなり低く、まるでお子様なディアス。 そして、人としてはデキてるかもしれないが、基本中の基本の白魔術しか使えないレム。 確かに偏っている。全体的にも、個人的にも……。 「な、話にならないだろ。まあ、賢者や召喚士は希少だから仕方ないけど、せめて戦士と黒魔術師くらいはほしいよなぁ」 言いえて、デューイは肩をすくめてみせた。その姿にレムが憤る。 「あ〜、デューイくん忘れてるぅ。私だって召喚術なら使えるんだから」 「レムのは『使える』じゃなくて、『発動させられる』だろ。そんなの知識のある者が詠唱すれば、誰でも出来るっての。使えるってのは、必要な精霊を確実に呼び出せることを言うんだよ」 デューイの正確な指摘に、横にいたディアスは「うんうん」と首を縦に振った。 「うぅ、ディアスくんまで……いいもん、私には白魔術があるんだから。これがなきゃ、今ごろ二人はケガで棺桶の中だったのよ。ね、私ってスゴイでしょ」 と言われても、二人には何がスゴイのかサッパリだったので、とりあえずデューイは「薬草のほうが回復が早い」、ディアスは「薬草のほうが良く効く」と、にこやかに笑って言った。 「あ、あんたたち、覚えてなさいよ〜」 静かな洞窟内に、レムの恨めしげな声が木霊した。 それにしても深いダンジョンだった。もう、かれこれ2時間は歩いただろうか。すでに日の光は届いておらず、今やレムの魔術が生み出した小さな光だけが、先を照らす頼りとなっている。 当人は、「やっぱり私の力は必要よね」と胸を張っているが、それはさておき、 「……おかしいな」 「うん。何か変。空気が重くなってきた感じ、かな? モンスターも手ごわくなってきてるし」 デューイが一番初めに異変に気づき、ディアスも同調して額の汗を拭った。これは、パーティが危機的状況に陥りかけていることを示唆していた。 盗賊のデューイは、とにかく危険事には鼻が利く。ダンジョンによくあるトラップや、物陰のモンスターまで、ありとあらゆるモノを第6感、すなわち直感で感じ取るのだが、それが今、背筋のあたりをチリチリと刺激していたのだ。 ディアスにしてもそうで、デューイとレムを庇いながら戦っているとはいえ、仮にもマスタークラスの実力は備えており、多少のバトルでは汗一つかかない。だが、奥に進むにつれモンスターの数と力が増大していき、さすがに疲れの色を見せ始めていた。 「村人たちの噂以上に、ココはヤバイところみたいだな」 「うん。この様子だとボスもかなりレベルが高そう」 そんな二人の心配をよそに、レムだけは飄々としたものだ。 「なに、どうかしたの? はは〜ん、もうバテちゃったんでしょ。回復したい?」 この調子である。お気楽な人は羨ましい。 「レム、よく聞けよ。少しマズい事になりつつある。一旦引くぞ」 デューイの判断は的確だ。かすかに感じたモンスターの気配と視線、そしてディアスの疲労を計りにかけて、後退の道を選ぶ。だが、そう思うように事が進まないのが冒険というものなのかも知れない。 「なに言ってるのよ。今はモンスターもいないし、先に進むチャンスじゃない。はいはい、素直に回復してくれと言えないのは分かってるからね。ほら、次の広間で癒しの魔術を使ってあげるからさっさと行こ!」 パーティというのは、大抵こういうキャラを一人は抱えてしまうものだ……。 「おいっ、レム! ちっ、ディアス行くぞ!」 「うん!」 制止を振り切ったレムを追い、通路を抜けて少し高さのある広間に出たその時。 「キャ〜、ちょっとなんなのよ〜」 悲鳴が響いた。ここまでくるともうお約束である。 「レム、戻れ!」 「デューイ、間に合わないよ。僕たちも行こう!」 「ったく、言ってるそばからこれだ」 「なにも今に始まったコトじゃないけどね」 そんな事をボヤながら、二人はレムに追いつき囲むようにして戦闘態勢をとる。 闇の中に赤い小さな光がいくつも灯っていた。おそらくモンスターの眼光であろう。レムの悲鳴と共に、あっと言う間に潜んでいたモンスターの群れが姿を現したようだ。 グルルゥゥ、というモンスターたちの低い唸り声が、前後左右から響いてくる。3人はジリジリと間合いを詰められ、ついには広間の中央に立ち往生となった。 「さて、止めた矢先にピンチという状況になってしまったわけだけど……」 「うぅ、ごめんなさい」 デューイの一瞥にレムは身を縮めた。そこに追い討ちをかけるようにディアスが、この数はちょっとキツイかもと、辺りを見回して珍しく弱音を吐く。 戦闘狂のディアスでさえも、さすがに渋面を浮かべるしかないようだ。かなりの数である。大きいものから小さいものまで、ありとあらゆるモンスターが30近くはいるだろうか。 ここで黒魔術師でもいれば、広範囲を攻撃できる魔術でも使い、余裕で切り抜けられただろうが、今いるのはヘッポコ白魔術師一人だけである。 「いけるか?」デューイがディアスに耳打ちする。 「ただ倒すだけならなんとか、ね」 ディアスの言葉には、『二人を守りきる自信はない』というニュアンスが含まれていた。レムはただ、苦笑いを浮かべるしかないようで、手にした杖をぎゅっと握り締めた。 「わかった……レムは俺が守るから、お前は突破口を開いてくれ」 そう言ってデューイは先ほど来た道に視線を送り、ディアスはそれに無言で頷く。オロオロと動揺してたレムも、事態を飲み込みデューイの傍により添った。 「さて、行くかっ!」 合図と共に、デューイは愛用のバックから『オレ流七つ道具』のひとつ『エスケープボール』(単なる煙玉)を取り出し、地面に叩きつけた。瞬く間に白煙が立ち上り3人の姿を煙に巻く。 瞬時にディアスは駆け出し、通路を塞いでいる熊を思わせる巨大なモンスターに向けて高らかに跳躍した。 「おりゃぁぁぁあ!」 “気合一閃”もとい“気合一蹴”。ディアスは自分の倍以上もの背丈のあるモンスターの側頭部に、スピードの乗った回し蹴りを叩き込んだ。さすがは闘士。肉体的能力はピカイチだ。 そして骨の砕ける鈍い音に続き、モンスターの悲鳴が響く。すかさずディアスは出る限りの声で叫ぶ。 「今だよ!」 デューイはレムを抱え込むようにしながら走り出し、七つ道具をダガーに持ち替え、迫り来るモンスターたちを切りつけていった。やがて、煙の先からディアスの戦っているシルエットかすかに見えてくる。 「あと少し……」 「一気に行くぞ!」 レムが小さく呟き、デューイは一気に駆け抜けようとしたその時、 「なっ!? ツッ!」 突然、眼前にディアスの姿が現れ、3人は激しい勢いで衝突した。 煙に巻かれて視界を奪われているのは、なにもモンスターだけでなくディアスもそうだったのだ。そして、虚をつかれ吹き飛ばされたのである。 デューイに守られていたレムは、ダメージが一番浅かった。とっさに起き上がり声をかける。 「二人とも大丈夫?」 「なんとかな」と、デューイ。 「こっちも」と、ディアス。 特に深い傷を負っている様子もなく、レムはホッと胸を撫で下ろした。だが、煙玉の効果は短く、3人が倒れているうちに煙は次第に薄れていき、やがては視界が開けるまでに消えてしまった。 そして3人は、再びモンスターの群れに囲まれてしまう。 「万事休すだな……」 デューイはギリギリまで策を練ったが、もう手の内にカードは残っていなかった。ディアスの疲労さえ回復すればなんとかなったかも知れないが、白魔術で回復している暇はなさそうだ。さすがに諦めしか出てこなかった。 瞬間、3人の脳裏に全滅の2文字がよぎり、覚悟を決めさせた。 「ここまでか」デューイは天井を仰いで呟いた。 「もっと旅をしたかったなぁ」ディアスは遠い日の思い出に浸る。 「仕方ない、やるしかないか」と、レム。 「…………」 「…………」 『……ハァ?』 絶体絶命の状況にそぐわないセリフに、デューイとディアスは同時に気の抜けた声を出した。 「ま、まさか……」 「ちょっと、レム?」 事態をなんとなく予測し、二人の顔が見る見るうちに青くなる。と言うよりも、実際に青色に染まっていった。それは、レムの足元に浮かび上がった魔法陣が、青い光を発し始めたからだ。 「レム! こんな閉塞空間で使う気か?」 デューイが慌てふためく。 「あぁ、やっぱりこうなるんだね」 ディアスは悲しげな表情で呟く。 そんな二人とは対称的に、レムはどこか嬉しそうだ。嬉々とした表情で言う。 「大丈夫。今回こそ成功するかもしれないじゃない。それに“殺られる前に殺れ”ってよく言うでしょ!」 「さらりと物騒なコトを言うな〜!」 「はいはい、文句は後で聞くからね」 そう言ってデューイにウインクをしてみせると、レムは杖を掲げて詠唱を始めた。 『水の精霊ウンディーネちゃん……』 「だぁぁあ、始まった! ディアス逃げるぞ……って、いねえ!」 デューイが退避の指示を出した時には、すでにディアスは颯爽と駆け出して、群がるモンスターを蹴る・蹴る・蹴るでなぎ払っていた。彼は、魔法陣を目にした瞬間にもう逃げ出していたのだ。 「おいっ、俺を残して逃げるな〜!」 デューイの慌てようも半端ではない。急いでその場を離れると、ディアスが切り開いた道をひたすらに駆け抜けていった。 そんな二人をよそに、詠唱は続く。 『……その、すべてを清める水の流れ……』 魔法陣から小さな雷がパチパチと発生し始めた。モンスターたちは本能的に危険を感じ取ったのか、それぞれにレムに向かって爪や牙を立てる。しかし、それはことごとく魔法陣の垂直にのびる光に弾かれていった。 次第に雷は大きくなり、魔法陣の外にまでほとばしる。そして、レムは掲げた杖を魔法陣の中心につき立てた。 『あなたの力を私に貸して!』 閃光が煌いた。真っ暗な洞窟内に一瞬にして太陽が現れたかのようだった。そして間を置かずに、 ――ドカーン! 凄まじい炸裂音が響き、何本もの極太の雷が魔法陣から飛び出した。それは、地から雷が吹き出しているという表現が一番適切だろう。 それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。踊り狂う雷は次々と地を抉り、壁を砕き、天井を落としていく。モンスターたちは逃げ惑い、聞こえてくるのはとめどない破壊音と断末魔の絶叫だけ。 「……やっぱり失敗したね」 「ああ、あと数秒遅れてたらヤバかった」 いち早く岩陰に逃げ込んだ二人は、眼前で今も繰り広げられている惨劇に口を揃えて声を洩らした。 先の話に出た、召喚術の『使える』と『発動させられる』の違いがコレだ。 召喚術というものは、そもそも術者が精霊に直接会って契約を交わすことにより、初めて使用可能となる代物である。もちろん、その契約も生半可なことでは交わせるようなものではなく、それが召喚士が賢者に並び希少な存在といわれる由縁だ。 だが、イレギュラーな方法もある。実は、契約を交わしていなくても召喚は可能なのだ。 それは余りにも単純な方法で、魔法陣で精霊との空間を繋ぎ、『呼び出す』ではなく『引っ張り出す』という強引極まりない手法であった。と言う訳で、魔法陣を描く知識さえあれば、誰でも召喚術を『発動させられる』のだ。 しかし、やはりイレギュラーな手法。というか、人間より遥かに高い知識と力をもつ精霊が、素直に引っ張り出されるわけがなく、成功率は限りなくゼロで(ゼロではない)、失敗すれば精霊のかわりに、空間の歪みが雷として飛び出してきてくれるわけである(もちろん制御不能)。 デューイとディアスも、もう何度この光景を目にした事か……。ふと脳裏に苦い記憶が浮かび、二人は身震いした。 「ねえ……」 呆れ声でディアスが口を開く。 「今回で何回目だっけ?」 「確か、28……いや、29回目だったかな」 「どっちにしても成功率0パーセントだよね」 「ああ」 ……パーティに破天荒なキャラがいるのも問題だ。 「なぁ……」 今度はデューイが聞き返す。 「今回はどのくらい続くと思う?」 「どうだろうね。確か、前回は20分くらいは止まらなかったけど……」 「今回も長そうだな」 「そうだね」 ……二人の苦労は絶えない。 「はぁ〜、スッとした! やっぱり週に一度はコレをやらないとね」 「そこっ! 論点のズレたコト言ってんじゃねぇ!」 「そうそう、巻き込まれる僕たちの身にもなってよ!」 そんな会話(?)が交わされるようになったのは、惨劇がたっぷり30分は繰り広げられたあとだった。 「え〜、二人ともなに怒ってるの? モンスターを倒せたんだから結果オーライじゃない」 あれだけの雷を足元から放出させた本人が無事ってのも、それはそれで恐ろしい。普通は術者も雷に巻き込まれてゲームオーバーなのだが、何故かレムだけはその誓約をまったく受け付けないのだ。お陰でデューイとディアスは、毎回、命からがらに逃げ回る事になっているのだった。 辺りにはすっかり静寂が戻り、あちらこちらに砂塵と共に焼け焦げた匂いが立ち込めていた。それが砕かれた岩盤と、雷に打たれたモンスターのものだということは考えるまでもない。 「ったく、簡易召喚の成功率は0.1パーセントだぞ! 0.1! わかるか? 1000回に1回しか成功しないようなモンを、そうホイホイ使うなっていつも言ってるだろ! 俺たちまで殺す気かっ! それに岩盤を落として道が塞がったらどうするんだよ!」 デューイの言う事はもっともだ。非の打ち所は微塵もない。 「むぅ〜、デューイくんはすぐ怒るぅ〜。いいじゃない、みんな無事なんだし、道もちゃんとあるんだからさ。ん、あれ?」 レムは何かに気づき、魔術で呼び出した光の光度を強めた。 「あれ、あれれ? ねぇ、デューイくん。先に進む道がないんだけど」 「はぁ、なにをバカなコト……」 デューイは毒づきかけたが、辺りを見渡して声を失った。今まで来た道以外に、本当に道らしきものがなかったからだ。かわりに砕けた岩盤の破片がところどころで山積みになっていた。 「あのなぁ、やっぱり岩盤が落ちたんじゃねえか。どうするんだよ。ここまで来ったってのにさ。『途中まで行きましたが道が塞がってしまいました』じゃ報酬は出ないぞ!」 「違うよ。ホントに、道自体がないんだって」 そう言ってレムは指先で光の玉を操り、壁に沿わせて広間を一周させる。 「マジかよ……」 デューイは照らされた壁を見て、呆然と呟いた。 光の先には、道どころか道らしき物さえなかった。確かに、岩盤の破片が山積みに落ちてはいるが、それ以前に壁がすべて一枚岩で、道どころか穴すら開いていた形跡がない。 「じゃあ何か? ここがダンジョンの一番奥か?」 「みたいね。先に進む道が無いわけだし、来る途中に分かれ道もなかったからね。まあ、2時間も歩き続けたんだもん。ここで終わりでも不思議はないわよ」 「ところでさあ」 ふと思い出したようにそう言ったのは、ディアスだった。 「ボスは? ここで最後ならいるはずだよね。来る途中では会わなかったんだから」 言われてデューイとレムはハッとした。確かに、ダンジョンの一番奥にはボスがいるのが世のお約束であり、今回の目的はそのボスの退治である。召喚のゴタゴタと道の話で、二人はそんな事すっかり忘れていた。 3人の間に妙な空気が流れた。重い空気と軽い空気がせめぎあっている……そんな混沌とした空気だった。 そんな不穏な空気の中、まるで事実から目を背けるようにデューイがポツリと言う。 「もしかして、このダンジョンには元々ボスなんていなかったんじゃ……」 その問いに、ディアスが嫌々ながら答えを返す。 「村の人が言ってたじゃん。襲ってくるモンスターの中に特別強いのがいて、それがボスだって。今は、なんか信じたくない気分だけど……」 空気が更に混沌とした。重い空気は更に重く、軽い空気は更に軽くなったのだ。 「じゃ、じゃあさ、ボスは外出中だったとかは……考えられないか?」 「……まさか。だって僕たち、ボスがいる時間帯をねらってココに来たんだよ。それに、このダンジョンって一本道だったから入れ違いはありえないし」 「…………」 「…………」 「と言う事は、ボスは……」 誰ともなく呟くと、デューイとディアスの視線がレムに集中した。 「えっ!? えぇえぇぇぇ!」 レム驚き方は、やけに大げさでワザとらしいものだった……。 きっと、薄々感づいていたに違いない。広間にいたモンスターは全滅。その中にボスがいたのなら、彼女が引き起こした雷にやられたということは容易に想像できる。それに、混沌とした空気の軽い方は、レムの含み笑いがもたらしていたのだから。 おそらくレムは、自分からは言わずに、二人に認めさせてから喜ぶつもりだったのだろう。 ワザとらしいレムの歓声が響く。 「なに? 私? もしかして私がボスをやっつけたの? うそっ! えっ、二人はどう思う?」 ここまで結論が出ながらも、更に二人に疑問符を投げかけて認めさせようとする辺りに、レムの意地の悪さがうかがえる。 「ん、ああ……レムが、倒した……みたいだな」 「そ、そうみたい……だね」 そんな曖昧な二人の返答に、ここぞとばかりにレムの態度が大きくなった。 「ふぅ〜ん。私がボスを倒したんだぁ〜。へぇ〜、私がねぇ。あっ、って事は、これで私のレベルは上がるわけよね。で、あっと言う間に二人を追い抜いちゃうわけだ。キャハハ!」 ここまであからさまに言われると、デューイもディアスも、ただ互いに顔を見合わせて肩をすくめるしかないようだ。苛立ちを通り越して、呆れているといった感じである。 「すご〜い。スゴイよ! 私、ボスなんか倒したの初めて! さて、レベルはいくつ上がるのかな〜。一気に5ぐらい上がっちゃったりして。へへへ!」 「レム、喜んでいるところ悪いが……」 見ていて恥かしくなるようなレムの喜びよう。それをそのままにしておくほど、デューイの人間性は出来ていなかった。さらりと一言で、それを地に墜とす。 「たぶん、いや、絶対にレベルは上がらないと思うが」 一瞬にしてレムの表情が凍り付く。 「えっ!? ちょ、ちょっと、なんで? あっ、わかった。負け惜しみでしょ? だからデューイくんはそんなイジワルな事いうんだ」 デューイは大きく溜息をついた。いい加減自分で気づけよ、とも言いたげだ。 「あのなぁ、レムは過去28回、簡易召喚を発動させたわけだが、一度でもレベルが上がったことはあるか?」 「うっ、そ、それは……」 一度たりともなかった。 「簡易召喚って、精霊を呼び出して初めて成功だからなぁ。いくらなんでも失敗した術じゃ経験値は発生しないだろ。それにレムは白魔術師だろう。白魔術を使わなきゃレベルどころか魔力だって上がらないって」 「うぅ、た、確かに……」 先ほどまでの勢いはどこへいったのやら、レムは顔色を黄色から青へと反転させてがっくりと肩を落とした。 「ま、そう落ち込むなよ。レベルなんていつかは上がるもんだ」 そのいつかが不明瞭なだけに、デューイの言葉はフォローになっていない。 「そうそう、レムならいつかすっごい魔術師になれるって。いっそのこと召喚士にでも転職したら?」 そう簡単に召喚士に転職できるなら誰も苦労しない。ディアスの言葉もまた、フォローになってなかった。 だが、とことんお気楽主義なレムには、その言葉だけで十分だったようだ。そうだよね、と、あっと言う間に笑顔を花開かせると、次こそ成功させるぞ〜、と一人意気込むのだった。 転職を少しも考えずに、1000回に1回を狙う辺りが、また別の意味でスゴイ……。 「ま、なんにせよ、これで村を救えたんだ。よしとして帰るか」 「そだね。ねぇ、次はどこに行く? 僕はもう少し有名なダンジョンに行きたいんだけど」 「…………」 デューイとディアスは、口々に安堵の声を洩らし帰り支度を始める。だが、なぜかレムだけは浮かない顔だった。 「ん、どうした? まだレベルの事を気にしてるのか? 大丈夫だって。レムの白魔術だって捨てたモンじゃないぞ。もっと自信を持てよ」 「そうそう、レムに回復してもらわなかったら僕たちは今ごろ棺桶の中だったからね」 二人はいつぞやの話を掘り返すが、レムの考えている事はもっと別のことのようだ。 「ううん、違うの。どうしたら召喚が成功するのかなぁと思って」 それは単に精霊と契約すればいいだけのこと。だが、さすがは1000回に1回を狙うチャレンジャー。あくまでも簡易召喚にこだわっているようだ。 「う〜ん、やっぱり詠唱がいけなかったのかなぁ? 今度は最後に『お願い』ってつけてみようかな?」 はっきり言ってそれ以前の問題だ、とデューイは思うのだが、これ以上レムを責めるのは気が引けたので、あえて話に乗って元気付けようとする。 「それは必要だな。やっぱり頼みごとをする身としては、その一言は重要だろう。あと、呪文をもっと複雑な言葉で組み立ててみたらどうだ?」 ディアスも同様に話に乗る。 「二人とも違うよ。それ以前に、名前のちゃん付けがマズいんじゃない? さっきもウンディーネちゃんって言ったでしょ。精霊に性別ってないけど、ウンディーネは一応、大人の女性みたいなもんだからね。今度はさん付けで呼んでみたら?」 こんな他愛もない会話が、レムをさらなる挑戦へと導くとは、この時二人は予想だにしなかっただろう。 「なるほど、確かにそうよね。それじゃあ早速ためしてみるね……水の精霊ウンディーネさん……」 瞬時にレムの足元に青い魔法陣が浮かび上がる。 「なっ!?」 「うそっ!」 再び目にする凶悪な光景に、今まで笑顔だった二人の表情は、一瞬にして薄氷のように凍りついた。 『……その、すべてを清める水の流れ……』 「ちょっと待て〜。それだけの理由で使う奴があるかぁ? おい、ディアスお前も止めろ……って、またか〜!」 視界の端に、颯爽と走り去るディアスの後ろ姿を捉え、デューイも慌てて駆け出す。 「てめぇ、また俺を置き去りにしやがったな!」 「仕方ないじゃん。あの光を見ると、体が勝手に動くんだよぉ!」 そんな不毛な言い争いに構わず、レムは小悪魔的な微笑を浮かべ魔法陣に杖をつき立てた。 もしかしたら、レムは先ほどの経験値未獲得の鬱憤を、コレで晴らすつもりなのかも知れない。ついでにデューイとディアスを巻き込んでやろうという魂胆を抱きながら……。 まあ、それは当人にしか知りえないことだが、女心とはかくも複雑なものだ。ありえないとは言い切れないだろう。 「急げディアス!」 「ダメ、間に合いそうにないよ〜!!」 その時、レムの口元が艶かしく歪み、最後の呪文を紡いだ。 『あなたの力を私に貸して! お・ね・が・い(はあと)』 閃光が……煌いた……。 『ギャァァ〜〜〜』 彼らの苦悩が晴れる日は、当分先になりそうである。 <あとがきです♪> どもども管理人です お久しぶりのSSUPっといいたいですが、この作品は当ページを訪れてくれているお客様、雨響さんからのいただきものです 最近、いただきものだけでページを維持しているような気がします(汗) いけませんね、もっと気を引き締めねば(笑) というわけで、この作品ですが、コミカルなキャラとテンポのよいストーリーでさくさくと軽く読ませてくれる良作ですね♪ 皆様はどうよまれたでしょうか? さてさて、毎度おなじみですが、ご感想なんぞくれると原作者の方も喜んでいただけるとおもいますので、よろしくお願いします♪ 感想はらくがき帳か、雨響さんのHPへお願いします♪ 雨響さんのHPへいくと、新たなレムたちを見れるかもしれません(笑) それではではぁ♪ 雨響さんのHP |