恋する乙女の奮闘記




あ、爪。
ナルトが特になんの感慨も抱いていないような声で言ったのに、サクラはラーメンの器に沿えていた手を離してちょっと上げた。
久しぶりに時間の都合がついた二人は懐かしみもあって、一緒に食事でもしようと出かけてきていた。店の選択権はナルトだったので、当然のように一楽でラーメンを食べている。湯気の立ち上っている間は図らずともつい無口になってしまっていたのだが、そんな時不意にナルトが冒頭の言葉を口にしたのだ。

「可愛いでしょ?」

自慢気に爪を見せてくるサクラに、ナルトはラーメンを口に含んだまま頷いた。
一生懸命に咀嚼をするナルトをゆっくりとサクラは待つ。やっと口いっぱいのラーメンを飲み込んだナルトが、

「可愛いってばよ」

と素直に言ってくれたのに、サクラが嬉しそうに頬を染めた。

「サクラちゃんは、ホントにそういうの好きだってばね」
「だって、女の子っぽいじゃない」

ちょっと肩をすくめて気取ったように言うが、サクラは男だ。
細い体、関節の目立たない指。それに胸にあるふくらみは、少女のものだが、それらは皆術で造られたものだ。
サクラは昔から、どこか女々しい言動が目立つ子供だった。名前もいかにも女らしいこともあって、よく馬鹿にされていた。そして、良く泣きもした。
けれど、別に女性になりたいという性癖ではなかったのだ。ただ少し、女々しかっただけ。それを、慰めてくれた子供がナルトだった。とはいえ、ナルトと仲が良かったわけではない。
たった一度だけ、人気のない雑木林の中、ぽつんとあった小さな原っぱで泣いていたところをナルトに出くわした。後から聞けば、そこはナルトが良く独りで時間を潰していた場所だったようだ。
ナルトは、その時泣いていたサクラを見て、男だろと拙いけれど優しく言って、肩をなでてくれた。
初対面でサクラが男だと思う人間はあまりいなかったから(そう、それほどまでに女々しかったのだ)、驚いて聞くと、お前有名だってばよと一言。
そういうナルトこそ、里の人間には見られない明るい金の髪と碧眼ですぐに噂に名高い疎まれた子だということがサクラには知れた。
お前こそ、と涙声でサクラが返すとナルトは一瞬きょとんとしてからケラリと笑ってなんだと言った。
もっとナヨナヨしてるのかと思ってたってばよ、なんだちょっとぼんやりしてるだけかぁ。
それは決して誉め言葉ではなかったし、励ましですらなかった。だけど、その歯に衣着せぬ言い方と、その時の子供らしいふくふくした笑みにサクラはすっかりナルトのことが気に入ってしまったのだ。
好きなのだと、そう思い続けていたのは思い込みだったのかもしれない。
けれど、アカデミーに入って変化の術を会得して。男同士の恋愛感情なんて不毛だから、あれほどいじめのネタにされていた女らしさにみがきをかけた。
そうしてナルトに再会したとき、相変わらず子供らしさばかりが残って見えるナルトに、サクラは唇を両端に引いて少女らしくにこりと笑って相変わらずねと言った。
疎まれた子は、悪戯好きだけれど摺れてはおらずサクラを見て大きな蒼い目を見開いた。気持が悪いと言われるかしらと、覚悟は出来ていた。
しかしナルトは、随分可愛くなったってばよと笑い飛ばす。からかいではなく、ごく平然と。
それにサクラは、やっぱりあたしの思いは勘違いなんかじゃなくてホンモノなんだわとナルトへの思いを確認したのだ。

「サクラちゃんてば、ホントの女よりも女らしいってば」
「女を意識しない女と意識する男なら、後者のほうがずっと女らしくなれるのよ」

あんたのお色気の術だってそうでしょ。言うと、なるほどと真面目に納得される。
しかしすぐにまたナルトの興味はラーメンへと向けられた。いかにも男らしく豪快にすする様は、行儀が良いとは言えないがナルト限定でサクラにとってはたまらない仕草になる。

「あんた、ホントにラーメン好きね」
「だって美味いじゃん」
「まぁねぇ。でもカロリー高いから、そうそうは食べられないのよね」
「ワハ、ホントどこまでも女らしいってばよぅ」

愉快そうに笑うナルトにサクラはそうよと何でもないふうに返した。
だけど本当はあまり、女らしいだとかみたいだとか連呼してほしくないなと思う。
言われる度に、あくまでも自分が男であることを前提にナルトに見られているのだとヒシヒシと感じられてしまうからだ。それともうひとつ、困ったことにどれだけ女らしく徹していたって、ナルトが可愛くて仕方がないということ。
男の子だけれど、昔に比べれば男らしくなっているけれど、さりげないちょっとした仕草までもが可愛いと思う時の自分は明らかに男の自分だとサクラは自覚している。

「ナルトも少しは周り見て、男らしさでも研究したら?」

言うとナルトはぷくりと子供っぽく頬を膨らませた。
可愛い、とサクラは胸が締め付けられるくらいに愛しいと思う。あたしはやっぱり男の子だなぁと、不毛さに涙が出てきそうになる。

「俺ってば、十分男らしいってばよ」
「はいはい」
「馬鹿にしてるってば」
「してないったら」

男よあんたは、となだめるように言ったらナルトがニシシと笑って、身長だって伸びたしと誇らしげに言ってくる。
残念、とサクラは内心でため息を吐いた。

(あたしも伸びたのよ。変化解くと本当に立派な青年よあたしは)

ひょろりと伸びた身長は、それだけではなくてしっかりと筋肉も付いていた。久しぶりに見た時、自分の姿にサクラは愕然としたのだ。
ねぇ、ナルト、あたしの男らしくなった容姿を見て少しは見習ってよ。そうしたら、あたしは女らしさにますます磨きをかけて女みたいにあんたをカッコイイと思えるんだから。なんて、思うだけで口に出しては言えないけれど。
ナルトは、まだいかに自分が成長したかを自慢気に話している。
天真爛漫無垢無邪気。

(本当、可愛いったらないわ)


だからお願い。
涙ぐんでしまったあたしを見て、男だろなんて笑いながら言わないでちょうだいね。


back