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罰ゲームだった。 最近ちょっとばかり局地的にブームの大富豪。貧民が大富豪の言うことを聞かなければいけないという条件で始めたゲームで、田島は負けた。 よほど運が良いのか、田島はそれまでに貧民になったことがなかった。ゲームを一緒にしていたクラスメイトがこぞって、珍しいなぁと言う。 そして、これは是非罰ゲームを実行していただかなくてはと、意地の悪い笑みを互いに浮かべ合う。 そして出された課題が、「今更感溢れるけど、クラスの真ん中で愛を叫べ」だった。因みに、女子だと洒落にならないから、男子相手に。 田島はその課題を聞いて、「おっけー」とあっさり頷いた。 拍子抜けしたのは、罰ゲームを言い渡した生徒たちである。さすがにこの恥ずかしい罰ゲームには、田島も慌てて頼むから変えてくれと言ってくるんじゃないかと思っていたのだ。 それが、耐えている様子ですらない。 すたすたと、迷いない足取りで向かったのは泉、三橋、浜田と、野球部関係の集まっているところ。 ぴたりと三橋の机の前で止まると、三橋がそんな田島に気が付いて大きな目をさらに見開いて見上げる。 「えっとー」 躊躇ない田島の声。 地声が大きくて良く通る田島の声は、ざわつく教室内の中でも良く聞こえた。 「三橋のことが、好きです。だから、付き合って?」 ざわめきが、明らかに動揺を含んだものに変わった。しかしそれは一瞬のことで、発言もとが田島だということで誰もがすぐに冗談だと介錯し直した。 しかし、言われた当の本人である三橋は、田島の言葉を真に受けたようでじんわりと冷や汗をかいて、顔を赤く染めている。 酷だなぁ、と誰かが小さく呟いた。 何も三橋相手にやらなくたって、仲の良い人間相手の方がやりやすいのならばそれこそ泉でも浜田でもいただろうに。よりにもよって、一番冗談の通じなさそうな三橋相手にするなんて。 しどろもどろに何かを言おうとしては、開いた口を閉じて俯く。そんな動作を繰り返す三橋を見て、クラスの大半がそんなことを思って同情した。 だから、泉が普段と何ら変わりのない口調で「馬鹿なこといって、からかってんなよ」と田島に言ったことで、皆安心してせめて少しでも楽になってもらおうと注目することをやめて、おのおのが田島の発言より前にしていたことを何食わぬ顔で再開した。 三橋は、雰囲気から皆の関心が自分からそれたことに気が付いたのか、顔を恐る恐る上げながら、田島に「じょうだ、ん?」とたどたどしい口調で聞いた。 当たり前だろ、と答えたのは田島ではなくて泉だった。 「冗談冗談。田島が大富豪やってたの、三橋だって知ってるだろ?罰ゲームだよ。な?」 身を乗り出して、出しゃばって言う泉に田島は不満げに「三橋はオレに聞いてるのにっ」と言った。 泉はけろりとしたもので、そんな田島の発言をまるで無かったことのように振る舞って三橋にさらに言葉をかける。 「だってさ、三橋はどう思う?あれ、本気だと思う?」 その聞き方は卑怯だ、と浜田は隣で聞きながら内心思った。 あたかも信じることはマイノリティなのだと言外に匂わすことで、相手の答えを誘導している。 しかも、三橋のような人間が相手だったら、その成功率は一層高くなる。 そう思っていながらも、浜田は何も口を出さなかった。 田島の表情を見れば、飄々としているようでどこか鬱陶しそうだ。 (ありゃ、あわよくばと思ってたね) 冗談めかして言いながら、もしも三橋が勢いで頷きでもしたらそれを笠に着て本当に付き合おうとしていたに違いない。 田島が三橋のことを、そういう意味で見ていたことを前々から感づいていた浜田はきったねぇなぁと思った。 泉だってそう思っているだろう。 なにせ、二人とも田島同様三橋には恋愛感情を抱いているのだから、三橋に対するアプローチには敏感だ。 田島とて、それを感じ取っていての今日の行動なのだろう。 泉や浜田と違い、田島はいかにも我慢が効かなそうだ。 「そうだ、よね。オレ、も、冗談だと思う、・・・・だって、田島くんは、すごい人なんだから。お、おれ、なんかに」 「そんなに自分を卑下することはないと思うけど」 たまらず浜田が言うのに、泉が頷いて同意する。 田島も、「三橋だってすごいだろー」と邪気なく言う。(けれど、邪気は確実に持っている) 「すごいんだよ三橋は。だから、オレ、馬鹿になんてしたりしない」 「田島く・・あ、ありが、と」 「だからさ、ホントのこと教えてよ。ホントにさっきの、冗談だと思う?」 これもまた卑怯だ。 浜田は再び思った。 「田島。その辺にしといてやってよ」 「別にからかってるわけじゃないんだから良いだろ。それに、浜田には関係ないよ」 「あるよ」 「ないよ。オレと三橋のモンダイなのこれは。それとも、どう関係あるのか説明してくれるの?」 この野郎。 そう呟いたのは、浜田ではなく泉だった。 整った中性的な容姿が忌々しげに歪められると、それだけでかなりの迫力がある。 「いやだ、本気になっちゃって」 おどけたように言う田島に、泉が 「お前の方が先にしかけたから」 と表情にある感情の激しさからはほど遠い、静かな声で言う。それがかえって怖いなと、浜田は思ってぶるりと身震いをした。 三橋もまた泉の剣幕に怯えているようで、小さな体をさらに小さくして涙目だ。 本末転倒。好いてる相手を取り合って、その子を怯えさせても何の意味もない。 「泉、田島」 名前を呼んで、視線で三橋の状態を忠告してやる。 途端に、二人の表情がしょぼんとしぼむ。 「三橋困らせるつもりじゃなかったんだけど・・・」 泉が言えば、田島も 「ごめんごめんごめん」 と謝り倒す。 まだまだ、子供だなぁ。なんて、たった一つしか違わないのに、浜田は思ってほくそ笑んだ。 「だけど、本当に三橋のことが好きだから真剣なんだよ」 子供だなぁ、と浜田は思った。 今度は苦々しく。 「罰ゲームもいい加減にしろよ」 大人ぶって諫める浜田に、田島は子供のように笑って(子供だけれども)「罰ゲームに何ムキになって腹立ててんの?」と言ってきた。 大人げないな、とケタケタ笑って三橋に向き直る。 「でも、からかってないからね。好きっていうのは、ホントだよ」 「あ、ありがとうっ。お、れもだよっ」 「おぉ、両想い!」 はしゃいでみせる田島に、すかさず泉が「友達な。友達」と割り込む。 それでも勝ち誇った表情で、田島は三橋を抱きしめた。これだけ痴話げんかのようなことをしておいて抱きつくなんて、自らをホモだとアピールしているようなものだ。それなのに、田島の性格のおかげなのかクラスの誰一人としてそれを色眼鏡で見た人間はいなかった。 あー、ぶん殴りてぇなぁ。 浜田は思ったけれども、ここでまたさっきの泉と田島のように三橋を怯えさせるのはまっぴら御免だったから、何食わぬ顔をしてやれやれと余裕ぶってため息なんかを吐いてみた。 田島と視線が合って、ケラリと笑われて、それでも耐えた。 だけど心の底では、田島のことをすごく羨ましいと思っている。(なんて、そんなの絶対に認めたくはない)(だけど湧き上がる嫉妬心と憎しみは、抑えることが出来るだけでなかったことには出来ない)(笑ってる三橋を見ると、流されてるわけじゃなくて本当に田島のことが好きなんだねと思う浜田)(隣にいる泉も、なんだか少し切なそう)(そんな二人を見て実は内心ほくそ笑んでいる田島。だって田島は、三橋がちゃんと自分が好きって言えば好きだよって返してくれるって知ってやっているから)(そして、二人もそれを知っているけれども、自分のように/もしくはあの過保護なキャッチャーのように恥ずかしげもない言えるタイプじゃないってこともお見通し)(こいつは確信犯ですよ)(さすがは田島。天才肌の男) |