リルボイリルボイ ユアソーキュー
アイムハッピー ウェナイアムウィズユゥ
アイムハッピー ウェニュアートークトゥミー
ソゥ ステイウィズミーモア
アイムシュア アイルメークユーハッピー  ケィ?

Boh!


「かっわいいなぁ」

目尻を下げて、興奮したようにひときわ高い声で叫ぶ利央に、準太は冷たい視線をぶつけた。

「うるせぇなぁ」
「何言ってんすか。これを可愛いと思わずして、なんと表現するんですかっ」
「別に可愛くないとは言ってないよ。ていうか、これ呼ばわりするな」
「あぁ、ごめんごめん。廉は、廉だよねー」

利央は、そう言って準太にではなく下の方へと視線を向けしゃがみ込む。
そこには、小さな幼児が一人。
桐青高校の近くに住んでいる三橋廉は、まだ幼稚園通いの五歳。
野球が大のお気に入りで、いつもフェンスにしがみついて練習を眺めていた廉を、利央が構いだしたのが切欠で、今ではすっかり全野球部員と顔なじみだ。
本来ならば部外者は立ち入り禁止のグラウンドだが、幼稚園児一人に目くじらを立てる輩はいなかった。
引っ込み思案で、なかなか他人に懐かない廉は、しかし一度懐いた相手には絶対的な信頼を寄せる。
当初は、可愛くないガキだなぁと悪態を付いていた部員達もいたが、そんな彼らも日が経つにつれまるで猫のように慎重に怯え警戒してくる廉が、ふと自分に見せる笑顔や仕草にすっかりやられてしまっていた。
利央に頭を撫でられて、照れくさそうにはにかむ廉に部員達の表情が緩む。

「れんね、あたまなでられるのすき、なの」
「そうかそうかぁっ。もう、いくらでも撫でちゃうよ」

自分の足の間に廉を挟んで、利央は両手でその癖のある髪の毛をかき回した。
視界をすっかり遮られて、廉はいやいやと首を振りながら小さく高いうなり声を上げる。
本人は至って真剣なのだが、それが周りの高校生には小動物的行動にしか見えない。

「りおにーやーっ。れんのこと、かくしちゃやー」
「あぁ、オレ今なら廉と心中出来る〜」

のぼせきった表情で、嫌がる廉をさらに抱きしめながら利央がぼやいた瞬間、後頭部を襲った衝撃に利央はぐぅと声もなくうずくまった。
その背後には、準太がゆらりとたたずんでいる。

「死ぬなら、一人で逝ってこい。な?」

言いながら廉を抱き寄せて笑う。さわやかな笑顔なのに、何故かうすら寒いものを背中に感じた利央はひくりと頬を引きつらせる。
さっと視線を逸らすと、ふと足下に転がる土埃まみれの野球ボールが目に入った。

(こ、硬球・・!!)

自分の後頭部を押さえて、痛みと涙をこらえる。

「り、りおにーあたまイタイの?」
「んー?利央はね、いつもお馬鹿さんだから天罰が落ちちゃったんだよ」

表面上は同じでも、その質はまるで正反対の優しい笑みを廉に向けて準太は言う。
すると、途端に廉の眉毛が下がり、目尻に涙を浮かべたかと思うとそれは大きな粒となって、ぽろぽろと頬を伝い落ちた。

「あー!準サンが、廉のこと泣かしたぁっ」
「うっせー。廉どうしたんだ?オレ何か悪いこと、しちゃったかな?あ、だっこされるの嫌だった?」

常にクールのスタンスを貫いているはずの準太が、明らかに焦っている。
子供が泣くと焦るというのは、おそらくは世間一般的には当たり前だろう。
それは、心から子供好きの人間がごめんねという気持ちを持ってであったり、単に泣かせたという責任を自分に課せられたくはないという言い逃れであったりと様々ではある。
準太は特別子供好きというわけではないので、どちらかと言えば後者に部類される人間だが、それは「普通」であればのこと。
廉に対しては、準太もまた周りの部員がそうであるように、普段にはあり得ない程の執着と愛情を見せるのだ。
感情のままにしゃっくりあげて泣く廉の頬を、準太がそうっと指の腹で拭ってやる。

「どうして泣いてるのか、オレに教えてくれる?」

小さく耳元で囁くように言う。
廉は大きく一つしゃっくりを挙げて、頬に触れたままの準太の指を小さな手で握りしめた。

「あのね、じゅんにーはなにも・・わ、わるいことないの。りおに、も、よ?」
「うん?」
「りおにーはやさしい、から。おばかなの、れんのほうがおばかだからかみさまおこって・・で、でもきっとまちがえて、かみさま、りおにーにテンバツ・・っ」
「んん?」

口元には笑みを浮かべたままの準太の眉が、にわかに下がる。
おぼつかない口調と涙声が重なって、廉の言葉は聞き取りにくい上に理解しがたいものになっていたのだ。
準太が廉の顔をのぞき込む。
上気した顔が赤く染まり、ぽろぽろと流れた涙の跡が頬に目立つ。
泣いている理由が分からなくとも、その様子だけで可哀想で仕方が無くなる。

「もう一回、教えてくれるかな?」

優しく聞くと、廉が小さく首をしゃっくりのせいでひきつりながらも縦に振った。

「い、いうこときかなかったからっ。わるいこ、で・・おばかなの、れんなの、に」
「んん?」

今度は、準よりも先に利央が首を傾げた。

「誰の言うこと、聞かないといけないの?」

おそらくは準も同じことを思ったのだろう。廉との会話に割り込まれたことを、怒りもせずにじっと廉の返事を待っている。

「たかやくん、がいったの。ここきたらだめって。やきゅうしたいの、ここじゃなくて、こっちでしなさいって」
「こっちって?」
「あのね、たかやくんのがっこう。に、にしうらっていうの、よ?」

小首を傾げる仕草に、あぁもう可愛い可愛いと利央は廉を抱きしめて連呼した。
小さなまた短い指の手で、苦しいと必死に抵抗する姿も庇護欲をそそられるものでしかない。泣きやみはしたけれども、余韻でまだ頬が赤く染まっていて、目尻には乾ききっていない涙があることもその庇護欲を増長させるオプションだ。
準は利央から廉を無理矢理引き離すと、そのままごねる利央を完全に無視して自分の膝の上に廉を座らせた。

「西浦って、西浦高校だろ?遠いよな、結構」
「ですね。ほらもうそれより、廉のこと独り占めしないでくださいよっ」
「いつもしてんのはお前だろ。っていうか、まさか一人じゃいかないだろ?」
「今してるのは準さんです。親戚の家があっちにあるんじゃないですか?」

器用に二つの会話を同時進行させる準と利央の間に、不意に慎吾が入り込んでくる。

「休憩終わりだって」
「え、あとちょっとだけ!今、じっちゃんの名にかけてでも解かないといけない謎が!」
「馬鹿。謎じゃないだろ。お前が情報ないだけ」

飄々と、しかし辛辣に慎吾に返された利央は、まるで子供がするように頬を膨らませて拗ねてみせる。
それを見て、準と慎吾は呆れたような表情をそれぞれ浮かべた。

「因みにその「謎」を解くと、廉が西浦に行くのは、幼稚園の先生の家がすぐ近くだからだけど」
「えぇ?なんで、慎吾さんがそんなこと知ってんすか?」

心底悔しそうな顔で言う利央に、慎吾はそりゃ仕方がないと素っ気なく返した。

「俺だって、廉のこと構うよ。お前らがホームに出てりゃ、ベンチの誰かが面倒見てなきゃいけないだろ」
「そうだけど。でも、俺は廉にそんなこと教えてもらってない。ずるいです」

ますます子供のような意固地な態度を取り始めた利央に、慎吾は肩を竦めてため息を吐いた。

「お前、ちゃんと話きいてやんないから。待っててやれば、廉はちゃんと色々話してくれるよ」

なぁ、とにっこり笑った顔を準が指さしてセクハラくさいと喚いた。

「俺の股間に笑いかけないでください」
「馬鹿か。お前の股間なんかに誰が笑いかけるかよ。廉に向けてんだよ」
「あぁ、慎吾さんのセクハラ笑いで廉が汚れてしまうっ」

もちろん、本気などではない。本気などではないのだけれども、慎吾を怒らせるにはその茶化した口調があればそれだけで十分過ぎた。
勢いでこの野郎とバシンと、平手で準の後頭部をひっぱたいた慎吾は、それに怯えて肩を大きく上下させた廉を見て内心舌打ちをして後悔した。
ひっひっ、と小さなしゃっくりを上げて泣きだしそうになる廉に、慌ててごめんごめんよと謝る慎吾と、よしよしと背中をさすってやる準。
利央も寄ってきて、廉の顔をのぞき込むといないいないばぁの要領で変な表情を作ってあやし始める。
その最中珍妙に作った顔のままで、「思ったんですけど」とぼんやりとした口調で利央が呟いた。

「なんか、俺嬉しいなぁ」
「はぁ?今この状況で何を脳天気なこと言ってんだよ」
「だって準さん。廉ってば、そのたかやくんとやらにここに来るなって言われてるのに、その約束?まぁ、無理矢理なのかもしれないけど、それ破ってまでここに来てくれてんすよ。超愛されてるって感じじゃないっすか?」

愛おしくてたまんないったら!
そう叫ぶように言って、ちゅぅと廉の頬に大胆なキスを落とす。
不意打ちに驚いてぴたりとしゃっくりを止めた廉は、くすぐったそうに身を捩ってはずかしいからやーなの、と舌っ足らずな口調で利央の胸を小さな手で押して恥ずかしがった。

「かわいい!」

利央がまるで女子のように、高い声で喜んだ。

「確かに、愛されてるかもしれないっ」

準が、膝の上の廉を抱きしめた。

「利央。お前、廉が嫌がることしたからグラウンド十周」

慎吾が、ニヤリと笑って命令した。
うぇー、と大げさに舌を出して嫌がってみせる利央に、クフクフと笑う廉を見て三人は思った。

(なんて、可愛い!)




年の差も気にせず、恋しちゃうぜ! 
 マジで。マージで!

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