うたた寝しながらきみのことを夢みる僕がいてその夢の中での君はうたたねして夢を見ている。夢は万能だから僕は君の見ている夢をのぞき込むことが出来るよその中で君は僕のことを大事に思ってくれいているんだけれども君は僕じゃない誰かを愛おしく思っていたね。そんなのとんでもない冗談じゃない泣きたい泣きたい。目が覚めたら泣いていたよ。
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多分だけど。 文貴は普段の脳天気な口調とは打って変わって、静かにゆっくりと言葉を発した。 ゆっくりと。それは、やはり普段の息を付く間もなくしゃべりまくる彼のそれにはまったく当てはまらなくて、廉はポツンと前置きだけで区切られたままの言葉に、どうしたものかと片眉を下げた。 文貴はそれを見て、まるで鏡の向こうの廉を演じているかのように向かって正反対の眉を同じようにして下げる。ただ、廉が困惑の表情であるのに対して、文貴のは口元が上がっているので苦笑だ。余興で正確な鏡を演じるつもりではないらしい。 そう思ったことで、無意識に廉の視線は座敷の隅に立てかけられている鏡に向けられた。 そこにある全身を写せる程の鏡は、文貴の産みの母が実家から嫁いでくる時に嫁入り道具として持ってきたものだと言う。漆が幾重にも塗られた縁にはめ込まれただけのそれは、華やかとは言えないが落ち着いた上品さを醸し出している。 廉の母親が後妻として嫁いできたことで、文貴の母親の遺品は全て彼の部屋へと移された。文貴が、全て自分の部屋に運ぶようにと言ったらしい。 どんな気持ちだったのだろうと、廉は義理の弟の気持ちを考えていつも挫折する。 物心付いた時には既に父親を亡くしていた廉は、まだ大切な人が居なくなってしまう哀しさや切なさを目の当たりにして味わったことはないから。だから、文貴の気持ちを思いやろうとしたところで、所詮はにわかごとになってしまいそんな自分の思考に嫌気が差してしまうのだ。 どんなに哀れんでみても、所詮それは造り出した「悲しみ」に過ぎない。 文貴の言葉を待つうちに、また鏡を見て母の面影を追う彼の気持ちを察しようとしていることに気が付いた廉は、慌てて鏡から視線を背けた。 その途端、まるで時期を計っていたかのように文貴の視線とかち合った。 「ご、ごめん」 思わず反射的に謝ってしまった廉に、文貴はふと柔らかい笑みを浮かべた。 同い年の、細かく言えば数ヶ月廉の方が年上なのだが、その彼の笑みは既に精悍な青年の雰囲気を醸し出しており、いつまで経っても童と馬鹿にされる廉のものとは大違いであった。 「何で謝ってんの?」 「つい・・・」 「そっか」 深呼吸を大きく一つ。 そして、ようやく冒頭の言葉の続きを発する気になったらしい。 あぐらを組直し廉の方へとにじり寄ると、廉の右手をがしりと両手で掴んだ。 「多分、俺と廉には深い繋がりがあるんだと思う」 「え、うん。そうだね。俺もそう思って・・る・・よ・?」 真剣な態度に何を言われるのかと構えていた廉は、そのあまりにも当たり前の事実を述べただけの言葉にすっかり気を抜き笑顔で答えた。 「は、初めてこのお屋敷に来た時には、一体、どんな人が俺の義弟になるんだろって不安に思ったけれど。文貴は、い・・ろいろ、助けてくれたか、らっ」 廉は文貴の両手の上にそっと空いている方の手を乗せた。 ひんやりと冷たい手の甲が、まだ夏とはいえない気候では少し肌寒く感じられる。 鳥肌に小さく身震いを覚えたのと、文貴が違うんだと首を振ったのはほぼ同時で互いの起こした振動がつないだ手から伝線し合う。 「ふみき?」 「そういう意味じゃない。俺が言ってるのは、つまり、そういう麗しい兄弟愛だとか、年寄りが聞けば良い話しだって涙するようなことじゃなくて。つまり、俺達は普通の兄弟なんかよりもずっと、繋がり合っているはずなんだってことなんだ」 「間違ってないよ・・?文貴は俺のこと、ほ、本当の兄さんだと思ってくれてるってことでしょ?俺だって、文貴のことはとても大事な弟だって思ってるよ」 同意を求めるように文貴の顔を覗き込んで言う廉だったが、ゆるりと首を横に振って否定を表されて愕然とする。 「じゃ・・・ど、どういう意味なの?」 「軽い関係じゃないってこと。特別ってこと」 「俺も、そういう意味で言った、んだ、よ」 何が違うのかと目で問うと、文貴はそれに持ち前の明るい笑顔ではなくて、どこかはにかむような薄い笑みを浮かべた。 「今日の文貴は、なんか変だ・・よ」 よく言えば底なしに明るい、悪く言ってしまえばうるさい文貴が遠慮がちな態度で通しているのだ。 何かを隠し持っているような態度は、元来心配性の気がある廉には不安を与えるのに十分であった。どうにももやもやした思いが、廉の中では浮遊してしまっている。 「変だよ」 畳み掛けるようにして繰り返す。 「変すぎるよ。俺はちゃんと文貴のことす、好きだよ?何か、嫌なことがあった?気に入らないことがあった?そうしたら、ごめん、なさい」 「何も。嫌だなんてことはないけど。ただ、廉は分かってくれないんだなぁって」 「な、に・・を?」 「俺の気持ち」 つないでいた手を離して、顔を背けるようにしながら文貴はため息混じりに呟いた。 「分かってるよ?文貴の気持ちでしょ?」 上擦った声になりながら、廉は唇を尖らせて言う。 理解出来ない義弟の言動にとまどううちに、その目尻には涙が溜まっていく。 廉の涙腺が弱いのは常のことで、それに今更驚くような人間はこの家にはいない。文貴もまた、廉の泣き顔などは見慣れている。 それでも、廉が泣くたびに彼はとても心配そうに顔を歪めて、そっと背中に手を置いてくれる。 今もそうされて、そもそもの原因は文貴なんだよ、と心中で毒づいてはみるものの、やっぱりその優しさに感謝せずにはいられない。 「俺、文貴の気持ちを、分かってるつもりだよ。でも、思いこみかもしれないね」 「っていうかさ。少なくとも、廉はもっと思いこみを激しくするべきだよ」 可笑しそうに声に笑いを含ませて言う文貴の言葉に、廉は訳が分からないと首を傾げて見上げる。 すると、文貴が口元を手のひらで隠してちょっと俯く。 「あーぁ、俺ばっかり思い込みが激しいんだもの」 厭んなっちゃう。 子供じみた口調は、精悍な容姿とは反比例しているというのに、それがかえって彼の容姿を引き立てているように廉には思えた。 「俺と廉が運命の相手だと思ってるのに。深い縁があったから、普通じゃない出会いもしたんだと思ってるのに」 「俺、思ってるよ。同じ、こと」 「違う違う。絶対に、廉は俺と同じような気持ちじゃないんだ。それは、俺が廉のことを良く見てるから、知ってるんだよ」 「わ、わかんない」 教えてよ。 廉が言ったことに、文貴はうーんと唸って大仰に腕を組み天井を見上げる。 そのまま後ろに倒れ込み、その姿が鏡に映り込む。 「言うつもりだったけど。やっぱり、まだ言わないよ。もすこし、悩んでてね」 「悩んだって、わ、わかんない、よ」 「だけど、悩んでるうちは俺のこといっぱい、考えてくれるしょう?お兄ちゃん?」 悪戯めいた子供のような笑み。 そういえば、最近はこんな文貴の表情は見ていなかったな、と廉は時間の流れを寂しく思った。 もっとたくさん無邪気な文貴の表情を見たいから、せめて言う通りに悩んでいこうと、廉はひっそりと決めた。 「かわいい、弟、の頼みなら、ね」 たどたどしい廉の言葉に、文貴は目を見開いて残念そうに目尻を下げた。 |