アイスが溶けてしまうぐらいにキミのことが好きだよ。あ、それはつまり愛情が熱くてだからアイスが溶けてしまうってんじゃなくってね。キミをぼんやり、ぽかんと、じぃっと見てる事に夢中になってアイスが溶けてしまうって、そういうことなのさ。だって、アイスが溶ける程の愛情なんて、重いでしょ?嫌でしょ?一歩間違えればストーカーになってしまうかもしれない程でしょ?だから、アイスが溶けるまでキミを見つめてしまうって、そういう方向でご理解お願いしますよ?
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阿部がパン屋でバイトすんだってよ。 そんな話を栄口から聞いたのは、とっても良いお天気のとっても暑い日のことだった。 オレはガリガリくんをその名の通り、がりがり囓ってサイダーの爽やかな甘さを味わいながら「っていうか部活じゃん。毎日部活あんじゃん」と言うと、泉がパピコをちゅーちゅーしながら「だよね。体力的にっていうよりも、スケジュールが許さないっしょ」とオレらの過密な部活スケジュールを指摘した。 そうそう、その通り。 高校球児の夏といったら、目指せ甲子園なわけで。 そんなの今年立ち上がった部活じゃムリムリなんて、思っていたのはいつのことだったでしょうか。今じゃ、本気で目指しちゃってる。 オレですらそうなんだから、あの超野球愛しちゃってますって顔に年中書いてるような阿部が部活の忙しいこの時期にバイトをするだなんて信じられない。 「それって、デマじゃないの?」 「デマじゃないよ。おばあちゃんが夏風邪引いちゃって、今日だけ代わりに店番するんだってさ」 それを先に言ってよ。 まったくのんきにかち割り氷食べてないで、的確に教えてくれなくちゃ困っちゃうよ。 えぇ?あの阿部が?(ってどの阿部がとか聞かれちゃうと黙り込んじゃうけどね)とか思って、本当にびっくりした。 泉が笑いながらあー、べっくらした、なんてやけになまった口調で言っているから、感じたことはだいたい一緒だったんだろう。 「栄口さぁ、それって、家の手伝いって言わね?」 「阿部んちパン屋じゃないじゃん」 「それは知ってっけどもね。だから、ばあちゃんがパン屋なんでしょ?」 「おばあちゃんはおばあちゃんだけど、近所のパン屋で、阿部んちは常連で、そんでなんかそんな関係なんだってさ」 かなりはしょるなぁ、泉がそう言ってケタケタ笑った。 「つまり、赤の他人のお手伝い?」 「他人じゃないだろ。ご近所さん。で、ちゃんと時給制だから、それってバイトでしょ?」 きょろんと、愛嬌のある目で問われてまあねと頷く。 それにしても、阿部がパン屋の店員ねぇ。 愛想の仕方を知らぬわけではなさそうだけれど、あの唯我独尊オレ様気質の男に店員だなんてサービス業がつとまるのかというところは、甚だ怪しい。 黙っているとそれだけで不機嫌そうだから、店が華やぐわけでもなさそうだし。 あの顔が店の窓ごしに見えたら、オレは絶対そんな店に入らない。 オレがそう思っていると、泉が「案外繁盛するかもね」とまるで反対のことを言った。 「あぁそうだね。案外、ね」 栄口も続けて頷く。 一体どういうことよ、と問うと二人は顔を見合わせてそれから各自呆れたような、小馬鹿にしたような表情でオレを見てきた。 「お前は阿部と同じクラスにいて、今まで何を見て来たの?」 栄口が言う。 「ある意味、水谷って幸せ者だよね」 肩を竦めて、泉が言う。 「何って?例えば、阿部の傍若無人っぷりとか?」 「あのねぇ、阿部の傍若無人っぷりは特にお前に向けられてるってこと、ご存じ?」 「なんだそれ、めちゃくちゃ失礼じゃんかっ」 「でも、事実だし。ね?」 栄口は泉に同意を求めて、それに泉はうん事実だと神妙な顔つきで答える。 なんだよチクショウチクショウチクショウっ! オレは地団駄を踏んで、お前ら最低っと叫んだ。 二人はけろりとしたもので、オレの悲痛の言葉に耳を傾けた様子も見せずに、まぁ水谷だし仕方がないよとさらに腹の立つことを言う。 「お前らオレのこと馬鹿にしすぎっ!」 「だってお前、本当に気が付いてなかったの?」 「だから、何が」 いつまでも小馬鹿にされてると、さすがにイライラしてきてしまう。 多少荒げた口調で聞き返すと、怒るなよと泉がパピコをくわえて上下に器用に揺らしながら笑った。 怒るよ。 二人だけで物知り顔して、訳を知らないオレを笑ってるんだから。それで、怒るななんてよくもまぁ言えたものですこと。 オレは、ふんと拗ねて残り三口分ぐらいは残っていたガリガリくんを大口一つでかみ砕く。 怒りの勢いに任せての行動だったから、当然躊躇なんてものはなくて、当然脳天を突き抜けるような痛みに襲われることとなる。 あまりの気持ち悪さに、思わず顎を外しかねない程大きく口を開けて唸ると、ばっかじゃねぇのと辛辣な一言を泉から頂戴した。 「まぁまぁ。水谷、拗ねちゃったんだよね。教えてあげるから、子供じみた真似は止しなさいね」 「・・・お前、それ何キャラだよ」 「うーん。保護者キャラ?」 「わ、馬鹿にするのもいい加減にしろって感じだもうこんちくちょー」 最後の方は、声を張り上げるのも馬鹿馬鹿しくなってきて、オレは適当かつ投げやりに暴言を吐いて空を煽り見上げた。 野球日和の、雲一つない晴天。こうして、だらだらとくっちゃべっているだけというのが不自然に思えてくる。晴れていたら=野球と思ってしまうのは、それだけ日頃野球三昧だからだろう。 からからに乾いたグラウンドには、いくら水を蒔いてもきりがなくて。砂埃の中の練習で、口の中が砂だらけになる。それでも、声を上げて気合いを入れることは誰も止めないし、休憩時間までがあっという間に感じてしまうぐらいに充実した練習をしている。 時々、グラウンド脇を通ってく他の部活の奴らが、がんばってんなーと軽い声をかけてきてくれて、おぉ頑張ってるよ青春しちゃってまーすと明るく応えると、その横にはいつの間にかにこにこ笑顔のモモカンが立っていてそのにこにこ笑顔のままで、集中!って頭をあの恐ろしい握力のある手で掴んでくる。あれは、イタイ。 それから、元気はつらつなくせに、運動部になんてまるで縁のないような女の子たちが、グラウンドを指さしてきゃらきゃらと騒いでたりしてさ。 耳をダンボにしてると、聞こえてくるのはお目当ての男子生徒の品評会。 花井かっこいーよね、とか。まぁ、無難なとこかもしれない。 男のオレから見ても、花井ってば背は高いし性格は良いし顔も良いし。よろしい物件なんじゃないでしょーか。 あと、阿部もねー。あたし結構好みだったりするんだよね。なーんて。 「あ」 「いうえお?」 「違うよ。泉、馬鹿っ」 「なんだとこのクソレフト」 「うわぁ、もうごめんなさい。あ、そこ蹴らないで。そんでもって、今、この瞬間、オレは分かってしまったことがあるやもしれませんのです」 蹴られる足を庇いながら早口に言う。 泉は不機嫌そうなまま、栄口は何々?と興味津々(というよりはおもしろがっているのだろうけど)な表情。 「もしや、阿部副部長はモテるとか」 「うん。阿部はモテるよ」 「だからそれを、なんで同じクラスのお前が気が付かないんだよ」 「だって、阿部だよ?唯我独尊野球一筋三橋愛好者の阿部が、なんでモテるのかって話じゃんか」 反論すると、それこそ意外だとでも言わんばかりに目を見開いて栄口が言う。 「だって、阿部ってあれでいて、結構女子の会話なんかにも乗ってあげちゃうんだよ。冗談も言われれば笑うし」 「うっそー・・・そんな阿部くん、あたし見たことないわ」 女口調で呟くと、気持ち悪いなぁと本気で嫌がられた。泉には、夢の島にでも行ってしまえと、随分と酷い言われよう。 だけど、実際にオレの阿部に対するイメージと言えば、すごく性格が悪くてオレ様で、あと三橋への執着心があり得ないぐらいに強い奴ってことで。 「そうだよ。阿部って、なんかそういう女子に人気あるとかってイメージじゃないんだよねぇ。野球野球三橋三橋って、そればっかじゃん」 「だからじゃないの」 泉が素っ気なく言って、わずかに溶けた薄茶色の液体の残ったパピコの瓢箪型の容器を投げつけてくる。 手で受け止めると、べったりとした液体がついたところがぎらりと光った。 「がっつく男よりは、そうじゃない方が理想的に映るんだろ」 「そういうもんかな」 「オレは女じゃないから、知らないよ」 じゃ、なんで分かったようなこと言ってんだよ。 言いかけて、また蹴られでもしたら嫌なので寸でのところで飲み込む。 言いかけて止めると、妙な沈黙が降りる。さて、泉はオレが何かを言いかけたことには気づいたようで早くしろと言わんばかりに強い視線を向けてくる。 泉ってなんだか辛辣なのか怖くて嫌だ、なんて思って目線を逸らすと栄口がまるでそのオレの心中を読んだかのように、ちらりと目配せをしてきてやれやれと肩を竦めた。 「恋愛事に興味がない態度がさ、ストイックっての?クールっていうか、格好いいっていうふうに見えるんじゃない?・・・別に、恋愛事に興味ないわけじゃないのにね」 助け船を出してくれたつもりなんだろう。 だけど、泉は分かってるよとかえって不機嫌に言う。 心なしか栄口も不機嫌、オレも、不機嫌。 「な。冷やかしにいこーよ、阿部んこと」 「水谷にしては、良いこと言う」 「うん、水谷にしては気が利いたこと言った」 「お前ら、ホント失礼すぎ!」 叩き付けるように言ったのに、やはり二人は少しも気に病む様子を見せることなく、淡々と目的地へ向かうべく足を進め始めていた。 慌てて追いながらありえないむかつく、と口の中でぶちぶち文句をたれる。 すると、二人の鋭い(あくまでも表面上は笑顔の)目線が瞬時にオレを捕らえるので、ごく小さな声で、遠慮がちに、「阿部が、ね」と付け足しをして保身を計ることを忘れない。 あぁ、居たたまれないこの雰囲気。 「阿部なんて、もー別に、一生パン屋にいりゃいーんだよ」 言い逃れの為に慌てて言うと、ひっくり返ったような高い声になってしまった。けれど、二人はそんなオレの態度を気にするよりも、言ったことが気に入ったようで、にこにこと笑っている。 だからオレは調子に乗って、続けた。 「誰か、女の子一人と落ち着いてくれちゃえばいいのにね。そしたら、もう少し周りが見えるよね」 誰がとは、前者も後者も主語をつけていないけれど、二人にはオレが言わんとすることは至極明確に伝わってくれたようで、珍しいことなんだけれども、三人揃って顔を見合わせると、それぞれが苦々しく口を歪めた。 ふと目線を落として、手のひらに付いたままの溶けたアイスを思い出す。ぺろりと舌で舐め取ると、その仕草がいわゆる「オネェ」のものに見えたらしく、栄口がお前こそ何キャラだよーと指を指して笑ってきた。 「うっふん。これで阿部クンを誘惑してやるのよぅ」 冗談のつもりだけど、もしもこれを三橋の前でやって三橋が誤解して阿部との仲が気まずくなるってんなら、本気でやっちゃうかもしんない。 まぁ、あり得ないけど。馬鹿馬鹿しい考えだけど。 でももし万が一、いや百万が一、そういうことをする日が来たら舌で舐めるところにはせめてパピコじゃなくて、ガリガリくんの爽やかな甘い砂糖水を付けておくことにしようと思う。 ほんと、ばかばかしいけどね。 |
うっふん あっはん (・・・・・) はぁーぁ(ため息)