・ブ
・ク
。 ・ブ
○.ク

  約束したよね今日一緒に。

ザブンと音が響いて、それから不自然な程の静けさが広がる。
ゆっくりと体が落ちていくと思ったかと思うと、顔が水圧に圧迫されて苦しくなる。それから今度は、ゆっくりと体が上昇していく。
息苦しくて、二酸化炭素を今まで我慢していた分盛大に吐き出すと、気泡がてらりと光りながら自分の体よりも上へと素早く上がっていって消えていく。
ほとんど吐く息も出なくなって、水圧に顔を押しつぶされそうになって。それでもそうして我慢を続けることが、とても心地良い。
遠くで、すげぇだの気絶してるんじゃないかだの、はしゃいだ声が聞こえる。
揺らぐ視界で隣を見ると、不安定に体を揺らしながら、それでも潜り続けている三橋の姿がある。
すっかり体の中に酸素などは残っていなくて、多分相当せっぱ詰まった顔をしているんだろうなと思った。だって、頭痛がするのだ。
二分、と声が聞こえた。
そうか、そりゃ頭も痛くなるよねと思って三橋を見ると、向こうも若干驚いたような顔をして(普段三橋の感情はとても顔に出やすいのだ)(それがあまり顕著に表れなかったのは、水の中の揺れる視界のせいと、三橋もまた息苦しさにせっぱ詰まっているからなのだと思う)こっちを見てきていた。
笑って見る。
やったぜ、と親指を立ててみる。
三橋が弱々しく親指を立てて返してきてくれた瞬間、目の前が泡で真っ白になった。視界がクリアになると、そこには三橋の足があった。
それを確認してからすぐに俺も、ザバンと派手に水飛沫を立たせて水面へと上がった。

「俺の勝ちだっ」

言うと、ムキになりすぎだろうと泉に辛辣に言われた。
見ると三橋は、大層苦しそうに肩で息をしていた。俺も同じような状態なのだが、泉は三橋にばかりかまけていて、俺のことなどはどうでも良いようである。
田島は、すげぇすげぇと何度の繰り返して俺を三橋を交互に見てくる。確かに、自分でもすごいとは思う。
どうしたらそんなに潜ってられんだよと聞かれて、俺はううんと腕を組んで大げさに考える素振りを見せる。
苦しいのが過ぎると、ちょっと気持ちよくなるよと田島に言ってやるとヒワイだねと笑われた。

「ヒワイだってさ」
「う、あ・・」
「三橋にあんま変なこと言うなよ」
「はいはい」

曖昧に笑って流すと、分かってんのかよと泉がヒステリーじみた声を出す。

「分かってるよ」

俺は、今度ははっきりと答える。
不意に息苦しくなってゼィ、と肩で一際大きな息を吐いた。自覚していないうちに、相当疲れていたようだ。
プールの縁に腕を乗せて水に身を任して、あとの自由時間はずっとこうしていようかなと考える。三橋が、意外にも器用に泳いで向かってくる。
ハマちゃん、
三橋は、囁くような小さな声で俺の名前を呼んだ。
両肘を縁に乗せて、はぁと大きく息をする。
掠れた声で三橋は繰り返して、俺の名前を呼んだ。

「今日、だよね」

小さな声が、先程まで水に潜っていたからなのかしっとりと俺の耳を濡らすように入り込んでくる。

「うん、今日だ」

俺は答えた。
三橋は、ウフフと喉を震わせて笑うと、ケン、と一つ咳をした。
水を飲んだのかと聞くと、ちょっとだけと言われた。

「プールの水って、なんかちょっと柔らかくて、甘じょっぱいよ、ね」
「薬品の味だから、健康的ではないけどね」
「で、でも、ちょっと予行練習、っぽいね」
「海水は、飲んだら死ぬよ」

うん知ってる。
笑った。
俺も、笑って返した。
俺達は今夜、海へ行く。
心中なんてしない。ただ、二人きりでいられる場所へ行くだけだ。
心中なんて、しない。だけど、二人きりでいられるのならば。(心が揺れ動いてしまうね)







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