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上手な告白の仕方 その日、いつまで経っても練習に姿を見せない三橋に、そのうち来るだろうと花井達が言うのも聞かずに探しに出た阿部は、校舎を一周しかけてようやく一年学級の並ぶ階の空き部屋に見慣れた寝癖頭を見つけた。 走り回ったせいで息は切れ切れだが、それを整えるよりも先に阿部はガラリと大きな音を立てながらスライド式のドアを左から右に開けた。 その途端、三橋の体が大きくはねる。 「お前、なぁ」 カタカタと小刻みに震え始める三橋の体に、阿部は大きくため息をついた。 文句を言おうと思ってはいたが、まだ何も言い出していない状態で既にこれだ。 「何だよ。怒りゃしねぇよ」 言ってやろうと思っていたことは山ほどあったが、ついこうして怯えられてしまうという機が削がれてしまうというか、どこか可哀想になってきてしまう。 だからつい、ため息混じりに許してしまうのだ。 「怒んねぇよ。今更だし」 「あぅ・・あ、阿部くん」 裏返った声で、まるで確認するかのように自分の名前を呼んでくる三橋に阿部は何だよとぶっきらぼうだが決して無下にはしていない態度で返す。 三橋は、顔は上げないままでもう一度か細く阿部の名前を呼んだ。 「だから、何だよ」 「うっ・・・」 顔を上げたと思ったら、目には涙をためて情けなく眉毛を下げた顔。 口を開こうとして、何度も逡巡してみせる三橋に阿部は苛立ちを覚えながら、それでも辛抱強く三橋が自分で言い出すまで待つ。 大して長くない付き合いではあるが、それでもこういうときに無理に話を聞き出そうとすればするだけ三橋の口が閉ざされてしまうことぐらいは十分に解っているのだ。 震えたままで、時々痙攣したかのようなしゃっくりをする。 やれやれと思いながら阿部が三橋の隣に座り込むと、三橋が緊張した時に常になるように冷たくなった体温が空気中を伝わってくる。 「お、お俺、怖く、て」 「はぁ?何で?」 「ご、ごめんなさい!」 「謝る必要ねぇだろ。何でかって、聞いてんだよ」 「俺、性格わ、悪いし、暗いから・・あ、阿部くんや部のみんなはいい人で、だから俺安心出来るっていうか・・・えっと・・・」 「要領得ないんだなぁ。だから、結局何で怖いんだよ」 いい人と褒めてくれることについてはありがたいが、しかし今聞きたいことはそれではない。阿部は、先程よりもやや強くした口調で三橋がたどたどしく言うのを遮った。 「あ・・う、す、好きだって言われてねっ」 阿部の剣幕を恐れた三橋が、慌てて思い切ったように言った。 言った途端に、三橋はためていた涙をぽろぽろと流して、ついには声を出して泣きだしてしまう。 「うえ・・・うえぇぇぇぇっ」 「って、何で泣く!?」 上を向いて、大口を開けて泣く。まるで小さな子供そのままだ。 涙を拭うこともしないで、大泣きをする三橋に阿部は一体どうしたものかと考えあぐねて、結局以前したようにひやりと冷たくなっている手を握りしめてやることにした。 指先が触れただけで、大きく肩を跳ねさせた三橋だったが、それでも抵抗らしい抵抗はしない。 それで、阿部はどこか自分の存在が受け入れられたように思えて嬉しく思いながら、顔に似合わず無骨な手をぎゅっと握ってやった。 「泣いてちゃ分かんないだろ。だいたいなんだよ、その、好きだって言われたって」 「同じ、一年の人が」 泣いて目を伏せたままで言う。 「そいつに好きだって言われたのか?」 ぽろぽろ涙を落としながら、首を激しく肯定の意で立て続けに振る。 「まさかお前、オッケーしちゃったとか言わないよな?」 「お、俺・・・俺、怖くて・・」 先程と同じ言葉だ。 阿部は三橋の答えが気になったのだが、それよりもさらに泣き声を上げてしまったことに慌ててあやすように肩をさすってやった。 「何だよ。お前、何が怖いんだよ?」 「だって、俺はダメピーで、だ、だから・・好きだなんてこと、誰にも言われたことがなくって」 「俺が言ってやっただろ」 「あう・・そ、それは。でも、そ、そうじゃなくて。あ、阿部くんが言ってくれた、好きじゃないんだも、ん」 手の甲で涙を拭いながら、三橋は珍しく阿部としっかり目線を合わせて言った。 「人、に、一方的に好きって思われるの、は、怖いよ」 言った途端に、また小さく縮こまって短く泣きしゃっくりを上げる。 「良いじゃねぇかよ。それは、お前が変わったっていう証拠だよ」 「でも」 「前向きにな。別に、お前がどう返事しようとさ、そうやって好意を寄せられるまでに変わったってことだもん。良いことだよ」 「あ、あの・・、阿部く、ん。あの」 目をつぶった。 「その、その人、男、だったんだけど」 随分思い切って言ったのだろう。三橋は、眉間に皺が寄るぐらいにきつく目を閉じて、それから耳まで真っ赤にすると両手で自分の顔を覆ってしまう。 男のくせに、本当に情けないというか女々しいというか。 でも、そういうところが可愛くも思えてしまう自分は相当重症だなと阿部は思う。 しかし、そんなことはいつだって思えることである。 今は、三橋が男に告白されるということを、トラウマにしてしまうかもしれないという危険性があるということだ。 阿部にしてみれば、確実に三橋を物にする為にと、じっくりゆっくり進めていきながら行こうと思っていたのである。 まず、三橋の性格は大衆受けするようなものではないのだから、まぁ焦る必要だってないだろうと高をくくっていたのがまずかった。 「困ったなぁ」 「な、何で阿部くんが、」 「だってさ。これじゃ、お前のこと好きだなんて言えないじゃないか」 言ってます、よ。と小さく妙な区切りで三橋が言った。 「あ。あー・・・」 「ご、ごめんなさいっ」 「いや、謝る必要はないんだけどさ」 ないんだけど。 自分も相当のダメピーじゃないか、と阿部は手のひらを額に当てて盛大にため息を吐いた。 だけども、顔を赤らめて嫌な様子じゃないのを見ると、案外脈有りなのかも、しれない。 |