そんなもん寸前までに食べてたものの風味が残ってるだけに過ぎない。 キムチ食べてりゃニンニク臭いだろうし、刺身食べてりゃナマ臭いんだろうよ。 花井は三橋とのキスのチャンスを目前にして皮肉的にそんなことを思いながら、自分はエチケットガムを噛んでいて良かったと内心ほくそ笑んだ。 だってとてもとても好きで(それこそ性別なんて関係なくなってしまう程に)とてもとても大事な(時々、自宅に遊びに来た三橋を返したくなるなるなんて、ちょっと不穏なぐらいに)(あぁ、なんて過保護)(ん?)そんな人との初めてのキスがこってりニンニク風味だとか、勘弁して欲しい。 緊張もしていたが、そんな花井以上に緊張して涙目にすらなっている三橋を見ているうちに、逆になだめてやらなければと平常心に戻っていた。 「三橋」 名前を呼ぶと、肩が大きく揺れる。 ごめんなさい、とごく小さな声で鳴くように言う。 「謝らないでくれよ。そんなことされたら、やっぱり嫌なのかって、不安になる」 「そんなつもり、じゃ」 「うん。三橋が本気で嫌がってるなら、俺分かるはずだ」 自惚れたことを言うなぁ、と自信を冷静に見て花井は、その言葉を三橋に否定されなかった事に安堵した。 強張った表情すらも愛おしく思えて、花井は我慢できずその頬に指先触れさせる。 「な、三橋。今、お前の手冷たい?」 「手、は・・冷たくないよ」 たどたどしく手のひらを花井にされているように、頬に当てる。 あぁ、これで安心だ。 花井は人好きのする笑みを浮かべて、「良かった」と三橋の手に自分の手を被せるように乗せた。 顔が近づく。 まず鼻先が触れて、互いに無言でちょっと首を傾げた。 探るように、感覚で唇を合わせると生暖かい体温が伝わってきて、花井は自分が三橋の体温を感じているかのように向こうもそうなのだと考えて、それだけで興奮した。 たまらなくなって首の後ろに腕を回して、さらに深く口づけする。 苦しそうにくぐもった声を出されても、構わず舌をからませた。 湿った音は淫靡で、三橋の顔も羞恥ではない赤みを帯びていた。 (好きだ好きだ大好きだ。一生愛するから一生一緒にいてくれよ。たまんないんだ。本当に、どうしようもなく好きなんだ) 不器用で稚拙なキスも、だからこそ「愛の証」だなんてクサイ言葉を思うと、なおのこと大切な事柄のように感じられた。 それは、寸前まで三橋が食べていた肉まんと、花井が噛んでいたミントガムの風味が混じり合って変わらないで、花井の琴線をかきならしていた。 「ミント肉まん」 離れて一言、笑いを含ませて花井が言うと、三橋ははにかんで俯き加減に笑った。 「あーぁ、大好きだぁ」 投げやり気味な口調に反して、花井はきつく三橋を抱きしめて顔をうなじに埋めた。 |