月下の夏海〜第1話〜

「うみ〜!?」

志貴様の言葉に、その場にいた全員、秋葉様、アルクェイド様、シエル様、姉さん、そして私は一斉に声をあげました

「あぁ、たまにはみんなで旅行っていうのも悪くないかなって・・・」

「そうそう、せっかくの夏休みなんだから、みんなで遊びに行きましょうよ!」

志貴様のお友達の乾様が、にこにこと私達に笑いかけながら言いました

志貴様はそんな乾様の姿をみて、なんだか複雑な顔をしています


海はやっぱり江ノ島!

「海か・・・、悪くないわね・・・」

秋葉様が、口元に運びかけた紅茶のカップを止めて、宙をぼうっとしながら言いました

志貴様との二人っきりのお茶会を邪魔されて、相当不機嫌だった顔が嘘のよう

「兄さんと二人、夕方の浜辺を歩いて・・・、

不意に立ち止まる兄さん、

「どうしたの?」とわたし

「・・・秋葉」といって、わたしを胸元に引き寄せる兄さん

兄さんに抱かれる格好になるわたし

「兄さん?どうしたの?変よ」とわたし

「秋葉・・・、実は・・・・、おれ、秋葉のことをずっと・・・」と兄さん

「まって、兄さん!いけないわ!わたし達兄弟なのよ」と慌てるわたし

「かまわない!おれはずっと秋葉のことを・・・」と兄さん

「兄さん・・・、わたしもずっと兄さんのこと・・・」とわたし

そして二人の唇は・・・。ふ、うふふふふふふふふふ」



・・・なんだか、危ないことを一人で口走っているような気がするのは気のせい?

秋葉様、目つきが危ない・・・

「海、ですか、いいですね」

秋葉様の隣に座っていたシエル様が、両手をほほに沿えて、テレながら言った

・・・なんで照れてるのですか?


ここはどこ?

「高台を歩く遠野くんとわたし

「いい風だね、先輩」と遠野くんが振り返って言います

「はい、そうですね」とわたし

「・・・先輩、ちょっと話があるんだ」と遠野くん

「はい、何ですか?」とわたし

「それは、その・・・」と言いづらそうな遠野くん

そのとき突風が吹いて、わたしはよろけます

「きゃ」

「危ない!先輩」とわたしを抱きとめてくれる遠野くん

「あっ」

「あ」

間近で見詰め合う二人、そして二人の唇は・・・キャ!」



シエル様は、顔を真っ赤にしながらニコニコしてます

・・・この二人、仲が悪いくせに考えることはほとんど同じなんですね・・・

「海か、わたしはいいよ。志貴と遊べるならどこでも!」

と言って、アルクェイド様は志貴様の隣に座って腕を絡めました

「むっ!」

秋葉様とシエル様の視線が、一瞬で鋭くなります

・・・わたしの胸の奥も、なんだかイタイ

「海ですか〜、楽しそうですね〜」

姉さんがそんな場の空気とは関係なく、ニコニコとしながら言いました

最近、姉さんは良く笑います

そんな姉さんの笑顔を見て、わたしの胸のもやもやもちょっとだけ晴れました

「海の生物から取れる薬は薬効が違いますからね〜、どんな薬が取れるかしら〜」

・・・ちょっとだけ不安になりました

「翡翠ももちろん行くよね」

志貴様は、押しのけられて文句をいうアルクェイド様を手で制しつつ、わたしに笑いかけてくださいました

「・・・はい」

わたしはいつもどおり感情を殺した声で、でもちょっとだけ微笑んで言いました

それがわたしたちの夏の始まりでした


夏の日差し1 夏の日差し2

「すげぇ、旅館だな、おい」

乾様が玄関で荷物を降ろしながら言いました

広い玄関に、奥に見える中庭には池、ロビーにはゆったりと座れそうなソファーがいくつも並んでいます

「当然です、ここは遠野家の御用達のホテルなんですから」

と秋葉様が言いました

志貴様も、なんだか戸惑った様子で周囲を眺めています

「ふ〜ん」とアルクェイド様

「へぇ〜」とシエル様

お二人ともなんだか掃除にあらがないか確かめる小姑みたいに眺め回しています

「まぁ、こんなところで立ち話もなんですし、早くお部屋へいきましょう〜」

と姉さんが言うと、

「ああ、そうだね」

志貴様は自分の荷物と、わたしと姉さんの荷物を持ち上げました

「あ、あの・・・」

「翡翠、いいから」

と志貴様は笑ってくださいます

「いいのよ、翡翠。兄さんが自分でやりたいって言い出したんだから!」

秋葉様はちょっと不機嫌そうな声で言いました

・・・ふだん迷惑をかけてる分、翡翠や琥珀さんに恩返しがしたい

そう言って志貴様は、この旅行中はわたしや姉さんをメイドではなく女の子として扱う、と言ってくれました

荷物を持っていただけるのも恩返しの一つだそうです

「でも、志貴様・・・」

「こら、翡翠!そうじゃないだろ」

と怒られてしまいました

「あ、志貴・・・さん」

メイドじゃないんだから自分を様付けで呼ばないでくれ、少なくてもこの旅行中は・・・

志貴様はそう言いました

・・・わたしはどうしていいかわからず、ちょっと戸惑い気味です

「じゃあ、それぞれ荷物をおいて準備ができたらすぐそこの海へ向かうということでいいわね」

さすが秋葉様、委員長属性でみんなを仕切ってます

「え〜、わたしは別に荷物なんかないも〜ん。志貴、遊びにいこ〜♪」

と志貴様に近づこうとしたアルクェイド様の腕を、シエル様がしっかり掴みました

「アルクェイドさん、とりあえずお部屋に行きませんか!」

シエル様の口は笑っていますが、目がぜんぜん笑ってません

「あらシエル、ずいぶんな口の利き方ね」

とアルクェイド様も素早く腕を振り解くと、シエル様を笑いながらにらみ返してます

「ここらへんで本当の決着をつけておいたほうがいいかな!?」

「そうですね、協会としてもこれ以上、あなたのようなモノをほうっておくわけにも行きませんね!?」

お二人とも背中から炎がめらめらと燃え上がっているかのようです

そんな一触即発状態のお二人に

「あ、あなた達、同じ部屋だから!」

と、秋葉様はとんでもないことをさらりと言いました

「(○◇○!?」

「(>◇<!」

「というわけなので、仲良くしたらどうですか?」

・・・秋葉様、それは無理です・・・

「え〜〜〜〜〜〜〜!?」

「なんです〜〜〜〜!?」

と両方から当然ながら否定的な声があがります

「なにかんがえてんのよ!妹!こんなやつと一緒にいられるわけないでしょ!」

「なんどもいいますけど、わたしはあなたの妹ではありません!」

「こんなやつとはなんですか!こんなやつとは!」

といつもながらの三つ巴の戦いが始まりました

志貴様ももう慣れた様子で苦笑を浮かべています

・・・チャンスはここしかありません・・・

「あ、あの!志貴・・・さん、お願いが、あります・・・」

きょとんとした顔の志貴さまに、わたしは話し掛けました・・・

・・・・

「おれって出番ねぇ・・・」

一人乾様が、玄関の片隅で泣いていました


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