止められない止められない。
理性なんてあってないようなものさ。
むしろ、理性があっても止められないなんてそれこそホンモノ?(ううん、素敵!)

○ラブラブ愛しちゃった○

あ、おっきー目。
至近距離で三橋の顔を見て、利央の思考にはポンとそれだけが浮かぶ。
互いの吐く息が当たるぐらいに密着していて、手とか肘とか肩とかが変な具合にねじれて触れあっている。
場所は寂れた公園の一角にある、小さな土管のような遊具の中。
幼児には十分すぎるぐらいのスペースを取ってある空洞も、高校生の男子二人が入ればあっという間に隙間はなくなる。
そこに、敢えて二人が体を密着させてまでいる。その理由を話すには、さかのぼること数十分前。
その時利央は、ほんの気まぐれに繁華街をうろついていた。
何となく、家に帰るのには早いかなと思っていただけで、目的もなかったから気が付けば繁華街の賑わいからは外れた場所にまで来てしまっていた。
そこで、見覚えのある顔を見つけた。それが、三橋。
しかし、三橋は一人ではなかった。

(わーお、かつあげされてる?)

見るからに気弱そうな三橋は、格好のカモだったのだろう。
柄の悪そうな連中に囲まれて、まるで殺されるのではという程に怯えてしまっている三橋を見て利央はこれはさすがに放っておけないな、と仲裁に入って出た。
もちろん、そうそう簡単に口頭でのやり取りが成立するはずもなく、利央までもがそのターゲットにされた。
だからといって、喧嘩は御法度。
野球が出来なくなってしまうじゃないかと、利央は震える三橋の手首をひっつかむと不良連中の不意を突いて一気に駆けだした。
人通りの多いところに出てしまえば大丈夫だろうと思っていた利央の思いに反して、彼らはしつこかった。
どこまで逃げても追いかけてくる。
そして、柄の悪そうな連中に街の人間は見て見ぬふりをするばかり。

「あぁ、世間って冷たい!!」

走りながら、半ばやけで叫んだ利央に三橋が驚いたのか息をのむのが分かった。
そして、たどり着いたのが小さな公園。
ちらりと後ろを振り返るが、そこにはまだ不良達の姿はない。
土管仕様の遊具は、その時の二人には幸いな事に通りに面している部分の穴はコンクリートで塞がれていた。
それに気づいた利央は、考えるよりも先にそのまま三橋を引っ張るようにしてその穴へと潜り込んだ。
結果、今の密着した状況が出来上がったわけである。
不良連中の粗野な叫び声と足音は、とっくに通り過ぎていた。
ただ、三橋の震えは収まってはいない。

「えぇと、三橋だったっけ?もう行っちゃったから、さ」

大丈夫だよ、と極力三橋の神経を刺激せぬようにと、柔らかい声を意識して言ってやる。
触れた部分から、三橋の体が大きく震えているのが分かる。
見開かれた目からは恐怖の色と涙しか見えない。
高校生の男が、怖くて泣くなんてかっこわるいとかそういうことは一切頭には浮かばなかった。
ただ、もう可哀想で仕方がない。

「怖かったね。怖かったよね」

オレだって、足が震えちゃったんだから。
そう、冗談めかして言うのだけれども、三橋の表情はちっとも和らぐことがない。それどころか、利央の言葉で先程のことを思い出したのかぎゅぅとしがみついてくる。
制服が引っ張られる。
利央は、首もとの苦しさから楽になるようにと引っ張られるがままに上半身を前屈みにした。
ふ、と三橋の吐息が首に当たった。
熱い。
初夏の気温と湿気。加えて、全力疾走したせいで二人ともべっとりと汗をかいている。
それは、蒸れた空気を生み出して、普通なら不快感最高潮。

(でも、オレちっとも嫌じゃない)

むしろ、首筋に当たる吐息に興奮をかき立てられてしまう始末。
興奮して早くなる脈拍に反応して、体温が上昇していくのが利央には良く分かった。

(蒸れちゃいそうだ。湯気とか、出てきそーなぐらい)

ぼんやりと、考える頭はきっとふやけているに違いない。
利央は、どさくさに紛れて三橋の肩を抱いた。
もともとが密着している状態だから、肩を抱くとは言っても利央がその手首をちょっと動かしただけのことだ。
偶然と気にしないでおくことも十分に出来る範囲のはずだったが、三橋は過敏に反応した。

「なんだよ」

白を切る利央に、三橋が小さく「な、なんでも・・ない、です」と答える。

「まだ、怯えてんのかぁ?」

わざとからかい口調で言うと、引っ張られる制服から手が離れる。
おぉ?と利央が思って顔をのぞき込む。
三橋は、慌ててそれから逃げようとするが、狭い空間でそれは容易なことではなかった。
無理に動こうとした三橋は、混乱しているせいもあって結局は上手く動くことが出来ない。かえって密着するような格好になってしまって、利央はまいったなと内心舌打ちをした。
さっきまではそこまで密着していなかった太ももに、今は明らかに三橋の体温を感じる。

「狭いんだからさ。落ち着いて、ゆっくり動かないと」

自分の動揺を押し隠して利央が言うのに、三橋は頷くことはしても顔を上げようとはしなかった。
胸元には、三橋の頭がもたげられたまま。
そこにかかる息はやっぱり熱くて、密着度が増えただけ利央の緊張も大きくなる。
男同士でくっつき合うだなんて、正直歓迎出来たことではない。不可抗力だとしても、決して嬉しくはないだろうし、決して興奮などもしない。
だけど、三橋の体温にどうしようもない気持ちが抑えきれないのだ。
どこか自分と似通っている癖毛が首筋にかかっているのに、思わず琴線をかき立てられる。

(好きなんだな、俺。三橋のこと、好きなんだ)

自覚しながら、三橋の首筋に唇を落として吸い上げた。

「あ、の・・」

首をがちがちに竦めて、様子を伺うようにして顔を上げた三橋をのぞき込むようにして利央は、あやすように笑った。

「うん?気になっちゃう?」
「う・・あ・・、い、いきなりだったし・・」
「そりゃ、結構!もーっと、意識してくれても構わないからね」

そう言うが早く、三橋がその言葉の意味を把握しかねている隙にちょっとキスを落とす。
口を押さえて、顔を真っ赤に染め上げた三橋を見て、利央は顔の中心に皺を寄せて笑って、

「もー、可愛いなぁっ。俺の方が、たまらなくなってしまいそうデス」
「た・・・たまら・・っ・・!」
「本心よ?受け取ってちょーだい。今でなくても良いから。待つから」

至極明るく振る舞ったのは、自身の不安を見透かされない為。
言いながら、余裕のある素振りを見せて本当は膝が笑ってしまいそうだったなんて。絶対に気づかれたくはない。
利央はワハハと大げさに笑って、三橋の肩をバシンと叩いた。




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