ひゅーどろお化けが怖いだって?
そんなのよりも、もっと怖いのあるでしょ。
ほら例えば、嫉妬する人間とか
ほら例えば、逆恨みする人間とか
ほら例えば、キミのこと好きでおかしくなっちゃうやつとか
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想っているだけならば、誰の迷惑にもならないのです。 けれども、時々あなたが教室の隅で仲間達と楽しそうに笑い合う姿を見ていると無償に切なくなり、そしてどうして自分はあなたとたったの一言だって会話を交わすことが出来ないのかと悔しくてなりません。 だから俺は、毎日心の中でだけ思うのです。 あなたと今日も会えて嬉しかったこと。 あなたが笑っている姿が、とても愛おしく思えたこと。 あなたが英語の時間、たどたどしく文章を読み上げた声の、なんて透き通った、深みのあることかと。 「三橋くん。これって、どの文法使うんだっけ?」 隣の席の女が、身を乗り出してあなたに聞く。あなたが英語はあまり得意でないことなど、僕でなくとも、彼自身が公言しているのだから知っているはずだろうに。 女は、わざと、あえてあなたにそうやって聞くのです。 それを、鈍いあなたはただ単純に質問だけが目的で訪ねられたのだと思い、 「ごめ、ん。わからない・・です」 とちょっと困ったように、けれど親しげに返してしまうのですね。 あぁ、女の顔の打算的な笑顔ときたら。 思惑に見事に填ってしまっているのに、あなたはそんなことにはちっとも気が付きはしない。 俺は忌々しく思い、小さく舌打ちをしたのですがそれは誰にも届かなかったようでした。 授業は滞りなく進められ、日差しでぬるくなった教室の温度と教師の淡々とした言葉に、さすがに眠気をこらえるのも厳戒に感じてきたころ、ようやくチャイムが授業の終了を告げました。 あぁ、これでなんとか居眠りだなんていう醜態はさらさずに済んだ。 もう大分前にはなるのですが、俺は一度居眠りを教師に至極咎められたことがあるのです。もちろん居眠りをしてしまった僕は悪いでしょう。けれど、教師も大層陰険でした。 僕を立ち上がらせると丸めた教科書で二発叩きました。それから、教壇の横へその授業の間中正座させられました。 あんなにも恥ずかしい思いはもう、二度とごめんです。 人前に出ることが苦手というわけではありませんが、誰が好きこのんで羞恥を味わいたいと思うでしょうか? しかも俺には、後でそのことを笑い飛ばしてくれる友達もいないのですから、その屈辱と絶望といったら計り知れないものでした。 まぁ、こんな気分の悪いことを思い出すのは止めにしましょう。 どちらにしても、その教師は今はもうこの学校にはいないのですから。 こんな感情が顔に出てしまったりして、その顔をあなたにでも見られたら大変です。 ただでさえ、人に暗い印象を与えてしまう顔立ちがさらに不機嫌そうにしていたら、それはきっと見る物をさぞかし不愉快にさせるのでしょう。 誰に思われても構いませんが、あなたにだけはそう思われたくないのです。 そんな不愉快な思いも、させたくないのです。 俺は、いつも気が付くと無意識に力の入ってしまう眉間をゆるめて、あなたをこっそりと見つめることにします。 話す相手も、俺には特別いませんから。 休み時間中、何も考えずあなただけを見ることが俺の至福の時なのです。 ただし、気づかれぬようにこっそりと、です。 「なぁ」 あなたの友人の田島はとても鋭いのでしょうか。あなたに話しかけながら、俺の方に視線を送ってきました。 しまった。 俺は慌てて視線を下に向けました。 緊張で心臓が早鐘のように打ち付けて、体温が急激に上昇していくのが分かります。 俺は、じっと下を向いて、まるで死刑宣告をされる被告人のような気持ちであなたの友人の次に続く言葉を待ちました。 「うちの教室、幽霊出るんだってさ」 「あ・・・し、しってる」 あなたは若干青ざめた表情で、軽く会話を流そうとしましたが田島がさらに言いつのります。 「でもさ、どんな奴かってことは知らないだろ」 「知ってる、よ」 俺は知りませんでした。 その、幽霊が出るという噂すら知りませんでした。 やはり、友達のいない俺は世の中の流れから遠く置いて行かれてしまうものなのでしょう。こんな俺に好意を持たれているのだと知ったら、あなたは恥ずかしくてもう学校には帰宅なくなってしまうかもしれませんね。 えぇ、分かっています。 俺だって、分不相応な思いであることぐらいは十分に承知なのです。 ですから、こっそりとただあなたを毎日見つめることが出来ればそれだけで、それだけで、幸せなのです。 「だって、有名だよ・・ね。先生とか、の、呪いで死んじゃった・・?」 「そうそう。自殺した生徒の呪い!怖いねー」 笑う田島に、あなたは小さく笑みを向けてやります。なんて、優しいんでしょうか。 でもそんなヤツに愛想向ける必要なんて、別にないでしょう。無理してるんじゃないでしょうかと、俺は心配で仕方がありません。 だって田島と来たら、いつだって下品で無遠慮で図々しい。 俺の方を何かと、牽制するような目つきで見てくるのです。なんて、意地が悪いことでしょうか。 俺はそんな男が、あなたと友達だという事実が嫌でなりません。絶対に、俺とあなたの方が気が合うだろうにと、毎日そんなことを思ってはあなたの隣にいる田島を殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られてしまいます。 あぁ、こんな失礼なことを思っている俺を許してください。 それも全て、あなたのことを想っているからこそなのです。 見ているだけで良いなんて、本当はただの強がりなのです。 好きです。好きでたまらないのです。 出来ることならば、俺はあなたと二人きりの世界に逃げ出してしまいたいとすら思います。 このくだらなく、弱者には果てしなく厳しい世の中なんて捨てて、あなたと二人。二人だけでいられる場所へと行ってしまいたい。 そして、何故か俺にはそれが出来るのではないかと思えるのです。 根拠は解りませんが。ひょっとしたら、これが第六感というやつでしょうか。 第六感が、あなたも実は俺のことを・・なんてことを教えてくれているのでしょうか? あ、田島がまた見てきます。嫌な視線です。 一体なんだというのでしょうか。俺のような人間には、ただ想い人を見ることすらも許されないとでも言うのでしょうか。まったく、腹立たしいことこの上ありません。 「三橋危なっかしいから、気を付けないとだよ」 田島が三橋の肩を叩いて笑いながら言います。 強く叩かれたのでしょう。可哀想に、三橋は色素の薄い大きな目を見開いて田島を怯えたように見上げているじゃありませんか。だけど、それがゆっくりとではありますが、ささやかで遠慮がちな彼らしい笑みに変わるのです。 だからどうして、その笑みを向けられる相手が田島なんかなんでしょうか。 俺の方が絶対に大切にしてあげるのに。 なんて、そりゃぁクラスでも浮いた存在の俺なんかがそんなことを言っても、滑稽なだけかもしれませんが、嘘にはしません。 いつだって、優しく慈しんで、守ってやりたい。田島以上に。 そんな悔しさと嫉妬の入り混じった気持ちで、二人をこっそり見るとまた田島が目ざとく俺の視線に気が付いたようです。 その視線の不躾なことといったら。 思わず俺も睨み返してしまったほどです。 すると途端に、田島がいてぇと大声で叫び出しました。当てつけでしょうか?だとしたら、さらに腹立たしいことこの上ない。 けれど気に入らないのはそんなことよりも、田島を心配する三橋の姿が目に入ったことです。 なんでどうしてそんなやつばっかり!俺があなたを好きなんだ絶対、誰よりも。 「三橋は優しいからなぁ」 あぁ、優越感に浸ったあの声。 「大丈夫。てか、三橋のが痛いって顔してるよ」 当てつけ以外の何でもない。 田島は三橋に優しげな視線を向けてそれから「また俺を見るのか」 呟いた程度の俺の言葉に、田島は驚くほど機敏に反応して、ぐるりと無表情な瞳を向けてきました。 「死人に口なしなんじゃないの?見てくるなよ、陰気くさい。霊障まで起こしやがって」 なんて酷い。 いくら影が薄いからって、死人なんてあんまりです。 しかも、その暴言を三橋には聞こえないようにと、彼の耳を両手で覆う卑怯ぶり。 「た、田島くん・・・」 怒りのあまり、思わず田島に詰め寄った俺を見ながら、三橋が小さく田島を呼びました。 ひょっとして、三橋には聞こえていたのかもしれません。 それで、田島を軽蔑したのかもしれません。 「田島くん、誰に向かって話して、た、の?」 「あー、うん。廊下んとこ、友達通ってったから」 ふぅん、と三橋が頷いてもう一度俺の方を見てきます。 「そっか。なんか、ちょっとだけ、ね、怖かった。丁度、幽霊の話、してたから」 「ギャハ、んなわけないない。でも、あれだよ。幽霊とかって、優しい同情しやすい人間とかにとりつきやすいって言うから。な、三橋気を付けないと」 まさか三橋にまでそんな仕打ちをされるだなんて、思ってもみませんでしたから。 「そういえば、幽霊の名前さ、」 田島がこちらを見て笑いました。 |